特許第6386598号(P6386598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386598
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】マスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180827BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20180827BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20180827BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C08J3/22CEP
   C08J3/22CEQ
   C08L21/00
   C08L1/02
   B60C1/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-10273(P2017-10273)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-119041(P2018-119041A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 澄子
(72)【発明者】
【氏名】川崎 貴史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】安川 雄介
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/136453(WO,A1)
【文献】 特開2014−047328(JP,A)
【文献】 特開2014−144997(JP,A)
【文献】 特開2010−209175(JP,A)
【文献】 特開2006−169321(JP,A)
【文献】 特開2010−144001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00−3/28
99/00
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C08C1/00−4/00
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含み、
前記フィラーが、ミクロフィブリル化植物繊維であるマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記ゴムラテックスが、ジエン系ゴムラテックスである請求項記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)、及び、前記工程(3)で得られたマスターバッチを混練する工程を含み、
前記フィラーが、ミクロフィブリル化植物繊維であるタイヤ用ゴム組成物の製造方法
【請求項4】
ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)、及び、前記工程(3)で得られたマスターバッチを混練する工程を含み、
前記フィラーが、ミクロフィブリル化植物繊維である空気入りタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アラミド等の短繊維や、セルロース繊維等のミクロフィブリル化植物繊維、シンジオタクチックポリブタジエン等の結晶性ポリマーなどのフィラーをゴム組成物に配合することで、ゴム組成物を補強し、モジュラス(複素弾性率)を向上させることができることが知られている。しかしながら、フィラーは自己凝集力が強く、ゴム成分との相溶性が悪い場合が多々あり、例えば、ゴムラテックスにミクロフィブリル化植物繊維を投入して混合しても、投入したミクロフィブリル化植物繊維の20%程度がゴム成分に取り込まれずに溶液中に残留してしまっていた。
【0003】
また、ゴムラテックスとフィラーとを混合してマスターバッチを作製した場合、フィラーの凝集塊がマスターバッチ中に発生しやすい傾向があった。例えば、このようなマスターバッチをタイヤに使用した場合、発生した凝集塊により、早期摩耗、割れ、チッピング、層間セパレーションが引き起こされる可能性があり、更に、空気漏れ、操縦安定性の喪失に至る可能性もあることから、マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させることが望まれていた。
【0004】
マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、ゴム物性を改善するための方法として、従来、ゴムラテックスとフィラーとを混合した後、pHを調整してマスターバッチを作製する方法が行われてきた。その他にも、例えば、所定のゼータ電位を有するカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを混合し、凝固乾燥してウェットマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献1参照)、天然ゴムラテックス中のアミド結合を分解し、分解後のラテックスと、無機充填材のスラリー溶液とを混合して天然ゴムマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献2参照)、無機粒子のスラリーと、当該無機粒子のスラリーと反対の符号の表面電位を有するポリマーのラテックスとを混合して高分子複合体を製造する方法(例えば、特許文献3参照)、単一成分を水性分散液の状態で一緒にして混合し、該水性分散液において粒子は同じ符号の表面電荷、所定のゼータ電位、所定の各分散液の粒子のゼータ電位の間の比を有し、得られた混合分散液を凝固させる方法(例えば、特許文献4参照)、所定の平均繊維幅を有するセルロースナノファイバーとゴムラテックスを含有する所定の固形分濃度の水分散液から水分を除去してゴムマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献5参照)や、所定の平均繊維幅を有する微細セルロース繊維と樹脂エマルションとを含有する所定の固形分濃度を有する混合液から水分を除去して複合材を製造する方法(例えば、特許文献6参照)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−209175号公報
【特許文献2】特開2004−99625号公報
【特許文献3】特開2006−348216号公報
【特許文献4】特開昭62−104871号公報
【特許文献5】特開2014−141637号公報
【特許文献6】特開2015−93882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、ゴム物性を改善するための方法が種々検討されているが、フィラーの分散性、マスターバッチの生産性としては更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、ゴム中へのフィラーの取り込み量及びゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、破断強度、剛性、低燃費性、等のゴム物性が改善されたマスターバッチを生産性良く製造する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含むマスターバッチの製造方法に関する。
【0009】
前記フィラーは、ミクロフィブリル化植物繊維であることが好ましい。
【0010】
前記ゴムラテックスは、ジエン系ゴムラテックスであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、前記製造方法により得られたマスターバッチに関する。
【0012】
本発明はまた、前記マスターバッチを用いて作製したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0013】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含むマスターバッチの製造方法であるので、ゴム中でのフィラーの分散性がより向上し、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチを得ることができる。更に、配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整した後、得られる凝固物を有機溶媒で凝固することにより、ゴム中へのフィラーの取り込み量を向上させ、また、ゴム中でのフィラーの分散性を損なうことなく凝固物をより径の大きなものとすることができ、マスターバッチを得る際のろ過性を向上させることができる。これにより、マスターバッチ製造時の生産性がより向上し、より性能の向上したマスターバッチを生産性良く製造することができる。そしてそのようなマスターバッチを用いることで、破断強度、剛性、低燃費性、等のゴム物性が改善されたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔マスターバッチの製造方法〕
本発明のマスターバッチの製造方法は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含む。なお、本発明の製造方法は、上記工程(1)、(2)、及び(3)を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、上記工程(1)、(2)、(3)をそれぞれ、1回行ってもよいし、複数回繰り返し行ってもよい。
【0016】
フィラーをマスターバッチにおけるゴム中に均一に分散させることは一般に困難であるところ、本発明者らは、前記工程(1)、(2)、及び(3)を含む製法を採用することで、工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVの特定範囲に調整することからフィラーの凝集を抑制してフィラーをゴム中に微細に高分散でき、ゴム物性も改善できることを見出した。そして更に、工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固することで、ゴム中へのフィラーの取り込み量を向上させ、また、ゴム中でのフィラーの分散性を損なうことなく凝固物をより径の大きなものとすることができ、マスターバッチを得る際のろ過性を向上させることができることから、より性能の向上したマスターバッチを生産性良く製造できることを見出した。
【0017】
(工程(1))
本発明では、先ず、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)が行われる。
【0018】
上記ゴムラテックスとしては、−100〜−20mVの範囲内のゼータ電位を有する限り特に限定されないが、例えば、天然ゴムラテックス、改質天然ゴムラテックス(ケン化天然ゴムラテックス、エポキシ化天然ゴムラテックスなど)、合成ジエン系ゴムラテックス(ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどのラテックス)などのジエン系ゴムラテックスが好適に使用できる。このように、上記ゴムラテックスが、ジエン系ゴムラテックスであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。これらゴムラテックスとしては、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという点から、天然ゴムラテックス、SBRラテックス、BRラテックス、イソプレンゴムラテックスがより好ましく、天然ゴムラテックスが特に好ましい。
【0019】
上記ゴムラテックスのゼータ電位は、濃度(ゴム固形分濃度)により調整することができる。
【0020】
上記ゴムラテックスのゼータ電位としては、本発明の効果がより好適に得られるという点から、−90mV以上であることが好ましく、−80mV以上であることがより好ましく、−70mV以上であることが特に好ましい。また、−30mV以下であることが好ましく、−40mV以下であることがより好ましく、−50mV以下であることが更に好ましく、−60mV以下であることが特に好ましい。
【0021】
本明細書において、ゼータ電位は、後述する実施例において用いられる測定装置、測定条件により測定することができる。
【0022】
天然ゴムラテックスはヘベア樹等の天然ゴムの樹木の樹液として採取され、ゴム成分のほか水、タンパク質、脂質、無機塩類等を含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、天然ゴムラテックスとして、ヘベア樹をタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックス等)等を使用できる。
【0023】
天然ゴムラテックスは、蛋白質やリン脂質からなる蜂の巣状のセルを有しており、このセルによって天然ゴムへのフィラーの取り込みが阻害されてしまう傾向があることから、天然ゴムラテックスとフィラーとを混合する際には、予めケン化処理によって天然ゴムラテックス中のセルを除去する等の対処を行う必要があったが、本発明では、前記工程(1)、(2)、及び(3)を含む製法(特に、工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVの特定範囲に調整する工程(2))を採用することで、ケン化処理を経ていない天然ゴムラテックスを使用した場合であっても、フィラーをゴム中に微細に分散させることができる。
【0024】
上記ゴムラテックスは、従来公知の製法で調製でき、各種市販品も使用できる。なお、上記ゴムラテックスとしては、ゴム固形分(固形分濃度)が5〜80質量%のものを使用することが好ましい。7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。また、フィラーの分散性の観点から、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0025】
上記フィラー分散体は、フィラーを溶媒中に分散させたものであるが、−120〜−10mVの範囲内のゼータ電位を有するものであればよい。当該フィラーとしては、例えば、シリカ、リグニン、古紙、くるみ、ミクロフィブリル化植物繊維などが好適に使用できる。これらフィラーとしては、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという点から、ミクロフィブリル化植物繊維が特に好ましい。また、当該溶媒としては、通常、水が好適に使用され、水の他、水に可溶なアルコール類、エーテル類、ケトン類なども使用できる。
【0026】
上記フィラー分散体のゼータ電位は、濃度(フィラーの固形分濃度)、溶媒の種類により調整することができる。
【0027】
上記フィラー分散体のゼータ電位としては、本発明の効果がより好適に得られるという点から、−110mV以上であることが好ましく、−100mV以上であることがより好ましく、−80mV以上であることが更に好ましい。また、−12mV以下であることが好ましく、−15mV以下であることがより好ましい。
【0028】
上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、良好な補強性が得られるという点から、セルロースミクロフィブリルが好ましい。セルロースミクロフィブリルとしては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するものが挙げられる。
【0029】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法(解繊処理)としては特に限定されないが、例えば、上記セルロースミクロフィブリルの原料を水酸化ナトリウム等の薬品で化学処理した後、リファイナー、二軸混練機(二軸押出機)、二軸混練押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。この方法では、化学処理によって原料からリグニンが分離されるため、リグニンを実質的に含有しないミクロフィブリル化植物繊維が得られる。また、その他の方法として、上記セルロースミクロフィブリルの原料を超高圧処理する方法なども挙げられる。
【0030】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維長は、破断強度の観点から、好ましくは5000nm以下、より好ましくは2000nm以下である。また、作業性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは150nm以上である。
【0031】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の最大繊維径は、破断強度の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは30nm以下であり、下限は特に限定されない。
【0032】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の数平均繊維径は、好ましくは2〜150nm、より好ましくは2〜100nm、更に好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmである。上記範囲内であると、ミクロフィブリル化植物繊維を均一に分散できる。
【0033】
上記ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維長、最大繊維径、及び数平均繊維径は、公知の方法で測定することができ、例えば、特開2008−001728号公報に記載の方法で解析できる。具体的には、例えば、マイカ切片上に固定したミクロフィブリル化植物繊維を走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製)で観察(3000nm×3000nm)し、繊維50本分の繊維幅を測定して最大繊維径、数平均繊維径を算出でき、平均繊維長は、得られた観察画像から画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて算出できる。
【0034】
なお、上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、上記製造方法により得られたものに更に、酸化処理や種々の化学変性処理などを施したものや、上記セルロースミクロフィブリルの原料となり得る天然物(例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなど)をセルロース原料として、酸化処理や種々の化学変性処理などを施し、その後に必要に応じて上記解繊処理を行ったものも用いることができ、例えば、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維を好適に使用できる。
【0035】
上記N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維としては、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基がカルボキシル基又はアルデヒド基、並びにその塩に表面酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有するものを好適に使用できる。このような特定ミクロフィブリル化植物繊維は、特開2008−001728号公報等に開示されている。ここで、ピラノース環とは、5つの炭素と1つの酸素からなる六員環炭水化物であり、N−オキシル化合物を用いたセルロースの酸化反応の際には、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基が選択的に酸化される。すなわち、天然セルロースは生合成された時点ではナノファイバーであるが、これらは水素結合により多数収束して、繊維の束を形成している。N−オキシル化合物を用いてセルロース繊維を酸化すると、ピラノース環の炭素6位の一級水酸基が選択的に酸化され、かつこの酸化反応はミクロフィブリルの表面にとどまるので、ミクロフィブリルの表面のみに高密度にカルボキシル基が導入される。カルボキシル基は負の電荷を帯びているので互いに反発しあい、水中に分散させると、ミクロフィブリル同士の凝集が妨げられ、この結果、繊維の束はミクロフィブリル単位で解れて、セルロースナノファイバーとなる。本発明の効果がより良好に得られる点で、セルロースのピラノース環における炭素6位の一級水酸基がカルボキシル基に表面酸化されたものが好ましい。
【0036】
上記N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和は、セルロース繊維の重量(絶乾)に対し、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、好ましくは2.5mmol/g以下、より好ましくは2.2mmol/g以下である。上記範囲内であると、ナノファイバーをより均一に分散できる。
なお、本発明において、上記総和をミクロフィブリル化植物繊維における荷電量として表す。絶乾とは、全重量中セルロース繊維が100%を占めるものをいう。
【0037】
特に、上記カルボキシル基の量は、セルロース繊維の重量(絶乾)に対し、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、好ましくは2.4mmol/g以下、より好ましくは2.1mmol/g以下である。上記範囲内のカルボキシル基を導入すると、電気的な反発力が生まれ、ミクロフィブリルが解繊する結果、ナノファイバーをより均一に分散できる。
【0038】
なお、上記N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維がI型結晶構造であることの同定や、アルデヒド基およびカルボキシル基の量(mmol/g)の定量には、公知の方法を用いることができ、例えば、特開2008−001728号公報に記載の方法で解析できる。
【0039】
上記N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維としては、例えば、天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、及び水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を含む製法により調製できる。
【0040】
まず、酸化反応工程では、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。前記天然セルロースとしては、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースが挙げられる。天然セルロースには、叩解等の表面積を高める処理を施すことも可能である。また、単離、精製の後、ネバードライで保存していた天然セルロースを用いることも可能である。反応における天然セルロースの分散媒は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、通常、約5%以下である。
【0041】
セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物は、ニトロキシラジカルを発生し得る化合物をいい、例えば、下記式(1)で表されるアミノ基のα位に炭素数1〜4のアルキル基を有する複素環式のニトロキシラジカルを発生する化合物が含まれる。
【0042】
【化1】
【0043】
上記式(1)中、R〜Rは同一又は異なる炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0044】
上記式(1)で表されるニトロキシラジカルを発生する化合物のうち、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、およびその誘導体、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル等がより好ましく、中でも2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、TEMPOとも称する)およびその誘導体、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、4−ヒドロキシTEMPOとも称する)、4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、4−アルコキシTEMPOとも称する)、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、4−ベンゾイルオキシTEMPOとも称する)、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、4−アミノTEMPOとも称する)等がより好ましく、またこれらの誘導体も使用できる。中でも活性の点からTEMPOがより好ましい。
【0045】
4−ヒドロキシTEMPOの誘導体としては、例えば、下記式(2)〜(4)の化合物のような、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基を炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化して得られる誘導体、並びにカルボン酸又はスルホン酸でエステル化して得られる誘導体等が挙げられる。
【0046】
【化2】
【0047】
上記式(2)中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0048】
【化3】
【0049】
上記式(3)中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0050】
【化4】
【0051】
上記式(4)中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖を表す。
【0052】
4−アミノTEMPOの誘導体としては、4−アミノTEMPOのアミノ基がアセチル化され、適度な疎水性が付与された下記式(5)で表される4−アセトアミドTEMPOが、安価であり、均一に酸化処理されたセルロースを得ることができる点で好ましい。
【0053】
【化5】
【0054】
また、下記式(6)で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、短時間で効率よくセルロースを酸化できる点で好ましい。
【0055】
【化6】
【0056】
上記式(6)中、R、Rは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表す。
【0057】
上記N−オキシル化合物の添加量は、得られる酸化したセルロースを、充分にナノファイバー化できる程度の触媒量であれば特に限定されないが、セルロース繊維1g(絶乾)に対して、好ましくは0.01〜10mmol/g、より好ましくは0.01〜1mmol/g、更に好ましくは0.025〜0.5mmol/gである。
【0058】
上記共酸化剤として、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はこれらの塩;過酸化水素、過有機酸などが使用可能であるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。セルロース繊維1g(絶乾)に対し、この臭化アルカリ金属の添加量は、好ましくは0.1〜100mmol/g、より好ましくは0.1〜10mmol/g、更に好ましくは0.5〜5mmol/gであり、次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、好ましくは0.5〜500mmol/g、より好ましくは0.5〜50mmol/g、更に好ましくは2.5〜25mmol/gである。
【0059】
上記反応水溶液のpHは、約8〜11の範囲で維持することが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃、例えば、室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0060】
上記共酸化剤の添加量は、セルロース繊維1g(絶乾)に対して約3.0〜8.2mmol/gの範囲が好ましい。
【0061】
上記精製工程は、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水以外の化合物を系外へ除去する。通常の精製法を採用でき、例えば、水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99質量%以上)の反応物繊維と水の分散体を調製する。
【0062】
上記精製工程に続き、該工程で得られた水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、溶媒中に分散させる分散処理(分散工程)を施すことにより、前記ミクロフィブリル化植物繊維の分散体を調製できる。分散媒としての溶媒は、通常水が好ましい。また、水以外にも水に可溶するアルコール類、エーテル類、ケトン類等を使用しても良い。分散工程で使用する分散機としては、汎用の分散機、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の強力で叩解能力のある装置等、を使用できる。このようにして得られるミクロフィブリル化植物繊維の分散体を、本発明におけるフィラー分散体として用いることができる。また、当該ミクロフィブリル化植物繊維の分散体を乾燥させることにより、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維を得、本発明におけるフィラーとして用いることもできる。当該乾燥には、凍結乾燥法等を採用できる。ここで、上記ミクロフィブリル化植物繊維の分散体の中にバインダーとして、水溶性高分子や糖類のような極めて沸点が高く、セルロースに対して親和性を有する化合物を混入させておくことにより、汎用の乾燥法でも、再度溶媒中にナノファイバーとして分散できるミクロフィブリル化植物繊維を得ることができる。この場合、分散体中に添加するバインダーの量は、反応物繊維に対して10〜80質量%の範囲が望ましい。
【0063】
上記フィラー分散体は、公知の方法で製造でき、その製造方法としては特に限定されず、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダーミルなどを用いて前記フィラーを前記溶媒に分散させることで調製できる。調製の際の温度や時間も、前記フィラーが前記溶媒に充分分散するよう、通常行われる範囲で適宜設定することができる。
【0064】
上記フィラー分散体中のフィラーの含有量(固形分含量、固形分濃度)は、特に限定されないが、当該分散体中でのフィラーの分散性の観点から、フィラー分散体100質量%中、0.2〜20質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.4〜5質量%が更に好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。
【0065】
上記工程(1)において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体との混合は、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とが混合される限り特に限定されず、前記ゴムラテックス及び前記フィラー分散体以外のバインダーなどの他の配合剤を更に加えてもよい。
【0066】
上記工程(1)において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダ―ミルなどの公知の撹拌装置に前記ゴムラテックスを入れ、撹拌しながら、前記フィラー分散体を滴下する方法や、上記公知の撹拌装置に前記フィラー分散体を入れ、撹拌しながら、前記ゴムラテックスを滴下する方法、上記公知の撹拌装置に前記ゴムラテックス及び前記フィラー分散体を入れ、撹拌、混合する方法などが挙げられる。このようにして配合ラテックスを調製できる。
【0067】
上記配合ラテックスのゼータ電位は、−90mV以上であることが好ましく、−80mV以上であることがより好ましく、−70mV以上であることが特に好ましい。また、−30mV以下であることが好ましく、−40mV以下であることがより好ましく、−50mV以下であることが更に好ましく、−60mV以下であることが特に好ましい。上記配合ラテックスのゼータ電位がこのような範囲であることにより、劣化の少ない安定した配合ラテックスを得ることができる。
【0068】
上記工程(1)では、前記ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対して、前記フィラーの配合量が5〜150質量部となるように前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合することが好ましい。5質量部以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、150質量部以下とすることで、前記フィラーのゴム中での分散性がより向上し、本発明の効果がより好適に得られる。該フィラーの配合量は、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましい。また、100質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましく、50質量部以下がより更に好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0069】
上記工程(1)において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合する際の、混合温度及び混合時間は、均一な配合ラテックスが調製できる点から、10〜40℃で3〜120分が好ましく、15〜35℃で5〜90分がより好ましい。
【0070】
上記配合ラテックス中に含まれる固形分の合計濃度(合計固形分含量、合計固形分濃度)は、当該配合ラテックス中での固形分の分散性の観点から、配合ラテックス100質量%中、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0071】
(工程(2))
本発明では、前記工程(1)に続いて、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)が行われる。ゼータ電位をこのような範囲に調整することで、フィラーの凝集を抑制してフィラーをゴム中に微細に高分散させることができる。該ゼータ電位としては、−2mV以下が好ましく、−5mV以下がより好ましい。また、−20mV以上が好ましく、−15mV以上がより好ましく、−10mV以上が更に好ましい。
【0072】
なお、本発明においては、上記工程(2)において配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整するが、そのゼータ電位調整過程で配合ラテックスの凝固反応が自ずと並行して進行することとなる。ここで、本発明においては、上記工程(2)において配合ラテックスのゼータ電位が−30〜0mVに調整された、とは、ゼータ電位調整過程で配合ラテックスの凝固反応が充分に進行し完了した、といえる程度に長い時間が経過した後の配合ラテックスのゼータ電位が−30〜0mVの範囲内であることを意味している。
【0073】
上記工程(2)において、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する方法としては、特に制限されないが、撹拌装置に前記配合ラテックスを入れ、撹拌しながら、酸及び/又は塩(特に好ましくは酸及び塩)を添加する方法が好ましい。更に、該酸及び/又は塩の添加は、フィラーの分散性の観点から、段階的に行われることが好ましい(すなわち、該酸及び/又は塩は、段階的に投入される(全量を分割して投入される)ことが好ましい。)。特に好ましくは、酸を段階的に投入した後、塩を段階的に投入する形態である。
なお、上記酸及び/又は塩の添加する量は、連続的に若しくは断続的に配合ラテックスのゼータ電位を測定しながら決定すればよい。
【0074】
上記酸としては、例えば、ギ酸、硫酸、塩酸、酢酸などが挙げられる。また、上記塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩などの1〜3価の金属塩が挙げられる。中でも、塩化カルシウムが好ましい。
【0075】
上記撹拌装置としては、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダーミル、電子制御撹拌機などの公知の撹拌装置が挙げられるが、フィラーの分散性の観点から、電子制御撹拌機が好ましい。なお、該撹拌の撹拌条件は、通常行われる範囲で適宜設定することができるが、フィラーの分散性の観点から、例えば、撹拌速度は、10〜500rpmが好ましく、50〜200rpmがより好ましい。また、撹拌温度及び撹拌時間は、10〜40℃で3〜120分が好ましく、15〜35℃で5〜90分がより好ましい。
【0076】
また、上記工程(2)において配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する際には、フィラーの分散性の観点から、配合ラテックスの温度を10〜40℃とすることが好ましい。35℃以下とすることがより好ましい。
【0077】
更に、上記工程(2)において配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する際には、並行して進行する凝固の状態(凝固した凝集粒子の大きさ)を制御する目的で、凝集剤を添加してもよい。該凝集剤としてはカチオン性高分子などを用いることができる。
【0078】
(工程(3))
上記工程(2)により、結果、凝固物(凝集ゴム及びフィラーを含む凝集物)が得られることとなるが、本発明においては、前記工程(2)に続いて、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)が行われる。配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整した後、得られる凝固物を有機溶媒で更に凝固することにより、ゴム中へのフィラーの取り込み量を向上させ、また、ゴム中でのフィラーの分散性を損なうことなく凝固物をより径の大きなものとすることができ、マスターバッチを得る際のろ過時のろ過性を向上させることができる。これにより、マスターバッチ製造時の生産性がより向上し、より性能の向上したマスターバッチを生産性良く製造することができる。
【0079】
上記有機溶媒による前記工程(2)で得られた凝固物の凝固方法としては、特に制限されないが、例えば、撹拌装置に前記凝固物及び有機溶媒を入れたり、有機溶媒を入れた撹拌装置に前記凝固物を添加したりした後に、撹拌、混合する方法が好ましい形態として挙げられる。
【0080】
上記撹拌装置としては、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダーミル、電子制御撹拌機などの公知の撹拌装置が挙げられる。なお、該撹拌の撹拌条件としては、例えば、撹拌速度は、10〜500rpmが好ましく、50〜200rpmがより好ましい。また、撹拌温度及び撹拌時間は、10〜40℃で3〜120分が好ましく、15〜35℃で5〜90分がより好ましい。
【0081】
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(IPA)、ブタノール等の1価のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;などが挙げられる。なかでも、安全性、経済性の観点から、アルコール類、ケトン類が好ましく、1価のアルコール類、ケトン類がより好ましく、エタノール、IPA、アセトンが更に好ましく、エタノール、アセトンが特に好ましい。このように、上記工程(3)において用いられる有機溶媒が、エタノール又はアセトンであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0082】
上記工程(3)により、径の大きい凝固物が得られるが、必要に応じて、上記工程(3)で得られた凝固物(凝集ゴム及びフィラーを含む凝集物)を公知の方法でろ過(例えば、目開き5〜500μmのメッシュを用いたろ過など)、乾燥させ、更に乾燥後、2軸ロール、バンバリーミキサーなどでゴム練りを行うと、フィラーがゴムマトリックスに微細に高分散したマスターバッチが得られる。なお、上記マスターバッチは、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでもよい。
【0083】
〔マスターバッチ〕
本発明のマスターバッチの製造方法は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含む方法であるので、ゴム中でのフィラーの分散性がより向上し、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチを作製することができる。更に、配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整した後、得られる凝固物を有機溶媒で凝固することにより、ゴム中へのフィラーの取り込み量を向上させ、また、ゴム中でのフィラーの分散性を損なうことなく凝固物をより径の大きなものとすることができ、マスターバッチを得る際のろ過性を向上させることができる。これにより、マスターバッチ製造時の生産性がより向上し、より性能の向上したマスターバッチを生産性良く製造することができる。そしてそのようなマスターバッチを用いることで、破断強度、剛性、低燃費性、等のゴム物性が改善されたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを得ることができる。したがって、本発明の製造方法で作製されたマスターバッチは、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチである。このように、上記製造方法により得られたマスターバッチもまた、本発明の1つである。
【0084】
〔タイヤ用ゴム組成物〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記マスターバッチを用いて作製される。上記マスターバッチは、ゴム中にフィラーが微細に分散しているので、他の成分と混合したゴム組成物においてもフィラーを微細に分散できる。結果、これにより、優れた破断強度、剛性、低燃費性、等のゴム物性を改善できる。
【0085】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中、上記マスターバッチ由来のゴム分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。5質量%以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、上限は、100質量%であってよい。
【0086】
上述のように、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記マスターバッチ由来ではないゴム分を含んでいてもよい。該ゴム分としては特に制限されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられ、中でも、NR、BR、SBRを配合することが好ましく、NR、BRを配合することがより好ましく、NR及びBRを併用することが特に好ましい。
【0087】
上記天然ゴム(NR)としては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。
【0088】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が、上記マスターバッチ由来ではないゴム分として天然ゴムを含む場合の、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%以上とすることで、特に優れた低燃費性が得られる。また、該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。60質量%以下とすることで、特に操縦安定性をより向上させることができる。
【0089】
上記ブタジエンゴム(BR)としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できるが、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のブタジエンゴム、日本ゼオン(株)製のBR1250H等の変性ブタジエンゴム、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム、ランクセス(株)製のBUNA−CB25等の希土類元素系触媒を用いて合成されるブタジエンゴム等を使用できる。これらBRは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
上記BRのシス含量は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、97質量%以上が更に好ましい。
なお、本明細書において、BRのシス含量(シス1,4結合含有率)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0091】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が、上記マスターバッチ由来ではないゴム分としてブタジエンゴムを含む場合の、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%以上とすることで、特に優れた破断強度が得られる。また、該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。50質量%以下とすることで、特に、加工性、低燃費性をより向上させることができる。
【0092】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、前記フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。1質量部以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、50質量部以下とすることで、前記フィラーの分散性がより向上し、本発明の効果がより好適に得られる。
【0093】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記マスターバッチ以外に、上記マスターバッチに用いられたゴム成分以外のタイヤ工業において一般的に用いられるゴム成分、上記マスターバッチに用いられたフィラー以外のタイヤ工業において一般的に用いられるカーボンブラックなどの充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、軟化剤、硫黄、加硫促進剤などのタイヤ工業において一般的に用いられる各種材料を適宜配合できる。
【0094】
特に、上記タイヤ用ゴム組成物にカーボンブラックを配合すると、補強効果が得られると共に、前記フィラーとの併用により、相乗的に前記フィラーのタイヤ用ゴム組成物中での分散性を顕著に向上させることが可能となる。したがって、上記タイヤ用ゴム組成物がカーボンブラックを含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0095】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは25m/g以上である。また該NSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下、更に好ましくは120m/g以下である。20m/g以上とすることで、より高い補強効果が得られる。また、200m/g以下とすることで、低燃費性がより向上する。
なお、本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0097】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。該含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、より良好な低燃費性が得られる。
【0098】
上記タイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記マスターバッチ、上記各種材料をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0099】
〔空気入りタイヤ〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は空気入りタイヤに好適に使用できる。上記空気入りタイヤは、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種材料を配合したタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0100】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0101】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
針葉樹漂白クラフトパルプ:日本製紙(株)製
TEMPO:東京化成工業(株)製の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(上記式(1)中、R〜Rがメチル基で表される化合物)
臭化ナトリウム:和光純薬工業(株)製
次亜塩素酸ナトリウム:東京化成工業(株)製
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
過酸化水素水:和光純薬工業(株)製の過酸化水素水
天然ゴムラテックス:野村貿易(株)社から入手したHytex Latex(高アンモニアタイプ、固形分濃度:60質量%)を使用
ミクロフィブリル化植物繊維1:下記製造例1で調製したミクロフィブリル化植物繊維(TEMPOを用いて酸化処理されたミクロフィブリル化植物繊維)
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:97質量%、ML1+4(100℃):40)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(NSA:42m/g)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)(6PPD)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミ硫黄(オイル分:10%)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)(TBBS)
【0102】
<ミクロフィブリル化植物繊維1の調製>
(製造例1)
乾燥重量で5.00gの未乾燥の針葉樹漂白クラフトパルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維から成る)、39mgのTEMPO及び514mgの臭化ナトリウムを水500mlに分散させた後、15質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプ(絶乾)に対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は3MのNaOH水溶液を滴下してpHを10.0に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分量15質量%の水を含浸させた反応物繊維を得た。
次に、該反応物繊維に水を加え、固形分量1質量%スラリーとした。
酸化されたセルロース4g(絶乾)に1MのNaOH1.5ml、30%過酸化水素水0.5mlを添加し、超純水を加えて、5%(w/v)に調整した後、オートクレーブで80℃で2時間加熱した。
未洗浄のアルカリ加水分解処理後の酸化されたセルロースを超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で3回処理し、透明なゲル状分散液(ミクロフィブリル化植物繊維1)を得た。
なお、ミクロフィブリル化植物繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和及びカルボキシル基の量は、セルロース繊維の重量に対し、1.6mmol/g及び1.5mmol/gで、最大繊維径及び数平均繊維径は、8.2nm及び4.0nm、平均繊維長は470nmであった。
ここで、マイカ切片上に固定したミクロフィブリル化植物繊維を走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製)で観察(3000nm×3000nm)し、繊維50本分の繊維幅を測定して、最大繊維径、数平均繊維径を算出した。平均繊維長は、得られた観察画像から画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて算出した。
【0103】
<マスターバッチの作製>
(実施例1)
ミクロフィブリル化植物繊維1の分散液を固形分濃度が0.5質量%となるように水で希釈し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で約5分撹拌して均一な水分散液(ミクロフィブリル化植物繊維の水分散液)を調製した(粘度:7〜8mPa・s)。
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を10質量%に調整した後、天然ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対して、上記調製した水分散液をミクロフィブリル化植物繊維1の乾燥重量(固形分)が20質量部となるように添加し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)を用いて25℃で5分撹拌、混合して、ゴムラテックス分散液(配合ラテックス)を調製した(合計固形分濃度:2質量%)。次いで、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar〔電子制御撹拌機〕、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−30mVに調整し、その後、1質量%塩化カルシウム水溶液を添加してゼータ電位を−10mVに調整して凝固物を得た。得られた凝固物をIKAジャパン社製のEurostar〔電子制御撹拌機〕(回転数:100rpm)に入れ、そこへ系内のエタノール濃度が30質量%になるまでエタノールを添加し、25℃で5分ゆっくり撹拌し、凝固物を得た。目視により、エタノール混合前に比べ、凝固物の径が大きくなっていることが確認された。その後、得られた凝固物を目開き200μmのメッシュでろ過し、80℃で6時間乾燥してマスターバッチ1を得た。上記ろ過、乾燥後の固形分回収率を下記計算式にて算出したところ、97.9質量%であった。
〔固形分回収率(質量%)〕={〔ろ過、乾燥後の固形分量〕/〔固形分仕込み量〕}×100
なお、上記計算式中の固形分仕込み量とは、仕込んだ天然ゴムラテックスのゴム固形分とミクロフィブリル化植物繊維の固形分の合計量を表している。
【0104】
上記ゼータ電位は、次の装置、測定条件で測定した。
測定装置:大塚電子社製のゼータ電位測定装置「ELS−PT」
測定条件
pHタイトレータを使用して測定
pH滴定モード
溶媒:水
温度:25℃
誘電率:78.22
粘度:0.8663cp
屈折率:1.3312
【0105】
なお、上記天然ゴムラテックス(固形分濃度:10質量%)、上記ミクロフィブリル化植物繊維の水分散液(固形分濃度:0.5質量%)、及び、上記配合ラテックス(合計固形分濃度:2質量%)のゼータ電位を上述の方法で測定したところ、それぞれ次の通りであった。
天然ゴムラテックス(固形分濃度:10質量%):−65mV
ミクロフィブリル化植物繊維の水分散液(固形分濃度:0.5質量%):−40mV
配合ラテックス(合計固形分濃度:2質量%):−60mV
【0106】
また、上記マスターバッチ1におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細に分散していることが確認された。
【0107】
(比較例1)
ゼータ電位を−10mVに調整して凝固物を得た後に、エタノール混合を行わず、得られた凝固物を目開き200μmのメッシュでろ過した以外は、実施例1と同様にして比較マスターバッチ1を得た。ここで、ろ過において、実施例1と同様のろ過後の状態になるまでに、実施例1と比べて5.5倍の時間がかかった。
また、実施例1と同様に、ろ過、乾燥後の固形分回収率を算出したところ、91.1質量%であり、実施例1と比べて低かった。このことは、実施例1に比べて比較例1において、ミクロフィブリル化植物繊維がろ過の際にろ液側により多く流出したことを意味し、実施例1と比べて比較例1では、マスターバッチにおけるゴム中へのミクロフィブリル化植物繊維の取り込み量に劣ることが分かる。
【0108】
(実施例2)
配合ラテックスを、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−10mVに調整し、その後、1質量%塩化カルシウム水溶液を添加してゼータ電位を−5mVに調整して凝固物を得た以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチ2を得た。
また、上記マスターバッチ2におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細に分散していることが確認された。
【0109】
(比較例2)
ミクロフィブリル化植物繊維1の分散液を固形分濃度が0.5質量%となるように水で希釈し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で約5分撹拌して均一な水分散液(ミクロフィブリル化植物繊維の水分散液)を調製した(粘度:7〜8mPa・s)。
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を10質量%に調整した後、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、上記調製した水分散液をミクロフィブリル化植物繊維1の乾燥重量(固形分)が20質量部となるように添加し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で25℃、約5分撹拌、混合して、ゴムラテックス分散液(配合ラテックス)を調製した(合計固形分濃度:2質量%)。次いで、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してpH((株)堀場製作所製のpHメーターD51T)を4に調整して凝固物を得た(併せて、実施例1と同様にしてゼータ電位も測定したところ、ゼータ電位は−35mVであった。)。得られた凝固物をIKAジャパン社製のEurostar〔電子制御撹拌機〕(回転数:100rpm)に入れ、そこへ系内のエタノール濃度が30質量%になるまでエタノールを添加し、25℃で5分ゆっくり撹拌し、凝固物を得た。その後、得られた凝固物を目開き200μmのメッシュでろ過し、80℃で6時間乾燥して比較マスターバッチ2を得た。
また、上記比較マスターバッチ2におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊が多少見られ、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が充分には微細に分散していないことが確認された。
【0110】
(比較例3)
配合ラテックスを、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−40mVに調整して凝固物を得た以外は、実施例1と同様にして比較マスターバッチ3を得た。
また、上記比較マスターバッチ3におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊ができており、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細には分散していないことが確認された。
【0111】
(比較例4)
配合ラテックスを、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を10mVに調整して凝固物を得た以外は、実施例1と同様にして比較マスターバッチ4を得た。
また、上記比較マスターバッチ4におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊ができており、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細には分散していないことが確認された。
【0112】
(実施例3)
エタノールを添加してエタノール混合を行う代わりに、アセトンを添加して混合した以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチ3を得た。なお、目視により、アセトン混合前に比べ、アセトン混合後の方が凝固物の径が大きくなっていることが確認された。
また、実施例1と同様に、ろ過、乾燥後の固形分回収率を算出したところ、97.3質量%であった。
また、上記マスターバッチ3におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細に分散していることが確認された。
【0113】
(実施例4)
エタノールを添加してエタノール混合を行う代わりに、2−プロパノールを添加して混合した以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチ4を得た。なお、目視により、2−プロパノール混合前に比べ、2−プロパノール混合後の方が凝固物の径が大きくなっていることが確認された。
また、実施例1と同様に、ろ過、乾燥後の固形分回収率を算出したところ、96.9質量%であった。
また、上記マスターバッチ4におけるミクロフィブリル化植物繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化植物繊維が微細に分散していることが確認された。
【0114】
<加硫ゴム組成物の作製>
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
表1に示す配合に従って、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得た。得られた加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表1に示した。
【0115】
(引張試験)
加硫ゴム組成物を用いて3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を行い、加硫ゴム組成物の破断時の引張強度(引張破断強度:TB〔MPa〕)を測定した。
比較例2のTBを100として、下記計算式により、各配合のTBを指数表示した(破断強度指数〔TB指数〕)。TB指数が大きいほど破断強度が大きく耐久性に優れることを示す。
(TB指数)=(各配合のTB)/(比較例2のTB)×100
【0116】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、及び、動歪み2%の条件下で、各配合(加硫ゴム組成物)から切り出した試験片のタイヤ周方向の複素弾性率E*(MPa)及び損失正接(tanδ)を測定した。
比較例2のE*、tanδをそれぞれ100として、下記計算式により各配合のE*、tanδを指数表示した(E*指数、tanδ指数)。E*指数が大きいほど剛性が大きく操縦安定性に優れることを示す。また、tanδ指数が大きいほど転がり抵抗特性(低燃費性)に優れることを示す。
(E*指数)=(各配合のE*)/(比較例2のE*)×100
(tanδ指数)=(比較例2のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
ここで、タイヤ周方向とは、加硫ゴム組成物の押出し方向である。
【0117】
【表1】
【0118】
表1から、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が−120〜−10mVのフィラー分散体とを混合して配合ラテックスを調製する工程(1)、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVに調整する工程(2)、及び、前記工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程(3)を含む製造方法で得られるマスターバッチを用いた実施例では、比較例2に比べて、破断強度、剛性、低燃費性、のゴム物性が改善され、比較例1と比べても剛性がより改善していることが明らかとなった。一方で、前記工程(1)で得られた配合ラテックスのゼータ電位を−30〜0mVの範囲外に調整して得られたマスターバッチを用いた比較例3及び4では、破断強度、剛性、低燃費性の悪化が見られた。
特に、工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する実施例1では、工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固する工程を行わない比較例1に比べて、同じろ過状態を得るまでの時間が大幅に短縮されており、ろ過性が顕著に向上していること、また、ろ過、乾燥後の固形分回収率が高くなっており、マスターバッチにおけるゴム中へのフィラーの取り込み量が向上していること、が確認された。そして更には、実施例1において、ゴム中にフィラーが微細に分散していることも確認された。これらのことから、工程(2)で得られた凝固物を有機溶媒で凝固することにより、ゴム中へのフィラーの取り込み量を向上させ、また、ゴム中でのフィラーの分散性を損なうことなく、マスターバッチを得る際のろ過性を向上させることができ、これにより、マスターバッチ製造時の生産性がより向上し、結果、より性能の向上したマスターバッチを生産性良く製造することができることが分かる。