特許第6386677号(P6386677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6386677繊維強化樹脂及びその製造方法並びに成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386677
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂及びその製造方法並びに成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180827BHJP
   C08J 3/14 20060101ALI20180827BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180827BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20180827BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20180827BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20180827BHJP
   C08J 5/24 20060101ALN20180827BHJP
   B29B 11/16 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   C08J5/04CER
   C08J3/14CFG
   C08L101/00
   C08K7/06
   C08K7/16
   C08L77/00
   !C08J5/24CEZ
   !B29B11/16
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-544543(P2017-544543)
(86)(22)【出願日】2016年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2016079689
(87)【国際公開番号】WO2017061502
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2017年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-199751(P2015-199751)
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108982
【氏名又は名称】ダイセル・エボニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】六田 充輝
(72)【発明者】
【氏名】中家 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−203788(JP,A)
【文献】 特開2009−248357(JP,A)
【文献】 特開2012−046690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10
C08J 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
C08J 3/00−3/28
C08K 7/06
C08K 7/16
C08L 77/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維(A)、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含む樹脂組成物であって、
前記強化繊維(A)が炭素繊維を含み、
前記樹脂粒子(B)が、脂環式構造を有し、かつガラス転移温度が100℃以上であるポリアミド樹脂及び/又は脂肪族ポリアミド樹脂である半結晶性熱可塑性樹脂を含み、示差走査熱量測定(DSC)によって10℃/分の速度で昇温したとき、前記半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と融点との間の温度範囲に発熱ピークを有し、かつ平均粒径3〜40μmを有する樹脂組成物。
【請求項2】
半結晶性熱可塑性樹脂が、融点150℃以上のポリアミド樹脂である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
半結晶性熱可塑性樹脂が、γ型結晶構造又は50%以下の結晶化度を有するポリアミド樹脂である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂粒子(B)が衝撃性改良剤をさらに含む請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
マトリックス樹脂(C)が熱硬化性樹脂である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂粒子(B)が、球状であり、かつ平均粒径15〜25μmを有する請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形品。
【請求項8】
炭素繊維を含む強化繊維(A)及びマトリックス樹脂(C)を含む組成物に添加し、前記強化繊維(A)の補強効果を向上又は改善するための添加剤であって、脂環式構造を有し、かつガラス転移温度が100℃以上であるポリアミド樹脂及び/又は脂肪族ポリアミド樹脂である半結晶性熱可塑性樹脂を含み、示差走査熱量測定(DSC)によって10℃/分の速度で昇温したとき、前記半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と融点との間の温度範囲に発熱ピークを有し、かつ平均粒径3〜40μmを有する樹脂粒子(B)を含む添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含む樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物で形成された成形品(又は繊維強化複合材料)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維(カーボン繊維)及びマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化複合材料(CFRP)は、強度、剛性などに優れ、各種用途(例えば、航空機の一次構造部材、自動車用部材、風車の羽根、各種電子機器の筐体など)において使用されている。こうした用途において特に重要な物性としては、主に物理的強度、例えば、衝撃強度、弾性率、曲げ強度、層間靭性等が挙げられる。このような物性を改善するため、従来から、マトリックス樹脂(例えば、エポキシ樹脂成分)と炭素繊維を含むCFRPに対して各種フィラーを添加する工夫がなされてきた。中でも昨今様々な検討がなされているのはポリアミド微粒子によるCFRPの強化である。
【0003】
特開2014−145003号公報(特許文献1)には、強化繊維とエポキシ樹脂と2種類の平均粒径を有するポリマー粒子とを含み、かつ前記ポリマー粒子のうち、平均粒径10〜30μmである大粒径のポリマー粒子のガラス転移温度が80〜180℃であるプリプレグ(成形用中間材料)が開示されている。この文献の実施例では、ポリアミドを溶媒に溶解した後、貧溶媒を投下して析出させる化学粉砕法でポリアミド微粒子を調製している。
【0004】
特許第5655976号公報(特許文献2)には、強化繊維と熱硬化性樹脂と結晶性ポリアミド及び非晶性ポリアミドを含む組成物からなり、かつ特定の貯蔵弾性率及び80〜180℃のガラス転移温度を有する粒子とを含むプリプレグが開示されている。この文献の実施例でも、結晶性ポリアミド及び非晶性ポリアミドを溶媒に溶解した後、貧溶媒を投下して析出させる化学粉砕法でポリアミド微粒子を調製している。
【0005】
WO2015/033998号パンフレット(特許文献3)には、プリプレグとして利用できる繊維強化用複合材料用組成物として、強化繊維、平均粒子径12〜70μmを有する球状のポリアミド樹脂粒子及びマトリックス樹脂を含む組成物が開示されている。この文献の実施例では、ポリアミドに非相溶な材料を用いてポリアミドを溶融混練する強制乳化法によってポリアミド樹脂粒子を調製している。
【0006】
しかし、これらのポリアミド粒子では、強化繊維の補強効果が充分ではなかった。さらに、特許文献2のポリアミド粒子では、2種類のポリアミド粒子を用いるため、均一に混合する必要があり、取り扱い性も低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−145003号公報(請求項1、実施例)
【特許文献2】特許第5655976号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】WO2015/033998号パンフレット(請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、強化繊維(特に炭素繊維)による補強効果を向上できる樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物で形成された成形品を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、取り扱い性に優れ、容易にCFRPの層間靱性を向上できる樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物で形成された成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため、樹脂微粒子の熱的特性に着目した。すなわち、CFRPの製造過程では、添加された微粒子はエポキシ樹脂の硬化反応により長時間にわたり150℃を超える温度環境下に曝される上に、硬化反応中のエポキシ樹脂や硬化剤などの化学的影響を受けるにも拘わらず、CFRPの補強のために用いられるポリアミド微粒子自体の熱的特性についての検討は殆ど行われていなかった。例えば、特許文献1及び2でも、ポリアミド樹脂のガラス転移温度や貯蔵弾性率G’の温度依存性が検討されているが、これらの特性は微粒子を構成するポリアミド樹脂自体の特性であって、微粒子の特性ではない。特に、微粒子を構成するポリアミド樹脂などの半結晶性樹脂の場合、熱による融解後に冷却して固化した樹脂において、固化した後の分子の高次構造(結晶化度など)は、固化後の熱履歴(特に乾燥による加熱)の態様によって大きく異なる。このような高次構造の違いはCFRPにおける樹脂微粒子の補強効果に大きな影響を及ぼすにも拘わらず、従来の技術では、これらの点について検討されていなかった。例えば、特許文献3には、得られたポリアミド樹脂微粒子に対する加熱処理については記載されていないが、通常、当業者であれば、溶媒を除去するための乾燥では、生産効率を向上させるため、なるべく高い温度、すなわちポリマーのガラス転移温度以上の温度で加熱するのが通常である。そのため、特許文献3の強制乳化法で製造した樹脂粒子でも、乾燥のための加熱により結晶化し、CFRPの補強効果は充分ではないことを突き止めた。
【0011】
また、CFRPに限らず、熱可塑性樹脂などにも補強のために微粒子を添加する場合がある。添加の理由は、衝撃などによりマトリックスに発生したクラックの伸展エネルギーを、微粒子とマトリックスとの界面を破壊するエネルギーや、微粒子が変形又は破壊されるエネルギーで吸収するためである。従って、一般に、添加する微粒子とマトリックス樹脂との間には充分な親和性があるのが好ましく、逆に言うと隙間などはない方が好ましい。また、微粒子自体の破壊モードは脆性的ではなく、延性的である方が好ましい。これら傾向は、いずれも微粒子自体の高次構造(結晶化度など)と深く結びついているが、そういった検討も行われていないのが現状である。
【0012】
このような中、本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、マトリックス樹脂及び強化繊維を含む組成物に添加する樹脂粒子として、示差走査熱量分析(DSC)の1st Heatの過程で結晶化のピークが観察できる程度に、結晶化度が低い微粒子を用いると、強化繊維(特に炭素繊維)による補強効果を効果的に向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
また、樹脂粒子の代表的な製造方法として、(1)冷凍粉砕法(例えば、樹脂を液体窒素などで冷却、脆化させた上で、物理的な力によって粉砕又は破砕し粉体化する方法など)、(2)化学粉砕法(例えば、樹脂を溶媒に溶解した後、貧溶媒に投下して析出させる方法など)、(3)重合法(例えば、懸濁重合やエマルジョン重合などにより粒子化しつつ重合する方法)、(4)強制乳化法{例えば、樹脂に対して非相溶な材料[例えば、水溶性高分子(ポリエチレングリコールなど)、糖類(多糖類、オリゴ糖など)などの水溶性材料]と樹脂とを溶融混練し、非相溶な材料(水溶性高分子)中に樹脂粒子が分散した分散体を得た後、この分散体から非相溶な材料を取り除く方法など}、(5)レーザー法(レーザーで瞬間的に溶融させ繊維状の樹脂を、減圧槽などとの組み合わせにより空中に飛翔させて、樹脂粒子を得る方法)などが知られている。本発明者らは、結晶性の低い特定の微粒子は、これらの方法のうち、強制乳化法を選択し、得られた粒子の熱履歴(特に乾燥条件)を特殊な条件に調整することにより製造できることも見出した。
【0014】
さらに、微粒子を構成する樹脂について、非晶性の樹脂の方が半結晶性の樹脂よりも微粒子にした時に結晶化度が低くなるのは当然であるが、非晶性でかつ150〜190℃というエポキシ樹脂の硬化条件で形状を維持できる樹脂はガラス転移温度が非常に高く、室温から100℃程度の温度領域では脆性となるため、非晶性の樹脂では充分な補強効果を得ることができない。そのため、本発明者らは、補強効果を向上できる樹脂は、半結晶性樹脂であり、かつ微粒子として結晶化度が低い樹脂である必要があることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、強化繊維(A)、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含む樹脂組成物であって、前記強化繊維(A)が炭素繊維を含み、前記樹脂粒子(B)が、半結晶性熱可塑性樹脂を含み、示差走査熱量測定(DSC)によって10℃/分の速度で昇温したとき、前記半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と融点との間の温度範囲に発熱ピークを有し、かつ平均粒径3〜40μmを有する。前記半結晶性熱可塑性樹脂は、融点150℃以上のポリアミド樹脂(特に、脂環式構造を有し、かつガラス転移温度が100℃以上のポリアミド樹脂、又はγ型結晶構造を有する脂肪族ポリアミド樹脂)であってもよい。また、前記半結晶性熱可塑性樹脂は、γ型結晶構造又は50%以下の結晶化度を有するポリアミド樹脂(特に脂肪族ポリアミド樹脂)であってもよい。前記樹脂粒子(B)は衝撃性改良剤をさらに含んでいてもよい。前記マトリックス樹脂(C)は熱硬化性樹脂であってもよい。前記樹脂粒子(B)は、球状であり、かつ平均粒径15〜25μmを有していてもよい。
【0016】
本発明には、半結晶性熱可塑性樹脂とこの樹脂に非相溶な水性媒体とを溶融混練した後、得られた溶融混練物から親水性溶媒で前記水性媒体を除去して樹脂粒子(B)を得る樹脂粒子製造工程と、強化繊維(A)に、得られた樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含浸させる含浸工程とを含む前記樹脂組成物の製造方法も含まれる。前記樹脂粒子製造工程において、水性媒体を除去後、半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、(Tg+40)℃以下の温度で乾燥してもよい。
【0017】
本発明には、前記樹脂組成物を含む成形品も含まれる。
【0018】
本発明には、炭素繊維を含む強化繊維(A)及びマトリックス樹脂(C)を含む組成物に添加し、前記強化繊維(A)の補強効果を向上又は改善するための添加剤であって、半結晶性熱可塑性樹脂を含み、示差走査熱量測定(DSC)によって10℃/分の速度で昇温したとき、前記半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と融点との間の温度範囲に発熱ピークを有し、かつ平均粒径3〜40μmを有する樹脂粒子(B)を含む添加剤も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、特定の結晶化度を有する樹脂粒子を、炭素繊維及びマトリックス樹脂と組み合わせているため、強化繊維(特に炭素繊維)による補強効果を向上できる。特に、樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物で形成された成形品を提供することにある。特に、熱的特性をDSCで測定して管理した樹脂粒子をマトリックス樹脂と組み合わせて強化繊維に含浸させるだけで、容易にCFRPの層間靱性を向上でき、取り扱い性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例1で得られた脂環族ポリアミド粒子を示差走査熱量計(DSC)によって10℃/分の速度で昇温した吸熱曲線である。
図2図2は、比較例1で得られた脂環族ポリアミド粒子をDSCによって10℃/分の速度で昇温した吸熱曲線である。
図3図3は、実施例1及び比較例1で得られた脂環族ポリアミド粒子の広角X線回折のチャートである。
図4図4は、実施例2で得られたポリアミド12粒子をDSCによって10℃/分の速度で昇温した吸熱曲線である。
図5図5は、実施例2で得られたポリアミド12粒子の広角X線回折のチャートである。
図6図6は、比較例3で得られたポリアミド12粒子をDSCによって10℃/分の速度で昇温した吸熱曲線である。
図7図7は、比較例3で得られたポリアミド12粒子の広角X線回折のチャートである。
図8図8は、実施例3で得られたポリアミド1010粒子の広角X線回折のチャートである。
図9図9は、比較例4で得られたポリアミド1010粒子の広角X線回折のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、強化繊維(A)、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(マトリックスを形成する樹脂)(C)を含む。この樹脂組成物は、後述のように、繊維強化複合材料(又は繊維強化樹脂)を得るための組成物として用いることができるため、繊維強化複合材料用組成物(又は繊維強化樹脂用組成物)ということもできる。
【0022】
(A)強化繊維
強化繊維(補強繊維、繊維状強化材、繊維状フィラー、繊維状充填剤)(A)は、マトリックス樹脂を補強(又は強化)する成分であり、炭素繊維を含む。炭素繊維(カーボン繊維)は、特に限定されず、ピッチ系繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維などのいずれであってもよい。これらの炭素繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
強化繊維(A)は、炭素繊維に加えて、さらに非炭素繊維を含んでいてもよい。非炭素繊維としては、無機繊維(例えば、ガラス繊維、ホウ素繊維、アルミノケイ酸繊維、酸化アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維など)、有機繊維{例えば、ポリエステル繊維[例えば、芳香族ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリアルキレンアリレート繊維)など]、ポリアミド繊維[例えば、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維など)など]、再生繊維(レーヨンなど)など}が挙げられる。これらの非炭素繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
なお、炭素繊維と非炭素繊維(例えば、ガラス繊維、有機繊維など)とを組み合わせる場合、強化繊維全体に対する炭素繊維の割合は、例えば30体積%以上、好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上(特に90体積%以上)であってもよく、100体積%(炭素繊維のみ)であってもよい。
【0025】
なお、強化繊維(A)は、表面処理されていてもよい。
【0026】
強化繊維(A)の平均径は、その種類にもよるが、0.5〜1000μm(例えば1〜500μm)程度の範囲から選択でき、例えば1〜300μm(例えば、2〜100μm)、好ましくは3〜70μm、さらに好ましくは5〜50μm(特に5〜30μm)程度であってもよい。
【0027】
特に、炭素繊維の平均径(平均繊維径)は、例えば1〜100μm(例えば、1.5〜70μm)、好ましくは2〜50μm(例えば2.5〜40μm)、さらに好ましくは3〜30μm、特に5〜20μm(例えば6〜15μm)程度であってもよく、通常5〜15μm(例えば7〜10μm)程度であってもよい。
【0028】
なお、本発明では、繊維径は、慣用の方法で測定でき、例えば、電子顕微鏡を用いて10本以上の繊維径を測定し、平均値を算出することにより求めることができる。
【0029】
強化繊維(A)は、短繊維、長繊維のいずれであってもよいが、特に長繊維であってもよい。長繊維は、連続繊維、不連続繊維のいずれであってもよく、連続繊維と不連続繊維とを組み合わせてもよい。
【0030】
強化繊維(A)は、布帛(又は布)の形態であってもよい。布帛(繊維集合体)としては、例えば、織布(織物)、不織布、編布(編物)などが挙げられる。また、強化繊維(A)は、後述のように、同方向(又は一方向)に揃えた(並べられた)態様で、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)とともに、組成物中に含まれていてもよい。
【0031】
布の組織は、布の種類に応じて適宜選択できる。例えば、織布の組織(織物組織)としては、平織、綾織、朱子織などが挙げられるが、特に限定されない。また、編布の組織(編物組織)としては、経編(例えば、トリコットなど)、緯編(例えば、平編、鹿の子編など)などが挙げられる。
【0032】
(B)樹脂粒子(半結晶性熱可塑性樹脂粒子)
樹脂粒子(B)を形成する樹脂成分は、半結晶性熱可塑性樹脂である。半結晶性熱可塑性樹脂としては、強化繊維の補強効果を向上(又は補助)できる樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリアセタール樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂(ポリエーテルスルホン樹脂を含む)、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの半結晶性熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0033】
これらのうち、マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂との組み合わせにおいて、特に有効に補強効果を発揮し易い点から、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。ポリアミド樹脂は、ホモポリアミド又はコポリアミドであってもよい。ポリアミド樹脂の末端基は特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基であってもよい。
【0034】
脂肪族ポリアミド樹脂のうち、ホモポリアミドとしては、脂肪族ジアミン成分[アルカンジアミン(例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカンジアミンなどのC4−16アルキレンジアミン、好ましくはC6−14アルキレンジアミン、さらに好ましくはC6−12アルキレンジアミン)など]と、脂肪族ジカルボン酸成分[例えば、アルカンジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などのC4−20アルカンジカルボン酸、好ましくはC5−18アルカンジカルボン酸、さらに好ましくはC6−16アルカンジカルボン酸)など]とのホモ又はコポリアミド、ラクタム[ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどの炭素数4〜20(好ましくは炭素数4〜16)程度のラクタムなど]又はアミノカルボン酸(例えば、ω−アミノウンデカン酸などのC4−20アミノカルボン酸、好ましくはC4−16アミノカルボン酸、さらに好ましくはC6−14アミノカルボン酸など)のホモ又はコポリアミド、脂肪族ジアミン成分及び脂肪族ジカルボン酸成分の第1のアミド形成成分と、ラクタム又はアミノカルボン酸の第2のアミド形成成分とのコポリアミドなどが含まれる。
【0035】
具体的な脂肪族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド613、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド66/11、ポリアミド66/12、ポリアミド6/12/612などが挙げられる。
【0036】
脂環族ポリアミド樹脂としては、脂環族ジアミン成分及び脂環族ジカルボン酸成分から選択された少なくとも一種を構成成分として含むホモポリアミド又はコポリアミドなどが挙げられ、例えば、ジアミン成分及びジカルボン酸成分のうち、少なくとも一部の成分として脂環族ジアミン及び/又は脂環族ジカルボン酸を用いて得られる脂環族ポリアミドなどが使用できる。特に、ジアミン成分及びジカルボン酸成分として、脂環族ジアミン成分及び/又は脂環族ジカルボン酸成分と共に、前記例示の脂肪族ジアミン成分及び/又は脂肪族ジカルボン酸成分を併用するのが好ましい。このような脂環族ポリアミド樹脂は、透明性が高く、いわゆる透明ポリアミドとして知られている。
【0037】
脂環族ジアミン成分としては、ジアミノシクロヘキサンなどのジアミノシクロアルカン(ジアミノC5−10シクロアルカンなど);ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4’−アミノシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロアルキル)アルカン[ビス(アミノC5−8シクロアルキル)C1−3アルカンなど];水添キシリレンジアミンなどが挙げられる。脂環族ジアミン成分は、アルキル基(メチル基、エチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基、さらに好ましくはC1−2アルキル基)などの置換基を有していてもよい。また、脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロアルカンジカルボン酸(C5−10シクロアルカン−ジカルボン酸など)などが挙げられる。
【0038】
代表的な脂環族ポリアミド樹脂としては、例えば、脂環族ジアミン成分[例えば、ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンなど]と脂肪族ジカルボン酸成分[例えば、アルカンジカルボン酸(例えば、C4−20アルカン−ジカルボン酸成分など)など]との縮合物などが挙げられる。
【0039】
芳香族ポリアミド樹脂には、脂肪族ポリアミド樹脂において、脂肪族ジアミン成分及び脂肪族ジカルボン酸成分のうち少なくとも一方の成分が芳香族成分であるポリアミド、例えば、ジアミン成分が芳香族ジアミン成分であるポリアミド[例えば、芳香族ジアミン(メタキシリレンジアミンなど)と脂肪族ジカルボン酸との縮合物(例えば、MXD−6など)など]、ジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[例えば、脂肪族ジアミン(トリメチルヘキサメチレンジアミンなど)と芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)との縮合物など]などが含まれる。また、芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン成分及びジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)など]の全芳香族ポリアミド(アラミド)であってもよい。
【0040】
これらの半結晶性ポリアミド樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらのうち、マトリックス樹脂の補強効果が大きい点から、脂環族ポリアミドや脂肪族ポリアミドなどの半結晶性ポリアミド(結晶性を有するポリアミド)が好ましく(脂環族ポリアミド及び/又は脂肪族ポリアミド)、強化繊維(A)の近傍に樹脂粒子(B)を偏在させ易い点から、脂環族ポリアミド樹脂(脂環式構造を有するポリアミド樹脂)が特に好ましい。
【0041】
半結晶性熱可塑性樹脂(特に、半結晶性ポリアミド樹脂)の数平均分子量は、例えば8000〜200000、好ましくは9000〜150000、さらに好ましくは10000〜100000程度であってもよい。なお、数平均分子量は、ポリスチレンなどを標準物質とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーなどにより測定できる。
【0042】
半結晶性熱可塑性樹脂(特に、半結晶性ポリアミド樹脂)の融点は、特に制限されないが、比較的高温の融点を有するポリアミド樹脂を好適に使用してもよい。このような半結晶性ポリアミド樹脂は、組成物や成形品の製造において、球状を高いレベルで維持しやすいためか、強化繊維(A)による補強効果を効率よく得やすい。このような半結晶性ポリアミド樹脂(脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂など)の融点は、例えば150℃以上(例えば155〜350℃)、好ましくは160℃以上(例えば165〜300℃)、さらに好ましくは170℃以上(例えば175〜270℃)であってもよい。また、半結晶性ポリアミド樹脂の融点(又は軟化点)は、組成物の成形温度[例えば、マトリックス樹脂としての硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の硬化温度など]以上(又は組成物の成形温度よりも高い温度)であってもよい。融点が高すぎると、強化繊維(A)の補強効果を改善できない可能性がある。
【0043】
半結晶性熱可塑性樹脂(特に、半結晶性ポリアミド樹脂)のガラス転移温度は、例えば30℃以上(例えば40〜200℃程度)であってもよく、特に、脂環族ポリアミド樹脂のガラス転移温度は100℃以上(例えば105〜200℃)、好ましくは110℃以上(例えば115〜180℃)、さらに好ましくは120℃以上(例えば125〜150℃)であってもよく、脂肪族ポリアミド樹脂のガラス転移温度は30℃以上(例えば、30〜150℃)、好ましくは40℃以上(例えば40〜120℃)、さらに好ましくは45℃以上(例えば、45〜100℃)程度であってもよい。ガラス転移温度が高すぎると、強化繊維(A)の補強効果を改善できない虞がある。
【0044】
半結晶性熱可塑性樹脂(特に、半結晶性ポリアミド樹脂)の結晶化度は、樹脂の種類に応じて選択でき、80%以下(例えば75〜1%)、好ましくは50%以下(例えば50〜10%)であってもよい。半結晶性熱可塑性樹脂が脂環族ポリアミド樹脂である場合、結晶化度は40%以下であってもよく、例えば30〜1%、好ましくは20〜1%、さらに好ましくは20〜5%程度である。ポリアミド1010などのC6−10アルカン単位を有する半結晶性脂肪族ポリアミドの結晶化度は50%以下であってもよく、例えば50〜1%、好ましくは45〜10%、さらに好ましくは43〜30%程度である。ポリアミド12などのC11−13アルカン単位を有する半結晶性脂肪族ポリアミドの結晶化度は80%以下であってもよく、例えば80〜10%、好ましくは78〜30%、さらに好ましくは75〜35%程度である。結晶化度が高すぎると、強化繊維(A)の補強効果を改善できない可能性がある。本発明では、結晶化度は、慣用の方法、例えば、X線回折法、示差走査熱量測定(DSC)法によって測定でき、特に、後述する実施例に記載の広角X線回折(WAXD)に基づいて測定できる。
【0045】
樹脂粒子(B)は、示差走査熱量測定(DSC)によって10℃/分の速度で昇温したときに、半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と融点との間の温度範囲に発熱ピークを有する。発熱ピークは、前記温度範囲にあればよく、例えば、ガラス転移温度よりも1〜70℃高い位置にあってもよく、好ましくは1〜60℃、さらに好ましくは1〜50℃(特に1〜40℃)程度高い位置にあってもよい。本発明では、樹脂粒子(B)がこのような熱的特性(結晶構造)を有することにより、マトリックス樹脂(C)(特にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂)と作用し易くなるためか、強化繊維(A)の補強効果を向上できる。
【0046】
樹脂粒子(B)を構成する半結晶性熱可塑性樹脂の結晶構造は、特に限定されず、例えば、半結晶性ポリアミド樹脂の結晶構造は、α型、γ型、α+γ型のいずれの結晶構造であってもよい。中でも、半結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(特に、ポリアミド12などのC11−13アルカン単位を有する半結晶性脂肪族ポリアミド)はγ型結晶構造が好ましい。本明細書及び特許請求の範囲において、半結晶性ポリアミド樹脂の結晶構造は、広角X線回折チャートにおいて、回折角度2θ=15〜30°の範囲におけるピークの有無で、以下のように判別できる。
【0047】
非晶構造又は低結晶構造:ピークを有さないなだらかな山形状
α型結晶構造:2つのピークを有する急峻な山形状
γ型結晶構造:1つのピークを有する急峻な山形状(例えば、2θ=21.5°±0.2°に1つのピークを有する山形状)
α+γ型結晶構造:2θ=α型の2つのピークと、α型の2つのピークの間に存在するγ型のピークとが混在した3つのピークを有する急峻な山形状。
【0048】
樹脂粒子(B)の形状は球状が好ましい。球状としては、真球状又は真球状に準ずる形状[例えば、表面が滑らかで(又は表面に凹凸がなく)、かつ長径が短径よりもやや大きい(例えば、長径/短径=1.3/1〜1/1、好ましくは1.2/1〜1/1、さらに好ましくは1.1/1〜1/1程度である)形状]などが挙げられる。中でも、真球状が好ましい。また、真球度が高いほど、比表面積は小さくなるため、本明細書及び特許請求の範囲において、比表面積を真球状の指標としてもよい。例えば、樹脂粒子(B)の平均粒径が20μmである場合、BET比表面積は、例えば1m/g以下、好ましくは0.5m/g以下、さらに好ましくは0.4m/g以下であってもよい。なお、比重が1.0であり、平均粒径が20μmの樹脂粒子の理論的な最小比表面積は0.15m/gである。
【0049】
なお、樹脂粒子の形状としては、不定形状、ジャガイモ状、球状などが知られているが、このような形状は、通常、粒子の製造方法に応じて決定される場合が多い。
【0050】
樹脂粒子(B)の平均粒径(平均粒子径)は、3μm以上(例えば3〜85μm)の範囲から選択でき、例えば3〜40μm、好ましくは5〜35μm、さらに好ましくは10〜30μm(特に15〜25μm)程度であってもよい。平均粒径が小さすぎると、強化繊維(A)の補強効果を改善できない虞がある。なお、本発明では、平均粒子径は、個数平均一次粒子径で表され、レーザー回折散乱法などにより測定できる。
【0051】
なお、前記範囲は平均粒径であるが、前記平均粒径の範囲にある粒子径を有する樹脂粒子効率良い補強効果に主に寄与するようである。そのため、樹脂粒子(B)は、例えば、粒子径が3〜40μm(特に15〜25μm)の範囲にある樹脂粒子を、粒子数基準で、全体に対して50%以上(例えば60%以上)、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に90%以上含む樹脂粒子であってもよい。
【0052】
また、樹脂粒子(B)の平均粒子径は、強化繊維(A)の平均径に応じて選択でき、例えば、強化繊維(A)の平均径(平均繊維径)の0.5〜15倍(例えば0.7〜12倍)、好ましくは1〜10倍(例えば1.5〜5倍)、さらに好ましくは2〜4倍(特に2.5〜3.5倍)程度であってもよく、通常1.5〜15倍(例えば2〜10倍)程度であってもよい。このような粒径の樹脂粒子(B)を使用することで、強化繊維近傍に樹脂粒子を偏在させ易く、強化繊維(A)による補強効果を効率よく高めやすい。
【0053】
樹脂粒子(B)は、半結晶性熱可塑性樹脂を含んでいればよいが、さらに衝撃性改良剤を含んでいてもよい。衝撃性改良剤としては、例えば、酸変性されたポリオレフィン樹脂(酸変性ポリオレフィン樹脂)、グリシジル基などのエポキシ基含有基を有する樹脂などが挙げられる。これらの衝撃性改良剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの衝撃性改良剤のうち、酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましく、このポリオレフィン樹脂は部分的に炭素−炭素の二重結合を有していてもよい。衝撃性改良剤の割合は、半結晶性熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば1〜30重量部、好ましくは1〜25重量部、さらに好ましくは5〜20重量部程度である。
【0054】
樹脂粒子(B)は、他の成分として、他の熱可塑性樹脂や慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、安定剤、充填剤(非繊維状充填剤)、着色剤、分散剤、防腐剤、抗酸化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。他の成分の合計割合は、半結晶性熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば10重量部以下(例えば0.01〜10重量部程度)であってもよい。
【0055】
(C)マトリックス樹脂
マトリックス樹脂(C)は、強化繊維(A)[さらには樹脂粒子(B)]のマトリックスとなる樹脂成分であり、用途や所望の特性に応じて、適宜選択できる。
【0056】
このようなマトリックス樹脂(C)は、樹脂(樹脂成分)を含む。樹脂としては、用途や所望の特性又は物性に応じて選択でき、熱可塑性樹脂[例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリプロピレンなど)、ポリアミド樹脂(前記例示のポリアミド樹脂など)、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂など]、硬化性樹脂(熱又は光硬化性樹脂)のいずれであってもよい。樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
特に、本発明では、強度や熱的特性などの観点から、樹脂粒子(B)との組み合わせにおいて、熱硬化性樹脂を好適に使用できる。そのため、マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。
【0058】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0059】
熱硬化性樹脂の中でも、特に、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリンなど)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂[例えば、ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はその水添物)のジグリシジルエステルなど]、アルケンオキシド類(例えば、ビニルシクロヘキセンジオキサイドなど)、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0060】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂などのビスフェノール類又はそのアルキレンオキシド付加体とエピクロロヒドリンとの反応物)、フェノール型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有フェノールノボラック樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック樹脂など)、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するグリシジルエーテル[例えば、1,5−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレンなどのジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、ビス[2,7−ジ(グリシジルオキシ)ナフチル]メタンなど]などの芳香族骨格を有するエポキシ樹脂(ポリグリシジルエーテル);アルカンジオールジグリシジルエーテル(例えば、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどのC2−10アルカンジオールジグリシジルエーテル)、ポリアルカンジオールジグリシジルエーテル(例えば、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリC2−4アルカンジオールジグリシジルエーテル)、アルカントリ乃至ヘキサオールのジ乃至ヘキサグリシジルエーテル(例えば、トリメチロールプロパンジ又はトリグリシジルエーテル、グリセリンジ又はトリグリシジルエーテルなどのC3−10アルカントリ又はテトラオールのジ又はトリグリシジルエーテル)などの脂肪族骨格を有するエポキシ樹脂(ポリグリシジルエーテル)などが挙げられる。
【0061】
なお、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加体において、ビスフェノール類のヒドロキシル基1モルに対するアルキレンオキシドの付加モル数は、例えば1モル以上(例えば1〜20モル)、好ましくは1〜15モル、さらに好ましくは1〜10モル程度であってもよい。
【0062】
これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせもよい。これらのエポキシ樹脂のうち、強度などの点で、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂などが好ましい。そのため、エポキシ樹脂は、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂で少なくとも構成してもよく、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂(例えば、脂肪族骨格を有するエポキシ樹脂など)とを組み合わせてもよい。
【0063】
なお、エポキシ樹脂は、単官能性のエポキシ化合物(又は希釈剤){例えば、モノグリシジルエーテル[例えば、アルキルグリシジルエーテル(例えば、2−エチルへキシルグリシジルエーテルなど)、アルケニルグリシジルエーテル(例えば、アリルグリシジルエーテルなど)、アリールグリシジルエーテル(例えば、フェニルグリシジルエーテルなど)など]、アルケンオキサイド(例えば、オクチレンオキサイド、スチレンオキサイドなど)など}と組み合わせてエポキシ樹脂を構成してもよい。なお、エポキシ樹脂と単官能性のエポキシ化合物とを組み合わせる場合、これらの割合は、前者/後者(重量比)=例えば99/1〜50/50、好ましくは97/3〜60/40、さらに好ましくは95/5〜70/30程度であってもよい。
【0064】
エポキシ樹脂(又はエポキシ樹脂及び単官能性のエポキシ化合物との組成物)は、常温(例えば20〜30℃程度)において、固体状であってもよく、液体状であってもよい。なお、液体状のエポキシ樹脂の粘度(25℃)は、例えば50〜50000mPa・s、好ましくは100〜40000mPa・s(例えば200〜35000mPa・s)、さらに好ましくは300〜30000mPa・s(例えば500〜25000mPa・s)程度であってもよく、1000mPa・s以上(例えば2000〜50000mPa・s、好ましくは3000〜30000mPa・s、さらに好ましくは5000〜25000mPa・s)であってもよい。
【0065】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合、マトリックス樹脂は、硬化剤や硬化促進剤を含んでいてもよい。すなわち、マトリックス樹脂は、樹脂(熱硬化性樹脂)と、この樹脂に対する硬化剤や硬化促進剤とで構成してもよい。
【0066】
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤(例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂など)、酸無水物系硬化剤[例えば、脂肪族ジカルボン酸無水物(ドデセニル無水コハク酸など)、脂環族ジカルボン酸無水物(テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸など)、芳香族ジカルボン酸無水物(無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物など)など]、ポリメルカプタン系硬化剤、潜在性硬化剤(三フッ化ホウ素−アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジドなど)などが挙げられる。
【0067】
アミン系硬化剤としては、例えば、芳香族アミン系硬化剤[例えば、ポリアミノアレーン(例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどのジアミノアレーン)、ポリアミノ−アルキルアレーン(例えば、ジエチルトルエンジアミンなどのジアミノ−アルキルアレーン)、ポリ(アミノアルキル)アレーン(例えば、キシリレンジアミンなどのジ(アミノアルキル)アレーン)、ポリ(アミノアリール)アルカン(例えば、ジアミノジフェニルメタンなどのジ(アミノアリール)アルカン)、ポリ(アミノ−アルキルアリール)アルカン(例えば、4,4’−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)などのジ(アミノ−アルキルアリール)アルカン)、ビス(アミノアリールアルキル)アレーン(例えば、1,3−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル)]ベンゼンなど)、ジ(アミノアリール)エーテル(例えば、ジアミノジフェニルエーテルなど)、ジ(アミノアリールオキシ)アレーン(例えば、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなど)、ジ(アミノアリール)スルホン(例えば、ジアミノジフェニルスルホンなど)など]、脂肪族アミン系硬化剤(例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミンなど)、脂環族アミン系硬化剤(例えば、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ノルボルナンジアミンなど)、イミダゾール類(例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのアルキルイミダゾール;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールなどのアリールイミダゾール)又はその塩(例えば、ギ酸塩、フェノール塩、フェノールノボラック塩、炭酸塩など)などが挙げられる。
【0068】
硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0069】
これらのうち、特にアミン系硬化剤(例えば、芳香族アミン系硬化剤)を好適に使用してもよい。
【0070】
硬化剤の割合は、エポキシ樹脂の種類(エポキシ当量など)や硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜300重量部、好ましくは1〜250重量部、さらに好ましくは3〜200重量部(例えば、4〜150重量部)、特に5〜100重量部程度であってもよい。
【0071】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類(例えば、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、トリアルキルホスフィン、フェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなど)、アミン類(例えば、トリエチルアミン、ピペリジン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエチレンジアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルピペラジンなどの第2〜3級アミン類又はその塩など)などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0072】
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.05〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部程度であってもよい。
【0073】
本発明の組成物(又は後述の成形品)において、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)(硬化剤や硬化促進剤を含む場合には、樹脂との総量)の総量に対する樹脂粒子(B)の割合は50重量%以下(例えば0.1〜40重量%程度)の範囲から選択でき、例えば30重量%以下(例えば0.5〜25重量%)、好ましくは20重量%以下(例えば1〜18重量%)、さらに好ましくは15重量%以下(例えば2〜12重量%)程度であってもよく、10重量%以下(例えば0.5〜8重量%、好ましくは1〜5重量%)であってもよい。
【0074】
また、本発明の組成物(又は後述の成形品)において、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)(硬化剤や硬化促進剤を含む場合には、樹脂との総量)の総量に対する、樹脂粒子(B)の割合は、30体積%以下(例えば0.01〜25体積%程度)の範囲から選択でき、例えば、20体積%以下(例えば0.1〜15体積%)、好ましくは10体積%以下(例えば0.3〜8体積%)、さらに好ましくは5体積%以下(例えば0.5〜3体積%)程度であってもよい。
【0075】
本発明では、樹脂粒子(B)の割合が小さくても、強化繊維による補強効果を十分に得ることができる。
【0076】
なお、本発明の組成物(又は後述の成形品)において、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)の総量の割合は、強化繊維(A)100重量部に対して、例えば1〜70重量部、好ましくは2〜50重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度であってもよい。
【0077】
なお、本発明の組成物は、本発明の効果を害しない範囲であれば、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、用途などに応じて適宜選択できるが、例えば、安定剤、充填剤(非繊維状充填剤)、着色剤、分散剤、防腐剤、抗酸化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0078】
なお、本発明の組成物は、導電性粒子を含んでいてもよく、通常、導電性粒子を含んでいなくてもよい。
【0079】
(組成物の形態)
本発明の組成物の形態は、強化繊維(A)、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)(さらには必要に応じて他の成分、以下同じ)を含んでいればよく、通常、強化繊維(A)に、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含む混合物[又は樹脂粒子(B)を含むマトリックス樹脂(C)]が含浸(付着)した形態であってもよい。このような形態は、強化繊維(A)及び樹脂粒子(B)が、マトリックス樹脂(C)中に分散した形態ということもできる。
【0080】
また、このような組成物は、プリプレグ(成形用中間材料)であってもよい。例えば、マトリックス樹脂(C)が熱硬化性樹脂成分[例えば、エポキシ樹脂成分(エポキシ樹脂と硬化剤との組成物など)]である場合、組成物は、半硬化状であってもよい。
【0081】
具体的な形態としては、強化繊維(A)の形状などに応じて選択でき、例えば、(i)同方向(又は一方向)に揃えた複数の強化繊維(A)に、前記混合物が含浸した形態、(ii)布状の強化繊維(A)に前記混合物が含浸した形態などが挙げられる。なお、(i)の形態の組成物のうち、プリプレグとしては、UDプリプレグなどとして、(ii)の形態の組成物のうち、プリプレグとしては、クロスプリプレグなどとして知られている。
【0082】
(組成物の製造方法)
このような組成物は、半結晶性熱可塑性樹脂とこの樹脂に非相溶な水性媒体とを溶融混練した後、得られた溶融混練物から親水性溶媒で前記水性媒体を除去して樹脂粒子(B)を得る樹脂粒子製造工程、強化繊維(A)に、得られた樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含浸させる含浸工程を経て得られる。
【0083】
前記樹脂粒子製造工程において、樹脂粒子(B)は、前記水性媒体と溶融混練する慣用の強制乳化法によって得られる。本発明では、強制乳化法によって粒子状に成形した後、従来の方法とは異なる条件(特に、低温での乾燥処理など)で調製することにより、特定の結晶化度を有する半結晶性樹脂粒子が得られる。強制乳化法としては、慣用の方法、例えば、特開2010−132811号公報に記載の方法などを利用できる。
【0084】
前記水性媒体としては、半結晶性熱可塑性樹脂の種類に応じて選択でき、例えば、熱溶融性の糖類(スクロース、マルトトリオースなどのオリゴ糖;キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコールなど)、水溶性高分子(ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドなどの水溶性合成高分子;デンプン、メチルセルロースなどの多糖類など)などが挙げられる。これらの水性媒体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0085】
半結晶性熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂(特に脂環族ポリアミド樹脂)である場合、水性媒体は、水溶性高分子(例えば、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどの水溶性合成高分子)であってもよく、例えば、ポリエチレングリコールであれば、日油(株)製の「PEG−20000」、「PEG−11000」、「PEG−1000」、「PEG−200」などを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。水性媒体の粘度は、強制乳化法で得られる樹脂粒子の粒径を制御するためのひとつの因子であり、粘度の選択は、目的とする粒径、半結晶性熱可塑性樹脂の種類や分子量、半結晶性熱可塑性樹脂と水性媒体との体積比やコンパウンド時のシェアレート(剪断速度)などによって異なり、これらの条件を組み合わせて調整してもよい。水性媒体としては、適度な粒径に調整し易い点から、特に、ポリエチレングリコールであってもよい。
【0086】
水性媒体の重量割合は、半結晶性熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば10〜100重量部、好ましくは20〜100重量部、さらに好ましくは30〜100重量部程度であってもよい。水性媒体の体積割合は、水性媒体及び半結晶性熱可塑性樹脂の総体積に対して50体積%以上(例えば50〜90体積%程度)であってもよい。水性媒体の割合が多すぎると、生産性が低下する虞があり、逆に少なすぎると、小粒径の樹脂粒子を製造するのが困難となる虞がある。
【0087】
溶融混練温度は、半結晶性熱可塑性樹脂の融点又は軟化点以上の温度であればよく、半結晶性熱可塑性樹脂の種類に応じて選択でき、例えば、脂環族ポリアミド樹脂の場合、例えば250℃以上(例えば250〜350℃)、好ましくは260〜320℃、さらに好ましくは270〜300℃程度である。
【0088】
溶融混練後の冷却方法は、特に限定されないが、生産性の点から、半結晶性熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂(特に脂環族ポリアミド樹脂)である場合、強制的に冷却(急冷)するのが好ましく、例えば、冷却速度は1℃/分以上(例えば1〜10℃/分程度)であってもよい。固化後の乾燥条件(加熱)に比べると、樹脂粒子の結晶性に対する影響は小さいが、結晶化速度の遅いポリアミド樹脂(例えば、脂環族ポリアミド樹脂)の場合、強制的に冷却してもよい。
【0089】
冷却した混練物から水性媒体を除去する方法は、親水性溶媒を用いた方法が利用され、通常、親水性溶媒で洗浄することにより、水性媒体を除去する。親水性溶媒としては、例えば、水、アルコール(エタノールなどの低級アルコールなど)、水溶性ケトン(アセトンなど)などを好ましく利用できる。
【0090】
水性媒体を除去して得られた樹脂粒子の乾燥方法においても、過度の結晶化を抑制する点から、低温で乾燥するのが好ましい。樹脂粒子の結晶化度は、樹脂及び水性媒体の種類、プロセス温度、冷却方法、水性媒体除去後の乾燥方法などにより変化する。こられの因子の組み合わせは多様であり、低い結晶化度の半結晶性樹脂を得るための条件は、単純に規定するのは困難であるが、これらの因子のうち、乾燥方法による影響が特に大きい。
【0091】
乾燥温度は、半結晶性熱可塑性樹脂の種類に応じて選択でき、半結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、(Tg+40)℃以下であってもよく、例えば(Tg+30)℃以下、好ましくは(Tg+20)℃以下、さらに好ましくは(Tg+10)℃以下であり、特に、減圧下でガラス転移温度以下の温度であってもよい。具体的には、例えば、半結晶性熱可塑性樹脂が脂環族ポリアミド樹脂である場合、乾燥温度はガラス転移温度以下であってもよく、例えば(Tg−50)℃〜Tg℃、好ましくは(Tg−30)℃〜(Tg−10)℃程度であってもよい。また、脂肪族ポリアミド樹脂である場合、乾燥温度はガラス転移温度以下であってもよく、例えばTg℃〜(Tg+40)℃、好ましくは(Tg+10)℃〜(Tg+35)℃程度であってもよい。
【0092】
含浸工程では、強化繊維(A)、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を混合して製造でき、通常、強化繊維(A)に、樹脂粒子(B)及びマトリックス樹脂(C)を含む混合物を含浸(又は付着)して製造できる。
【0093】
具体的な含浸方法としては、(a)強化繊維(A)に液状の混合物を含浸させる方法、(b)混合物で形成されたシート状物と強化繊維(A)とを加圧下で接触させる方法などが挙げられる。
【0094】
方法(a)において、液状の混合物は、液状(常温で液状)のマトリックス樹脂(C)を用いてもよく、適当な溶媒(樹脂粒子(B)に対する貧溶媒)を用いて得てもよい。また、マトリックス樹脂(C)を溶融させることで、液状の混合物を得ることもできる。
【0095】
[成形品]
本発明には、前記組成物の成形品(前記組成物で形成された成形品)も含まれる。このような成形品は、強化繊維(A)と、この強化繊維(A)を分散させるマトリックス樹脂(C)とを含んでいるため、複合材料[繊維強化複合材料(特に炭素繊維複合材料)]ということもできる。
【0096】
成形品の製造方法(成形方法)としては、前記組成物の形態や構成成分の種類などに応じて選択できる。例えば、マトリックス樹脂(C)が熱硬化性樹脂成分である場合には、前記組成物(詳細には、所望の成形品の形状に形成した前記組成物)を、硬化処理することで、成形品を得ることができる。すなわち、このような成形品は、マトリックス樹脂(C)が熱硬化性樹脂成分であり、前記組成物の硬化処理品ということができる。また、熱硬化性樹脂成分が、未硬化であるか、半硬化であるかなどに応じて、成形法を選択することもできる。成形品の形状は、一次元的形状(棒状など)、二次元的形状(シート状など)、三次元的形状のいずれであってもよい。
【0097】
具体的な成形方法としては、ハンドレイアップ成形法、SMC(シートモールディングコンパウンド)プレス成形法、RIMP(レジンインフュージョン)成形法、プリプレグプレス成形法、プリプレグオートクレーブ法、ワインディング法(フィラメントワインディング法、ピンワインディング成形法など)、引抜成形法、BMC(バルクモールディングコンパウンド)成形法などが挙げられる。
【0098】
以上のようにして、成形品が得られる。このような本発明の成形品(又は組成物)では、樹脂粒子(B)により、強化繊維(A)による補強機能(例えば、層間靱性など)を高めることができる。特に、本発明では、特定の形状及び粒径を有する樹脂粒子(B)により、効率よく強化繊維(A)を補強できるようであり、樹脂粒子(B)の割合が比較的小さくても、十分な補強機能を実現できる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した材料の略号は下記の通りであり、実施例及び比較例で得られた樹脂粒子及び試験片を以下の項目で評価した。
【0100】
[材料]
脂環族PA:脂環族ポリアミド、ダイセル・エボニック(株)製「トロガミドCX7323」、融点247℃
【0101】
脂環族PA粒子:以下に示す化学粉砕法(溶媒に溶解した後、再析出させてパウダー化させる方法)で得られたポリアミド12粒子
1000mLの耐圧ガラスオートクレーブの中に、脂環族ポリアミド(ダイセル・エボニック(株)製「トロガミドCX7323」)18g、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製「ゴーセノールGM−14」)32g、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン300gを加え、99体積%以上の窒素置換を行った後、180℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで4時間攪拌を行った。その後、送液ポンプを経由して、3g/分のスピードで貧溶媒として350gのイオン交換水を滴下した。約200gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後、攪拌したまま温度を下げ、得られた懸濁液を濾過し、イオン交換水700gを加えてスラリー洗浄し、濾別した濾過物を80℃で10時間真空乾燥し、約17gの白色固体を得た。
【0102】
PA12:ポリアミド12、ダイセル・エボニック(株)製「ベスタミドL1600」
PA12粒子:化学粉砕法で得られたポリアミド12粒子、ダイセル・エボニック(株)製「ベストジント2158」
PA1010:ポリアミド1010、ダイセル・エボニック(株)製「ベスタミド テラBS1393」
非晶性PA:芳香族ポリアミド、ダイセル・エボニック(株)製「トロガミドT5000」
マトリックス樹脂:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「jER828」)とアミン系硬化剤(三菱化学(株)製、「jERキュアW」)との混合物
炭素繊維:HONLU TECHNOLOGY CO.LTD製「TC−33」、平均繊維径約7μm。
【0103】
[平均粒径]
得られた樹脂粒子を水に分散し、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製「LA920」)を用いて測定した。
【0104】
[結晶化のピーク(DSC)]
得られた樹脂粒子について、示差走査熱量計(SII(株)製「X−DSC7000」)を用いて、室温から300℃まで10℃/分で昇温し、その間(ガラス転移温度と融点との間)に結晶化のピークが観測できるか否かを確認した。
【0105】
[広角X線回折(WAXD)]
全自動・試料水平型多目的X線回折測定装置((株)リガク製「SmartLab」)を用いて、水平円卓型試料台上の中央部に、得られた樹脂粒子を置き、パッケージ測定プログラム「汎用(集中法)」を実行して、以下の測定条件で集中法によるX線回折パターンを測定した。
【0106】
(測定条件)
1次X線源:Cuを対陰極とする回転対陰極型線源(加速電圧−電流:45kV−200mA)
走査ステップ:0.02°
走査速度:4°/min(2θ)。
【0107】
[結晶化度]
粉末X線解析ソフトウェア((株)リガク製「PDXL Ver2.3.1.0」)を用いて、広角X線回折で得られた回折曲線にフィッティング(方法:FP法、ピーク形状:対数正規分布、バックグラウンド精密化:なし)を行うことにより結晶回折ピーク、非晶質ハロを分離し、以下の式から結晶化度(%)を求めた。
【0108】
結晶化度=[結晶回折ピークの積分強度総和(cps・deg)]/[結晶回折ピーク及び非晶質ハロの積分強度総和(cps・deg)]×100%。
【0109】
[層間破壊靱性試験]
得られた試験片Aについて、JIS K7086−1993に準拠して、き裂進展初期のモードI層間破壊靱性値(GIC)を測定した。
【0110】
[切削ノッチ付きシャルピー衝撃強度]
得られた試験片Bについて、ISO179/1eAに準拠して、試験温度23℃でシャルピー衝撃強度を測定した。
【0111】
実施例1
(樹脂粒子の製造)
ポリエチレングリコールを用いて、特開2010−132811号公報の実施例に準じ、強制乳化法で脂環族PAを微粒子化した。押出機のダイから押し出された溶融混練物に対して、スポットクーラーを用いて強制的に冷却した後、水洗によりポリエチレングリコールのみを除き、温度120℃で減圧乾燥により24時間乾燥させ樹脂粒子(パウダー)を得た。樹脂粒子の平均粒径は21μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測された。DSCによるチャート(吸音曲線)を図1に示す。図1から明らかなように、170℃前後で結晶化による大きなピークを確認でき、結晶化度も低いため、得られた粒子が低結晶性であることが確認できる。
【0112】
(試験片Aの作製)
マトリックス樹脂に対して、5重量%で樹脂粒子を添加し、ホットスターラーを用いて、100℃、600rpmの条件で24時間攪拌した。その後、さらに、真空容器中で1時間放置することで脱泡し、樹脂粒子を含むマトリックス樹脂を得た。
【0113】
さらに、ハンドレイアップ法により、炭素繊維を用いて作製した織物(平織)に、得られた樹脂粒子を含むマトリックス樹脂を含浸させた後、新たな前記織物を積層して前記マトリックス樹脂を含浸させる操作を繰り返して12層の積層物を得た。
【0114】
積層物は、それぞれの割合について、2種類、すなわち織物を12層積層した積層物と、織物12層及びポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン」)1層の合計13層を積層した積層物(予亀裂を入れるために、6層目積層時に、厚み25μmのポリイミドフィルムを挿入した積層物)とを作製した。
【0115】
各積層物を、約8MPaの圧力を負荷した状態で恒温槽に入れ、100℃で2時間および175℃で4時間放置し、硬化処理を行った。なお、得られた硬化物の厚みは、約2.8mmであった。また、ポリイミドフィルムを含む積層物は、硬化後に、ポリイミドフィルムを引き抜いた。その後、ダイアモンドカッターで、長さ140mm×幅25mm×厚み2.8mmの形状に切削した。
【0116】
(試験片Bの作製)
マトリックス樹脂に対して、20重量%で樹脂粒子を添加し、ISO179/1eAに準拠した形状の試験Bを製造した。
【0117】
比較例1
樹脂粒子として、化学粉砕法で得られた脂環族PA粒子を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は23μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測されなかった。DSCによるチャート(吸音曲線)を図2に示す。図2から明らかなように、170℃前後で結晶化によるピークは確認できず、得られた粒子が高結晶性であることが確認できた。
【0118】
また、実施例1及び比較例1で得られた脂環族ポリアミド粒子の広角X線のチャートを図3に示す。図3から明らかなように、実施例1で得られた脂環族ポリアミド粒子が緩やかな山形状であり、結晶性が低く、結晶形までは確認できなかったのに対して、比較例1で得られた脂環族ポリアミド粒子では、2θ=17.3°及び2θ=19.7°に急峻なピークが2つあるα型結晶構造を示し、結晶化度も高いため、結晶性が高いことが確認できた。
【0119】
比較例2
樹脂粒子の製造において、スポットクーラーを使用せずに溶融混練物を自然放冷し、ポリエチレングリコールを除去後に、減圧乾燥せずに180℃で3時間加熱して乾燥する以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は23μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測されず、結晶化度も高かった。
【0120】
実施例2
樹脂粒子の製造において、脂環族PA及びポリエチレングリコールの代わりに、PA12及び糖を用いて、スポットクーラーを使用せずに溶融混練物を自然放冷し、糖を除去後に、減圧乾燥せずに80℃で3時間加熱して乾燥する以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は20μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測された。DSCによるチャート(吸音曲線)を図4に示す。図4から明らかなように、170℃前後で結晶化によるピークを確認できた。また、広角X線のチャートを図5に示す。図5から明らかなように、得られたPA12粒子は、2θ=21.5°に1つのピークを有するγ型結晶構造であることを確認できた。
【0121】
比較例3
樹脂粒子として、化学粉砕法で得られたPA12粒子を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は24μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測されなかった。DSCによるチャート(吸音曲線)を図6に示す。図6から明らかなように、170℃前後で結晶化によるピークは確認できなかった。また、広角X線のチャートを図7に示す。図7から明らかなように、比較例3で得られたPA12粒子は、2θ=20.6°及び2θ=22.3°に2つのピークを有するα型結晶構造であることを確認できた。
【0122】
実施例3
樹脂粒子の製造において、脂環族PA及びポリエチレングリコールの代わりに、PA1010及び糖を用いて、スポットクーラーを使用せずに溶融混練物を自然放冷し、糖を除去後に、減圧乾燥せずに80℃で3時間加熱して乾燥する以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は22μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測された。また、広角X線のチャートを図8に示す。図8から明らかなように、実施例3で得られたPA1010粒子は、2θ=20.4°及び2θ=23.6°に2つのピークを有するα型結晶構造であることを確認できた。
【0123】
比較例4
化学粉砕法でPA1010を微粒子化した。得られた微粒子を用いて実施例1と同様の方法で試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は18μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測されなかった。また、広角X線のチャートを図9に示す。図9から明らかなように、比較例4で得られたPA1010粒子は、2θ=20.0°及び2θ=24.1°に2つのピークを有するα型結晶構造であることを確認できたが、結晶化度は実施例3で得られたPA1010粒子よりも高かった。
【0124】
実施例4
樹脂粒子の製造において、ポリエチレングリコールの代わりに、ポリビニルアルコールを用いる以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は11μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測された。
【0125】
実施例5
樹脂粒子の製造において、脂環族PA及びポリエチレングリコールの代わりに、PA12及び糖を用いて、スポットクーラーを使用せずに溶融混練物を自然放冷し、糖を除去後に、減圧乾燥せずに80℃で3時間加熱して乾燥する以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は5μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測された。
【0126】
比較例5
樹脂粒子の製造において、脂環族PAの代わりに、非晶性PAを用いて、ポリエチレングリコール除去後に、減圧乾燥により140℃で24時間乾燥する以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。樹脂粒子の平均粒径は19μmであり、DSCによる10℃/分の昇温条件で結晶化のピークが観測されなかった。
【0127】
比較例6
樹脂粒子を使用せずに試験片を製造した。
【0128】
実施例及び比較例で得られた樹脂粒子及び試験片を評価した結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1の結果から明らかなように、実施例では、樹脂粒子が結晶化ピークを有し、層間靱性及び衝撃強度も高いのに対して、比較例では、樹脂粒子が結晶化ピークを有さず層間靱性も低い。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の樹脂組成物は、繊維強化複合材料用の組成物として利用できる。このような複合材料は、種々の分野における構造部材(構造材料)、例えば、乗り物(例えば、飛行機、ヘリコプター、ロケット、自動車、バイク、自転車、電車、船、車いすなど)、人工衛星、風車、スポーツ用品(ゴルフのシャフト、テニスラケット)、筐体(ノートパソコンの筐体など)、医療分野の成形品(人工骨など)、ICトレイ、つり竿、橋脚などに適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9