【文献】
崎元謙一、三浦友史、伊瀬敏史,仮想同期発電機によるインバータ連系形分散電源の並列運転特性,電気学会論文誌B 電力・エネルギー部門誌,日本,電気学会,2013年 2月 1日,Vol.133 NO.2,186〜194ページ
【文献】
龍建儒、新帯俊信、柿ヶ野浩明、三浦友史、伊瀬敏史,仮想同期発電機を用いた家庭用分散形電源の商用系統連系・解列の無瞬断切り替え制御,電気学会論文誌B 電力・エネルギー部門誌,日本,電気学会,2013年 5月 1日,Vol.133 No.5,430〜438ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルタ部は、前記一次遅れ演算を施した値が所定の制限範囲内となるよう制限する制限手段を有するよう構成されている、請求項3または4に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0024】
(実施形態)
〔全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係る電力変換装置が適用されるシステムの一例を示す概略ブロック図である。
【0025】
本実施形態の電力変換装置1は、交流電路である交流電源系統(母線)2と電動発電機3との間に接続されている。交流電源系統2には、少なくとも1つの電力負荷4と、少なくとも1つの原動機発電機5とが接続されている。また、交流電源系統2には、商用電力系統6が接続されていてもよいし、二次電池等の蓄電設備(図示せず)が接続されていてもよい。このように、電力変換装置1が接続される交流電源系統2は、商用電力系統6と連系をしていてもよいし、商用電力系統6と連系をしていない自立電源系統であってもよい。
【0026】
ここで、電動発電機3の機械軸3aには、モータ、フライホイール、クランク軸、原動機、減速機、増速機、車輪、プロペラ等のいずれかが接続される。なお、電動発電機3は、同期機(同期電動発電機)でもよいし、誘導機(誘導電動発電機)でもよい。
【0027】
また、電力変換装置1、電力負荷4、原動機発電機5及び商用電力系統6の各々には、異常等が生じたときに、交流電源系統2から切り離す遮断器S1,S4,S5,S6が設けられてあってもよい。
【0028】
図2は、本実施形態の電力変換装置1のより具体的な適用例を示す概略ブロック図である。
【0029】
この場合、交流電源系統2(以下、「電源系統2」と記載)は、船舶内における電源系統であり、通常、電源系統2には、例えばディーゼル発電機からなる発電機7が運転されることによって、船内の電力負荷4に電力が供給される。また、図示されていないが、
図1と同様の遮断機(S1等)が設けられてあってもよい。
【0030】
ここでは、電動発電機3の機械軸3aには減速機8の主軸が連結されている。図示していないが、この減速機8は、例えば、船舶のメインエンジン(原動機)に連結されるとともに、船舶を推進させるプロペラに連結されており、メインエンジンおよび/または電動発電機3の動力によってプロペラを回転させるようになっている。
【0031】
電力変換装置1は、電源系統2と電動発電機3との間に設けられ、電源系統2に接続された系統側変換装置101と、電動発電機3に接続された回転機側変換装置102と、これらを接続する直流配線104の配線間に蓄電装置103が接続されている。蓄電装置103としては、コンデンサが例示されているが、2次電池でもよい。
【0032】
系統側変換装置101は、系統側電力変換器11と、これを制御する系統側制御器12と、系統側三相の各相(r相、s相、t相)の電圧Vr,Vs,Vtを検出する電圧センサ(電圧測定用PT)を用いた電圧検出部13と、系統側三相の各相(r相、s相、t相)の電流ir,is,itを検出する電流センサ(電流測定用PC)を用いた電流検出部14とを備えている。電圧検出部13で検出される系統側三相電圧Vr,Vs,Vtと、電流検出部14で検出される系統側三相電流ir,is,itとは、系統側制御器12に入力される。
図1では、電圧検出部13及び電流検出部14の図示を省略している。
【0033】
また、回転機側変換装置102は、系統側電力変換器11と直流配線104で接続された回転機側電力変換器16と、これを制御する回転機側制御器17と、蓄電装置104の正負両端子間の直流電圧V
DCを検出する電圧検出部18とを備えている。電圧検出部18で検出される直流電圧V
DCは、回転機側制御器17に入力される。
【0034】
系統側制御器12及び回転機側制御器17は、それぞれ、FPGA(field-programmable gate array)、PLC(programmable logic controller)、マイクロコントローラ等の制御装置で構成されている。なお、系統側制御器12と回転機側制御器17とが共通(単一)の制御装置で構成されていてもよい。
【0035】
また、系統側制御器12及び回転機側制御器17には、外部の上位制御系である統括制御装置9から、後述の有効電力指令値P
*などの電力変換装置1の運転状態を変更するための指令等が入力される。
【0036】
〔系統側変換装置101の詳細〕
系統側電力変換器11は、例えば、それぞれ逆並列接続されたダイオードを備えた6個のスイッチング素子により構成されている。この電力変換器11は、半導体素子で形成され、各スイッチング素子には例えばIGBTが用いられる。
【0037】
系統側制御器12は、上記それぞれのスイッチング素子の制御端子(例えばIGBTのゲート端子)に入力される制御信号(PWM信号)を電力変換器11へ出力し、各スイッチング素子をオンオフ動作させることにより、電力変換器11をインバータあるいはコンバータとして機能させる。
【0038】
次に、系統側制御器12の構成について詳述する。
図3は、系統側制御器12の機能ブロック図である。なお、以下では、加算器、減算器及び加減算器を区別せずに、加減算器と記載する(
図4の説明においても同様)。
【0039】
系統側制御器12は、PWM変換部20と、発電機モデル30と、AVRモデル40及びガバナモデル50を有する発電機制御モデル65と、PLL演算部61と、dq変換部62、63と、電圧実効値演算部64とを備えている。これらは、系統側制御器12が、それに内蔵されるプログラムが実行されることにより実現される機能である。
【0040】
この系統側制御器12は、系統側電力変換器11が電源系統2に対して仮想の同期発電機(以下、「仮想発電機」ともいう)として動作するよう電力変換器11を制御するように構成されている。
【0041】
発電機モデル30は、電動機としての動作も可能にした同期発電機本体をモデル化したものである。発電機制御モデル65は、同期発電機の機能を所定の演算パラメータを用いてモデル化した制御モデル(演算ブロック)である。発電機制御モデル65は、同期発電機を制御するガバナ及びAVRをそれぞれモデル化した制御モデルであり、ガバナモデル及びAVRモデルを含むものであればよい。また、発電機モデル30としては、周知のものを用いることができ、例えばParkモデル等を用いることができる。
【0042】
PLL演算部61は、電圧検出部13で検出される系統側三相電圧Vr,Vs,Vtを用いて、系統側電圧の位相θ及び角速度ωを算出する、位相及び角速度演算部である。このPLL演算部61は、三相電圧Vr,Vs,Vtから、線間電圧を算出し、これらの値を用いてPLL演算等を行い、系統側電圧の位相θ及び角速度ωを算出する。このようなPLL演算部61は、例えば、先述の特許文献2(特開2012−130146号公報)等に開示されており周知であるので、ここでの詳細は省略する。
【0043】
dq変換部62には、電圧検出部13で検出された系統側三相電圧(電力変換器11の出力電圧)Vr,Vs,Vtと、PLL演算部61で算出された系統側電圧位相θとが入力される。そして、dq変換部62は、系統側電圧位相θを用いて、三相電圧Vr,Vs,Vtをdq変換し当該電圧のd軸成分V
d及びq軸成分V
qを算出する。
【0044】
また、dq変換部63には、電流検出部14で検出された系統側三相電流(電力変換器11の出力電流)ir,is,itと、PLL演算部61で算出された系統側電圧位相θとが入力される。そして、dq変換部63は、系統側電圧位相θを用いて、三相電流ir,is,itをdq変換し当該電流のd軸成分i
d及びq軸成分i
qを算出する。
【0045】
また、電圧実効値演算部64は、系統側電圧実効値V
gを、dq変換部62において算出されるV
q,V
dから次式を用いて算出する。
【0047】
また、図示していないが、系統側制御器12は、電力算出部を有し、この電力算出部では、系統側三相電圧Vr,Vs,Vt及び電流ir,is,itに基づく系統側へ出力される有効電力P及び無効電力Qを算出し、有効電力Pをガバナモデル50へ与え、無効電力QをAVRモデル40へ与える。ここで、電力算出部は、例えば、以下の式によって系統側有効電力P及び無効電力Qを算出するようにしてもよい。
【0049】
また、ガバナモデル50は、外部(統括制御装置9)から入力される有効電力指令値P
*に対する有効電力Pの偏差と、ガバナの速度垂下特性を持たせる制御と、角速度指令値ω
*に対するPLL演算部61で算出された角速度ωの偏差とに基づいて、仮想発電機の内部相差角δを算出する。なお、角速度指令値ω
*は、外部(統括制御装置9)から入力されてもよいし、あるいはガバナモデル50の内部に持っていてもよい。角速度指令値ω
*は、例えば周波数60Hzに相当する所定の角速度(角速度基準値)であり、上記速度垂下特性は、例えば定格有効電力出力時、周波数60Hzの5%に相当する周波数低下を有する。
【0050】
具体的には、ガバナモデル50において、加減算器51は、有効電力指令値P
*から有効電力Pを減算して偏差を算出し、この偏差をドループブロック52へ出力する。ドループブロック52は、加減算器51の出力に対しガバナの速度垂下特性に応じて所定の演算が施された値(例えば実定数のゲインK
gdを掛けたもの)をローパスフィルタ部53へ出力する。ローパスフィルタ部53は、ドループブロック52の出力に一次遅れを付与して、これを加減算器54へ出力する。一次遅れを付与する理由は、有効電力偏差に対する応答が過敏になることを防止するためである。
【0051】
一方、加減算器55では、角速度指令値ω
*からPLL演算部61で算出された角速度ωを減算して角速度偏差を算出し、これをハイパスフィルタ部56へ出力する。
【0052】
ハイパスフィルタ部56へ入力された角速度偏差は、上下限リミッタ57と加減算器59へ入力される。入力された角速度偏差は、上下限リミッタ57により、上限値(例えば、0×2π)及び下限値(例えば、−2×2π)が定められた制限範囲内に制限され、一時遅れフィルタ部58へ入力される。そして、一時遅れフィルタ部58で一次遅れが付与されて加減算器59に入力される。加減算器59では、加減算器55から出力される角速度偏差から、一時遅れフィルタ部58の出力を減算し、その減算値を加減算器54へ出力する。
【0053】
加減算器54では、ローパスフィルタ部53の出力から加減算器59の出力(=ハイパスフィルタ部56の出力)を減算し、この減算値が積分器60へ入力され、積分器60で積分されて内部相差角δが算出される。この内部相差角δが、発電機モデル30へ出力される。
【0054】
AVRモデル40は、無効電力指令値Q
*に対する無効電力Qの偏差と、AVRの電圧垂下特性を持たせる制御と、電圧実効値指令値V
g*(以下、「出力電圧指令値V
g*」ともいう)と、系統側電圧実効値V
gとに基づいて、内部誘起電圧E
fを算出する。なお、無効電力指令値Q
*は外部(統括制御装置9)から入力される。出力電圧指令値V
g*は、外部(統括制御装置9)から入力されてもよいし、あるいはAVRモデル40の内部に持っていてもよい。出力電圧指令値V
g*は、例えば202Vの所定値(交流電圧基準値)である。また、電圧実効値演算部64から系統側電圧実効値V
gが入力される。
【0055】
具体的には、AVRモデル40において、加減算器41は、無効電力指令値Q
*から無効電力Qを減算した値(無効電力偏差)をドループブロック42へ出力する。ドループブロック42は、加減算器41の出力に対しAVRの垂下特性に応じて所定の演算が施された値(例えば実定数のゲインK
adを掛けたもの)をローパスフィルタ部43へ出力する。ローパスフィルタ部43は、ドループブロック42の出力に一次遅れを付与して、これを加減算器44へ出力する。一次遅れを付与する理由は、無効電力偏差に対する応答が過敏になることを防止するためである。
【0056】
一方、出力電圧指令値V
g*が加減算器44に入力される。加減算器44は、ローパスフィルタ部43の出力と出力電圧指令値V
g*とを加算し、更にその加算値から系統側電圧実効値V
gを減算した値(無効電力偏差を加味した電圧偏差)を、PI制御ブロック45へ出力する。PI制御ブロック45は、加減算器44の出力に比例積分補償を行って内部誘起電圧E
fを算出し、これを発電機モデル30へ出力する。
【0057】
発電機モデル30は、仮想発電機として同期発電機を模擬している。ここで、仮想発電機は、仮想発電機の界磁による内部誘起電圧E
fと、仮想発電機の内部インピーダンス(電機子の巻線リアクタンスx及び巻線抵抗r)と、仮想発電機の出力電圧V
g(複素電圧ベクトル)及び出力電流I(複素電流ベクトル)と、を用いてモデル化される。
【0058】
図5は、仮想発電機の1相分の等価回路における内部誘起電圧E
fと出力電圧V
gと出力電流(電流指令値I
*)との関係を表すフェーザ図である。
【0059】
発電機モデル30は、ガバナモデル50で算出された内部相差角δと、AVRモデル40で算出された内部誘起電圧E
fと、dq変換部62で算出された出力電圧のd軸成分V
d及びq軸成分V
qと、所与の内部インピーダンスr,xとに基づいて、仮想発電機の出力電流の指令値I
*(q軸電流指令値i
q*及びd軸電流指令値i
d*)を算出する。
【0060】
より具体的には、発電機モデル30において、演算部31は、内部相差角δからsinδを求めて乗算器32へ出力し、乗算器32では、sinδと内部誘起電圧E
fとの乗算値E
qを算出する。さらに加減算器33は、乗算値E
qからq軸成分V
qを減算し、その減算値ΔV
q(=E
fcosδ−V
q)を演算部36へ出力する。
【0061】
また、演算部31は、内部相差角δからcosδを求めて乗算器34へ出力し、乗算器34では、cosδと内部誘起電圧E
fとの乗算値E
dを算出する。さらに加減算器35は、乗算値E
dからd軸成分V
dを減算し、その減算値ΔV
d(=E
fcosδ−V
d)を演算部36へ出力する。
【0062】
そして、演算部36によって、q軸電流指令値i
q*及びd軸電流指令値i
d*が算出される。
【0063】
すなわち、発電機モデル30では、以下の関係式を用いて、q軸電流指令値i
q*及びd軸電流指令値i
d*が算出され、PWM変換部20へ出力される。
【0065】
上記関係式のうち、i
q*の算出式とi
d*の算出式とによる演算が、演算部36で行われる。この発電機モデル30は、電流フィードバック制御の指令値を演算する制御モデルとして構成されている。
【0066】
次に、PWM変換部20は、発電機モデル30で算出された電流指令値(i
q*、i
d*)と電源系統2へ出力される交流電流のフィードバック値(i
q、i
d)との偏差を零にするための電圧指令値を算出し、この電圧指令値をPWM信号に変換して系統側電力変換器11へ出力する。すなわち、発電機モデル30で演算された出力電流の指令値I
*(i
q*、i
d*)に対応する電流を出力するよう電力変換器11を制御する。具体的には、PWM変換部20は、加減算器21、22と、PI制御ブロック23、24と、dq逆変換部25と、PWM信号生成部26とを含む。
【0067】
加減算器21は、発電機モデル30から入力されるd軸電流指令値i
d*から、dq変換部63から入力される出力電流のd軸成分i
dを減算してd軸誤差電流を算出し、これをPI制御ブロック23(d軸電流制御器)に出力する。PI制御ブロック23は、d軸誤差電流に比例積分補償を施してd軸電圧指令値V
d*を算出し、これをdq逆変換部25に出力する。
【0068】
一方、加減算器22は、発電機モデル30から入力されるq軸電流指令値i
q*から、dq変換部63から入力される出力電流のq軸成分i
qを減算してq軸誤差電流を算出し、これをPI制御ブロック24(q軸電流制御器)に出力する。PI制御ブロック24は、q軸誤差電流に比例積分補償を施してq軸電圧指令値V
q*を算出し、これをdq逆変換部25に出力する。
【0069】
dq逆変換部25は、系統側電圧位相θを用いて、d軸電圧指令値V
d*及びq軸電圧指令値V
q*をdq逆変換して、系統側三相電圧出力指令値Vr
*,Vs
*,Vt
*を生成し、これをPWM信号生成部26に出力する。
【0070】
PWM信号生成部26は、この三相電圧出力指令値Vr
*,Vs
*,Vt
*をPWM信号に変換して、これを系統側電力変換器11に出力する。これにより、電力変換器11の出力電流が、発電機モデル30で演算されたd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*に対応する電流になるようにフィードバック制御される。
【0071】
〔回転機側変換装置102の詳細〕
図4は、回転機側変換装置102の詳細を示すブロック図である。
【0072】
回転機側電力変換器16は、3つの単相インバータ16x、16y、16zにより構成され、各相の単相インバータ16x、16y、16zは、それぞれ逆並列接続されたダイオードを備えた4個のスイッチング素子により構成されている。この電力変換器16は、半導体素子で形成され、各スイッチング素子には例えばIGBTが用いられる。各々の単相インバータ16x、16y、16zは、その各々の直流部に、蓄電装置103の両極端子と接続された直流配線104が接続されている。
【0073】
また、単相インバータ16x、16y、16zの出力線(交流側配線)は、電動発電機3に接続されており、各出力線の電流値(各相の電流ix、iy、iz)が電流センサ19x、19y、19zによって検出され、回転機側制御器17のdq変換部87へ入力される。
【0074】
電動発電機3が同期電動発電機の場合には、磁極位置センサが設けられている。この磁極位置センサで検出される磁極位置(角度)θ
MG1は、回転機側制御器17のdq変換部87及びdq逆変換部88へ入力される。また、角速度算出部(図示せず)により、磁極位置(角度)θ
MG1から電動発電機3の機械角速度ωrm_MG1が算出され、その機械角速度ωrm_MG1は、回転機側制御器17の演算部74,75及び換算部(図示せず)へ入力される。この換算部に入力された機械角速度ωrm_MG1は、電気角速度ωre_MG1に換算されて干渉成分補正回路80の乗算器82へ入力される。
【0075】
また、電動発電機3が誘導電動発電機の場合には、角速度センサが設けられている。この角速度センサで検出される機械角速度ωrm_MG1が演算部74,75へ入力される。また、機械角速度ωrm_MG1は、図示しない換算部によって、電気角速度ωre_MG1に換算されて乗算器82へ入力される。また、図示しない算出部によって、機械角速度ωrm_MG1から磁極位置(角度)θ
MG1が算出されて、dq変換部87及びdq逆変換部88へ入力される。
【0076】
回転機側制御器17は、単相インバータ16x、16y、16zのそれぞれのスイッチング素子の制御端子(例えばIGBTのゲート端子)に入力されるPWM信号(PWM_X_cmd, PWM_Y_cmd, PWM_Z_cmd )を出力し、各スイッチング素子をオンオフ動作させることにより、電力変換器16をインバータあるいはコンバータとして機能させる。
【0077】
次に、回転機側制御器17の構成について詳述する。
図4では、回転機側制御器17の機能ブロックが示されている。直流電圧V
DCは、
図2の電圧検出部18から入力される蓄電装置104の計測電圧である。直流電圧設定値V
*DCは、回転機側制御器17に予め保持(記憶)されている。また、回転機側制御器17に入力される有効電力指令値P
*は、
図3の系統側制御器12に入力される有効電力指令値P
*と同じものであり、外部(統括制御装置9)から入力される。
【0078】
回転機側制御器17のdq変換部87は、磁極位置(角度)θ
MG1を用いて、電流センサ19x、19y、19zによって検出されるX相、Y相、Z相の電流ix、iy、izをdq変換して、出力電流のq軸成分i
q_MG1及びd軸成分i
d_MG1を算出し、これらを干渉成分補正回路80へ出力するとともに、q軸成分i
q_MG1を加減算器78へ出力し、d軸成分i
d_MG1を加減算器76へ出力する。
【0079】
干渉成分補正回路80では、乗算器82が、電動発電機3の電気角速度ωre_MG1と、d軸インダクタンス81(所定値L
d)とを乗算し、その値を乗算器83,84へ出力する。乗算器83では、乗算器82の出力値とq軸成分i
q_MG1とを乗算し、その値を加減算器85へ出力する。一方、乗算器84では、乗算器82の出力値とd軸成分i
d_MG1とを乗算し、その値を加減算器86へ出力する。
【0080】
そして、加減算器85で、後述のPI制御ブロック77の出力値(補正前のd軸電圧指令値)に乗算器83の出力値を加算するとともに、加減算器86で、後述のPI制御ブロック79の出力値(補正前のq軸電圧指令値)から乗算器84の出力値を減算することで、d軸電流値及びq軸電流値に応じた相互干渉成分が補償されたd軸電圧指令値V
d*_MG1及びq軸電圧指令値V
q*_MG1を算出するようにしている。
【0081】
このような干渉成分補正回路80を設けることはよく知られており、上記構成に限られるものではない。
【0082】
次に、d軸電流指令値演算部75は、機械角速度ωrm_MG1に応じたd軸電流指令値i
d*_MG1を算出し、これを加減算器76へ出力する。例えば、機械角速度ωrm_MG1が所定値(「a」とする)以下の場合はd軸電流指令値i
d*_MG1を0とし、所定値aを超えた場合には、弱め磁束を考慮してd軸電流指令値i
d*_MG1を所定の値b(b<0)として出力する。また、機械角速度ωrm_MG1が所定値aを超えた場合には、その超えた程度に応じたd軸電流指令値i
d*_MG1を出力するようにしてもよい。
【0083】
加減算器76は、d軸電流指令値i
d*_MG1から、dq変換部87から入力される出力電流のd軸成分i
d_MG1を減算してd軸誤差電流を算出し、これをPI制御ブロック77(d軸電流制御器)に出力する。PI制御ブロック77は、このd軸誤差電流に比例積分補償を施して、これを加減算器85に出力する。加減算器85では、PI制御ブロック77の出力値(補正前のd軸電圧指令値)に乗算器83の出力値を加算し、この値(d軸電圧指令値V
d*_MG1)をdq逆変換部88に出力する。
【0084】
次に、q軸電流指令値演算部70は、加減算器71とPI制御ブロック72と加減算器73とq軸電流補正値演算部74とで構成されている。
【0085】
加減算器71では、直流電圧設定値V
*DCから直流電圧V
DCを減算して誤差電圧を算出し、これをPI制御ブロック72(直流電圧制御器)に出力する。PI制御ブロック72は、この誤差電圧に比例積分補償を施して、これを加減算器73に出力する。
【0086】
一方、q軸電流補正値演算部74は、電動発電機3の機械角速度ωrm_MG1を電気角速度ωre_MG1に換算し、これを用いて有効電力指令値P
*からq軸電流補正値となる有効電流指令値を算出し、これを加減算器73へ出力する。具体的には、次式によって有効電流指令値(q軸電流補正値)を算出する。
【0087】
有効電流指令値=k×P
*/ωre_MG1 (kは所定の係数)
加減算器73では、PI制御ブロック72の出力値(補正前q軸電流指令値)と、演算部74からの有効電流指令値(q軸電流補正値)とを加算してq軸電流指令値i
q*_MG1を算出し、これを加減算器78へ出力する。
【0088】
このように、q軸電流指令値i
q*_MG1の生成において、系統側制御器12に入力される有効電力指令値P
*が入力され、その値が加味されたq軸電流指令値i
q*_MG1が生成されるので、蓄電装置104の電圧が設定値V
*DCとなるようにフィードフォワード制御され、蓄電装置104の電圧変動を極力小さくすることができる。
【0089】
なお、q軸電流補正値演算部74及び加減算器73を設けずに、PI制御ブロック72の出力値をそのままq軸電流指令値i
q*_MG1として、加減算器78へ出力するようにしてもよい。この場合も、蓄電装置104の計測電圧V
DCが一定電圧(V
*DC)となるように制御されるが、q軸電流補正値演算部74及び加減算器73を設けた方が、計測電圧V
DC(蓄電装置104の電圧)の変動をより小さくでき、好ましい。
【0090】
次に、加減算器78は、q軸電流指令値i
d*_MG1から、dq変換部87から入力される出力電流のq軸成分i
q_MG1を減算してq軸誤差電流を算出し、これをPI制御ブロック79(q軸電流制御器)に出力する。PI制御ブロック79は、このq軸誤差電流に比例積分補償を施して、これを加減算器86に出力する。加減算器86では、PI制御ブロック79の出力値(補正前のq軸電圧指令値)から乗算器83の出力値を減算し、この値(q軸電圧指令値V
q*_MG1)をdq逆変換部88に出力する。
【0091】
次に、dq逆変換部88では、電動発電機3の磁極位置(角度)θ
MG1を用いて、d軸電圧指令値V
d*_MG1及びq軸電圧指令値V
q*_MG1をdq逆変換して、三相(X相、Y相、Z相)の電圧出力指令値Vx
*_MG1,Vy
*_MG1,Vz
*_MG1を生成し、これを各相のPWM信号生成部89x、89y、89zに出力する。
【0092】
PWM信号生成部89x、89y、89zは、各々のインバータ16x、16y、16zの直流部の電圧V
DCx、V
DCy、V
DCzを利用して、電圧出力指令値Vx
*_MG1,Vy
*_MG1,Vz
*_MG1に応じたPWM信号PWM_X_cmd, PWM_Y_cmd, PWM_Z_cmd を生成し、これを単相インバータ16x、16y、16zに出力する。これにより、電力変換器16の出力電流が、d軸電流指令値i
d*_MG1及びq軸電流指令値i
q*_MG1に対応する電流になるようにフィードバック制御される。
【0093】
〔電力変換装置1の動作〕
次に、電力変換装置1の動作の一例を説明する。ここでは、
図2に示すように、電源系統2が船内の電源系統である場合について説明する。ここで、
まず、減速機8がメインエンジンとプロペラに連結され、メインエンジンの動力によって減速機8を介してプロペラが回転し、減速機8と連結された電動発電機3の機械軸3aが回転している場合を説明する。
【0094】
まず、電動発電機3が発電機運転モードで運転されているとき、電力変換装置1においては、回転機側電力変換器16がコンバータとして機能し、系統側電力変換器11がインバータとして機能する運転状態(第1の運転状態)となる。このとき、系統側制御機12の制御により、そのときの有効電力指令値P
*と系統側電圧角速度ω(電源系統2の周波数)とに応じた有効電力が系統側電力変換器11から電源系統2へ供給される。また、そのときの無効電力指令値Q
*と系統側電圧実効値V
g(電源系統2の電圧)とに応じた無効電力が系統側電力変換器11から電源系統2へ供給される。
【0095】
この場合、系統側電圧角速度ωに応じて、電源系統2に接続された他の発電機(例えば発電機7)やドループを持った他の電力変換装置(図示せず)と負荷分担できる。
【0096】
また、電源系統2に接続された他の発電機(例えば発電機7)を停止させることもできる。したがって、発電機7の不慮の運転停止が発生した場合でも、電源系統2への給電が可能になる。つまり、船内の電源系統2を電力変換装置1からの給電のみで自立運転させることができる。この場合、出力電力は電源系統2に接続された全ての負荷4の消費電力と等しくなる。また、有効電力負荷や無効電力負荷の変動に対し、ドループ設定に応じて定常偏差は残るが、電源系統2の周波数(角速度)および電圧を設定値(角速度指令値ω
*、出力電圧指令値V
g*)の近傍に保持することができる。なお、偏差の大きさはドループなどの設定によって調節することができる。
【0097】
次に、統括制御装置9から有効電力指令値P
*が変更されて電動発電機3が電動機運転モードで運転されるとき、電力変換装置1においては、系統側電力変換器11がコンバータとして機能し、回転機側電力変換器16がインバータとして機能する運転状態(第2の運転状態)となる。このとき、系統側制御機12の制御により、そのときの有効電力指令値P
*と系統側電圧角速度ω(電源系統2の周波数)とに応じた有効電力が電源系統2から電動発電機3へ供給される。これにより、減速機8を介してプロペラ主軸に増速方向のトルクを与えることができる。
【0098】
また、船舶が低速航行する場合には、メインエンジンを停止させた状態で、上記のように、電動発電機3を電動機運転モードで運転し、電源系統2からの電力で船舶を航行させることもできる。
【0099】
以上のように、電力変換装置1が、有効電力を電動発電機3から電源系統2へ供給する第1の運転状態から、有効電力を電源系統2から電動発電機3へ供給する第2の運転状態へ切り替えられる場合や、その逆に切り替えられる場合など、統括制御装置9によって有効電力指令値P
*が変更されて運転状態が変更される場合には、有効電力指令値P
*が回転機側制御機17にも入力されているので、回転機側制御機17の制御により、蓄電装置103の電圧が設定値V
*DCとなるようにフィードフォワード制御され、蓄電装置104の電圧変動を極力小さくすることができる。
【0100】
本実施形態の電力変換装置1では、統括制御装置9によって例えば有効電力指令値P
*が変更される等、運転状態が切り替わっても、系統側制御器12は系統側電力変換器11を同一の制御則に基づいて制御し、回転機側制御器17は回転機側電力変換器11を同一の制御則に基づいて制御するよう構成されているので、電力変換装置1全体としても制御則を切り替えることなく同一の制御則に基づいて制御される。
【0101】
例えば、電動発電機3の発電機運転モード及び電動機運転モードの運転モードの切り替えが行われ、電力変換装置1の運転状態が切り替わっても、制御則を変更せずに電力変換装置1の運転が可能になる。また、主発電機(例えば
図2の発電機7)の危急停止の場合も、制御則を変更せずに電力変換装置1の運転が可能になる。また、電源系統2が他の電源系統(例えば商用電力系統)と接続されている場合に、他の電源系統と遮断されるときに、あるいは、遮断された状態から他の電源系統に接続されるときにも、制御則を変更せずに電力変換装置1の運転が可能になる。
【0102】
そして、系統側電力変換器11が当該系統側電力変換器11の代わりに仮想発電機が電源系統2に接続されているとみなして電力を電源系統2へ出力するよう制御される。これにより、実際の発電機と同様の周波数制御及び電圧制御を行うことが可能であり、電源系統2に負荷変動などが生じても通常の発電機と協調して自系統の電力品質の安定化を図ることが可能になる。また、電源系統2に他の発電機の運転を必要とせず、系統側電力変換器11のみが発電を行う単独運転が可能となる。
【0103】
以上のように、電力変換装置1は、その運転状態の変更によって制御則を切り替えることなく常に同一の制御則に基づいて制御され、かつ、電源系統2に対して実際の発電機と同様の周波数制御及び電圧制御を行うので、電力変換装置1の運転状態にかかわらず、また、電源系統2に負荷変動などが生じても、電源系統2の周波数および電圧の安定化を図ることができる。
【0104】
さらに、電動発電機3に接続された回転機側電力変換器16が、蓄電装置103の電圧が直流電圧設定値V
*DCとなるように動作するよう制御される。これにより、蓄電装置103の電圧が所定電圧V
*DCに保たれ、系統側電力変換器11による発電機模擬動作の安定化を図ることができる。さらに、系統側制御器12と同じ有効電力指令値P
*が回転機側制御器17のq軸電流指令値演算部70に入力されるため、有効電力指令値P
*が変更された場合でも蓄電装置103の電圧の変動を極力抑えて設定値V
*DCの維持を良好に行うことができる。
【0105】
なお、系統側制御器12のガバナモデル50において、ハイパスフィルタ部56にリミッタ57が無くてもよい。この場合、電源系統2から電動発電機3へ電力供給が行われている場合に、定常状態においてはハイパスフィルタ部56の出力が零となり、有効電力指令値P
*が追従した有効電力の供給が可能となる。また、有効電力指令値P
*の変更等の過渡時においては、ハイパスフィルタ部56の出力が零から変動するので、電源系統2に接続された他の発電機等との負荷分担を行うことができる。
【0106】
また、本実施形態のようにハイパスフィルタ部56にリミッタ57がある場合には、電源系統2から電動発電機3へ電力供給が行われている場合に、定常状態においても、リミッタ57の制限範囲を超えた部分の角速度の偏差がハイパスフィルタ部56から出力されるので、電源系統2に接続された他の発電機等との負荷分担を行うことができる。また、電源系統2に接続された他の発電機がトリップするなど喪失した場合においても、リミッタ57の制限範囲を超えた部分の周波数偏差(角速度偏差)をもってガバナドループが機能し、それ以上の系統周波数の低下を抑制するとともに、発電機モデルによって系統周波数を決定し電源系統2の安定化を維持することができる。
【0107】
また、ハイパスフィルタ部56が無くてもよい。この場合、加減算器55の出力である角速度の偏差が加減算器54へ入力されるので、常時、電源系統2に接続された他の発電機等との負荷分担を行うことができる。