特許第6386739号(P6386739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386739
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   A61B8/00
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-25576(P2014-25576)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-150144(P2015-150144A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000866
【氏名又は名称】特許業務法人三澤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崔 載鎬
【審査官】 奥田 雄介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−120549(JP,A)
【文献】 特開2010−022654(JP,A)
【文献】 特開平04−084954(JP,A)
【文献】 特開昭60−116344(JP,A)
【文献】 特開2009−082469(JP,A)
【文献】 特開昭59−118143(JP,A)
【文献】 特開2007−020915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査方向に直交する深度方向に区分けされる第1領域とそれより深度が深い第2領域とに焦点位置を設定し、前記第1領域、或いは、前記第2領域のいずれか一方の前記焦点位置に対して、設定された送信中心を中心として超音波ビームを送信する送信部と、
前記超音波ビームが送信された前記焦点位置における隣接する複数方向から、同時にエコー信号を受信する受信部と、
前記受信部により第1の送受信で得た前記エコー信号が受信された後、前記第1領域、或いは、前記第2領域のいずれか他方の前記焦点位置に対して前記送信部が前記超音波ビームを送信するに当たって前記第1の送受信で得た前記エコー信号と連続する第2の送受信で得た前記エコー信号の一部が重複するように前記送信中心を移動させ、複数の前記焦点位置ごとに生成された前記エコー信号を取得させるシステム制御部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信部は、同時に複数受信した前記エコー信号を基に受信ビームデータを生成し、複数の前記焦点位置ごとに生成された前記受信ビームデータを合成することで、前記各領域の焦点位置からの一連の受信ビームデータとすることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
受信ビームデータを基に、画像を生成する画像処理部を備え、
前記画像処理部は、前記第1領域の焦点位置、及び前記第2領域の焦点位置のうち、前記超音波ビームの送信の対象とされなかった領域における焦点位置からの前記受信ビームデータについては、前記超音波ビームの送信の対象領域で前記走査方向において最も近接する焦点位置からの前記受信ビームデータにより重みづけすることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記送信部は、複数の前記送信中心を束ねた複数の束を作り、前記束毎に同時に、前記束を構成する前記複数の前記送信中心から前記超音波ビームを設定された前記焦点位置に送信させ、
前記受信部は、前記束毎のそれぞれにおける前記焦点位置からの受信ビームデータであることを識別して出力することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超音波診断装置の開発が進む中で、体表面からの深さ方向(深度方向)の距離によらず、一様に高い方位分解能(超音波ビーム(beam)の送信方向(深さ方向)に対して直交方向の分解能)となる超音波画像の撮影が試みられている。図1は、ダイナミック可変口径焦点の手法による受信信号を示す図である。図1に、横軸は走査方向を、縦軸は深さ方向を示し、さらに、超音波ビームが絞り込まれる領域(焦点)を黒丸印“●”で示す。
【0003】
そこで従来は、図1に示すように、ダイナミック可変口径焦点の手法によって受信信号を絞ることで方位分解能の向上が図られている。ところが、送信ビームは受信信号のように1レート内でダイナミック可変口径焦点の手法によるビームの絞り込みができないので、複数回のレートに分割して可変口径焦点の手法を実現する。
【0004】
例えば、まず最初のレートで図2Aに示すように、焦点を近距離に設定してビームを送信し、これと図1に示す受信信号で第一の音場を形成する。そして、次のレートで図2Bに示すように、焦点を遠距離に設定してビームを送信し、これと図1の受信信号とで第二の音場を形成する。その後、各音場でビームがよく絞られている領域同士を合成して1本のラスタを形成し、これによって一つの走査線上の超音波画像を得ている。なお、一つの走査線に沿って一つのビームが送信(放射)される。
【0005】
ここで、ビームとは、実際の振動子から各焦点に実ビームを送信する送信手段の走査方向を示す仮想線である。なお、走査線を「ビーム」という場合があり、ビームを「走査線」という場合がある。なお、走査方向におけるビームを送信する位置を「送信ビーム位置」または単に「ビーム位置」といい、ビームを受信する位置を「受信ビーム位置」または単に「ビーム位置」という場合がある。
【0006】
このように、複数の音場でのビームを合成して一つの画像を生成するスキャン方式をコンビネーションフォーカスと称しており、これによって得られた超音波画像は、体表面からの距離にかかわらず、送信ビーム、及び受信信号がともに絞られているので、方位分解能の優れた超音波画像となる。図3Aに、比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点深度が浅いときの超音波ビームおよび受信ビームデータの一例を示す。また、図3Bに、比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点深度が深いときの超音波ビームおよび受信ビームデータの一例を示す。さらに、図3Cに合成された受信ビームデータの一例を示す。
【0007】
しかしながら、このようなコンビネーションフォーカスによるスキャンでは、1本の走査線からの超音波画像を得るために、同一位置で超音波ビームを複数回送受信しなければならない。このため、通常の撮影時に比べて長時間を要してしまい、フレームレート(単位時間当りの撮影画像数)が低下するばかりでなく、リアルタイム性が損なわれてしまうという課題があった。
【0008】
また、超音波診断装置ではフレームレートを向上させるために、被検体の所定方向に対して送信超音波を放射し、この送信超音波による反射波(受信超音波)を前記所定方向に隣接した複数方向から同時に受信して単位時間当たりのデータ量を増大させる所謂並列同時受信法が一般的に使われている。なお、複数の送信ビームを同時に送信するには、例えば、走査方向に配列された複数の振動子上において、複数の送信信号からなる送信信号セットが供給される供給位置を物理的に異ならせればよい。
【0009】
図4は、並列同時受信法を説明する図である。図4に、並列同時受信における受信ビーム位置を示す。なお、ここでは4ビーム同時受信の一例で説明する。
【0010】
4ビーム並列同時受信は、被検体の深さ方向に対して送信超音波を放射し、この送信超音波による反射波を前記所定方向に隣接した4方向から同時に受信する技術である。例えば、1回の送信に対して、4ビームを同時に受信する。図4に、同時受信する4ビームを左から“a”、“b”、“c”、“d”に示す。この時の送信中心は“b”と“c”の間である。並列同時受信方法によって、フレームレートを向上させることができる。
【0011】
コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用すれば、フレームレートの落ちを抑え、方位分解能の優れた超音波画像を得ることができる。図5Aに深度が浅い領域の焦点位置からの4つの受信ビームデータを示す。図5Bに深度が深い領域の焦点位置からの4つの受信ビームデータを示す。図5Cに8つの受信ビームデータを合成した一連の受信ビームデータを示す。一連の受信ビームデータを基に超音波画像が生成される。図5A図5Cに示すように、コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用して、超音波画像を合成する。
【0012】
しかしながら、コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用して、フレームレート落ちを抑えた、方位分解能の優れた超音波画像を合成することができても、コンビネーションフォーカス方法によるスキャンそのものが、1本の走査線からの超音波画像を得るために、同一位置で超音波ビームを複数回送受信しなければならない。このため、並列同時受信法でフレームレートを稼いでも、コンビネーションフォーカス方法でフレームレートが落ちる。通常の撮影と並列同時受信法でフレームレートを併用した時に比べて長時間を要してしまい、フレームレートが低下し、リアルタイム性が損なわれてしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−166921号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】河野俊彦他、“循環器用超音波診断装置のハイフレームレート化の検討”、日本超音波医学会論文集、日本超音波医学会、1989年、第55巻、第727頁−728頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用する従来の技術では、フレームレートを上げることに制限があって、リアルタイム性が損なわれていた。
【0016】
この実施形態は、上記の問題を解決するものであり、コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用しつつ、ハイフレームレートを達成することで、高分解能とリアルタイム性を実現可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、実施形態の超音波診断装置は、送信部と、受信部と、システム制御部と、を有する。送信部は、走査方向に直交する深度方向に区分けされる第1領域とそれより深度が深い第2領域とに焦点位置を設定し、第1領域、或いは、第2領域のいずれか一方の焦点位置に対して、設定された送信中心を中心として超音波ビームを送信する。受信部は、超音波ビームが送信された焦点位置における隣接する複数方向から、同時にエコー信号を受信する。システム制御部は、受信部により第1の送受信で得たエコー信号が受信された後、第1領域、或いは、第2領域のいずれか他方の焦点位置に対して送信部が超音波ビームを送信するに当たって第1の送受信で得たエコー信号と連続する第2の送受信で得たエコー信号の一部が重複するように送信中心を移動させ、複数の焦点位置ごとに生成されたエコー信号を取得させる
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ダイナミック可変口径焦点の手法による受信信号を示す図。
図2A】比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点を近距離に設定したときの一例を示す図。
図2B】比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点を遠距離に設定したときの一例を示す図。
図3A】比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点深度が浅いときの超音波ビームおよび受信ビームデータの一例を示す図。
図3B】比較例のコンビネーションフォーカス法によるスキャンにおける焦点深度が深いときの超音波ビームおよび受信ビームデータの一例を示す図。
図3C】合成された受信ビームデータの一例を示す図。
図4】並列同時受信法を説明する図。
図5A】コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法によるスキャンにおいて、深度が浅い領域の焦点位置からの4つの受信ビームデータの一例を示す図。
図5B】コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法によるスキャンにおいて、深度が深い領域の焦点位置からの4つの受信ビームデータの一例を示す図。
図5C】合成された受信ビームデータの一例を示す図。
図6】第1実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図。
図7A】焦点位置を第1領域とする1回目の送受信の時の超音波受信ビームの一例を示す図。
図7B】焦点位置を第2領域とする2回目の送受信の時の超音波受信ビームの一例を示す図。
図7C】焦点位置を第1領域とする3回目の送受信の時の超音波受信ビームの一例を示す図。
図7D】焦点位置を第2領域とする4回目の送受信の時の超音波受信ビームの一例を示す図。
図7E】1回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図。
図7F】2回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図。
図7G】3回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図。
図7H】4回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図。
図8A】第1実施形態に係る加算器により合成された1回目の送受信における合成ビームデータの一例を示す図。
図8B】第1実施形態に係る加算器により合成された2回目の送受信における合成ビームデータの一例を示す図。
図8C】第1実施形態に係る加算器により合成された3回目の送受信における合成ビームデータの一例を示す図。
図8D】第1実施形態に係る加算器により合成された4回目の送受信における合成ビームデータの一例を示す図。
図9A】重みづけ画像処理前の合成ビームデータの一例を示す図。
図9B】重みづけ画像処理後の合成ビームデータの一例を示す図。
図10A】第2実施形態に係る超音波診断装置のスキャンにおける1回目の送受信の時の超音波ビームの一例を示す図。
図10B】1回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
超音波診断装置の第1実施形態について各図を参照して説明する。
先ず、超音波診断装置の基本的な構成について図6を参照して簡単に説明する。図6は、超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0020】
コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用しても、ハイフレームレートを達成することで、高分解能とリアルタイム性を実現する為に、超音波診断装置としては、次のような手段を講じればよい。1)走査方向に配列され、走査方向に直交する深度方向に超音波ビームを送信するための複数の振動子からなる複数のビーム送信手段を有するアレイプローブ、2)走査方向に隣接する所定数nのビーム送信手段を一群とし、複数mの群において、隣り合う一群同士で1からn−1個のうちいずれかの個数のビーム送信手段を共有し、各一群における複数の焦点位置を深度方向で区分けされた複数の領域のうちの予め定められた一つの領域に設定して、複数mの群のビーム送信手段を駆動して超音波ビームを送信させる送信部、3)各一群のビーム送信手段毎に、一群が超音波ビームを送信した深度方向の各領域の焦点位置からのエコー信号を受信し、各領域の焦点位置からの受信ビームデータとして出力する受信部、4)各受信ビームデータを基に、各音場でビームがよく絞られている領域(焦点位置となる各領域)を合成して該走査線上の超音波画像を生成する画像処理部。
【0021】
なお、ビーム送信手段を「ビーム位置」または「送信ビーム位置」という場合がある。ここで、「隣り合う一群同士で1からn−1個のうちいずれかの個数のビーム送信手段を共有し」とは、「1からn−1個のうちのいずれかの個数分だけ、送信ビーム位置を走査方向にずらす」の意味である。例えば、送信ビーム位置を1個分ずらすと、n−1個のビーム送信手段が共有される。また、例えば、送信ビーム位置をn−1個分ずらすと、1個のビーム送信手段が共有される。なお、ビーム送信手段がk(n−1≧k≧1)個共有されたとき、ビーム位置のずらし数(「ビーム飛ばし数」とも称される。)rは、n−kで表すことができる。
【0022】
また、「各一群における複数の焦点位置を深度方向で区分けされた複数の領域のうちの予め定められた一つの領域に設定し」とは、「各一群における複数の焦点位置を複数の領域が重複することなく一巡するように設定し」の意味である。例えば、焦点位置として第1領域と第2領域とが設けられたとき、焦点位置は、例えば、第1領域〜第2領域〜第1領域のように交互に設定される。また、例えば、焦点位置として第1領域と第2領域と第3領域が設けられたとき、焦点位置は、例えば、第1領域〜第2領域〜第3領域〜第1領域と一巡するように設定される。
【0023】
さらに、「各音場でビームがよく絞られている領域(焦点位置となる各領域)を合成し」とは、走査方向をX軸と深度方向をY軸とするXY座標において、同一位置における受信ビームデータを合成(加算)することを意味する。例えば、X軸上のY1、Y2を焦点位置とする2つの領域があるとき、焦点位置である座標位置Y1からの受信ビームデータD1と、焦点位置である座標位置Y2からの受信ビームデータD2とを加算する。加算された結果は、(D1、D2)となる。なお、受信ビームデータD1には、このときは焦点が合っていない非焦点位置である座標位置Y2からの受信ビームデータD2´、これら以外の領域からの受信ビームデータD3´が含まれ、また、受信ビームデータD2には、このときは焦点が合っていない非焦点位置である座標位置Y1からの受信ビームデータD1´、これら以外の領域からの受信ビームデータD3´´が含まれる。このとき、これらのデータも合成(加算)する。合成(加算)された結果は、(D1+D1´、D2+D2´、D3´+D3´´)となる。つまり、いずれの焦点も合っていない座標位置でのデータは(D3´+D3´´)となる。
【0024】
上記の手段において、送信部は、一群毎に焦点位置を設定し、その設定に応じて隣り合う一群同士で1からn−1個のうちいずれかの個数のビーム送信手段を共有しながらビームを送信させる。ビームを送信する毎に、ビーム送信手段をずらすことにより、同一位置で超音波ビームを複数回送受信する必要がないため、フレームレートの低下するのを抑えることが可能となる。
【0025】
図6に示すように、本実施形態に係る超音波診断装置は、アレイプローブ1、送信回路2、受信回路3、スキャン制御部4、加算器5、画像メモリ6、画像処理部7、画像表示部8、システム制御部9にて構成される。なお、送信回路2およびスキャン制御部4が「送信部」の一例である。さらに、受信回路3、スキャン制御部4、加算器5および画像メモリ6が「受信部」の一例である。
【0026】
(アレイプローブ1)
アレイプローブ1は、走査方向に配列された複数のビーム送信手段を有する。ビーム送信手段は、走査方向に配列された複数の振動子からなり、走査方向に直交する深度方向に1つの超音波ビームを送信する。振動子は、送信回路2より得られる電気信号による送信信号を超音波信号に変換し、図示しない被検体へ送信を行うと同時に、被検体より生じたエコー信号を受信し、電気信号に変換する機能を有する。
【0027】
(システム制御部9)
システム制御部9は、各機能部の制御を行う機能を有する。また、図示しない操作卓等から指示される操作者の入力等の情報を各機能部へ伝える機能を有する。
【0028】
〔送信部〕
スキャン制御部4は、システム制御部9からの指示に従って走査条件を決定する。システム制御部9からの指示としては、ビーム数、フレーム数、フレームレート等が挙げられる。走査条件としては、例えば、パルス繰り返し周波数(Pulse Repetition Frequency:PRF)や送信ビーム位置、受信ビーム位置、受信開口、一群となるビーム送信手段の数、ビーム位置のずらし数、加算合成情報等が挙げられる。ここで、「受信開口」とは、1つの受信ビームの受信に用いられる複数の振動子のセットをいう。
【0029】
スキャン制御部4は、システム制御部9から指示されたビーム数、フレーム数、フレームレート等に応じて、送信回路2、受信回路3、加算器5にパルス繰り返し周波数や送受信位置情報(走査線情報を含む)等を提供する。なお、本実施形態に係るスキャン制御部4は、Bモード走査を実行するものとする。
【0030】
送信回路2には、スキャン制御部4からパルス繰り返し周波数や送信位置情報数等の走査条件が入力される。送信回路2は、前記走査条件を受けて、走査方向に隣接する所定数nのビーム送信手段(ビーム位置)を一群とし、複数mの群において、隣り合う一群同士で1からn−1個のうちのいずれかの個数のビーム送信手段を共有しながら(共有の個数k)、各一群における複数の焦点位置を深度方向で区分けされた複数の領域のうちの予め定められた一つの領域に設定して、複数mの群のビーム送信手段を駆動して超音波ビームを送信させる。
【0031】
送信回路2により超音波ビームが送信されたビーム送信手段(ビーム位置)の総数tは、群の数m、一群に属するビーム送信手段の数n、共有の個数kを用いて、次の式で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
また、共有の個数kに代えて、ビーム位置のずらし数rを用いると、総数tは、次の式で表される。
【0034】
【数2】
ここで、mはビームの送受信回数でもある。さらに、nは並列同時受信数でもある。
【0035】
図7A図7Dに、コンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用したときの一例を示す。共有の個数k=1(送信ビーム位置のずらし数r=3)、並列同時受信数n=4、群の数m=4としたとき、式(1)または式(2)からビーム位置の総数t=13が求められる。なお、通常、超音波画像を得るためにビーム位置の総数tは、100程度が必要であるが、ビーム位置の総数tが13であるものを一例に挙げて説明する。図7A図7Dに、“1”〜“13”の番号が付されたビーム位置を示す。なお、図7A図7Dに示す一例では並列同時受信数が4ビームだが、これに限らないことはいうまでもない。
【0036】
図7A図7Dに示す例では、送信回路2は、スキャン制御部4からの上記走査条件を受けて、走査方向に隣接する4つのビーム送信手段(送信ビーム位置)を一群とし、4つの群において、隣り合う一群同士で1個のビーム送信手段を共有しながら(共有の個数k=1、ビーム位置のずらし数r=3)、各一群における焦点位置を深度方向で区分けされた第1領域とそれより深度が深い第2領域とに交互に設定して、4つの群のビーム送信手段を駆動して超音波ビームを送信させる。
【0037】
図7Aは焦点位置を第1領域とする送信を行う図である。送信部は、焦点位置を第1領域に設定して超音波ビームを被検体に送信する(図2A参照)。受信部は、図4に示す並列同時受信ビームに対して、図1に示すダイナミック可変口径焦点の手法によって、超音波ビームを受信する。図7Aに焦点位置を第1領域とする1回目の送受信の時の超音波受信ビーム(ビームデータでもある)を1a、1b、1c、1dで示す。
【0038】
図7Bは焦点位置を第2領域とする送信を行う図である。送信部は、焦点位置を第2領域に設定して超音波ビームを被検体に送信する。この時、送信ビーム位置は、図7Aに示す焦点位置を第1領域とする送信ビーム位置と同一走査線上ではなく、走査方向へ3個(=3*並列同時受信数/4)移動する。実施形態では、送信ビーム位置を3個移動したが、これに限らない。受信部は、図4に示す並列同時受信ビームに対して、図1に示すダイナミック可変口径焦点の手法によって、超音波ビームを受信する。図7Bに焦点位置を第2領域とする2回目の送受信の時の超音波受信ビーム(ビームデータでもある)を2a、2b、2c、2dで示す。
【0039】
従来のコンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用した時には、2回の送受信を行って並列同時受信数の受信ビームデータが得られた。本実施形態によれば、4ビーム並列同時受信において、7個(=2*並列同時受信数−並列同時受信数/4)の受信ビームデータが得られた。
【0040】
続いて図7Cは焦点位置を第1領域とする送信を行う図である。焦点位置を第1領域に設定して超音波ビームを被検体に送信する(図2A参照)。
【0041】
この時、送信ビーム位置は、図7Bに示す焦点位置を第2領域とする送信時の送信ビーム位置と同一走査線上ではなく、走査方向へ数ビーム分移動する。図4に示す並列同時受信ビームに対して、図1に示すダイナミック可変口径焦点の手法によって、超音波ビームを受信する。図7Cに焦点位置を第1領域とする3回目の送受信の時の超音波受信ビーム(ビームデータでもある)を3a、3b、3c、3dで示す。
【0042】
〔受信部〕
受信部は、スキャン制御部4からの受信位置情報等の走査条件に従って、一群のビーム送信手段毎に、一群が超音波ビームを送信した深度方向の各領域(第1領域、第2領域)の焦点位置におけるエコー信号をアレイプローブ1から受信し、エコー信号に並行同時受信処理を実行し、受信ビームデータを生成する。
【0043】
受信ビームデータの生成についてさらに詳細に説明する。受信部は、アレイプローブ1から得られたエコー信号を増幅し、増幅したエコー信号をアナログからデジタルに変換する。次に、受信部は、デジタルに変換したエコー信号をデジタルメモリに記憶する。例えば、デジタルメモリは、振動子毎に設けられる。エコー信号は、受信した振動子に対応するデジタルメモリ上の、そのエコー信号の受信時刻に応じたアドレスに記憶される。そして受信部は、規定の受信ビーム位置に対応するアドレスからエコー信号を読み出して加算し、受信ビーム位置に関する受信ビームに対応する受信ビームデータを生成する。
【0044】
(加算器5)
受信部により生成された受信ビームデータは、加算器5に供給される。加算器5は、スキャン制御部4から与えられる受信位置情報(走査線情報を含む)、加算合成情報等に従って、同一走査線(ビーム)上に位置するビームデータであって、受信回路3から受けたビームデータと画像メモリ6から読み出したビームデータを合成(加算)し、各領域の焦点位置からの一連のビームデータとする機能を有する。
【0045】
ここで、「ビームデータを合成し」とは、前述したように、XY座標において、同一位置における受信ビームデータを合成(加算)することを意味する。例えば、X軸上のY1、Y2を焦点位置とする2つの領域があるとき、焦点位置である座標位置Y1からの受信ビームデータD1と、焦点位置である座標位置Y2からの受信ビームデータD2とを加算する。さらに、前述したように、焦点が合っていない非焦点位置からの受信ビームデータが含まれたとき、これらのデータも加算する。なお、「各領域の焦点位置からの一連のビームデータ」を「合成ビームデータ」という場合がある。
【0046】
図7Aに示す1回目の送受信で得た受信ビームデータと図7Bに示す2回目の送受信で得た受信ビームデータとはそれぞれ、4ビームずつ焦点位置が異なる。1回目の送受信で得た4ビームのうちの4本目の受信ビームデータ(1d)と2回目の送受信で得た4ビームのうちの1本目の受信ビームデータ(2a)は同一走査線上に位置する。加算器5は、送信ビームがよく絞られている領域、つまり、第1領域の画像表示には受信ビームデータ(1a、1b、1c、1d)と、第2領域の画像表示には受信ビームデータ(2a、2b、2c、2d)とを合成(加算)する。合成後の走査線上の受信ビームデータ(図8B参照)は画像メモリ6に一時記憶され、画像処理部7に出力され、超音波画像表示データに処理される。それにより、走査線上の超音波画像表示には、4ビームの焦点位置が第1領域と第2領域とそれぞれ設定された(送信焦点に合った)合成ビームデータが用いることになる。
【0047】
図7Bに示す2回目の送受信で得た波受信ビームデータと図7のCに示す3回目の送受信で得た受信ビームデータとはそれぞれ、4ビームずつその焦点位置が異なる。2回目の送受信で得た4ビームのうちの4本目の受信ビームデータ(2d)と3回目の送受信で得た4ビームのうちの1本目の受信ビームデータ(3a)は同一走査線上に位置する。この場合の走査線上の超音波画像表示には、4ビームの焦点位置が第1領域と第2領域とそれぞれ設定された(送信焦点に合った)受信ビームデータを用いられる。加算器5は、送信ビームがよく絞られている領域、つまり、第2領域の画像表示には受信ビームデータ(2a、2b、2c、2d)と、第1領域の画像表示には受信ビームデータ(3a、3b、3c、3d)とを合成(加算)する。図8Cに、合成後の走査線上の受信ビームデータ“2a、2b、2c、2d+3a、3b、3c、3d”を示す。
【0048】
以上のように、送信ビーム位置を走査方向にずらし、送信ビームの焦点位置を第1領域と第2領域とに交互に変えながら走査を繰り返し、並列同時受信数の超音波ビームを受信する。そして、同一走査線上のビームデータにそれぞれ送信ビームがよく絞られている領域の超音波データを用いて合成を行う。
【0049】
(画像メモリ6)
画像メモリ6は、加算器5から得られた合成ビームデータを一時記憶し、ビーム数の増減やビーム順等の処理を行ったビームデータを生成して画像処理部7へ出力する機能を有する。
【0050】
(画像処理部7)
画像処理部7は、画像メモリ6から得られた合成ビームデータに対して、システム制御部9から指示されたフィルタ処理等を行い、画像表示部8へ転送する機能を有する。
【0051】
(画像表示部8)
画像表示部8は、画像処理部7から受けた合成ビームデータを画像に表示する機能を有する。
【0052】
次に、超音波ビームの1回目の送受信から4回目の送受信までの動作について図7および図8を参照して説明する。図8A図8Dは、超音波ビームの送受信毎に加算器により合成された受信ビームデータを示す図である。図8Aから図8Dに、それぞれ1回目、2回目、3回目、4回目の送受信において加算器により合成された合成ビームデータを示す。
【0053】
(1回目の送受信)
例えば、1回目の送受信前、画像メモリ6には受信ビームデータが記憶されていない。
1回目の送信では、図7Aに示すように、一群のビーム送信手段が、“1b”と“1c”との間(受信ビーム位置2と3との間)を送信中心として超音波ビームを深度が浅い領域(第1領域)の焦点位置に送信する。第1領域の焦点位置を図7Aに黒丸印“●”で示す。また、焦点が合っていない領域の非焦点位置を図7Aに白丸印“○”で示す。受信部は、その焦点位置におけるエコー信号をアレイプローブ1から受信し、エコー信号に並行同時受信処理を実行し、4つの受信ビームデータを出力する。図7Eに、出力された4つの受信ビームデータ1a、1b、1c、1dを示し、また、受信ビーム位置1、2、3、4を示す。
【0054】
(受信ビームデータの合成、画像処理、表示)
受信ビームデータ1a、1b、1c、1dは加算器5に供給される。加算器5は、受信ビームデータ1a、1b、1c、1dと、画像メモリ6から読み出した受信ビームデータを合成(加算)する。画像メモリ6には受信ビームデータが記憶されていないため、合成後の受信ビームデータは、1a、1b、1c、1dとなる(図8A参照)。画像メモリ6は、加算器5から得られた合成ビームデータを一時記憶する。画像処理部7は、合成ビームデータを画像処理して画像表示部8に転送する。画像表示部8は、画像処理された合成ビームデータを画像に表示する。
【0055】
(2回目の送受信)
2回目の送信では、図7Bに示すように、一群のビーム送信手段が、“2b”と“2c”との間(受信ビーム位置5と6との間)を送信中心として超音波ビームを深度が深い領域(第2領域)の焦点位置に送信する。第2領域の焦点位置を図7Bに黒丸印“●”で示す。また、焦点が合っていない領域の非焦点位置を図7Bに白丸印“○”で示す。受信部は、その焦点位置におけるエコー信号をアレイプローブ1から受信し、エコー信号に並行同時受信処理を実行し、4つの受信ビームデータを出力する。図7Fに、出力された4つの受信ビームデータ2a、2b、2c、2dを示し、また、受信ビーム位置4、5、6、7を示す。
【0056】
(受信ビームデータの合成、画像処理、表示)
受信ビームデータ2a、2b、2c、2dは加算器5に供給される。加算器5は、受信ビームデータ2a、2b、2c、2dと、画像メモリ6から読み出した受信ビームデータ1a、1b、1c、1dを合成(加算)する。合成後の受信ビームデータは、1a、1b、1c、1d+2a、2b、2c、2dとなる(図8B参照)。画像メモリ6は、加算器5から得られた合成ビームデータを一時記憶する。画像処理部7は、合成ビームデータを画像処理して画像表示部8に転送する。画像表示部8は、画像処理された合成ビームデータを画像に表示する。
【0057】
(3回目の送受信)
3回目の送信では、図7Cに示すように、一群のビーム送信手段が、“3b”と“3c”との間(受信ビーム位置8と9との間)を送信中心として超音波ビームを第1領域の焦点位置に送信する。第1領域の焦点位置を図7Cに黒丸印“●”で示す。また、焦点が合っていない領域の非焦点位置を図7Cに白丸印“○”で示す。受信部は、その焦点位置におけるエコー信号をアレイプローブ1から受信し、エコー信号に並行同時受信処理を実行し、4つの受信ビームデータを出力する。図7Gに、出力された4つの受信ビームデータ3a、3b、3c、3dを示し、また、受信ビーム位置7、8、9、10を示す。
【0058】
(受信ビームデータの合成、画像処理、表示)
受信ビームデータ3a、3b、3c、3dは加算器5に供給される。加算器5は、受信ビームデータ3a、3b、3c、3dと、画像メモリ6から読み出した受信ビームデータ1a、1b、1c、1d+2a、2b、2c、2dを合成(加算)する。合成後の受信ビームデータは、1a、1b、1c、1d+2a、2b、2c、2d+3a、3b、3c、3dとなる(図8C参照)。画像メモリ6は、加算器5から得られた合成ビームデータを一時記憶する。画像処理部7は、合成ビームデータを画像処理して画像表示部8に転送する。画像表示部8は、画像処理された合成ビームデータを画像に表示する。
【0059】
(4回目の送受信)
4回目の送信では、図7Dに示すように、一群のビーム送信手段が、“4b”と“4c”との間(受信ビーム位置11と12との間)を送信中心として超音波ビームを第2領域の焦点位置に送信する。第2領域の焦点位置を図7Dに黒丸印“●”で示す。また、焦点が合っていない領域の非焦点位置を図7Dに白丸印“○”で示す。受信部は、その焦点位置におけるエコー信号をアレイプローブ1から受信し、エコー信号に並行同時受信処理を実行し、4つの受信ビームデータを出力する。図7Hに、出力された4つの受信ビームデータ4a、4b、4c、4dを示し、また、受信ビーム位置10、11、12、13を示す。
【0060】
(受信ビームデータの合成、画像処理、表示)
受信ビームデータ4a、4b、4c、4dは加算器5に供給される。加算器5は、受信ビームデータ4a、4b、4c、4dと、画像メモリ6から読み出した受信ビームデータ1a、1b、1c、1d+2a、2b、2c、2d+3a、3b、3c、3dを合成(加算)する。合成後の受信ビームデータは、1a、1b、1c、1d+2a、2b、2c、2d+3a、3b、3c、3d+4a、4b、4c、4dとなる(図8D参照)。画像メモリ6は、加算器5から得られた合成ビームデータを一時記憶する。画像処理部7は、ビームデータを画像処理して画像表示部8に転送する。画像表示部8は、画像処理された合成ビームデータを画像に表示する。図9Aに、表示された合成ビームデータの画像を示す。
【0061】
第1実施形態によれば、従来のコンビネーションフォーカス方法と並列同時受信法を併用した時のフレームレートが上がらない問題が解決される。しかも、合成ビームデータを基に画像処理を行うことで、画質の優れた画像データを生成することができる。ハイフレームレートのリアルタイム性が保たれ、画質に優れた画像データの生成が可能となり、診断能が向上する。
【0062】
<第2実施形態>
次に、超音波診断装置の第2実施形態について図9を参照して説明する。図9は重みづけ画像処理前の合成ビームデータの一例を示す図である。図9Aに、加算器5により合成された重みづけの対象となる合成ビームデータを示す。なお、合成ビームデータは、前述するようにXY座標において、同一位置における受信ビームデータを合成(加算)したものである。合成ビームデータにおいては、いずれかの焦点が合っている座標位置からの受信ビームデータ、および、いずれの焦点も合っていない座標位置からの受信ビームデータが含まれる。
【0063】
図9Aに、送信焦点が合った超音波ピクセルデータを黒丸印“●”で示し、送信焦点が合っていない超音波ピクセルデータを白丸印“○”で示し、深度の程度を1〜4で示す。なお、超音波ピクセルデータを「ピクセルデータ」という。さらに、走査線(ビームデータ)上のピクセルデータを、ビームデータの表示と深度とにより表す。例えば、ビームデータ2a上の深度1のピクセルデータを“2a−1”で示し、ビームデータ2b上の深度1のピクセルデータを“2b−1”で示す。
【0064】
第2実施形態において、第1実施形態に係る超音波診断装置と異なる構成について主に説明し、同じ構成についてその説明を省略する。
【0065】
第1実施形態において、加算器5により合成された、図9Aに示す走査線上の合成ビームデータは、送信ビーム位置を走査方向にずらし、送信ビームの焦点位置を第1領域と第2領域とに交互に設定して送信を行って生成された受信ビームデータであるため、送信焦点が合ってない超音波ピクセルデータが存在する。送信焦点が合ってないピクセルデータを、たとえば、図9Aに“2b−1、2b−2、2c−1、2c−2”で示す。送信焦点が合ってないピクセルデータをそのまま表示してしまうと、送信焦点の合った所と合ってない所に、送信ビームがよく絞られている領域と送信ビームが広がった領域との縞々模様ができる。
【0066】
(重みづけ画像処理)
これに対し、第2実施形態では、画像処理部7が、超音波ビームの送信の対象とされなかった領域における焦点位置からの受信ビームデータ(すなわち、送信焦点の合ってないピクセルデータ)に対して、走査方向において最も近接する焦点位置からの受信ビームデータ(すなわち、隣り合う送信焦点の合ったピクセルデータ)を用いて、重みづけ画像処理を行う。
【0067】
送信焦点の合ってないピクセルデータ2b−1は、送信焦点の合っているピクセルデータ2a−1と隣り合うと共に、送信焦点の合ってないピクセルデータ2c−1と隣り合う。ピクセルデータ2b−1の重みづけ画像処理には、送信焦点の合っているピクセルデータ2a−1が用いられる。
【0068】
以下に、ピクセルデータ2a−1、2b−1を一例に挙げて、重みづけ画像処理のアルゴリズムを式(3)、(4)で示す。
【0069】
【数3】
【0070】
【数4】
ここで、p、qは重みである。また、New(2b-1)は処理後のピクセルデータ2b−1の値である。なお、p、qは送信焦点に合わせて変更可能(dynamic variance)に構成されてもよい。
【0071】
図9Bは重みづけ画像処理後の合成ビームデータの一例を示す図である。図9Bに、重みづけ画像処理されたピクセルデータを、ハッチングを付した丸印で示す。画像処理部7により、合成ビームデータに重みづけ画像処理を加えることで、より分解能の高い超音波画像を得ることができる。
【0072】
なお、上記の重みづけ画像処理は、二つのピクセルデータを単純平均する式(3)で示す単純移動平均、また、二つのピクセルデータを加重平均する式(4)で示す加重移動平均に限定されない。例えば、指数移動平均であってもよい。さらに、上記の重みづけ画像処理では、重みづけ対象となるピクセルデータと、それに隣接するピクセルデータとを用いたが、重みづけ対象となるピクセルデータの周囲に配置されたピクセルデータを用いてもよい。
【0073】
<第3実施形態>
次に、超音波診断装置の第3実施形態について図10を参照して説明する。図10Aは、超音波診断装置のスキャンにおける1回目の送受信の時の超音波ビームの一例を示す図である。
第3実施形態において、第1実施形態に係る超音波診断装置と異なる構成について主に説明し、同じ構成についてその説明を省略する。
【0074】
第1実施形態では、ビーム位置の総数t=13において、所定数n=4を一群とし、複数m=4の群において、共有の個数k=1(ビーム位置のずらし数r=3)とした並列同時受信法について説明した。ビームの送受信回数は群の数mと同数の4回であった。この方法では、群の数m=16であれば、ビームの送受信回数も16回になる。
【0075】
これに対し、第3実施形態では、総数t=50のビーム位置をt´=25個ずつの束にした束毎に、所定数n=4を一群とし、共有の個数k=1(ビーム位置のずらし数r=3)とした並列同時受信法について図10を参照して説明する。図10Aに、1〜25の番号を付した一つの束におけるビーム位置と、26〜50の番号を付した他の束におけるビーム位置とを示す。
【0076】
このとき、式(1)または式(2)から、束毎の群の所定数sは、8個(=25−(4−3)/3)となる。
すなわち、第3実施形態では、スキャン制御部4からの走査条件を受けて、送信部は、複数m=16の群を所定数s=8ずつ束ねた2(=m/s)個の束毎に、各束の一群ずつビーム送信手段を同時に駆動して焦点位置を所定の領域に設定して超音波ビームを同時に送信させる。
【0077】
すなわち、ビームの送受信をs=8回行うことで、各束における8群のビーム送信手段を駆動させることができる。
【0078】
つまり、送信部は、ビームの送受信をs=8回行うことで、16の群のビーム送信手段を駆動させる。第1実施形態では、16の群のビーム送信手段を駆動させるためにはビームの送受信は16回必要であったから、第3実施形態では、その半分の8回に抑えることで、フレームレートを低下させず、リアルタイム性を担保することができる。
【0079】
図10Bは、1回目の送受信における受信ビームデータの一例を示す図である。図10Bに、加算器5により合成された一の束における受信ビームデータ“a,b,c,d”と他の束における受信ビームデータ“e,f,g,h”とを示す。なお、同時に行われた送受信において一の束における受信ビームデータは、焦点位置を第1領域(深度が浅い領域)に設定してビームを送受信したものであり、他の束における受信ビームデータは、焦点位置を第2領域(深度が深い領域)に設定してビームを送受信したものである。しかし、同時に行われた送受信では、各束における受信ビームデータは、焦点深度が同じ領域に設定してビームを送受信したものでもよい。
【0080】
なお上記の方法では、一つの束における焦点位置が一の領域に設定され、他の束における焦点位置が他の領域に設定されるため、受信部が受信するエコー信号に、一の領域の焦点位置からのものと、他の領域の焦点位置からのものとが混在することとなる。それにより、各領域の焦点位置からの受信ビームデータとして出力できないという問題がある。
【0081】
そこで、第3実施形態では、受信部が受信した振動子に対応するデジタルメモリ上の、そのエコー信号の受信時刻に応じたアドレスに記憶するとき、エコー信号の受信時刻に所定の許容時間を設け、所定の許容時間を超えたエコー信号の受信時刻をアドレスに記憶しないように構成される。これを一の領域および他の領域の焦点位置の配置からいえば、受信部が所定の許容時間内に、二つの領域からのエコー信号を受信しないように、焦点位置となる一の領域と他の領域とが互いに十分に離間されるように配置される。それにより、受信部は、各束に属する群の前記ビーム送信手段が対象とする焦点位置からの受信ビームデータであることを識別して出力する。
【0082】
<変形例1>
前記第3実施形態では、総数tのビーム位置を2つの束に分けたが、3つ以上の束に分けてもよい。このときにおいても、一つの束におけるその領域からのエコー信号のみを受信し、他の束におけるそれらの領域からのエコー信号を受信しないように、エコー信号の受信時刻に所定の許容時間を設け、焦点位置となる一の領域と他の領域とを互いに十分に離間させる必要がある。
【0083】
<変形例2>
また、前記第3実施形態では、総数t=50のビーム位置をt´=25個ずつの束にした束毎に、所定数n=4を一群とし、隣り合う一群同士でのビーム送信手段を共有するときの個数k=1(ビーム位置のずらし数r=3)とした並列同時受信法について説明したが、共有の個数k=2(ビーム位置のずらし数r=2)や共有の個数k=3(ビーム位置のずらし数r=1)であってもよい。
【0084】
例えば、共有の個数k=2とすることで、フレームレートは、第3実施形態に比べてやや低下するが、合成ビームデータにおいては、第3実施形態に比べてより多くの焦点位置からの受信ビームデータが含まれ、その合成ビームデータを基に画像処理を行うことで、第3実施形態より画質の優れた画像データを生成することができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 アレイプローブ
2 送信回路
3 受信回路
4 スキャン制御
5 加算器
6 画像メモリ
7 画像処理部
8 画像表示部
9 システム制御部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B