特許第6386744号(P6386744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386744
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】蓄電池制御装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20180827BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20180827BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20180827BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   G06Q50/06
   G06Q10/04
   H02J7/34 A
   H02J7/35 K
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-31691(P2014-31691)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-156195(P2015-156195A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 武則
(72)【発明者】
【氏名】野呂 康宏
【審査官】 山本 雅士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−233053(JP,A)
【文献】 特開2013−027214(JP,A)
【文献】 特開2006−099432(JP,A)
【文献】 特開2000−308270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
H02J 7/34
H02J 7/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去の電力価格を記憶する電力価格記憶部と、
電力価格の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での電力価格を予測価格として予測する価格予測部と、
蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定部と、
前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測価格に基づき電力売買による収益を算出する収益算出部と、
前記所定の期間における収益の期待値を算出する期待値算出部と、
前記収益が前記期待値以上か否かを評価する収益評価部と、
前記収益評価部が前記収益は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期の設定部が設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定部と、
前記収益評価部が前記収益は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定部に対し蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する充放電時期の修正指示部を有することを特徴とする蓄電池制御装置。
【請求項2】
過去の発電量を記憶する発電量記憶部と、
発電量の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での発電量を予測発電量として予測する発電量予測部と、
蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定部と、
前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測発電量に基づき蓄電池の充電量を算出する充電量算出部と、
前記所定の期間における充電量の期待値を算出する期待値算出部と、
前記充電量が前記期待値以上か否かを評価する充電量評価部と、
前記充電量評価部が前記充電量は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期の設定部が設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定部と、
前記充電量評価部が前記充電量は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定部に対し蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する充放電時期の修正指示部を有することを特徴とする蓄電池制御装置。
【請求項3】
前記価格予測部または前記発電量予測部は、幾何ブラウンモデルあるいは平均回帰ジャンプ拡散モデルを用いて電力価格または発電量を予測することを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電池制御装置。
【請求項4】
蓄電池のオプション価値を計算して、蓄電池を放電することにより電力市場に電力を販売することでオプション価値をあらかじめ定めた目標値だけ上回る場合に放電することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電池制御装置。
【請求項5】
蓄電池のオプション価値を計算して、蓄電池を充電することにより電力市場から電力を購入することでオプション価値をあらかじめ定めた目標値だけ上回る場合に充電することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電池制御装置。
【請求項6】
蓄電池の充放電時の充電量が所定の範囲内に収まるように制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電池制御装置。
【請求項7】
コンピュータを用いて、
過去の電力価格を記憶する電力価格記憶ステップと、
電力価格の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での電力価格を予測価格として予測する価格予測ステップと、
蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定ステップと、 前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測価格に基づき電力売買による収益を算出する収益算出ステップと、
前記所定の期間における収益の期待値を算出する期待値算出ステップと、
前記収益が前記期待値以上か否かを評価する収益評価ステップと、
前記収益評価ステップにて前記収益は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期設定ステップにて設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定ステップと、
前記収益評価ステップにて前記収益は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定ステップにて設定した蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する修正指示ステップを行うことを特徴とする蓄電池制御方法。
【請求項8】
コンピュータを用いて、
過去の発電量を記憶する発電量記憶ステップと、
発電量の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での発電量を予測発電量として予測する発電量予測ステップと、
蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定ステップと、
前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測発電量に基づき蓄電池の充電量を算出する充電量算出ステップと、
前記所定の期間における充電量の期待値を算出する期待値算出ステップと、
前記充電量が前記期待値以上か否かを評価する充電量評価ステップと、
前記充電量評価ステップにて前記充電量は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期の設定ステップにて設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定ステップと、
前記充電量評価ステップにて前記充電量は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定ステップにて設定した蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する充放電時期の修正指示ステップを行うことを特徴とする蓄電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電池の充放電を行う蓄電池制御装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、蓄電池制御装置は、決められた充放電タイミングに従って蓄電池の充放電を行っている。電力価格が時間帯によって固定している場合、蓄電池の充放電タイミングが電力の調達コストを左右するので、蓄電池制御装置の重要性は増している。例えば、夜間の電力価格が安く、昼間の電力価格が高い場合には(図9参照)、夜間に蓄電池を充電し、昼間に蓄電池の放電を行う蓄電池制御装置が提案されている(特許文献1、2など)。
【0003】
これらの蓄電池制御装置では、電力価格が安い夜間に電力を購入して蓄電池に充電する。また、電力価格が高い昼間に蓄電池から放電することで電力を販売することも可能である。このようにして蓄電池制御装置が蓄電池を運用することにより、電気料金を安く抑えることができる。特に、電気料金が電力の最大使用量に基づいて決まっているのであれば、電気料金を下げることが可能である。また、夜間に蓄電池を充電し、昼間に蓄電池から放電する蓄電池制御装置によれば、1日を単位として負荷を平準化することができるといった効果もある。
【0004】
ところで近年では、太陽光発電や風力発電など自然エネルギーを利用する発電システムが高い需要を得ている。これらの発電システムでは、自然エネルギーを利用して発電するので、電力価格は0あるいは設備コストから計算される一定値であるが、発電量が変動することは否めない。そのため、自然エネルギーを利用する発電システムでは、発電量の変動を抑止し、システムの安定化を図る必要がある。
【0005】
そこで、自然エネルギーを利用する発電システムには蓄電池および蓄電池制御装置が接続されている。前記発電システムに接続された蓄電池制御装置では、発電システムが発電した電力を蓄電池に充電して発電電力を貯蔵し、発電量が不足すれば蓄電池から放電して不足分を補う。これにより、蓄電池制御装置は発電システムにおける発電量の変動を抑えることが可能であり、発電システムの安定化に寄与することができる。
【0006】
以上のような発電システムにおいては、変動する発電量に不確実性があることになる。発電システムの発電量に不確実性があると、蓄電池制御装置は、定められた蓄電池の充電量の上限を満たしながら、適切な充放電時期を決定することが困難である。例えば、発電システムが発電した電力を蓄電池に充電するとき、設定された充電タイミングで、発電システムの発電量が予測していた量よりも大きくなると、全ての発電量を取り込むだけの容量が、蓄電池側に無いケースが考えられる。
【0007】
このような事態に対応する従来技術として、特許文献3などが提案されている。特許文献3の技術では、複数の蓄電池を用意しておき、充電に必要な蓄電池容量を柔軟に確保している。これにより、発電システムの発電量が予測していた量よりも大きくなったとしても、複数の蓄電池のうちのいずれかに充電を行うことで、全ての発電量を確実に蓄電池に充電させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−304727号公報
【特許文献2】特開平10−174296号公報
【特許文献3】特開2012−60775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、複数の蓄電池を用意することで発電量の不確実性に対応する技術では、蓄電池の設置数が増える分だけ、設備が大規模になる。その結果、コストが増大するという問題がある。そもそも、複数の蓄電池を用意して充電に必要な蓄電池容量を確保する技術とは、単に蓄電池の充電量の上限を押し上げた技術であって、定められた蓄電池の充電量の上限を満たしつつ、適切な充放電時期を決定するといった課題を解決しているとは言い難い。
【0010】
また、不確実性は自然エネルギーを用いた場合の発電量に限らず、電力価格にも存在する。すなわち、電力価格が電力市場の取引価格によって決まる場合、将来のある時点での電力価格は不確実である。将来の電力価格に不確実性があると、電力の調達コストを最小化し、且つ電力の販売による利益を最大化するように、蓄電池の充放電時期を決定することは難しい。
【0011】
以上述べたように、電力価格や、自然エネルギーを用いた場合の発電量に、不確実性がある場合に、最適な充放電タイミングで蓄電池を運用する簡単な手法がなく、その開発が待たれていた。本発明の実施形態は、上記の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、過去の電力価格または発電量を統計的に分析することにより、簡便且つ精度良く、蓄電池の充放電タイミングを決定する蓄電池制御装置およびその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る蓄電池制御装置は、次の構成要素(a)〜(h)を有することを特徴とする。
(a)過去の電力価格を記憶する電力価格記憶部。
(b)電力価格の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での電力価格を予測価格として予測する価格予測部。
(c)蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定部。
(d)前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測価格に基づき電力売買による収益を算出する収益算出部。
(e)前記所定の期間における収益の期待値を算出する期待値算出部。
(f)前記収益が前記期待値以上か否かを評価する収益評価部。
(g)前記収益評価部が前記収益は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期の設定部が設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定部。
(h)前記収益評価部が前記収益は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定部に対し蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する充放電時期の修正指示部。
【0013】
また、本発明の実施形態に係る蓄電池制御装置は、次の構成要素(1)〜(8)を有することを特徴とする。
(1)過去の発電量を記憶する発電量記憶部。
(2)発電量の変動を統計的に再現して将来の任意の時点での発電量を予測発電量として予測する発電量予測部。
(3)蓄電池の充電時期および放電時期を設定する充放電時期の設定部。
(4)前記充電時期および前記放電時期を含む所定の期間において前記予測発電量に基づき蓄電池への充電量を算出する充電量算出部。
(5)前記所定の期間における充電量の期待値を算出する期待値算出部。
(6)前記充電量が前記期待値以上か否かを評価する充電量評価部。
(7)前記充電量評価部が前記充電量は前記期待値以上であると評価すれば前記充放電時期の設定部が設定した蓄電池の充電時期および放電時期を正式な充放電時期として決める充放電時期の決定部。
(8)前記充電量評価部が前記充電量は前記期待値未満であると評価すれば前記充放電時期の設定部に対し蓄電池の充電時期および放電時期の修正を指示する充放電時期の修正指示部。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態を示すシステム構成を示すブロック図。
図2】第1の実施形態における充放電時期決定処理を示すフローチャート。
図3】幾何ブラウンモデルによる電力価格の予測例を示すグラフ。
図4】平均回帰ジャンプ拡散モデルによる電力価格の予測例を示すグラフ。
図5】第1の実施形態における電力価格の予測例(a)、充放電時期の設定例(b)、収益例(c)を示すグラフ。
図6】行使価格と利益との関係を示すグラフ。
図7】本発明の第2の実施形態を示すシステム構成を示すブロック図。
図8】第2の実施形態における充放電時期決定処理を示すフローチャート。
図9】電力価格の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)第1の実施形態
(構成)
以下、本発明に係る第1の実施形態の構成について図1を参照して説明する。図1に示すように、蓄電池制御装置11は蓄電池10に接続されている。蓄電池制御装置11は、電力価格の過去実績データを記憶するデータベース1と、価格予測部2と、充放電時期の設定部3と、収益算出部4と、期待値算出部5と、収益評価部6と、充放電時期の決定部7と、充放電時期の修正指示部8を備えている。
【0016】
図2は、本実施形態において充放電時期決定処理を示すフローチャートである。まず、データベース1は電力価格の過去実績データを記憶する(S101)。価格予測部2は、データベース1から電力価格の過去実績データを取り込み、電力価格の変動を統計的に再現して、将来の任意の時点での電力価格を、予測価格として予測する(S102)。
【0017】
将来の電力価格の予測手法としては、種々のものが考えられるが、例えば、式(1)に示すような幾何ブラウンモデルがある。
(数1)
【0018】
ここで、Sが電力価格であり、μは期待収益率(ドリフト項)、σは価格の変動を表すボラティリティ、dWはウィーナー過程 (標準ブラウン運動)である。これらのパラメータは、データべース1に蓄積した電力価格の過去実績データから、容易に計算することができる。幾何ブラウンモデルは、株式等の価格変動を表す場合に用いられる標準的なモデルである。
【0019】
図3は、幾何ブラウンモデルによる電力価格の予測の例を示すグラフである。このグラフでは、多数の線をプロットしているが、これらの線は、等しい確率で発生すると考えられる、将来の電力価格の予測値である。図3では電力価格は上昇する場合もあるが、低下する場合もあることを示している。従って、将来の電力価格の予測値は、ある一つの値に決まるわけではなく、統計的に分布した価格の分布として求められる。
【0020】
他の電力価格の予測手法としては、式(2)に示されるような平均回帰ジャンプ拡散モデルがある。
(数2)
【0021】
ここで、κは平均回帰の速度、αは価格Sが回帰するレベル、σはボラティリティ、dWはウィーナー過程、Aはジャンプのサイズ、dqはポアソン過程である。一般に燃料価格などでは平均的な価格に戻る(回帰する)特徴が見られ、電力価格においても、しばしば平均回帰モデルが用いられる。また、電力価格には時々スパイク状の価格高騰が見られ、上記式(2)のようにポアソン分布に従うジャンプが発生する。平均回帰ジャンプ拡散モデルは、これらの性質を反映したモデルである。
【0022】
図4に、平均回帰ジャンプ拡散モデルによる電力価格の予測の例を示す。この場合も、多数の折れ線として将来の電力価格をプロットしているが、幾何ブラウンモデルよりも変動が激しい結果となっている。これらのモデルの他にも、将来の電力価格を予測する手法としては、移動平均モデル、AR(自己回帰)モデル、ARIMAモデル、GARCHモデル、カルマンフィルタモデル等が考えられる。
【0023】
これらのモデルを採用する場合の注意点として、電力価格には1日、1週間、1年の周期性(季節性)が存在する。また、燃料価格や需要変動など他の要因で確実に予測可能な周期性はあらかじめ考慮しておく必要がある。そこで、確実な予測が不可能な変動部分を、上記のような予測手法によってモデル化する。図5の(a)は、幾何ブラウンモデルを用いた場合の本実施形態の電力価格の予測例である。図5の(a)では将来の1日分の価格の予測結果が示されている。
【0024】
充放電時期の設定部3は、将来の電力価格が予測された後に、蓄電池の充電時期および放電時期を設定する(S103)。図5の(b)は充放電時期の例を示している。図5の(b)の例では、2時から5時まで充電を行って電力市場から電力を購入し、9時から14時まで放電を行い、電力市場に電力を販売することを示している。
【0025】
収益算出部4は、充放電時期の設定部3が設定した充電時期および放電時期を含む所定の期間において、価格予測部2の予測した電力価格が実現する確率を考慮し、期待値やばらつき(分散)に基づいて、電力売買による収益を算出する(S104)。この収益は、蓄電池10への充電による電力の購入に当てる支出と、蓄電池10からの放電による電力の販売で得られる利益との差から求める。なお、ばらつきが大きい場合にはそのような収益計画のリスクが大きい場合もある。
【0026】
図5の(c)は本実施形態における充放電による収益を示している。この例では2時から5時まで充電を行うことで電力市場から電力を購入するので、この時期の収益は負すなわち損失となる。また、9時から14時まで放電を行うことで電力市場に電力を販売するので、この時期の収益は正すなわち利益となる。最終的に、損失と利益の差から1日の収益が計算されるが、電力価格の予測結果に応じて収益も負になったり正になったりしている。
【0027】
これらの収益は等しい確率で発生するため、期待値算出部5は期待値を算出する(S105)。電力価格が幾何ブラウンモデルに従う場合、期待値算出部5は期待値を次のようにして求める。電力価格K円で充電された蓄電池10は、将来に電力の市場価格が上がってS円(S>K)となった場合に放電して市場に販売することで利益が得られる。このことは、株式市場のたとえで言えば、ある株をK円で購入する権利を保有していることに等しい。このような権利はコールオプションと言われ、オプション価格を計算する手法が知られている。
【0028】
上記のような権利の価格は、ブラックショールズ理論により決定され、例えばK円で購入する権利(コールオプション)の価格cは式(3)で計算される。
(数3)
【0029】
ここで、Sは市場価格であり、rは非危険利子率(通常は0と仮定、自己放電を考慮すれば負)、σはボラティリティ(価格変動の大きさを表す指標)、τは満期までの期間(売るまでの時間)、N(d)は標準正規分布の累積確率密度関数である。すなわち、オプション価格は、図6のような利益構造に対して、正規分布的な価格変動を仮定した場合の利益の期待値から計算される。K以下では利益が0であり、負(=損失)にならないため、損失が出るときには買わなくてよい選択権(オプション)の価値が生じる。
【0030】
一方、蓄電池10を充電する場合にも同様な考え方ができる。この場合には、電力を売る権利を持っていることに相当する。これは、プットオプションと呼ばれる権利であり、K円で販売する権利の価格pは、式(4)で計算される。
(数4)
【0031】
上記の価値を判断基準として、収益評価部6は、所定の期間における収益が期待値以上か否かを評価する(S106)。そして収益評価部6が、収益は期待値以上であると評価すれば(S106のYes)、充放電時期の決定部7は、前記図5の(b)の充放電時期を正式に決定する(S107)。このように、現在、蓄電池10を放電した(市場で売った)場合に得られる利益が、期待値であるコールオプションの価値を上回っているとき、放電することにすればよいことになる。また、収益評価部6が、収益は期待値未満であると評価すれば(S106のNo)、充放電時期の修正指示部8が、充放時期の設定部3に対し充放電時期の修正指示を出力して(S108)、S103に戻る。
【0032】
(作用および効果)
以上の第1の実施形態では、価格予測部2が将来の電力価格を予測し、充放電時期の設定部3がいったん蓄電池10の充放電時期を設定する。そして、収益算出部4は、価格予測部2が予測した電力価格に基づいて、充放電時期の設定部3が設定した充放電時期に充放電を行った場合の、電力価格の収益を算出する。このとき、収益評価部6は、収益が予め定められた期待値以上か否かを評価し、収益がこの期待値以上である場合のみ、充放電時期決定部7が充放電時期を正式に決定する。
【0033】
すなわち、第1の実施形態においては、たとえ将来の電力価格に不確実性があったとしても、収益評価部6の評価結果に従って、簡便且つ精度良く、蓄電池10の充放電タイミングを適切に決めることができる。したがって、第1の実施形態によれば、収益が期待値以上の時だけ、蓄電池10の充放電を実施することができ、電力の調達コストを最小化し、且つ電力の販売による利益を最大化することが可能である。その結果、電気料金の節約に寄与して、経済性を高めることができる。
【0034】
また、第1の実施形態においては、充放電による電力価格の収益が期待値未満であれば、充放電時期の修正指示部8が放電時期設定部3に対し充放電時期の修正を求めるため、充放電時期をいろいろと変化させて収益を計算し、収益が最大になる時期を決定することができる。このため、充放電時期を最適化して、経済性の向上に加えて、蓄電池10の長寿命化にも貢献することが可能である。
【0035】
(2)第2の実施形態
(構成)
第2の実施形態は、太陽光発電システムや風力発電システムなどに接続された蓄電池10を制御する蓄電池制御装置21である。上記第1の実施形態が電力価格の不確実性に対応したのに対して、第2の実施形態では自然エネルギーを用いた際の発電量の不確実性に対応する。
【0036】
図7に示すように、第2の実施形態では、上記第1の実施形態と同じく、充放電時期の設定部3と、充放電時期の決定部7と、充放電時期の修正指示部8を備えている。また、第2の実施形態における構成上の特徴は、前記価格予測部2に代えて発電量予測部12を、前記収益算出部4に代えて充電量算出部14を、収益評価部6に代えて充電量評価部16を備えた点にある。さらに、第2の実施形態では、データベース1が発電量の過去実績を記憶し、期待値算出部5は所定の期間における充電量の期待値を算出する。
【0037】
第2の実施形態では、図8のフローチャートに示すように、データベース1は発電量の過去実績データを記憶する(S201)。発電量予測部12は、データベース1から発電量の過去実績データを取り込み、発電量の変動を統計的に再現して、将来の任意の時点での発電量を、予測発電量として予測する(S202)。
【0038】
充放電時期の設定部3は、将来の発電量が予測された後に、蓄電池の充電時期および放電時期を設定し(S203)、充電量算出部14は、充放電時期の設定部3が設定した充電時期および放電時期を含む所定の期間における蓄電池10への充電量を算出する(S204)。また、期待値算出部5は充電量に対する期待値を算出する(S205)。
【0039】
充電量評価部16は、所定の期間における充電量が期待値以上か否かを評価する(S206)。そして充電量評価部16が、充電量は期待値以上であると評価すれば(S206のYes)、充放電時期の決定部7は、充放電時期の設定部3が設定した充放電時期を正式に決定する(S207)。また、充電量評価部16が、充電量は期待値未満であると評価すれば(S206のNo)、充放電時期の修正指示部8が、充放時期の設定部3に対し充放電時期の修正指示を出力して(S208)、S203に戻る。
【0040】
(作用および効果)
以上のような第2の実施形態では、発電量予測部12が将来の発電量を予測し、充放電時期の設定部3がいったん蓄電池10の充放電時期を設定して、充電量算出部14は、発電量予測部12が予測した発電量に基づき、充放電時期の設定部3が設定した充放電時期に充放電を行った場合の、蓄電池10への充電量を算出する。そして、充電量が予め定められた期待値以上であると充電量評価部16が評価した場合のみ、充放電時期の決定部7が充放電時期を正式に決定する。
【0041】
太陽光発電や風力発電の発電力を蓄電池10に貯蔵する場合、どのようなタイミングで充電を行うべきか従来は定まった手法がなかった。しかし、第2の実施形態では、発電量を予測し、蓄電池10への充電量の期待値を判断基準として、最適な充放電タイミングを簡便且つ精度良く、決定することができる。
【0042】
したがって、第2の実施形態によれば、充電量が期待値以上の時だけ蓄電池10の充放電を実施することで、発電電力を効率よく蓄電池10に貯蔵することが可能である。しかも、多数の蓄電池を用意することなく、発電量の不確実性に対応可能である。このため、設備の大規模化を回避して、コストの低減に寄与することができる。
【0043】
(3)他の実施形態
なお、上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0044】
例えば、蓄電池への充電が多数回に分けて行われた場合には、充電量(SOC)ごとにオプション価値を計算し、これらの総和としての現状の価値Cを把握するようにしてもよい。このような実施形態によれば、市場価格との差がC以上になると権利行使(放電)することで期待値以上の利益が得られる。
【0045】
また、蓄電池の充放電時の充電量が所定の範囲内に収まるように制御するようにしてもよい。このような実施形態によれば、蓄電池の充電量を所定の範囲内に収めつつ、適切な充放電時期を決定することができる。さらに、コンピュータを用いて上記の実施形態を実施する蓄電池制御方法、コンピュータを蓄電池制御方法として動作させるプログラム、そのプログラムを記憶した記憶装置も、本発明の一態様である。
【符号の説明】
【0046】
1 データベース
2 価格予測部
3 充放電時期の設定部
4 収益算出部
5 期待値算出部
6 収益評価部
7 充放電時期の決定部
8 充放電時期の修正指示部
10 蓄電池
11、21 蓄電池制御装置
12 発電量予測部
14 充電量算出部
16 充電量評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9