(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表示・機器制御部は、前記差異情報に基づき、医療行為中の医師スタッフに対する注意喚起メッセージと前記配置計画とをモニタに表示する請求項1記載の医療事故防止システム。
前記配置監視部は、医療行為中の医療スタッフおよび医療機器の配置を解析する映像解析部と、医療スタッフおよび医療機器を一意に識別する個体識別部と、医療スタッフの声を認識する音声認識部を有する請求項1記載の医療事故防止システム。
前記差異情報を保存する履歴情報保存部と、前記履歴情報保存部の履歴から、医療行為に対する最適な配置計画を分析する計画分析部を、さらに有する請求項1記載の医療事故防止システム。
前記グリッドパネルは、パネル上に存在する前記医療スタッフまたは医療機器、あるいはその両方を一意に識別し、かつ前記配置計画に基づく位置を表すグリッドを目視可能な発光源を有する請求項1記載の医療事故防止システム。
【背景技術】
【0002】
一般に医療の現場では、例えば手術等の医療行為が行われた場合、医療行為に関わった医師等によりその詳細がレポートとして記録される。このレポートには、医療行為中の様々な機器から出力された診察データ、医用画像、映像などが添付されることもある。
【0003】
しかし、上述のレポートは、多種多様なデータが時間の順序とは無関係に添付されていることも多く、医師などの専門家であっても、医療行為の手順を事後に確認・検証することはなかなか困難である。
【0004】
そこで、医療行為の様子をビデオカメラにより録画しておき、この録画された動画像に基づいて医療行為の手順を確認・検証することも考えられている。しかしこのような検証は、長時間にわたる動画像を、実施されている医療行為の内容を解析しながら見続けなければならず、非常に手間の掛かる作業であるという問題点がある。
【0005】
このため、医療行為の手順を容易に確認・検証することを可能とするようなシステムが種々提案されている。複数のイベントの組み合わせにより達成されるステージを複数含んだ医療行為の管理を行い、医療行為に関する医療器具および/または人間の状態を示す状態情報を時系列的に収集し、ステージの実施順序、ステージの開始タイミング、医療行為手順情報を自動的に生成するものがある(特許文献1参照)。
【0006】
また、医療事故を未然に防ぐためには、手術室の整理・整頓・清潔などが不可欠であり、医療行為に応じた医療機器の配置や医療スタッフの配置計画などが必要である。しかし医療行為の進捗状況やトラブルの発生によっては計画で決めた配置からずれてしまい、安全が維持されずに手術が推移してしまうということがある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について
図1から
図12を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
(第1の実施形態)
図1に示す本実施形態の医療事故防止システムは、主として手術などの医療行為の計画を行う手術計画システム1と手術計画システム1で計画した手術計画が行われているかを監視し、医療事故を防止するための手術監視システム2で構成される。
【0013】
手術計画システム1は、手術計画部11と、計画情報保存部12と、手術計画分析部13を有している。
【0014】
また、手術監視システム2は、配置監視部21と、状態判定部22と、履歴情報保存部23と、表示・機器制御部24と、操作卓25を有している。
【0015】
手術計画部11は、医療行為の準備から完了までの一連の流れを、医療スタッフまたは医療機器、あるいはその両方の配置に基づいて、複数の工程を表す医療ステージに分割し、医療行為中の医療スタッフおよび医療機器の配置計画を記した手術計画を医療ステージ毎に策定する。
【0016】
計画情報保存部12は、手術計画部11で策定された手術計画を保存し、この手術計画は、実際の医療行為が計画どおりに推移しているかの判定に用いられる。
【0017】
手術計画分析部13は、履歴情報保存部23に保存される過去の手術履歴から最適な配置計画を分析し、策定する手術計画に反映させる。
【0018】
配置監視部21は、医療行為中の医療スタッフまたは医療機器、あるいはその両方の配置を取得する。本実施形態では、医療行為中の医療スタッフおよび医療機器の配置を解析する映像解析部211と、医療スタッフおよび医療機器を一意に識別する個体識別部212と、医療スタッフの声を認識する音声認識部213を有している。
【0019】
映像解析部211は、手術室の上部、側面に設置された複数のカメラ214の映像を用いて、医療スタッフおよび医療機器の位置および向きを画像解析により解析する。
【0020】
また、個体識別部212は、バーコードやRFID215タグが付けられた医療スタッフおよび医療機器をバーコードリーダやRFIDリーダ215によって一意に識別する。そして、個体識別部212で一意に識別された医療スタッフおよび医療機器は、映像解析部211の解析画像と関連付けられて、医療スタッフおよび医療機器の位置移動や向きなどが認識される。さらには、医療スタッフの目線や、ジェスチャを認識させることも可能である。
【0021】
音声認識部213は、医療スタッフや手術台、その他所定の位置に取りつけられたマイクで集音した医療スタッフの声を認識して、音声認識からその指令を認識する。また、患者や医療機器の異音なども認識させることが可能である。
【0022】
個体識別部222で一意に識別された医療スタッフよび医療機器は、音声認識部213の音声認識とも関連付けられる。
【0023】
そして配置監視部21は、医療行為中の医療スタッフおよび医療機器の配置を所定の時間単位(例えば1分)、で取得する。
【0024】
状態判定部22は、配置監視部21で取得した医療スタッフおよび医療機器の監視情報を取得し、手術計画部11で策定した手術計画との差異情報を求める。
【0025】
履歴情報保存部23は、状態判定部22で求めた差異情報と手術計画とを関連付けて保存する。
【0026】
表示・機器制御部24は、状態判定部22で求めた差異情報に基づき、必要に応じて医療行為中の医師スタッフに対する注意喚起メッセージと、手術計画に基づく配置位置をモニタ241に表示する。また、医療ステージに基づいて医療機器の配置移動を制御し、医療機器の動作条件を設定し、あるいは医療機器の測定値を取得する。
【0027】
操作卓25は、手術監視システム2に対する各種制御命令を入力するものであって、各種制御命令を入力するために、マウス、トラックボール、ジョイスティック、キーボード、各種スイッチなどのユーザインタフェースデバイス(図示せず)が配置される。また、点線矢印に示すようにモニタ241に形成されたタッチパネルなどのタッチ情報も含んでいる。
【0028】
以上のようにして構成された医療事故防止システムの動作について
図2のフローチャート図を用いて具体的に説明する。本実施形態では、悪性脳腫瘍摘出手術を仮定して説明を行う。
【0029】
ステップST201にて状態判定部22は、手術計画部11より手術計画を取得する。
図3から
図5に示す手術計画は、医療ステージに分類にされ、例えば、「開頭」、「腫瘍へのアプローチ」、「画像診断」、「閉創」の4段階に分けている。ただし、これは説明のため簡略化した分類であって、「開頭」の前に「麻酔」ステージなどの必要な医療ステージを追加してもよい。また複数の腫瘍摘出のために、「腫瘍へのアプローチ」、「画像診断」を繰り返してもよい。大きく医療スタッフの位置や、医療機器の位置が変化する場合には、各医療ステージをさらに細かく分割してもよい。
【0030】
図3では、各医療ステージに対して、手術を実行するのに必要な医療スタッフ全員(医師A、医師B、医師C、看護師E、および看護師F)の配置位置が記されている。そして各医療スタッフは、医師AにはD001のように、一意に識別可能な識別子と関連付けられている。また、患者移動がある場合には、患者Pにも配置位置が記される。
【0031】
図4では、各医療ステージに対して、手術を実行するのに必要な主たる医療機器(画像診断装置、手術顕微鏡、器械台、バイタルモニタ、脳波モニタ、麻酔器、看護師カート)の配置位置が記されている。また、各欄の上部は配置位置を示し、下部は、医療機器の動作条件などが記されている。そして画像診断装置はM001のように、各医療機器は、一意に識別可能な識別子と関連付けられている。
【0032】
図5では、各医療ステージに対する開始時間、終了時間、所要時間が記されている。例えば「開頭」ステージは、開始時間が9:00、終了時間が10:00、所要時間が60分である。
【0033】
ステップST202では、
図3と
図4のテーブルに基づき、状態判定部22は、「開頭」ステージ開始において医療スタッフと医療機器が正しい配置にあるかどうかを確認する。
【0034】
図7は、「開頭」ステージによる医療スタッフと医療機器の手術室内での配置例である。手術室は正方形のグリッドに分割されており、実施形態では上部から見て略人間一人が占有する領域を1グリッドとしている。
【0035】
実施形態の1グリッドは、医療スタッフと医療機器の両方について共通して使用しているが、別の大きさのグリッドを用いて独立に管理してもよい。またここでは、医療スタッフについては頭の位置、医療機器については、上部からみた略中心を配置位置としている。すなわち、医療スタッフについて言えば、医師A(執刀医)はD3に、医師B(補助医)はD2に、医師C(麻酔医)はF2に、器械台における手術器具受け渡しを行う看護師DはF4に位置している。なお、看護師Eは、外回り(手術で発生する諸々の事態に対応する)を主とするため配置は設定されていない。ただし、外回りを行う範囲のグリッドを複数指定してもよい。
【0036】
そして、「開頭」ステージに必要な医療スタッフと医療機器の配置が確認されると、「開頭」ステージが開始される。「開頭」ステージは、執刀医(医師A)と補助医師(医師B)によって、患者Pの頭部に固定フレームを装着し、開頭箇所にマーキングし、消毒し、皮切・骨切し、術野を確保するために硬膜を吊り上げる作業などが行われる。
【0037】
そして、ステップST203において、配置監視部21は、この作業を例えば1分毎のように決められた期間毎に、医療スタッフと医療機器の配置、および医療機器の測定値などの手術状態情報を監視・記録する。そしてこの手術状態情報は順次、状態判定部22に送られる。
【0038】
ステップST204において、状態判定部22では、実際の医療スタッフと医療機器の配置と手術計画との間で差異があるかどうかを判定する。差異があれば(ステップST204:Yes)、この差異をログとして履歴情報保存部24に記録する。この差異情報が、医療スタッフに注意喚起が必要なレベルであれば、表示・機器制御部24を介してモニタ241に警告メッセージと、正しい配置を提示する(ステップST205)。医師の判断により、問題がなければそのまま医療行為を進めてもよいし、問題がある場合には、適正な位置に再配置してステップST203へ戻る。また、差異が発生した場合には、映像解析部211で録画している映像のタイムスタンプと同期を行い、事後の検証を容易にする。
【0039】
図4に示すように、医療機器には、動作条件を記載できる。例えば、手術顕微鏡M002が退避位置にあるか?バイタルモニタM004で検知される心拍数は規定の範囲内か?脳波モニタM005のBIS値は規定の範囲か?などの条件である。この条件を満たさない場合も差異情報として履歴情報保存部24に記録し、この差異情報が、医療スタッフに注意喚起が必要なレベルであれば、表示・機器制御部24を介してモニタ241に警告メッセージを表示させる。また、音声で注意喚起を行っても良い。
【0040】
図6は、差異情報を示すテーブル図の例である。各医療ステージに対して、項目、発生時刻、計画値、実施値などが記録される。項番1は、「開頭」ステージ開始時(9:00)に看護師Dが不在であったことが記録されている。項番2は、「開頭」ステージの9:15にバイタルモニタM004で計測する心拍数が、あらかじめ設定してあった範囲(A1以上A2以下)の範囲を超え、A3値であったことを表している。項番3は、「腫瘍へのアプローチ」ステージの11:34に脳波モニタM005のBIS(bispectral index)値が、あらかじめ設定してあった範囲(C1以上C2以下)の範囲を超え、C3値であったことを表している。特に、心拍数やBIS値が計画値に比べて急変した場合には、患者の容態が急変していることを表しているため、医療スタッフに対して早急な注意喚起メッセージが必要である。
【0041】
ステップST206では、すべての医療ステップが終了しているかどうかを判断する。すべての医療ステップが終了していれば、フローチャートを終了するが、「開頭」ステージが終了した段階では(ステップST206:No)、次の医療ステップ、「腫瘍へのアプローチ」ステップへ進み、ステップST202では、「腫瘍へのアプローチ」ステージ開始の配置を確認することになる。
【0042】
「腫瘍へのアプローチ」ステージは、脳組織を圧排、切除しながら腫瘍部を術野に露出させるまでの作業であり、手術顕微鏡下で行われる。すなわち、
図4の手術計画に従って、手術顕微鏡をD2の位置まで移動する。手術顕微鏡に自動移動機構が搭載されている場合には、表示・機器制御部24は医用機器を退避の位置から使用時の位置まで自動的に移動することができる。後のステップは、「開頭」ステージのステップと同様なため省略する。
【0043】
同様に、「画像診断」ステージでは、
図4の手術計画に従って、一旦手術顕微鏡を退避させ、患者Pを画像診断装置内に移動させるため、医療機器は配置を大きく変える。また、画像診断中は、医師C(麻酔医)以外は、不定とする。また、画像診断装置に対しては、手術計画に基づく所定のスキャン条件が自動的にセットされる。
【0044】
画像診断により腫瘍が摘出したことが確認されると、「閉創」ステージにて閉創作業が行われる。
【0045】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、手術計画に基づく医療スタッフと医療機器の管理が可能となるため、医療行為中の手術室の整理・整頓・清潔など計画に基づいて行える。また、医療行為の進捗状況やトラブルの発生によっては計画で決めた配置からずれた場合についても、注意喚起やモニタ画面による指示が行えるため、安全が維持されずに手術が推移してしまうことを防止できる。このため、医療事故を未然に防ぐことが可能となる。また、医療行為後に検証作業を行う場合についても、差異情報が発生した時間が示されるため、事後問題のあった映像個所を容易に抽出できるという効果を奏する。
【0046】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、手術計画システム1における手術計画について述べる。手術計画分析部13は、履歴情報保存部23における過去の履歴を参照し、手術計画部11における手術計画策定にフィードバックを行うことにより、手術計画の信頼性を向上させることができる。
【0047】
図10は、手術計画立案のフローチャート図である。手術を行うための手術計画を策定するにあたり、ステップST101では、手術計画分析部13は履歴情報保存部23から手術履歴情報の取得を行う。
【0048】
ステップST102では、手術部位を検索ワードとして検索を行い、参考となる部位データの抽出を行う。また、抽出したデータの差異情報について各種統計処理を行い、どのような医療ステージで問題が多く発生したか?を分析表示させ(ステップST103)、最適な医療スタッフ人員、医療機器数、所要時間などを求め、手術計画を策定していくことができる(ステップST104)。また、必要に応じて問題となった個所の映像データを閲覧することも可能である。
【0049】
従って、第2の実施形態によれば、過去の履歴を手術計画策定に有効にフィードバックすることにより、手術計画の信頼性を向上させることが可能となる。
【0050】
(第3の実施形態)
本実施形態は、医療スタッフや医療機器の配置管理に有効な床グリッドパネルの実施形態について説明する。
図11は、本実施形態の医療事故防止システムのブロック構成図、
図12は、床グリッドパネルのブロック構成図である。
【0051】
図12に示すように、床グリッドパネル110は、その上部に位置する医療スタッフや医療機器の接触を感知する接触検知部111、医療スタッフや医療機器に付けられたRFIDタグを読み取るRF−ID受信部112、また、位置指定を目視可能に点灯させる発光部113を有する。接触検知部111は、磁場の変化を読み取る方式や接触点の抵抗値変化を読み取る方式などの各種方式が可能であり、発光部113は、LED(Light Emitting Diodes)などが好ましい。
【0052】
そして複数の床グリッドパネル(110#1〜110#N)は手術室の床に敷設され、各グリッドパネル110#1〜#Nの接触検知部111の配線を束ねた端子114、RF−ID受信部112の配線を束ねた端子115は、配置監視部21に接続される。また、発光部113を束ねた端子116は、表示・機器制御部24へと接続される。このように床グリッドパネルを用いて構成された医療事故防止システムは、床グリッドパネル110上にある医療スタッフと医療機器を識別可能であると同時に、手術計画と異なった配置にある場合には、発光部113により適切な位置を指示することが可能となる。
【0053】
(その他の実施形態)
また、
図1または
図11の音声認識部213に医療スタッフの声を登録することで、医療スタッフの声により、医療機器の動作を制御することが可能となる。さらには、映像解析部211に医療スタッフの目線追跡機能やジェスチャ判定機能を具備させることにより、医療スタッフの目線やジェスチャにより医療機器の動作を制御することが可能となる。
【0054】
以上述べた実施形態によれば、医療行為中の医療スタッフや医療機器を配置計画に従った場所に誘導し、医療行為後の検証が容易な医療事故防止システムを提供できる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0056】
これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。