(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
男性型脱毛症、円形脱毛症などの脱毛症の多くは、未だその発症機序の詳細が不明である。従来これらの脱毛症の治療には、経験的に、血行促進剤、免疫抑制剤、代謝促進剤、ビタミン剤、抗男性ホルモン剤等の薬剤が用いられ、また、植物性の素材についても多くの報告がある(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
しかしながら、これらの薬剤は、症状や体質によっては効果が異なる場合が多く、その効果も未だ満足できるものではない。また、多量に使用すると適応部位に不快な刺激感を与えたり、継続使用により皮膚炎が発生するといった場合もある。
【0004】
一方、マメ科ソラマメ属の植物であるソラマメ(Vicia faba)は、世界各地で古くから食用にされ、たんぱく質、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、カリウム、鉄、銅等を多く含むことから、高血圧症、疲労、倦怠感、夏バテ、動脈硬化症に効果があることが知られている。シクンシ科シクンシ属の植物であるシクンシ(Combretum indicum)は、駆虫作用があり、腹痛、消化不良、下痢に対して民間薬として使用され、また、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用やチロシナーゼ活性阻害作用を有することが報告されている(特許文献4)。ショウガ科ハナミョウガ属の植物であるナンキョウ(Alpinia galanga)は、胃痛、消化不良、嘔吐、下痢に対して民間薬として使用され、また、発がん抑制作用や抗炎症作用を有することが報告されている(非特許文献1及び2)。
【0005】
しかしながら、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウに毛成長促進作用があることはこれまでに知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「ソラマメ」とは、マメ科ソラマメ属のソラマメ(蚕豆、Vicia faba)を指し、「シクンシ」とは、シクンシ科シクンシ属のシクンシ(使君子、Combretum indicum)を指し、「ナンキョウ」とは、ショウガ科ハナミョウガ属の植物であるナンキョウ(大良姜、Alpinia galanga)を指し、所謂ショウガ(ショウガ科ショウガ属のZingiber officinale)とは異なる。
本発明の植物は、全草、葉、茎、芽、花、蕾、根、根茎、種子、若しくは果実等、又はこれらを組み合わせて使用することが可能であるが、ソラマメについては種子を、シクンシについては種子を、ナンキョウについては根茎を用いるのが好ましい。斯かる植物は、そのまま若しくはそれを圧搾することにより得られる搾汁、植物体自身を乾燥した乾燥物若しくはその粉砕物、あるいはこれらから抽出した抽出物として用いることができるが、抽出物として用いるのが好ましい。
また、本発明において、上記の植物又はその抽出物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
斯かる植物の抽出物としては、公知の抽出方法により抽出して得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末が挙げられる。公知の抽出方法としては、例えば、浸漬、煎出、浸出、固液抽出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出及びマイクロ波抽出等が挙げられる。例えば、浸漬は、0℃〜溶媒沸点(好ましくは15〜40℃)で1時間〜4週間、浸漬・浸出することが挙げられ、固液抽出は、0℃〜溶媒沸点(好ましくは15〜40℃)下、30〜1000rpmで30分〜2週間の攪拌もしくは振盪することが挙げられる。また、抽出物の酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。また、還流抽出の場合には、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行うことができる。
【0014】
抽出のための溶剤には、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び超臨界二酸化炭素;ピリジン類;油脂、ワックス等その他オイル類等の有機溶剤;ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類及び水−アルコール系混合溶剤が挙げられ、アルコール類としてはエタノールが好ましい。このうち、水、及びエタノール水溶液が好適である。また、エタノール水溶液としては、エタノール濃度が、好ましくは10%(v/v)以上、より好ましくは20%(v/v)以上、且つ好ましくは95%(v/v)以下、より好ましくは90%(v/v)以下であり、また好ましくは10〜95%(v/v)、より好ましくは20〜95%(v/v)であるものが挙げられる。
【0015】
本発明の植物抽出物は、例えば、植物体1質量部に対して1質量部以上50質量部以下の抽出溶剤を用い、4℃以上100℃以下にて0.5時間〜30日間で、抽出することにより行うことができる。より具体的には、抽出溶剤としてエタノール水溶液を用いる場合には、植物体1質量部に対して5質量部以上30質量部以下、室温で1時間〜10日間が好ましい。また、これらの作業を繰り返し行っても良い。
【0016】
本発明において、上記の抽出物はそのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・プロピレングリコール混液、水・ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0017】
本発明の植物抽出物は、例えば化粧品や医薬品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよい。また、必要に応じて、液々分配、固液分配、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂等の公知の技術によって不活性な夾雑物の除去、脱臭、脱色等の処理を施すことができ、さらに公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0018】
後記実施例に示すように、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウの各植物抽出物は、器官培養毛の伸長を有意に促進する作用を有する。従って、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物(以下、「本発明の植物又はその抽出物」と称する)は、毛成長促進のために使用でき、毛成長促進剤となり得る。また、当該毛成長促進作用を介して、育毛効果、又は脱毛の防止又は抑制効果を発揮し得ることから、本発明の植物又はその抽出物は、抜け毛防止又は育毛のために使用でき、抜け毛防止剤又は育毛剤となり得る。また、本発明の植物又はその抽出物は、毛成長促進剤、抜け毛防止剤又は育毛剤を製造するために使用することができる。ここで、本発明の植物又はその抽出物を用いた使用は、ヒト若しくは非ヒト動物に対する使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
ここで、「毛成長促進」とは、毛又は毛包の伸長を促進する作用、あるいは毛径を拡大させる作用を意味する。
また、「育毛」とは、例えば、育毛、発毛の促進および脱毛の予防の少なくとも一つを意味し、発毛、毛成長(伸長)促進、或いは養毛を含む概念である。
【0020】
本発明の植物又はその抽出物は、毛成長促進、抜け毛防止又は育毛のための、化粧品、医薬品、医薬部外品であり得、又は毛成長促進、抜け毛防止又は育毛のための、化粧品、医薬品、医薬部外品を製造するための原料又は素材であり得る。
【0021】
本発明の植物又はその抽出物を含む、化粧品、医薬品、医薬部外品等の各種製剤組成物の形態は、経口又は非経口投与の形態のいずれでも良いが、非経口投与の形態であるのが好ましく、皮膚外用剤であるのがより好ましい。具体的には、軟膏、乳化化粧料、クリーム、乳液、ローション、ジェル、エアゾール等の種々の形態で用いることができるが、とりわけヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアローション、ヘアトニック、ヘアパック、ヘアクリーム、コンディショニングムース、ヘアムース、ヘアスプレー、シャンプー、リーブオントリートメント等の形態とするのが好ましい。
【0022】
上記製剤組成物は、それぞれ一般的な製造法により、本発明の植物又はその抽出物、又は製剤上許容し得る担体、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。また、これらの製剤組成物には、本発明の植物又はその抽出物の他、それぞれ化粧品、医薬部外品、医薬品等の製剤の種類に応じて、適宜、他の植物抽出物、殺菌剤、保湿剤、抗菌剤、清涼剤等の薬効成分を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。また、育毛効果を更に高めるべく、他の育毛成分(例えば、抗炎症剤、細胞賦活剤、皮脂分泌抑制剤、末梢血管拡張剤、アミノ酸類、ビタミン類等)を適宜配合することもできる。
【0023】
当該製剤組成物中の本発明の植物又はその抽出物の含有量は、当該抽出物の乾燥重量に換算して、一般的に好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、且つ好ましくは99質量%以下、より好ましく20質量%以下であり、また好ましくは0.001〜99質量%、より好ましくは0.01〜20質量%である。
【0024】
上記医薬品、医薬部外品の投与量は、本発明の効果が得られる量であれば特に限定されず、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、成人(60kg)1人当たり1日、本発明の植物又はその抽出物(乾燥物換算)として、例えば好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上であり、且つ好ましくは1000mg以下、より好ましくは100mgである。また、好ましくは0.01〜1000mg、より好ましくは0.1〜100mgである。 また、当該製剤は、任意の摂取・投与計画に従って摂取・投与され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数カ月間継続して投与することが好ましい。
また、上記化粧品、医薬品又は医薬部外品の適用対象者としては、それを必要としていれば特に限定されないが、毛成長促進、発毛又は育毛、あるいは抜け毛防止を目的とするヒトが好ましい。
【0025】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする毛成長促進剤。
<2>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする抜け毛防止剤。
<3>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする育毛剤。
【0026】
<4>毛成長促進剤を製造するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物の使用。
<5>抜け毛防止剤を製造するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物の使用。
<6>育毛剤を製造するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物の使用。
<7>毛成長促進に使用するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物。
<8>抜け毛防止に使用するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物。
<9>育毛に使用するための、ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物。
<10>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を用いる毛成長促進方法。
<11>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を用いる抜け毛防止方法。
<12>ソラマメ、シクンシ及びナンキョウから選ばれる植物又はその抽出物を用いる育毛方法。
<13>非治療的である<10>〜<12>の方法。
<14>使用が非治療的な使用である<7>〜<9>の方法。
<15>前記<1>〜<14>の抽出物において、ソラマメについては種子を、シクンシについては種子を、ナンキョウについては根茎を用いて抽出するのが好ましい。
<16>前記<1>〜<15>の抽出物を抽出するための溶媒は好適には、水、アルコール類及び水−アルコール系混合溶剤が挙げられ、アルコール類としてはエタノールが好ましい。このうち、水、及びエタノール水溶液が好適である。
<17>前記<16>のエタノール水溶液におけるエタノール濃度は、好ましくは10%(v/v)以上、より好ましくは20%(v/v)以上、且つ好ましくは95%(v/v)以下、より好ましくは90%(v/v)以下であり、また好ましくは10〜95%(v/v)、より好ましくは20〜95%(v/v)である。
【実施例】
【0027】
製造例1 ソラマメ抽出物の製造
ソラマメ(Vicia faba)の種子粉砕物50gに50%エタノール水溶液0.5Lを加え室温で7日間浸漬した。これをろ過し、ソラマメ抽出液を得た。このソラマメ抽出液を濃縮したところ、その固形分は5.16gであった。この抽出物を50%エタノール水溶液にて希釈し、1%(w/v)の溶液とした。
【0028】
製造例2 シクンシ抽出液の製造
シクンシ(Combretum indicum)の種子粉砕物50gに50%エタノール水溶液0.5Lを加え室温で7日間浸漬した。これをろ過し、シクンシ抽出液を得た。このシクンシ抽出液を濃縮したところ、その固形分は5.5gであった。この抽出物を50%エタノール水溶液にて希釈し、1%(w/v)の溶液とした。
【0029】
製造例3 ナンキョウ抽出液の製造
ナンキョウ(Alpinia galanga)の根茎50gに50%エタノール水溶液0.5Lを加え室温で7日間浸漬した。これをろ過し、ナンキョウ抽出液を得た。このナンキョウ抽出液を濃縮したところ、その固形分は19.9gであった。この抽出物を50%エタノール水溶液にて希釈し、1%(w/v)の溶液とした。
【0030】
実施例1 ブタ単離毛包を用いた毛成長促進効果の評価
(1)食肉加工所で食肉用にと殺された豚より取得した臀部皮膚を、適当な大きさに切り分け、余分な脂肪組織を除いた。ヒビテン液に20分浸漬したあと、PBS(Ca及びMg不含、Life Technologies、1%抗菌剤含む)で3回洗浄した。洗浄後10cm径シャーレに滅菌ガーゼ(白十字ステラーゼ)を敷き、皮膚の乾燥を防ぐためPBSを適当量添加し、ガーゼ上に豚皮を置いた。次に実態顕微鏡下でピンセットとメス(FEATHER No 10)を用い、毛包を傷つけないように注意しながら1本ずつに単離し、培地中に回収した。培地にはWilliam’s Medium E(SIGMA)を用いた。添加剤として2mM L−グルタミン(Life Technologies)と1%(V/V)抗生物質(Life Technologies)10μg/mlハイドロコルチゾン(SIGMA)、0.01μg/mlインスリン(SIGMA)を添加した。
単離された毛包は上記培地の入った24穴プレートに1ウェルに1本ずつ入れ、37℃、5%CO
2条件下で培養した。培養開始時と培養2日後に写真撮影を行い、画像解析を行った。
【0031】
(2)画像解析結果より、2日間で0.2mm以上伸長した毛包を、試験物質が添加された培地に移した。試験物質としては製造例1〜3で調製した各植物抽出物(最終濃度0.01%(w/v))を用い、対照として同量の50%エタノール溶液を用いた(control)。
試験物質添加培地による培養開始後、経時的に写真撮影と培地交換を行った。写真より画像解析を行い、毛包の伸長量を計測し、各植物抽出物による毛伸長促進率として、対照群の伸長量に対する各植物抽出物添加群の伸長量の割合(%)を求めた。さらに、対照群と各植物抽出物添加群との伸長量の違いを統計学的に解析した(non-paired t-test vs control)。
【0032】
(3)結果
結果を表1〜3に示す。対照(control)群、各植物抽出物添加群とも、培養時間の経過とともに毛包の伸長(毛成長)が観察されたが、対照群と比較して各植物抽出物添加群では、当該毛包の伸長が促進された。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】