特許第6386812号(P6386812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6386812-蛍光X線元素分析用の試料作製方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386812
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】蛍光X線元素分析用の試料作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20180827BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20180827BHJP
   G01N 1/44 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   G01N1/28 Z
   G01N23/223
   G01N1/44
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-131213(P2014-131213)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-8934(P2016-8934A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116481
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇行
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−090273(JP,A)
【文献】 特開平05−045272(JP,A)
【文献】 特表2014−508846(JP,A)
【文献】 特開2002−350372(JP,A)
【文献】 特開2014−001406(JP,A)
【文献】 特開2015−031569(JP,A)
【文献】 米国特許第07286633(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 − 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状原料油低密度ポリエチレンを混合し、得られた混合物を加熱して低密度ポリエチレンを溶融させた後、該混合物を固化させることを特徴とする蛍光X線元素分析に用いる分析試料の作製方法。
【請求項2】
固化させる際に急冷することを特徴とする請求項1に記載の分析試料の作製方法。
【請求項3】
固化させる際に、固化に用いる型を予熱しておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析試料の作製方法。
【請求項4】
前記液状原料油がカーボンブラック製造用のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線元素分析用の試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック製造用の原料油に含まれる微量金属分は、カーボンブラックの製造において、純度低下の原因となったり、望ましくない副反応の開始物質となったりすることが多い為、原料油の適性判断において、その分析に対する要求が高い測定項目である。
公知の分析手法としてはICP(誘導結合プラズマ)分析装置を用いる方法があるが、この手法は分析試料の灰化等、調製に長時間を要し、簡便に測定できる分析方法とは言えない。そこで、より迅速、簡便に分析を行う為、今日では蛍光X線元素分析法(XRF)が用いられるようになってきている。しかし、XRFにより原料油を液状のままで分析する場合には、液状分析試料を保持する為に試料固定用のホルダーの下面にフィルムを貼付する必要が有り、測定時の感度に大きな影響を及ぼすため、望ましい条件での測定にはなっていない。また固体分析試料の測定時には、X線強度を保つ為に分析試料をセットする試料室を真空化しているが、液状の原料油の測定の際には原料油に含まれる揮発成分によって真空吸引が上手く行えないし、原料油自身の発泡によって資料室が汚染されるため、利便性の高い手法とは言えない。この対策として、試料室をヘリウム雰囲気にする手法も有るが、ヘリウム雰囲気下では真空状態と比較してX線が減衰する為、やはり望ましい形での測定ではない。加えて、カーボンブラックの製造に影響を及ぼすNaやMgのような軽元素の検出の際には、上述した悪影響が強く働き、X線出力の大きいタイプのXRFを用いてもNaは検出できないのが現状である。
【0003】
上記の諸問題に対し、液状油の分析試料を固化する手法が検討されており、特許文献1では12−ヒドロキシステアリン酸(12−HSA)を用いて固化させている。しかし、12−HSAは融点が低い為、長時間のX線照射による固化物の溶融、軟化、変形の恐れがある。その結果、試料室の真空度が低下し、照射面の変形による検出ピークのずれや検出精度の低下が生じる。この対策としてX線照射面をフィルムで覆う手法もあるが、やはり感度低下をもたらし、特に軽元素のような検出難易度の高い元素の測定には不向きである。更に、12−HSAは、XRFの種類によっては装置内部の分光結晶表面を侵す可能性が指摘されており、測定機器の短命化、或いは測定結果への悪影響等が懸念される。
【0004】
また、特許文献2には、液状油の分析試料に、アルカリ金属水酸化物と澱粉を添加して石鹸化する手法が開示されている。この手法によると、上記12−HSAを用いた場合の融点の問題は解決されるが、測定対象にアルカリ金属が含まれる場合には正確な測定ができない。例えば一般的な水酸化ナトリウムを用いた場合には、それ自体が不純物となり、Naの正確な測定は当然不可能である。また、水酸化カリウムで石鹸化すると液体になるし、水酸化リチウムは労働安全衛生法上の通知対象物質であるため扱いに危険が伴うなど種々の問題がある。したがって、この手法も必ずしも平易な手法とは言えない。
このように、従来の液状油の分析及びその為の分析試料の固化技術は、高精度の分析と測定の容易性の両立が十分でなく、これらを解決する手法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2796067号公報
【特許文献2】特許第3518176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液状原料油の蛍光X線元素分析(XRF)に際して、平易に用いることができ、且つ、高精度の分析結果が得られる分析試料の作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 液状原料油低密度ポリエチレンを混合し、得られた混合物を加熱して低密度ポリエチレンを溶融させた後、該混合物を固化させることを特徴とする蛍光X線元素分析に用いる分析試料の作製方法。
2) 固化させる際に急冷することを特徴とする1)に記載の分析試料の作製方法。
3) 固化させる際に、固化に用いる型を予熱しておくことを特徴とする1)又は2)に記載の分析試料の作製方法。
4) 前記液状原料油がカーボンブラック製造用のものであることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の分析試料の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液状原料油の蛍光X線元素分析(XRF)に際して平易に用いることができ、且つ、高精度の分析結果が得られる分析試料の作製方法を提供できる。また液状原料油を固化し、真空下におけるXRF分析を可能としたので、分析試料中の軽元素(特にNaやMg)を迅速かつ簡便に検出できる。更に灰化物をICPで分析する手法と比べて、試料の前処理時間が非常に短くなるし、従来の固化方法の検出精度の低さや取扱い物質の危険性といった諸問題も解決されるので、上記軽元素以外の分析についても簡便性に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】液状原料油の分析試料の固化に用いる型の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
前述したように、従来のXRF分析用の液状分析試料の固化技術は、X線照射時の試料の安定性に問題が有る。そこで検討を重ねた結果、液状分析試料を低密度ポリエチレン(LDPE)で固化すると、長時間X線を照射しても安定で、X線照射された面が変化したり変形したりしないことを見出し、本発明を完成した。また、液状分析試料の固化工程において、特定の手法を採用することにより、高精度の分析に適した平滑なX線照射面を有する分析試料を簡便に得ることに成功した。
LDPEは安全性が高く、炭素と水素のみからなるため不純物が少ないので好ましい。また高密度ポリエチレン(HDPE)に比べて、適度な加熱温度により溶解し、混合作業が容易である点で好ましい。HDPEの場合は、融点が高温なため、油試料の揮発による測定結果への影響が懸念される。また、HDPEやヒドロキシステアリン酸を用いると、固化後の試料に延伸性が無いため取扱いに問題がある。
本発明の対象となる液状原料油としては、例えば、カーボンブラック製造用のもの、FCC油(流動接触分解油)、タール油などが挙げられる。
【0011】
液状原料油を固化する具体的な手順の一例を次に示す。
液状原料油とLDPEを、後述する割合で混合して金属容器に入れ、電熱器等の外部加熱手段で130℃以上に加熱して、混合物中のLDPEを溶融させる。次いで、溶融物を撹拌混合し、底の内面に平滑面を有する型に流し込む。この際、型を予熱しておくと(通常は100℃程度)、混合物を流し込んだ瞬間に溶融物が固化するのを確実に防止することができ、分析時にX線照射面となる分析試料底面の平滑性を確実に確保することが出来るので好ましい。次いで、水等を用いて型ごと冷却し、分析試料を完全に固化させた後、離型して固化した分析試料を得る。分析試料は急冷することが好ましく、急冷せずに自然冷却等で徐々に冷却すると、油が分離して分析試料表面に表出し不均一化することがある。なお、固化した分析試料は、XRF分析前に予め真空デシケータ等で予備的に真空引きをしておくことが好ましい。これにより、表面に微量に残った未固化分を揮発させ、分析試料表面に不純物が無い清潔な状態を保つことが可能となる。
【0012】
前記液状原料油とLDPEの混合割合は、重量比で30:70〜60:40の範囲が好ましく、より好ましくは30:70〜55:45の範囲である。液状原料油の割合が30:70以上であれば、測定対象元素を検出可能な原料油の絶対量を十分確保できる。また、液状原料油の割合が60:40以下であれば、LDPEが原料油を固着し切れず原料油が固化物表面に滲み出すようなことはない。
前記外部加熱手段による加熱温度は、LDPEの融点及び原料油をLDPE中に均一に分散するための流動性の確保を考慮すると、130℃以上とすることが好ましい。
分析試料の底面はX線照射面となるので平滑性を確保する必要がある。そのためには、底の内面に必要十分な面積の平滑面を有する型を用いればよい。
型を予熱しておく温度は、LDPEが即時固化しないようにするため、100℃前後とすることが好ましい。
急冷は水などを用いて行う。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0014】
<実施例1>
金属含有量既知の標準液状油S−21(Conostan社製)とLDPE(宇部丸善ポリエチレン社製:ユメリット0520F)を、重量比1:2の割合で混合し、混合物を金属容器に入れ、電熱器で130℃に加熱して、混合物中のLDPEを溶融させた。
次いで、溶融物を撹拌混合し、底の内面に平滑面を有する型に流し込んだ。この際、型を100℃に予熱しておき、混合物を流し込んだ瞬間に溶融物が固化するのを防止することにより、分析試料の底面の平滑性を確保した。
次いで、水を用い、型ごと急冷して分析試料を完全に固化させた後、離型して固体分析試料を得た。
【0015】
<実施例2>
急冷せずに室温での自然冷却を行った点以外は、実施例1と同様にして固体分析試料を得た。
【0016】
<実施例3>
溶融物を型に流し込む際に、型を予熱しなかった点以外は、実施例2と同様にして固体分析試料を得た。
【0017】
<比較例1>
標準液状油の保持のために、公知の試料固定用ホルダー(後述するXRFの付属品)の下面にフィルムを貼付し、該標準液状油を充填して液状分析試料とした。
【0018】
<比較例2>
LDPEを12−ヒドロキシステアリン酸(12−HSA)に変え、標準液状油と12−HSAの混合割合を重量比1:1とした点以外は、実施例3と同様にして、固体分析試料を得た。
【0019】
上記各分析試料について、XRF(Bruker社製:S8TIGER)を使用して、Na及びMgの分析及び試料室内の真空化に要した時間の計測を行った。その測定結果と試料室内汚染度評価結果を表1に示す。

<Na及びMg検出割合>
標準液状油に配合されたNa又はMgの量を100とし、各分析試料のXRF分析によって得られたNa又はMgの検出値の割合を求めた。
100に近い程、高い精度で検出が行われていることを示す。

<試料室真空化所要時間割合>
XRF測定時における試料室真空化に要する時間を測定し、LDPE固化物単体セット時の当該時間に対する割合を算出した。
割合が100を超えて大きくなる程、固化物から滲み出た原料油由来の揮発分によって真空化に時間を要することを示し、これによる試料室内の汚染の甚大化が予測される。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示したように、実施例の固体分析試料はX線の長時間照射を受けても安定しており、照射面が変形しないので安定した検出値が得られた。特に型の予熱及び樹脂の急冷固化を行った実施例1では優れた検出精度が得られた。また、試料室内の真空化は問題無く行われ、揮発分等による汚染も全く見られなかった。
更に、本発明に係る固体分析試料は樹脂組成物からなるので特有の強度、粘りを有し、試料ホルダーがバネ等で押さえつける形式であっても試料が崩れることはない。加えて、LDPEの構成元素は炭素と水素のみであるから、分析に影響を与えない上に、毒性も有しないので接触危険性が無く、平易に取り扱うことができる。
図1