(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386827
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】アサリの人工受精方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/54 20170101AFI20180827BHJP
【FI】
A01K61/54
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-157412(P2014-157412)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-34234(P2016-34234A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】513314089
【氏名又は名称】木更津漁業協同組合
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】内田 成昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀男
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−273404(JP,A)
【文献】
特開平11−225609(JP,A)
【文献】
特開平11−192037(JP,A)
【文献】
特公昭49−029518(JP,B1)
【文献】
特開昭63−137628(JP,A)
【文献】
特開2008−206437(JP,A)
【文献】
特開2001−346474(JP,A)
【文献】
特開2000−354434(JP,A)
【文献】
特開2002−345361(JP,A)
【文献】
特開平10−150879(JP,A)
【文献】
特開昭53−002296(JP,A)
【文献】
特開2009−273385(JP,A)
【文献】
特開平08−023818(JP,A)
【文献】
特開2009−273405(JP,A)
【文献】
特開2005−255650(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0229437(US,A1)
【文献】
米国特許第05144907(US,A)
【文献】
米国特許第04532883(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 − 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アサリの母貝の雄から精子を取り出し、雌から卵子を取り出して、それぞれを別々の容器内の海水に懸濁させて懸濁液を製造し、これら懸濁液を20分〜40分の間の所定時間静置した後、それぞれの懸濁液を混合用容器に移して強制的に攪拌し、次いで、この混合用容器内の液体に空気を供給することによりこの液体を循環させた状態に維持して、この液体中の精子と卵子とを受精させることを特徴とするアサリの人工受精方法。
【請求項2】
前記それぞれの懸濁液を、0.5mm四方以上1.0mm四方以下の目の大きさのフィルタを通して前記混合用容器に移す請求項1に記載のアサリの人工受精方法。
【請求項3】
前記別々の容器内の海水の温度を10℃以上30℃以下にする請求項1または2に記載のアサリの人工受精方法。
【請求項4】
前記混合用容器を気温10℃以上30℃以下の条件下におく請求項1〜3のいずれかに記載のアサリの人工受精方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリの人工受精方法に関し、さらに詳しくはアサリの生産性を向上させることができるアサリの人工受精方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アサリを人工的に産卵させる方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法では、アサリの母貝を雄雌問わずに水槽内に収容して、その水槽中の海水の温度をコントロールする。そして、海水を25℃程度に上昇させることにより、雄の母貝による精子の放出を誘発し、放出された精子と雌の母貝の卵子とを受精させて受精卵を孵化させるようにしている。
【0003】
即ち、この提案の方法では、雄の母貝から精子を放出させるには、その母貝の本来的な特性に依存することになる。それ故、精子を放出させる条件を精度よく整えなければ、精子の放出や受精をさせることができず、ひいては、受精卵を得ることも、受精卵の孵化率を向上させることもできない。そのため、より確実に受精させることができ、アサリの生産性を向上させる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−273404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アサリの生産性を向上させることができるアサリの人工受精方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のアサリの人工受精方法は、アサリの母貝の雄から精子を取り出し、雌から卵子を取り出して、それぞれを別々の容器内の海水に懸濁させて懸濁液を製造し、これら懸濁液を
20分〜40分の間の所定時間静置した後、それぞれの懸濁液を混合用容器に移して強制的に攪拌し、次いで、この混合用容器内の液体に空気を供給することによりこの液体を循環させた状態に維持して、この液体中の精子と卵子とを受精させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、海水に精子を混ぜた懸濁液と、海水に卵子を混ぜた懸濁液をそれぞれ別々の容器内で製造し、これら懸濁液を混合用容器内で攪拌した後、混合用容器内の液体に空気を供給して循環させた状態に維持して精子と卵子とを受精させるので、アサリの母貝の特性に関わらず、適切な条件下で精子と卵子とを受精させることができる。そのため、受精卵の孵化率が高くなり、アサリの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】精子の懸濁液および卵子の懸濁液を製造する工程を例示する説明図である。
【
図2】精子の懸濁液と卵子の懸濁液とを混合用容器に移す工程を例示する説明図である。
【
図3】混合用容器内で精子と卵子とを受精させる工程を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のアサリの人工受精方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
アサリは外見によって雄か雌かを判別することは難しい。そこで、
図1に例示するようにアサリの母貝6を開貝して身の部分7を切開し、顕微鏡等を用いて雄雌を判別する。卵(卵子)を有していれば雌と判別することができる。判別した雄雌それぞれの身の部分7の生殖腺を切開して、それぞれ別々の容器1A、1B内の滅菌海水9で洗う。これにより、別々の容器1A、1B内の滅菌海水9の中に精子7a、卵子7bが混入して、精子7aを滅菌海水9に混ぜた懸濁液8a、卵子7bを滅菌海水9に混ぜた懸濁液8bを製造する。
【0011】
それぞれの容器1A、1Bの容量は例えば、1000cm
3〜5000cm
3である。尚、滅菌海水9ではなく、通常の海水(好ましくはそのアサリを採取した海域の海水)を用いることもできるが、滅菌海水9を用いると、雑菌等の繁殖を抑えることができるので人工受精には好適である。
【0012】
これら懸濁液8a、8bは、所定時間そのまま静置する。静置する時間は、例えば30分程度(20分〜40分)である。この静置時間は、母貝6の中から取り出した精子7a、卵子7bを大気圧(常圧)に馴染ませるために非常に重要である。この静置時間が過小でも過大でも精子7aと卵子7bが受精し難くなる。
【0013】
次いで、それぞれの懸濁液8a、8bを別々の容器1A、1Bからより容量が大きな混合用容器2に移す。混合用容器2の容量は例えば、2000cm
3〜10000cm
3である。この際に、濾紙等のフィルタ3a、3bを通してそれぞれの混濁液8a、8bを混合用容器2に移すとよい。このフィルタ3a、3bによって、精子7aおよび卵子7bを通過させて、これらフィルタ3a、3bの目よりも大きな不純物、不要物を排除して混合用容器2に入れないようにする。フィルタ3a、3bの目の大きさは例えば、0.5mm四方以上1.0mm四方以下にする。
【0014】
精子7aは卵子7bに比べて小さい。したがって、精子の懸濁液8aを通過させるフィルタ3aと卵子の懸濁液8bを通過させるフィルタ3bの目の大きさを異ならせることもできる。即ち、精子の懸濁液8aを通過させるフィルタ3aは、卵子の懸濁液8bを通過させるフィルタ3bよりも目を小さくして、不純物や不要物が混合用容器2に入ることをより厳格に規制することができる。
【0015】
混合用容器2にそれぞれの懸濁液8a、8bを入れた後は、互いの懸濁液8a、8bが均一に混ざるように混合用容器2内の液体10を攪拌機5等を用いて強制的に攪拌する。攪拌力が過大であると精子7a、卵子7bを傷つけるので、これらを傷つけないように攪拌する。この際の攪拌時間は1分から数分程度である。
【0016】
次いで、混合用容器2内の液体10には、ポンプ4aからホース4bを介して空気Aを供給する(エアレーションする)。この空気Aの供給によって、混合用容器2内の液体10を循環させた状態に維持する。これにより、混合用容器2内に存在している精子7aおよび卵子7bに十分な空気Aを供給して酸素不足にならない適切な状態を維持する。
【0017】
この状態の混合用容器2内の液体10では精子7aと卵子7bとが受精する。そして、例えば2日〜3日程度この状態を維持すると、精子7aと卵子7bが受精した受精卵からアサリの幼生11が生まれる。
【0018】
生まれた幼生11は、給餌可能なより大きな水槽に速やかに移して育成する。例えば、0.1mm四方程度(0.05mm四方以上0.2mm四方以下)の目の大きさのフィルタを用いて混合用容器2内の幼生11を捕捉し、捕捉した幼生11を天然の海水が入ったより大きな水槽に移す。
【0019】
本発明では、上述した手順によってアサリの精子7aと卵子7bを受精させて幼生11を誕生させるので、アサリの母貝6の本来的な特性に関わらず、確実に精子7aおよび卵子7bを得ることができる。即ち、アサリの母貝6による精子7aの放出を誘発する条件を精度よく整える必要がない。その代わりに、精子7aと卵子7bとが単純に受精し易い条件を整えるだけで済む。また、外部環境に大きな影響を受けることもない。それ故、受精卵の孵化率は、従来提案されている方法や、自然の状態で受精させるよりも高くなり、アサリの生産性を向上させることができる。
【0020】
アサリの精子7aおよび卵子7bは、極端に低温または高温では弱ってしまうので、常温程度に維持することが好ましい。したがって、精子の懸濁液8a、卵子の懸濁液8bを製造する際のそれぞれの容器1A、1B内の滅菌海水9の温度は、常温程度(例えば10℃以上30℃以下)にすることが好ましい。また、混合用容器2を気温10℃以上30℃以下の条件下に置いて、それぞれの懸濁液8a、8bを強制的に攪拌し、その後、混合用容器2内の液体10に空気Aを供給して循環させた状態を維持することが好ましい。
【0021】
母貝6から精子7a、卵子7bを取り出す工程から混合用容器2内で精子7aと卵子7bを受精させて幼生11を誕生させる工程に至るまでの一連の工程は、屋外を行なうこともできるが、例えば、室温が10℃〜30℃に制御された屋内で行なうこともできる。このような屋内で行なうことにより、外部環境を一定の適正条件下に維持し易くなり、アサリの生産性増大を期待できる。
【符号の説明】
【0022】
1A、1B 容器
2 混合用容器
3a、3b フィルタ
4a ポンプ
4b ホース
5 攪拌機
6 アサリの母貝
7 身の部分
7a 精子
7b 卵子
8a 精子の懸濁液
8b 卵子の懸濁液
9 滅菌海水
10 液体
11 幼生