(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サイド補強ゴム部により補強されたサイドウォール部を有し、前記サイド補強ゴム部が、測定温度23℃での50%伸張時の引張応力(M50N)に対する測定温度100℃での50%伸張時の引張応力(M50H)の比(M50H/M50N)が1.0以上1.3以下であるゴム組成物からなるランフラットタイヤを加硫成型し、
加硫成型後のランフラットタイヤに0.2〜0.4MPaの内圧を充填して加硫時間の2倍以上の時間でポストキュアインフレーション(PCI)を実施する、
ランフラットタイヤの製造方法。
加硫成型後のランフラットタイヤのビード部を保持するリムに、当該リムを冷却する第1冷却装置が設けられ、前記第1冷却装置によりリムを介してビード部を冷却しながら、前記ポストキュアインフレーションを実施する、請求項1又は2記載のランフラットタイヤの製造方法。
加硫成型後のランフラットタイヤのビード部を保持するリムに、サイドウォール部におけるタイヤ内面に接触して前記サイド補強ゴム部を冷却する第2冷却装置が設けられ、前記第2冷却装置によりサイド補強ゴム部を冷却しながら、前記ポストキュアインフレーションを実施する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のランフラットタイヤの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、一実施形態に係るランフラットタイヤは、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、トレッド部(1)と、その両端から半径方向内側に延びる左右一対のサイドウォール部(2)と、サイドウォール部(2)の半径方向内側に設けられた左右一対のビード部(3)とからなる。一対のビード部(3)にはそれぞれ環状のビードコア(4)が埋設されている。図中、CLはタイヤ赤道を示す。この例では、タイヤは、タイヤ赤道CLに対して左右対称構造をなす。
【0014】
タイヤには、一対のビードコア(4)間にトロイダル状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライ(5)が埋設されている。この例ではカーカスプライ(5)は1枚であるが、2枚以上設けてもよい。カーカスプライ(5)は、トレッド部(1)からサイドウォール部(2)を経てビード部(3)に延び、ビード部(3)においてビードコア(4)の周りにカーカスプライ(5)の端部を折り返すことにより係止されている。カーカスプライ(5)の端部は、ビードコア(4)の周りをタイヤ幅方向内側から外側に折り返して係止されている。カーカスプライ(5)のタイヤ内面側には、空気圧保持のためのインナーライナー層(6)が設けられている。また、カーカスプライ(5)の本体とその折返し部との間には、ビードコア(4)の外周に硬質ゴム製のビードフィラー(7)が設けられている。
【0015】
一対のサイドウォール部(2)にはそれぞれ、その剛性を上げるために、サイドパッドとも称されるサイド補強ゴム部(8)が設けられている。サイド補強ゴム部(8)は、サイドウォール部(2)におけるカーカスプライ(5)のタイヤ内面側に配設されており、この例では、カーカスプライ(5)とインナーライナー層(6)とに挟まれている。サイド補強ゴム部(8)は、サイドウォール部(2)の半径方向中央部で厚く、かつ該中央部からトレッド部(1)側とビード部(3)側のそれぞれに向かって漸次薄肉に形成されており、
図1に示すタイヤ子午線断面において三日月状の断面形状をなしている。
【0016】
トレッド部(1)におけるカーカスプライ(5)の半径方向外周側には、少なくとも2枚のベルトプライからなるベルト(9)が配されている。また、ベルト(9)の外周側にはベルト補強層(10)が設けられている。
【0017】
サイドウォール部(2)を補強するサイド補強ゴム部(8)は、測定温度23℃での50%伸張時の引張応力をM50Nとし、測定温度100℃での50%伸張時の引張応力をM50Hとして、両者の比であるM50H/M50Nが次の関係を満足するゴム組成物を用いて形成されている。すなわち、サイド補強ゴム部(8)を構成するゴム組成物は、加硫ゴム物性が次の関係を満たす。
1.0 ≦ M50H/M50N ≦ 1.3
【0018】
これにより、同物性を有するサイド補強ゴム部(8)が得られ、通常走行時における走行性能(例えば、轍乗り越し性)を維持しつつ、ランフラット走行時におけるサイドウォール部の変形を抑えてランフラット耐久性を向上することができる。
【0019】
詳細には、一般にランフラットタイヤのサイド補強ゴム部に用いられる高硬度配合のゴム組成物では高温時に弾性率が低下するが、本実施形態では、この関係を反転させて、ランフラット走行時に相当する高温(100℃)時における引張応力が、通常走行時に相当する常温(23℃)時における引張応力と、同等以上であるゴム組成物を用いる。M50H/M50Nが1.0以上であると、ランフラット走行時における剛性低下を抑えて、ランフラット耐久性を向上することができる。より好ましくは、高温時の引張応力が常温時の引張応力よりも高いことであり、即ち、M50H/M50N>1.0であり、更に好ましくはM50H/M50Nは1.1以上である。一方、M50H/M50Nが大きすぎると、高温時での剛性が高くなりすぎてランフラット耐久性が却って損なわれる。M50H/M50Nは、1.3未満であることが好ましく、より好ましくは1.2以下である。
【0020】
サイド補強ゴム部を構成するゴム組成物の測定温度100℃での50%伸張時の引張応力(M50H)は3.5MPa以上であることが、高温時におけるサイドウォール部の剛性を高めて、ランフラット耐久性を向上する上で好ましい。M50Hの下限は、より好ましくは4.0MPa以上である。また、M50Hの上限は、特に限定しないが、5.5MPa以下であることが好ましく、より好ましくは5.3MPa以下であり、このような上限値に設定することにより、高温時に剛性が高くなりすぎてサイドウォール部がしなりにくくなることを抑えて、ランフラット耐久性を向上することができる。該ゴム組成物の測定温度23℃での50%伸張時の引張応力(M50N)は、特に限定されないが、通常走行時における走行性能を良好に維持するため、3.0〜5.0MPaであることが好ましく、より好ましくは下限値が3.5MPa以上であり、上限値が4.5MPa以下である。
【0021】
サイド補強ゴム部(8)には、ジエン系ゴムからなるゴム成分に充填剤を配合してなり、上記加硫ゴム物性を有する種々のゴム組成物を用いることができる。一実施形態に係るサイド補強ゴム部用ゴム組成物は、天然ゴム(NR)及びポリブタジエンゴム(BR)を含むゴム成分に、フェノール系熱硬化性樹脂と、その硬化剤としてのメチレン供与体を配合してなるものであり、メチレン供与体に対するフェノール系熱硬化性樹脂の配合量の質量比が1.5倍以上である。
【0022】
該ゴム成分としての天然ゴム及びポリブタジエンゴムとしては、特に限定されず、ゴム工業において一般に使用されているものを用いることができる。ゴム成分中における両者の配合比率は、特に限定されず、例えば、天然ゴムは20〜70質量%であってもよく、30〜60質量%であってもよい。ポリブタジエンゴムは30〜80質量%であってもよく、40〜70質量%であってもよい。該ゴム成分は、天然ゴムとポリブタジエンゴムのみで構成してもよいが、その他のジエン系ゴムを配合してもよい。その他のゴムとしては、特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0023】
フェノール系熱硬化性樹脂としては、フェノール、レゾルシン、及びこれらのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種のフェノール類化合物を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなる熱硬化性樹脂が用いられ、高硬度化を図ることができる。上記アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体が含まれる。フェノール系熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドを縮合してなる未変性フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)、クレゾールやキシレノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるアルキル置換フェノール樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などの、各種ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、例えばカシューナッツ油、トール油、ロジン油、リノール油、オレイン酸及びリノレイン酸よりなる群から選択された少なくとも一種のオイルで変性されたオイル変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることもできる。これらのフェノール系熱硬化性樹脂は、いずれか1種を用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
フェノール系熱硬化性樹脂の硬化剤として配合するメチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体が用いられる。メラミン誘導体としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、及び多価メチロールメラミンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、メチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチルメラミン及び/又はヘキサメチレンテトラミンが好ましく、より好ましくはヘキサメトキシメチルメラミンである。
【0025】
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量(A)は、メチレン供与体の配合量(B)との質量比で、A/B≧1.5である。硬化剤としてのメチレン供与体の割合が多すぎると、ゴムの架橋系に悪影響を及ぼすおそれがある。適切な割合で使用することにより、M50H/M50Nの比を上記範囲内に設定しやすくなり、ランフラット走行時の変形抑制効果を高めて、ランフラット耐久性を向上することができる。A/Bは、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは2.5以上である。A/Bの上限は、7.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下であり、更に好ましくは4.0以下である。
【0026】
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量は、特に限定しないが、ゴム成分100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。また、メチレン供与体の配合量は、特に限定しないが、ゴム成分100質量部に対して0.2〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0027】
サイド補強ゴム部用ゴム組成物には、キノリン系老化防止剤と、キノリン系老化防止剤以外の少なくとも一種の老化防止剤を配合してもよい。これらの2種以上の老化防止剤を配合することにより、ランフラット耐久性を向上することができる。
【0028】
キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、及び、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロ−キノリン(ETMDQ)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
キノリン系老化防止剤と併用する他の老化防止剤としては、例えば、芳香族第2級アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、及び亜リン酸エステル系老化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の老化防止剤が挙げられる。
【0030】
芳香族第2級アミン系老化防止剤としては、例えば、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのp−フェニレンジアミン系老化防止剤; p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(CD)、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、スチレン化ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系老化防止剤; N−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)、N−フェニル−2−ナフチルアミン(PBN)等のナフチルアミン系老化防止剤などが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
フェノール系老化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DTBMP)、スチレン化フェノール(SP)などのモノフェノール系老化防止剤; 2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBMBP)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBETB)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BBMTBP)、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(TBMTBP)などのビスフェノール系老化防止剤; 2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(DBHQ)、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノン(DAHQ)などのハイドロキノン系老化防止剤などが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
硫黄系老化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩などのベンズイミダゾール系老化防止剤; ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどのジチオカルバミン酸塩系老化防止剤; 1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、トリブチルチオ尿素などのチオウレア系老化防止剤; チオジプロピオン酸ジラウリルなどの有機チオ酸系などが挙げられる。亜リン酸エステル系老化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。これらについてもいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
キノリン系老化防止剤と併用する他の老化防止剤としては、上記の中でも、芳香族第2級アミン系老化防止剤が好ましく、より好ましくはp−フェニレンジアミン系老化防止剤である。
【0034】
キノリン系老化防止剤の配合量は、老化防止剤の全配合量に対して20質量%以上であることが好ましく、ランフラット耐久性の向上効果を高めることができる。より好ましくは25質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。この比率の上限は、80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは75質量%以下である。老化防止剤の全配合量、すなわちキノリン系老化防止剤とそれ以外の老化防止剤の配合量の合計は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜7質量部であり、更に好ましくは2〜5質量部である。キノリン系老化防止剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.2〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜4質量部である。
【0035】
サイド補強ゴム部用ゴム組成物には、カーボンブラック及び/又はシリカなどの充填剤を配合することができる。充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部であり、更に好ましくは50〜70質量部である。充填剤としては、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカのブレンドが好ましく、より好ましくはカーボンブラックである。なお、充填剤の種類及び配合量により、ゴム組成物の引張応力の値を調整することができる。
【0036】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のものを用いることができ、より好ましくはFEF級のものである。
【0037】
サイド補強ゴム部用ゴム組成物には、上記成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。ここで、加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8質量部であり、更に好ましくは1〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0038】
サイド補強ゴム部用ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。該ゴム組成物であると、フェノール系熱硬化性樹脂とメチレン供与体を上記の質量比で配合するとともに、キノリン系老化防止剤を含む2種以上の老化防止剤を配合したことにより、高温時における引張応力を高めてM50H/M50Nの比を上記範囲内に設定しやすく、ランフラット耐久性を顕著に改善することができる。
【0039】
本実施形態に係るランフラットタイヤの製造方法について説明する。本実施形態では、上記サイド補強ゴム部用ゴム組成物からなる未加硫のサイド補強ゴム部を持つグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を作製し、得られたグリーンタイヤを加硫成型し、加硫成型後にポストキュアインフレーションを実施する。
【0040】
グリーンタイヤの作製工程では、サイド補強ゴム部を形成するゴム組成物として上記サイド補強ゴム部用ゴム組成物を用いることを除いて、成形ドラムを用いた公知の成形方法を適用することができる。例えば、成形ドラムにインナーライナー層、サイド補強ゴム部及びカーカスプライを順次貼り付け、該カーカスプライの両端部にビードコア及びビードフィラーを載置し、カーカスプライの両端部をビードコアの周りで折り返した後、サイドウォールゴムを貼り付け、次いで、成形ドラムを拡径して、カーカスプライのクラウン部にベルト層とトレッドゴムを貼り付けることによりグリーンタイヤを成形することができる。
【0041】
加硫成型工程では、上記で得られたグリーンタイヤを加硫成型する。加硫成型は、公知の方法を適用することができ、すなわち、グリーンタイヤを加硫モールドにセットし、例えば、加硫温度140〜190℃(好ましくは150〜180℃)かつ加硫時間10〜40分(好ましくは15〜30分)にて保持することにより、ランフラットタイヤを加硫成型することができる。ここで、加硫時間とは、加硫モールドの型閉めから脱型までの時間である。
【0042】
本実施形態では、加硫成型後のランフラットタイヤに、所定のポストキュアインフレーション(PCI)を実施する。ポストキュアインフレーションは、加硫モールドから取り出した高温のタイヤを、内圧をかけた状態で冷却させる処理である。本実施形態では、加硫直後のランフラットタイヤに0.2〜0.4MPaの内圧を充填して、加硫時間の2倍以上の時間でポストキュアインフレーションを実施する。
【0043】
ポストキュアインフレーションの内圧(以下、PCI内圧という)が0.2MPa以上であることにより、ランフラットタイヤの通常走行時における低燃費性を向上することができる。また、PCI内圧が0.4MPa以下であることにより、ランフラットタイヤの破裂もしくは作業性の悪化を抑え、また低燃費性を向上させることができる。
【0044】
ポストキュアインフレーションの時間(以下、PCI時間という)が加硫時間の2倍以上であることにより、ランフラットタイヤの通常走行時における低燃費性を向上することができる。PCI時間は、加硫時間の2倍以上4倍以下であることが好ましく、より好ましくは加硫時間の2倍以上3倍以下である。PCI時間は、例えば30〜90分でもよく、40〜80分でもよい。
【0045】
ポストキュアインフレーションは、加硫成型後のランフラットタイヤが100℃以下に冷却されるまで実施することが好ましい。すなわち、ポストキュアインフレーションの終了温度(以下、PCI終了温度という)は、100℃以下であることが好ましく、これにより低燃費性の向上効果を高めることができる。PCI終了温度は90℃以下が好ましい。PCI終了温度の下限は特に限定されないが、20℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上である。ここで、PCI終了温度は、タイヤのトレッド表面での温度である。
【0046】
ポストキュアインフレーションは、タイヤに内圧をかけた状態で室温雰囲気に保持することにより冷却してもよく、また、冷却装置を設けてタイヤの冷却効率を向上させることにより、PCI時間を短縮化してもよい。
【0047】
図2及び
図3は、一実施形態に係るポストキュアインフレーション工程を示した図である。この実施形態は、加硫成型後のランフラットタイヤのビード部を保持するリムに、当該リムを冷却する第1冷却装置を設けておき、第1冷却装置によりリムを介してビード部を冷却しながら、ポストキュアインフレーションを実施するものである。
【0048】
図2,3に示すポストキュアインフレーション装置は、支軸20と、ランフラットタイヤTのビード部3に嵌合して該タイヤTを支持する上下一対のリム22,24とを備え、不図示のエア注入部からタイヤTに内圧を充填できるように構成されている。リム22,24には、自身を冷却するための第1冷却装置26が設けられている。第1冷却装置26は、リム22,24に埋設された冷却流体(冷却水)の配管28よりなり、配管28に冷却流体を流すことにより、リム22,24が冷却される。配管28は、ビード部3の内周に沿って全周にわたって設けられており、この例では、一周が2分割されて、それぞれに冷却流体の入口28Aと出口28Bが設けられている。配管28に冷却流体を流すことにより、リム22,24が冷却されるので、リム22,24を介してビード部3が冷却され、タイヤの冷却効率を高めることができる。冷却流体の温度は、特に限定しないが、60℃以下が好ましく、より好ましくは5〜40℃であり、更に好ましくは10〜30℃である。
【0049】
図4は、他の実施形態に係るポストキュアインフレーション工程を示した図である。この実施形態は、加硫成型後のランフラットタイヤのビード部を保持するリムに、サイドウォール部におけるタイヤ内面に接触してサイド補強ゴム部を冷却する第2冷却装置を設けておき、第2冷却装置によりサイド補強ゴム部を冷却しながら、ポストキュアインフレーションを実施するものである。
【0050】
図4に示すポストキュアインフレーション装置は、上記の第1冷却装置26に加えて、第2冷却装置30を備えたものである。第2冷却装置30は、ビード部3を保持するリム22,24に設けられており、タイヤTのサイドウォール部2におけるタイヤ内面に当接してその部分の熱を吸収する吸熱パッド32を備える。吸熱パッド32は、例えば、金属等の良熱伝導体からなり、リム22,24に設置されたパッド支持部材34によりタイヤ内面に当接し且つ離間できるよう構成されている。吸熱パッド32は、図示しないが、タイヤ周方向において複数の分割式に設けられており、複数の吸熱パッド32によりタイヤ内面の略全周にわたって当接可能に構成されている。このように吸熱パッド32をサイドウォール部2におけるタイヤ内面に当接させることにより、肉厚のサイド補強ゴム部8から熱を奪って冷却することができるので、タイヤの冷却効率を高めることができる。
【0051】
以上のようにしてポストキュアインフレーションを実施した後、タイヤ内部のエアを抜き、ポストキュアインフレーション装置のリムから取り外すことで、ランフラットタイヤが得られる。
【0052】
得られたランフラットタイヤであると、高温時におけるサイド補強ゴム部の剛性低下が小さいので、ランフラット走行時におけるサイドウォール部の過度な変形が抑制され、ランフラット耐久性を向上することができる。また、加硫成型後に上記特定条件のポストキュアインフレーションを実施したことにより、通常走行時における低燃費性を向上することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第1工程(ノンプロ混合工程)で、硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第2工程(ファイナル混合工程)で硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を添加混合して(排出温度=100℃)、サイド補強ゴム部用ゴム組成物を調製した。
【0055】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・NR:天然ゴム、RSS3号
・BR:JSR(株)製「BR01」
・カーボンブラック:N550、東海カーボン(株)製「シーストSO」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・フェノール系樹脂:オイル変性ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト(株)製「スミライトレジンPR13349」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・老化防止剤1:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・老化防止剤2:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、川口化学工業(株)製「アンテージRD」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」
・硫黄:四国化成工業(株)「ミュークロンOT−20」
・メチレン供与体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック(株)製「CYREZ 964RPC」。
【0056】
各ゴム組成物について、160℃で25分間加硫した厚さ2mmの試験片を用いて、下記方法により、23℃での50%伸張時の引張応力(M50N)と、100℃での50%伸張時の引張応力(M50H)を測定し、両者の比(M50H/M50N)を求めた。
【0057】
・23℃での50%伸張時の引張応力:JIS K6251に準拠。ダンベル状3号形の試験片につき、室温23℃にて引張試験を実施し、50%伸長時の引張応力を求めた。
【0058】
・100℃での50%伸張時の引張応力:JIS K6251に準拠。ダンベル状3号形の試験片を1時間以上100℃の恒温槽で保持した後、恒温槽つきの引っ張り試験機にて、100℃の雰囲気下で引張試験を実施し、50%伸長時の引張応力を求めた。
【0059】
表1に示すように、コントロールである配合1では、常温と高温の引張応力の比であるM50H/M50Nが0.9であり、高温時に剛性が下がった。配合2では、配合1に対し、カーボンブラックを増量しかつフェノール系樹脂とメチレン供与体を添加したことにより、高温時における引張応力の低下はなくなったものの、剛性上昇が大きすぎ、M50H/M50Nが1.3を超えた。これに対し、フェノール系樹脂とメチレン供与体を所定量配合するとともに、キノリン系老化防止剤を含む2種以上の老化防止剤を配合した配合3〜7では、高温時における引張応力を高めてM50H/M50Nの比を1.0〜1.3の範囲内にすることができた。
【0060】
【表1】
【0061】
[タイヤの作製及び評価]
表1に記載のサイド補強ゴム部用ゴム組成物を、表2に示す通りに用いて、
図1に示す構造を持つタイヤサイズ:225/45ZR18のラジアルタイヤを加硫成型した。加硫条件は、加硫温度=170℃、加硫時間=20分とした。加硫成型後、表2に示す条件に従って、ポストキュアインフレーション(PCI)を実施した。なお、比較例1〜4ではポストキュアインフレーションを実施しなかった。表2中の第1冷却装置について「実施」は、
図2,3に示す第1冷却装置26を作動させてポストキュアインフレーションを実施したことを意味し、冷却水温度は25℃に設定した。また、表2中の第2冷却装置において「実施」は、
図4に示す第2冷却装置30を作動させてポストキュアインフレーションを実施したことを意味する。
【0062】
得られた各タイヤについて、ランフラット耐久性と低燃費性と轍乗り越し性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0063】
・ランフラット耐久性:表面が平滑な鋼製で、直径1700mmのドラム試験機を用いた。タイヤ内圧0kPaで、荷重はロードインデックスに対応する負荷能力の65%とした。試験開始から5分で80km/hまで速度を上昇させた後、80km/hで故障が発生するまで走行させた。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。数字大きいほどランフラット耐久性が良好である。
【0064】
・低燃費性:空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、転がり抵抗測定用ドラム試験機にて、室温を23℃に設定し、80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。転がり抵抗の逆数について、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が小さく、従って低燃費性に優れることを示す。
【0065】
・轍乗り越し性:内圧200kPaで標準リムに組み込んだ試験タイヤを試験車両の前輪に装着し、一般道の轍を模した
図5に示す断面形状を持つ試験路(轍の高低差h=20mm)にて、タイヤの乗り越し性を官能評価した。轍をスムーズに乗り越せるものを○、やや乗り越しにくいものを△、非常に乗り越しにくいものを×とした。
【0066】
【表2】
【0067】
結果は、表2に示す通りである。比較例1は、サイド補強ゴム部のM50H/M50Nが0.9と小さく、ランフラット耐久性に劣っていた。逆に比較例2では、サイド補強ゴム部のM50H/M50Nが1.4と大きすぎて、ランフラット耐久性に劣っており、低燃費性も大きく悪化した。比較例3,4は、サイド補強ゴム部のM50H/M50Nが規定範囲内であるため、ランフラット耐久性には優れていたが、ポストキュアインフレーションを実施していないため、低燃費性に劣っていた。比較例5ではPCI内圧が低すぎ、また比較例6ではPCI内圧が高すぎて、低燃費性の改善効果が得られなかった。比較例7では、PCI時間が短すぎて、低燃費性の改善効果が得られなかった。比較例8,9では、所定条件のポストキュアインフレーションは実施したものの、サイド補強ゴム部のM50H/M50Nが規定範囲外であったため、比較例1に対してランフラット耐久性の改善効果が得られなかった。これに対し、実施例1〜10であると、轍乗り越し性を損なうことなく、ランフラット耐久性と低燃費性を顕著に改善することができた。