【文献】
Jing, Shuhong et al.,A Novel Unsymmetrical Diarylethene Material Bearing Double Thiophene Ring,Advanced Materials Research (Durnten-Zurich, Switzerland),2013年,Vol.763,p.65-68,(Advanced Materials Researches and Application)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1〜3に記載のフェナントロリン誘導体は、輝度、視感効率及び電流密度等の向上がみられ耐久性にも優れるものの、それらの改善の程度がいまだ十分とは言えず、一層の改善が求められている。その中で、前記特許文献2に記載のフッ素化フェナントロリン誘導体は、デバイスのエレクロルミネッセンス特性が従来のバソフェナントロリン(BPhen)やボソプロイン(BCP)と比べて向上しているとは言えず、フェナントロリン化合物をフッ素化することの特徴がデバイス特性に十分に現れていないという問題がある。
【0010】
さらに、前記特許文献1〜3に記載のフェナントロリン誘導体は、電子輸送層を形成するときに、いずれも真空蒸着による成膜が記載されているだけで、高精細及び大面積化を図るための作業性の向上及び素子の製造コストの低減に対して有効な方法である溶液法による成膜が可能か否かについても不明である。
【0011】
一方、前記特許文献4には、低分子電子輸送材量を含む発光層を溶液塗布法によって成膜する方法が開示されているが、有機溶剤として例えば1,2−ジクロロエタンの塩素系溶媒が使用されており、加えて、溶液中の混合物の割合が1〜2重量%と非常に低い。そのため、塗布及び乾燥時の環境に対する負荷が非常に大きくなるだけでなく、塗布回数が増えるなどの点を考慮すると、作業性の向上及び製造コストの低減に対しては十分な効果を得ることができない。
【0012】
前記特許文献5に記載されているフェナントロリン構造を有する高分子についても溶液塗布法による成膜が可能であるが、溶媒として特殊で高価なヘキサフルオロプロピオールを使用することが記載されており、前記特許文献4の場合と同じように、作業性の向上及び製造コストの低減に対しては十分な効果が得られていない。また、高分子系有機材料は、前記特許文献4にも記載されているように、低分子系有機材料の蒸着法と比べてデバイスの信頼性及び特性等が劣ることが知られており、特許文献5に記載の高分子系有機材料を大量生産した場合でも安定的に優れた信頼性及び特性を示すのか否かが不明である。したがって、そのような信頼性及び特性を有する高分子系電子輸送材料を低コストで得ることが強く求められている。
【0013】
前記特許文献6に記載のフェナントロリン化合物は、従来の材料に比べて、陰極バッファ層を均一に成膜でき、高い耐熱性を有するものの、有機太陽電池の特性と耐久性をさらに向上させるためには、陰極バッファ層として使用する材料についてより一層の成膜性及び耐熱性の向上が求められている。
【0014】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、N型半導体としてフェナントロリン構造が有するπ共役性を十分に維持しながら、溶媒に対する溶解性が高く成膜性が良好で、且つ、安定性と耐久性に優れる新規な含窒素複素環化合物、それよりなる電子輸送材料並びにそれを含む有機発光素子と太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、フェナントロリン構造又はフェナントロリン構造と類似の化学構造を有する含窒素複素環化合物の化学構造の一部に、水素の少なくとも1個がフッ素原子又は塩素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を部分的に導入することによって上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0016】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、下記式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の少なくとも何れか1つを含有することを特徴とする含窒素複素環化合物を提供する。
【化12】
【化13】
【化14】
[式中、
R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも何れかである。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+d=2〜4の何れかの整数である。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、核置換基を有していてもよいアリール基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アミノピリジル基、又は置換されていてもよい環の構成原子として窒素原子、硫黄原子及び酸素原子の何れかを有する複素環基を示す。]
[2]本発明は、前記[1]に記載の含窒素複素環化合物を2量化した化合物であり、下記式(4)、(5)、(6)及び(7)で表される構造の少なくとも何れか一つを有する含窒素複素環化合物を提供する。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
[式中、
R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも何れかである。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+d=2〜4の何れかの整数である。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、核置換基を有していてもよいアリール基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アミノピリジル基、又は置換されていてもよい環の構成原子として窒素原子、硫黄原子及び酸素原子の何れかを有する複素環基を示す。B
1、B
2、B
3、B
4は、それぞれ独立に単結合
、炭素数6〜30の芳香族炭化水素の2価又は3価の基、及び炭素数2〜36の、少なくとも炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する2価の有機基の何れかである。]
[3]本発明は、前記[1]に記載の含窒素複素環化合物を3量化以上の高分子量化した化合物であり、下記式(8)、(9)、(10)及び(11)で表される構造の少なくとも何れか一つを繰返し単位として有する含窒素複素環化合物
を提供する。
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
[式中、
R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、フッ素原子又は及び塩素原子の少なくとも何れかである。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+d=2〜4の何れかの整数である。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、核置換基を有していてもよいアリール基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アミノピリジル基、又は置換されていてもよい環の構成原子として窒素原子、硫黄原子及び酸素原子の何れかを有する複素環基を示す。B
1、B
2、B
3、B
4は、それぞれ独立に単結合
、炭素数6〜30の芳香族炭化水素の2価又は3価の基、及び炭素数2〜36の、少なくとも炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する2価の有機基の何れかである。nは3以上20以下の整数である。]
[
4]本発明は、a+b+c+d=3の整数であることを特徴とする前記
[1]〜[3]の何れか一項に記載の含窒素複素環化合物を提供する。
[
5]本発明は、R
2、R
5が、何れも臭素原子であることを特徴とする前記
[4]に記載のフッ素化含窒素複素環化合物を提供する。
[
6]本発明は、R
1、R
3、R
4、R
6が、独立に水素原子、メチル基、核置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする前記
[5]に記載の含窒素複素環化合物を提供する。
[
7]本発明は、R
1、R
3、R
4、R
6が、何れも水素原子であることを特徴とする前記
[6]に記載の含窒素複素環化合物を提供する。
[
8]本発明は、前記[1]〜
[7]の何れか一項に記載のフッ素化含窒素複素環化合物よりなる電子輸送材料を提供する。
[
9]本発明は、陽極と陰極からなる一対の電極間に、前記[1]〜
[7]の何れか一項に記載の含窒素複素環化合物及び該含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物の少なくとも一種を含有する層を含む有機発光素子を提供する。
[
10]本発明は、前記[1]〜
[7]の何れか一項に記載の含窒素複素環化合物を含有する陰極側バッファ層及び中間電極に接するバッファ層の少なくとも何れかを具備することを特徴とする太陽電池を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0017】
本発明による新規な含窒素複素環化合物は、フェナントロリン構造に水素の少なくとも1個がハロゲン元素で置換された飽和炭化水素系の環状構造を導入することによって、より嵩高い構造を有する高分子量の化合物を得ることができるため耐熱性に優れ、保存安定性と耐久性に優れる。他方で、飽和炭化水素系の環状構造の導入は、フェナントロリン構造の電子吸引性に対して影響をほとんど与えず、加えて含窒素複素環化合物の平面構造を立体的に形成しやすくするため、フェナントロリン構造が有するπ共役性を十分に維持することができる。さらに、前記飽和炭化水素系の環状構造は、有機溶媒に対する溶解性を高める効果が期待でき、環境負荷の高い特殊な有機溶媒の使用量を低減したり、そのような有機溶媒を使用する必要が無くなる。それによって、溶液塗布法による成膜を行う場合に良好な成膜性が得られ、高精細及び大面積化を図るための作業性の向上及び素子の製造コスト低減を図ることができる。
【0018】
本発明の含窒素複素環化合物又は該含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物を適用して形成した有機薄膜層を有する有機発光素子は、光出力の高輝度化及び高変換効率を実現できるだけでなく、長時間使用に耐える耐久性及び温度や湿度等の様々な環境条件に対応し得る耐環境性を有することが期待できる。また、本発明の含窒素複素環化合物を含有する陰極側バッファ層及び内側電極に接するバッファ層の少なくとも何れかを有機太陽電池に具備させることによって、変換効率の向上と長寿命化だけでなく、製造コストの低減を図るために大きく寄与するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、フェナントロリン構造又はフェナントロリン構造と類似の化学構造を有する含窒素複素環化合物の化学構造の一部に、水素の少なくとも1個がフッ素原子又は塩素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を部分的に導入することに特徴を有する。前記の水素の少なくとも1個がフッ素原子又は塩素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造は嵩高い構造であるため、含窒素複素環化合物の分子量を大きくし、場合によってはガラス転移温度(Tg)を高める効果を期待できるため、耐熱性、保存安定性お及び耐久性の向上に寄与する。他方で、フェナントロリン構造の電子吸引性に対して影響をほとんど与えず、含窒素複素環化合物の平面構造を立体的に形成しやすい骨格を形成するため、π共役性を十分に維持することができる。さらに、従来のフェナントロリン誘導体に比べて、π共役性の無い嵩高い構造の導入によって有機溶媒に対する溶解性を高める効果も得られる。
【0021】
ここで、前記の水素の少なくとも1個がフッ素原子又は塩素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造は、水素原子に代えて、原子半径が大きく電子吸引性の強いフッ素原子又は塩素原子を導入することによって、耐熱性の付与、フェナントロリン構造の電子吸引性に及ぼす影響の低減、及び有機溶媒に対する溶解性の向上に対して一層の効果が得られるようになる。
【0022】
前記特許文献5の段落[0008]には、アルコキシ基はフェナントロリン構造を有する高分子の有機溶媒への溶解性の向上に寄与する一方で、フェナントロリン構造の有する電子吸引性を低下させることが記載されている。それに対して、本発明の含窒素複素環化合物は、フェナントロリン構造の電子吸引性に対してはほとんど悪影響を与えず、場合によっては含窒素複素環化合物の平面構造を形成することに寄与する。したがって、本発明の含窒素複素環化合物をN型半導体材料として適用したときに、十分なπ電子共役性を発現することができる。このように、本発明の含窒素複素環化合物は、有機溶媒への溶解性を向上させるためにアルコキシ基や長鎖アルキル基等の置換基を導入する従来の方法とは異なり、N型半導体材料としての物性及び特性の低下をほとんど起こさない点で優れている。
【0024】
本発明の含窒素複素環化合物は、上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の少なくとも何れか1つを含有する化合物である。上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物において、R
11、R
12、R
21、R
22、R
31、R
32、R
41、R
42は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子又は塩素原子を示し、R
11、R
12、R
21、R
22、R
31、R
32、R
41、R
42の少なくとも一つがフッ素原子又は塩素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+d=2〜4の何れかの整数である。また、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、核置換基を有していてもよいアリール基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アミノピリジル基、又は置換されていてもよい環の構成原子として窒素原子、硫黄原子及び酸素原子の何れかを有する複素環基である。
【0025】
前記のR
11、R
12、R
21、R
22、R
31、R
32、R
41、R
42は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、臭素原子又は塩素原子を示し、少なくとも一つがフッ素原子又は塩素原子である。本発明においては、水素原子に代えて、原子半径が大きく電子吸引性の強いフッ素原子又は塩素原子を導入することによって、耐熱性の付与、フェナントロリン構造の電子吸引性に及ぼす影響の低減、及び有機溶媒に対する溶解性の向上に対して一層の効果が得られるようになるため、前記のR
11、R
12、R
21、R
22、R
31、R
32、R
41、R
42が、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも何れかであることが好ましい。さらに、フッ素原子は塩素原子と比べて、電子吸引性が高く、化学的安定性にも優れることから、前記のR
11、R
12、R
21、R
22、R
31、R
32、R
41、R
42はすべてフッ素原子であることが特に好ましい。
【0026】
前記のR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6において
、前記炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0027】
前記アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
【0028】
前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0029】
前記アミノ基としては第1級、第2級及び第3級の何れかのアミノ基を使用できるが、本発明においてはπ共役性の点から第3級のアミノ基が好ましく、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジべンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
前記アミノピリジル基としては、アミノピリジル基、2−ジメチルアミノピリジル基、3−ジメチルアミノピリジル基、4−ジメチルアミノピリジル基等が挙げられる。
【0031】
前記複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサンジアリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基等が挙げられる。
【0032】
前記置換されていてもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジべンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等のアミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基等のアルコキシ基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の少なくとも1つを含有する本発明の含窒素複素環化合物は、例えば、
図1に示す反応の模式図に従って合成することができる。
図1の反応式において、まず、2,5位が置換基Xとリチウム原子(Li)で置換された化合物[A]にシクロアルキレン化合物(図において、R
51及びR
61はR
11〜R
42と同じ置換基を表す。)を添加し所定の条件で反応を行わせた後、有機溶媒で抽出し、乾燥してから前記有溶媒を留去して中間生成物[B]が得られる。
【0034】
前記置換基Xは、水素原子、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、核置換基を有していてもよいアリール基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アミノピリジル基、又は置換されていてもよい環の構成原子として窒素原子、硫黄原子及び酸素原子の何れかを有する複素環基である。また、前記シクロアルキレン化合物としては、例えば、1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブテン、1,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロシクロヘキセン、1,2,3,3,5,5−ヘキサクロロジフルオロシクロペンテン、1,2,3又は1,2,4−トリクロルペンタフルオロシクロペンテン、1,2,3,4−テトラクロロテトラフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4−ペンタクロロトリフルオロシクロペンテン等のフッ素原子及び塩素原子の少なくとも何れかの原子を含む化合物を使用でき、電子吸引性が高く、化学的安定性にも優れるという点からクロロフルオロシクロアルキレン化合物が本発明においては好適である。前記シクロアルキレン化合物としては、フッ素原子又は塩素原子が少なくとも1つ含まれていれば、それら以外の原子として水素原子又は臭素原子を含む化合物であっても良い。さらに、前記シクロアルキレン化合物は、a、b、c、dが0又は1の整数であり、a+b+c+d=2〜4の何れかの整数である。その中でも、材料の入手が容易であること、合成時に反応が制御し易いこと、及び材料コスト等の点から、オクタフルオロシクロペンテン、テトラクロロテトラフルオロペンテンを使用すること、すなわち、a+b+c+d=3であることが好ましい。
【0035】
次いで、合成された中間生成物[B]を有機溶媒に溶解した溶液を調製し、その溶液に酸化剤(Oxidant)を添加し、光や熱等によってScholl反応による酸化反応を進行させる。反応が進行しなくなったことを確認した後、さらに洗浄、乾燥を行い、前記有機溶媒を留去して目的生成物[C]を得る。中間生成物[B]を用いてScholl反応を行うときは、閉環反応において中間生成物[B]の両末端に結合したピリジル基の結合軸が自由に回転できるため、目的生成物[C]として[C1]、[C2]及び[C3]の3種の異性体が合成される。これら[C1]、[C2]及び[C3]の異性体は、合成副生物や不純物等を除去する操作を行って、そのまま本発明の含窒素複素環化合物として得ることができる。また、[C1]、[C2]及び[C3]の異性体をカラムクロマトグラフィー等の分離精製操作を行うことによって個別に分離し、それぞれ単独の含窒素複素環化合物として使用しても良い。
【0036】
図1において、化合物[A]としては、最初から市販の高純度材料を使用することができるが、2,5位の両者が置換基Xで置換された化合物を用いて、n−ブチルリチウム(n−BuLi)等のアルキルリチウムによって5位の部位だけにリチウム置換反応を行ったものを使用しても良い。
【0037】
次に、上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物の代表例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
本発明においては、材料の特性を損なうことなく耐熱性及び成膜性を向上させるために、さらに一分子中に上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物の基本骨格を複数導入した化合物を使用することができる。具体的には、上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物を2量化及び3量化以上の高分子量化した化合物である。
【0045】
上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物を2量化した化合物、すなわち上記一般式(4)、(5)、(6)及び(7)で表される構造を有する化合物の少なくとも何れか一つを有する本発明の含窒素複素環化合物は、ニッケルや銅等の遷移金属を触媒として用いたホモカップリング反応、又はパラジウム等の遷移金属錯体を触媒として用い、ハロゲン化物とアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応(Suzuki反応)により製造することができ、場合によってはHeck反応やSonogashira反応等の公知の方法を利用しても良い。置換基B
1、B
2、B
3、B
4は、それぞれ独立に単結合、炭素数6〜30の芳香族炭化水素の2価又は3価の基、及び炭素数2〜36の、少なくとも炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する2価の有機基の何れかである。これらの置換基を導入することによって、2量体においてπ共役系を分子主鎖中で連続的に形成することができる。
【0046】
ここで、前記の置換基B
1、B
2、B
3、B
4が単結合の場合は、上記一般式(1)、(2)又は(3)で表される含窒素複素環化合物のモノ臭素置換誘導体を用いてホモカップリング法により製造する。また、前記の置換基B
1、B
2、B
3、B
4が単結合以外の置換基の場合は、例えば、前記特許文献1にも記載されているように、ボロン誘導体と上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物のモノ臭素置換誘導体[C1−1]、[C2−1]、[C3−1]及び[C1−2]とをカップリングする方法を採用する(
図2を参照)。
図2に示す[C1−1]及び[C1−2]に示す化合物は、それぞれ臭素原子の置換位置が異なるだけで、同じ基本骨格を有する化合物である。
【0047】
上記一般式(4)、(5)、(6)及び(7)で表される構造を有する化合物の少なくとも何れか一つを有する含窒素複素環化合物について代表例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
次に、上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される構造を有する化合物を3量化以上の高分子量化した本発明の含窒素複素環化合物、すなわち、上記一般式(8)、(9)、(10)及び(11)で表される構造の少なくとも何れか一つを繰返し単位として有する含窒素複素環化合物について説明する。
【0057】
本発明の上記一般式(8)、(9)、(10)及び(11)で表される構造を有する化合物の少なくとも何れか一つを有する含窒素複素環化合物は、上記と同じように、ニッケルや銅等の遷移金属を触媒として用いたホモカップリング反応、又はパラジウム等の遷移金属錯体を触媒として用いてハロゲン化物とアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応(Suzuki反応)により製造することができ、場合によってはSuzuki反応以外の他のクロスカップリング反応を利用しても良い。上記の置換基B
1、B
2、B
3、B
4は、それぞれ独立に単結合、炭素数6〜30の芳香族炭化水素の2価又は3価の基、及び炭素数2〜36の、少なくとも炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する2価の有機基の何れかである。これらの置換基を導入することによって、3量体以上の高分子においてもπ共役系を分子主鎖中で連続的に形成することができる。
【0058】
ここで、上記の置換基B
1、B
2、B
3、B
4が単結合の場合は、上記一般式(1)、(2)又は(3)で表される含窒素複素環化合物のジ臭素置換誘導体を用いてホモカップリング法により製造する。上記の置換基B
1、B
2、B
3、B
4が単結合以外の置換基の場合は、
図3に示すように、アリールボロン酸誘導体と上記一般式(1)、(2)及び(3)で表される本発明の含窒素複素環化合物のジ臭素置換誘導体[C1−3]、[C2−2]、[C3−2]及び[C1−4]とをカップリングする方法を採用する。
図3に示す[C1−3]及び[C1−4]に示す化合物は、それぞれ臭素原子の置換位置が異なるだけで、同じ基本骨格を有する化合物である。
【0059】
上記一般式(8)、(9)、(10)及び(11)で表される構造を有する含窒素複素環化合物において、上記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物の基本骨格が繰返し単位として含まれる数nは3以上20以下の整数が好ましい。前記繰返し数nが20を超えると、分子量が高くなりすぎて有機溶媒への溶解性が低下し、有機薄膜として成膜できなくなるだけでなく、材料の精製が困難になり不純物混入による特性の低下が顕著になる。
【0060】
上記一般式(8)、(9)、(10)及び(11)で表される構造の少なくとも何れか一つを繰返し単位として有する本発明の含窒素複素環化合物について代表例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない
【0069】
次に本発明の含窒素複素環化合物を使用して作製する有機発光素子について説明する。作製する有機発光素子は、陽極と陰極との間に一層若しくは多層の有機薄膜を積層した素子である。有機発光素子が一層の場合、陽極と陰極との間に発光層が設けられる。前記発光層は発光材料を含有し、さらに発光材料、陽極から注入した正孔若しくは陰極から注入した電子を発光材料まで輸送する目的で、正孔輸送材料又は電子輸送材料を含有する。ここで使用する発光素子は、発光性能に加えて、正孔輸送能及び電子輸送能の少なくとも何れかの性能を単一の材料で有する場合や、それぞれの特性を有する化合物の混合で使用する場合に有用である。本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物の少なくとも何れかは、電子輸送性を兼ね備える発光材料、若しくは発光層において発光材料とともに含有される電子輸送材料として使用される。
【0070】
多層型の有機発光素子は、例えば、基板の上に下記の多層構成で積層した構造が挙げられる。
(1−1)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(1−2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(1−3)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(1−4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(1−5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(1−6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0071】
また、上記の構成に限らず、必要に応じて、正孔輸送層成分と発光層成分、又は電子輸送層成分と発光層成分を混合した層を設けても良い。さらに、電子輸送層と発光層との間には、正孔あるいは励起子(エキシントン)が陰極側に抜けることを阻害する層(ホールブロッキング層)又は励起状態の発光層へ、あるいは励起状態の発光層から隣接する層へエネルギー遷移と電子移動の両者を防止、又は抑制するための層(アンチクエンチング層)を挿入することもある。
【0072】
これら多層型の有機発光素子の構成において、電子輸送層、電子注入層及びアンチクエンチング層の少なくとも何れかの層に含まれる電子輸送材料として、本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物の少なくとも何れかを使用する。
【0073】
本発明の有機発光素子は、上記の構成の他に、外部環境からの影響をできるだけ受けないように酸素及び水分等との接触を遮断するための保護層(封止層)を設けることができる。保護層は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の何れかを用いて形成することができる。その他にも、本発明の有機発光素子をパラフィン、シリコーンオイル、フルオロカーボン等の不活性物質中に素子を封入することによって、外部環境から保護することができる。
【0074】
以下、本発明の有機発光素子の構成に関し、基板の上に、前記の(1−3)陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極を順次設けた構成を例として詳細に説明する。
【0075】
前記基板としては、従来の有機発光素子に使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、石英ガラス等のガラス、透明プラスチック等の素材からなる基板が挙げられる。また、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明基板を用いても良い。
【0076】
前記陽極としては、仕事関数が大きなものが好適であり、例えば、金、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体又はそれらの合金、酸化物、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子材料を使用することもできる。前記陽極は、これらの材料を、例えば、蒸着、スパッタリング、塗布等の方法により基板上に形成することができる。陽極の膜厚は、一般に5〜1000nm、好ましくは10〜500nmで調整される。
【0077】
前記正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料としては、従来から光導電材料において正孔の電荷注入輸送材料として使用されているものや有機発光素子の正孔輸送層に使用されている公知の材料から任意に選択して用いることができる。前記正孔輸送材料の例としては、銅フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジ(m−トリル)−N,N’−ジフェニルー4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、N,N’―ジ(1−ナフチル)―N,N’−ジフェニルー4,4’―ジアミノビフェニル(α−NPD)等のトリアリールアミン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。また、ポリビニルカルバゾール、(フエニルメチル)ポリシラン、ポリアニリン等の正孔輸送性ポリマーも使用するこができる。正孔輸送性ポリマーとしては、前記の低分子量正孔輸送材料をポリスチレンやポリカーボネート等のポリマーにドープしたものを使用しても良い。
【0078】
前記発光層に用いられる発光材料としては特に制限されることはなく、従来の公知の化合物の中から任意に選択することができる。前記発光材料としては、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、オキザゾン誘導体、ベンゾオキサゾン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、縮合多環式芳香族炭化水素及びその誘導体、トリアリールアミン誘導体、有機金属誘導体(例えば、アルミニウム又はイリジウムの有機金属錯体)等が挙げられ、単独又は複数の混合物で使用される。また、前記発光材料としては、ホスト材料にドーパント材料が含まれた材料、例えば、イリジウム金属錯体でドープされたポリカルバゾールや燐光白金錯体を含む電荷輸送ホスト材料等を使用することもできる。
【0079】
前記電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物の少なくとも何れかを使用する。それ以外にも、電子輸送材料として従来から公知の化合物と混合して使用しても良い。公知の化合物としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノラート)アルミニウム(Alq
3)等の金属キレート化オキシノイド化合物、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のアゾール化合物、前記特許文献1〜5に開示されているようなフェナントロリン誘導体が挙げられる。
【0080】
前記陰極としては、仕事関数の小さなものが好適であり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体又は複数の合金が挙げられる。また、酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物を使用しても良い。前記陰極は、これらの材料を、例えば、蒸着、スパッタリング等の方法により薄膜を形成することにより、作製することができる。陰極の膜厚は、一般に5〜1000nm、好ましくは10〜500nmで調整される。
【0081】
上記有機発光素子において、本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物の少なくとも何れかを含有する層及び他の有機化合物を含有する層は、一般的に真空蒸着法、又は適用な有機溶媒に溶解させて溶液とし、該溶液をスピンコーティング、ディップコーティング、ロールツートール法等の塗布法により薄膜を形成する。本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物は溶液塗布法による成膜において良好な成膜性が得られるため、特に、高精細及び大面積化の素子を作製するときに作業性の向上及び製造コスト低減を図る上で大きな効果を奏することができる。使用する有機溶媒としては、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、非プロトン系溶媒、パーフルオロ系溶媒、水等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、複数の混合溶媒として使用しても良い。
【0082】
前記の正孔輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、従来の有機発光素子において一般的に採用されている膜厚であれば特に限定されないが、通常、1〜1000nmになるように調整される。
【0083】
上記有機発光素子は、本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物だけでなく、これら含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物を含有する層を含むことができる。本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物は金属錯体化合物とすることによって、電子輸送材料だけでなく、発光材料又は電荷輸送材料としても使用することができる。フェナントロリン金属錯体構造を有する化合物が発光材料又は電荷輸送材料として使用できることは、特開平8−319482号公報及び特開2003−332075号公報等に開示されており、これらの知見に基づいて本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物を有機発光素子の構成層の一部として使用することができる。
【0084】
本発明の含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物としては、例えば、下記一般式(12)に示す化合物及び該化合物の2量化又は3量化以上の高分子量化した化合物が挙げられる。
【0085】
【化45】
[ここで、Mは金属原子又は金属イオンであり、LはMに配位する配位子であり、mは0〜3の整数である。]
【0086】
上記一般式(12)に示す化合物及び該化合物の2量化又は3量化以上の高分子量化した化合物は、例えば、上記一般式(1)、(4)、(7)、(8)又は(11)で示す化合物に、酢酸亜鉛二水和物、トリメチルアミンと塩化ユーロピウム六水和物、テトラキス(2−フェニルピリジンーC
2,N’)(m−ジクロロ)ジイリジウム(III)、IrCl
3/nH
2O、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)[Ni(COD)
2]等の金属化合物を用いてZn、Eu、Ir又はNi等の金属又は金属イオンを配位させることによって製造することができる。
【0087】
本発明の一般式(1)〜(11)及び一般式(12)で示される含窒素複素環化合物は、上記で述べた有機発光素子だけでなく、太陽電池を構成する層に使用する材料としても適用することができる。そこで、本発明の含窒素複素環化合物を使用して作製する太陽電池について説明する。
【0088】
作製する太陽電池は、有機薄膜を積層した構造を有するものであり、一対の電極の間に各機能に応じた有機層を含む構造であれば特に限定されない。具体的には、安定な絶縁性基板上に下記の素子構成を有する構造が挙げられる。
(2−1)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/上部電極
(2−2)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/上部電極
(2−3)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(2−4)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(2−5)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層又はp材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(2−6)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(2−7)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(2−8)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層、p材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層又はp材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
【0089】
前記素子構成の中で、素子構成(2−2)〜(2−8)のバッファ層、特に陰極側バッファ層及び/又は中間電極に接するバッファ層に本発明の窒素複素環化合物を用いることが好ましく、素子構成(2−3)〜(2−8)のバッファ層、特に陰極側バッファ層及び/又は中間電極に接するバッファ層に本発明の窒素複素環化合物を用いることがより好ましい。以下、各構成部材について簡単に説明する。
【0090】
前記下部電極及び上部電極の材料は特に制限はなく、公知の導電性材料を使用することができる。例えば、活性層(p層)と接続する電極としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や金(Au)、オスニウム(Os)、パラジウム(Pd)等の金属が使用でき、活性層(n層)と接続する電極としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、白金(Pt)、リチウム(Li)等の金属やそれらの金属からなる二成分金属系が使用できる。p層に接続する電極としては仕事関数の大きい金属が、また、n層に接続する電極としては仕事関数の小さい金属又は金属系が好ましい。有機太陽電池の少なくとも一方の面は十分に透明であることが望ましく、透明な面に形成する電極は、蒸着やスパッタリング等の方法で所望の透明性が確保できるような透明電極を形成する。
【0091】
上記活性層においてn層として使用される材料は特に限定されないが、電子受容体としての機能を有する化合物が好ましく、例えば、C
60等のフラーレン化合物、カーボンナノチューブ、ペリレン化合物、多環キノン及びキナクリドン等、高分子系ではC−ポリ(フェニレンービニレン)、MEH−CN−PPV、シアノ基又はパーフルオロメチル基含有のポリマー及びポリ(フルロレン)化合物が挙げられる。また、無機化合物の場合は、n型特性の無機半導体化合物を使用することができる。例えば、n−Si、GaAs、CdS、PbS、CDSe、InP、Nb
2O
5、WO
3及びFe
2O
3等のドーピング半導体及び化合物半導体、また、二酸化チタン(TiO
2)、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti
2O
3)等の酸化チタン、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化スズ(SnO
2)等の導電性酸化物が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組合わせて使用できる。
【0092】
上記活性層のp層として使用される電子供与性材料は特に限定されないが、電子供与性を示すことが必要であり、正孔受容体としての機能を有する化合物が好ましい。例えば、N,N’−ビス(3−トリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)及び4,4’,4’’−トリス(フェニル−3−トリルアミノ)トリファニルアミン(MTDATA)等の代表されるアミン化合物、フタロシアニン(Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)及びチタニルフタロシアニン(TiOPc)等のフタロシアニン類、オクタエチルポリフィリン(OEP)、白金オクタエチルポリフィリン(PtOEP)及び亜鉛テトラフェニルポリフィリン(ZnTPP)等に代表されるポリフィリン類、ポリヘキシルチオフェン(P3H)及びメトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)等の主鎖型共役高分子類、並びにポリビニルカルバゾール等に代表される側鎖型高分子類等が挙げられる。
【0093】
上記活性層のi層は、電子受容性材料(n材料)と電子供与性材料(p材料)の中間の特性を有する材料を含有してもよいし、電子受容性材料と電子供与性材料とを混合して含有する混合層であってもよい。
【0094】
上記バッファ層は、有機薄膜太陽電池の上部電極と下部電極が短絡し、セル作製の歩留りの低下を防止するために積層して使用されており、有機薄膜太陽電池は総膜厚が薄いため、特に有用な層構成である。本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物は、電子輸送性が高く、電極とのエネルギー障壁が小さいため、バッファ層、特に陰極側のバッファ層に用いることが好ましい。それ以外にも、中間電極に接するバッファ層に使用することも可能である。本発明の含窒素複素環化合物は、これらのバッファ層として単独で使用しても、又は公知の化合物と混合して使用しても良い。また、本発明の含窒素複素環化合物を含有するバッファ層と公知の化合物を含有するバッファ層とを併用して同じ有機太陽電池の層構成とすることもできる。公知の化合物としては、低分子の芳香族環状酸無水物、導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン:ポリスチレンスルホネート及びポリアニリン:カンファースルホン酸等、無機半導体化合物であるCdTe、p−Si、SiC、GaAs、NiO
2、WO3及びV
2O
5等が挙げられる。
【0095】
上記中間電極は、電子−正孔再結合ゾーンを形成することにより積層型素子の個々の光電変換ユニットを分離するために採用される層構成の一つである。この層は、前方の光電変換ユニット(フロントセル)のn層と後方の光電変換ユニット(バックセル)のp層との間の逆ヘテロ接合の形成を防ぐ役目をする。上記中間電極を形成する層は、Ag、Li、LiF、Al、Ti及びSnから選択される何れかの金属で、通常、厚さ20Å以下で形成される。
【0096】
上記太陽電池を構成する各層は、一般的に基板上に積層して形成される。本発明の太陽電池で使用する基板は、機械的強度が高く、耐熱性を有し、さらに透明性を有するものが好ましい。前記基板としては、ガラス基板や透明樹脂フィルムが挙げられる。
【0097】
上記太陽電池を構成する各層の形成は、公知の有機太陽電池の作製で採用される公知の方法で行うことができ、例えば、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ及びイオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング、ディップコート、キャスティング、ロールコート、フローコーティング及びインクジェット等の湿式成膜法を適用することができる。本発明の一般式(1)〜(11)で示される含窒素複素環化合物は溶液塗布による湿式成膜法を採用してバッファ層等を形成する場合に従来よりも良好な成膜性が得られるため、特に、高精細及び大面積化の素子を作製するときに作業性の向上及び製造コスト低減を図る上で大きな効果を奏する。
【0098】
また、上記太陽電池は、上記一般式(12)に示すように、本発明の含窒素複素環化合物を前駆体とする金属錯体化合物及び該化合物の2量化又は3量化以上の高分子量化した化合物を、活性層又は電荷輸送層を構成する材料としても使用することができる。
【0099】
各層の膜厚は特に限定されないが、適切な膜厚に調整して各層の形成が行われる。膜厚が厚すぎると光電変換効率が低下し、また、薄すぎるとピンホール等の発生がみられ所望の機能を発揮することができない。通常の膜厚は1nm〜10μmの範囲で調整するが、5nm〜1μmの範囲が特に好ましい。
【0100】
本発明の太陽電池は、有機薄膜層において成膜性の向上、膜のピンホール発生の防止等だけでなく耐熱性及び耐久性をあげるために、必要に応じて樹脂や酸化防止剤、紫外線吸収剤及び可塑剤等の添加剤を使用してもよい。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の一般式(1)〜(3)で示される化合物の少なくとも何れか1つを含有する窒素複素環化合物の製造について具体的な実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0102】
<実施例1>
例示化合物番号1−1、2−1、3−1の化合物の合成
【0103】
【化46】
【0104】
まず、上記の例示化合物番号1−1、2−1、3−1で示されるフェナントロリン誘導体の原料となる1,2−ジ(2−ブロモピリジル)ヘキサフルオロシクロペンテン[3]を以下の手順に従い合成した。2,5−ジブロモピリジン[1](2.37g、10mmol)を無水ジエチルエーテル(150mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、−78℃で15分撹拌した。n−BuLi(1.60M、7.5mL、12mmol)を2,5−ジブロモピリジンに対して1.2当量(eq.)になるように滴下して、1時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)にて反応の進行を確認した後、オクタフルオロシクロペンテン(1.06g、5mmol)をそのまま加え、1時間撹拌した。その後、室温に戻し、20時間撹拌した。撹拌後、精製水(20mL)を加え反応を終了させた。反応溶液をジエチルエーテルで抽出し、ジエチルエーテル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ジエチルエーテルをエバポレーターによる留去した。得られた混合物をカラムクロマトグラフィ(PLC)[silica gel、酢酸エチル:n−ヘキサン=1:9]により目的反応物[3]を得た(収量0.83g、収率34%)。化学構造は、
1H−NMR及び
19F−NMRで同定した。NMRスペクトルの測定は、5φのサンプル管中に試料と重溶媒(CDCl
3)を加え、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて調製し、NMR装置(Bruker AVANCE III 400型)によって行った。このもののNMRスペクトルを
図4の(a)及び(b)においてそれぞれの最上段に示す。
【0105】
次に、上記の方法で合成された目的反応物[3]を用いて、Scholl反応によってフェナントロリン誘導体(1−1、2−1、3−1)を以下の手順に従い合成した。目的反応物3(0.08296g、0.17mmol)とヨウ素(0.052g、0.204mmol)のベンゼン溶液をアルゴン雰囲気下で30分撹拌した。1,2−エポキシブタン(0.5mL)をそのまま加え、光(USHIO製のOptical Modulex、設定条件:波長365nm、出力20mW/cm
2)を照射した。30分ごとにTLCを測定し反応の進行具合を確認した。反応が進行しなくなったことを確認した後、飽和チオ硫酸ナトリウム(20mL)、精製水(20mL)、飽和塩化ナトリウム(20mL)でそれぞれ一回づつ洗浄し、ベンゼン層を硫酸ナトリウムで乾燥後、ベンゼンをエバポレーターにより留去した。このときの粗生成物の質量は0.0897gであった。また、この粗生成物の
1H−NMRの測定により、例示化合物番号1−1、2−1、3−1で示されるフェナントロリン誘導体の比率は、1−1:2−1:3−1=40:50:3であった。得られた混合物をPLC[silica gel、酢酸エチル:n−ヘキサン=2:8]により、本発明の例示化合物番号1−1、2−1、3−1で示されるフェナントロリン誘導体を得た。このとき例示化合物番号1−1、2−1で示されるフェナントロリン誘導体は、収量がそれぞれ27.5mg(収率33%)、39.8mg(収率48%)で合成される。なお、3−1で示されるフェナントロリン誘導体は精製後も少量の不純物が混じっているため、正確な収量は求まらなかった。化学構造は、前記と同様な条件で
1H−NMR及び
19F−NMRによって同定した。本発明の示化合物番号1−1、2−1、3−1で示されるフェナントロリン誘導体のNMRスペクトルを
図4の(a)及び(b)にそれぞれ示す。
【0106】
このようにして合成した例示化合物番号1−1、2−1、3−1で示されるフェナントロリン誘導体は、前記目的反応物3のピリジル基の結合軸が自由に回転できるためにScholl反応における閉環化で3種の異性体を含む合成物として得られる。フェナントロリン誘導体1−1、2−1及び3−1を個別に分離して得たい場合には、分層のカラムクロマトフラフィー等による分離精製を行うことによって分離が可能である。
【0107】
合成したフェナントロリン誘導体の中で、1−1及び2−1の化合物について単結晶X線構造解析を行った。X線構造解析は、Rigaku製のデスクトップ単結晶X線構造解析装置XtaLABminiで50kV、12mA、0.60kWの電力、600WのX線出力を用いて行い、検出器としてMARCURY CCDを、分光器として集光素子SHINEを、解析ソフトとしてはolex2とmarcuryをそれぞれ使用した。X線構造解析によって推定される結晶構造を
図5に示す。
【0108】
X線構造解析の結果、
図5の右側に示すように、本発明のフェナントロリン誘導体1−1、2−1は平面結晶構造を有することが推定される。このように、フルオロシクロペンテンの導入によって形成された(−CF
2−CF
2−)のシクロ環構造は、含窒素複素環化合物において平面構造の形成を立体的に助ける骨格であることが分かった。したがって、本実施例の含窒素複素環化合物は、有機薄膜の状態で分子が膜の水平方法だけでなく、積層方向にも規則正しく配列することが可能となる構造であることから高いπ共役性を有し、電子輸送材料並びにそれを含む有機発光素子と太陽電池に適用した場合に、従来よりも光出力高輝度化及び高変換効率を得ることが可能になると推察される。
【0109】
また、例示化合物番号1−1、2−1、3−1が含まれるフェナントロン誘導体は、化学構造の点から、有機溶媒に対する溶解性が高く、耐熱性に優れることが考えられる。したがって、1,10−フェナントロリン誘導体の一種であるバソフェナントロリン(BPhen)やボソプロイン(BCP)等の従来材料と比較して特性的に優位な材料として使用することができる。
【0110】
さらに、本発明の一般式(4)〜(11)で示される化合物の少なくとも何れか1つを含有する含窒素複素環化合物についても、実施例1で説明した合成方法に基づいて製造した本発明の一般式(1)〜(3)で示される含窒素複素環化合物の少なくとも何れか1つを用いて、例えば、
図2又は
図3に示す公知の合成方法を利用して製造することができる。
【0111】
以上のように、本発明による新規な含窒素複素環化合物は、フェナントロリン構造に水素の少なくとも1個がハロゲン元素で置換された飽和炭化水素系の環状構造の導入によって、フェナントロリン構造が有する電子吸引性に対して影響をほとんど与えず、加えて含窒素複素環化合物の平面構造を立体的に形成しやすくするため、フェナントロリン構造が有するπ電子共役性を十分に維持するだけでなく、耐熱性構造の付与による保存安定性と耐久性の向上を図ることができる。さらに、前記飽和炭化水素系の環状構造は、溶媒に対する溶解性を高める効果が期待でき、環境負荷の高い特殊な有機溶媒の使用量を低減したり、そのような有機溶媒を使用する必要が無くなる。それによって、溶液塗布法による成膜を行う場合に良好な成膜性が得られ、高精細及び大面積化を図るための作業性の向上及び素子の製造コスト低減を図ることが期待できる。本発明による新規な含窒素複素環化合物を有機発光素子又は有機太陽電池を構成する層に含有される材料として適用すれば、発光効率又は光電変換効率及び耐久性の向上が期待できるため、その有用性は極めて高い。