特許第6386863号(P6386863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オーディオテクニカの特許一覧

<>
  • 特許6386863-コンタクトマイクロホン 図000002
  • 特許6386863-コンタクトマイクロホン 図000003
  • 特許6386863-コンタクトマイクロホン 図000004
  • 特許6386863-コンタクトマイクロホン 図000005
  • 特許6386863-コンタクトマイクロホン 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386863
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】コンタクトマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/46 20060101AFI20180827BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H04R1/46
   H04R17/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-208224(P2014-208224)
(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公開番号】特開2016-82249(P2016-82249A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−074197(JP,U)
【文献】 特開昭59−047898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/46
H04R 17/00 − 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短冊状に形成された少なくとも二枚の圧電バイモルフのそれぞれの一端部が、支持部材に対してそれぞれの貼り合わせ面が互いに直交した状態で取り付けられ、
前記各圧電バイモルフの他端部側にはそれぞれウエイトが取り付けられ、
前記支持部材に加わる振動に基づく前記各圧電バイモルフによる各出力電圧を、加算して取り出すコンタクトマイクロホンであって、
前記各圧電バイモルフの他端部側にそれぞれ取り付けられた各ウエイト間には、所定の間隔を有する隙間が形成され、
各ウエイト間の前記隙間には前記各ウエイト間の相対移動を制動する制動剤が注入されていることを特徴とするコンタクトマイクロホン。
【請求項2】
前記支持部材の長手方向の下端部に、支持部材に直交するようにプレート状のベース部材が取り付けられ、
当該ベース部材における支持部材の取り付け面とは反対面を、集音対象物に対する接合面としたこと、
を特徴とする請求項1に記載されたコンタクトマイクロホン。
【請求項3】
前記ベース部材における支持部材の取り付け面と、ベース部材に近い前記一方のウエイトとの間には、所定の間隔を有する隙間が形成され、
前記一方のウエイトと前記ベース部材との間の隙間には、両者間の相対移動を制動する制動剤が注入されていること、
を特徴とする請求項2に記載されたコンタクトマイクロホン。
【請求項4】
前記二つの圧電バイモルフは直列に接続されていること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載されたコンタクトマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は楽器等に取り付けて、その振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
楽器等の振動を電気信号に変換するコンタクトマイクロホンには、二枚の圧電素子を貼り合わせた構造のバイモルフ型圧電素子(以下、圧電バイモルフと言う。)が利用されている。
この圧電バイモルフを備えたコンタクトマイクロホンは、例えば弦楽器などの胴の一部もしくは弦を支える駒(ブリッジ)の脚部、人間の喉など(収音対象物)に取り付けられて、楽器等の振動を電気信号に変換するものである。特許文献1はその一例を開示している。
【0003】
このような圧電バイモルフを備えたコンタクトマイクロホンでは、圧電バイモルフの一端部がコンタクトマイクロホンの一部を構成する支持部材に片持ち梁の状態で取り付けられる。また、圧電バイモルフの他端部(自由端側)には、ウエイト(重り)が取り付けられる。
そして、前記支持部材側が楽器からの振動を受けて振動し、前記ウエイトが慣性質量として機能するために、圧電バイモルフに楽器の振動に伴う変位(歪み)が加わる。このとき、圧電バイモルフには変位の大きさに比例した出力電圧が発生する。
【0004】
この様に、圧電バイモルフは、変位が加わった瞬間に出力電圧を発生する特性、いわゆる加速度に比例した信号出力特性を有する。
圧電バイモルフでは、前記ウエイトを重くして共振周波数を低くすると、低周波領域の感度が高くなる。逆に前記ウエイトを軽くすると共振周波数は高い周波数帯域に移動し、共振周波数以下の周波数帯域全体の感度が低下する。
そして、圧電バイモルフを備えたコンタクトマイクロホンは機械共振系の物理特性を有することから、共振鋭度の高い特有な再生信号がもたらされる。
【0005】
一方、楽器は、音を発する際に振動する。例えばバイオリンは、弓で弦が擦られることにより弦が振動し、音を発する。この音は、バイオリンのボディによって共鳴し、外部に放出される。このように、楽器の各部位は、音を外部へ放出するための役割を持っている。そのため、楽器の種類や各部位によって、音源となる振動は異なり、複雑な動きを示す。
前記したコンタクトマイクロホンは、楽器の種類やその取り付け位置に応じて、コンタクトマイクロホンの取り付け面に垂直な方向だけでなく、水平方向にも振動する。しかしながら、圧電バイモルフの感度は貼り合わせ面に直交する方向の変位のみに限られる。そのため、従来の圧電バイモルフを用いたコンタクトマイクロホンには、楽器への取り付け部位および取り付け方向に応じて感度が変化するという課題がある。また、従来のコンタクトマイクロホンでは、原音に忠実な収音ができず、楽器の音色が忠実に再現できないという課題もある。
したがって、コンタクトマイクロホンの取り付け面に対して垂直方向および水平方向の両方向に感度を持たせたコンタクトマイクロホンが提供されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−288048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、前記した圧電バイモルフを用いたコンタクトマイクロホンにおける特有の課題を解決するためになされたものであり、コンタクトマイクロホンの取り付け面に対して垂直および水平方向の加速度を検出することを可能とし、楽器への取り付け部位や方向にかかわらず高い感度を有すると共に、信号再生時に音色も変化することのないコンタクトマイクロホンを提供することを目的とするものである。
また、圧電バイモルフ特有の前記した共振鋭度を調整することができ、楽器の自然な音声信号を得ることができるコンタクトマイクロホンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るコンタクトマイクロホンは、短冊状に形成された少なくとも二枚の圧電バイモルフのそれぞれの一端部が、支持部材に対してそれぞれの貼り合わせ面が互いに直交した状態で取り付けられ、前記各圧電バイモルフの他端部側にそれぞれウエイト取り付けられ、前記支持部材に加わる振動に基づく前記各圧電バイモルフによる各出力電圧を、加算して取り出すコンタクトマイクロホンであって、前記各圧電バイモルフの他端部側にそれぞれ取り付けられた各ウエイト間には、所定の間隔を有する隙間が形成され、各ウエイト間の前記隙間には前記各ウエイト間の相対移動を制動する制動剤が注入されていることを特徴とする。
【0010】
また、一つの好ましい形態においては、前記支持部材の長手方向の下端部に、支持部材に直交するようにプレート状のベース部材が取り付けられ、当該ベース部材における支持部材の取り付け面とは反対面が、コンタクトマイクロホンにおける振動部に対する接合面として利用される。
【0011】
加えて、前記ベース部材における支持部材の取り付け面と、ベース部材に近い前記一方のウエイトとの間には、所定の間隔を有する隙間が形成され、前記一方のウエイトと前記ベース部材との間の隙間には、両者間の相対移動を制動する制動剤が注入された構成を好適に採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る前記したコンタクトマイクロホンによると、少なくとも二枚の圧電バイモルフのそれぞれの一端部が、支持部材に対してそれぞれの貼り合わせ面が互いに直交した状態で取り付けられ、前記支持部材に加わる振動に基づく前記各圧電バイモルフによる出力を加算して取り出すように構成される。
これにより垂直および水平方向にわたる複雑な振動を加速度の変化として確実に検出することが可能である。したがって楽器への取り付け部位や方向にかかわらず高い感度を有し、かつ再生時においても音色の変化がない、原音に忠実な収音ができるコンタクトマイクロホンを提供することができる。
【0013】
そして、前記各圧電バイモルフの他端部側には、それぞれウエイトが取り付けられる。これらのウエイト間には、所定の間隔を有する隙間が形成される。この隙間に制動剤を注入した構成を採用することで、前記各ウエイト間の相対移動を効果的に制動することができる。
また、前記支持部材に直交するように取り付けられたプレート状のベース部材と、このベース部材に近い前記一方のウエイトとの間にも所定の間隔を有する隙間が形成される。この隙間に制動剤を注入した構成を採用することで、より一層の共振鋭度の調整(抑制)効果を発揮することができる。
これにより、圧電バイモルフ特有の共振鋭度を調整(抑制)することができ、楽器特有の自然な音声信号を得ることに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明に係るコンタクトマイクロホンの正面図である。
図2】同じく側面図である。
図3】同じく背面図である。
図4】同じく斜視図である。
図5】圧電バイモルフの各出力を加算する例を示した回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るコンタクトマイクロホンについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1図4は、それぞれ、正面、側面、背面、斜めから見たコンタクトマイクロホン1の全体を示した図である。そのうち、図2おいてに示す後述するベース部材と支持部材には、他部材との識別が明確となるようにハッチングを付けて示している。
【0016】
符号2は、若干厚みのある板体として直方体状に形成された支持部材を示している。また、ベース部材3も若干厚みのある板体として直方体状に形成されている。支持部材2の下端部は、支持部材2の長手方向が垂直に向くようにベース部材3の端部に取り付けられている。言い換えれば、支持部材2とベース部材3は、それらの為す角度がほぼ直角(90度)となるようにして取り付けられている。
【0017】
なお、図において示されている前記ベース部材3の下端面(支持部材2の取り付け面である上側面の反対面)は、コンタクトマイクロホン1における振動部(楽器)に対する接合面3aとなる。
すなわち、図示せぬ例えば弦楽器等の胴体の面上などに、前記ベース部材3の下側面3aが載置されるようにして、コンタクトマイクロホン1は取り付けられる。
【0018】
前記支持部材2には、短冊状に形成された第1と第2の圧電バイモルフ4,5の一端部が埋め込まれるようにして取り付けられている。
前記第1と第2の圧電バイモルフ4,5は、周知のとおりそれぞれ二枚の圧電素子が厚さ方向の中央部で貼り合わせた構造である。第1と第2の圧電バイモルフ4,5は、その長手方向が前記したベース部材3の長手方向に沿って配置されると共に、支持部材2に対して上下に配置された状態に取り付けられている。このとき、第1と第2の圧電バイモルフ4,5のそれぞれの貼り合わせ面4a,5aは、互いに直交した状態になるように取り付けられる。
すなわち、第1と第2の圧電バイモルフ4,5は、貼り合わせ面4a,5aが互いに直交するように、前記支持部材2に対して片持ち梁の状態で取り付けられている。
【0019】
前記第1と第2の圧電バイモルフ4,5の他端部(自由端側)には、それぞれ直方体状に成形された第1と第2のウエイト(重り)6,7が取り付けられている。
すなわち、第1の圧電バイモルフ4の自由端側の下側面に、前記第1のウエイト6が取り付けられており、また第2の圧電バイモルフ5の自由端側の側面に、前記第2のウエイト7が取り付けられている。
【0020】
そして、第1のウエイト6の下側面と第2のウエイト7の上側面との間には、所定の間隔を有する隙間8が形成される。この隙間には、前記第1と第2の各ウエイト間の相対移動を制動する制動剤(前記隙間と同一の符号8で示す。)が注入されている。
また、第2のウエイト7の下側面と、前記ベース部材3の上面3bとの間には、所定の間隔を有する隙間9が形成される。この隙間には、ベース部材3に対する第2のウエイト7の相対移動を制動する制動剤(前記隙間と同一の符号9で示す。)が注入されている。
前記各隙間8,9に注入される制動剤には、揮発性の少ない、例えば粘性のグリースもしくはゲル剤等が用いられる。
【0021】
図5は、前記第1圧電バイモルフ4と、第2圧電バイモルフ5によってそれぞれ生成される信号を加算する加算回路の一例を示したものである。
すなわち、第1圧電バイモルフ4の一方の電極はグランドGNDに接続され、他方の電極はFETQ1のゲート電極に接続されている。そして、直流動作電源VDDと、グランドGNDとの間には電圧分割抵抗R1,R2が接続されている。抵抗R1,R2の接続点と前記FETQ1のゲート電極との間には、バイアス供給抵抗R3が接続される。このバイアス供給抵抗R3を介して、FETQ1のゲート電極に所定のバイアス電圧が印加される。
【0022】
また、前記FETQ1のドレイン電極には直流動作電源VDDが供給される。FETQ1のソース電極とグランドGNDとの間には、可変抵抗VR1が接続されている。そして、この可変抵抗VR1の摺動端子から、第1圧電バイモルフ4の出力信号が後段に出力される。すなわち、FETQ1はソースフォロアー回路によるインピーダンス変換器を構成している。
【0023】
また、第2圧電バイモルフ5の一方の電極は、前記した可変抵抗VR1の摺動端子に接続され、他方の電極はFETQ2のゲート電極に接続されている。そして、直流動作電源VDDと、グランドGNDとの間には電圧分割抵抗R4,R5が接続される。抵抗R4,R5の接続点と前記FETQ2のゲート電極との間には、バイアス供給抵抗R6が接続されて、ゲート電極に所定のバイアス電圧が印加される。
【0024】
また、前記FETQ2のドレイン電極には直流動作電源VDDが供給される。FETQ2のソース電極とグランドGNDとの間には、可変抵抗VR2が接続されている。FETQ2はソースフォロアー回路によるインピーダンス変換器を構成している。
そして、可変抵抗VR2の摺動端子が、コンタクトマイクロホン1の出力端子Outを構成している。
【0025】
この図5に示す回路構成によると、第1圧電バイモルフ4からの出力信号は、インピーダンス変換器FETQ1を介して第2圧電バイモルフ5の基準電位側に入力される。このことにより、第1圧電バイモルフ4からの出力信号は第2圧電バイモルフ5を駆動するように作用する。これは、第1圧電バイモルフ4と第2圧電バイモルフ5は直列に接続されたことになり、結果として第1と第2の圧電バイモルフ4,5による個々の出力信号が、加算された状態で、出力端子Outより出力される。
【0026】
以上のように構成されたコンタクトマイクロホン1は、前記したとおりベース部材3の下側面である振動部への接合面3aが例えば弦楽器等の胴体の一部に載置されるようにして取り付けられる。したがって、弦楽器等に発生する振動は、ベース部材3および前記支持部材2を介して、第1と第2の圧電バイモルフ4,5に伝達される。
【0027】
一方、各圧電バイモルフ4,5の自由端側には、第1と第2のウエイト6,7が取り付けられている。これらのウエイト6,7は各圧電バイモルフ4,5に対する慣性質量として作用する。そのため、楽器の振動に伴う図1の矢印方向の変位(歪み)が各圧電バイモルフ4,5のそれぞれに加わる。各圧電バイモルフ4,5はそれぞれ変位の大きさに比例した出力電圧を出力する。そして、これら圧電バイモルフ4,5の出力電圧は、図5に例示した加算回路によって、コンタクトマイクロホン1の出力信号(楽器等の音声を電気音響変換した信号)として出力される。
【0028】
以上説明したこの発明に係るコンタクトマイクロホンによると、振動方向がそれぞれ直交するように配置された二枚の圧電バイモルフの出力電圧を加算して利用するので、垂直および水平方向の振動による加速度を確実に検出することができる。これにより楽器への取り付け部位や方向にかかわらず高い感度を有し、原音に忠実な音声を収音できるコンタクトマイクロホンを提供することができる。そのため、本実施例によるコンタクトマイクロホンによって収音された音声信号は、再生時に音色が変化することのない、再現性の高い音声信号である。
【0029】
加えて、圧電バイモルフの自由端側に取り付けたウエイト間の隙間に制動剤を注入した構成を採用したので、圧電バイモルフ特有の共振鋭度を調整(抑制)することができる。そのため、楽器特有の自然な音声信号を得ることができるなど、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 コンタクトマイクロホン
2 支持部材
3 ベース部材
3a 振動部への接合面
3b ベース部材の上面
4 第1圧電バイモルフ
4a 貼り合わせ面
5 第2圧電バイモルフ
5a 貼り合わせ面
6 第1ウエイト
7 第2ウエイト
8 隙間(制動剤)
9 隙間(制動剤)
図1
図2
図3
図4
図5