(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リレー端末は、通信障害が発生した通信経路を判定し、健全な通信経路へ中継フレームを送出する送出部を有することを特徴とする請求項2記載の保護リレーシステム。
前記主端リレー端末とともに、これ以外のリレー端末も、前記通信経路を経由する2つの通信回線に対応した2つの通信ポートを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の保護リレーシステム。
【背景技術】
【0002】
保護リレー装置は、送電線保護システムや系統安定化制御システムなど、多岐にわたる用途に適用されている。送電線保護システムにおける保護リレー装置は、送電線や母線の事故を検出して、事故区間を切り離す。系統安定化制御システムにおける保護リレー装置は、発電所、変電所の系統事故を検出して、周波数脱調等の系統不安定事象を予測し、発電機等を系統から切り離す。これにより、保護リレー装置は、事故波及の防止、電力系統の安定を図ることができる。
【0003】
これらの送電線保護システムや系統安定化制御システムにおいては、保護リレー装置が、送電線区間や発変電所の各端子に設置されている。保護リレー装置には、自らが監視する区間の電流値や電圧値、接点情報等、種々の検出手段が計測した電気量データが入力される。また、保護リレー装置は、通信経路を介して、他の保護リレー装置や計算機等と電気量データを授受し合い、内部の演算装置によって、電流差動演算や安定度演算を実行している。
【0004】
複数の保護リレー装置を通信経路で接続した保護リレーシステムにおいては、各保護リレー装置が、同一時刻に計測した電気量データを用いて、事故検出判定等の演算を行う。電気量データを計測するタイミングは、ハードウェアクロックを分周して生成するサンプリングパルス信号を基点にする。サンプリングパルス信号は、系統周波数の電気角30°や15°など、保護リレーシステムに応じた計測精度を分周値調整で生成できる。つまり、分周値を調整することで、分解能を決定している。
【0005】
そして、分周値を微調整することで、パルス信号幅を伸縮させ、他の保護リレー装置のパルス信号エッジに同期させることができる。例えば、微調整は、基準値に+1したり、−1する等によって行う。このような同期制御を、サンプリング同期制御と称しており、保護リレー装置を適用するシステムの大きな特徴である。
【0006】
保護リレーシステムにおける通信回線の速度としては、54Kbpsや1.5Mbpsが一般的である。電気角30°の周期は、50Hz系統で1.67ミリ秒周期、60Hz系統で1.38ミリ秒周期となる。しかし、このような速度及び周期で瞬時値データを転送する場合、1情報フレーム長が90bitや119bitといった非常に小さい容量しか取り扱えず、保護リレーシステムの機能や性能の制約となっていた。
【0007】
近年では、100Mbpsや1000Mbpsの高速イーサネット(登録商標)網を、保護リレー装置の通信回線に適用する研究がすすめられている。これにより、取り扱える情報量が格段に増え、保護リレー装置に多様な機能を実装することが可能となる。また、情報フレーム送信間隔も短い周期で転送することで、瞬時値の精度向上も見込まれる。
【0008】
また、これまでの保護リレーシステムにおける保護リレー装置の間の通信形態には、対向型とループ型の2方式のトポロジが採用されている。例えば、イーサネットの通信網において、ループ型のトポロジは一般的である。但し、ループ型のトポロジを構成する場合、ブロードキャストされるフレームが、ループ経路を循環することにより帯域を圧迫しない対策を行う必要がある。
【0009】
一般的には、ループ端の設定又はレイヤー2スイッチ等の中継機器のSpanning Tree ProtocolやRapid STPを適用した経路制御を行うことが挙げられる。レイヤー2スイッチは、データリンク層における経路制御を行う中継機器である。このレイヤー2スイッチは、宛先MACアドレスに基づいて、MACアドレステーブルにより決定されるポートにのみ、フレームを送出する。
【0010】
Spanning Tree Protocolは、IEEE802.1dで標準化されたプロトコルであり、STPと略される。STPを適用することにより、ブロードキャストフレームなどのループ経路で発生する問題を回避することができる。Rapid STPは、IEEE802.1wで標準化されたプロトコルであり、RSTPと略される。RSTPでは、STPの処理の高速化が図られている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[A.第1の実施形態]
[1.構成]
[全体構成]
本実施形態の保護リレーシステムの全体構成を、
図1を参照して説明する。本実施形態は、複数のリレー端末Ry1〜Ry4、LANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4を有している。複数のリレー端末Ry1〜Ry4には、2つの通信ポートであるポートA、Bが設けられている。
【0021】
リレー端末Ry1は、後述するサンプリング同期制御において、主端となる端末である。リレー端末Ry1の2つのポートA、Bは互いにポートブロックされている。リレー端末Ry1のポートA、Bには、それぞれ別個のLANスイッチSW1A、SW1Bが接続されている。
【0022】
リレー端末Ry2〜Ry4は、サンプリング同期制御において、従端となる端末である。リレー端末Ry2〜Ry4の各ポートA、Bは、それぞれ共通のLANスイッチSW2〜SW4に接続されている。各LANスイッチSW1A、LANスイッチSW2〜SW4、LANスイッチSW1Bは、順次カスケード接続されることにより、ループ型のトポロジを形成している。但し、上記のように、リレー端末Ry1のポートA、Bは、ポートブロックされているので、ブロードキャストパケットは、リレー端末Ry1でブロックされる。つまり、リレー端末Ry1はループ端を構成している。
【0023】
図1の態様では、4台のリレー端末Ry1〜Ry4を電力系統の要所に配置し、各々のリレー端末Ry1〜Ry4が自端計測した電気量データを含むフレームを、通信回線に接続された他のリレー端末R1〜Ry4に配信し合う。これにより、全ての若しくは必要なリレー端末R1〜R4の電気量データを、互いに共有できる。
【0024】
各リレー端末Ry1〜Ry4の2つのポートA、Bに接続された通信回線のルートを、それぞれAルート、Bルートと呼称する。Aルート、Bルートの2つの通信回線は、物理的な通信経路を共通とする仮想回線である。各リレー端末Ry1〜Ry4は、同じ電気量データのフレームを、Aルート、Bルートの双方に流すことにより、冗長化を実現している。
【0025】
上記のリレー端末Ry1〜Ry4、LANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4の全部若しくは一部は、コンピュータを所定のプログラムで制御することによって実現できる。この場合のプログラムは、マイクロプロセッサを含むコンピュータのハードウェアを物理的に活用することで、以下に述べるような処理を実現するものである。上記の各処理を実行する方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体も、本実施形態の一態様である。
【0026】
ハードウェアで処理する範囲、プログラムを含むソフトウェアで処理する範囲をどのように設定するかは、特定の態様には限定されない。例えば、以下に述べる各部のいずれかを、それぞれの処理を実現する回路として構成することも可能である。一般的に、LANスイッチは、専用のハードウェアとして、ASICを用いて処理の高速化を図っている。
【0027】
[リレー端末]
次に、リレー端末Ry1〜Ry4の構成を、
図2を参照して説明する。リレー端末Ry1〜Ry4は、基本的には、保護リレー装置である。つまり、リレー端末Ry1〜Ry4は、変換部110、演算処理部120、通信部130、入出力部140、出力装置150、入力装置160を有する。
【0028】
(変換部)
変換部110は、自端が監視するCTからの入力電流、VTからの入力電圧、接点情報等の電気量データを、ディジタル量に変換する処理部である。
【0029】
(演算処理部)
演算処理部120は、CPU、メモリ、インタフェースを含み、本実施形態に必要な演算処理を行う処理部である。本実施形態の演算処理部120は、一般的な保護リレーが有する保護演算部121、同期制御部122に加えて、検出部123、生成部124、送出部125、中継部126を有する。
【0030】
保護演算部121は、入力された電気量データ等に基づいて、保護リレーに必要な事故検出判定等の演算処理を行う処理部である。演算処理は、電流差動演算や安定度演算を含む。例えば、各リレー端末Ry1〜Ry4の保護演算部121は、自端が取り込んだ電気量データを、他の全端に送って、同じ時刻の電気量データと比較して差分をとる。同じ時刻か否かは、サンプリングアドレスの時刻情報に基づいて判断できる。
【0031】
本実施形態においては、特に、AルートとBルートで取得した電気量データのandをとるか、orをとることにより冗長化を図っている。AルートとBルートで取得した電気量データのいずれか一方を破棄する、所定時間の経過によるタイムアウトとの兼ね合いで、不達の電気量データは無視する等の設定は自由である。
【0032】
同期制御部122は、後述するサンプリング同期制御を行う処理部である。このサンプリング同期制御のための通信において、リレー端末Ry1の同期制御部122は、主端、つまりマスターとして機能する。リレー端末Ry2〜Ry4の同期制御部122は、従端、つまりスレーブとして機能する。
【0033】
検出部123は、通信回線における通信障害を検出する処理部である。各リレー端末Ry1〜Ry4は、定期的に、Aルート、Bルートの2ルートで互いにフレームを送受信している。各リレー端末Ry1〜Ry4同士は、フレームの着信状況を常時監視している。検出部123は、所定時間を経過しても2ルートでのフレーム着信がない着信不良が確定すると、通信障害を検出する。
【0034】
生成部124は、送出及び中継するフレームを生成する処理部である。生成部124は、定常時に送信するフレームとして、Aルート、Bルートのそれぞれに対応するフレームを生成する。また、本実施形態の生成部124は、中継フレームを生成する。中継フレームは、検出部123が通信障害を検出した場合に、主端のリレー端末Ry1を経由することにより、通信障害が発生した箇所を迂回する通信経路で、宛先のリレー端末Ry1〜Ry4に到達させるフレームである。
【0035】
送出部125は、生成部124が生成したフレームを送出する処理部である。送出部125は、定常時のフレームとして、リレー端末Ry1〜Ry4の2つのポートA、Bへの送出を行う。フレームの送出は、通信障害が発生したルートには送出しない等の設定が可能である。
【0036】
中継部126は、中継フレームを、2つのポートA、Bの間で中継する処理部である。主端のリレー端末Ry1の送出部125は、ポートブロックにより、ポートAとポートBとの間での定常時のフレームの送出は行わない。但し、通信障害発生時には、中継部126が後述する中継フレーム処理を行う。
【0037】
(通信部)
通信部130は、通信回線を介して、他のリレー端末Ry1〜Ry4との間で、フレームを送受信する処理部である。通信部130は、
図3に示すように、通信ドライバ131、NIC132及びNIC133を有する。通信ドライバ131は、演算処理部120とNIC132、NIC133とのインタフェースを提供する処理部である。
【0038】
NIC(Network interface controller)132、133は、通信回線を介したネットワークとの接続を行う処理部である。NIC132及びNIC133は、それぞれ2つの通信ポートA、Bに対応している。NIC132及びNIC133は、それぞれ異なるMACアドレスを持ち、異なるIPアドレスを管理している。つまり、各NIC132及びNIC133は、各Aルート、B別に搭載され、独立してフレームを送受信できる。
【0039】
(入出力部)
入出力部140は、外部機器との間で、動作指令等の信号の入出力を行う処理部である。つまり、入出力部140は、遮断器の接点への制御信号、接点の状態信号であるリレー出力、リレー入力を制御する。
【0040】
(出力装置)
出力装置150は、操作のためのインタフェース、各種のデータ、リレー端末Ry1〜Ry4を含む系統の状態等の情報を出力する処理部である。処理の過程及び結果における各種のデータは、いずれも、適宜、出力装置150に表示、プリントアウト等することにより、オペレータが視認可能となる。出力装置150としては、表示装置、プリンタ、スピーカ、ブザー、ランプ等、現在又は将来において利用可能なあらゆる出力装置を含む。
【0041】
(入力装置)
入力装置160は、各部の処理に必要な情報の入力、処理の選択や指示を入力する処理部である。入力装置160としては、操作パネル、タッチパネル、スイッチ、キーボード、マウス等、現在又は将来において利用可能なあらゆる入力装置を含む。
【0042】
[LANスイッチ]
LANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4は、一般的なレイヤー2スイッチである。つまり、複数のポートを有し、いずれかのポートから入力されたフレームの宛先MACアドレスから出力ポートを判別し、出力ポートから出力する中継装置である。各LANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4は、それぞれ1つのMACアドレスにより識別される。フレームはバッファへの保持を経由して処理される。
【0043】
また、上記のように、LANスイッチSW1A、SW1Bは、リレー端末Ry1の2つのポートA、Bに、別々に接続されている。LANスイッチSW2〜SW4は、それぞれリレー端末Ry2〜4の2つのポートA、Bに接続されている。つまり、各リレー端末Ry2〜4は、それぞれの2つのポートA、Bが、1つのLANスイッチSW2〜SW4に接続されている。さらに、上記のように、LANスイッチSW1AからLANスイッチSW1Bまで、LANスイッチSW2〜4をカスケード接続することにより、ループ型のトポロジが形成されている。
【0044】
[通信経路]
LANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4を接続する通信経路は、全二重通信(FullDuplex)が可能な経路であればよい。接続に用いるケーブルは、一般的な通信ケーブルを用いることができる。例えば、イーサネット通信ケーブルとして用いられるUTPケーブルであっても、光ケーブルであってもよい。ネットワークのトポロジは、上記のように、ループ型になる。但し、リレー端末Ry1は、2つの通信ポートに個別にLANスイッチSW1A、SW1Bを配置することにより、ポートブロックを形成する。このポートブロックは、ループ型のトポロジのループ端となる。
【0045】
[通信フレーム]
図4は、本実施形態のデータ通信に使用するフレームフォーマットの一例である。これは、UDP/IP通信時のフレームフォーマットである。本実施形態では、UDP/IPのフレームのユーザデータ領域に、宛先端子番号、発信元端子番号を付与する。宛先端子番号は、Ry1、Ry2、Ry3、Ry4における数字である。以下、各項目の内容を示す。
【0046】
宛先アドレス:フレームの宛先MACアドレス
発信元アドレス:フレームの発信元MACアドレス
タイプ:イーサネットフレーム種別
IPヘッダ:宛先IPアドレス、発信元IPアドレス、IPフィールドサイズなど
UDPヘッダ:宛先ポート番号、発信元ポート番号、UDPフィールドサイズなど
宛先端子番号:フレームの宛先の端子番号
発信元端子番号:フレーム発信元の端子番号
電気量データ:計測電気量や装置の制御/監視状態など任意の付属情報、各アプリ向けのデータで、サンプリングアドレスSAや計測タイミング差、電気量データをまとめたもの
同期制御データ:同期主従の端子番号、早期フレーム送受信タイミング(時刻)情報、同期指令/応答種別情報
FCS:フレームチェックシーケンスコード
【0047】
通信回線が健全時に、リレー端末Ry3が送出するフレームから、一部を抜粋した例を、
図5に示す。(A)は、リレー端末Ry3のポートAから送出するフレーム、(B)は、リレー端末Ry3のポートBから送出するフレームである。
【0048】
図1に示したリレー端末Ry1〜Ry4の4台の接続構成では、通信回線が健全時は、リレー端末Ry3は、リレー端末Ry1、Ry2、Ry4が、宛先の対向リレー端末となる。このため、
図5(A)(B)に示すように、それぞれの宛先MACアドレスを付与したユニキャストフレームを送出する。
【0049】
なお、各リレー端末Ry1〜Ry4のポートAは、他のリレー端末Ry1〜Ry4のポートAのMACアドレスを解決して保持している。また、ポートBは、他のリレー端末Ry1〜Ry4のポートBのMACアドレスを解決して保持している。
【0050】
そして、各ポート別にIPアドレスを管理することで、Aルート、Bルートを論理的に分離することができる。例えば、Aルートのネットワークアドレスを192.168.100.xx、Bルートのネットワークアドレスを192.168.200.xxとすると、各リレー端末Ry1〜Ry4のポートA、ポートBのIPアドレスは、以下のようになる。
【0051】
Ry1−ポートAのIP:192.168.100.1
Ry1−ポートBのIP:192.168.200.1
Ry2−ポートAのIP:192.168.100.2
Ry2−ポートBのIP:192.168.200.2
Ry3−ポートAのIP:192.168.100.3
Ry3−ポートBのIP:192.168.200.3
Ry4−ポートAのIP:192.168.100.4
Ry4−ポートBのIP:192.168.200.4
【0052】
[2.作用]
以上のような本実施形態の作用を説明する。
[健全時の動作]
(MACアドレスの取得)
まず、通信経路が健全な場合の通信を説明する。リレー端末Ry1は、他のリレー端末Ry2、Ry3、Ry4に向けて、自端が計測した電気量データをフレームに乗せ、AルートとBルートの両方に送出する。その際の各リレー端末Ry2、Ry3、Ry4のMACアドレスは、АRP(Address Resolution Protocol)で解決する。なお、ARPは、公知技術であるため、以下の説明は簡略化する。
【0053】
АRP要求フレームは、同報フレームである。よって、リレー端末Ry1のAルートに送出されたАRP要求フレームは、LANスイッチSW1Aを経由して、LANスイッチSW2に到着し、LANスイッチSW2は、リレー端末Ry2に配信すると同時に、LANスイッチSW3へ中継配信する。
【0054】
この後、LANスイッチSW3、SW4、SW1Bも、順次同様の振る舞いをする。そして、LANスイッチSW1Bが、リレー端末Ry1のBルートに配信すると、すべての中継配信が完了となる。リレー端末Ry1のBルートが、周回してきたリレー端末Ry1AルートからのАRP要求フレームを受信しても、探索IPアドレスと自IPアドレスとが一致しないことから、当該フレームを破棄する。これにより、リレー端末Ry1は、ループ端と同様の働きをする。
【0055】
(定常時のフレーム)
各リレー端末Ry1〜Ry4は、他のリレー端末Ry1〜Ry4に向けたユニキャストで、自端の電気量データ、同期制御データを含むフレームを定周期で送信する。例えば、電気角30度で、自端の電気量を計測して送出する場合、50Hz系統なら1.68ミリ秒周期で送信する。このため、各リレー端末Ry1〜Ry4は、等しい周期でフレームを受信することになる。
【0056】
つまり、リレー端末Ry1の生成部124は、各リレー端末Ry2、Ry3、Ry4のそれぞれを宛先とする電気量データ、同期制御データを含むフレームを生成する。そして、送出部125が、Aルート及びBルートにフレームを送出する。
【0057】
Aルートに送出されたリレー端末Ry2を宛先とするフレームは、LАNスイッチSW1Aを経由して、LANスイッチSW2に到着する。LANスイッチSW2は、リレー端末Ry2のAルートのMACアドレスをキャッシュしていることから、リレー端末Ry2のAルートへ配信し、下流のLANスイッチSW3、SW4へは配信しない。
【0058】
また、リレー端末Ry3のMACアドレスは、LANスイッチSW3と接続されたポートがキャッシュしている。このため、リレー端末Ry3を宛先とするフレームは、リレー端末Ry2には中継されず、LANスイッチSW3に中継される。以後、LANスイッチSW3、SW4も同様の振る舞いをするため、LANスイッチSW1Bへは中継されない。
【0059】
一方、リレー端末Ry1の送出部125は、Bルートからも、リレー端末Ry2、Ry3、Ry4宛のフレームを送出する。これらのフレームは、LANスイッチSW1Bを経由して、LANスイッチSW4、SW3、SW2を経由する過程で、それぞれの宛先のリレー端末Ry2、Ry3、Ry4に配信される。同様に、リレー端末Ry2、Ry3、Ry4が送出するフレームも、各リレー端末Ry1〜Ry4に配信される。
【0060】
各リレー端末Ry1〜Ry4の保護演算部121は、上記のように配信されるフレームにおける電気量データに基づいて、保護演算を行う。この保護演算については、公知の技術であるため、説明を省略する。
【0061】
なお、2つのLANスイッチSW1A、SW1Bに接続されるリレー端末Ry1は、主端として動作し、フレーム中継機能を持つ。このフレーム中継機能は、フレーム受信時に、宛先MACアドレスと、ユーザデータ部の宛先端子番号によって、中継の要否を判定するものであり、後述する。
【0062】
[通信障害時の動作]
(概要)
次に、通信障害が発生した場合の処理の概要を説明する。この場合の動作手順は、以下の通りとなる。なお、この手順の過程で、中継フレーム中の宛先アドレスが書き換えられる。
(1)着信不良を検出したリレー端末Ry2〜Ry4は、中継フレームを主端のリレー端末Ry1に送信する
(2)主端のリレー端末Ry1は、中継フレームを受信し、受信したルートとは別のルートへ中継して送信する
【0063】
このような処理の詳細を、
図6〜
図13を参照して説明する。
(障害発生前)
まず、健全時には、
図6に示すように、リレー端末Ry3とリレー端末Ry4との間で通信が行われていたとする。この場合に、ポートBから送出されるフレームにおける一部を抜粋した例を、
図7に示す。このフレームは、宛先MACアドレスがRy4、発信元MACアドレスがRy3で、宛先IPアドレスがRy4、発信元IPアドレスがRy3となっている。また、宛先端子番号が4、発信元端子番号が3となっている。
【0064】
(障害発生時)
ここで、
図8に示すように、リレー端末Ry3とリレー端末Ry4との間の通信経路で、通信障害が発生したとする。すると、例えば、リレー端末Ry3の検出部123は、リレー端末Ry4のAルート及びBルートからの着信不良、リレー端末Ry1のBルートからの着信不良を検出する。このように、フレーム受信の有無を監視することで、対向するリレー端末Ry1〜Ry2間の通信経路に、障害が発生したか否かを判断できる。
【0065】
例えば、電気角30度で、自端電気量を計測して送出する場合、50Hz系統なら1.68ミリ秒周期であり、それを超える期間着信が無いことで、故障を判定できる。なお、Hello等の監視用のフレームに対する応答の有無により判定してもよい。
【0066】
このような通信障害が発生した場合でも、リレー端末Ry1のAルートからは着信できる。このため、リレー端末Ry3は、リレー端末Ry1の情報は取得できるとともに、リレー端末Ry1のAルートは健全と判定できる。また、リレー端末Ry3がリレー端末Ry4からの情報を取得できないことと同様に、リレー端末Ry4も、リレー端末Ry3の情報を取得できない状況にある。
【0067】
この場合、リレー端末Ry3の生成部124は、
図9に示すように、リレー端末Ry4宛の中継フレームaを生成する。送出部125は、この中継フレームaを、通信障害を検出したBルートとは別のAルートからリレー端末Ry1へ送出する。この中継フレームaの一例を、
図10に示す。中継フレームaの宛先MACアドレスはリレー端末Ry1、宛先端子番号はリレー端末Ry4である。中継フレームaは、LANスイッチSW3、SW2、SW1Aによる中継配信により、リレー端末Ry1のポートAに配信される。
【0068】
中継フレームaを受信したリレー端末Ry1は、中継フレームの宛先MACアドレスが自局であるので取り込む。中継部126は、中継フレームaの宛先IPアドレスや宛先端子番号がリレー端末Ry4であり、自局でないため、中継フレームであると判断する。すると、中継部126は、生成部124に、宛先MACアドレスを、リレー端末Ry4のBルートのMACアドレスに書き換えさせる。そして、中継部126は、送出部125に、書き換え後の中継フレームbを、受信したAルートとは別のBルートからリレー端末Ry1へ送出させる。リレー端末Ry1は、各IPアドレスに対応するMACアドレスを保有している。このため、宛先IPアドレスに対応するMACアドレスの解決も、中継部126が行う。
【0069】
送出された中継フレームbは、
図9に示すように、宛先MACアドレスがリレー端末Ry4なので、LANスイッチSW1B、LANスイッチSW4を経由して、リレー端末Ry4に配信される。リレー端末Ry4は、受信した中継フレームbの宛先端子番号が自端であるので、自端が受信すべきフレームとして採用する。リレー端末Ry4は、中継フレームbの発信元IPアドレスや発信元端子番号を参照して、中継フレームbがリレー端末Ry3の端子情報であると認識する。
【0070】
なお、リレー端末Ry4も、宛先MACアドレスをリレー端末Ry1、宛先端子番号をリレー端末Ry3とする中継フレームを追加送出する。これにより、中継フレームは上記と逆の方向の経路を辿るが、同様の手順により、リレー端末Ry3がリレー端末Ry4の電気量データを取得できる。通信障害の発生していないリレー端末Ry2とリレー端末Ry3との間の通信では、中継処理は発生しない。
【0071】
なお、
図8に示したような通信障害の場合、リレー端末Ry1のBルート宛に、中継フレームを送信しても届かないことが、上記のように判定できる。このため、リレー端末Ry1のAルート宛にのみ、中継フレームを送出すればよい。但し、
図12(A)(B)に示すように、ポートA、ポートBから、Aルート、Bルートの両方に、中継フレームを配信してもよい。
【0072】
また、通常のフレーム受信時には、宛先IPアドレスや宛先端子番号等のアドレス値の健全性判定を行う。健全性判定は、例えば、FCSを用いたり、あらかじめ設定された正しいアドレス値との照合等により行うことができる。但し、主端のリレー端末Ry1の中継部126が中継フレームと判定した場合には、健全性判定を行わずに、処理の高速化を図ってもよい。この場合のアドレス値の健全性判断は、中継フレームが宛先端子に到着して採用される前段で行ってもよい。
【0073】
生成部124は、検出部123によるAルート、Bルートの両ルートの着信不良を条件として中継フレームを生成する。このため、通信経路に障害があっても、一方のルートで健全に通信できる場合には、通信障害の検出をしても、中継動作は行わなくてもよい。例えば、
図6のリレー端末Ry1のポートA〜LANスイッチSW2の区間のみが通信できない場合、中継動作を行わなくとも、全てのリレー端末Ry1〜Ry4にフレームを到達させることができる。リレー端末Ry1のポートB〜LANスイッチSW4の区間のみが通信できない場合にも、同様に、中継動作を行わなくとも、全てのリレー端末Ry1〜Ry4にフレームを到達させることができる。
【0074】
上記のように、通信回線の一部が故障した際には、フレームの中継機能が動作して、全てのリレー端末Ry1〜Ry4の電気量データを取得することができる。しかし、物理的に分離された経路間でフレームを中継することになるため、一定の中継時間を要する。例えば、リレー端末Ry1〜Ry4の送出部125は、受信した中継フレームを再送信する場合、自端情報を含む自端フレームを送信するタイミングまで送出を保留し、自端フレームの送信時に、自端フレームとともに中継フレームも一括して送出する。つまり、自端フレームを送信する次回周期に、両フレームを送出する。
【0075】
これにより、通信処理を一括して実行でき、演算負荷を小さくできる。任意のタイミングで送信すると帯域の消費が煩雑になるのが、本実施形態では、あらかじめ決まったタイミングでデータを送信することにより、正確な同期制御が実現できる。
【0076】
このようなケースでは、電気角で30度遅れ、50Hz系統の場合に1.67ms遅れて配信されることになる。一般的には、保護リレーシステムで許容される通信遅延時間、つまり通信距離は、高圧系と低圧系では異なる。但し、一般的に許容される通信遅延時間は、電気角1サイクル、4〜10ms以下とされているために、支障はない。
【0077】
なお、フレームの受信処理の起動条件が、割り込みイベント又は短時間間隔で受信状態確認する方式では、中継フレームの受信時に送出してもよい。この場合、中継フレームの到着時間の短縮が見込める。また、中継フレームと自端フレームの送出タイミングを分けることで通信帯域消費を拡散でき、同期通信の通信遅延変動量を抑えることができる。
【0078】
[同期制御]
次に、本実施形態の同期制御におけるサンプリング同期通信(以下、同期通信とする)について述べる。なお、同期制御は、基本的には公知技術であるため、説明は簡略化する。
図13は、同期通信のシーケンスを示す。同期通信では、
図1のリレー端末Ry1を主端とし、リレー端末Ry2〜Ry4を従端とする。
図13に示すように、従端のリレー端末Ry2〜Ry4は、主端のリレー端末Ry1に向けて、同期要求フレームReqを発信する。この発信タイミングをT3とする。
【0079】
主端のリレー端末Ry1は、同期要求フレームReqを受信する。この受信タイミングをT4とする。主端のリレー端末Ry1は、同期応答フレームResp及び送信時刻通知フレームFollowUpを返信する。この返信タイミングをT1とする。同期応答フレームRespには、受信タイミングT4が含まれる。送信時刻通知フレームFollowUpには、返信タイミングT1が含まれる。従端のリレー端末Ry2〜Ry4は、同期応答フレームResp及び送信時刻通知フレームFollowUpを受信する。この受信タイミングをT2とする。
【0080】
以上の3フレームの通信により、従端のリレー端末Ry2〜Ry4では、通信遅延時間Td、同期誤差ΔTを、以下のように求めることができる。
通信遅延時間Td={(T2−T1)+(T4−T3)}/2
同期誤差ΔT=(T2−T1)−Td
【0081】
このように、主端のリレー端末Ry1と従端のリレー端末Ry2〜Ry4の同期誤差を検出し、同期誤差が0になるように、従端のリレー端末Ry2〜Ry4が同期補正することで、サンプリング同期制御が可能となる。
【0082】
本実施形態における同期通信は、Aルート向け、Bルート向けの両ルートで実施する。この同期通信では、要求フレームと応答フレームの通信遅延時間、つまり通信経路が等しくないと、正確な同期誤差が算出できない。しかし、前記の通り、各リレー端末Ry1の対向ルートは、Aルート向け、Bルート向けともに、要求フレーム及び応答フレームは、同一経路を通過する。このため、正確な同期誤差を算出でき、高精度な同期精度を維持できる。
【0083】
中継処理を行うリレー端末Ry1が、同期制御における主端、つまりマスターである場合には、同期フレームを中継する必要はない。しかし、他のリレー端末Ry2〜Ry4がマスターである場合には、リレー端末Ry1による同期フレームの中継が必要となる。つまり、中継フレームによって同期通信する場合もある。この場合、過渡的には、要求フレームは通常経路、応答フレームは中継経路と変化するケースが想定される。すると、算出した通信遅延時間や同期誤差は急変する。このため、変化量検定などのフィルタ機構を備えたり、通信不良検出時は同期制御を停止させて自走するなどの処置を組み込むことで、不正な同期制御を抑止できる。例えば、フレーム中に経路情報を入れることで、通過経路が判別でき、同一通信経路での同期誤差、通信遅延時間が算出できる。
【0084】
[3.効果]
(1)本実施形態は、複数のリレー端末Ry1〜Ry4と、複数のリレー端末Ry1〜Ry4に設けられたポートA、Bと、各リレー端末Ry1〜Ry4のポートA、Bにそれぞれ接続され、互いに通信経路でループ型に接続されたLANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4とを有する。そして、1つのリレー端末Ry1は、ポートA、Bが互いにポートブロックされている主端のリレー端末である。主端のリレー端末Ry1のポートA、Bには、それぞれ別個のLANスイッチSW1A、SW1Bが接続されている。
【0085】
これにより、リレー端末Ry1のポートA、Bが互いにポートブロックされていて、ループ端となるので、ループ型の通信経路上におけるどの箇所で通信障害が発生しても運用を維持でき、冗長性を確保できる。主端のリレー端末Ry1と従端のリレー端末Ry2〜Ry4の通信経路は往路及び復路で同一となるので、正確な同期制御ができる。STP等による通信遅延は発生せず、余分なパケットの流通も防止できる。さらに、中継機器はLANスイッチSW1A、SW1B、SW2〜SW4で済むので、コストが安く、経路制御設定などは不要となり、誤設定による不正動作もなく、メンテナンス性が向上する。
【0086】
(2)リレー端末Ry1〜Ry4は、通信経路における通信障害を検出する検出部123と、検出部123が通信障害を検出した場合に、主端のリレー端末Ry1を経由することにより、通信障害が発生した箇所を迂回する通信経路で、宛先のリレー端末Ry1〜Ry4に到達させる中継フレームを生成する生成部124を有する。
【0087】
各リレー端末Ry1〜Ry4における検出部123が通信障害を検出した場合に、生成部124が、主端のリレー端末Ry1を経由する中継フレームを生成することにより、冗長性を確保できる。中継フレームで同期通信を行うことにより、同期制御も維持できる。
【0088】
(3)リレー端末Ry1〜Ry4は、通信障害が発生した通信経路を判定し、健全な通信経路へ中継フレームを送出する送出部125を有する。このように、検出部123が通信障害を検出した場合に、送出部125が、健全な通信経路へ中継フレームを送出するので、着信不能な無駄なフレームを送出することを抑制できる。
【0089】
(4)主端のリレー端末Ry1は、中継フレームを、2つのポートA、Bの間で中継する中継部126を有する。このように、主端のリレー端末Ry1による中継フレーム処理により、定常時には、ポートブロックによるループ端を実現できるとともに、通信障害の発生時にのみ、主端のリレー端末Ry1を経由する冗長構成を実現できる。
【0090】
(5)送出部125は、受信した中継フレームを保持し、自端情報を送信するタイミングに合わせて、自端情報とともに中継フレームを一括送出する。このように、自端情報とともに、中継フレームを一括送出することで、演算負担を抑制して、帯域制御が簡単になる。
【0091】
(6)送出部125は、受信した中継フレームを即時に、所定時間経過後又はランダムな時間経過後に送出してもよい。このように、送出部125の送出タイミングを任意に設定することにより、中継フレーム配信による通信帯域増加を分散し、フレーム衝突時に生じる通信遅延変動量を抑えて、サンプリング同期精度を維持できる。
【0092】
(7)主端のリレー端末Ry1とともに、これ以外のリレー端末Ry2〜Ry4も、通信経路を経由する2つの通信回線に対応した2つのポートA、Bを有する。このため、ハードウェアとして冗長性を確保できるので、耐障害性が高い。
【0093】
[B.第2の実施形態]
本実施形態は、基本的には上記の実施形態と同様の構成である。但し、上記の実施形態では、リレー端末Ry2〜Ry4がポートA、ポートBの2ポートを有しており、それぞれのポートA、Bにより、Aルート、Bルートを実現している。本実施形態では、リレー端末Ry2〜Ry4は、ポートAの1ポートのみを有しており、この1ポートで、Aルート、Bルートを実現している。
【0094】
より具体的には、リレー端末Ry2〜Ry4のポートAが、複数のIPアドレスを持っている。Aルートのネットワークアドレスを192.168.100.xx、Bルートのネットワークアドレスを192.168.200.xxとすると、各リレー端末Ry1〜Ry4のポートのIPアドレスを、以下のように登録する。
Ry1−portAのIP:192.168.100.1
Ry1−portBのIP:192.168.200.1
Ry2−portAのIP:192.168.100.2
192.168.200.2
Ry3−portAのIP:192.168.100.3
192.168.200.3
Ry4−portAのIP:192.168.100.4
192.168.200.4
【0095】
以上のような本実施形態は、主端のリレー端末Ry1以外のリレー端末Ry2〜Ry4は、1つのポートAを有し、1つのポートAに2つのIPアドレスが設定され、通信回線が冗長化されている。つまり、リレー端末Ry2〜Ry4は、通信ポートが1つのみのハードウェア構成でありながら、複数のIPアドレスを登録することで、論理的に区別された2つの通信回線を実現できる。従って、装置コストを抑えつつ、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0096】
[C.他の実施形態]
本発明の実施形態は、上記のような態様に限定されない。例えば、リレー端末の数、LANスイッチの数等は、上記の実施形態で例示した数には限定されない。LANスイッチとしては、基本的にはレイヤー2スイッチでよい。但し、複数のネットワークの分割構成とするために、レイヤー3スイッチを適用することも可能である。
【0097】
各リレー端末が中継部を備えることにより、いずれのリレー端末も、主端リレー端末として機能させることができる。但し、従端リレー端末については、中継部を省略した構成としてもよい。
【0098】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。