(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386910
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】PLLAおよびPDLAを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20180827BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20180827BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20180827BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20180827BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20180827BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20180827BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20180827BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K3/22
C08K3/26
C08K3/34
C08L1/02
C08L3/00
C08L67/00
C08L101/16
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-537020(P2014-537020)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公表番号】特表2014-530933(P2014-530933A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】NL2012050743
(87)【国際公開番号】WO2013062412
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月15日
【審判番号】不服2017-13814(P2017-13814/J1)
【審判請求日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】1039128
(32)【優先日】2011年10月24日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ノールデグラーフ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】デ ヨン,ヨセフス ペトルス マリア
【合議体】
【審判長】
岡崎 美穂
【審判官】
小柳 健悟
【審判官】
井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−235197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む組成物を90〜140℃の温度に加熱することによって得られ得る生成物であって、該PDLAの光学純度が少なくとも95%であり、該PDLAが組成物全体の重量に対して4〜7重量%の量で存在し、該PDLAポリマーの平均分子量が30〜150kDaであり、該PLLAが上記組成物の総重量に対して65〜85重量%の量で存在する生成物。
【請求項2】
上記組成物が、チョーク、タルク、スターチ、変性スターチ、小麦粉、おがくず、亜麻、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水和ケイ酸アルミニウム、カオリン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペート−コ−テレフタレートまたはセルロース、またはそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1のフィラーを含む、請求項1に記載の生成物。
【請求項3】
上記組成物が、少なくとも1の耐衝撃性改良剤または可塑剤を、上記組成物の総重量に対して高々10重量%の量で含む、請求項1に記載の生成物。
【請求項4】
i.型を90〜140℃の温度に加熱する工程、
ii.ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む組成物を上記型に供給する工程、ここで、該PDLAの光学純度が少なくとも95%であり、該PDLAが組成物全体の重量に対して4〜7重量%の量で存在し、該PDLAポリマーの平均分子量が30〜150kDaであり、該PLLAが上記組成物の総重量に対して65〜85重量%の量で存在する、
iii.成形品を形成する工程、そして
iv.成形品を上記型から取り出す工程
を含む、成形品の製造方法。
【請求項5】
サイクル時間と呼ばれる或る時間内に行われ、該サイクル時間が高々150秒である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記加熱が射出成形、熱成形および/またはインフレーション成形によって行われる、請求項1に記載の生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物に関する。本発明はまた、成形品の製造方法に関し、上記方法は、型を加熱する工程およびポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(P
LLA)ポリマーを含む
組成物を上記型に供給する工程を含む。本発明は、射出成形、熱成形および/またはインフレーション成形での使用のための、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物に関する。本発明はまた、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を加熱することによって得られ得る
生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、乳酸モノマーに基づくポリマーのために使用される総称であり、ポリ乳酸の構造は、組成に応じて、完全なアモルファスから半結晶性乃至結晶性まで様々である。ポリ乳酸は、乳製品から、または例えばトウモロコシから製造され得る。乳酸は、ポリ乳酸が構成されるところのモノマーであり、このモノマーは、2つの立体異性体、すなわちL−乳酸(右旋性の乳酸)およびD−乳酸(左旋性の乳酸)、で存在する。したがって、ポリ乳酸は、ある割合のL−乳酸およびある割合のD−乳酸を含む。ポリ乳酸中のL乳酸モノマーとD乳酸モノマーとの比がその特性を決定する。
【0003】
インフレーション成形、熱成形および射出成形などの用途におけるPLAの使用が、再生可能源のための増加する選好の理由により、増加している。しかし、そのような用途におけるPLAの使用は、大きな欠点を含む。それは、高められた温度でのPLAの中位の特性である。PLAは例えば、中位の熱安定性を有する。PLAは、そのガラス転移温度(55℃)より上の温度でその剛性を失う。これは本質的に上記ガラス転移温度より上での低い弾性率を表わし、その結果、射出成形または熱成形の場合には生成物が取り出され得る前に、長い冷却時間が必要であることを表わす。これは、PLAに基づく生成物の製造における長いサイクル時間を結果し、そして高められた温度で容易に変形する最終生成物を結果する。
【0004】
PLAはまた、その融点より上で中位の溶融強度を有し、それは、インフレーション成形の場合には例えば、不安定なインフレーション法を結果する。さらに、PLAに基づく生成物は、PLAのガラス転移温度より上でかなり低い熱変形温度を有する。
【0005】
上記問題を解決するためにしばしば使用される方法は、PLAの制御された結晶化である。なぜならば、結晶化したPLAの弾性率がアモルファスPLAよりも高いからである。さらに、PLAに基づく生成物の熱変形温度が、増加する結晶化度に従って、ガラス転移温度より上で上昇する。PLAの結晶化は、ある条件が満たされたときに生じる。第一に、PLAの化学組成が、結晶化を妨害してはならない。第二に、PLAは、結晶化を生じるために充分に加熱されなければならない。実際、これは、高められた温度での十分に長い滞留時間を意味する。欠点は、これらの条件が満たされたとしても、PLAの結晶化が、非常にゆっくり進行する傾向にあり、その結果、商業的規模で適用され得ないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1の目的はしたがって、上記欠点を含まない、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を提供することである。
【0007】
本発明の1の目的は、改善された熱安定性およびより高い結晶化速度を有する、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、PLAの使用に伴う上記欠点への解決を提供して、インフレーション成形、熱成形または射出成形などの用途において商業的規模でPLAが使用され得ることを確実にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を90〜140℃の温度に加熱することによって得られ得る生成物であって、
該PDLA
および/または該PLLAの光学純度が少なくとも95%であ
り、該PDLAが組成物全体の重量に対して4〜7重量%の量で存在し、該PDLAポリマーの平均分子量が30〜150kDaであるところの
生成物によって達成される。用語「ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマー」はまた、種々の分子量を有するPDLAの混合物を意味すると理解される。用語「ポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマー」はまた、種々の分子量を有するPLLAの混合物を意味すると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】Aは低温の型を用いて作られたフラワーポットの結晶化度を示すグラフであり、Bは高温の型を用いて作られたフラワーポットの結晶化度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、PDLAが少なくとも95%の光学純度を有するならば、PLLAに基づく組成物が得られ、そして結晶化時間が、従来の
組成物に対して短くされることを見出した。本発明者らは、特定の核形成剤の添加がPLAの結晶化速度を高め、その結果、非常に短い冷却時間が実現され得ることを見出した。少量のタルクがPLAの結晶化速度に好ましい影響を及ぼし得ることが文献からすでに知られているが、本発明者らは、ステレオコンプレックスPLAがより良好な核形成剤であることを見出した。ステレオコンプレックスPLAは、PLLAおよびPDLAが混合されるときに形成される。それは、PLLAおよびPDLA分子の特定の三次元整列であり、非常に安定な結晶を生じる。これは、例えば、より高い融点(PLLAおよびPDLAの180℃の代わりに230℃)から明らかである。PLLAに添加された少量のPDLAは、PLAマトリックスの残りのための核形成剤として作用し得る少量のステレオコンプレックスPLAを生じるであろう。本発明者らは、少なくとも95%の光学純度を有するPDLAが、特に良好な核形成剤であることを見出した。
【0012】
上述したように、PLAは、乳酸またはラクチドに基づくポリマーのために使用される総称である。乳酸は、偏光が偏向されるところの方向においてのみ性質が異なる2つの形態で存在する。ラクチドは、3つの形態で生じる、乳酸の二量体である。L−ラクチドは、L−乳酸に基づいて製造され得、D−ラクチドはD−乳酸に基づいて製造され得る。L−乳酸およびD−乳酸の組合せはメソ−ラクチドを生じ、それは、L−ラクチドおよびD−ラクチドよりも低い融点を有する。L−ラクチドおよびD−ラクチドは、右旋性ラクチドおよび左旋性ラクチドとも言う。Synbra Technology bv (エッテン=ルール)によって製造されたSynterra(商品名)は、L−ラクチドおよびD−ラクチドを排他的に含有する。L−ラクチドとD−ラクチドとの比は光学純度と呼ばれ、PLAの特性を大きく決定する。光学純度に依存して、PLAはアモルファスまたは半結晶性であり得る。光学純度が大きいほど、PLAはより容易に結晶化するであろう。光学純度はまた、D含量によって表わされる。これは、PLAにおけるD−ラクチドのパーセンテージを意味する。現在市販されているPLAは、0〜25%の範囲のD含量を有する。PLAが約12%より多くのD−ラクチドを含有するとき、それはもはや結晶化することができず、アモルファスである。D含量が12%未満であるとき、PLAは半結晶性と言う。排他的にL−ラクチドまたはD−ラクチドから成るPLAはそれぞれ、右旋性PLLAまたは左旋性PDLAと言う。それは、非常に容易に結晶化するであろう、光学的に純粋なPLAである。
【0013】
D含量は、いわゆるR−ラクテート決定によって決定され得る。ここでは、L−乳酸とD−乳酸との比が、PLAの完全な加水分解の後に気液クロマトグラフィー(GLC)によって決定される。別の方法は、偏光の旋光を決定することである。これは、クロロホルム中でJasco DIP−140旋光計を使用して589nmの波長で測定され得る。
【0014】
PLAの結晶化度および結晶化速度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定され得る。DSCグラフでは、アモルファスPLAが、ガラス転移点のみを、約55℃で、示し、一方、半結晶性PLAはまた、結晶化ピークおよび/または融解ピークを示すだろう。融解ピークの大きさは、PLAの熱履歴によって決定され、そして結晶化が生じた程度の尺度である。融解ピークの位置は、光学純度によって決定され、PLAの光学純度が増加すると、上記ピークは、PLLAまたはPDLAに関して約180℃の最大に達するまで、より高い温度にシフトするだろう。
【0015】
ステレオコンプレックスPLAが、射出成形または熱成形のための非常に有効な核形成剤であることを示すことに加えて、本発明者らは、ステレオコンプレックス結晶がまたPLAの溶融強度に好ましい影響を及ぼすことを見出した。これは、インフレーション成形におけるより安定なブローイングプロセスにおいて、および混合中のより高い圧力において有利に表わされる。
【0016】
本発明の1実施態様では、PDLAの光学純度が少なくとも99.5%である。本発明者らは、結晶化速度に関して驚くべき良好な結果が、そのような光学純度において得られることを見出した。
【0017】
本発明の1実施態様では、PDLAが、
組成物全体の重量に対して高々10重量%および好ましくは少なくとも1重量%の量で存在する。PDLAは好ましくは、4〜7重量%の量で存在する。本発明者らは、多過ぎるPDLAが、最終生成物においてより悪い機械的特性を結果することを見出した。良好な機械的特性を有する最終生成物は、PDLAを上記量で含む
組成物の場合に得られた。
【0018】
本発明の1実施態様では、PLLAが、
組成物の総重量に対して65〜85重量%の量で存在する。PLLAの光学純度は好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99.5%である。本発明者らは、結晶化速度が、そのような光学純度で非常に良好であり、上記利点をもたらすことを見出した。
【0019】
本発明者らは、PLAの結晶化速度が、射出成形および熱成形などの用途において光学的に純粋なPLAを使用することにより、好ましい影響を及ぼされ得ることを見出した。そのようなPLAは、例えばSynterra PLLAおよびSynterra PDLAの商品名で販売されている。PLLAおよびPDLAは、99.5%の光学純度を有する。光学的に純粋なPLAは、より低い光学純度のPLAよりも速く結晶化し得る。その結果これらの用途における冷却時間が短縮され得る。
【0020】
本発明の1実施態様では、上記組成物が、チョーク、タルク、スターチ、変性スターチ、小麦粉、おがくず、亜麻、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水和ケイ酸アルミニウム、カオリン、ポリマーPHA
(ポリヒドロキシアルカノエート)、ポリマーPHB
(ポリヒドロキシブチレート)、ポリマーPBS
(ポリブチレンスクシネート)、ポリマーPBT
(ポリブチレンテレフタレート)、ポリマーPBAT
(ポリブチレンアジペート−コ−テレフタレート)、エコフレックス(Ecoflex)
(登録商標)またはセルロース、またはそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1のフィラーを含む。好ましくは、少なくとも1のフィラーが、組成物の総重量に基づいて高々30重量%の量で存在する。特に好ましいのは、チョーク、スターチ、小麦粉、カオリン、エコフレックスまたはセルロースなどのフィラーである。
【0021】
本発明の1実施態様では、PDLAポリマー(PDLA polymers)またはそれらの混合物の平均分子量が70〜300kDa、好ましくは30〜150kDaの範囲である。上記分子量(Mn)は、ポリスチレン標準に基づいて、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって決定される。これは、PLLAおよびPDLAの平均分子量が、既知平均分子量を有するポリスチレン分子に基づいて決定されることを意味する。なぜならば、使用されるPDLAの分子量が低下すると、ステレオコンプレックスPLAが形成される速度(rate)が増加し、射出成形または熱成形における冷却時間の制御を可能にするからである。本発明者らは、使用されるPDLAがそのような分子量を有するならば、
生成物の特性に関して良好な結果が得られることを見出した。低すぎる分子量を有するPDLAは、最終生成物においてより悪い特性を結果し、それは望ましくない。
【0022】
本発明者らはまた、低すぎる平均分子量を有するPDLAが多過ぎると、最終生成物においてより悪い機械的特性を結果することを見出した。これは、最適な平均分子量を有するPDLAの最適な量があることを意味する。これは、PDLAの平均分子量のための上記パラメータとPDLAの上記量との組み合わせにあることが分かった。
【0023】
本発明の1実施態様では、上記組成物が、少なくとも1の耐衝撃性改良剤または可塑剤を、組成物の総重量に対して好ましくは高々10重量%、好ましくは高々5重量%の量で含む。
【0024】
本発明者らは、Biostrength 150(Arkema)などの耐衝撃性改良剤を使用して、PLLA/PDLA
組成物に基づく最終生成物の機械的特性を改良することが可能であることを見出した。しかし、多過ぎる耐衝撃性改良剤は、弾性率を低下させ、射出成形または熱成形において生成物を取り出すことをより困難にするだろう。そのような影響が、PLLA/PDLAブレンドの結晶化速度に対して特別の制御を得るために使用され得るジオクチルアジペート(DOA)などの可塑剤が使用されるときに認められた。本発明者らは、本発明に従う
生成物の機械的特性が、上記量で改善されることを見出した。
【0025】
本発明はまた、成形品の製造法に関し、上記方法は、
i.型を
90〜140℃の温度に加熱する工程、
ii.ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(P
LLA)ポリマーを含む
組成物を上記型に供給する工程、ここで
、該PDLA
および/または該PLLAの光学純度が少なくとも95%であ
り、該PDLAが組成物全体の重量に対して4〜7重量%の量で存在し、該PDLAポリマーの平均分子量が30〜150kDaである、
iii.成形品を形成する工程、
そして
iv.成形品を上記型から取り出す工程
を含む。
【0026】
本発明者らは、この方法によって得られた成形品(最終生成物)が、より低い光学純度(95%より低い光学純度)のPDLAを含む
組成物に基づく成形品よりも高い変形温度を有することを見出した。PDLAが添加されており、そして加熱された型(工程i)で処理されるところのPLLAに基づく成形品は、非常に速く結晶化するのでより高い変形温度が得られる。これらの生成物は、PLAのガラス転移点より上でありかつ100℃未満である温度範囲において変形しない、または実質的に変形しないだろう。このことは、PLAを使用することの可能性を大いに高める。
【0027】
本発明の1実施態様では、型が、工程iにおいて、90〜140℃、好ましくは100〜120℃の温度に加熱される。本発明者らは、射出成形および熱成形などの用途におけるPLAの結晶化速度が、高温の型を使用することによってさらに高められ得ることを見出した。PLA、特に光学的に純粋なPLAは、高温の型においてより速く結晶化するので、生成物が変形することなく取り出され得るところの弾性率がより素早く得られ、これは、例えばサイクル時間に関して有利である。
【0028】
本発明の1実施態様では、工程iiで供給される
組成物が、上述した
組成物の1である。
【0029】
本発明の1実施態様では、上記方法が、サイクル時間と呼ばれる或る時間内に行われ、上記サイクル時間が、高々150秒、好ましくは高々85秒、より好ましくは高々65秒である。サイクル時間は、生成物を形成するために必要な時間である。それはまた、2の続く生成物の形成の間を経過する時間として記載される。本発明に従う組成物は、短い結晶化時間を有するので、上記組成物に基づく成形品の製造におけるサイクル時間が短く、これは、製造能力を高め、そしてPLAブレンドの使用を商業的に魅力的なものにする。
【0030】
本発明は、射出成形、熱成形および/またはインフレーション成形における使用のための、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む組成物に関する。ここで、PDLAおよびPLLAの光学純度が少なくとも95%である。好ましい機械的特性および高い結晶化速度故に、そのようなプロセスにおいてPLAブレンドを使用することが可能である。
【0031】
本発明は、ポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を加熱することによって得られ得る
生成物に関する。ここで、PDLAおよびPLLAの光学純度が少なくとも95%である。この
生成物の加熱後の正確な構造は本発明者らに分からないが、本発明者らは、この
生成物が従来の同様の
組成物に対して明瞭な利点を有することを見出した。上述したポリ−D−乳酸(PDLA)ポリマーおよびポリ−L−乳酸(PLLA)ポリマーを含む
組成物を加熱することによって得られる生成物は、上記
組成物がそのガラス転移温度より上に加熱されるならば、高い変形温度を有する。
【0032】
加熱すべき
組成物は好ましくは、上記実施態様に対応する。上記
生成物は好ましくは、上記
組成物を90〜140℃、好ましくは100〜120℃の温度に加熱することによって得られる。
【0033】
本発明をいくつかの実施例を参照してさらに説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。特許請求の範囲は、これを参照することによってこの記載の一部を形成する。
【実施例】
【0034】
下記の測定法が実施例において使用される。
HDT−BはISO−75に従って決定される(HDT=熱変形温度)。
【0035】
弾性率、引張強度および破断時の伸びはISO−527−1 2010に従って決定される。
【0036】
ノッチ付アイゾッド衝撃はISO−179に従って決定され、シャルピー衝撃はISO−179 2000に従って決定される。
【0037】
押出機として、Berstdorff ZE75A二軸スクリュ押出機が使用された。
【0038】
実施例1(従来技術)
文献から、核形成剤のPLAへの添加が、PLAをより速く結晶化させかつPLAに高められた温度でより高い変形温度を得させる方法であることが知られている。この実施例では、Ingeo(商品名)(Natureworks)が2の核形成剤(ULTRATAL
C 609およびLAK−301)と混合されて結晶化速度を増加した。
【0039】
表1は、Natureworksが
組成物HHIMおよび3801Xに関して得た結果を示す。表1は成分を示し、成分の量は、
組成物の総重量に対する重量%で表わされる。
【0040】
予期されたように、結晶化後により高い結晶化速度(HDT−B値)が得られたが、結晶化速度はまだ低すぎて、長いサイクル時間を結果する(150秒超)ことが分かった。このため、射出成形または熱成形のためのこれらの調製物は、商業的目的のためにまだ適さない。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例2
実施例2は、99.5%の光学純度を有するPDLAがPLAのための核形成剤として使用され得ることを示す。先の実施例と同様に、結晶化後により高いHDT−B値が得られた。さらに、少なくとも99.5%の光学純度を有するPDLAが存在するとき、引張強度の増加が認められた。特にサンプル3〜6の場合には、実施例1の
組成物に対して引張強度および破断時の伸びにおける明らかな増加が認められた。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例3
下記実施例は、PLLA中においてPDLAが結晶化速度を増加させ得ることを示す。PLLAは光学的に純粋であるので、PDLAとの組み合わせにおける結晶化速度は、先の実施例よりも実質的に高い。結晶化後により良好なHDT−B値が得られた。また、より良好な機械的特性が認められた。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例4
下記実施例は、本発明に従うPLLAおよびPDLAの混合物を使用することにより、射出成形中のサイクル時間が減少され得ることを示す。追加のタルクおよび可塑剤が使用されると、非常に短いサイクル時間が得られる。PDLAの分子量が、結晶化速度を、したがってサイクル時間を大いに決定する。PDLAの分子量を低下させることによりサイクル時間を減少させることが可能であることが分かった。Synterra PLLA1098およびSynterra PDLA1098は、95%未満の光学純度を有する。調製物3、4および5に基づいて、射出成形プロセスを、これらの
組成物のための驚くべき短いサイクル時間を伴って完全に自動的に行うことができた。
【0047】
【表4】
【0048】
実施例5
先の実施例と同様の調製物を使用して熱成形によりフラワーポットを作った。なお、PDLAがPLLAに添加された後、シートの製造中に、押出機中の圧力が増加した。これは、改善された溶融強度を示す。65重量部のSynterra PLLA2010、5重量部のSynterra PDLA1510および30重量部のチョークから成る調製物を使用して、熱成形に適するシートを製造することができることが分かった。熱成形は、低温の型および高温(110℃)の型の両方を使用して行われた。
【0049】
PLAの結晶化度および結晶化速度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定され得る。DSCグラフでは、アモルファスPLAが、ガラス転移点のみを、約55℃で示し、一方、半結晶性PLAはまた結晶化ピークおよび/または融解ピークを示すであろう。融解ピークの大きさ(Δx)は、結晶化が生じた程度の尺度である。融解ピークの位置は、光学純度によって決定される。PLAの光学純度が増加すると、PLLAまたはPDLAのための約180℃の最大に達するまで、このピークが、より高い温度の方へシフトする。
【0050】
図1のグラフは、フラワーポット間の結晶化度の違いを示す。
図1Aは、低温の型で作られたポットに関して得られた結果を示し、一方、
図1Bは、高温の型で得られた結果を示す。短いサイクル時間にもかかわらず、高い結晶化度が実現されることが明らかである。また、型が加熱されると、上記効果がより大きいことが明らかである。フラワーポットは次いで沸騰水中に保持され、その間、高温の型で作られたフラワーポットは変形しなかった。