【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構「地域卓越研究者戦略的結集プログラム(エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
GUO, Juchen et al. ,Sulfur-Impregnated Disordered Carbon Nanotubes Cathode for Lithium-Sulfur Batteries,Nano Lett.,米国,American Chemical Society,2011年 9月19日,Vol. 11,pp. 4288-4294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記精製工程においては、硫黄を内包させる工程により得られたカーボンナノチューブを二硫化炭素に加え、超音波照射してカーボンナノチューブの分散液を調製し、このカーボンナノチューブの分散液を濾過する工程を備えることを特徴とする請求項9記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者は、カーボンナノチューブに硫黄を内包させることにより、カーボンナノチューブの一次元ナノ空間が鋳型として利用し、硫黄が鎖状に配列して収容されること、カーボンナノチューブの中空空間に硫黄が鎖状に収容されることにより、常温、常圧では絶縁体である硫黄が金属化する現象を見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、硫黄を内包させてなる新規な構成及び作用を有するカーボンナノチューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカーボンナノチューブは、硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が
、中空部分の径が2.0nm以下のカーボンナノチューブに内包されている硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されていることを特徴とする。
カーボンナノチューブに硫黄を内包させると、硫黄はカーボンナノチューブの1次元ナノ空間にならって鎖状となり、互いに共有結合した硫黄鎖となって内包される。いいかえれば、硫黄は、カーボンナノチューブのナノ空間が鋳型のように作用して一次元結晶となり、これによって硫黄が金属化する。
【0007】
カーボンナノチューブに内包される硫黄原子は、直線構造として内包される場合と、ジグザグ構造となって内包される場合がある。ジグザグ構造で内包される場合も、硫黄鎖は一次元的な構造であり、硫黄原子が一次元的に規則的に配列して内包されることから、本明細書では一次元結晶と称する。
硫黄鎖が直線構造としてカーボンナノチューブに内包される場合、並列に2つの硫黄鎖が内包される構造となることもある。
【0008】
硫黄を内包させるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、二層カーボンナノチューブ、または二層以上の多層カーボンナノチューブであってもよい。ただし、導電性を備える硫黄内包カーボンナノチューブとするには、カーボンナノチューブに硫黄を内包させた状態で、硫黄の一次元鎖が形成され、硫黄の一次元結晶が形成される必要がある。硫黄を内包したカーボンナノチューブはとくに導電性に優れるという利点がある。
【0009】
硫黄を内包して導電性を備える硫黄の一次元鎖を形成するカーボンナノチューブとしては、中空部分の径(内径)が0.4〜2.0nm程度のものが使用でき、好適には中空部分の径が0.8〜1.5nmのものが使用できる。硫黄原子のサイズは0.4nm程度であるから、カーボンナノチューブの中空部分の径は0.4nm以上である必要があり、カーボンナノチューブの径が2.0nm以上の場合は、常温・常圧下で形成される硫黄の構造(S
8)が形成されるからカーボンナノチューブの中空部分の径は2.0nm以下である必要がある。
実験では、単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブに硫黄を内包させ、カーボンナノチューブの中空部分に硫黄が一次元結晶として内包されることを確かめた。
【0010】
硫黄鎖が内包されたカーボンナノチューブは導電性に優れている。したがって、
硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が、中空部分の径が2.0nm以下のカーボンナノチューブに内包されているカーボンナノチューブを含むシート体は、導電性材料として好適に利用することができる。
このシート体を構成する硫黄内包カーボンナノチューブとしては、直線構造となる硫黄鎖が内包されたカーボンナノチューブ、並列に2つの直線構造となる硫黄鎖が内包されたカーボンナノチューブ、ジグザグ構造となる硫黄鎖が内包されたカーボンナノチューブが使用できる。カーボンナノチューブには単層、二層、多層カーボンナノチューブが使用できるが、単層カーボンナノチューブを使用した場合にとくに導電性に優れたものとなる。
【0011】
硫黄を内包したカーボンナノチューブの製造方法としては、
中空部分の径が2.0nm以下のカーボンナノチューブと硫黄とを密封容器に収容し、容器を真空密封する工程と、前記真空密封した容器を718K以上の温度に加熱してカーボンナノチューブに硫黄を内包させる工程と、
前記カーボンナノチューブに硫黄を内包させた後、カーボンナノチューブの外面に付着した硫黄を除去する精製工程と、を備える製造方法が好適に利用できる。
前記精製工程においては、硫黄を内包させる工程により得られたカーボンナノチューブを二硫化炭素に加え、超音波照射してカーボンナノチューブの分散液を調製し、このカーボンナノチューブの分散液を濾過する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブに硫黄が鎖状に内包されることにより硫黄鎖が金属化され、カーボンナノチューブと硫黄とが複合化された導電性材料として利用することができ、カーボンナノチューブと硫黄の用途を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】硫黄を内包した単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブのTEM像である。
【
図2】硫黄を内包した単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについて、その長手方向と長手方向に直交する方向についてのTEM画像の強度を示すグラフである。
【
図3】硫黄を内包した単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについてのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図4】XRDプロファイルの一つのピークを示すグラフである。
【
図5】直線構造に硫黄が内包された単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについて、サンプル温度を変えたときのX線回折パターンの挙動を示すグラフである。
【
図6】サンプル温度を変えたときの硫黄の間隔の変化を示すグラフである。
【
図7】ジグザグ構造に硫黄が内包された単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについて、サンプル温度を変えたときのX線改選パターンの挙動を示すグラフである。
【
図8】サンプル温度を変えたときの硫黄の間隔の変化を示すグラフである。
【
図9】硫黄内包単層カーボンナノチューブの炭素元素マッピング像と、硫黄元素マッピング像である。
【
図10】硫黄内包二層カーボンナノチューブの炭素元素マッピング像と、硫黄元素マッピング像である。
【
図11】カーボンナノチューブ中における硫黄のXPSスペクトルである。
【
図12】硫黄内包単層カーボンナノチューブと硫黄内包二層カーボンナノチューブについて、熱重量分析法による分析結果を示すグラフである。
【
図13】硫黄内包カーボンナノチューブと硫黄を内包していないカーボンナノチューブについてのラマン分光スペクトルである。
【
図14】硫黄を内包していない単層カーボンナノチューブと硫黄を内包した単層カーボンナノチューブから作製したシート体について電気抵抗率の温度変化を測定した結果を示すグラフである。
【
図15】硫黄を内包していない二層カーボンナノチューブと硫黄を内包した二層カーボンナノチューブから作製したシート体について電気抵抗率の温度変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(硫黄内包カーボンナノチューブの製法)
カーボンナノチューブの中空空間内に硫黄が鎖状に収容されたカーボンナノチューブは下記の方法により作製した。
カーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)を使用した。
【0015】
まず、カーボンナノチューブの開端処理を行う。
単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブを、ガスが流通するガラス管に封入し、100ml/minの速度で酸素ガス流通させながら、723Kで1時間の開端処理を行う。なお、カーボンナノチューブの開端処理としては、塩酸や硝酸などを用いる酸処理や、超音波処理がある。酸素ガスを用いる開端処理は、開端処理が効率的に行えることと、温度、ガス流速といった制御が容易な方法を利用することで、的確に開端処理が行えるという利点がある。市販品のカーボンナノチューブには開端されているものもあるが、開端処理を行うことで開端率が向上し、硫黄を内包させやすくすることができる。
【0016】
開端処理をしたカーボンナノチューブに硫黄を内包させる処理は、次のようにして行った。
開端処理した単層カーボンナノチューブ10mgと、硫黄(99.9999%)30mgとをガラス管に入れ、真空封止(真空密封する工程)する。次いで、電気炉中で873K、48時間保持することにより、硫黄を内包したカーボンナノチューブを調製(カーボンナノチューブに硫黄を内包させる工程)した。
同様に、開端処理した二層カーボンナノチューブ10mgと、硫黄(99.9999%)30mgとをガラス管に入れ、真空封止した後、電気炉中で873K、48時間保持することにより、硫黄を内包したカーボンナノチューブを調製した。
【0017】
上記方法により調製したサンプルを二硫化炭素に加え、超音波照射してカーボンナノチューブの分散液を得た。分散液はカーボンナノチューブから分離された硫黄と硫黄を内包したカーボンナノチューブを含む。この分散液を濾過することで、シート状の硫黄を内包したカーボンナノチューブを得る。この工程を3回、繰り返し行った後、室温・真空下で1時間以上保持することで不要な二硫化炭素を除去し(精製工程)、精製後の硫黄を内包したカーボンナノチューブを得た。得られた試料は、シート状のものである。
カーボンナノチューブを二硫化炭素で洗浄する目的は、カーボンナノチューブの外面に付着した硫黄(常温・常圧でみられる硫黄S
8)を除去するためである。超音波処理することにより、カーボンナノチューブバンドルの隙間に入り込んだ硫黄を除去することができる。カーボンナノチューブのバンドル間に存在する硫黄は電気抵抗率を上昇させるように作用する。
【0018】
(TEM像観察)
図1(a)、(b)、(c)は、硫黄を内包した単層カーボンナノチューブのTEM像である。
図1(a)から、単層カーボンナノチューブの中空空間内に、カーボンナノチューブの長手方向に沿って硫黄が2本の鎖状に並んでいることがわかる。2本の硫黄鎖はそれぞれ一次元結晶状に直線的に配列している。2本の硫黄鎖の硫黄原子間の間隔は0.32nmである。この硫黄を内包したカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの中空空間である一次元ナノ空間が鋳型のように作用することにより、硫黄の一次元結晶が構成されたものである。
図1(a)のカーボンナノチューブの内径は1.1nmである。
【0019】
図1(b)、(c)は、硫黄を内包した二層カーボンナノチューブのTEM像である。
図1(b)は、カーボンナノチューブの中空空間内にジグザグの鎖状に硫黄鎖が内包されていることを示す。
図1(c)は、硫黄鎖が直線構造として内包されていることを示す。
図1(b)に示すカーボンナノチューブの内径は0.68nm、
図1(c)に示すカーボンナノチューブの内径は0.60nmである。
このように、カーボンナノチューブに硫黄を内包させると、硫黄はジグザグ型の鎖状となったり、直線型の鎖状となったりする。二層カーボンナノチューブに硫黄を内包させたものは、TEM観察時に内包物質がダメージを受けにくく、内包された硫黄の構造が見やすくなる。
【0020】
図2(a)、(b)は、
図1(b)、(c)に示したサンプルについて、カーボンナノチューブの長手方向と、長手方向に直交する方向について、TEM画像の強度を分析した結果を示す。
図2(a)に示す、ジグザグ配置となっている硫黄鎖の一方側の硫黄原子の間隔は0.33±0.03nmである。
図2(b)に示す、直線構造となる硫黄鎖の硫黄原子の間隔は0.18±0.02nmである。
【0021】
(XRD解析)
図3に、硫黄を内包した単層カーボンナノチューブと、硫黄を内包した二層カーボンナノチューブについてのX線回折パターンを示す。
図3には、比較のため、硫黄を内包していない(empty)単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについての測定結果をあわせて示した。
単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブのプロファイルに表れているピークは、カーボンナノチューブの中空空間内において硫黄が規則的に配列した状態で内包されていることを示す。
【0022】
図3に、内包された硫黄の配列形態と、その配列における硫黄の間隔に対応するピークを例示する。グラフ中に複数のピークが表れているのは、X線回折パターンの測定に使用したサンプル中に、内径が異なるカーボンナノチューブが混在しているためで、カーボンナノチューブに内包されている硫黄原子の間隔(結晶間隔)が異なるものが存在することによる。
図3の単層カーボンナノチューブのプロファイルに示すように、硫黄内包単層カーボンナノチューブの場合もジグザグ型に硫黄が内包される場合もある。
【0023】
図3に示すXRDプロファイルは、一次元結晶に特有の非対称なプロファイルを示す。
図4は、XRDプロファイルの一つのピークを拡大して示した例で、ピーク形状が非対称、すなわちカーボンナノチューブに内包された硫黄が一次元構造を備えることを示す。
回折ピークの半値幅(ΔQ)から、カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖のドメインサイズ(ξ=2π/ΔQ)を見積もることができる。XRDプロファイルから、硫黄内包単層カーボンナノチューブにおける硫黄鎖のドメインサイズは35〜45nm、硫黄内包二層カーボンナノチューブにおける硫黄鎖のドメインサイズは90〜160nmであった。
硫黄を内包したカーボンナノチューブの中空空間内では、硫黄は共有結合により鎖状構造を保持していると考えられる。上記ドメインサイズから、カーボンナノチューブに内包された硫黄は、硫黄原子が少なくとも数十個から数百個単位で並んだ、非常に長い、直線構造あるいはジグザグ構造の一次元結晶構造を構成すると考えられる。
【0024】
(熱的安定性)
サンプルの温度を変えたときのXRDプロファイルから、カーボンナノチューブに内包された硫黄の規則的配列(結晶性構造)の熱的安定性を調べた。
図5(a)、(b)は、硫黄鎖が直線状に内包された単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについて、サンプル温度を300〜800Kの範囲で変えて測定したX線回折パターンの特定のピーク(直線構造に対応する)についての挙動を示している。
【0025】
図6は、サンプル温度を変えたときのXRDプロファイルのピーク位置から求めた、直線構造の硫黄鎖の硫黄原子間距離dを示す。単層カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖については、300〜800Kの温度範囲において、安定的に規則的配列を保持している。また、二層カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖については、室温から500Kまでは安定的に直線構造を保持しているが、500Kを超えると大きなピークシフトが表れる。これは、500K程度温度以上に加熱すると、直線構造に由来する硫黄原子の間隔が伸びることを示す。
【0026】
図7(a)、(b)は、同様に、硫黄鎖がジグザグ構造に内容された単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブについて、サンプル温度を300〜800Kの範囲で変えて測定したX線回折パターンの特定のピーク(ジグザグ構造に対応する)の挙動を示す。
図8は、XRDプロファイルのピーク位置から求めた、硫黄の配列間隔dを示す。硫黄鎖がジグザグ構造に内包された場合も、直線構造に内包された場合と同様に、単層カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖については、300〜800Kの温度範囲において安定的にジグザグ構造を保持し、二層カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖については、室温から500Kまでは安定的にジグザグ構造を保持する一方、500Kを超えると硫黄原子の間隔が伸びることを示している。
【0027】
図5〜8に示した測定結果は、カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖は、真空中において、室温〜500K程度の温度範囲において、安定的に直線構造あるいはジグザグ構造を保持すること、すなわちこの温度範囲においては、確実に一次元結晶構造を保持することを意味する。なお、500Kを超えた場合であっても、実験温度範囲においては、硫黄原子の間隔は伸びるものの、直線構造あるいはジグザグ構想は保持している。
【0028】
(カーボンナノチューブ内の硫黄分布)
図9は、単層カーボンナノチューブ内の硫黄の分布を測定した結果を示す。
図9では、硫黄内包単層カーボンナノチューブのTEM像と、TEM像に該当する部位(像の中心付近)における炭素元素マッピング像と、硫黄元素マッピング像を示す。
炭素元素マッピング像と硫黄元素マッピング像とを対比してみると、炭素が存在する位置と硫黄が存在する位置とが完全に一致している。この測定結果は、カーボンナノチューブ内に硫黄が高い充填率で内包されていることを示す。
【0029】
図10は、硫黄を内包した二層カーボンナノチューブTEM像と、TEM像に該当する部位における炭素元素マッピング像と、硫黄元素マッピング像を示す。このサンプルの場合も、炭素位置と硫黄位置とが完全に一致し、カーボンナノチューブ内に硫黄が高い充填率で内包されていることがわかる。
【0030】
図11は、カーボンナノチューブ中における硫黄のXPSスペクトル(2sの硫黄)の例を示す。同様に、カーボンナノチューブの炭素(1sの炭素)のXPSスペクトルを計測し、スペクトルのピーク部分の面積比から、炭素と硫黄の比率を求め、カーボンナノチューブ中の硫黄の充填率を求めると、硫黄内包単層カーボンナノチューブについての硫黄充填率は16wt%、硫黄内包二層カーボンナノチューブについての硫黄充填率は8.8wt%であった。
【0031】
図12(a)、(b)は、硫黄内包単層カーボンナノチューブと、硫黄内包二層カーボンナノチューブについて、熱重量分析法により、カーボンナノチューブ中における硫黄の充填率を測定した結果を示す。燃焼条件はHe:O
2=8:2である。
グラフ内のカーブは微分スペクトルである。硫黄内包単層カーボンナノチューブは酸素存在下において600Kまで安定であり、
図12(a)に示すように、硫黄を内包しない単層カーボンナノチューブとの比較から、硫黄の充填率は12wt%となる。
硫黄内包二層カーボンナノチューブは酸素存在下においては、900Kまで安定である。硫黄を内包しない二層カーボンナノチューブについての熱重量分析からは硫黄の充填率は明確に見積もることができなかった(
図12(b))。
【0032】
(硫黄鎖の金属化)
硫黄内包カーボンナノチューブの硫黄鎖の金属性を確かめるため、ラマン分光測定を行った。
図13(a)は、硫黄内包単層カーボンナノチューブと硫黄を内包していない単層カーボンナノチューブについてのラマン分光スペクトルである。
図13(b)は、硫黄内包二層カーボンナノチューブと硫黄を内包していない二層カーボンナノチューブについてのラマン分光スペクトルである。
【0033】
図13(a)に示すラマン分光スペクトルでは、硫黄を内包していないカーボンナノチューブに比べて、硫黄を内包したカーボンナノチューブについては金属的なラマンバンドに相当するBWF(Breit-Wigner-Fano)が増大している。カーボンナノチューブに金属が接触するとBWFが増大する。すなわち、BWFが増大していることから、カーボンナノチューブに接触している硫黄鎖が金属化されていることがわかる。
図13(b)に示すラマン分光スペクトルにおいても、硫黄鎖を内包した二層カーボンナノチューブのBWFが増大している。すなわち、二層カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖が金属化されたことを示す。なお、二層カーボンナノチューブでは、金属化した硫黄鎖は内層のカーボンナノチューブのみに接触する。したがって、サンプル全体としてのBWFの増加率は、単層のカーボンナノチューブよりも劣っている。
【0034】
(電気抵抗率の測定)
硫黄を内包していない単層カーボンナノチューブから作製したシート状のサンプルと、硫黄を内包した単層カーボンナノチューブから作製したシート状のサンプルについて、2〜300Kの温度範囲にわたり、4端子法により電気抵抗率を測定した。
図14は、単層カーボンナノチューブについての測定結果を示す。300Kにおいては、硫黄内包単層カーボンナノチューブは、硫黄を内包していない単層カーボンナノチューブと比較して抵抗率が55%減少した。
硫黄を内包していない単層カーボンナノチューブからなるサンプルは、半導体的温度依存性を示し、低温になるとともに電気抵抗率が増大するのに対して、硫黄内包単層カーボンナノチューブからなるサンプルはほとんど温度依存性がみられない。2Kにおいては抵抗率が87%減少した。
【0035】
硫黄内包単層カーボンナノチューブからなるサンプルについて温度依存性がみられない理由は、カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖が金属化したと考えることによって説明できる。
硫黄内包カーボンナノチューブの電子伝導パスとしては、カーボンナノチューブの長手方向への伝導パス、カーボンナノチューブの幅方向への伝導パス、カーボンナノチューブに内包された硫黄の長手方向への伝導パスがある。上記測定結果は、カーボンナノチューブに内包された導電性硫黄による伝導パスが金属的な伝導パスと同様の作用を示すことを意味する。
【0036】
図15は、硫黄を内包していない二層カーボンナノチューブから作製したシート状のサンプルと、硫黄内包二層カーボンナノチューブから作製したシート状のサンプルについて、2〜300Kの温度範囲にわたり、電気抵抗率を測定した結果を示す。
2〜300Kの温度範囲にわたり、硫黄内包二層カーボンナノチューブからなるサンプルの抵抗率は、硫黄を内包していない二層カーボンナノチューブからなるサンプルと比較して抵抗率が減少している。300Kにおいては、硫黄内包二層カーボンナノチューブからなるサンプルの抵抗率は、硫黄を内包していない二層カーボンナノチューブからなるサンプルに比較して20%減少した。
【0037】
硫黄内包二層カーボンナノチューブの場合も、測定温度2〜300Kにおいて電気抵抗率が低下している理由は、カーボンナノチューブに内包された硫黄鎖が金属化していることによると考えられる。ただし、二層カーボンナノチューブの場合は、金属化した硫黄鎖と物理的に相互作用するのは、内層のカーボンナノチューブであるため、硫黄内包による電気抵抗率の温度依存性の変化量は単層カーボンナノチューブの場合にみられたほどには顕著にあらわれない。これは、二層カーボンナノチューブの外層のカーボンナノチューブと、金属化した硫黄鎖とが物理的に隔離されているため、サンプル全体としての電気伝導に大きく寄与しないためであると考えられる。
【0038】
硫黄の金属化は、90GPa以上の極限条件下で発現する現象である。上記実験結果は、硫黄がカーボンナノチューブに内包されることにより、金属化されることを示唆するものであり、この硫黄が金属化される作用を利用すれば、硫黄とカーボンナノチューブとからなる新規な導電材料としての応用展開が可能である。
硫黄は天然資源として大量に存在するが、従来は、機能性材料としてはほとんど利用されていない。本発明に係る硫黄を内包したカーボンナノチューブは、硫黄とカーボンナノチューブとの組み合わせにより、新規な導電材料としての用途を大きく開くものである。