特許第6386916号(P6386916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386916
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】炭化珪素質セラミックス焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/14 20060101AFI20180827BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C04B35/14
   C04B35/577
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-605(P2015-605)
(22)【出願日】2015年1月6日
(65)【公開番号】特開2016-124761(P2016-124761A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 真
(72)【発明者】
【氏名】影山 健友
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−187786(JP,A)
【文献】 特開2000−218165(JP,A)
【文献】 特開2012−051749(JP,A)
【文献】 特開2001−048650(JP,A)
【文献】 特開平07−151478(JP,A)
【文献】 特開2010−271031(JP,A)
【文献】 特開平06−264160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
F28D 1/00−9/04
F28F 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60質量%以上70質量%以下の二酸化珪素を含有する
ことを特徴とする炭化珪素質セラミックス焼結体。
【請求項2】
単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが一列に配列されたセル列の複数が、隣接する前記セル列と前記軸方向を直交させて配列されている
ことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素質セラミックス焼結体。
【請求項3】
単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが一列に配列されたセル列を、前記軸方向を同一として複数備えており、隣接する前記セル列の間に前記軸方向と直交する方向に貫通したスリットを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素質セラミックス焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素質セラミックス焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、耐熱性や耐熱衝撃性に優れることから、炭化珪素質セラミックス焼結体は、熱交換体や発熱体など、高温下で使用される構造体の材料として適していると考えられる。しかしながら、炭化珪素は、酸素の存在下で高温に加熱されると酸化してしまうという問題がある。
【0003】
このため、酸化を抑制することを目的として、炭化珪素の表面に保護層を形成する技術が提案されている(特許文献1,2参照)。特許文献1の技術では、鉄化合物の溶液を多孔質の炭化珪素に含浸させ、空気中で加熱する。これは、FeOとSiOとの共存下では、高温領域で石英の多形であるトリジマイト又はクリストバライトの溶液が生成することを利用し、炭化珪素の表面にクリストバライトの結晶を析出させることにより、酸化を防止する保護層としようとするものである。しかしながら、この技術では、含浸工程が必要であるため、工程が複雑となり手間がかかるという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2では、炭化珪素などの基材の表面に、C−X結合(XはF,Cl,Iから選択された1種または2種以上)を有する炭素系被膜を形成し、これを保護層とする技術が提案されている。これは、プラズマCVD法やイオンプレーティング法等により、基材の表面に炭素系被膜を形成しておき、この炭素系被膜に化学気相法によってC−X結合を導入するというものである。しかしながら、この技術では、炭素系被膜を形成する工程、C−X結合を導入する工程が必要であり、工程が複雑で手間がかかることに加え、プラズマ発生装置など、通常の焼成工程には用いられない特殊な装置を必要とするという問題があった。また、有害なハロゲンガスを使用するため、安全面が考慮された環境を整えるための設備をも必要とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−139570号公報
【特許文献2】特開2003−277929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、容易に製造することが可能であり、酸化性雰囲気下での使用に適した炭化珪素質セラミックス焼結体の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる炭化珪素質セラミックス焼結体は、「60質量%以上70質量%以下の二酸化珪素を含有する」ものである。
【0008】
従来では、炭化珪素の酸化を抑制するために、炭化珪素の成形体を酸化させないように焼成し、焼結体の高温下での使用に際しては、上記のように保護層を設けることにより、炭化珪素における酸化皮膜(二酸化珪素の皮膜)の形成を妨げるという考え方が一般的であった。これに対し、本発明者らは、従来の当業者の考え方とは正反対の発想に基づき、敢えて炭化珪素質セラミックスの焼結体に、全質量に対して60質量%以上という高い割合で二酸化珪素を含有させておくことにより、炭化珪素のそれ以上の酸化を抑制できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
従って、本構成の炭化珪素質セラミックス焼結体は、酸素の存在下において高温で使用しても酸化が抑制されているため、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点を活かして、熱交換体や発熱体など、高温下で使用される構造体として使用することができる。
【0010】
このような炭化珪素質セラミックス焼結体は、炭化珪素を酸化性雰囲気下で焼成し、焼結させながら強制的に酸化することにより製造することができる。なお、二酸化珪素の含有率が多過ぎると、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点が発揮されにくくなるため、二酸化珪素の含有率は70質量%を超えない範囲とする。
【0011】
本発明にかかる炭化珪素質セラミックス焼結体は、上記構成において、「単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが一列に配列されたセル列の複数が、隣接する前記セル列と前記軸方向を直交させて配列されている」ものとすることができる。
【0012】
複数の「セル列」において、一つの「セル列」を構成するセルの数は、他のセル列を構成するセルの数と同一であっても異なっていても良い。また、セルの断面形状は正方形、長方形、六角形、三角形などの多角形とすることができる。
【0013】
本構成の炭化珪素質セラミックス焼結体は、セルの軸方向が隣接するセル列ごとに直交しており、二つの軸方向を有している。ここで、説明の便宜上、直交している二つの軸方向のうち一方を第一方向、第一方向と直交した他方を第二方向と称すると、第一方向に貫通するセルに第一の流体を流通させ、第二方向に貫通するセルに第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁を介して熱交換させることができる。従って、本構成の炭化珪素質セラミックス焼結体は、熱交換体として使用することができ、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点を活かし、且つ、高温での酸化が抑制されている本発明の特性を活かして、第一方向及び第二方向の何れかに高温の流体を流通させて、効率良く熱交換をすることができる。
【0014】
本発明にかかる炭化珪素質セラミックス焼結体は、上記構成に替えて、「単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが一列に配列されたセル列を、前記軸方向を同一として複数備えており、隣接する前記セル列の間に前記軸方向と直交する方向に貫通したスリットを有する」ものとすることができる。
【0015】
本構成では、セル列におけるセルと、セル列間のスリットとでは、貫通する方向が直交している。これにより、セル列のセルに第一の流体を流通させ、スリットに第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁を介して熱交換させることができる。従って、本構成の炭化珪素質セラミックス焼結体は、熱交換体として使用することができ、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点を活かし、且つ、高温での酸化が抑制されている本発明の特性を活かして、第一方向及び第二方向の何れかに高温の流体を流通させて、効率良く熱交換をすることができる。
【0016】
このような構成は、例えば、一列のセル列同士を、それぞれの軸方向を一致させた状態で、それぞれの両端部間にスペーサを配して接合することにより、形成することができる。これにより、隣接したセル列の隔壁とスペーサとの間に、セル列の軸方向と直交した方向に貫通するスリットが形成される。ここで、一列のセル列は、一般的な押出成形によって成形された、単一の軸方向を有するセル列が複数列設されているハニカム構造体を、一列ごと切断して得ることができる。或いは、単一の軸方向を有する複数のセルが一列に配列された状態のハニカム構造体を、押出成形により成形しても良い。また、本構成は、一般的な押出成形によって成形された、単一の軸方向を有するセル列が複数列設されているハニカム構造体において、一列おきにセル列の両端部を封止し、両端部が封止されたセル列について、両端部を除いて軸方向に直交する方向の隔壁を切除することによっても、形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の効果として、容易に製造することが可能であり、酸化性雰囲気下での使用に適した炭化珪素質セラミックス焼結体を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】元素分析(面分析)結果を示す図である。
図2】加熱時間の増加に伴う質量増加を、初期質量に対する変化の割合で示すグラフである。
図3】本発明の熱交換体としての第一実施形態である炭化珪素質セラミックス焼結体の斜視図である。
図4】(a)本発明の熱交換体としての第二実施形態である炭化珪素質セラミックス焼結体の斜視図、(b)図4(a)の炭化珪素質セラミックス焼結体の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態である炭化珪素質セラミックス焼結体(以下、単に「焼結体」と称することがある)について説明する。本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体は、60質量%以上70質量%以下の二酸化珪素を含有しているものである。
【0020】
このような構成の炭化珪素質セラミックス焼結体は、炭化珪素を含む原料を成形した成形体を、酸化性雰囲気で焼成することにより、炭化珪素を焼結させつつ炭化珪素を強制的に酸化させることにより、製造することができる。酸化性雰囲気としては、空気雰囲気、酸素雰囲気、酸素を導入した空気雰囲気を、例示することができる。このように炭化珪素を焼結させながら酸化させることにより、焼結体中に均一に二酸化珪素が分散した炭化珪素質セラミックス焼結体を得ることができる。
【0021】
ここで、炭化珪素を含む原料としては、炭化珪素の粗大粒子と微細粒子とを含有する原料を、使用することができる。また、加熱により炭化珪素が反応生成する珪素源と炭素源とを含有する原料を、使用することができる。この場合、珪素源としては窒化珪素や単体の珪素(いわゆる金属シリコン)を、炭素源としては黒鉛、石炭、コークス、木炭等を使用することができる。なお、炭化珪素を含む原料には、焼結性や焼結体の物性を調整する等の目的で、窒化珪素、単体の珪素等を含有させることができる。
【0022】
次に、具体的な実施例を示し、二酸化珪素を60質量%含む炭化珪素質セラミックス焼結体は、高温の酸化性雰囲気下で酸化が抑制されていることについて説明する。
【実施例】
【0023】
本実施形態の実施例、及び比較例1,2の炭化珪素質セラミックス焼結体は、それぞれ炭化珪素を含む原料A〜Cを、水、バインダ等の添加剤と混合し成形した成形体を、空気雰囲気下において温度1350℃で7時間焼成し、焼結させつつ強制的に酸化させたものである。
【0024】
ここで、原料Aは、炭化珪素の粗大粒子(粗粒)及び微細粒子(微粒)と、炭化珪素を反応生成する炭化珪素生成原料を含有する。炭化珪素生成原料は、珪素源として窒化珪素を、炭素源として黒鉛を含有しており、珪素と炭素のモル比(Si/C)は約1である。原料Bは、炭化珪素の粗大粒子に加え、窒化珪素と単体の珪素を含有する原料である。原料Cは炭化珪素の粗大粒子及び微細粒子に加え、窒化珪素を含有する原料である。なお、炭化珪素における粗大粒子と微細粒子との割合を原料Aと原料Cとで比較すると、原料Aの方が微細粒子の割合が大きい。
【0025】
実施例及び比較例1,2について、蛍光X線分析を行い、炭化珪素と二酸化珪素の含有率(質量%)を求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、何れの試料も50質量%以上の高い割合で二酸化珪素を含有していたが、原料Aは二酸化珪素の含有率が最も高く、60質量%を超える60.3質量%であった。
【0026】
【表1】
【0027】
二酸化珪素の含有率が最も高い実施例の焼結体の断面の研磨面を、電子プローブマイクロアナライザを用いて元素分析(面分析)した結果を、図1に示す。ここで、図1(a)は走査型電子顕微鏡による観察像であり、図1(b)は同視野における元素Siのマッピング像であり、図1(c)は同視野における元素Oのマッピング像である。マッピング像では、測定対象の元素が多く存在するほど、輝度が高く白っぽく見える。図1から、酸素原子は、粗大粒子を除く相に存在していることが分かる。このことから、炭化珪素の酸化により生成した二酸化珪素は、酸素を含む雰囲気に晒された焼結体の表面側に外皮のように偏在するのではなく、成形体の焼成時に反応生成した炭化珪素の相や、炭化珪素の微粒子が焼結した相内に分散していると考えられた。
【0028】
次に、実施例及び比較例1,2の焼結体について、酸化性雰囲気下での加熱に伴う炭化珪素の酸化の度合いを、質量の増加によって評価する加熱試験を行った。加熱試験は、各試料の焼結体を、空気雰囲気下で所定時間加熱し、その後室温まで降温する操作を1回として、その操作を繰り返し、各回の加熱試験の前後で試料の質量を測定することにより行った。加熱温度は1050℃とし、その温度での保持時間は3時間とした。各試料は、サイズ50mm×50mm×150mmのハニカム構造体とし、セル密度は50cpsi(7.75セル/cm)、隔壁厚さは0.64mm(25mil)、容積は375ccである。各試料について、加熱時間の増加に伴う質量変化を、最初の加熱試験を行う前の質量(初期質量)に対する割合(質量増加率)として示したグラフを、図2に示す。なお、図2において横軸は、累積の保持時間である。
【0029】
図2に示すように、比較例1,2の焼結体は、何れも加熱時間の経過に伴って質量が増加しており、質量増加率曲線はほぼ線形であることから、このまま加熱時間を増加させれば更に質量が増加し続けると考えられた。ここで、炭化珪素の分子量は40であり、二酸化珪素の分子量は60であるため、1モルの炭化珪素が酸化して1モルの二酸化珪素となると、その質量は20g増加する。従って、加熱時間の経過に伴って質量が増加している比較例1と比較例2の焼結体では、加熱により炭化珪素の酸化が進行していると考えられた。
【0030】
これに対し、実施例の焼結体は、加熱時間が増加しても質量は殆ど増加していない。このことから、予め60質量%という高い割合で二酸化珪素を含有させた実施例の焼結体では、酸化性雰囲気下で高温に加熱しても、酸化が進行しないことが確認された。
【0031】
このように、従来では、炭化珪素質セラミックスの成形体は、「酸化させないように非酸化性雰囲気下で焼成」し、得られた炭化珪素質セラミックス焼結体の高温下での使用に際しては、二酸化珪素の生成を妨げる保護層を設けるというのが当業者の考え方であったところ、この常識に反して、敢えて炭化珪素質セラミックスの成形体を「酸化性雰囲気下で焼成」し、炭化珪素質セラミックス焼結体に予め全質量に対して60質量%という高い割合で二酸化珪素を含有させておくことにより、高温下での酸化を有効に抑制することができる。なお、二酸化珪素の含有率が多過ぎると、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点が発揮されにくくなるため、二酸化珪素の含有率は70質量%を超えない範囲とし、65質量%を超えない範囲とすることがより望ましい。
【0032】
加えて、検討の結果、酸化性雰囲気下で焼成し、予め焼結体に高い割合で二酸化珪素を含有させておくことにより、炭化珪素質セラミックス焼結体の気孔率が小さく、機械的強度が高い焼結体が得られることが確認された。これを、上記の実施例と比較例1,2、及び、比較例3〜5と比較して、以下説明する。
【0033】
ここで、比較例3〜5は、それぞれ上記の原料A〜Cを成形した成形体を、炭化珪素質セラミックスを焼成するときの「従来の焼成条件である非酸化性雰囲気」で、焼成したものである。具体的には、焼成雰囲気は窒素ガス100%雰囲気とし、焼成温度は1480℃、焼成時間は7時間とした。
【0034】
実施例、及び比較例1〜5の試料について、次の方法で、気孔率及び機械的強度を測定した。測定の結果を、表2に示す。
<気孔率>
アルキメデス法
<機械的強度>
JIS R1601に準拠して、三点曲げ強さを測定した。試料は、直径6mm、長さ120mmの円柱状とし、支点間距離40mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minとした。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、非酸化性雰囲気で焼成した比較例3〜5の気孔率は、何れも45%以上であり、非常にポーラスな焼結体であった。これに対して、酸化性雰囲気下で焼成した実施例及び比較例1,2の焼結体の気孔率は、何れも非酸化性雰囲気で焼成した比較例3〜5に比べて低いものであった。特に、実施例の焼結体の気孔率は13.2%と、それぞれ気孔率が約30%である比較例1及び比較例2に比べてもかなり低く、非常に緻密な焼結体であった。
【0037】
三点曲げ強さについても、非酸化性雰囲気下で焼成した比較例3〜5と比較して、酸化性雰囲気下で焼成した実施例、及び比較例1,2の焼結体は、非常に高い値を示した。特に、実施例の焼結体は、最も高い100.7MPaという三点曲げ強さを示した。これは、原料が同一で非酸化性雰囲気で焼成した比較例3に比べて、約10倍であった。
【0038】
このように、酸化性雰囲気において焼成しつつ強制的に酸化させることにより、二酸化珪素を高い割合で含有していると共に、焼結体中に二酸化珪素が分散している炭化珪素質セラミックス焼結体は、緻密であり、且つ、機械的強度が高いことが確認された。特に、実施例の焼結体は、最も緻密で、且つ、最も高強度であった。これは、原料に粗大粒子の炭化珪素よりも焼結しやすい微細粒子の炭化珪素を多く含むことに加え、焼成時に珪素源と炭素源とから炭化珪素が生成することにより焼結が進行し易いため、微細粒子が焼結する際、及び、生成した炭化珪素が粗大粒子同士を焼結させる際に、雰囲気中の酸素が取り込まれ易く、二酸化珪素が生成し易いためであると考えられた。
【0039】
上述のように、60質量%以上の二酸化珪素を含有している本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体は、高温の酸化性雰囲気下においても酸化が抑制されていることに加えて、緻密であり、機械強度が高い。そのため、本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体は、高温の流体と低温の流体との間で熱交換させる熱交換体として、適している。高温の流体を酸化性雰囲気下で流通させても酸化しにくく、高温の流体として酸化性雰囲気ガスを流通させても酸化しにくいからである。また、気孔率が低く緻密であるため、熱交換させる二つの流体がそれぞれ流通する流路を隔てる隔壁を流体が透過しにくく、熱交換させる二つの流体が混合しにくいからである。また、機械的強度が高いため、隔壁を薄くしてもある程度の強度を担保することができ、薄い隔壁を介して効率良く熱交換ができるからである。
【0040】
次に、熱交換体としての形状とした本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1,2について、図3及び図4を用いて説明する。
【0041】
まず、熱交換体としての第一実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1は、図3に示すように、単一の軸方向に延びた隔壁10により区画された複数のセル11が一列に配列されたセル列20の複数が、隣接するセル列20と軸方向を直交させて配列されたハニカム構造を有している。
【0042】
このような形状の炭化珪素質セラミックス焼結体1は、例えば、一般的な押出成形によって成形された、軸方向が同一である複数のセル列20が、複数列設されているハニカム構造を有する成形体から製造することができる。具体的には、セル列20の一列ごとに成形体を切断し、切断された複数のセル列20を、隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合し、これを焼成することにより製造することができる。または、セル列20の一列ごとに切断した成形体を焼成し、焼成したセル列20を隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合することにより製造することができる。また或いは、押出成形によって成形した成形体を焼成し、ハニカム構造を有する焼結体をセル列20の一列ごとに切断し、切断されたセル列20の焼結体を隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合することにより、製造することができる。
【0043】
第一実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1では、隣接するセル列20の軸方向が直交している。これにより、二つの軸方向の内、第一方向に貫通するセル11に第一の流体を流通させ、第二方向に貫通するセル11に第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁10を介して熱交換させることができる。
【0044】
熱交換体としての第二実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体2は、図4(a)に示すように、単一の軸方向に延びた隔壁10により区画された複数のセル11が一列に配列されたセル列20を、軸方向を同一として複数備えており、隣接するセル列20の間に軸方向と直交する方向に貫通したスリット30を有している。
【0045】
このような形状の炭化珪素質セラミックス焼結体2は、例えば、一般的な押出成形によって成形された、軸方向が同一であるセル列20が、複数列設されているハニカム構造を有する成形体または焼結体から製造することができる。具体的には、図4(b)に示すように、セル列20の一列ごとに成形体または焼結体を切断し、切断されたセル列20の両端部に、長棒状のスペーサ40の二つをそれぞれ接合したものを一単位とし、これをセル列20の軸方向を同一として複数単位接合することにより、製造することができる。この場合、隣接したセル列20とスペーサ40との間に、セル列20のセル11と貫通する方向が直交するスリット30が形成される。ここで、スペーサ40は、例えば、セル列を切り出したハニカム構造体の原料と同一の原料で形成すれば、セル列と熱膨張率が等しく好適である。
【0046】
また、単一の軸方向を有するセル列20が複数列設されているハニカム構造を有する成形体において、セル列20の一列おきにセル11の両端部を封止し、両端部が封止されたセル列20について、両端部を除いてセル11の軸方向と直交する方向の隔壁を切除することによっても、セル列20の軸方向と直交する方向に貫通したスリット30を形成することができる。なお、隔壁を切除する加工は、成形体の段階で行うことも焼成後に行うこともできる。また、セル11の端部を封止する加工も、成形体の段階で行うことも焼成後に行うこともできる。なお、セルの端部を封止する材料は、例えば、元となるハニカム構造体の原料と同一の原料であれば、セルと熱膨張率が等しく好適である。
【0047】
第二実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体2では、セル列20のセル11に第一の流体を流通させ、セル列20と隣接するスリット30に第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁10を介して熱交換させることができる。
【0048】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0049】
例えば、本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体を熱交換体に用いる場合、一つのセル列を構成するセルの数は、目的とする熱交換率や流体を流通させる際の圧力損失等に応じて設定することができる。また、接合させるセル列の数、またはセル列とスリットの数は、熱交換体を設置するスペース等に応じて設定することができる。
【0050】
加えて、本発明の炭化珪素質セラミックス焼結体は、熱交換体として適しているものであるが、その用途は熱交換体に限定されるものではない。例えば、自己発熱により流体を加熱する発熱体、集熱された太陽熱を蓄熱する蓄熱体、高温の排ガスを濾過するフィルタに、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1,2 炭化珪素質セラミックス焼結体
10 隔壁
11 セル
20 セル列
30 スリット
40 スペーサ
図1
図2
図3
図4