【実施例】
【0023】
本実施形態の実施例、及び比較例1,2の炭化珪素質セラミックス焼結体は、それぞれ炭化珪素を含む原料A〜Cを、水、バインダ等の添加剤と混合し成形した成形体を、空気雰囲気下において温度1350℃で7時間焼成し、焼結させつつ強制的に酸化させたものである。
【0024】
ここで、原料Aは、炭化珪素の粗大粒子(粗粒)及び微細粒子(微粒)と、炭化珪素を反応生成する炭化珪素生成原料を含有する。炭化珪素生成原料は、珪素源として窒化珪素を、炭素源として黒鉛を含有しており、珪素と炭素のモル比(Si/C)は約1である。原料Bは、炭化珪素の粗大粒子に加え、窒化珪素と単体の珪素を含有する原料である。原料Cは炭化珪素の粗大粒子及び微細粒子に加え、窒化珪素を含有する原料である。なお、炭化珪素における粗大粒子と微細粒子との割合を原料Aと原料Cとで比較すると、原料Aの方が微細粒子の割合が大きい。
【0025】
実施例及び比較例1,2について、蛍光X線分析を行い、炭化珪素と二酸化珪素の含有率(質量%)を求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、何れの試料も50質量%以上の高い割合で二酸化珪素を含有していたが、原料Aは二酸化珪素の含有率が最も高く、60質量%を超える60.3質量%であった。
【0026】
【表1】
【0027】
二酸化珪素の含有率が最も高い実施例の焼結体の断面の研磨面を、電子プローブマイクロアナライザを用いて元素分析(面分析)した結果を、
図1に示す。ここで、
図1(a)は走査型電子顕微鏡による観察像であり、
図1(b)は同視野における元素Siのマッピング像であり、
図1(c)は同視野における元素Oのマッピング像である。マッピング像では、測定対象の元素が多く存在するほど、輝度が高く白っぽく見える。
図1から、酸素原子は、粗大粒子を除く相に存在していることが分かる。このことから、炭化珪素の酸化により生成した二酸化珪素は、酸素を含む雰囲気に晒された焼結体の表面側に外皮のように偏在するのではなく、成形体の焼成時に反応生成した炭化珪素の相や、炭化珪素の微粒子が焼結した相内に分散していると考えられた。
【0028】
次に、実施例及び比較例1,2の焼結体について、酸化性雰囲気下での加熱に伴う炭化珪素の酸化の度合いを、質量の増加によって評価する加熱試験を行った。加熱試験は、各試料の焼結体を、空気雰囲気下で所定時間加熱し、その後室温まで降温する操作を1回として、その操作を繰り返し、各回の加熱試験の前後で試料の質量を測定することにより行った。加熱温度は1050℃とし、その温度での保持時間は3時間とした。各試料は、サイズ50mm×50mm×150mmのハニカム構造体とし、セル密度は50cpsi(7.75セル/cm
2)、隔壁厚さは0.64mm(25mil)、容積は375ccである。各試料について、加熱時間の増加に伴う質量変化を、最初の加熱試験を行う前の質量(初期質量)に対する割合(質量増加率)として示したグラフを、
図2に示す。なお、
図2において横軸は、累積の保持時間である。
【0029】
図2に示すように、比較例1,2の焼結体は、何れも加熱時間の経過に伴って質量が増加しており、質量増加率曲線はほぼ線形であることから、このまま加熱時間を増加させれば更に質量が増加し続けると考えられた。ここで、炭化珪素の分子量は40であり、二酸化珪素の分子量は60であるため、1モルの炭化珪素が酸化して1モルの二酸化珪素となると、その質量は20g増加する。従って、加熱時間の経過に伴って質量が増加している比較例1と比較例2の焼結体では、加熱により炭化珪素の酸化が進行していると考えられた。
【0030】
これに対し、実施例の焼結体は、加熱時間が増加しても質量は殆ど増加していない。このことから、予め60質量%という高い割合で二酸化珪素を含有させた実施例の焼結体では、酸化性雰囲気下で高温に加熱しても、酸化が進行しないことが確認された。
【0031】
このように、従来では、炭化珪素質セラミックスの成形体は、「酸化させないように非酸化性雰囲気下で焼成」し、得られた炭化珪素質セラミックス焼結体の高温下での使用に際しては、二酸化珪素の生成を妨げる保護層を設けるというのが当業者の考え方であったところ、この常識に反して、敢えて炭化珪素質セラミックスの成形体を「酸化性雰囲気下で焼成」し、炭化珪素質セラミックス焼結体に予め全質量に対して60質量%という高い割合で二酸化珪素を含有させておくことにより、高温下での酸化を有効に抑制することができる。なお、二酸化珪素の含有率が多過ぎると、耐熱性や耐熱衝撃性に優れる炭化珪素の利点が発揮されにくくなるため、二酸化珪素の含有率は70質量%を超えない範囲とし、65質量%を超えない範囲とすることがより望ましい。
【0032】
加えて、検討の結果、酸化性雰囲気下で焼成し、予め焼結体に高い割合で二酸化珪素を含有させておくことにより、炭化珪素質セラミックス焼結体の気孔率が小さく、機械的強度が高い焼結体が得られることが確認された。これを、上記の実施例と比較例1,2、及び、比較例3〜5と比較して、以下説明する。
【0033】
ここで、比較例3〜5は、それぞれ上記の原料A〜Cを成形した成形体を、炭化珪素質セラミックスを焼成するときの「従来の焼成条件である非酸化性雰囲気」で、焼成したものである。具体的には、焼成雰囲気は窒素ガス100%雰囲気とし、焼成温度は1480℃、焼成時間は7時間とした。
【0034】
実施例、及び比較例1〜5の試料について、次の方法で、気孔率及び機械的強度を測定した。測定の結果を、表2に示す。
<気孔率>
アルキメデス法
<機械的強度>
JIS R1601に準拠して、三点曲げ強さを測定した。試料は、直径6mm、長さ120mmの円柱状とし、支点間距離40mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minとした。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、非酸化性雰囲気で焼成した比較例3〜5の気孔率は、何れも45%以上であり、非常にポーラスな焼結体であった。これに対して、酸化性雰囲気下で焼成した実施例及び比較例1,2の焼結体の気孔率は、何れも非酸化性雰囲気で焼成した比較例3〜5に比べて低いものであった。特に、実施例の焼結体の気孔率は13.2%と、それぞれ気孔率が約30%である比較例1及び比較例2に比べてもかなり低く、非常に緻密な焼結体であった。
【0037】
三点曲げ強さについても、非酸化性雰囲気下で焼成した比較例3〜5と比較して、酸化性雰囲気下で焼成した実施例、及び比較例1,2の焼結体は、非常に高い値を示した。特に、実施例の焼結体は、最も高い100.7MPaという三点曲げ強さを示した。これは、原料が同一で非酸化性雰囲気で焼成した比較例3に比べて、約10倍であった。
【0038】
このように、酸化性雰囲気において焼成しつつ強制的に酸化させることにより、二酸化珪素を高い割合で含有していると共に、焼結体中に二酸化珪素が分散している炭化珪素質セラミックス焼結体は、緻密であり、且つ、機械的強度が高いことが確認された。特に、実施例の焼結体は、最も緻密で、且つ、最も高強度であった。これは、原料に粗大粒子の炭化珪素よりも焼結しやすい微細粒子の炭化珪素を多く含むことに加え、焼成時に珪素源と炭素源とから炭化珪素が生成することにより焼結が進行し易いため、微細粒子が焼結する際、及び、生成した炭化珪素が粗大粒子同士を焼結させる際に、雰囲気中の酸素が取り込まれ易く、二酸化珪素が生成し易いためであると考えられた。
【0039】
上述のように、60質量%以上の二酸化珪素を含有している本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体は、高温の酸化性雰囲気下においても酸化が抑制されていることに加えて、緻密であり、機械強度が高い。そのため、本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体は、高温の流体と低温の流体との間で熱交換させる熱交換体として、適している。高温の流体を酸化性雰囲気下で流通させても酸化しにくく、高温の流体として酸化性雰囲気ガスを流通させても酸化しにくいからである。また、気孔率が低く緻密であるため、熱交換させる二つの流体がそれぞれ流通する流路を隔てる隔壁を流体が透過しにくく、熱交換させる二つの流体が混合しにくいからである。また、機械的強度が高いため、隔壁を薄くしてもある程度の強度を担保することができ、薄い隔壁を介して効率良く熱交換ができるからである。
【0040】
次に、熱交換体としての形状とした本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1,2について、
図3及び
図4を用いて説明する。
【0041】
まず、熱交換体としての第一実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1は、
図3に示すように、単一の軸方向に延びた隔壁10により区画された複数のセル11が一列に配列されたセル列20の複数が、隣接するセル列20と軸方向を直交させて配列されたハニカム構造を有している。
【0042】
このような形状の炭化珪素質セラミックス焼結体1は、例えば、一般的な押出成形によって成形された、軸方向が同一である複数のセル列20が、複数列設されているハニカム構造を有する成形体から製造することができる。具体的には、セル列20の一列ごとに成形体を切断し、切断された複数のセル列20を、隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合し、これを焼成することにより製造することができる。または、セル列20の一列ごとに切断した成形体を焼成し、焼成したセル列20を隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合することにより製造することができる。また或いは、押出成形によって成形した成形体を焼成し、ハニカム構造を有する焼結体をセル列20の一列ごとに切断し、切断されたセル列20の焼結体を隣接するセル列20と軸方向を直交させて接合することにより、製造することができる。
【0043】
第一実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体1では、隣接するセル列20の軸方向が直交している。これにより、二つの軸方向の内、第一方向に貫通するセル11に第一の流体を流通させ、第二方向に貫通するセル11に第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁10を介して熱交換させることができる。
【0044】
熱交換体としての第二実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体2は、
図4(a)に示すように、単一の軸方向に延びた隔壁10により区画された複数のセル11が一列に配列されたセル列20を、軸方向を同一として複数備えており、隣接するセル列20の間に軸方向と直交する方向に貫通したスリット30を有している。
【0045】
このような形状の炭化珪素質セラミックス焼結体2は、例えば、一般的な押出成形によって成形された、軸方向が同一であるセル列20が、複数列設されているハニカム構造を有する成形体または焼結体から製造することができる。具体的には、
図4(b)に示すように、セル列20の一列ごとに成形体または焼結体を切断し、切断されたセル列20の両端部に、長棒状のスペーサ40の二つをそれぞれ接合したものを一単位とし、これをセル列20の軸方向を同一として複数単位接合することにより、製造することができる。この場合、隣接したセル列20とスペーサ40との間に、セル列20のセル11と貫通する方向が直交するスリット30が形成される。ここで、スペーサ40は、例えば、セル列を切り出したハニカム構造体の原料と同一の原料で形成すれば、セル列と熱膨張率が等しく好適である。
【0046】
また、単一の軸方向を有するセル列20が複数列設されているハニカム構造を有する成形体において、セル列20の一列おきにセル11の両端部を封止し、両端部が封止されたセル列20について、両端部を除いてセル11の軸方向と直交する方向の隔壁を切除することによっても、セル列20の軸方向と直交する方向に貫通したスリット30を形成することができる。なお、隔壁を切除する加工は、成形体の段階で行うことも焼成後に行うこともできる。また、セル11の端部を封止する加工も、成形体の段階で行うことも焼成後に行うこともできる。なお、セルの端部を封止する材料は、例えば、元となるハニカム構造体の原料と同一の原料であれば、セルと熱膨張率が等しく好適である。
【0047】
第二実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体2では、セル列20のセル11に第一の流体を流通させ、セル列20と隣接するスリット30に第二の流体を流通させることにより、第一の流体と第二の流体との間で隔壁10を介して熱交換させることができる。
【0048】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0049】
例えば、本実施形態の炭化珪素質セラミックス焼結体を熱交換体に用いる場合、一つのセル列を構成するセルの数は、目的とする熱交換率や流体を流通させる際の圧力損失等に応じて設定することができる。また、接合させるセル列の数、またはセル列とスリットの数は、熱交換体を設置するスペース等に応じて設定することができる。
【0050】
加えて、本発明の炭化珪素質セラミックス焼結体は、熱交換体として適しているものであるが、その用途は熱交換体に限定されるものではない。例えば、自己発熱により流体を加熱する発熱体、集熱された太陽熱を蓄熱する蓄熱体、高温の排ガスを濾過するフィルタに、本発明を適用することができる。