(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1) 本発明の一態様に係る液密構造は、常温未満の低温液体が充填される液体領域を形成する二つの容器状部材と、一方の上記容器状部材の一端が上記低温液体に接触し、他方の上記容器状部材の他端が上記低温液体が気化する温度になるように上記容器状部材同士が互いに嵌め合わされる嵌合部と、上記液体領域の外周に形成される断熱層とを備える。
上記嵌合部は、上記嵌合部の一端側から他端側に上記低温液体が侵入することを阻止し、上記低温液体が気化したガスが上記嵌合部の一端側から他端側に向かって通過することを許容する面接触部を備える。
【0017】
上記の液密構造における用語の意味、及び代表例を以下に説明する。
・上記の常温とは、大気圧(101kPa程度)での室温とする。日本国では、大気圧で20℃±15℃が挙げられる。
・上記の容器状部材とは、低温液体を充填可能な任意の形状のものが利用できる。具体的な容器状部材は、一端が開口し、他端が閉塞した有底筒状のものであって、最終的に開口が塞がれた状態で使用されるもの、例えば箱体のような容積が比較的小さいもの、両端が開口した筒状のものであって、最終的に開口部が塞がれた状態で使用されるもの、例えば配管のような長尺なものなどが挙げられる。
・上記の断熱層とは、低温液体が所定の温度に保持可能な断熱能を有するものとし、気相の他、固相も含む。具体的には上記の断熱層は、大気圧未満、例えば、1kPa以下、更に100Pa以下、50Pa以下、10Pa以下の気相で構成される真空断熱層の他、固体断熱材で構成される固相断熱層を含む。真空断熱層と固相断熱層との双方を含んでいてもよい。真空断熱層では、真空度が高いほど(圧力が低いほど)、高い断熱能を有する。液体窒素のような低温液体に対する真空断熱層では、真空度が1×10
−3Pa以下、更に1×10
−4以下といった高真空が望まれる。
・上記の嵌合部は、嵌め合いによる機械的な結合が可能であり、少なくとも一部が面接触可能な部分を有する各種の形態、形状のものが利用できる。具体的な嵌合部は、雄ねじ及び雌ねじのような互いに機械的に噛み合う凹凸を備えるもの、マルチラムといった複数の弾性片の付勢力を利用して面接触状態を維持可能な部分を有するものなどが挙げられる。
・上記の面接触部は、表面張力を有する低温液体は通過できないが、気体であれば通過可能な程度の僅かな隙間が存在するような接触状態を維持するものとする。
【0018】
上記の液密構造では、嵌合部同士の一部が面接触してできる面接触部という機械的な結合によって、嵌合部における低温液体に接触する一端側から他端側への低温液体の流通を直接阻止する。そのため、上記の液密構造は、任意の設置形態に利用可能であり、汎用性が高い。具体的には、上記の液密構造は、低温液体の侵入方向が実質的に鉛直方向上向きになる形態、即ち、接続される二つの容器状部材の嵌合部が左右に並ぶように配置され、気化したガスよりも重い低温液体が下方に位置する縦置き形態は勿論、低温液体の侵入方向が水平方向になる形態、即ち上記嵌合部が上下に積層配置される横置き形態、低温液体の侵入方向が鉛直方向に交差する形態(以下、斜め置き形態と呼ぶことがある)、更には実質的に鉛直方向下向きになる形態、即ち、気化したガスよりも重い低温液体が上方に位置する形態(以下、逆さ置き形態と呼ぶことがある)などに適用できて、設置形態の自由度が高い。
【0019】
また、上記の液密構造は、超電導ケーブル同士を接続する中間接続部、超電導ケーブルと常電導ケーブルなどとの端末接続部(後述の導体引出構造を参照)、低温液体を輸送する各種の冷媒管の接続箇所、超電導ケーブルや上記冷媒管などに収納される各種のセンサに接続される計測線などを常温環境に引き出す引出箇所などに利用できる。代表的には、超電導ケーブルの中間接続部の設置形態は、ケーブルの軸方向が水平方向になる横置き形態、超電導ケーブルの端末接続部の設置形態は、ケーブルの軸方向が鉛直方向になる縦置き形態が採られる。上記の液密構造を利用することで、中間接続部及び端末接続部のいずれも、縦置き形態、横置き形態だけでなく、ケーブルの軸方向が鉛直方向に交差する斜め置き形態などの任意の設置形態に適用できる。
【0020】
更に、上記の液密構造は、接続される二つの容器状部材の一部を互いに嵌め合うといった平易な操作で接続可能な簡単な構成である。そのため、上記の液密構造は、施工性にも優れる。また、上記の液密構造は、後述のように低温液体が充填された状態で面接触部が形成されるように嵌合部を設計すればよい。即ち、上記の液密構造は、嵌合部に液密性能を持たせるものの、低温液体が気化したガスの通過を許容しており、嵌合部同士の間という非常に狭い隙間に気密性能を有する必要が無い。上記の液密構造は、気密性を問わないため、単純な形状でよい上に、上述の低温容器等を構築する容器状部材の大きさの調整などが実質的に不要、又は短時間で済み、寸法管理も容易である。
【0021】
その他、上記の液密構造は、部材の嵌め合いといった機械的な接続で構築されるため、接続強度に優れており、昇温時や冷却時に損傷し難い。そのため、上記の液密構造は、長期に亘り、液密状態を良好に維持できて、信頼性が高い。また、上記の液密構造は、気化したガスが後述するように嵌合部の他端側にできる僅かな隙間に存在し得るものの、このガスは低温液体よりも温度が高い。そのため、上記の気密構造は、低温液体がそのまま漏洩する場合に比較して、断熱性能の低下などを抑制し易いと考えられる。
【0022】
上記の液密構造における面接触を利用した液密のメカニズムを説明する。
液体領域に充填された低温液体によって両容器状部材の嵌合部は冷却されて熱収縮する。特に、嵌合部の一端側領域は、低温液体に接触する一方の容器状部材の一端を含む、即ち、低温液体に接触する部分を含むため、温度が相対的に低いといえる。嵌合部の他端側領域は、低温液体に接触せず、低温液体が気化する温度となるように配置される他方の容器状部材の他端を含む、即ち温度が相対的に高いといえる。この温度差によって、嵌合部の一端側領域は、低温液体に接触しない嵌合部の他端側に比較して、熱収縮量が相対的に多い。かつ、嵌合部の一端側領域は、互いに嵌め合った状態で熱収縮する。ここで、常温環境で互いに嵌め合った嵌合部同士の間には、嵌め合い操作のための裕度(遊び)などに基づく僅かな隙間が存在する。即ち、熱収縮前の嵌合部同士の間には僅かな隙間が存在する。この僅かな隙間は、嵌め合い状態で熱収縮することで低減されて、熱収縮量が多い嵌合部の一端側領域の少なくとも一部では、面接触した部分を形成できる。即ち、面接触部を自動的に形成できる。低温液体によって所定の温度に冷却されている間、嵌合部は熱収縮した状態が維持されるため、面接触部は、面接触状態を維持する。この面接触部が、嵌合部の周方向に連続して存在する他、嵌合部の周方向に不連続に存在する場合でも合計して嵌合部の1周分以上、嵌合部がねじなどで螺旋を描く場合には合計して1ピッチ以上存在すれば液密にできる。
【0023】
嵌合部の他端側領域は、上述のように相対的に高温であり、熱収縮量が相対的に少ない上に、低温液体が気化可能な程度の温度となるように設けられている。この結果、嵌合部において面接触部よりも他端側には、嵌合部同士の間に僅かな隙間が形成される。しかし、低温液体は表面張力などによって、この僅かな隙間に侵入できないため、液密を維持できる。一方、気化したガスは、この僅かな隙間に侵入して、嵌合部同士の間に存在し得る。液体領域を低温液体が加圧状態で流通される場合には、低温液体が気化してなるガスは流通圧力によって面接触部を経て嵌合部の他端側に排出され易い。上述のように気化したガスは、液体冷媒よりも温度が高いため、例えば嵌合部の外周に設けられる断熱層の断熱性能の低下を低減し易く、上記の液密構造では、この気化したガスの存在を許容する。
【0024】
上記の液密構造に備える嵌合部は、定性的には、低温液体で冷却されて熱収縮することで、嵌合部の一端側領域に面接触する部分を形成でき、かつ他端側領域では低温液体が気化する温度となる、ような形状や大きさなどを有するものとすればよい。
【0025】
(2) 上記の液密構造の一例として、上記二つの容器状部材に備える嵌合部の熱膨張係数が異なる形態が挙げられる。
【0026】
上記形態では、各容器状部材に備える嵌合部の熱収縮量を異ならせることができる。特に、一端が低温液体に接触する一方の容器状部材の嵌合部を熱膨張係数が相対的に大きい方とすると、熱収縮量を相対的により大きくし易く、二つの嵌合部の熱収縮量の差を大きくし易い。即ち、嵌合部の一端側領域において、一方の嵌合部が十分に熱収縮することで、他方の嵌合部との面接触部をより多く、かつより確実に形成し易く、液密性に優れる上に結合強度にも優れる。そのため、上記形態は、任意の設置形態により利用し易い。また、上記形態は、容器状部材に利用する構成材料の選択の自由度が高く、利用し易い。
【0027】
(3) 上記の液密構造の一例として、上述の嵌め合いはねじ結合によって行う形態が挙げられる。
【0028】
上記形態は、一方の容器状部材の嵌合部として雄ねじを設け、他方の容器状部材の嵌合部として雌ねじを設けた簡単な構成である上に、両嵌合部を螺合することで容器状部材同士を容易にかつ強固に接続できて、施工性に優れる。上記形態では、熱収縮前では、雄ねじ及び雌ねじの圧力側フランクが面接触し、遊び側フランクが非接触の状態であるものの、低温液体に冷却されて熱収縮した後では、遊び側フランクも面接触し得る。そのため、上記形態は、面接触部を容易にかつ確実に形成できて液密性に優れ、任意の設置形態に更に利用し易い。
【0029】
(4) 上記の液密構造の一例として、上記低温液体は、液体窒素、液体酸素、液体空気、液体ヘリウム、及び液化ガスから選択される1種であり、上記断熱層は、真空断熱層である形態が挙げられる。
【0030】
列挙した各種の低温液体は、代表的には真空断熱層を有する断熱管内を流通させたり、真空断熱層を有する断熱容器内に充填されたりして利用される。上記形態は、このような断熱管や断熱容器の接続箇所などに好適に利用できる。
【0031】
(5) 上記の液密構造の一例として、上記嵌合部同士の間に液状充填材を塗布してなる塗布層を備える形態が挙げられる。
【0032】
上記形態は、面接触部に加えて塗布層によっても、嵌合部同士の間の隙間を低減して、嵌合部の一端側から他端側への低温液体の侵入を阻止でき、液密性により優れる。そのため、上記形態は、任意の設置形態を更に利用し易い。液状充填材も、低温液体が気化してなる気体の通過を許容する。嵌合部同士の間に液状充填材が介在することで、嵌合部同士の間に低温液体と上記気体とが平衡可能な極細い隙間を自動的に形成できると考えられる。この極細い隙間で気液が平衡することでも、上記形態は、低温液体が常温側に漏出することを阻止できると期待される。また、塗布層を備えることで、嵌合部として、例えば、熱収縮前に嵌め合いがある程度緩いもの、より具体的にはねじ結合であれば噛み合いが浅いねじを有するものなどを利用でき、嵌合作業を容易に行えて、施工性を高められる。塗布層が無い場合に上述の嵌め合いが緩い嵌合部とすれば、熱収縮後、例えば遊び側フランクが非接触のままであり、面接触部を十分に形成できない恐れがある。しかし、遊び側フランク間に塗布層が介在することで、面接触部が不十分であっても塗布層によって液密性を補えて、良好な液密性を確保できる。更に、嵌め合いが緩くてもよいため、嵌合部に利用可能な形状や大きさなどの選択肢が多く、設計の自由度を高められる。例えば、公差が大きいものや、ねじの噛み合い長さが短いなどといった噛み合い領域が小さい嵌合部を利用した場合でも、高い液密性を維持できる。
【0033】
(6) 上記の液密構造の一例として、上記二つの容器状部材を構成する材料の熱膨張係数が異なり、上記二つの容器状部材のうち、熱膨張係数が小さい部材の上記他端に接続されて、熱収縮量の差による応力を緩和する応力緩和部を備える形態が挙げられる。
【0034】
上記形態は、上述の(2)の効果を奏することに加えて、熱膨張係数が相対的に小さい材料から構成される容器状部材に対して、熱膨張係数が相対的に大きい材料から構成される容器状部材との熱収縮量の差に基づいて付与される応力(張力など)を応力緩和部によって緩和できる。そのため、熱膨張係数が相対的に小さい容器状部材が、熱膨張係数が相対的に大きい容器状部材に引っ張られるなどして損傷し得ることを防止できる。
【0035】
(7) 本発明の一態様に係る超電導ケーブルの導体引出構造は、液体冷媒が充填される冷媒領域を形成するブッシング及び端末内管と、上記ブッシングの一端が上記液体冷媒に接触し、上記端末内管の他端が常温側に配置されるように上記ブッシングの外周面と上記端末内管の内周面とが互いに嵌め合わされる嵌合部と、上記冷媒領域の外周に形成される端末断熱層と、上記冷媒領域に挿通配置される超電導ケーブルの超電導導体部とを備える。
上記嵌合部は、上記嵌合部における液体冷媒側から常温側に上記液体冷媒が侵入することを阻止し、上記液体冷媒が気化したガスが上記嵌合部における液体冷媒側から常温側に向かって通過することを許容する面接触部を備える。
上記の常温側とは、超電導ケーブルから離れる側、即ち常温環境に近づく側とする。
上記超電導導体部とは、代表的には、フォーマの外周に超電導線材をスパイラル巻きして形成された少なくとも1層の線材層を備える超電導導体層が挙げられる。
【0036】
上記の超電導ケーブルの導体引出構造は、上記の液密構造を備えるといえる。即ち、上記の液密構造における低温液体を液体冷媒とし、液体領域を冷媒領域とし、一方の容器状部材をブッシングとし、他方の容器状部材を端末内管とし、嵌合部の一端側を嵌合部の液体冷媒側、嵌合部の他端側を嵌合部の常温側と読み替えるとよい。
【0037】
上記の超電導ケーブルの導体引出構造は、上記の液密構造と同様に、嵌合部に面接触部を備えることで、嵌合部における液体冷媒側から常温側への液体冷媒の流通を直接阻止でき、液密を確保できる。そのため、上記の超電導ケーブルの導体引出構造は、任意の設置形態、例えば上述した縦置き形態、横置き形態、斜め置き形態、逆さ置き形態などに利用可能である。上記の超電導ケーブルの導体引出構造は、簡単な構成で施工性に優れる上に、上述の特許文献1の端末構造では液密に保持できないために採用できない設置形態にも利用できる。更に、上記の超電導ケーブルの導体引出構造は、上記の液密構造と同様に、ブッシングと内管とを互いに嵌め合うといった平易な操作で接続可能な簡単な構成である、容易に構築できる、寸法調整や寸法管理も容易である、といった効果を奏する。
【0038】
[本発明の実施形態の詳細]
以下に図面を参照して、本発明の実施形態の具体例を説明する。図において同一符号は同一名称物を意味する。
【0039】
[実施形態1]
図1〜
図3を参照して、実施形態1の超電導ケーブルの導体引出構造1Aを説明する。導体引出構造1Aの構成要素において、超電導ケーブル100に近づく側をケーブル側と呼び、超電導ケーブル100から離れる側、即ち常温環境に近づく側を常温側と呼ぶ。
【0040】
・全体構成
この導体引出構造1Aは、超電導ケーブル100のケーブルコア110に備える超電導導体層112(
図3)と常温で利用される電力機器の導体とを、常電導材料から構成される引出用導体(図示せず)を介して電気的に接続する端末接続に利用される。上記電力機器は、代表的には、架空送電線などの常電導ケーブルなどの送電路を構築する機器が挙げられ、アルミニウムや銅などの常電導材料からなるブスバを介して、引出用導体に接続される。
【0041】
この導体引出構造1Aでは、超電導導体層112と引出用導体とを直接接続する。そこで、導体引出構造1Aは、超電導ケーブル100の超電導導体部の一部(ここではケーブルコア110に備える超電導導体層112の一部)と、超電導導体部の一部(コア110の一部)が挿通されるブッシング20と、液体冷媒13Aが充填されて、ブッシング20の内周空間と共に冷媒領域を形成する端末内管21Aと、ブッシング20におけるケーブル側の一端(
図1では右端)と端末内管21Aとを接続する接続箇所10Aと、冷媒領域の外周に形成される端末断熱層23Aとを備える。超電導導体部の一部(コア110の一部)は冷媒領域に挿通配置される。接続箇所10Aは、ブッシング20と端末内管21Aとが互いに嵌め合わされる嵌合部12b,12i(特に
図2)によって構成される。
【0042】
この導体引出構造1Aは、液体冷媒13Aが充填される冷媒領域を形成する二つの容器状部材としてブッシング20及び端末内管21Aを備え、一方の容器状部材であるブッシング20と、他方の容器状部材である端末内管21Aとで、以下の特定の面接触部を有する液密構造を構築する。特に、この導体引出構造1Aは、ブッシング20の一端が液体冷媒13Aに接触し、端末内管21Aの他端が常温側(
図1では左側)に配置されている点、嵌合部12b,12iを備える点、嵌合部12b,12i同士の間に特定の面接触部(後述するフランク20f,21f同士の接触箇所、
図2)を備える点をそれぞれ特徴の一つとする。面接触部は、嵌合部12b,12iにおける液体冷媒13A側から常温側に液体冷媒13Aが侵入することを阻止し、液体冷媒13Aが気化したガスが液体冷媒13A側から常温側に向かって通過することを許容する。
【0043】
以下、
図1,
図2を参照して、ブッシング20、端末内管21A、これらによる接続箇所10A及びその関連構成をまず説明し、次に
図3を参照して超電導ケーブル100を説明する。
【0044】
・超電導ケーブルの導体引出構造
導体引出構造1Aは、超電導ケーブル100の端部においてケーブル断熱管120(後述)の端部から露出されたケーブルコア110の端部の外周を覆うように設けられる冷媒層及び断熱層を構築する部材を備える。冷媒層の構成部材として、ブッシング20と端末内管21Aとを備える。断熱層(ここでは端末断熱層23A)を構成する部材として、端末内管21Aの外周に設けられる端末外管22Aと、ブッシング20に内蔵される内側真空容器26とを備える。その他、導体引出構造1Aは、ブッシング20の外周において常温側の領域を収納する碍管30を備える。
【0045】
・・冷媒層
・・・ブッシング
ブッシング20は、円筒状に形成された絶縁部材であり、ケーブルコア110と外部との間の電気的絶縁を行うと共に、電界緩和を行う。導体引出構造1Aに備えるブッシング20の一部、具体的にはケーブル側の端部及びその近傍の領域は、液体冷媒13Aに接触する。そのため、ブッシング20の構成材料は、冷媒温度でも問題なく使用可能な絶縁材料が好ましい。上記構成材料は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの各種の樹脂が挙げられる。特に、上記構成材料は、エポキシ樹脂などの樹脂成分とガラス繊維などの強化成分とを含む繊維強化プラスチック(FRP)などとすると、強度にも優れる。
【0046】
ブッシング20のうち、少なくとも嵌合部12bの構成材料は、熱膨張係数がある程度大きいものであると、液体冷媒13Aによって冷却されたときの熱収縮量が大きくなり、後述するように接続箇所10Aにおける端末内管21Aとの面接触を良好に行えて好ましい。このような構成材料として、上述のFRP、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0047】
ブッシング20における常温側の領域は、常温側に向かって先細りした形状である。この傾斜部分がストレスコーンとして機能する。ブッシング20中に金属箔(図示せず)を同心状に多層に設けることで、電界を調整できる。
【0048】
ブッシング20のケーブル側の領域において、その内周面は周縁から常温側に向かって、その内径が小さくなるように傾斜している。ここで、ケーブル断熱管120から露出されたケーブルコア110における断熱管120の近傍に、ストレスコーン部分を有する補強絶縁層(図示せず)を設けることができる。この補強絶縁層の常温側のストレスコーン部分を取り囲むように上述のブッシング20内の傾斜面を配置すると、ブッシング20と補強絶縁層との双方によって、電界を良好に緩和できる。
【0049】
ブッシング20のケーブル側の領域において、その外周面にねじが形成されており、凹凸形状になっている(
図2)。ブッシング20に備えるねじ、例えば雄ねじは、端末内管21Aに備えるねじ(後述)に機械的に噛み合う嵌合部12bを構成する。嵌合部12b,12iの機能などの詳細は、接続箇所10Aの項で説明する。
図1,
図2では、ブッシング20自体にねじが直接形成されている例、即ち嵌合部12bを含めた全体が一様な構成材料で形成されており、一様な熱膨張係数を有する例を示す。その他、ねじを有する部材を別途形成して、接着剤で固定したり、ブッシング20の成形時にブッシング20の樹脂成分によって一体化してブッシング20に固定したりすることができる。この場合、嵌合部12b(ねじ部材)と、ブッシング20の本体との構成材料を異ならせることで、両者の熱膨張係数を異ならせることができる。
【0050】
その他、ブッシング20はその外周に、碍管30に固定される固定部200を備える。固定部200は、ブッシング20の長手方向の中央部分であって、ストレスコーン部分ではない領域に上述の樹脂成分によって接合されている。固定部200は、筒状部と、筒状部の周縁からブッシング20の直径方向外方に延びるフランジ部とを備える。ボルト202によって、このフランジ部を碍管30の端面板35に締結することで、ブッシング20を碍管30に固定できる。固定部200の構成材料は、ステンレス鋼などの金属などが挙げられる。
【0051】
・・・端末内管
端末内管21Aは、ブッシング20におけるケーブル側の領域(一端側領域)を覆うように外挿される。この端末内管21Aは、ブッシング20の一端に連続するようにその一端がケーブル側に配置されて液体冷媒13Aに接触し、冷媒領域の一部を形成し、その他端が常温側に配置されて液体冷媒13Aに接触しない。このような端末内管21Aの構成材料には、液体窒素などの冷媒温度で利用可能な耐性を有し、薄くても強度に優れるステンレス鋼などの鉄合金、鉄、銅合金、アルミニウム合金などの金属が好ましい。
【0052】
端末内管21Aのうち、すくなくとも嵌合部12iの構成材料は、ブッシング20の嵌合部12bの構成材料に対して熱膨張係数の差が大きなもの、詳しくはブッシング20の嵌合部12bの構成材料に比較して、熱膨張係数がより小さいものが好ましい。液体冷媒13Aによって冷却されたときに、ブッシング20の嵌合部12bの熱収縮量が相対的に大きくなり、後述するように接続箇所10Aにおける端末内管21Aとの面接触を良好に行えるからである。このような構成材料として、上述のステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金などが挙げられる。
【0053】
端末内管21Aは、その内周面の一部、具体的には両端部を除く中間位置(軸方向の中央位置でなくてもよい)にねじが形成されており、凹凸形状である。端末内管21Aに備えるねじ、例えば雌ねじは、ブッシング20に備えるねじ(雄ねじ)に機械的に噛み合う嵌合部12iを構成する。この例では、ねじを有する部材を別途形成して、端末内管21に溶接などによって一体化している。独立したねじ部材を用いることで、端末内管21Aの管材自体が薄板(例えば、1mm以下)から構成されている場合であっても、端末内管21Aは、十分な噛み合いが可能な山高さを有するねじを確実に備えられる。ねじ部材は、端末内管21Aの管材の構成材料と同種の材料であると、溶接性などの接合性に優れる上に、上記管材の熱膨張係数と等しい熱膨張係数を有するため、上記管材と一体となって熱収縮し易い。一方、ねじ部材は独立した部材であるため、上記管材と異種の材料とすることができる。この場合、所望の熱膨張係数を有する材料を利用可能であり、ブッシング20の嵌合部12b(ねじ)により適した熱収縮量を有するねじ部材にできる場合がある。
【0054】
端末内管21Aの管材は、コルゲート管などを利用できるが、フラット管とすると、1.ねじ部材を配置し易い上に安定して固定できる、2.締結作業を行い易い、3.ブッシング20における端末内管21で覆われる箇所の外周形状をフラット管の内周形状に対応した平滑な面で構成される単純形状にできる、などの効果を奏する。
【0055】
・・・接続箇所
・・・・嵌合部
ブッシング20におけるケーブル側の領域を覆うように端末内管21Aが配置され、ブッシング20の外周面と端末内管21Aの内周面とが互いに嵌め合される。詳しくはブッシング20の嵌合部12b(ここではねじ)と、端末内管21Aの嵌合部12i(ここではねじ)とが互いに機械的に噛み合って、ブッシング20と端末内管21Aとが接続されて、接続箇所10Aを構成する。嵌め合された嵌合部12b,12iの一端がケーブル側に配置されて液体冷媒13Aに接触し、他端が常温側に配置されて液体冷媒13Aに接触しないように、嵌合部12b,12iが設けられている。特に、嵌合部12b,12iにおけるブッシング20の軸方向に沿った長さ(以下、軸方向長さと呼ぶことがある)が、嵌合部12b,12iにおけるケーブル側の一端が液体冷媒13Aの温度となり、常温側の他端が液体冷媒13Aが気化する温度となるように調整されている。即ち、嵌め合された嵌合部12b,12iは、冷媒領域に液体冷媒13Aが充填されると、ケーブル側の一端から常温側の他端に向かって上述の特定の温度勾配を有するように上記の軸方向長さが調整されている。
【0056】
かつ、嵌め合された嵌合部12b,12iは、液体冷媒13Aによって冷却されて熱収縮した状態では、嵌合部12b,12i同士が面接触して形成される以下の面接触部を有する。この面接触部は、冷媒領域から嵌合部12b,12i同士の間に形成される介在空間を経て常温側に向かう液体冷媒13Aの侵入を阻止し、かつ液体冷媒13Aが気化したガス(例えば窒素ガス)の常温側への通過を許容する。ねじ結合を行う嵌合部12b,12iでは、例えば、ねじの山の頂と谷底とが近接する部分などに、液体冷媒13Aでは表面張力などによって侵入できないが、気化したガスは侵入してガスが溜まり得るような僅かな隙間が存在し得る。嵌合部12b,12iの面接触部は、このような僅かな隙間の存在を許容する。この面接触部は、ケーブル側に形成される液体冷媒13Aからなる液相と、常温側に形成される上記気化したガスからなる気相とを区画する区画部として存在して、液密を維持するといえる。
【0057】
この例では、面接触部は、
図2に示すようにブッシング20の嵌合部12bをつくるねじのフランク20fと、端末内管21Aの嵌合部12iをつくるねじのフランク21fとによって構成される。ここで、常温環境で嵌合部12b,12iをねじ結合した状態では、圧力側フランク同士が面接触するものの、遊び側フランク間には隙間が存在する。この隙間、即ち嵌合部12b,12i同士の間の介在空間は、ケーブル側から常温側に向かって螺旋状に連続している。即ち、連通している。この状態では、介在空間を利用して、ケーブル側から常温側に液体が流通し得る。
【0058】
嵌合部12b,12iが嵌め合った状態で液体冷媒13Aによって冷却されて熱収縮すると、嵌合部12b,12iのフランク20f,21fは、圧力側フランク同士に加えて、遊び側であったフランク同士も面接触する。特に、嵌合部12b,12iのケーブル側の一端は、液体冷媒13Aに直接接触して冷却されるため、常温側の他端に比較して熱収縮量が大きくなり易い。この結果、嵌合部12b,12iにおけるケーブル側の領域(一端側領域)には、一つのねじ山における圧力側及び遊び側の双方のフランクが面接触する部分が、嵌合部12b,12iの周方向に少なくとも1周分の長さ存在することで、ケーブル側から常温側への液体の流通を阻止できる。即ち、液密にできる。嵌合部12b,12iは、このように液体冷媒13Aによる冷却に起因する熱収縮を利用して形成される面接触部によって、ケーブル側から常温側への液体冷媒13Aの流通を阻止する。なお、
図1,
図2、後述する
図4(拡大図を除く)では説明の便宜上、嵌合部12b,12i(121,12r)のねじのフランク20f,21f(21fl,21fr)が全て面接触した状態を示す。
【0059】
特に、この例のブッシング20の構成材料はFRPであり、端末内管21Aの構成材料は、ねじ部材を含めて、ステンレス鋼である。即ち、両者の構成材料の熱膨張係数が異なっている。液体冷媒13Aを液体窒素とするとき、液体窒素によるFRP製のブッシング20の熱収縮量は約0.6%以上0.8%以下程度、ステンレス鋼製の端末内管21Aの熱収縮量は約0.3%程度である。このように熱収縮量の差が大きいことで、ブッシング20のねじのフランク20fと、端末内管21Aのねじのフランク21fについて、圧力側及び遊び側の双方のフランクがより確実に面接触して、面接触部を良好に形成できる。
【0060】
嵌合部12b,12iは、その軸方向長さが長いほど、噛み合い箇所が長くなり、強固な固定ができる上に、面接触部の長さ(この例ではねじの螺旋に沿った長さ)を長くし易く、液密性を高められる。但し、長過ぎると、接続箇所10Aの長大化、ひいては導体引出構造1Aの長大化を招く。上述の液体冷媒13Aの流通を阻止可能な面接触部を形成できるように、嵌合部12b,12iの軸方向長さを選択するとよい。
【0061】
この例では、液体冷媒13Aの温度、ブッシング20及び端末内管21Aの熱膨張係数や、体積又は熱容量などを考慮して、上述の液体冷媒13Aの流通が阻止可能な面接触部を形成できるように、ねじの仕様(ねじ山の高さ、角度、ピッチ、ねじ結合の領域Sの軸方向長さ、など)を選択するとよい。上記熱膨張係数や熱容量などによっては、例えば、ねじ山数が10山以下のねじ、更に5山以下のねじ、更には1山のねじなどとすることができると考えられる。ねじ結合の領域Sの軸方向長さは、例えば、ブッシング20の長さの1/4以下程度、更に1/5以下程度、1/8以下程度、1/10以下程度が挙げられる。例えば、ブッシング20の長さが400mm以上500mm以下程度であれば、ねじ結合の領域Sの軸方向長さは50mm以上100mm以下程度、更に30mm以上80mm以下程度が挙げられる。
【0062】
・・・・嵌合部からのガスの封止構造
上述のように嵌合部12b,12i同士の間の介在空間には、液体冷媒13Aが気化したガスが存在し得る。嵌合部12b,12iに介在する上記ガスは、このままでは、嵌合部12b,12iの他端から常温側に放出される。液体冷媒13Aが加圧状態で流通されている場合には、この加圧によって、ガスも常温側に押し出され易いと考えられる。そこで、導体引出構造1Aには、嵌合部12b,12iの常温側の端部から排出されるガスを封止する封止構造を備えることが好ましい。
【0063】
上記封止構造は、例えば、ブッシング20と端末内管21Aの常温側の他端との間を封止する封止部(図示せず)を設けることが挙げられる。この場合、ブッシング20の外周面と、端末内管21Aの内周面における嵌合部12iから常温側の他端と、封止部とで囲まれる環状の空間をガスの貯留空間として利用できる。封止部は、金属シール材などの適宜なものが利用できる。
【0064】
嵌合部12b,12iの端部を直接封止するのではなく、別途、ガスの貯留空間を備える封止構造とすることができる。この例では、端末内管21Aの常温側の他端に筒状の応力緩和部25を接続し、その端部を封止して、嵌合部12b,12i同士の間の介在空間から応力緩和部25に連通するガスの貯留空間としている。このようなガスの貯留空間を、嵌合部12b,12iの端部に接続して設けることで、気密のための機構を容易に形成できる。嵌合部12b,12iから離れることで、空間的な制約や形状の制約などの条件が緩くなるからである。
【0065】
詳しくは応力緩和部25は、ブッシング20の熱膨張係数と端末内管21Aの熱膨張係数との差に起因する熱収縮時の応力が、熱膨張係数が小さい端末内管21Aに付与されて生じ得る不具合、例えば、ブッシング20に設けたねじのせん断破壊などを抑制するために、上記応力を緩和する部材である。この例の応力緩和部25は、伸縮可能なベローズ管としている。この例では、端末内管21Aと端末外管22Aとについて、常温側の他端を管状の封止栓214によって封止しており、この封止栓214の端面にベローズ管の一方の開口縁を接続し、他方の開口縁に環状の封止部14Aを接続している。封止栓214及び封止部14Aを備えることで、上記気化したガスが、両管21A,22A間に設けられるケーブル側断熱層212などに漏洩することを防止できる。封止部14Aは、ボルト204によって端面板35に固定しており、応力緩和部25のみが良好に伸縮できる。
【0066】
・・断熱層
この例のブッシング20は、その内側において上述のケーブル側の傾斜面で囲まれる領域を液体冷媒13Aとの接触領域とし、それ以外の領域に有底筒状の内側真空容器26を備える。内側真空容器26内に内側断熱層262を備える。内側真空容器26の内周にはケーブルコア110が挿通配置されると共に、コア110(特に超電導導体層112)を冷却する液体冷媒13Aが充填されて冷媒流路に利用される。内側真空容器26の外周面にブッシング20が設けられて、内側真空容器26はブッシング20に一体化されている。内側真空容器26の常温側の端部は、コア110の端部や超電導導体層112が接続される引出用導体などを収納する終端真空容器(図示せず)に接続される。ブッシング20の内側に内側断熱層262を設けることに代えて、ブッシング20の外周に真空断熱容器及び真空断熱層を設けることができる。
【0067】
内側真空容器26は、その主体をコルゲート管などとすることができるが、
図1,
図2に示すように主としてフラット管によって形成されると、以下の効果を奏する。
1.内側真空容器26を内蔵するブッシング20の外径を小さくし易く、小型化に寄与できる。
2.液体冷媒13Aの流通抵抗が小さい。
3.ケーブルコア110を挿入し易く施工性に優れる。
4.ブッシング20を形成し易い。
内側真空容器26は液体冷媒13Aに接触することから、その構成材料には、端末内管21Aと同様な材料を利用できる。
【0068】
この例では、端末内管21Aと、その外周を覆うように配置される端末外管22Aと、両管21A,22Aの常温側の端部を封止する封止栓214と、ケーブル側の端部に配置されるフランジ栓216とで囲まれる空間内をケーブル側断熱層212とする。フランジ栓216は、その一端面を両管21A,22Aのケーブル側の端部の封止面とし、他端面をケーブル断熱管120との接続面とする。この例では、ブッシング20において上述のケーブル側の傾斜面を有する領域の外周を覆うように両管21A,22Aが設けられている。また、この例では、内側断熱層262のケーブル側の端部とケーブル側断熱層212の常温側の端部とが重複するように、内側真空容器26及び両管21A,22Aが設けられている。端末外管22Aは、例えば、ステンレス鋼のフラット管などが利用できる。端末外管22Aはねじ部材などの嵌合部を設けないことから、コルゲート管などとしてもよい。
【0069】
この例の端末断熱層23Aは、内側断熱層262の一部とケーブル側断熱層212の一部とをブッシング20の軸方向に重複して備えることで、冷媒領域の断熱を良好に行える。更に、端末断熱層23Aは、二点鎖線で示すように応力緩和部25の外周を覆う中間真空容器250を別途設けて、中間真空容器250内に真空断熱層(中間断熱層252)を備える形態とすることができる。この場合、断熱性を更に高められる。
【0070】
端末内管21Aと端末外管22Aとの間、内側真空容器26内、中間真空容器250内には、スーパーインシュレーション(商品名)などの断熱材(図示せず)を備えることができる。この場合、より高い断熱性を有する。
【0071】
・・碍管
碍管30は、ブッシング20の常温側領域を収納して、ブッシング20内に挿通配置されるケーブルコア110の超電導導体層112と外部との電気的絶縁に利用される。碍管30は、例えば、碍子を有する筒状の本体部と、本体部の一端部に設けられて、ブッシング20の固定部200が取り付けられる環状の端面板35と、本体部の他端部に設けられて、ケーブルコア110が挿通される環状の端面板(図示せず)とを備える。碍管30の内部空間には、絶縁油やSF
6などの絶縁流体(図示せず)が充填される。碍管30の基本的構成は、公知の構成を利用できる。
【0072】
・・超電導ケーブル
超電導ケーブル100は、超電導導体部と、超電導導体部を収納するケーブル断熱管120とを備える。この例に示す超電導導体部は、ケーブルコア110に備える超電導導体層112である。コア110は、中心から順にフォーマ111、超電導導体層112、電気絶縁層113、遮蔽層114、保護層115を同軸状に備える。このケーブル100は、1本のコア110が一つの断熱管120に収納された単心ケーブルであると共に、超電導導体層112と共に電気絶縁層113が断熱管120に収納されて、双方が液体冷媒13Aによって冷却される低温絶縁型のケーブルである。例えば、このような単心ケーブルを3本布設して、各ケーブルを各相の送電に利用する三相交流送電路や、このような単心ケーブルを2本布設して、一方のケーブルを往路、他方のケーブルを復路に利用する直流送電路などを構築することができる。
【0073】
・・・ケーブルコア
・・・・フォーマ
フォーマ111は、超電導導体層112を支持する機能を有する。
図3では、中空体のフォーマ111を例示する。フォーマ111内は、液体冷媒130の流路(例えば復路)に利用する。フォーマ111の構成材料は、液体窒素などの冷媒温度で利用可能であり、薄くても強度に優れるステンレス鋼、その他、銅やその合金、アルミニウムやその合金といった常電導材料などの金属が挙げられる。中空体は、コルゲート管やベローズ管とすると、可撓性に優れる。その他、フォーマ111は、中実体とすることができる。中実体は、複数の素線(銅線や、銅線の外周にエナメルなどの絶縁被覆を有する被覆銅線など)を撚り合わせた撚り線などが挙げられる。
【0074】
フォーマ111と超電導導体層112との間に、超電導導体層112の機械的保護などを目的とした介在層(図示せず)を設けることができる。介在層は、ステンレス鋼などの金属からなる金属テープや、クラフト紙などの絶縁材からなる絶縁テープなどの巻回層が挙げられる。
【0075】
・・・・超電導導体層
超電導導体層112は、フォーマ111又は介在層の外周に、複数の超電導線材をスパイラル巻きすることで形成される。超電導線材には、例えばBi系銀シース線材やRE123系薄膜線材などのテープ状線材が利用できる。この場合、液体冷媒13Aには、液体窒素や液体ヘリウムが好適に利用できる。線材の数や線材層の数は、所望の電力量を有するように適宜選択するとよい。線材層間には、絶縁紙などを巻回した層間絶縁層(図示せず)を設けることができる。
【0076】
・・・・電気絶縁層
電気絶縁層113は、超電導導体層112とその外部との電気的絶縁を確保する。電気絶縁層113は、絶縁材からなるテープを超電導導体層112の外周にスパイラル巻きすることで形成されている。絶縁材には、例えば、クラフト紙やPPLP(登録商標;Polypropylene Laminated Paper)といった半合成紙などの絶縁紙が挙げられる。
【0077】
・・・・遮蔽層
遮蔽層114は、超電導導体層112の外周(この例では電気絶縁層113の直上)に設けられて、接地されて、超電導導体層112に起因する外部への電界を遮蔽する。遮蔽層114は、銅テープといった常電導材料からなるテープや線材などを巻回することで形成される。
【0078】
・・・・保護層
保護層115は、ケーブルコア110の最外周に配置され、その内側に配置された部材(特に超電導導体層112)の機械的保護、遮蔽層114とケーブル断熱管120との間の電気的絶縁の確保を目的として設けられる。保護層115は、上述の絶縁紙を遮蔽層114の外周にスパイラル巻きすることで形成される。
【0079】
その他、ケーブルコア110は、電気絶縁層113の外周に外側超電導層(図示せず)や、常電導材料からなる磁気遮蔽層を備えることができる。外側超電導層は、上述の超電導線材をスパイラル巻きして形成される。外側超電導層は、例えば、交流送電用途では磁気遮蔽層に利用でき、直流送電用途では、モノポール送電の場合、超電導導体層112を往路導体としたときに帰路導体に利用でき、バイポール送電の場合、超電導導体層112とは逆極性の電流を流す導体に利用できる。
【0080】
・・・ケーブル断熱管
ケーブル断熱管120は、内管121と外管122とを有する二重構造管であり、内管121と外管122との間の空間が真空引きされ、この空間に真空断熱層が形成された真空断熱管である。内管121の内部空間は、ケーブルコア110の収納空間であると共に、超電導導体層112の超電導状態を維持するための液体冷媒13Aが流通される流路(この例では往路)に利用される。内管121及び外管122は、コルゲート管やベローズ管とすると可撓性に優れ、フラット管とすると表面積が小さく、断熱性に優れ、液体冷媒13Aの圧力損失を小さくできる。内管121及び外管122の構成材料は、フォーマの項で述べたようにステンレス鋼などの金属が挙げられる。この例に示す断熱管120は、内管121と外管122との間に上述の断熱材(図示せず)を備えており、より高い断熱性を有する。
【0081】
ケーブル断熱管120の外管122の外側には、ビニルやポリエチレンなどの防食材から構成される防食層124を備える。
【0082】
・超電導ケーブルの導体引出構造の製造方法
実施形態1の超電導ケーブルの導体引出構造1Aは、例えば、以下の工程を備える製造方法によって構築できる。以下、各工程の概略を説明する。
【0083】
・・準備工程
超電導ケーブル100は、その端部においてケーブル断熱管120から所定の長さのケーブルコア110を出して段剥ぎなどして、フォーマ111、超電導導体層112、電気絶縁層113などを順に露出して、引出用導体を接続できるようにする。
【0084】
嵌合部12b及び内側真空容器26を備えるブッシング20、嵌合部12iを備える端末内管21Aを作製し、ブッシング20のケーブル側の端部の外周に端末内管21Aを配置して、嵌合部12b,12iを互いに嵌め合わせる。この例では、ブッシング20の嵌合部12bに端末内管21Aの嵌合部12iをねじ込み、ねじ結合する。なお、この例では、端末内管21Aの外挿前に、ブッシング20の外周に環状の端面板35、封止部14A、応力緩和部25、封止栓214を順に挿通配置させておく。
【0085】
内側真空容器26の形成や、嵌合部12iの形成(端末内管21Aの外周面における所定の位置にねじ部材を固定する)、嵌合部12b,12iの嵌合は、工場などで行うと、施工現場での作業を軽減できるが、施工現場で行うこともできる。
【0086】
・・ブッシング及び端末内管の配置工程
ケーブルコア110を覆うように、ねじ結合されたブッシング20及び端末内管21Aを外挿した後、端末内管21Aの外周に端末外管22Aを配置して、封止部14A,フランジ栓216などを溶接することで両管21A,22Aを固定する。更に、フランジ栓216を介して両管21A,22Aと、ケーブル断熱管120とを接続し、端面板35に、ボルト202,204によってブッシング20及び封止部14Aを固定する。
【0087】
・・碍管の配置工程
ブッシング20の常温側領域を覆うように、ケーブルコア110の先端が常温側の端面板から突出するように碍管30を設ける。この例では、本体部及び常温側の端面板を配置して、本体部、常温側の端面板、端面板35をそれぞれ接続する。碍管30内への絶縁流体の導入は適宜な時期に行える。
【0088】
・・コアと引出用導体との接続工程
ケーブルコア110の超電導導体層112と引出用導体とを電気的に接続する。
【0089】
・・終端真空容器の配置工程
上述の超電導導体層112と引出用導体との接続箇所を含み、引出用導体を覆うように終端真空容器を設ける。終端真空容器の一端部は、碍管30から突出するブッシング20に内蔵する内側真空容器26に接続する。
【0090】
・・真空引き工程
端末内管21Aと端末外管22Aとの間、内側真空容器26、終端真空容器、適宜中間真空容器250内を真空引きして、ケーブル側断熱層212、内側断熱層262などの真空断熱層を形成する。上述の容器を形成するごとに真空引きを行ってもよいが、まとめて行うことで真空装置の用意などが一度でよく、施工性に優れる。ケーブル断熱管120は、予め工場などで真空引きを行える。
【0091】
・・冷媒充填工程
以上の工程を終えたら、液体冷媒13Aを導入して、嵌合部12b,12iのケーブル側の一端を液体冷媒13Aに接触させて冷却し、熱収縮させることで面接触部を形成する。この液体冷媒13Aの充填によって、超電導導体層112を超電導状態に維持できて、超電導ケーブル100は、常温側の電力機器との間で電力の授受を行える。
【0092】
・効果
実施形態1の超電導ケーブルの導体引出構造1Aは、嵌合部12b,12iが面接触部を備え、この面接触部によって、嵌合部12b,12iにおけるケーブル側(液体冷媒13Aに接触する一端側)から常温側への液体冷媒13Aの流通を直接阻止できる。そのため、導体引出構造1Aは、任意の設置形態に利用可能である。具体的には、導体引出構造1Aは、ケーブルコア110の軸方向やブッシング20の軸方向が鉛直方向となり、碍管30が上方に配置される縦置き形態は勿論、
図1に示すように、ブッシング20の軸方向などが水平方向となる横置き形態、ブッシング20の軸方向などが鉛直方向に交差する斜め置き形態、更には、ブッシング20の軸方向などが鉛直方向となり、碍管30が下方に配置される逆さ置き形態などに利用できる。
【0093】
特にこの例の導体引出構造1Aは、嵌合部12bを含むブッシング20の構成材料の熱膨張係数と嵌合部12iを含む端末内管21Aの構成材料の熱膨張係数とが異なっており、液体冷媒13Aで冷却したとき、両者間に熱収縮量の差が生じる。導体引出構造1Aは、この熱収縮量の差を利用して、面接触部をより確実に、かつ十分に形成できる。更に、この例の導体引出構造1Aは、嵌合部12b,12iがねじ結合することからも、面接触部をより確実に、かつ十分に形成できる。これらの点から、導体引出構造1Aは、液密を良好に維持できる。更に、導体引出構造1Aでは、液体冷媒13A及び液体冷媒13Aが気化したガスのいずれもがブッシング20の固定部200(フランジ部)に直接接触しない構成としている。そのため、導体引出構造1Aは、ブッシング20の固定部200に液体冷媒13Aなどが直接接触する構成に比較して、気密信頼性を高められると期待される。
【0094】
また、導体引出構造1Aは、接続されるブッシング20と端末内管21Aとを互いに嵌め合うといった平易な操作で接続可能な簡単な構成であり、施工性にも優れる。更に、導体引出構造1Aは、上述のように簡単な構成であるため、特許文献1の端末構造のように細い隙間を高精度に形成するための部材の調整作業や寸法管理の負担を軽減でき、この点から利用し易いといえる。
【0095】
特にこの例の導体引出構造1Aは、嵌合部12b,12iがねじ結合することからも、簡単な構成であり、かつねじ込むという平易な操作によってブッシング20と端末内管21Aとを接続できて、施工性により優れる。更に、ねじ結合であることから、引出構造1Aは、強固な接続を実現できる。
【0096】
その他、この例の導体引出構造1Aは、ブッシング20及び端末内管21Aについて、構成材料の熱膨張係数が異なるものの、熱膨張係数が相対的に小さい端末内管21Aに応力緩和部25が接続されていることで、ブッシング20との熱収縮量の差に基づいて端末内管21Aに付与され得る応力を緩和できる。そのため、この応力に基づく端末内管21Aの損傷などを抑制できる。
【0097】
[実施形態2]
図4を参照して、実施形態2の液密構造1Bを説明する。
図4は、二重断熱管の部分縦断面図であって、一点鎖線で示す中心線を中心として、上半分のみを示す。
【0098】
・全体構成
実施形態1では、超電導ケーブルの導体引出構造1Aとして、ブッシング20と端末内管21Aとの接続箇所10Aを備える形態を説明した。また、嵌合部12bを備えるブッシング20と、嵌合部12iを備える端末内管21Aとが、熱膨張係数が異なる異種の材料で構成された液密構造を備える形態を説明した。実施形態2の液密構造1Bは、接続される二つの容器状部材を接続内管21Bl,21Brとし、両管21Bl,21Brが接続箇所10Bを介して接続された配管に備えられる点、接続箇所10B(嵌合部12l、12r)を含めた接続内管21Bl,21Brが同種の材料で構成されている点が、実施形態1との主な相違点である。
【0099】
接続内管21Bl,21Brは、二重構造の断熱管の内管を構成する。この断熱管は、接続箇所10Bを介して接続されて、これらの内周空間を常温未満の低温液体13Bが充填される液体領域を形成する二つの接続内管21Bl,21Brと、接続された両管21Bl,21Brの外周を覆うように設けられる外管22Bと、両管21Bl,21Brと外管22Bとの間に形成される断熱層23Bとを備える。この断熱管は、接続内管21Bl,21Br同士が互いに嵌め合される嵌合部12l,12rを備えており、この嵌合部12l,12rが特定の面接触部を有する点を特徴の一つとする。以下、この特徴点及び上述の相違点を詳細に説明し、実施形態1と同様の構成及び効果については詳細な説明を省略する。
【0100】
・低温液体
断熱管(液体領域)に充填される常温未満の低温液体13Bは、例えば、液体窒素(77K程度)、液体酸素(90K程度)、液体空気(83K程度)、液体ヘリウム(4K程度)、及び液化ガスから選択される1種とすることができる。液化ガスは、例えば、液化天然ガス(113K程度)が挙げられる。この項における括弧内の温度は、1気圧下での代表的な沸点である。
【0101】
・接続内管
接続内管21Bl,21Brのうち、一方の接続内管21Blの一端側領域を他方の接続内管21Brの他端側領域で覆うように接続内管21Brが外挿される。従って、一方の接続内管21Blは、代表的には、その全長に亘って低温液体13Bに接触して低温液体の温度に冷却される。低温液体13Bの種類(温度)によっては、特に上述の沸点が非常に低い液体の場合には、後述するように接続内管21Blにおける嵌合部12lが設けられる領域及びその近傍に筒状の熱絶縁部145を備えることができる。他方の接続内管21Brは、その一方の接続内管21Blとの接続領域から一端に亘って低温液体13Bに接触して低温液体13Bの温度に冷却され、上記接続領域から他端に亘って、低温液体13Bに接触しないように設けられている。このような接続内管21Br,21Blの構成材料は、接触する低温液体13Bに応じた耐性を備えるものが利用できる。この例では、両管21Bl,21Brの構成材料を同種としている。低温液体13Bが、上述の沸点が非常に低い液体の場合には、上記構成材料には、実施形態1の端末内管21Aと同様にステンレス鋼などの金属が好適に利用できる。この例のように両管21Bl,21Brが同種の材料で構成される場合には、両管21Bl,21Brの熱膨張係数も同一であり、実施形態1で説明した応力緩和部25を設けなくてよい(省略できる)。熱絶縁部145の構成材料は、例えば、ブッシング20の構成材料で説明したような樹脂などの固体絶縁材などが挙げられる。
【0102】
一方の接続内管21Blの外周面の一端側領域、即ち他方の接続内管21Brとの接続領域と、他方の接続内管21Brの内周面の一部(ここでは他端側領域)、即ち一方の接続内管21Blとの接続領域とにそれぞれ、ねじが形成されている。そのため、両管21Bl,21Brの接続領域はいずれも凹凸形状である。一方の接続内管21Blに備えるねじを例えば雄ねじとし、他方の接続内管21Brに備えるねじを例えば雌ねじとする。これら雄ねじ・雌ねじはそれぞれ、機械的に噛み合う嵌合部12l,12rを構成する。この例では、実施形態1と同様に独立したねじ部材を用いて、管材本体に溶接などによって一体化している。ねじ部材の構成材料は、両管21Bl,21Brの構成材料と同種の材料としている。
【0103】
接続内管21Bl,21Brの管材は、コルゲート管やベローズ管などの可撓性に優れるものとすると、曲げ易く、熱収縮の吸収などもできる。この場合、嵌合部12l,12r及びその近傍をフラット管とすると、1.ねじ部材を配置し易い上に安定して固定できる、2.締結作業を行い易い、などの効果を奏する。
図4に示すように接続内管21Bl,21Brの管材をフラット管とすれば、上述のようにねじ部材の固定や締結作業などを容易に行える。この場合、適宜な位置にベローズ管などを接続すると、上述の曲げや熱収縮の吸収などが行える。
【0104】
・接続箇所
・・嵌合部
一方の接続内管21Blの嵌合部12lと他方の接続内管21Brの嵌合部12rとが互いに嵌め合されて、この例では機械的に噛み合って、両管21Bl,21Brが接続され、接続箇所10Bを構成する。嵌合部12l,12rは、実施形態1と同様に、嵌め合された嵌合部12l,12rの一端(
図4では右端)が
低温液体13
Bに接触し、他端(同左端)が
、低温液体13
Bが気化する温度となるように調整されている。即ち、嵌め合された嵌合部12l,12rは、両管21Bl,21Brの内周空間である液体領域に低温液体13Bが充填されると、一端から他端に向かって上述の特定の温度勾配を有するように上記の軸方向長さが調整されている。この例では、嵌合部12l,12rの他端の温度が相対的に高くなるように、嵌合部12l,12rの他端側に、熱絶縁部145と、低温液体13Bが気化したガスを封止する封止部14Bとを設けている。封止部14Bの詳細は後述する。ねじの仕様(ねじ山の高さ、角度、ピッチ、ねじ結合の領域Sの軸方向長さ、など)の詳細は実施形態1を参照するとよい。
【0105】
かつ、嵌め合された嵌合部12l,12rは、実施形態1と同様に、低温
液体13Bによって冷却されて熱収縮した状態では、嵌合部12l,12r同士が面接触して形成される以下の面接触部を有する。この面接触部は、嵌合部12l,12rの一端側から、嵌合部12l,12r同士の間に形成される介在空間を経て、他端側に向かって低温
液体13Bが侵入することを阻止する。かつ、この面接触部は、低温
液体13Bが気化したガスが一端側から他端側に向かって通過することを許容する。
【0106】
この例の面接触部は、実施形態1と同様に、嵌合部12lをつくるねじのフランク
21flと、嵌合部12rをつくるねじのフランク
21frとによって構成される。嵌合部12l,12rはねじ結合した状態で低温
液体13Bによって冷却されて熱収縮することで、両嵌合部12l,12rに備えるねじについて、一つのねじ山における圧力側及び遊び側の双方のフランクが面接触する部分が存在する(詳細は、実施形態1の嵌合部の項を参照)。
【0107】
但し、この例では、両嵌合部12l,12rが同種の材料で構成されており、熱収縮量が同じである。そのため、熱収縮しても、遊び側フランク同士が十分に接触せず、遊び側フランク間に隙間が生じる恐れがある。そこで、嵌合部12l,12r同士の間に液状充填材を塗布してなる塗布層27を備える形態とすることができる。この場合、
図4の一点破線円内で囲まれる拡大図に示すように、遊び側フランク間に塗布層27が介在することで、面接触部に加えて、塗布層27の介在によって、液密をより確実に実現できる。
【0108】
上記液状充填材は、低温液体13Bの使用温度に対する耐性を備える種々のものが利用できる。特に、シリコーン系の液状充填材は、低温に対する耐性に優れており、好適に利用できる。
【0109】
・・嵌合部からのガスの封止構造
面接触部及び塗布層27は、嵌合部12l,12rの一端側から他端側への低温液体13Bの侵入を阻止できるが、低温液体13Bが気化したガスの通過を許容する。このガスは、そのままでは断熱層23B内に侵入して、断熱性能(特に真空断熱性能)を劣化する恐れがある。そこで、実施形態2の液密構造1Bも、実施形態1と同様に、気化したガスが嵌合部12l,12rの端部から断熱層23B内に漏洩することを防止する封止構造として、封止部14Bを備える。
【0110】
この例の封止部14Bは、円環状の密閉容器である。詳しくは、封止部14Bは、一方の接続内管21Blの外周面と、他方の接続内管21Brの一端部に接続され、接続内管21Brから立設するように設けられた円環状の小径の端面板140と、一方の接続内管21Blの外周面に立設するように設けられ、端面板140に対向配置される円環状の大径の端面板142と、一方の接続内管21Blの外周面を覆うと共に、両端面板140,142の周縁に接続される筒部144とで構成される。この密閉容器内の環状の内周空間をガスの貯留空間とする。
【0111】
・・嵌合部の他端側の温度を高める構成
熱絶縁部145は、その長手方向に厚さが均一的な筒状とすることができるが、
図4に示すように、一方の接続内管21Blの一端から、嵌合部12l,12rの他端側に向かって厚さが厚くなるテーパ状の筒体などとすることができる。熱絶縁部145をテーパ状とすることで、嵌合部12l,12rの他端側に向かって、低温液体13Bによって冷却され難くすることができる。一方、両端面板140,142がそれぞれ接続内管21Bl,21Brから立設されることで、筒部144は、接続内管21Bl,21Brよりも外管22Bに近い位置、即ち、外管22Bが設置される外部環境により近い位置に配置される。その結果、環状の内周空間における外管22Bに近い領域は、接続内管21Blに近い領域よりも相対的に高温になり易い。即ち、この密閉容器内の温度を、低温液体13Bよりも高い温度にし易い。これら熱絶縁部145と封止部14Bとによって、嵌合部12l,12rにおける低温液体13Bに接触する一端の反対側である他端を、低温液体13Bが気化する温度により確実にすることができる。熱絶縁部145の厚さや封止部14Bの大きさは、嵌合部12l,12rにおける上述の他端が、低温液体13Bが気化する温度となり、面接触部を通過するものが気化したガスのみとなるように適宜調整すればよい。
【0112】
・断熱層
接続箇所10Bを介して接続される接続内管21Bl,21Brの外周には、外管22Bが設けられている。接続内管21Bl,21Brと外管22Bとの間に介在する空間、即ち、接続内管21Bl,21Brがつくる液体領域の外周空間を断熱層23Bとする。
【0113】
外管22は、
図4ではフラット管である場合を例示しているが、ねじ部材などの嵌合部を設けないことから、例えば、ステンレス鋼のコルゲート管などが利用できる。接続された接続内管21Bl,21Brの外周には、上述のように断熱材(図示せず)を備えると、より高い断熱性を有する。低温液体13Bが、上述のように沸点が120K以下程度(−150℃以下程度)の非常に低い液体である場合、断熱層23Bは、実施形態1と同様に真空断熱層とすることが好ましく、更に断熱材を備えると、より高い断熱性を有して好ましい。低温液体13Bが、上述の沸点が比較的高い液体である場合、真空断熱層ではなく空気断熱層や、空気断熱層に固体断熱材を組み合わせたもの、固体断熱材による固相絶縁層などを利用できる。
【0114】
・液密構造の製造方法
実施形態2の液密構造1Bは、例えば、以下の工程を経て製造できる。
(接続工程) 嵌合部12l,12rをそれぞれ備える接続内管21Bl,21Brを作製し、接続内管21Blの一端部の外周に接続内管21Brを取り付け、嵌合部12l,12rを互いに嵌め合わせる。この例では、実施形態1と同様にねじ結合する。接続内管21Blは、熱絶縁部145を備えることができる。
(封止工程) 嵌合部12l,12rの他端部に封止部14Aを設ける。
(断熱工程) 接続箇所10Bを含む接続内管21Bl,21Brの外周に外管22Bを設ける。外管22Bの内部を必要に応じて真空引きする。こうすることで、断熱層23Bを形成する。
(冷媒充填工程) 以上の工程を終えたら、液体領域に
低温液体13Bを導入して、嵌合部12l,12rの一端を冷却して熱収縮させることで面接触部を形成する。
【0115】
・効果
実施形態2の液密構造1Bは、嵌合部12l,12rを含む接続内管21Bl,21Brが同種の材料から構成されるものの、嵌合部12l,12rを特定の温度勾配を有するように設けることで、熱収縮によって面接触する面接触部を十分に有することができる。液密構造1Bは、この面接触部によって、嵌合部12l,12rにおける低温液体13Bに接触する一端側から他端側への低温液体13Bの流通を直接阻止できる。そのため、液密構造1Bは、任意の設置形態に利用可能である。具体的には、液密構造1Bは、断熱管の軸方向が鉛直方向となる縦置き形態、
図4に示すように断熱管の軸方向が水平方向となる横置き形態、断熱管の軸方向などが鉛直方向に交差する斜め置き形態などに利用できる。特にこの例の液密構造1Bは、嵌合部12l,12rがねじ結合することで面接触部をより確実に、かつ十分に形成できる。また、特にこの例の液密構造1Bは、嵌合部12l,12r同士の間に塗布層27が介在することで、低温液体13Bが断熱層23Bに漏洩することをより確実に防止できる。これらの点からも、液密構造1Bは、液密を良好に維持できる。
【0116】
また、液密構造1Bは、接続内管21Bl,21Brの嵌合部12l,12rを互いに嵌め合うといった平易な操作で接続可能な簡単な構成であり、施工性にも優れる。特にこの例の液密構造1Bは、嵌合部12l,12rがねじ結合することからも、簡単な構成であり、かつねじ込むという平易な操作によって両管21Bl,21Brを接続できて、施工性により優れる。ねじ結合であることで液密構造1Bは、強固な接続を実現できる。
【0117】
[変形例1]
実施形態1の超電導ケーブルの導体引出構造1Aについても、嵌合部12b,12i同士の間に塗布層27を備えることができる。塗布層27を備える場合には、例えば、嵌合部12b,12iとして噛み合いが浅いねじを利用できる。嵌合部12b,12i同士の間の隙間を塗布層27によって低減できるため、優れた液密性を確保できる。また、この場合、緩いねじであるため嵌合作業を容易に行えて、施工性に優れる。
【0118】
[変形例2]
実施形態2の液密構造1Bについても、接続内管21Bl,21Brの構成材料を熱膨張係数が異なるものとすることができる。この場合、実施形態1と同様に、熱膨張量の差を利用して、面接触を良好に行えて、液密性により優れる。
【0119】
[変形例3]
実施形態1では、ブッシング20の嵌合部12b及び端末内管21Aの嵌合部12iとして、ねじ部材を備える形態を説明した。その他、端末内管21Aを、螺旋状に凹凸が設けられたコルゲート管とし、ブッシング20の嵌合部12bには、このコルゲート管の凹凸に噛み合う凹凸を有する形態とすることができる。この形態は、ブッシング20の嵌合部に、端末内管となるコルゲート管自体をねじ込むことで両者を接続できる。嵌合部における凹凸のピッチは、比較的短くすると、ねじ結合の領域を短くできながら、両者を十分に接続できる。即ち、嵌合部の軸方向長さが過度に長くならず、小型な接続箇所とすることができる。
【0120】
なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0121】
例えば、上述の液密構造は、各種のセンサに接続される計測線といった、超電導導体部を有しておらず常電導導体部を有する場合に、常電導導体部を低温領域から常温領域に引き出す引出箇所に適用することができる。
例えば、嵌合部の嵌め合いをねじといった連続する螺旋状の凹凸以外に機械的な噛み合いが可能な凹凸であって、面接触が可能な部分を有する任意の形状の凹凸を備える形態とすることができる。又は、嵌合部を形成する一方の部材にマルチラムといった多数の弾性片を合計して嵌合部の1周分以上存在するように、嵌合部の長手方向に多段に備えて、弾性片の付勢力によって面接触が可能な形態とすることができる。
例えば、実施形態1の超電導ケーブルの導体引出構造は、電気絶縁層が液体冷媒に含浸されない常温絶縁型の超電導ケーブルに適用することができる。