特許第6386947号(P6386947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6386947基地局装置、指向方向制御方法およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386947
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】基地局装置、指向方向制御方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/28 20090101AFI20180827BHJP
   H04W 88/08 20090101ALI20180827BHJP
   H04B 7/10 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H04W16/28
   H04W88/08
   H04B7/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-51287(P2015-51287)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-171522(P2016-171522A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】宮田 幸治
【審査官】 吉村 真治▲郎▼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−096772(JP,A)
【文献】 特表2000−511015(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0002805(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0143746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置であり、
前記基地局装置が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得部と、
前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定部と、
前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御部と、を備え
前記遅延時間情報取得部は、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記基地局装置であって、
前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、
前記遅延時間情報取得部は、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、
前記指向方向判定部は、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、
基地局装置。
【請求項2】
前記遅延時間情報取得部は、前記基地局装置が前記端末装置から受信したランダムアクセスチャネル信号のうち初期アクセス時のランダムアクセスチャネル信号に対して前記端末装置へ送信した前記送信タイミング補正値に基づいて、前記遅延時間情報を取得する、
請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記指向方向制御部は、前記遅延時間情報の変化量に応じて、前記アンテナ指向方向を更新するかしないかを判断する、
請求項1又は2のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記基地局装置の状況が所定の条件を満足する場合に前記アンテナ指向方向の更新処理を実行する請求項1からのいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項5】
アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置の指向方向制御方法であり、
前記基地局装置が、自己が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得ステップと、
前記基地局装置が、前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定ステップと、
前記基地局装置が、前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御ステップと、を含み、
前記遅延時間情報取得ステップは、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記指向方向制御方法であって、
前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、
前記遅延時間情報取得ステップは、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、
前記指向方向判定ステップは、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、
指向方向制御方法。
【請求項6】
アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置のコンピュータに、
前記基地局装置が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得ステップと、
前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定ステップと、
前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御ステップと、を実行させるためのコンピュータプログラムであり、
前記遅延時間情報取得ステップは、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記コンピュータプログラムであって、
前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、
前記遅延時間情報取得ステップは、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、
前記指向方向判定ステップは、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置、指向方向制御方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基地局装置がアンテナのチルト角を変更することにより自己のカバレッジを目標のカバレッジに近づける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/114372号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】3GPP (3rd Generation Partnership Project)、TS36.331、“Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Radio Resource Control (RRC); Protocol specification”、V12.1.0(2014-03)
【非特許文献2】3GPP (3rd Generation Partnership Project)、TS36.211、“Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Physical Channels and Modulation”、V12.1.0(2014-03)
【非特許文献3】3GPP (3rd Generation Partnership Project)、TS36.213、“Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Physical layer procedures”、V12.3.0(2014-09)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では、移動局が自局の位置を測定し、測定結果の位置情報を基地局に報告するので、その位置情報の取得のために電源リソースおよびその報告のために通信リソースが各々消費される。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、各基地局装置に適したアンテナ指向方向を設定できると共に通信リソースおよび端末装置の電源リソースを節約できる、基地局装置、指向方向制御方法およびコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置であり、前記基地局装置が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得部と、前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定部と、前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御部と、を備え、前記遅延時間情報取得部は、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記基地局装置であって、前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、前記遅延時間情報取得部は、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、前記指向方向判定部は、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、基地局装置である。
(2)本発明の一態様は、上記(1)の基地局装置において、前記遅延時間情報取得部は、前記基地局装置が前記端末装置から受信したランダムアクセスチャネル信号のうち初期アクセス時のランダムアクセスチャネル信号に対して前記端末装置へ送信した前記送信タイミング補正値に基づいて、前記遅延時間情報を取得する、基地局装置である。
)本発明の一態様は、上記(1)又は(2)のいずれかの基地局装置において、前記指向方向制御部は、前記遅延時間情報の変化量に応じて、前記アンテナ指向方向を更新するかしないかを判断する、基地局装置である。
)本発明の一態様は、上記(1)から()のいずれかの基地局装置において、前記基地局装置の状況が所定の条件を満足する場合に前記アンテナ指向方向の更新処理を実行する、基地局装置である。
【0008】
)本発明の一態様は、アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置の指向方向制御方法であり、前記基地局装置が、自己が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得ステップと、前記基地局装置が、前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定ステップと、前記基地局装置が、前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御ステップと、を含み、前記遅延時間情報取得ステップは、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記指向方向制御方法であって、前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、前記遅延時間情報取得ステップは、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、前記指向方向判定ステップは、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、指向方向制御方法である。
【0009】
)本発明の一態様は、アンテナ装置を介して端末装置との間で無線信号を送受する基地局装置のコンピュータに、前記基地局装置が過去に前記端末装置へ送信した「下りリンク無線フレームに対する上りリンク無線フレームの送信タイミング補正値」に基づいた遅延時間情報を取得する遅延時間情報取得ステップと、前記取得された遅延時間情報に基づいて、前記アンテナ装置の垂直面内のアンテナ指向方向を判定する指向方向判定ステップと、前記判定の結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う指向方向制御ステップと、を実行させるためのコンピュータプログラムであり、前記遅延時間情報取得ステップは、前記送信タイミング補正値に基づいて、前記基地局装置のカバレッジ内に在る前記端末装置についての往復遅延時間分布を算出し、算出した前記往復遅延時間分布に基づいて代表往復遅延時間を決定し、決定した前記代表往復遅延時間を前記遅延時間情報とする、前記コンピュータプログラムであって、前記端末装置が局所的に位置する地域に前記基地局装置が在る場合、前記遅延時間情報取得ステップは、前記往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を前記代表往復遅延時間に決定し、前記指向方向判定ステップは、前記最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向を、前記アンテナ指向方向に決定する、コンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各基地局装置に適したアンテナ指向方向を設定できると共に通信リソースおよび端末装置の電源リソースを節約できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る基地局装置1を示す構成図である。
図2図1に示す基地局装置1を実現するハードウェアの構成例を示す図である。
図3】アンテナ指向方向を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係る指向方向制御方法の例を示すフローチャートである。
図5】RACH信号に係る概略シーケンスチャートである。
図6】「TA command」の説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る指向方向制御方法の他の例を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係るカバレッジ調整方法の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、無線通信システムの一例として、LTE(Long Term Evolution)と呼ばれる無線通信システム(LTEシステム)を挙げて説明する。LTEシステムについては、例えば非特許文献1、2、3に記載されている。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る基地局装置1を示す構成図である。図1には、LTEシステムの基地局装置の構成のうち、アンテナ指向方向制御機能に係る構成を示している。図1において、基地局装置1は、遅延時間情報取得部11と指向方向判定部12と指向方向制御部13とを備える。遅延時間情報取得部11は、自己の基地局装置1と無線通信する端末装置と当該基地局装置1との間の通信における遅延時間についての遅延時間情報を取得する。
【0014】
指向方向判定部12は、遅延時間情報取得部11により取得された遅延時間情報に基づいて、アンテナ指向方向を判定する。指向方向判定部12により判定されるアンテナ指向方向は、垂直面内の方向である。指向方向制御部13は、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う。
【0015】
図2は、図1に示す基地局装置1を実現するハードウェアの構成例を示す図である。図2において、基地局装置1は、無線通信部21と通信部22とCPU23と記憶部24とを備える。これら各部はデータを交換できるように構成されている。無線通信部21はアンテナ装置ANTと接続する。無線通信部21は、アンテナ装置ANTを介して端末装置との間で無線信号Aを送受する。無線通信部21は、アンテナ装置ANTへ、指向方向制御信号Bを出力する。アンテナ装置ANTは、指向方向制御信号Bに従ってアンテナ指向方向を変更する。
【0016】
通信部22は、バックボーンネットワークを介して他の装置と通信する。CPU23は基地局装置1の制御を行う。この制御機能は、CPU23がコンピュータプログラムを実行することにより実現される。記憶部24は、CPU23で実行されるコンピュータプログラムや各種のデータを記憶する。記憶部24は、指向方向制御プログラム31を記憶している。図1に示される基地局装置1の各部の機能は、図2に示されるCPU23が記憶部24に記憶される指向方向制御プログラム31を実行することにより実現される。
【0017】
図3は、アンテナ指向方向の制御例を説明する図である。図3には、アンテナ指向方向の制御例としてアンテナ装置ANTのチルト角を制御する場合を示す。アンテナ装置ANTは鉄塔やビル等の高所に設置される。アンテナ装置ANTは、RRH(Remote Radio Head)と接続される。RRHは無線通信部21のうち無線部分の機能を有する。RRHはBBU(Base Band Unit)と接続される。BBUは無線通信部21のうちベースバンド部分の機能を有する。RRHはアンテナ装置ANTとの間で無線信号Aを送受する。RRHは、アンテナ装置ANTへ、指向方向制御信号Bを出力する。アンテナ装置ANTは、指向方向制御信号Bに従って、チルト角θ_tiltを変更する。アンテナ装置ANTのチルト角θ_tiltは、水平面(x−y平面)を基準として、垂直面(z軸を含む面)指向特性の最大指向方向DirBMの角度である。一般に、アンテナ装置ANTの垂直放射パターンのメインローブBMの指向方向が最大指向方向DirBMとなる。チルト角θ_tiltが大きくなると(ダウンチルトすると)、最大指向方向DirBMはより地面に向くようになる。このため、基地局装置1のカバレッジ(coverage)は縮小する。一方、チルト角θ_tiltが小さくなると(アップチルトすると)、最大指向方向DirBMは地面とは反対に天空に向くようになる。このため、基地局装置1のカバレッジは拡大する。
【0018】
[指向方向制御方法の例]
図4は、本実施形態に係る指向方向制御方法の例を示すフローチャートである。図4を参照して、図1に示す基地局装置1の動作の例を説明する。
【0019】
(ステップS101)遅延時間情報取得部11は、自己の基地局装置1と無線通信する端末装置と当該基地局装置1との間の通信における遅延時間についての遅延時間情報を取得する。ここで、遅延時間情報の取得方法を説明する。
【0020】
本実施形態では、遅延時間情報取得部11は、上りリンク(Uplink:UL)のタイミング補正値(TA command(Timing Advance command))の履歴に基づいて遅延時間情報を取得する。上りリンクは、端末装置から基地局装置1へ向かう方向のリンクである。LTEシステムでは、端末装置(User Equipment:UE)と基地局装置(eNodeB:eNB)との間で通信を開始する際に、RACH(Random Access CHannel:ランダムアクセスチャネル)信号が使用される。RACH信号は、UL信号の同期を、端末装置と基地局装置との間で取るために使用される。基地局装置は、端末装置から受信したRACH信号に応じて、当該端末装置へ「TA command」を送信する。
【0021】
図5は、RACH信号に係る概略シーケンスチャートである。図5を参照して、RACH信号に係る信号の送信手順を説明する。
【0022】
(ステップS1)基地局装置(eNB)は、カバレッジCov内に在る端末装置(UE)に対して、ブロードキャスト信号でRACH関連パラメータを報知する。
【0023】
(ステップS2)端末装置(UE)は、該報知されたRACH関連パラメータを使用して、RACH信号を送信する。
【0024】
(ステップS3)基地局装置(eNB)は、該RACH信号を送信した端末装置(UE)に対して「TA command」を送信する。
【0025】
(ステップS4)端末装置(UE)は、該基地局装置(eNB)から受信した「TA command」を使用して、ULのデータ信号を送信する。
【0026】
図6は、「TA command」の説明図である。図6において、「TA command」によるULのタイミング補正値「NTA×T[秒]」は、端末装置がUL無線フレーム(UL Radio Frame)を送信する際の、下りリンク(Downlink:DL)無線フレーム(DL Radio Frame)に対する、UL無線フレームの送信タイミング補正値である。下りリンクは、基地局装置1から端末装置へ向かう方向のリンクである。Tは「1/30720000」秒である。NTAとして、例えば、「NTA=TA×16、但し、TAは0から1282までのいずれかの整数」が使用される。このULのタイミング補正値(TA command)によって、0から670[マイクロ秒]までのタイミング補正が可能である。これは、基地局装置と端末装置との間の往復遅延時間に換算したカバレッジサイズの半径としておよそ0から100[キロメートル]までの範囲に在る端末装置について、UL信号の同期を取ることができることに相当する。
【0027】
遅延時間情報取得部11は、自己の基地局装置1が過去に端末装置から受信したRACH信号のうち初期アクセス時のRACH信号に対して端末装置へ送信した「TA command」に基づいて、自己の基地局装置1のカバレッジ内に在る端末装置についての往復遅延時間の分布(往復遅延時間分布)を算出する。遅延時間情報取得部11は、その往復遅延時間分布に基づいて、代表往復遅延時間を決定する。代表往復遅延時間は、遅延時間情報の例である。代表往復遅延時間としては、以下の例が挙げられる。
(代表往復遅延時間の例1)往復遅延時間分布における95%tile値。
(代表往復遅延時間の例2)往復遅延時間分布における最長の往復遅延時間。
(代表往復遅延時間の例3)往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間。
(代表往復遅延時間の例4)往復遅延時間分布における往復遅延時間の平均値。
【0028】
なお、「TA command」は同期はずれ時のRACH信号に対しても端末装置へ送信される。但し、同期はずれ時の「TA command」は、前回の「TA command」からの差分値である。この差分値であることを考慮して処理する場合には、同期はずれ時の「TA command」を、往復遅延時間分布の算出に使用してもよい。
【0029】
説明を図4に戻す。
(ステップS102)指向方向判定部12は、遅延時間情報取得部11により取得された遅延時間情報に基づいて、アンテナ指向方向を判定する。遅延時間情報は、基地局装置1のカバレッジ内の端末装置の位置を示す情報として利用できる。このことから、遅延時間情報に基づいた端末位置へのアンテナ装置ANTからの方向の垂直面内の方向をアンテナ指向方向に決定する。一般に、各基地局装置のカバレッジ内の端末装置の位置の分布は異なる。このため、基地局装置のカバレッジに影響するアンテナ指向方向は、各基地局装置に適した方向とすることが好ましい。本実施形態では、指向方向判定部12は、遅延時間情報取得部11により取得された遅延時間情報に基づいて、自己の基地局装置1のアンテナ指向方向を判定する。
【0030】
指向方向判定部12は、遅延時間情報取得部11により取得された遅延時間情報である代表往復遅延時間に対応する端末位置方向を、アンテナ指向方向に決定する。端末位置方向は、アンテナ装置ANTからの垂直面内の方向である。代表往復遅延時間と端末位置方向との対応関係は、予め、指向方向判定部12に設定される。例えば、代表往復遅延時間と端末位置方向との対応関係を示す対応表が予め指向方向判定部12に保持される。
【0031】
(ステップS103)指向方向制御部13は、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う。これにより、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向を示す指向方向制御信号Bが、無線通信部21からアンテナ装置ANTへ出力される。アンテナ装置ANTは、該指向方向制御信号Bに従ってアンテナ指向方向を変更する。これにより、アンテナ装置ANTのアンテナ指向方向が、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向に変更される。
【0032】
なお、指向方向制御信号Bで示されるアンテナ指向方向は、アンテナ装置ANTのチルト角θ_tiltであってもよい。
【0033】
上述した実施形態によれば、基地局装置1が過去に端末装置へ送信した「ULのタイミング補正値(TA command)」に基づいた遅延時間情報に応じて、当該基地局装置1のアンテナ装置ANTのアンテナ指向方向を設定することができる。これにより、各基地局装置1に適したアンテナ指向方向を設定できるという効果が得られる。また、端末装置は自己の位置情報を取得および基地局装置1へ報告する必要がないので、その位置情報の取得のための電源リソースおよびその報告のための通信リソースを各々節約できる。
【0034】
なお、遅延時間情報として、上述の代表往復遅延時間の例1〜例4のいずれかを取得してもよい。例えば、代表往復遅延時間の例1の往復遅延時間分布における95%tile値を遅延時間情報として取得する場合、大き過ぎる特異な往復遅延時間を除外すると共に、基地局装置1のカバレッジ内に在る端末装置の多くをカバーできる。また、上述の代表往復遅延時間の例1〜例4を、基地局装置1が使用する無線周波数帯や、基地局装置1の場所などに応じて使い分けしてもよい。例えば、端末装置が局所的に位置するような地域に在る基地局装置1に対しては、代表往復遅延時間の例3の往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間を使用することが挙げられる。
【0035】
[指向方向制御方法の他の例]
次に、図7を参照して、図1に示す基地局装置1の動作の他の例を説明する。図7は、本実施形態に係る指向方向制御方法の他の例を示すフローチャートである。
【0036】
(ステップS201)基地局装置1は、指向方向更新処理の実行を判断する。指向方向更新処理の実行の判断方法の例を以下に挙げる。
【0037】
(指向方向更新処理の実行の判断方法の例1)
指向方向更新処理を実行する所定のタイミングであるかを判断する。例えば、一定の周期で指向方向更新処理を実行することが挙げられる。
【0038】
(指向方向更新処理の実行の判断方法の例2)
自己の基地局装置1の状況が指向方向更新処理を実行する条件を満足するかを判断する。例えば、一定の周期で基地局装置1のカバレッジ内に在る端末装置の通信品質の統計値を算出し、該統計値の変化量が所定の閾値以上である場合に指向方向更新処理を実行することが挙げられる。該通信品質統計値の算出対象の端末装置を、基地局装置1のカバレッジ境界部分に在る端末装置に限定してもよい。又は、一定の周期で基地局装置1のトラヒック負荷の統計値を算出し、該統計値の変化量が所定の閾値以上である場合に指向方向更新処理を実行することが挙げられる。トラヒック負荷として、例えば、端末装置の接続数が挙げられる。又は、一定の周期で基地局装置1のリソース使用量の統計値を算出し、該統計値の変化量が所定の閾値以上である場合に指向方向更新処理を実行することが挙げられる。
【0039】
(ステップS202)ステップS201の判断の結果、指向方向更新処理を実行する場合にはステップS203に進み、指向方向更新処理を実行しない場合にはステップS201に戻る。
【0040】
(ステップS203)遅延時間情報取得部11は、自己の基地局装置1と無線通信する端末装置と当該基地局装置1との間の通信における遅延時間についての遅延時間情報を取得する。この遅延時間情報の取得方法は、上述した図4のステップS101と同じである。
【0041】
(ステップS204)指向方向判定部12は、遅延時間情報取得部11により取得された遅延時間情報に基づいて、アンテナ指向方向を判定する。このアンテナ指向方向の判定方法は、上述した図4のステップS102と同じである。
【0042】
(ステップS205)指向方向制御部13は、アンテナ指向方向の更新を判断する。このアンテナ指向方向の更新の判断では、ステップS204の判定結果であるアンテナ指向方向と、既に設定されているアンテナ指向方向とを比較し、両者が異なっている場合に、アンテナ指向方向を更新すると判断する。又は、今回の指向方向更新処理のステップS203で取得された遅延時間情報である代表往復遅延時間と、前回の指向方向更新処理のステップS203で取得された遅延時間情報である代表往復遅延時間とを比較し、両者の差が所定の閾値以上である場合に、アンテナ指向方向を更新すると判断してもよい。
【0043】
ステップS205の判断の結果、アンテナ指向方向を更新する場合にはステップS206に進み、アンテナ指向方向を更新しない場合にはステップS201に戻る。
【0044】
(ステップS206)指向方向制御部13は、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向に変更する制御を行う。これにより、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向を示す指向方向制御信号Bが、無線通信部21からアンテナ装置ANTへ出力される。アンテナ装置ANTは、該指向方向制御信号Bに従ってアンテナ指向方向を変更する。これにより、アンテナ装置ANTのアンテナ指向方向が、指向方向判定部12の判定結果であるアンテナ指向方向に変更される。
【0045】
(ステップS207)基地局装置1は、図7の指向方向制御処理の終了を判断する。この判断の結果、終了する場合には図7の指向方向制御処理を終了し、終了しない場合にはステップS201に戻る。
【0046】
上述した図7の指向方向制御方法の他の例によれば、アンテナ指向方向の更新を適宜に実行することができる。例えば、通信速度需要の増加に応えるために基地局装置を増設すると、基地局装置間で電波干渉が発生する可能性がある。これに対して、カバレッジ境界部分の通信品質を監視し、この監視結果に基づいて電波干渉の発生ありと判断した場合に指向方向更新処理を実行することにより、自動的にカバレッジを変更して電波干渉を解消させることができる。
【0047】
なお、基地局装置1に対して、アンテナ指向方向の初期値として、許容される範囲内で大きいカバレッジに対応するアンテナ指向方向を設定してもよい。
【0048】
また、上述した図7の指向方向制御方法の他の例では、ステップS201において基地局装置1が指向方向更新処理の実行を判断したが、基地局装置1とは異なる他の装置が基地局装置1の指向方向更新処理の実行を判断して当該基地局装置1へ指向方向更新処理の実行を指示してもよい。例えば、複数の基地局装置1を管理するセンタ局が、自己の管理下の基地局装置1の指向方向更新処理の実行を判断して当該基地局装置1へ指向方向更新処理の実行を指示することが挙げられる。
【0049】
図8は、本実施形態に係るカバレッジ調整方法の例を示す説明図である。まず、無線周波数faのアンテナ指向方向DirBM_1によって無線周波数faのカバレッジCov_fa_1が形成される。無線周波数fbのカバレッジCov_fbは、カバレッジCov_fa_1と重複する。この時、カバレッジCov_fa_1により無線通信している端末装置(UE)は、カバレッジCov_fa_1の中心部分に集中して存在している。そこで、無線周波数faのアンテナ指向方向を、DirBM_1から端末装置(UE)の集中エリアの方向DirBM_2に変更することによって、無線周波数faのカバレッジをCov_fa_1からCov_fa_2に縮小する。端末装置(UE)の集中エリアの方向は、例えば上述した代表往復遅延時間の例3の往復遅延時間分布における最大分布数の往復遅延時間に対応する端末位置方向として得られる。
【0050】
これにより、無線周波数faを使用する端末装置(UE)が集中しているエリアに対して無線周波数faのアンテナ指向方向が向くので、該端末装置(UE)が集中しているエリアの電波環境を向上させることができる。一方、無線周波数faのカバレッジがCov_fa_1からCov_fa_2に縮小されることによって無線周波数faのカバレッジ外に存在することになった端末装置(UE)は、カバレッジCov_fa_1と重複するカバレッジCov_fbにより、無線周波数fbで無線通信することができる。このカバレッジ調整方法の例は、例えば基地局装置1の無線周波数faの通信容量の逼迫時の対処に適用可能である。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0052】
例えば、遅延時間情報取得部11は、往復遅延時間分布の算出に使用する「TA command」を所定の条件で限定してもよい。例えば、「TA command」を端末装置へ送信した時間帯を限定してもよい。又は、「TA command」を送信した端末装置の在った区域を限定してもよい。それらの限定は、基地局装置1のカバレッジについての利用状況(利用時間帯の変化の状況、利用区域の変化の状況など)に応じて決定されてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、アンテナ指向方向の制御例としてアンテナ装置のチルト角の制御を挙げたが、アンテナ指向方向の制御として、ビームフォーミング技術を使用してアンテナ指向方向へビームを向ける制御を行ってもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、無線通信システムの一例としてLTEシステムを挙げたが、LTEシステム以外の他の無線通信システムにも同様に適用可能である。
【0055】
また、上述した基地局装置1の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0056】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0057】
1…基地局装置、11…遅延時間情報取得部、12…指向方向判定部、13…指向方向制御部、21…無線通信部、22…通信部、23…CPU、24…記憶部、31…指向方向制御プログラム、ANT…アンテナ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8