(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導入工程の開始後に、前記陽極室内の水又は電解質の水溶液と前記陰極室内の水又は電解質の水溶液とを混合する混合工程を更に備える、請求項7又は8記載の換気方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単純に外気を取り入れて活動空間の二酸化炭素濃度を低下させたとしても、昨今の大気汚染物質及び放射性物質の飛散状況に鑑みれば、必ずしも活動空間の環境改善には至らない。また、外部環境によっては外気の二酸化炭素濃度が高いことがあり、単純な換気では活動空間の二酸化炭素濃度が十分に低下せず、換気回数が嵩むことになる。
【0007】
そこで本発明は、外気の状態に関わらず活動空間の二酸化炭素濃度を低下させることができ、且つ、従来の換気方法による換気回数を減らすことができる換気システム及び換気方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、換気対象空間の二酸化炭素濃度を低下させる換気システムであって、隔壁で仕切られた陽極室及び陰極室を含む電解槽と、陽極室に設けられた陽極と、陰極室に設けられた陰極と、陽極及び陰極の間に電圧を印加する電源部とを有し、水又は電解質の水溶液を電解槽内で電気分解する電解装置と、換気対象空間から二酸化炭素を含む気体を陰極室に導入する導入手段と、上記気体に由来する陰極室内の気体を換気対象空間に戻す気体回収利用手段と、を備える、換気システムを提供する。
【0009】
水又は電解質の水溶液を電気分解すると、陰極から水素が発生するとともに、陰極での還元反応で陰極室内に水酸化物イオンが発生し、陰極室内の水又は電解質の水溶液はアルカリ性となる。他方、陽極からは酸素が発生するとともに、陽極での酸化反応で陽極室内に水素イオンが発生し、陽極室内の水又は電解質の水溶液が酸性となる。陰極室に二酸化炭素を含む気体が導入されると、二酸化炭素は陰極室内のアルカリ性となった水又は電解質の水溶液に容易に溶解し、炭酸イオンとして安定に存在するようになる。溶解しなかった気体は気体回収利用手段によって陰極室内から換気対象空間に戻される。一方、炭酸イオンは、電気分解の通電によって徐々に隔壁を通り抜けて陽極室側へ移動する。陽極室内の水又は電解質の水溶液は酸性となっているため、陽極室内に移動した炭酸イオンは二酸化炭素分子に戻り、気体として放出される。ここで、炭酸イオンは上記のとおり陰極室から陽極室へ移動するため、陰極室内の水又は電解質の水溶液は炭酸イオンで飽和されず、二酸化炭素を吸収し続けることができる。これらの仕組みによれば、陰極室内の水又は電解質の水溶液が換気対象空間内の二酸化炭素を十分に吸収することができるため、外気との交換によらず換気対象空間の二酸化炭素濃度を低下させることができる。したがって、本発明によれば、外気の状態に関わらず換気対象空間の二酸化炭素濃度を低下させることができ、且つ、従来の換気方法による換気回数を減らすことができる。
【0010】
本発明の換気システムは、陽極室から二酸化炭素を換気対象空間外に排出する排出手段を更に備えることが好ましい。これによれば、陽極室で放出される二酸化炭素を換気対象空間外へ確実に排出することができる。
【0011】
また、本発明の換気システムは、電気分解時に陽極から発生する酸素を収集して換気対象空間に供給する酸素収集利用手段を更に備えることが好ましい。これによれば、二酸化炭素を陰極室において吸収するとともに、陽極室から酸素を換気対象空間に供給することができる。
【0012】
電源部は、燃料電池を含み、換気システムは、電気分解時に陰極から発生する水素を収集して燃料電池に供給する水素収集利用手段を更に備えていてもよい。これによれば、電気分解に要する電力の一部を、電気分解で生じた水素を反応原料とする燃料電池が賄うことができ、省電力に資する。
【0013】
また、本発明の換気システムは、換気対象空間の気体を陽極室に通気して換気対象空間に戻す通気手段を更に備えることが好ましい。換気では、二酸化炭素のみならず、揮発性有機化合物(VOC)、壁や家具等からのアウトガス、人体発塵等も除去することが望ましい。これらの物質の中には酸性溶液に溶けやすいものがあるため、電気分解に伴って酸性となった陽極室内の水又は電解質の水溶液に換気対象空間の気体を通気することにより、これらの物質を容易に除去することができる。
【0014】
また、本発明の換気システムは、陽極室内の水又は電解質の水溶液と陰極室内の水又は電解質の水溶液とを混合する混合手段を更に備えることが好ましい。換気が進むにつれて、陰極室内に生じた炭酸イオンは上記のとおり陽極室側へ移動するが、全ての炭酸イオンが移動するのではなく陰極室内に留まる部分がある。そこで、混合手段を用いて両液を混合することによって、陰極内の水又は電解質の水溶液に蓄積された炭酸イオンが、陽極内の酸性となった水又は電解質の水溶液によって二酸化炭素分子に戻される。これによれば、陰極室内に蓄積された炭酸イオンを確実に系外へ排出することができる。
【0015】
本発明は、上記換気システムを用いた換気方法であって、水又は電解質の水溶液を電解槽内で電気分解する電解工程と、換気対象空間から二酸化炭素を含む気体を陰極室に導入する導入工程と、上記気体に由来する陰極室内の気体を換気対象空間に戻す気体回収利用工程と、を有する換気方法を提供する。
【0016】
ここで、導入工程における陰極室内の水又は電解質の水溶液のpHは、9以上であることが好ましい。これによれば、二酸化炭素を確実に吸収することができる。
【0017】
この換気方法では、導入工程の開始後に、陽極室内の水又は電解質の水溶液と陰極室内の水又は電解質の水溶液とを混合する混合工程を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外気の状態に関わらず活動空間の二酸化炭素濃度を低下させることができ、且つ、従来の換気方法による換気回数を減らすことができる換気システム及び換気方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に関し、まず、換気システムの構成について説明する。
図1に示される換気システム1Aは、換気対象空間である建築物の室内2の二酸化炭素濃度を低下させる換気システムであり、室内2から取り入れた空気中の二酸化炭素を電解装置3Aを介して室外4へ排出するものである。
【0022】
換気システム1Aは、電気分解を行う電解装置3Aと、室内2の空気を電解装置3A内に取り入れる導入管(導入手段)5と、取り入れた空気の大部分を電解装置3Aから室内2に戻す戻し管(気体回収利用手段)6と、電解装置3Aから二酸化炭素を室外4に排出する排出管(排出手段)7と、電解装置3Aから室内2に酸素を供給する酸素収集供給管(酸素収集利用手段)8とを備えている。
【0023】
電解装置3Aは、隔壁31で仕切られた陽極室32A及び陰極室32Bを含む電解槽33を有しており、陽極室32Aには陽極10Aが、陰極室32Bには陰極10Bがそれぞれ固定して設けられている。陽極室32A及び陰極室32Bは、内部の液体及び気体が外部に漏れないように上部が閉じられ、内部にはそれぞれ電解液35A,35Bが収容されて陽極10A及び陰極10Bがそれぞれ電解液35A,35Bに浸かっている。また、電解装置3Aは、陽極10Aと陰極10Bとの間に電圧を印加するための電源(電源部)11を有している。
【0024】
電解槽33の材質としては、電解液35A,35Bに対して耐性を有するものを用いる。ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の有機材料や、ガラス、セラミックス等の無機材料等を用いることができる。
【0025】
隔壁31は、素焼き板、イオン交換膜等、イオンを通過させるものを用いる。後述する作用効果に鑑みれば、炭酸イオンの透過性が高いものが好ましい。
【0026】
陽極10A及び陰極10Bの材質としては、金属、金属酸化物、合金等が挙げられる。特に、電解液の電気分解によって生じる酸やアルカリに腐食されにくいものが好ましく、白金、金、チタン、導電性炭素材料等が挙げられる。
【0027】
電解液35A,35Bとしては、水又は電解質の水溶液を用いる。電気分解の速度を高める観点からは、電解質の水溶液が好ましい。電解質としては、無機塩又は無機酸(鉱酸)が好ましい。後述する作用効果に鑑みれば、無機塩としては、水に溶解した際に水のpHが中性を示し、電気分解の結果、陰極10B側で水素と水酸化物イオンが発生し、陽極10A側で酸素と水素イオンが発生することが好ましい。こうした無機塩としては、硫酸塩、炭酸塩、ナトリウム塩が好ましく、中でも、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム等が好ましい。無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。
【0028】
水の電気分解の速度を高める観点から、電解質の濃度は、0.01〜10mol/Lが好ましく、0.1〜5mol/Lがより好ましく、0.1〜1mol/Lが更に好ましい。
【0029】
電気分解を進めると、陰極10Bから水酸化物イオンが発生するため、陰極室32B内の電解液35BのpHが上昇する。ここで、陰極室32B内の電解液35BのpHは、9以上を維持することが好ましい。これにより、室内の空気が陰極室32Bに導入された際に、空気中の二酸化炭素が電解液35Bに溶解しやすくなる。こうした観点から、当該pHは、9.35以上がより好ましく、9.8以上が更に好ましい。9.35以上であると、室内の2000ppm程度の二酸化炭素濃度を1000ppm以下とすることに有効であり、9.8以上であると、室内の2000ppm程度の二酸化炭素濃度を500ppm以下とすることに有効である。
【0030】
陰極室32B内の電解液35Bの必要量は、室内2の容積(空気量)、二酸化炭素濃度の希望低下値や必要除去量、成人の二酸化炭素発生量等から、適宜計算して求めることができる。例えば、二酸化炭素の必要除去量は、二酸化炭素の発生強度(非特許文献1の129頁に記載がある。)で決まり、除去速度は電解液のpHで決まる。成人の二酸化炭素発生量を15L/(h・人)とし、室内2の二酸化炭素濃度を1000ppmとしたとき、陰極室32B内の電解液35Bによる二酸化炭素の吸収によって、これを0ppmまで低下させるならば、15000L/(h・人)通流することになる。実験では3.5Lの水溶液に2L/分で室内空気を通流できる装置を用いて二酸化炭素除去率100%を達成することができるので、実験装置の大きさと効果を比例計算すると、電解液35Bの必要量は1人当たり約400Lとすることが好ましい結果となる。ただし、これを小型化することは可能である。
【0031】
また、陰極室32B内の電解液35Bに対する二酸化炭素の溶解量は、電解液35BのpHや陽極室32Aへの炭酸イオンの移行量によって変動するが、概ね0.1〜5mol/Lである。こうした知見からも、任意の容積を有する室内2の換気に必要な電解液35Bの量を適宜求めることができる。
【0032】
電源11は、陽極10Aと陰極10Bとの間に直流電圧を印加することができるものであり、水又は電解質の水溶液の電気分解に要する電圧(理論上は1.2V以上)を印加することができるものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0033】
導入管5は、室内2の空気を電解装置3A内に導入するための管であり、室内2から延びて電解槽33の陰極室32B内に挿通され、端部が電解液35Bに浸かっている。戻し管6は、導入管5によって導入された空気のうち電解液35Bに溶解しなかった部分を電解装置3Aから室内2に戻すための管であり、電解槽33の陰極室32B内の上部に開口して取り付けられており、陰極室32Bと室内2とを連絡している。他方、排出管7は、電解装置3Aから二酸化炭素を排出するための管であり、電解槽33の陽極室32A内の上部に開口して取り付けられており、陽極室32Aと室外4とを連絡している。
【0034】
酸素収集供給管(酸素収集利用手段)8は、電気分解時に陽極10Aから発生する酸素を収集して電解装置3Aから室内2に供給する管である。具体的には、酸素収集供給管8は、電解槽33の陽極室32Aにおいて陽極10Aの周囲及び上方を覆うように取り付けられた傘状の覆い部81と、覆い部81の内側頂部に開口し陽極室32Aの上部を突き抜けて室内2へと延びる管部82とからなる。
【0035】
換気システム1Aは、電気分解時に陰極10Bから発生する水素を収集して電解装置3Aから外部へ取り出すための水素収集供給管(水素収集利用手段)9を備えている。具体的には、水素収集供給管9は、電解槽33の陰極室32Bにおいて陰極10Bの周囲及び上方を覆うように取り付けられた傘状の覆い部91と、覆い部91の内側頂部に開口し陰極室32Bの上部を突き抜けて外部へと延びる管部92とからなる。
【0036】
電解槽33の下部には、陽極室32A内の電解液35Aと陰極室32B内の電解液35Bとを混合するための混合路(混合手段)13が設けられている。混合路13は、陽極室32Aの底と陰極室32Bの底とを連通する移送管131と、移送管131の途中に設置され電解液を輸送するためのポンプ132とを有している。
【0037】
次に、
図1及び
図2を参照しながら、換気システム1Aを用いた換気方法、及びその作用効果について説明する。
図2は、電解装置3Aを介して室内2の二酸化炭素が室外4へ排出される化学的メカニズムを示す概念図である。
【0038】
電源11によって陽極10Aと陰極10Bとの間に直流電圧を印加すると、電解液(水又は電解質の水溶液;ここでは、電解質として硫酸ナトリウムを溶解させた水溶液を用いた場合について説明する。)35A,35Bの電気分解が始まる(電解工程)。すると、陰極10Bから水素が発生するとともに、陰極室32B内の電解液35Bに水酸化物イオンが発生し、電解液35Bはアルカリ性となる。他方、陽極10Aからは酸素が発生するとともに、陽極室32A内の電解液35Aに水素イオンが発生し、電解液35Aが酸性となる。
【0039】
ここで、室内2の空気を電解槽33の陰極室32Bに導入する前に、陰極室32B内の電解液のpHを9以上としておくことが好ましい(pH調整工程)。
【0040】
導入管5を通じて室内2から二酸化炭素を含む空気が陰極室32Bに導入されると(導入工程)、当該空気中の二酸化炭素は陰極室32B内のアルカリ性となった電解液35Bに容易に溶解し、炭酸イオンとして安定に存在するようになる(
図2)。当該空気のうち電解液35Bに溶解しなかった大部分の空気は戻し管6によって陰極室32B内から室内2に戻される(気体回収利用工程;
図1)。
【0041】
一方、炭酸イオンは、電気分解の通電によって徐々に隔壁31を通り抜けて陽極室32A側へ移動する(
図2)。陽極室32A内の電解液35Aは酸性となっているため、陽極室32A内に移動した炭酸イオンは二酸化炭素分子に戻り、気体として陽極室32A内に放出される。この二酸化炭素は、排出管7を通じて室外4へ排出される(排出工程)。
【0042】
陽極10Aから発生した酸素は、酸素収集供給管8によって収集され、室内2に供給される(酸素収集供給工程)。
【0043】
上記過程においては、炭酸イオンは上記のとおり陰極室32Bから陽極室32Aへ移動するため、陰極室32B内の電解液35Bは炭酸イオンで飽和されず、二酸化炭素を吸収し続けることができる。こうした仕組みによれば、陰極室32B内の電解液35Bが室内2の二酸化炭素を十分に吸収することができるため、外気との交換によらず室内2の二酸化炭素濃度を低下させることができる。したがって、換気システム1Aによれば、外気の状態に関わらず室内2の二酸化炭素濃度を低下させることができ、且つ、従来の換気方法による換気回数を減らすことができる。
【0044】
また、上記換気システム1Aを用いた換気方法によれば、陰極室32Bにおいて二酸化炭素が電解液35Bに溶解し、二酸化炭素濃度が低下した空気を、戻し管6によって室内2に戻す一方で、陽極室32Aからは、排出管7により二酸化炭素を室外4に確実に排出することができる。
【0045】
また、換気が進むにつれて、陰極室32B内に生じた炭酸イオンは上記のとおり陽極室32A側へ移動するが、全ての炭酸イオンが移動するとは限らず、陰極室32B内に留まる(濃縮される)部分がある。そこで、ポンプ132を駆動して陰極室32B内の電解液35Bを陽極室32A内へ移動して電解液35Aと混合させれば(混合工程)、電解液35Bに蓄積された炭酸イオンが、酸性となった電解液35Aによって二酸化炭素分子に戻される。これによれば、陰極室32B内に蓄積された炭酸イオンを確実に系外へ排出することができる。なお、この混合工程は、換気の終了時に行ってもよく、導入工程の開始直後から少量ずつ行ってもよい。換気の終了時に行う場合は、電解液35Aが強酸性になっているので、弱酸である炭酸イオンが二酸化炭素分子に戻りやすくて好ましい。混合後の電解液は再使用することができる。
【0046】
また、室内2の気体を陰極室32Bに導入する前に陰極室32B内の電解液35BのpHを9以上に調整しておいた場合は、導入した空気中の二酸化炭素が当該電解液35Bに一層容易に溶解することができる。
【0047】
また、換気システム1Aは、酸素収集供給管8を備えているため、陽極10Aから発生する酸素を収集して室内2に供給することができ、室内2の酸素濃度を高めることができる。このとき、陽極10Aから発生した酸素が陽極室32A内に広く拡散していくことが酸素収集供給管8の覆い部81によって防止されるので、排出されるべき二酸化炭素と酸素とが混ざり合うことが防止される。また、換気システム1Aは、水素収集供給管9を備えているため、陰極10Bから発生する水素を収集して外部へ取り出すことができる。
【0048】
また、空気中の二酸化炭素が陰極室32B内の電解液35Bに溶け込む際に、空気中に存在する他の有害成分(例えばVOC(揮発性有機化合物)、壁や家具等から揮発するアウトガス)であってアルカリ性溶液に溶解しやすい成分も同時に電解液に溶け込むため、戻し管6によって室内2に戻される空気はこれらの物質が除かれているといえる。すなわち、換気システム1Aによれば、室内2の二酸化炭素濃度を低下させるだけでなく、他の有害成分についても濃度を低下させることができる。
【0049】
なお、本実施形態において、電解質として塩酸や塩化ナトリウム等を用いると、陽極からは酸素ではなく塩素が発生する。この場合、酸素収集供給管8を使用しないで塩素を二酸化炭素とともに室外4へ排出するなど、適宜換気システム1Aの設計を変更して対処することができる。
【0050】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。
図3に示されるとおり、第2の実施形態の換気システム1Bが第1の実施形態の換気システム1Aと異なる点は、酸素収集供給管8と混合路13とを備えない点、及び、電源部として電源11の他に燃料電池111を含む点である。
【0051】
換気システム1Bの電解装置3Bでは、電源部として、燃料電池111が電源11と直列に配置されている。そして、水素収集供給管9のうち、陰極室32Bから外部へ延びる管部92の端部が燃料電池111に結合している。また、燃料電池は111は、外気(酸素)を取り入れるための供給管112を備えている。
【0052】
この換気システム1Bによれば、電気分解で発生した水素を燃料電池111の反応原料として利用することができる。したがって、換気システム1B全体としてエネルギー効率が向上し、省電力に資する。
【0053】
なお、上記実施形態では燃料電池111に外気を取り入れることで酸素を供給しているが、これに代えて、第1の実施形態で示した酸素収集供給管8を用いて、陽極10Aで発生する酸素を燃料電池111に供給する構成としてもよい。あるいは、当該酸素を室内2に戻す構成としてもよい。
【0054】
[第3の実施形態]
第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の換気システム1Cは、第1及び第2の実施形態の換気システム1A,1Bによる換気を終えた後に追加で換気するためのものである。
【0055】
図4に示されるとおり、第3の実施形態の換気システム1Cは、室内2の空気を電解槽33の陽極室32Aに通気して室内2に戻す通気管(通気手段)12を備えている。なお、
図4では、第1及び第2の実施形態に相当する、二酸化炭素濃度を低下させるための換気に関する構成については図示を省略している。
【0056】
通気管12は、室内2の空気を陽極室32A内に取り入れる通気導入管121と、取り入れた空気の大部分を陽極室32Aの上部から室内2に戻す通気戻し管122とを有する。
【0057】
この換気システム1Cを用いた換気方法としては、電解装置3Cでの電気分解に伴い酸性となった陽極室32A内の電解液35Aに、室内2の空気を導入する。すると、空気中に含まれるアンモニア、VOC、壁や家具等からのアウトガス、人体発塵等のうち、酸性溶液に溶解しやすい物質が当該電解液35Aに溶解する。したがって、通気戻し管122によって室内2に戻される空気はこれらの物質が除かれているといえる。すなわち、換気システム1Cによれば、二酸化炭素濃度以外の有害成分についても濃度を低下させることができる。
【0058】
なお、有害成分の除去に利用し、除去能力が低下した陽極室32A内の電解液35Aは、別途用意した混合槽に導いて、陰極室32B内から同様に導いた電解液35Bと混合して中和し、必要に応じて更にpH調整をして廃棄することができる。ここで、混合槽では電解液35A,35Bに溶解した物質の一部が気化するため、混合槽の上部に排気機構を設けることが好ましい。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では二酸化炭素を室外4に排出する際に特別な装置を介在させていないが、陽極室32Aから二酸化炭素を排出した後、室外4に排出する前の段階で、活性炭等を充填したフィルタを通過させるようにしてもよい。第3の実施形態で電解液35A,35Bを混合して廃棄する場合にも、混合槽の上部に排気機構を設ける場合は当該フィルタを使用してもよい。
【0060】
また、本発明における電気分解に要する電圧は小さいため、電源部としては、再生可能な太陽光・風力等に起因した電力、又は、最近のエネルギーハーベスト技術(振動発電等)に起因した微量の電力を直接利用又は蓄電したものを利用することも可能である。
【0061】
また、上記実施形態では、換気対象空間が室内空間である場合を示したが、トンネルや地下道のような土木構造物を換気対象としてもよい。また、本発明は、コンクリート塊や石灰改良土等に起因する気体のpH調整(中性化)のための二酸化炭素吸収装置として適用することもできる。
【実施例】
【0062】
以下、電解液のpHの変化と二酸化炭素の吸収について、実験例を示す。
【0063】
図5に示される装置を用いて、電気分解された電解液が二酸化炭素を有効に吸収できることを確認した。
【0064】
<実験装置の準備>
隔壁31で仕切られた陽極室32A及び陰極室32Bを有する電解槽33を準備し、二つのマグネチックスターラー15A,15Bの上に、それぞれ陽極室32A及び陰極室32Bが位置するように電解槽33を載置した。陽極室32Aには陽極10Aを、陰極室32Bには陰極10Bをそれぞれ設けた。陽極室32A及び陰極室32Bの底にスターラーチップ16A,16Bを置いた。陽極室32A及び陰極室32Bに、電解液35A,35Bとして、それぞれ0.25mol/L硫酸ナトリウム水溶液3.5Lずつを入れた。陽極10Aと陰極10Bとをそれぞれ電源11の正極及び負極に接続した。陰極室32Bの上部に、気体が漏れないようにカバー17を取り付けた。
【0065】
カバー17に、バルブV1が付いた排出管L1を接続し、その他端をエアポンプ21の入口に接続した。エアポンプ21の出口に配管L2を接続し、その他端を流量調節計22の入口に接続した。流量調節計22の出口に配管L3を接続し、その他端をアルミニウム製のエアバッグ23の入口に接続した。エアバッグ23の出口に配管L4を接続し、その他端を二酸化炭素濃度を計測できるポンプ装置(製品名:ECO-Probe;RS DYNAMICS社製)24の入口に接続した。ポンプ装置24の出口に、バルブV2が付いた導入管L5を接続し、その他端を電解槽33の陰極室32B内に挿入した。
【0066】
陰極室32B内に挿入した導入管L5の端部には散気管25を取付け、散気管25を陰極室32Bの底に置いた。また、陰極室32Bの電解液35BのpHを計測することができるように、pHメーター26の電極を当該電解液35Bに挿入した。
【0067】
<実験>
電源11によって陽極10Aと陰極10Bとの間に13Vの直流電圧を印加した。陰極室32Bの電解液35BのpHの経時変化を記録した。
【0068】
その後、エアバッグ23内に二酸化炭素濃度が約2000ppmの模擬エア7Lを充填した。次に、エアポンプ21及びポンプ装置24を駆動し、流量調節計22が0.5L/minを示すようにバルブV1,V2の開閉を調整した。これにより、模擬エアがエアバッグ23、ポンプ装置24、電解槽33、エアポンプ21、流量調節計22をこの順に循環するようにした。模擬エアの二酸化炭素濃度及び電解液35BのpHの経時変化を記録した。
【0069】
<結果>
模擬エアを循環させる前に電気分解した陰極室32Bの電解液35BのpHの経時変化を
図6に示す。電気分解の開始から40分程度でpHが12を超え、180分後に12.4となった。
【0070】
電解液35BのpH及び二酸化炭素濃度の経時変化を
図7に示す。二酸化炭素濃度は時間が経つにつれて低下し、60分でほぼゼロになった。これに対し、pHはほとんど変化しなかった。すなわち、3.5Lの電解液を用いた場合に、二酸化炭素濃度が2000ppmの模擬エア7Lを換気することができることが確認された。