特許第6386978号(P6386978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386978
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20180827BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   F16H7/08 B
   F02B67/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-151482(P2015-151482)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-32038(P2017-32038A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】國松 幸平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将成
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−206603(JP,A)
【文献】 特開平09−119491(JP,A)
【文献】 特開2003−202060(JP,A)
【文献】 特開2008−208945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方側にスリーブ底部を有したスリーブと、前記スリーブの軸線方向に沿って前進および後退可能に前記スリーブ内に挿入されるプランジャと、前記スリーブの後端側と前記プランジャの後端側との間に形成される圧油室に伸縮自在に収納されて前記プランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段とを備えたテンショナであって、
前記スリーブ底部には、オイル供給孔が形成され、
前記スリーブ底部の前面側には、前記オイル供給孔からのオイルの外部流出を防止するチェックバルブが配置され、
前記チェックバルブは、チェックボールと、前記スリーブ底部の前面側に配置され前記チェックボールの移動を規制するリテーナとを有し、
前記スリーブ底部には、前記オイル供給孔の縁部から一体に連続して前方側に向けて円筒状に突出し、前記チェックボールを着座させるボールシート部が形成され
前記リテーナは、前記チェックボールの前方側に配置される頂部と、前記頂部の周縁から後方側に垂下し、前記ボールシート部の外周側に配置されるスカート部とを有し、
前記ボールシート部および前記スカート部は、前方側から後方側に向けて縮径していることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記オイル供給孔の後方側には、前方側から後方側に向けて拡径するテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記スカート部には、前記スカート部の後端から前方側に向けて延びるスリット部が、周方向に複数形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するチェーンやベルト等に適正張力を付与するテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーン等の張力を適正に保持するためにテンショナを用いることが慣用されており、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、チェーン等の張力を適正に保持するために、テンショナによってテンショナレバーを付勢するものが公知である。
【0003】
このようなチェーンガイド機構に用いられる公知のテンショナ510は、図4に模式的に示すように、一方が開放したボディ穴521を有するテンショナボディ520と、ボディ穴521に摺動自在に挿入されるプランジャ540と、プランジャ540を前方側に向けて付勢する付勢手段560とを備えている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
このようなテンショナ510では、ボディ穴521とプランジャ540との間に形成された圧油室511にオイルが供給され、圧油室511内のオイルによってプランジャ540を前方側に向けて付勢するとともに、プランジャ540の往復動に伴ってプランジャ540とボディ穴521の間の僅かな隙間をオイルが流れ、その流路抵抗によってプランジャ540の往復動を減衰させるダンピング効果を得ている。また、ボディ穴521にはチェックバルブ550(模式的にチェックボールのみを図示)が配置され、このチェックバルブ550によって、外部から圧油室511へのオイルの流入を許容するとともに、オイル供給孔522からのオイルの外部流出を防止している。
【0005】
ところが、テンショナ510では、テンショナボディ520が鋳鉄あるいはアルミニウム合金のダイカスト製品であるため、プランジャ540の摩耗、焼き付き発生の防止を目的として、プランジャ540が摺動するボディ穴521の表面精度や耐久性を得るために、コーティングによる膜形成、平滑処理、あるいは機械加工等を必要とするという問題点がある。また、テンショナボディ520とプランジャ540とが異なる材料から形成されている場合、熱変形の程度に差が生じ、この熱変形の差が、テンショナボディ520に対するプランジャ540の摺動性やダンピング特性に悪影響を及ぼす場合もある。
【0006】
そこで、別部品の金属製のスリーブを、ボディ穴の内周面とプランジャの外周面との間に介在させることで、テンショナボディの素材の選択や、ボディ穴の内周面処理に係る設計自由度を確保することが提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0007】
この特許文献2に記載されるテンショナでは、ボディ穴よりも小径な穴部をテンショナボディに形成し、当該穴部をチェックバルブを設置する部位として利用している。
【0008】
ところが、近年、エンジンブロックに対してテンショナボディを取り付けるのではなく、エンジンブロックに対してスリーブを直接的に取り付ける使用態様を採用する場合があり、この場合、エンジンブロックに対するテンショナの取り付け作業を容易に達成するために、図5の参考例に示すように、チェックバルブ650についても、スリーブ630内に収容することが望ましい。
【0009】
図5に示すテンショナ610では、スリーブ底部632の前面に座ぐりを施すことでスリーブ凹部632aを形成し、当該スリーブ凹部632aに、チェックボール651を着座させるボールシート653を設置し、当該ボールシート653の前端にチェックボール651を着座させるとともに、チェックボール651の前方側にリテーナ652を配置することで、チェックボール651の移動を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−002495号公報
【特許文献2】特開2002−206603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、図5に示すテンショナ610では、スリーブ凹部632aとボールシート653との間に隙間が生じると、当該隙間からオイルが抜け出る恐れがあるため、スリーブ凹部632aおよびボールシート653の各シール面(具体的には、スリーブ凹部632aの底面とボールシート653の下面)を高精度に形成しなければならないという問題がある。
【0012】
また、スリーブ凹部632aに対してボールシート653が浮き上がると、スリーブ凹部632aとボールシート653との間に隙間が生じることから、付勢手段660(図5に示す例では、コイルばね660)によってボールシート653を後方側に向けて押し付ける必要があり、その結果、設計自由度が損なわれるとともに、テンショナ610の組み付け作業の難度が増すという問題もある。また、チェーン伸び等に起因して、コイルばね660のばね力が低下した場合、スリーブ凹部632aとボールシート653との間に隙間が生じる恐れもある。
【0013】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、加工負担や組付負担を低減するとともに、設計自由度を向上するテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、後方側にスリーブ底部を有したスリーブと、前記スリーブの軸線方向に沿って前進および後退可能に前記スリーブ内に挿入されるプランジャと、前記スリーブの後端側と前記プランジャの後端側との間に形成される圧油室に伸縮自在に収納されて前記プランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段とを備えたテンショナであって、前記スリーブ底部には、オイル供給孔が形成され、前記スリーブ底部の前面側には、前記オイル供給孔からのオイルの外部流出を防止するチェックバルブが配置され、前記チェックバルブは、チェックボールと、前記スリーブ底部の前面側に配置され前記チェックボールの移動を規制するリテーナとを有し、前記スリーブ底部には、前記オイル供給孔の縁部から一体に連続して前方側に向けて円筒状に突出し、前記チェックボールを着座させるボールシート部が形成され、前記リテーナは、前記チェックボールの前方側に配置される頂部と、前記頂部の周縁から後方側に垂下し、前記ボールシート部の外周側に配置されるスカート部とを有し、前記ボールシート部および前記スカート部は、前方側から後方側に向けて縮径していることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本請求項1に係る発明によれば、スリーブ底部に、オイル供給孔の縁部から一体に連続して前方側に向けて円筒状に突出し、チェックボールを着座させるボールシート部を形成することにより、構成部品の部品点数を低減して、組み付け作業に係る作業負担の低減を図ることができるばかりでなく、スリーブとボールシートとの間からオイルが抜け出る恐れを排除することが可能であるため、各構成要素の形成に関する要求精度を低減することができ、また、ボールシートの浮き上がりを考慮する必要がないため、スリーブ底部に対してボールシートを押し付けるための付勢手段を設ける必要がなく、その分、設計自由度を向上させることができる。
また、ボールシート部が、厚さが薄いスリーブ底部に形成されているとともに、オイル供給孔の縁部から一体に連続して前方側に向けて円筒状に突出した形状であるため、絞り加工によってボールシート部を形成することが可能であり、製造負担を低減することができる。
また、チェックバルブをスリーブ内に配置することにより、スリーブ内にプランジャおよびチェックバルブを設置した後には、これら構成部材を1つのユニットとして取り扱うことが可能であるため、エンジンブロック等に対してスリーブを直接的に取り付ける場合であっても、取り付け作業に係る作業負担を低減することができる。
【0016】
本請求項2に係る発明によれば、オイル供給孔の後方側に、前方側から後方側に向けて拡径するテーパ部が形成されていることにより、外部からオイル供給孔内にオイルを円滑に流入させることができ、また、絞り加工によってボールシート部を形成する場合には、別途に加工を施すことなく、オイル供給孔の後方側にテーパ部を形成することが可能であるため、加工負担の増加を回避することができる。
本請求項に係る発明によれば、ボールシート部およびスカート部が前方側から後方側に向けて縮径していることにより、テンショナの組み付け時に、ボールシート部にチェックボールを配置した後、ボールシート部にリテーナを嵌め込むことで、スリーブにチェックボールおよびリテーナを係止させることが可能であるため、スリーブ内へのプランジャやコイルばね等の組み付けを容易に行うことができる。
本請求項に係る発明によれば、スカート部に、スカート部の後端から前方側に向けて延びるスリット部が周方向に複数形成されていることにより、リテーナのスカート部を弾性的に拡径させることが可能であるため、ボールシート部に対するリテーナの嵌合を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るテンショナを組み込んだタイミングシステムを示す説明図。
図2】テンショナを示す断面図。
図3】スリーブの後端側を示す断面斜視図。
図4】従来例のテンショナを示す断面図。
図5】参考例のテンショナを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係るテンショナ10について、図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、本実施形態のテンショナ10は、自動車エンジンのタイミングシステム等に用いられるチェーン伝動装置に組み込まれるものであり、図1に示すように、エンジンブロック(図示しない)に取り付けられ、複数のスプロケットS1〜S3に掛け回された伝動チェーンCHの弛み側にテンショナレバーGを介して適正な張力を付与し、走行時に生じる振動を抑止するものである。
【0020】
テンショナ10は、図1図3に示すように、ボディ穴21を有したテンショナボディ20と、ボディ穴21内に挿入されるスリーブ30と、スリーブ30の軸線方向に沿って前進および後退可能にスリーブ30内に挿入されるプランジャ40と、チェックバルブ50と、スリーブ30の後端側とプランジャ40の後端側との間に形成される圧油室11に伸縮自在に収納されてプランジャ40を前方側(突出側)に向けて付勢する付勢手段としてのコイルばね60とを備えている。
【0021】
以下に、テンショナ10の各構成要素について、図面に基づいて説明する。
【0022】
テンショナボディ20は、アルミニウム合金や合成樹脂等から形成され、図1に示すように、一方側(前方側)が開放したボディ穴21と、テンショナボディ20の外壁からボディ穴21まで貫通するオイル供給孔22と、テンショナボディ20をエンジンブロックに固定するためのボルト等が挿通される取付孔を有した取付部23とを有している。
【0023】
スリーブ30は、鉄等の金属から形成され、図2図3に示すように、円筒状のスリーブ本体31と、スリーブ本体31の後端に形成されたスリーブ底部32とを一体に有している。
【0024】
スリーブ底部32には、図2図3に示すように、圧油室11内に外部からオイルを供給するためのオイル供給孔33が形成されている。このオイル供給孔33は、テンショナボディ20にスリーブ30を配置した状態で、テンショナボディ20のオイル供給孔22に連通する。
【0025】
また、スリーブ底部32には、図2図3に示すように、オイル供給孔33の縁部から一体に連続して前方側に向けて円筒状に突出するボールシート部34が形成されている。このボールシート部34は、その前端部にチェックバルブ50のチェックボール51を着座させる部位として機能する。ボールシート部34は、スリーブ底部32を後面側から前面側に押し込む絞り加工によって形成され、この絞り加工の結果として、オイル供給孔33の後方側には、前方側から後方側に向けて拡径するテーパ部33aが形成される。また、ボールシート部34は、前方側から後方側に向けて縮径している。
【0026】
プランジャ40は、鉄等の金属から形成され、プランジャ40の内部には、図2図3に示すように、後方側に開口するプランジャ穴41が形成されている。
【0027】
チェックバルブ50は、オイル供給孔22、33を通じた外部から圧油室11へのオイルの流入を許容するとともに、オイル供給孔22、33からのオイルの外部流出を防止するものであり、図2図3に示すように、スリーブ底部32の前面側に配置されている。
【0028】
チェックバルブ50は、図2図3に示すように、ボールシート部34の前端部に密着可能に着座する球状のチェックボール51と、スリーブ底部32の前面側に取り付けられチェックボール51の移動を規制するリテーナ52と、チェックボール51とリテーナ52との間に配置されたボールスプリング(図示しない)とから構成されている。ボールスプリング(図示しない)は、チェックボール51をボールシート部34側に向けて付勢するものであるが、ボールスプリング(図示しない)を設けなくてもよい。また、チェックボール51およびリテーナ52は、金属から形成されている。
【0029】
リテーナ52は、図2図3に示すように、チェックボール51の前方側に配置される略円板状の頂部52aと、頂部52aの周縁から後方側に垂下し、ボールシート部34の外周側に配置されるスカート部52bと、スカート部52bの後端から外周側に広がる複数のフランジ部52cとを有している。スカート部52bは、前方側から後方側に向けて縮径しており、また、スカート部52bには、スカート部52bの後端から前方側(前端)に向けて延びるスリット部52dが、周方向に複数形成されている。
【0030】
コイルばね60は、図2図3に示すように、その前端がプランジャ40のプランジャ穴41の底面に接触するととともに、その後端がリテーナ52のフランジ部52cの前面に接触するように配置され、プランジャ40を前方側に向けて付勢するように構成されている。
なお、本実施形態では、コイルばね60の後端がリテーナ52のフランジ部52cに接触するように配置したが、コイルばね60の後端の配置は上記に限定されず、例えば、コイルばね60の後端が、フランジ部52cに接触することなく、フランジ部52cの外周側に配置されていてもよい。
【0031】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、テンショナが自動車エンジン用のタイミングシステムに組み込まれるものとして説明したが、テンショナの具体的用途はこれに限定されない。
また、上述した実施形態では、テンショナがテンショナレバーを介して伝動チェーンに張力を付与するものとして説明したが、プランジャの先端で直接的に伝動チェーンの摺動案内を行い、伝動チェーンに張力を付与するようにしてもよい。
さらに、伝動チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、長尺物に張力を付与することが求められる用途であれば、種々の産業分野において利用可能である。
また、上述した実施形態では、エンジンブロック等のテンショナの周辺環境に取り付けられるテンショナボディ内にスリーブを設置するものとして説明したが、スリーブをエンジンブロック等に直接的に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 ・・・ テンショナ
11 ・・・ 圧油室
20 ・・・ テンショナボディ
21 ・・・ ボディ穴
22 ・・・ オイル供給孔
23 ・・・ 取付部
30 ・・・ スリーブ
31 ・・・ スリーブ本体
32 ・・・ スリーブ底部
33 ・・・ オイル供給孔
33a ・・・ テーパ部
34 ・・・ ボールシート部
40 ・・・ プランジャ
41 ・・・ プランジャ穴
50 ・・・ チェックバルブ
51 ・・・ チェックボール
52 ・・・ リテーナ
52a ・・・ 頂部
52b ・・・ スカート部
52c ・・・ フランジ部
52d ・・・ スリット部
60 ・・・ コイルばね(付勢手段)
S1〜S3 ・・・スプロケット
CH ・・・伝動チェーン
G ・・・テンショナレバー
図1
図2
図3
図4
図5