(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線CTスキャンにより得られたスキャンデータにおいて、放射線検出レベルが所定の閾値未満である高ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が抑制される抑制処理を行い、放射線検出レベルが前記所定の閾値以上である低ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が強調される強調処理を行う処理ステップと、
前記処理ステップによる処理が行われたスキャンデータに基づいて、画像を再構成する再構成ステップと、をコンピュータに実行させる画像生成方法。
放射線CTスキャンにより得られたスキャンデータにおいて、放射線検出レベルが所定の閾値未満である高ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が抑制される抑制処理を行い、放射線検出レベルが前記所定の閾値以上である低ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が強調される強調処理を行う処理手段と、
前記処理手段による処理が行われたスキャンデータに基づいて、画像を再構成する再構成手段と、を備えた画像生成装置。
前記処理手段は、前記低ノイズレベル部分において、前記放射線検出レベルが高くなると前記強調処理の程度を強くする、請求項2または請求項3に記載の画像生成装置。
前記放射線CTスキャンは、放射線源と複数の検出素子が配列された放射線検出器とを被写体の周りに回転させて、前記放射線源から放射線を前記撮影対象に放射させ、前記撮影対象の透過放射線を前記放射線検出器にて検出することにより行われる、請求項2から請求項12のいずれか一項に記載の画像生成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スキャンデータへの平滑化処理は、再構成画像の鮮鋭度を低下させるという副作用を伴うので、平滑化の程度にも限度があり、結果としてファイン・ストリーク・アーチファクトを十分に抑制できない場合がある。
【0007】
このような事情により、放射線断層像におけるストリーク・アーチファクトをより低減することが可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点の発明は、
放射線CTスキャン(radiation Computed Tomography scan)により得られたスキャンデータにおいて、放射線検出レベルが所定の閾値未満である高ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が抑制される抑制処理を行い、放射線検出レベルが前記所定の閾値以上である低ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が強調される強調処理を行う処理ステップ(step)と、
前記処理ステップによる処理が行われたスキャンデータに基づいて、画像を再構成する再構成ステップと、をコンピュータ(computer)に実行させる画像生成方法を提供する。
【0009】
第2の観点の発明は、
放射線CTスキャンにより得られたスキャンデータにおいて、放射線検出レベルが所定の閾値未満である高ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が抑制される抑制処理を行い、放射線検出レベルが前記所定の閾値以上である低ノイズレベル部分に対しては、ノイズ成分が強調される強調処理を行う処理手段と、
前記処理手段による処理が行われたスキャンデータに基づいて、画像を再構成する再構成手段と、を備えた画像生成装置を提供する。
【0010】
第3の観点の発明は、
前記処理手段が、前記高ノイズレベル部分において、前記放射線検出レベルが低くなると前記抑制処理の程度を強くする、上記第2の観点の画像生成装置を提供する。
【0011】
第4の観点の発明は、
前記処理手段が、前記低ノイズレベル部分において、前記放射線検出レベルが高くなると前記強調処理の程度を強くする、上記第2の観点または第3の観点の画像生成装置を提供する。
【0012】
第5の観点の発明は、
前記スキャンデータが、対数変換前の放射線検出器データである、上記第2の観点から第4の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0013】
第6の観点の発明は、
前記スキャンデータが、対数変換後の投影データである、上記第2の観点から第4の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0014】
第7の観点の発明は、
前記スキャンデータが、1ビューに対応するデータである、上記第2の観点から第6の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0015】
第8の観点の発明は、
前記抑制処理が、平滑化フィルタ(filter)を用いる処理である、上記第2の観点から第7の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0016】
第9の観点の発明は、
前記強調処理が、鮮鋭化フィルタを用いる処理である、上記第2の観点から第8の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0017】
第10の観点の発明は、
前記強調処理が、ノイズ成分を加える処理である、上記第2の観点から第8の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0018】
第11の観点の発明は、
前記所定の閾値が、前記画像の解析結果に基づいて調整される、上記第2の観点から第10の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0019】
第12の観点の発明は、
前記放射線が、X線である、上記第2の観点から第11の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0020】
第13の観点の発明は、
前記放射線CTスキャンが、放射線源と複数の検出素子が配列された放射線検出器とを被写体の周りに回転させて、前記放射線源から放射線を前記撮影対象に放射させ、前記撮影対象の透過放射線を前記放射線検出器にて検出することにより行われる、上記第2の観点から第12の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を提供する。
【0021】
第14の観点の発明は、
上記第2の観点から第13の観点のいずれか一つの観点の画像生成装置を含む放射線断層撮影装置を提供する。
【0022】
第15の観点の発明は、
コンピュータを、上記第2の観点から第13の観点のいずれか一つに記載の画像生成装置における各手段として機能させるためのプログラム(program)を提供する。
【発明の効果】
【0023】
上記観点の発明によれば、スキャンデータにおいて、放射線検出レベルが所定の閾値未満となる高ノイズレベル部分に対しては抑制処理を行い、放射線検出レベルが閾値以上となる低ノイズレベル部分に対しては強調処理を行う。これにより、ノイズレベルが高い部分を低くするだけでなく、ノイズレベルが低い部分についても逆に積極的に高くすることで、ノイズレベルの均一化を従来よりも進めることができ、ノイズレベルの不均一さに基づくストリーク・アーチファクトをより低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明の実施形態について説明する。なお、これにより発明は限定されない。
【0026】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置(X-ray Computed Tomography system)のハードウェアの構成を概略的に示す図である。
【0027】
図1に示すように、X線CT装置1は、ガントリ(gantry)2、撮影テーブル(imaging table)4、及び操作コンソール6を備えている。
【0028】
ガントリ2は、X線管21、アパーチャ(aperture)22、コリメータ装置(collimator device)23、X線検出器24、データ収集部25、回転部26、高電圧電源27、アパーチャ駆動装置28、回転駆動装置29、及びガントリ・テーブル制御部30を有している。
【0029】
X線管21及びX線検出器24は、空洞部2Bを挟み対向して配置されている。
【0030】
アパーチャ22は、X線管21と空洞部2Bとの間に配置されている。X線管21のX線焦点からX線検出器24に向けて放射されるX線をファンビーム(fan beam)やコーンビーム(cone beam)に成形する。
【0031】
コリメータ装置23は、空洞部2BとX線検出器24との間に配置されている。コリメータ装置23は、X線検出器24に入射する散乱線を除去する。
【0032】
X線検出器24は、X線管21から放射される扇状のX線ビームの広がり方向(チャネル(channel)方向という)および厚み方向(列方向という)に、2次元的に配列された複数のX線検出素子を有している。各X線検出素子は、空洞部2Bに配された被検体5の透過X線をそれぞれ検出し、その強度に応じた電気信号を出力する。被検体5は、例えば、人間や動物などの生体である。
【0033】
データ収集部25は、X線検出器24の各X線検出素子から出力される電気信号を受信し、X線データに変換して収集する。
【0034】
回転部26は、空洞部2Bの周りに回転可能に支持されている。回転部26には、X線管21、アパーチャ22、コリメータ装置23、X線検出器24、及びデータ収集部25が搭載されている。
【0035】
撮影テーブル4は、クレードル(cradle)41、クレードル駆動装置42を有している。被検体5は、クレードル41の上に載置される。クレードル駆動装置42は、クレードル41をガントリ2の空洞部2Bすなわち撮影空間に入れ出しする。
【0036】
高電圧電源27は、X線管21に高電圧及び電流を供給する。
【0037】
アパーチャ駆動装置28、アパーチャ22を駆動しその開口を変形させる。
【0038】
回転駆動装置29、回転部26を回転駆動する。
【0039】
ガントリ・テーブル制御部30は、ガントリ2内の各装置・各部、撮影テーブル4等を制御する。
【0040】
操作コンソール6は、操作者からの各種操作を受け付ける。操作コンソール6は、入力装置61、表示装置62、記憶装置63、及び演算処理装置64を有している。本例では、操作コンソール6は、コンピュータにより構成されている。
【0041】
なお、ここでは、
図1に示すように、被検体5の体軸方向、すなわち撮影テーブル4による被検体5の搬送方向をz方向とする。また、鉛直方向をy方向、y方向およびz方向に直交する水平方向をx方向とする。
【0042】
次に、本実施形態に係るX線CT装置の機能について説明する。本実施形態に係るX線CT装置は、従来のストリーク・アーチファクト低減処理では低減し切れなかったファイン・ストリーク・アーチファクトをより低減することが可能な補正機能を有する。
【0043】
図2に本提案によるファイン・ストリーク・アーチファクトの補正方法のコンセプトを示す。スキャンデータに見られるノイズレベルは、被検体をX線が透過する長さ(透過長)に依存する。これは、透過長が長いほどその途中でX線光子(X-ray photon)を失い、光子量に対して相対的にノイズが大きくなることにより、ノイズレベルを高くすることによる。
図2(a)[左]に示すように、断層面において、人体のセンター上下方向(前後方向またはAP方向)には心臓領域や高X線吸収体である脊椎を含むため、透過長が長くノイズレベルが高くなる。一方、人体の上下方向で肺野領域を通過する位置においては、高X線吸収体である脊椎は含まれず肺野もほとんどが空気であるため、実質的な透過長は短く、センター(center)上下方向の場合と比較してノイズレベルが低い。また、横方向(左右方向)においても、肺野を通る位置では心臓領域は含んでも高X線吸収体である脊椎を含まないため、センター上下方向の場合と比較して透過長が短くノイズレベルが低い。
【0044】
本提案法では、
図2(b)[右]に示すように、上述したノイズレベルをいずれの位置においても、またいずれの方向においても均一にすることを目的とする。
【0045】
図3に本提案によるファイン・ストリーク・アーチファクトの補正方法のコンセプトのつづきを示す。補正処理を行うタイミング(timing)としては、いわゆる前処理と逆投影処理に対して、いくつかのタイミングが考えられるが、大きく分けて2つのタイミングがある。一つは、処理の前半で、スキャンデータがX線光子のカウント量を表現している段階で処理するケースである。もう一つは、処理の後半で、スキャンデータが時間的・空間的ノーマライズ(normalize)が済んで投影データ(projection)を表す段階で処理するケースである。なお後者のケースでは、対数変換の前と後という選択肢も考えられる。
【0046】
図3では、対数変換を含む前処理によって得られた投影データに対して処理するケースの一例を示している。基本的なコンセプトとしては、スキャンデータにおいて、X線検出レベルが所定の閾値未満となる部分、すなわち投影データのデータ値(波高)が閾値を超える高ノイズレベル部分に対しては抑制処理を行う。一方、スキャンデータにおいて、X線検出レベルが閾値以上となる部分、すなわち投影データのデータ値(波高)が閾値以下となる低ノイズレベル部分に対しては強調処理を行う。そして、より好ましくは、ノイズレベルが高いほど抑制処理の程度を強め、ノイズレベルが低いほど強調処理の程度を強める。これにより、ノイズレベルが高い部分を低くするだけでなく、ノイズレベルが低い部分についても逆に積極的に高くすることで、ノイズレベルの均一化を従来よりも進めることができ、ノイズレベルの不均一さに基づくストリーク・アーチファクトをより低減することができる。
【0047】
スキャンデータへの抑制処理は、通常、ノイズ成分だけでなく非ノイズ成分に対しても抑制効果が働き、再構成画像の鮮鋭度を低下させる。そのため、行える抑制処理の程度には限度がある。また、本来、ノイズレベルが高いと再構成画像の画質に悪影響を及ぼすため、ノイズレベルを高くする処理を行うことは考えない。そこで、一般的には従来のように、ノイズレベルが高い部分に対して抑制処理を行うことによりノイズレベルの均一化を図ることが考えられる。ただし、この場合には、ノイズレベルがもともと低い部分におけるノイズレベルまでは届かず、ノイズレベルの完全な均一化は難しくなる場合がある。
【0048】
しかしながら、ノイズレベルの程度によっては、ノイズレベルを上げることによる悪影響よりも、ノイズレベルの均一化が進むことによるファイン・ストリーク・アーチファクトの低減効果の方が大きなメリットとして得られることが多い。本提案法は、このような観点から、創作価値の高い手法であると言える。
【0049】
図4は、本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソールの機能ブロック図(block diagram)である。
【0050】
本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソール6は、上記機能を実現させるための機能ブロックとして、スキャン制御部71、X線検出レベル特定部72、フィルタ係数決定部73、フィルタ適用部74、前処理部75、画像再構成部76、及び表示制御部77を有している。
【0051】
なお、X線検出レベル特定部72、フィルタ係数決定部73、フィルタ適用部74、及び前処理部75は発明における処理手段の一例である。また、画像再構成部76は発明における再構成手段の一例である。
【0052】
また、操作コンソール6は、演算処理装置64が所定のプログラム(program)を実行することにより各機能ブロックとして機能する。所定のプログラムは、例えば、記憶装置63または外部接続された記憶装置または記憶媒体90に記憶されている。
【0053】
スキャン制御部71は、操作者の操作に応じて、スキャンが実施されるようガントリ・テーブル制御部30を制御する。
【0054】
X線検出レベル特定部72は、スキャンによって得られたスキャンデータにおいて、チャネルデータごとにX線検出レベルを特定する。X線検出レベルは、検出素子で検出されたX線の強度もしくは計数されたフォトンのカウント数に応じたレベルであり、X線の強度やフォトンのカウント数が増大すると、このX線検出レベルも高くなる。別の言い方をすると、撮影対象でのX線透過長が長いほど、あるいはX線の減弱が大きいほど、X線検出レベルは低くなり、撮影対象でのX線透過長が短いほど、あるいはX線の減弱が小さいほど、X線検出レベルは高くなる。
【0055】
フィルタ係数決定部73は、特定されたX線検出レベルに応じてフィルタの係数を決定する。
【0056】
フィルタ適用部74は、決定された係数によるフィルタを放射線検出器データまたは投影データに適用する。
【0057】
前処理部75は、放射線検出器データに対数変換を含む前処理を行って投影データを得る。
【0058】
画像再構成部76は、投影データに基づいて断層像を再構成する。
【0059】
表示制御部77は、再構成された断層像を画面に表示するよう表示装置62を制御する。
【0060】
次に、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れについて説明する。
【0061】
図5は、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れを示すフロー図(flowchart)である。
【0062】
ステップS1では、スキャンを行う。具体的には、スキャン制御部71がガントリ・テーブル制御部30を制御して、撮影対象である被検体の撮影部位5hのスキャンを実施する。
【0063】
図6は、本実施形態における被検体の撮影部位5hがスキャンされる様子を模式的に示す図である。本例では、
図6に示すように、クレードル41に載置された被検体5の撮影部位5hを含む撮影空間R1に対してスキャンが実施される。スキャンは、X線管21及びX線検出器24を被検体5の周りに回転させながら、X線管21のX線焦点から被検体5にX線を照射することにより行われる。またスキャンは、ビュー角度範囲を180度+X線ビームのファン角(fan angle)αとする、いわゆるハーフスキャン(half scan)とする。スキャンを実施すると、複数ビュー(view)のX線検出器データが収集される。1ビューのX線検出器データDは、X線検出素子ごとにその出力値に応じたチャネルデータDi,jを有している。X線透過長が長くX線の減弱が大きいX線パス(path)に対応したチャネルデータは、X線検出素子の出力が小さくなるため、X線検出レベルは小さくなる。
【0064】
ステップS2では、X線検出器データの前処理を行う。具体的には、前処理部75が、収集された複数ビューのX線検出器データDに対して対数変換処理を含む前処理を「行い、複数ビューの投影データIを得る。
【0065】
次式は、前処理を表す計算式の一例である。
【数1】
ここで、lは透過経路長、μはX線吸収係数、D0はX線空気データ値、DはX線検出器データ値である。
【0066】
ステップS3では、処理対象のビューを指定する。具体的には、X線検出レベル特定部72が、処理対象にする投影データのビューを指定する。
【0067】
ステップS4では、処理対象のチャネルを指定する。具体的には、X線検出レベル特定部72が、処理対象にするチャネルデータのチャネルを指定する。
【0068】
ステップS5では、X線検出レベルを特定する。具体的には、X線検出レベル特定部72が、指定されたビュー及びチャネルのデータについて、そのX線検出レベルを特定する。ここでは、処理対象が対数変換後の投影データなので、そのデータ値(波高)を、X線検出レベルを表す指標として特定するとともに、データ値が大きいほどX線検出レベルは小さくなり、データ値が小さいほどX線検出レベルは大きくなると考える。
【0069】
ステップS6では、フィルタの重み係数を決定する。具体的には、フィルタ係数決定部73が、ステップS5で特定したX線検出レベルに応じて、処理対象のデータに適用するフィルタの重み係数を決定する。
【0070】
次式にフィルタの計算式の一例を示す。
【数2】
ここで、Ii,jはチャネル番号i、列番号jの検出素子に対応したデータ値、Wは重み係数のセット、n1,n2は任意の定数、Th1は第1の閾値、Th2は第2の閾値である。
【0071】
図7に投影データにおけるデータ値(波高)とフィルタの重み係数との関係の一例を示す。フィルタの重み係数は、この関係に基づいて決定される。
【0072】
本例では、投影データにおけるデータ値Iが第1の閾値Th1以上であるとき、フィルタの第1の重み係数w1及び第2の重み係数w2はいずれも正の値を取り、第3の重み係数w3も正の値を取ることになる。つまり、適用されるフィルタは平滑化フィルタとなり、このときのフィルタ処理は、ノイズ成分が抑制される抑制処理となる。また、第1の重み係数w1及び第2の重み係数w2は投影データのデータ値Iが大きいほど大きくなり、抑制処理の程度は強くなるが、データ値Iが第2の閾値Th2以上になると頭打ちとなる。
【0073】
一方、投影データにおけるデータ値Iが第1の閾値Th1未満であるとき、フィルタの第1の重み係数w1及び第2の重み係数w2はいずれも負の値を取り、第3の重み係数w3は正の値を取ることになる。つまり、適用されるフィルタは鮮鋭化フィルタとなり、このときのフィルタ処理は、ノイズ成分が強調される強調処理となる。また、第1の重み係数w1及び第2の重み係数w2は投影データのデータ値Iが小さいほど小さくなり、強調処理の程度は強くなるが、データ値Iが0以下になると底打ちとなる。
【0074】
すなわち、このようなフィルタは、次のような機能を持つことになる。データ値Iが第1の閾値Th1未満であるとき、そのデータはX線検出レベルが高い低ノイズレベル部分であるとみなし、そのデータに対して強調処理を行う。一方、データ値Iが第1の閾値Th1以上であるとき、そのデータはX線検出レベルが低い高ノイズレベル部分であるとみなし、そのデータに対して抑制処理を行う。そして、データのX線検出レベルに応じて、強調処理または抑制処理の程度を調整する。これにより、各チャネルのデータにおけるノイズレベルは、高い精度で均一化される。
【0075】
なお、第1の閾値Th1、第2の閾値Th2、第1の重み係数w1及び第2の重み係数w2の変化範囲やデータ値に対する変化の割合(傾き)等は、経験則やシミュレーション(simulation)結果から適切に決定する。
【0076】
ステップS7では、フィルタを適用する。具体的には、フィルタ適用部74が、処理対象のデータに対して、ステップS6で決定された係数によるフィルタを適用して、抑制処理または強調処理を行う。
【0077】
ステップS8では、処理対象のチャネルが最後であるかを判定する。具体的には、X線検出レベル特定部72が、処理対象にするチャネルデータのチャネルが、処理対象のビューの投影データにおいて、最後であるかを判定する。最後であれば、次のステップに進む。最後でなければ、ステップS4に戻り、チャネルを更新して処理を続ける。
【0078】
ステップS9では、処理対象のビューが最後であるかを判定する。具体的には、X線検出レベル特定部72が、処理対象にする投影データのビューが、複数ビューの投影データにおいて、最後であるかを判定する。最後であれば、次のステップに進む。最後でなければ、ステップS3に戻り、ビューを更新して処理を続ける。
【0079】
ステップS10では、画像再構成を行う。具体的には、画像再構成部76が、フィルタ処理済みの投影データに基づいて、断層像を再構成する。
【0080】
ステップS11では、断層像を表示する。具体的には、表示制御部77が、ステップS9で再構成された断層像を画面に表示するよう、表示装置62を制御する。
【0082】
図8に本提案法の第1の適用例を示す。この図は、実際の肩関節領域の臨床画像である。
図8において、(a)[左上]は補正なしの画像、(b)[中央]は従来法すなわち高ノイズレベル部分に抑制処理を行う補正による画像、(c)[右下]は本提案法による画像である。補正なしの画像では、左右の肩関節の間に強いファイン・ストリーク・アーチファクトが認められる。従来法の画像では、ノイズレベルの均一化が部分的であるため、方向性・位置依存性のあるファイン・ストリーク・アーチファクトの低減は限定的であることが分かる。また、背景の画像ノイズが低減することにより、かえってファイン・ストリーク・アーチファクトがより目立つという副作用も生じる。一方、本提案法の画像では、角度・位置によらずノイズレベルを均一化しようとするため、従来法よりもファイン・ストリーク・アーチファクトの低減効果が認められる。また、本提案法の画像では、他の画像と比較して空間分解能がよいことも分かる。
【0083】
図9に本提案法の第2の適用例を示す。この図は、実際の肝臓領域の臨床画像である。
図9において、(a)[左上]は補正なしの画像、(b)[左下]は補正なしの画像の一部拡大図、(c)[右上]は本提案法による画像、(d)[右下]は本提案法による画像の一部拡大図である。また、
図9の(e)[中央下]は本提案法の適用前後での差分を表す画像である。補正なしの画像では、肝臓内に脊椎からのファイン・ストリーク・アーチファクトが見られる。差分画像からは、方向的・位置的に特徴のあるファイン・ストリーク・アーチファクトが見て取れる。つまり、本提案法によるファイン・ストリーク・アーチファクトの低減効果により画質が大きく改善されていることが理解できる。また、本提案法の画像では、他の画像と比較して空間分解能がよい。
【0084】
図10に本提案法の第3の適用例を示す。この図は、実際の肺野領域の臨床画像である。
図10において、(a)[左]は補正なしの画像、(b)[中央]は従来法による画像、(c)[右]は本提案法による画像である。補正なしの画像では、肺野領域の下部に脊椎方向から生じているファイン・ストリーク・アーチファクトが見られる。従来法では、基本的に抑制処理を行うので、ファイン・ストリーク・アーチファクトは減されるが、同時に空間分解能の低下もみられる。一方、本提案法では、抑制処理と強調処理とを組み合わせて行うので、全体的に透過長の短い肺野領域においては強調処理が優位となり、肺野領域の空間分解能は向上している。
【0085】
図11に本提案法の第4の適用例を示す。この図は、人体模擬ファントムの画像である。
図11において、(a)[上]は補正なしの画像、(b)[下]は本提案法による画像である。補正なしの画像では、全体的に横方向に強めのファイン・ストリーク・アーチファクトが見られる。本提案法による画像から、ファイン・ストリーク・アーチファクトの大きな低減効果が確認できる。また、本提案法の画像は、他の画像と比較して空間分解能がよい。
【0086】
図12に本提案法の第5の適用例を示す。この図は、実際の心臓領域の臨床画像である。
図12において、(a)[左上]は補正なしの画像、(b)[左下]は補正なしの画像の一部拡大図、(c)[中央上]は従来法による画像、(d)[中央下]は従来法による画像の一部拡大図、(e)[右上]は本提案法による画像、(f)[右下]は本提案法による画像の一部拡大図である。補正なしの画像では、心臓内に脊椎からのファイン・ストリーク・アーチファクトが見られる。本提案法による画像では、ファイン・ストリーク・アーチファクトが非常によく低減されているのが分かる。空間分解能もよい。
【0087】
なおここで、z方向におけるノイズレベルの均一性について検討する。
【0088】
図13は、当該検討を説明するための図である。一般的に、人体の透過長が短いところでは、X線光子の減衰量が少なく、結果として再構成画像のノイズは少なくなる傾向にある。また逆に、人体の透過長が長いところでは、X線光子の減衰量が大きく、結果として画像ノイズが多くなる傾向にある。そのため、人体のように不均一な構造物の場合、肺野領域では画像ノイズが少なめであり、腹部領域では画像ノイズが多めとなり、z方向すなわち体軸方向に画像ノイズレベルの不均一を生じることとなる。
【0089】
一方、本提案法は、人体の肺野領域では透過長が短く強調処理として働くために、肺野領域のノイズレベルを上昇させ、腹部領域では透過長が長く抑制処理として働くために、腹部領域のノイズレベルを低下させる。そのため、先ほど述べたような体軸方向の画像ノイズレベルの不均一さを改善することにも本提案法は有効である。
【0090】
以上、本実施形態によれば、スキャンデータにおいて、X線検出レベルが所定の閾値未満となる高ノイズレベル部分に対しては抑制処理を行い、X線検出レベルが閾値以上となる低ノイズレベル部分に対しては強調処理を行う。これにより、ノイズレベルが高い部分を低くするだけでなく、ノイズレベルが低い部分についても逆に高くすることで、ノイズレベルの均一化を従来よりも進めることができ、ノイズレベルの不均一さに基づくファイン・ストリーク・アーチファクトをより低減することができる。また、本実施形態では、ファイン・ストリーク・アーチファクトが低減されているにもかかわらず、空間分解能の劣化はほとんどない。
【0091】
また、本実施形態では、ノイズレベルが高いほど抑制処理の程度を強め、ノイズレベルが低いほど強調処理の程度を強める。これにより、ノイズレベルの均一化をより高い精度で進めることができ、ファイン・ストリーク・アーチファクトの低減効果をさらに高めることができる。
【0092】
なお、発明は、上記実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0093】
例えば、本実施形態では、第1の閾値Th1は固定であるが、投影データもしくは再構成画像の解析結果に基づいてスキャンデータのノイズレベルがより均一になるよう自動調整するようにしてもよい。
【0094】
また例えば、本実施形態では、スキャンデータにおける低ノイズレベル部分に対して強調処理を行ってノイズレベルを上げているが、単純にノイズを加える処理を行ってノイズレベルを上げるようにしてもよい。この場合でもノイズレベルの均一化は促されるので、ファイン・ストリーク・アーチファクトの低減効果が期待できる。
【0095】
また、本実施形態は、X線CT装置であるが、発明は、X線以外の放射線、例えばガンマ線を用いる断層撮影装置にも適用可能である。
【0096】
また、コンピュータを上記X線CT装置における制御や処理を行う各手段として機能させるためのプログラムやこれを記録した記録媒体もまた、発明の実施形態の一例である。