(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386995
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】大腸がんの検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20180827BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20180827BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
G01N33/574 Z
G01N33/53 D
G01N33/577 B
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-511175(P2015-511175)
(86)(22)【出願日】2014年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2014057588
(87)【国際公開番号】WO2014167969
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-80303(P2013-80303)
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513086728
【氏名又は名称】テオリアサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】太田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 博之
(72)【発明者】
【氏名】園田 光
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
【審査官】
草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0309018(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/006476(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/040525(WO,A1)
【文献】
SILVA J. et al.,Analysis of exosome release and its prognostic value in human colorectal cancer.,Genes Chromosomes Cancer.,2012年 4月,Vol.51,No.4,Page.409-418
【文献】
Cauchon E. et al.,Development of a homogeneous immunoassay for the detection of angiotensin I in plasma using AlphaLIS,Analytical Biochemistry,2009年 5月,Vol.388,No.1,Page.134-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、被験者に由来する体液試料中のCD9とCD147とを発現しているエクソソーム量を測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる、大腸がんの検出方法。
【請求項2】
体液試料中のエクソソーム量を測定する工程が、エクソスクリーン法又はサンドイッチELISA法を使用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗CD9モノクローナル抗体又はその断片が、受託番号FERM BP−11519として寄託されているハイブリドーマにより産出されるモノクローナル抗体である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項5】
抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、治療後の被験者に由来する体液試料中のCD9とCD147とを発現しているエクソソーム量を測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、治療前の被験者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、治療後におけるシグナル強度が治療前におけるシグナル強度より弱いと認められる場合に、前記治療が大腸がんの治療効果を有すると評価する工程を含む、大腸がん治療の評価方法に使用するための、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなるキット。
【請求項6】
抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とによって認識されるエクソソームの大腸がんのマーカーとしての使用。
【請求項7】
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、被験者に由来する体液試料中のCD63とCD147とを発現しているエクソソーム量をエクソスクリーン法により測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる、大腸がんの検出方法。
【請求項8】
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片が、受託番号FERM BP−11520として寄託されているハイブリドーマにより産出されるモノクローナル抗体か、又は受託番号FERM BP−11521として寄託されているハイブリドーマにより産出されるモノクローナル抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなる、請求項7又は8に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項10】
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、治療後の被験者に由来する体液試料中のCD63とCD147とを発現しているエクソソーム量をエクソスクリーン法により測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、治療前の被験者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、治療後におけるシグナル強度が治療前におけるシグナル強度より弱いと認められる場合に、前記治療が大腸がんの治療効果を有すると評価する工程を含む、大腸がん治療の評価方法に使用するための、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなるキット。
【請求項11】
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とによって認識されるエクソソームの大腸がんのマーカーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸がんの検出方法に関する。さらに詳しくは、サンプル中のエクソソーム(Exosome)表面の特定抗原(CD9、CD63、CD147)に対するモノクローナル抗体又はそれらの抗体断片を用いて、大腸がんの存在を検出するための方法や大腸がんの治療効果を評価する方法、及びこれらの方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、生体内の体液中に存在する小胞顆粒である。エクソソーム表面には、一般的な細胞表面と同様に、種々の膜タンパク質が存在することが知られている。また、エクソソームは、種々の細胞、例えば免疫系の細胞や各種がん細胞から分泌されることが報告されており、生体内の細胞間コミュニケーションの媒介役として機能し生理現象と関連することや、がんなどの疾患との関連性が注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、卵巣がん患者の腹水と血中からエクソソームを単離し、それらが免疫系細胞へ取り込まれて免疫を抑制することで、腫瘍が増大することを報告している。エクソソームの検出には、CD24、ADAM10、CD9の抗体を用いている。
【0004】
また、特許文献1では、生体に存在する小胞の表面マーカーとして、CD9、CD31、CD63、CD81、CD82、CD37、CD53等を用いて各種がんの診断を行なうことが開示されている。非特許文献2では、HAb18G/CD147が28種のがん細胞において正常細胞より多く発現していることから、該タンパク質のモノクローナル抗体を腫瘍バイオマーカーとして用いることができると開示されている。非特許文献3では、胃がん患者の血漿に存在する微小胞には、MAGE−1とHER−2/neuの発現が増加していることが報告されている。非特許文献4には、血清中のCA19−9を測定する癌抗原診断用キットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2012/115885号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sascha Keller,et al.、Cancer Letters、2009、278、p73-81
【非特許文献2】Yu Li,et al.、Histopathology、2009、54、p677-687
【非特許文献3】Jaroslaw Baran,et al.、Cancer Immunol Immunother、2010、59、p841-850
【非特許文献4】アキシム(登録商標)CA 19-9ダイナパック(登録商標)添付文書、アボットジャパン株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エクソソームなどの小胞顆粒に存在する膜タンパク質をバイオマーカーとして、がんを検出することは可能である。しかしながら、サンプルの種類や用いる抗体によっては、感度や特異性の変動が大きい等の理由から十分な結果を得ることが困難であり、従前からのがんの診断では、偽陽性となる場合があり、診断の精度に問題があった。よって、エクソソームを検出することで精度よくがんを検出するために、さらなる技術の開発が必要である。
【0008】
本発明の課題は、エクソソームを測定することで大腸がんを検出する方法、及び該方法に用いるキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の〔1〕〜〔
8〕に関する。
〔1〕 抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、被験者に由来する体液試料中のCD9とCD147とを発現しているエクソソーム量を測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる、大腸がんの検出方法。
〔2〕 抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなる、前記〔1〕に記載の方法に使用するためのキット。
〔3〕 抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、治療後の被験者に由来する体液試料中のCD9とCD147とを発現しているエクソソーム量を測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、治療前の被験者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、治療後におけるシグナル強度が治療前におけるシグナル強度より弱いと認められる場合に、前記治療が大腸がんの治療効果を有すると評価する工程を含む、大腸がん治療の評価方法に使用するための、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなるキット。
〔4〕 抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とによって認識されるエクソソームの大腸がんのマーカーとしての使用。
〔5〕
抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、被験者に由来する体液試料中のCD63とCD147とを発現しているエクソソーム量をエクソスクリーン法により測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる、大腸がんの検出方法。
〔
6〕 抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなる、前記〔5
〕に記載の方法に使用するためのキット。
〔
7〕 抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを用い、治療後の被験者に由来する体液試料中のCD63とCD147とを発現しているエクソソーム量をエクソスクリーン法により測定する工程と、
前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、治療前の被験者におけるシグナル強度とを対比する工程
とを含み、治療後におけるシグナル強度が治療前におけるシグナル強度より弱いと認められる場合に、前記治療が大腸がんの治療効果を有すると評価する工程を含む、大腸がん治療の評価方法に使用するための、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを含有してなるキット。
〔
8〕 抗CD63モノクローナル抗体又はその断片と、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とによって認識されるエクソソームの大腸がんのマーカーとしての使用
。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、偽陽性の心配もなく、エクソソームを測定することで大腸がんを検出することができ、これにより、大腸がんの発症の有無や進行程度を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ヒト大腸癌細胞株HCT116由来のエクソソームを用いたプロテオーム解析の結果を示す図である。
【
図2】
図2は、ウェスタンブロット法によるCD147の検出の結果を示す図である。各レーン500ngのエクソソーム抽出液を泳動し、抗CD147マウスモノクローナル抗体を用いて検出した。
【
図3】
図3は、エクソスクリーン法を用いた大腸がん細胞株由来エクソソームにおけるCD147の検出結果を示す図である。ビオチン化抗体;CD147、アクセプタービーズ結合抗体;CD9。
【
図4】
図4は、エクソスクリーン法を用いた大腸がん患者血清由来エクソソームにおけるCD147の検出結果を示す図である。ビオチン化抗体;CD147、アクセプタービーズ結合抗体;CD63(左図)、CD9(右図)。
【
図5】
図5は、エクソスクリーン法を用いた大腸がん患者血清由来エクソソームにおけるCD147の検出結果を示す図である。ビオチン化抗体;CD147、アクセプタービーズ結合抗体;CD9。
【
図6】
図6は、大腸がん患者血清において、エクソソーム由来CD147、CEA、及びCA19−9のそれぞれの検出結果を対比した図である。
【
図7A】
図7Aは、エクソソーム由来のCD147を指標として大腸がんを診断した場合(
図5)のROC解析した結果を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、CEAを指標として大腸がんを診断した場合のROC解析した結果を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、CA19−9を指標として大腸がんを診断した場合のROC解析した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、エクソスクリーン法を用いた術前及び術後の大腸がん患者血清由来エクソソームにおけるCD147の検出結果を示す図である。各データの中央部の線は、検出結果の中央値を示す。ビオチン化抗体;CD147、アクセプタービーズ結合抗体;CD9。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、被験者における大腸がんを検出するための方法であって、体液試料中のエクソソーム由来のシグナルを特定のモノクローナル抗体を用いて測定し、その値が健常人のそれより大きい場合に大腸がんに罹患している可能性があると判断することを大きな特徴とする。具体的には、特定抗原に対するモノクローナル抗体又はその断片を用い、被験者に由来する体液試料中の該抗原を発現しているエクソソーム量を測定する工程(以降、工程Aともいう)と、前記工程におけるエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程(以降、工程Bともいう)とを含み、ここで、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる。なお、本明細書において、大腸がんを検出するとは、大腸がんの発症の有無、病態の進行度を検出することを含む。
【0013】
本発明者らは、抗CD9抗体と抗CD63抗体の組み合わせからなる測定系により大腸がん患者の血液では健常人の血液よりも強いシグナル強度が得られることを既に見出していたが、健常人においてもある程度の強いシグナルが検出されるなどの問題があり、大腸がんの診断法としては問題があった。しかしながら、本発明においては、大腸がん細胞株のプロテオーム解析から、悪性度の高い大腸がん細胞から分泌されるエクソソームに特異的な抗原としてCD147を同定することに成功した。さらに、本発明者らが鋭意検討した結果、このCD147抗原に対する抗体と抗CD9抗体あるいは抗CD63抗体を組み合わせることにより、健常人の測定値はばらつきが少なく偽陽性が検出されず、大腸がん患者のみからシグナルが検出されるという良好な結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
以下に、本発明における各工程について説明する。
【0015】
工程Aは、特定抗原に対するモノクローナル抗体又はその断片を用い、被験者に由来する体液試料中の該抗原を発現しているエクソソーム量を測定する工程である。
【0016】
工程Aで用いるモノクローナル抗体又はその断片としては、3種類のモノクローナル抗体又はその断片が挙げられる。具体的には、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片であり、少なくとも抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を用いる。
【0017】
本発明で用いるモノクローナル抗体又はその断片は、それぞれ特定抗原を認識するものであればよく、公知の方法に従って調製することができる。即ち、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片はCD147を認識し、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片はCD9を認識し、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片はCD63を認識するものであり、哺乳動物の免疫応答により調製してもよく、各抗原の配列情報に基づいて調製してもよい。
【0018】
また、本発明では、抗CD9モノクローナル抗体及び抗CD63モノクローナル抗体としては、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に下記受託番号のもとで寄託された細胞より得られるものを使用することもできる。
FERM BP−11519(産生されるモノクローナル抗体がCD9−12A12抗体、表示CD9:12A12、受託日2011年11月8日)
FERM BP−11520(産生されるモノクローナル抗体がCD63−8A12抗体、表示CD63:8A12、受託日2011年11月8日)
FERM BP−11521(産生されるモノクローナル抗体がCD63−13C8抗体、表示CD63:13C8、受託日2011年11月8日)
【0019】
本発明において「モノクローナル抗体断片」とは、前述するモノクローナル抗体の一部であって、当該モノクローナル抗体と同様にCD9、CD63又はCD147に特異的な結合性を有する断片を意味する。CD9、CD63又はCD147に対して特異的結合性を有する断片とは、具体的には、Fab、F(ab’)
2、Fab’、一本鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化抗体(dsFv)、2量化体V領域断片(Diabody)、CDRを含むペプチド等を挙げることができる(エキスパート・オピニオン・オン・テラピューティック・パテンツ、第6巻、第5号、第441〜456頁、1996年)。
【0020】
これらのモノクローナル抗体又はその断片は、例えば、以下の2つの態様で用いられる。
態様1:抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を用いる態様
態様2:抗CD9モノクローナル抗体及びその断片、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片からなる群より選ばれる少なくとも1つと、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを組み合わせて用いる態様
【0021】
態様1では、エクソソーム上のCD147を標識した抗CD147モノクローナル抗体又はその断片により認識して、CD147を発現しているエクソソームを定量することができる。抗CD147モノクローナル抗体又はその断片の標識化は、特に限定はなく、公知の方法に従って行うことができる。態様1のモノクローナル抗体又はその断片は、後述のウェスタンブロット法に好適に用いられる。
【0022】
態様2では、エクソソーム上のCD9及び/又はCD63とCD147とを、これらのモノクローナル抗体又はその断片により認識して、CD9及び/又はCD63とCD147が発現しているエクソソームを定量することができる。態様2では、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として用いてもよい。あるいは、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として用いてもよい。また、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として用いてもよい。あるいは、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として用いてもよい。また、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と抗CD63モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として用いてもよい。あるいは、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片と抗CD63モノクローナル抗体又はその断片を標識抗体として、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を固相抗体として用いてもよい。固相抗体及び標識抗体の調製は、特に限定はなく、公知の方法に従って行うことができる。態様2のモノクローナル抗体又はその断片は、後述のサンドイッチELISA法、エクソスクリーン法に好適に用いられる。
【0023】
本発明における、エクソソーム量の測定用に供されるサンプルとしては、体液試料であれば限定はなく、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、乳汁、鼻汁、脳脊髄液からなる群より選択されるものが例示される。
【0024】
エクソソーム量の測定は、前記モノクローナル抗体又はその断片を用いる方法であればよく、例えば、ウェスタンブロット法、サンドイッチELISA法、エクソスクリーン法に従って行なうことができる。
【0025】
ウェスタンブロット法では、例えば、態様1のモノクローナル抗体又はその断片を用いることができる。具体的には、大腸がん患者の血液を抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を用いてウェスタンブロット法で解析することにより、大腸がん細胞に由来するエクソソーム上に存在するCD147を検出することができる。
【0026】
サンドイッチELISA法では、例えば、態様2のモノクローナル抗体又はその断片を用いることができる。具体的には、先ず、一種類のモノクローナル抗体又はその断片を固相抗体とし、エクソソームを含有するサンプルと接触させて複合体を形成させる。その後、そこに、別のモノクローナル抗体又はその断片を標識後添加して、さらなる複合体を形成させて標識を検出することにより、両抗体が認識する抗原を発現しているエクソソーム量を測定することができる。
【0027】
エクソスクリーン法はPerkinElmer社が開発したAlphaLISAを応用したものである。本方法はエピトープの異なる2種類の抗体を用いて、片方の抗体はビオチン化を、もう片方にはAlphaLISAアクセプタービーズを結合させた抗体を用いて解析試料と反応させる。その後、ストレプトアビジンが結合したドナービーズを添加することで、ビオチン化抗体とドナービーズがストレプトアビジンを介して結合し、アクセプタービーズとドナービーズが隣接する。隣接した状態で(200nm以内)、680nm励起により、ドナービーズから一重項酸素が発生し、アクセプタービーズに一重項酸素が到達すると615nmの光を発してシグナルとして検出することができる。態様2のモノクローナル抗体又はその断片をこの方法を応用することで、100nm程度の大きさであるエクソソームを解析試料として測定することができる。
【0028】
かくして、体液試料中の標的タンパク質を含むエクソソーム量を測定することができる。得られたエクソソーム量を用いて、次の工程Bを行う。
【0029】
工程Bは、工程Aで得られたエクソソームのシグナル強度と、対照者におけるシグナル強度とを対比する工程であり、前記被験者におけるシグナル強度が対照者におけるシグナル強度より強いと認められる場合が、大腸がんの存在の指標となる。なお、本明細書において、対照者とは、大腸がんを発症していない者であれば良く、健常人が挙げられる。
【0030】
対照者におけるシグナル強度は、対照者に由来する体液試料中のエクソソーム量であり、工程Aで被験者のエクソソーム量を測定する際に併せて測定しても、別途測定してもよい。また、複数の対照者のエクソソーム量を測定し、その統計から対照者のエクソソーム量を設定してもよい。
【0031】
対照者由来の体液試料としては、被験者由来の体液試料と同種の試料であることが好ましく、例えば、被験者由来の体液試料が血液である場合、対照者由来の体液試料も血液である。
【0032】
被験者のシグナル強度と対照者のシグナル強度とを対比するには、被験者のエクソソーム量と対照者のエクソソーム量とを対比して解析すればよく、かかる方法としては、特に限定はなく、公知の方法(Steel法、t検定、Wilcoxon検定等)を用いることができる。前記解析により対照者のエクソソーム量に対する被験者のエクソソーム量がより有意に増加していることが示された場合は、被験者に大腸がんが存在している可能性が高いと判断される。
【0033】
なお、前記抗体を用いて体液試料中に存在するエクソソームを検出することにより、大腸がんの存在可能性の有無を判断することができることから、本発明の一態様として、抗CD9モノクローナル抗体及びその断片、抗CD63モノクローナル抗体及びその断片からなる群より選ばれる少なくとも1つと、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とによって認識されるエクソソームを、被験者に由来する体液試料中から検出することを特徴とする、大腸がん又は大腸がんの疑いの情報を提供する方法を挙げることができる。
【0034】
また、前記解析において、対照者のエクソソーム量を被験者の術前のエクソソーム量に設定し、術後のエクソソーム量を被験者のエクソソーム量として対比することで、術後のエクソソーム量が減少していることが示された場合は、大腸がんが縮小又は減退している可能性が高いと判断することができる。
【0035】
またさらに、前記解析において、例えば、被験者が大腸がんと診断された場合においては、対照者のエクソソーム量を被験者の治療前のエクソソーム量に設定し、治療後のエクソソーム量を被験者のエクソソーム量として対比することで、治療後のエクソソーム量が減少していることが示された場合は、当該治療が大腸がんの治療に有効である可能性が高いと判断することができる。従って、本発明はまた、大腸がんの治療を受ける前と受けた後において、前記モノクローナル抗体又はその断片を用いてエクソソーム由来のシグナルを測定し、治療後の値が治療前のそれより小さい場合に、当該治療が効果を有すると判断することを特徴とする評価方法を提供することができる。
【0036】
また、本発明の別の態様では、大腸がんを検出するためのキットが提供される。
【0037】
本発明のキットには、体液試料中のエクソソームを検出することができるものであれば全て含まれる。具体的には、前記エクソソーム表面に存在する抗原を認識できる抗体、即ち、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片、抗CD9モノクローナル抗体又はその断片、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片を含有するキットが挙げられる。なかでも、これらの抗体又はその断片を用いる態様から、
態様1:抗CD147モノクローナル抗体又はその断片を含有する態様
態様2:抗CD9モノクローナル抗体及びその断片、抗CD63モノクローナル抗体又はその断片からなる群より選ばれる少なくとも1つと、抗CD147モノクローナル抗体又はその断片とを組み合わせて含有する態様
が挙げられる。
【0038】
これらのキットは、体液試料中のエクソソームを検出する際に抗体を用いる検出方法であれば(例えば、ウェスタンブロット法、ELISA法、エクソスクリーン法等)、用いることができる。なお、エクソソームが検出されるのであれば、エクソソーム以外のタンパク質も前記抗体により同時に検出されることがあってもよい。
【0039】
本発明のキットを用いて、例えば、健常人と被験者の血液サンプル中に存在するエクソソーム量を測定して、両者の発現量に有意差が生じた場合には、被験者における大腸がんの発症の決定及び/又は診断を行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例は本発明をより良く理解するために例示するものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【0041】
試験例1(CD147抗体を用いた大腸がん細胞株由来エクソソームの検出)
ヒト大腸がん細胞株HCT116(American Type Culture Collection)由来のエクソソームを用いたプロテオーム解析の結果を
図1に示す。この結果から抽出した抗原CD147について、大腸がん細胞株由来エクソソームでの発現をマウス抗ヒトCD147モノクローナル抗体(Novus Biologicals社製、クローンMEM−M6/1)によるウェスタンブロット法を用いて評価した。ヒト大腸がん細胞株としては、非常に悪性度の高いHCT116細胞と悪性度の低いCaco2細胞(American Type Culture Collection)を用いて比較した。結果、悪性度の高いHCT116細胞株由来のエクソソームでCD147の存在を確認することができ、悪性度の低いCaco2細胞由来のエクソソームでは検出されなかった(
図2)。
【0042】
次に、ビオチン化した抗CD147モノクローナル抗体(Novus Biologicals社製、クローンMEM−M6/1)とアクセプタービーズが結合した抗CD9モノクローナル抗体(受託番号FERM BP−11519として寄託されているハイブリドーマにより産出されるモノクローナル抗体)を用いて、エクソスクリーン法により、各大腸がん細胞株由来のCD9とCD147が発現しているエクソソーム由来のシグナルを測定した。その結果、ウェスタンブロット法による結果と同様、悪性度の高いHCT116細胞株由来のエクソソームにおけるCD147の発現が確認された(
図3)。これらの結果より、一部の大腸がん細胞ではCD147を発現するエクソソームを多く分泌していると推察される。
【0043】
試験例2(CD147抗体を用いた大腸がん患者血清由来エクソソームの検出1)
大腸がん患者血清5μL中のCD9又はCD63を発現しており、かつCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナル強度をエクソスクリーン法によって検出した。エクソスクリーン法では、試験例1で用いたビオチン化した抗CD147モノクローナル抗体とアクセプタービーズが結合した抗CD63モノクローナル抗体(受託番号FERM BP−11520として寄託されているハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体)もしくはアクセプタービーズが結合した前述の抗CD9モノクローナル抗体を用いた。大腸がん患者由来の血清10例と健常人由来の血清10例の解析を行ったところ、10例中5例の患者由来の血清から高いシグナルが検出された。これらの解析においては、偽陰性率は50%であったが、健常人の測定値のばらつきが小さく偽陽性もまったく見られず、大腸がん検査として優れていることが判明した(
図4)。
【0044】
試験例3(CD147抗体を用いた大腸がん患者血清由来エクソソームの検出2)
試験例2と同様の方法で、さらに多くの大腸がん患者由来の血清と健常人由来の血清を用いて、CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルを測定した(
図5)。具体的には、大腸がん患者由来の血清194例と健常人由来の血清191例を用いた。
【0045】
次に、前記にてエクソソーム由来シグナルを測定した大腸がん患者由来の血清と同じ血清194例について、CEA及びCA19−9の測定を行った。CEA及びCA19−9の測定結果と、CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルをエクソスクリーン法で測定した結果をまとめて
図6に示す。
【0046】
図6より、CEAとCA19−9の測定結果を比較すると、CEA陽性例62例、CA19−9陽性例36例のうち、33例が共通しており、この2つの方法では同じ大腸がん患者を高い相関性で検出できることが判る。一方、CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルをエクソスクリーン法で測定した結果と、CEAとCA19−9の測定結果との間に相関は見られない。つまり、CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルを用いた検査は、CEAあるいはCA19−9という公知の、大腸がん検査で汎用される項目と組み合わせることによって、異なる陽性例を見出すことが可能となって、より多くの大腸がん患者を診断できることが示唆される。
【0047】
また、
図7A、
図7B、及び
図7Cは、ROC解析を行い、各測定方法の大腸がんの検出能を比較したものであり、AUCが1に近いほど検出能が高いことを示す。CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルを用いた場合にはAUCが0.820と、CEAやCA19−9のそれ(それぞれ0.669と0.622)より、はるかに大きいことが判明した。CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルを用いた大腸がんの検査は、CEAやCA19−9よりも優れていることが示された。
【0048】
試験例4(手術前と手術後のシグナル強度の変化の解析)
Stage IとIIの大腸がん切除術を受けた15名の患者由来の血清を用いて、手術前と手術後のCD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルの変化を調べた(
図8)。CD9とCD147を発現しているエクソソーム由来のシグナルを用いた検査は、手術後や薬物投与後の追跡検査としても優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法により、サンプル提供者が大腸がんを発症している可能性が高いか否かを判定することができる。これにより、サンプル提供者は癌の進行を阻止する手段を講じることができるため、有用である。