(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387005
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】遮熱コーティング系ならびにその製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/11 20160101AFI20180827BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20180827BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20180827BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20180827BHJP
F23R 3/42 20060101ALI20180827BHJP
C23C 4/12 20160101ALN20180827BHJP
【FI】
C23C4/11
C23C28/00 B
F01D5/28
F02C7/00 C
F02C7/00 D
F23R3/42 C
!C23C4/12
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-529823(P2015-529823)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公表番号】特表2015-533934(P2015-533934A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】US2013053183
(87)【国際公開番号】WO2014035596
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年7月22日
(31)【優先権主張番号】13/600,273
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンツヴァイク,ラリー・スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】ルード,ジェームズ・アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】シヴァラマクリシュナン,シャンカール
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−284758(JP,A)
【文献】
特開昭59−093864(JP,A)
【文献】
特表2009−523939(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0280298(US,A1)
【文献】
特開昭49−087537(JP,A)
【文献】
特開平04−323358(JP,A)
【文献】
特開平01−230761(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0143655(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/053368(WO,A1)
【文献】
特開2005−042144(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2145974(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面および第2表面を含むコーティングであって、当該コーティングが、基材上に配置されたボンドコートと、当該ボンドコート上に配置され、領域境界によって区切られた複数の成長領域を含む遮熱コーティングとを含み、
前記複数の成長領域が相対的に高密度のコーティング材料を含んでおり、
前記領域境界が相対的に低密度のコーティング材料を含んでおり、
前記複数の成長領域が実質的に等軸の結晶粒形態を有しており、
前記複数の成長領域のうちの1つ以上の成長領域の配向がコーティングの第1表面に対して垂直ではなく、
前記垂直ではない1つ以上の成長領域が、前記ボンドコートと遮熱コーティングとの界面に対して30°〜75°の整列角度をなす、
コーティング。
【請求項2】
前記1つ以上の成長領域の前記配向は、前記界面に対して75°未満である、請求項1記載のコーティング。
【請求項3】
前記コーティングが亀裂を含まない、請求項1又は請求項2記載のコーティング。
【請求項4】
前記複数の成長領域は少なくとも75%の領域間密度を有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項5】
前記複数の成長領域は20μm〜100μmの範囲の平均幅を有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項6】
前記複数の成長領域の角度が互いに5°以内である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項7】
前記コーティングはセラミックコーティングを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項8】
前記コーティングは酸化物コーティングを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項9】
前記コーティングは噴霧コーティングを含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項10】
前記コーティングは安定化ジルコニア、ジルコネート、安定化酸化物又はこれらの組み合わせを含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項11】
前記コーティングはイットリア安定化ジルコニアを含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項12】
前記コーティングの体積の50%以上が前記成長領域を含む、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項13】
前記ボンドコートは、拡散ボンドコート又はオーバーレイボンドコートを含む、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項14】
前記ボンドコートは、150マイクロインチRa未満の表面粗さを有する、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項15】
前記遮熱コーティングの前記ボンドコートへの付着強度は7メガパスカルより大きい、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載のコーティング。
【請求項16】
前記基材が、ガスタービンアセンブリの部品の一部である、請求項1乃至請求項15のいずれか1項のいずれか1項記載のコーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンアセンブリ等の高温用途のための遮熱コーティングおよび遮熱コーティング系に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のガスタービン設計はより高いタービン効率に対する需要により進められている。タービンをより高温で作動させることによりタービン効率が上がり得ることが広く認識されている。典型的には、各種技術を使用してボンドコートおよび遮熱コーティングを、タービンのエーロフォイルおよび燃焼機関部品、例えば、トランジションピースおよび燃焼ライナに適用し、これら高温にて十分な寿命を確保する。
【0003】
通常、遮熱コーティングは、下部部品から剥がれずに部品のひずみに耐えるように構成される。遮熱コーティングは通常セラミック材料から製造され、セラミック材料は下部金属部品よりも比較的低い固有の延性を有する。したがって、種々のミクロ構造特性が通常遮熱コーティング中に組み込まれて、改善された耐ひずみ性を有する遮熱コーティングが提供される。例えば、プラズマ溶射プロセスにより堆積した遮熱コーティングは通常、遮熱コーティングがひずみに耐える能力を向上させるための手段として、有意な多孔性、垂直な微小亀裂、またはこの両方を取り入れる。例として、物理蒸着法(PVD)等の気相プロセスにより堆積した遮熱コーティングは通常、個々の密集した柱状粒子の核生成および成長を促す条件下にて製造される。この核生成および成長により、比較的高い耐ひずみ性を有する柔軟なミクロ構造が得られる。
【0004】
PVDプロセスによって、プラズマ溶射プロセスと比較して比較的小さい部品に好適な耐ひずみ性を有するコーティングが提供される。しかし、プラズマ溶射プロセスと比較して、PVDプロセスは真空槽および支持装置を含む高価な設備を必要とする。他方では、従来の溶射プロセスは、PVDプロセスよりも低い耐ひずみ性および基材付着性を有するコーティングを製造する傾向があり、概して、下部部品へ適切な付着性を提供するために、グリットブラスト仕上げおよび粗面ボンドコートの堆積等の補助的表面処理プロセスを必要とする。
【0005】
通常、ボンドコートを使用して遮熱コーティング層の下部部品への付着を促進し、下部部品が高温に晒されている間に部品が酸化することを阻止する。典型的には、基材に耐酸化性をもたらし遮熱コーティングの付着を強化するために、アルミナイドコーティングを有するボンドコートが遮熱コーティング系に使用される。適切な付着性を有するために、プラズマ溶射遮熱コーティングは通常、オーバーレイMCrAlYボンドコート等の粗面を有するボンドコート上に堆積される。気相アルミナイド(VPA)により形成されたボンドコート等の比較的平滑なボンドコートは多くの場合、プラズマ溶射法により堆積される遮熱コーティングを堆積させるための候補として好適とは考えられない。
【0006】
したがって、高い耐ひずみ性および高い付着性を示し、表面処理プロセスの必要性が低減された遮熱コーティングが必要とされており、このコーティングはプラズマ溶射プロセス等の比較的安価でスケーラブルなプロセスを介して適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2010/143655号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、第1表面および第2表面を含むコーティングが提供される。コーティングは複数の成長領域を含み、複数の成長領域のうち少なくとも1つの成長領域の配向は、コーティングの第1表面に対して垂直ではない。複数の成長領域のうち1つまたは複数の成長領域は、少なくとも部分的に融解され固化された複数の粒子を含む。
【0009】
別の実施形態では、遮熱コーティング系を提供できる。この系は第1表面および第2表面を含む基材、基材の第1表面の少なくとも一部の上に配置されるボンドコート、ならびにボンドコートの少なくとも一部の上に配置されるコーティングを含む基材を備え、このコーティングは複数の成長領域を含み、複数の成長領域のうち少なくとも1つの成長領域の配向は、ボンドコートとコーティングとの間の界面に対して垂直ではない。複数の成長領域のうち1つまたは複数の成長領域は、少なくとも部分的に融解され固化された複数の粒子を含む。
【0010】
さらに別の実施例では、表面をコーティングする方法が提供される。本方法は、液体媒質中に供給原料材料が懸濁している懸濁液を準備するステップと、表面の接線に対して約75°未満の噴射角度にて表面に噴霧するステップとを含む。
【0011】
これらおよびその他の本発明の特徴、態様および利点は、以下の詳細な説明を添付の図面を参照して読むことでよりよく理解されるであろう。図面中、類似の参照番号が複数の図面を通して同じ部品を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本技術の実施形態による、平坦な表面を含む部品を有する例示的遮熱コーティング系の断面図である。
【
図2】本技術の実施形態による、非平坦な表面を含む部品を有する例示的遮熱コーティング系の断面図である。
【
図3】本技術の実施形態による、ある噴霧角度で堆積された遮熱コーティングを有する遮熱コーティング系の一部の顕微鏡写真である。
【
図4】本技術の実施形態による、ある噴霧角度で堆積された遮熱コーティングを有する遮熱コーティング系の一部の顕微鏡写真である。
【
図5】本技術の実施形態による、ある噴霧角度で堆積された遮熱コーティングを有する遮熱コーティング系の一部の顕微鏡写真である。
【
図6】本技術の実施形態による、遮熱コーティング系の製造方法のフローチャートである。
【
図7】約1ミクロンのd
50を有するYSZ粉末からなる懸濁液を有する供給原料を使用して製造されたコーティングの顕微鏡写真である。
【
図8】約1ミクロンのd
50を有するYSZ粉末からなる懸濁液を有する供給原料を使用して製造されたコーティングの顕微鏡写真である。
【
図9】約1ミクロンのd
50を有するYSZ粉末からなる懸濁液を有する供給原料を使用して製造されたコーティングの顕微鏡写真である。
【
図10】約1ミクロンのd
50を有するYSZ粉末からなる懸濁液を有する供給原料を使用して製造されたコーティングの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に開示される実施形態は概して遮熱コーティング系に関する。特定の実施形態にて、遮熱コーティング系はボンドコート上に配置される遮熱コーティングを含み得る。これらの実施形態では、遮熱コーティングは付着性および耐ひずみ性を向上するように構成されているミクロ構造を有し得る。一実施形態では、遮熱コーティングの向上した付着性および耐ひずみ性の値は、電子ビームプラズマ蒸着法等であるがこれに限定されない高価なプラズマ蒸着法を使用して堆積されるコーティングの付着性および耐ひずみ性の値に近づくことができる。特定の実施形態にて、遮熱コーティングは、比較的安価な懸濁液プラズマ溶射技術もしくは前駆体プラズマ溶射技術、またはこの組み合わせを使用して堆積してよい。
【0014】
理解されるように、ガスタービン用途においてはより高い動作温度を使用することによってより高効率の系を達成し得る。しかしながら、動作温度が高くなると、エンジン部品が向上された耐高温性を有することが望ましい。
【0015】
さらに、効果を発揮するために、遮熱コーティング系における遮熱コーティングは、低い熱伝導率、基材(例えば、エンジン部品)への強い付着性、および多くの加熱および冷却サイクルを通じた連続付着性を呈するように構成されることが望ましい。しかし、遮熱コーティング系の材料間の熱膨張係数の差によりさらなる困難がもたらされる。例えば、遮熱コーティングの材料は、下にある金属ボンドコートおよび基材(例えば、超合金基材)よりもかなり低い熱膨張係数を有し得るため、熱サイクルの間の遮熱コーティングの層間剥離リスクがもたらされる。
【0016】
いくつかの実施形態では、遮熱コーティングはエンジン部品の耐高温性を促しつつ、浸食、高温腐食等から部品を保護する。これらの実施形態のいくつかでは、遮熱コーティングはさらに、エンジン部品等であるがこれに限定されない下にある基材への熱伝達を低減するのに役立つ。
【0017】
遮熱コーティングに加えて、タービンエンジン部品は多くの場合、ボンドコートを利用して高温酸化から保護する。特定の実施形態にて、ボンドコートは拡散ボンドコートを含んでよい。特定の実施形態にて、ボンドコートはオーバーレイボンドコートを含んでよい。いくつかの実施形態では、拡散ボンドコートまたはオーバーレイボンドコート中のアルミニウム濃度は、約5〜約50重量%の範囲内であってよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、拡散ボンドコートは、ニッケルアルミナイド等であるがこれに限定されないアルミニウム系金属間化合物を含んでもよい。拡散ボンドコートの非限定的な例としては、気相拡散法またはパック拡散法により適用される白金ニッケルアルミナイドまたは単純なニッケルアルミナイドを挙げてもよい。一実施形態では、アルミナイド系ボンドコートは拡散系プロセスを使用して基材上に配置されてよい。拡散系プロセスの非限定的な例としては、パックセメンテーション、気相アルミナイド法(VPA)または化学蒸着法(CVD)を挙げてもよい。いくつかの実施形態では、拡散プロセスにより2つの異なるゾーン、すなわち、耐酸化性相(β−NiAl等)を含有する外側ゾーンと、耐酸化性相および二次相(ガンマプライム、ガンマ、カーバイドおよびシグマ等)を含む拡散ゾーンとを含むボンドコートが得ることができる。一例では、気相アルミナイズ法(VPA)を使用してアルミナイド系ボンドコートを堆積してよい。一実施形態では、拡散ボンドコートは白金または白金族金属で改質されてよい。本実施形態では、アルミナイド相はγ−Ni+γ’−Ni3Al合金組成物を含んでもよい。いくつかの実施形態では、拡散アルミナイドは商用のアルミナイドプロセスを使用して適用されてよい。これらの実施形態のいくつかでは、アルミニウムは基材表面で反応して、アルミニウム金属間化合物を生成し、これにより耐酸化性アルミナ中間層を形成するための蓄積部(reservoir)を提供する。アルミナイドボンドコート層は、超合金部品の外表面層にてアルミニウム蒸気またはアルミニウムに富んだ合金粉末を基材要素と反応させることによって形成されるアルミニウム金属間相(例えば、NiAl、CoAlおよび(Ni/Co)Al相)を含んでよい。ボンドコート層は通常、基材に十分に結合する。アルミナイズ法は、アルミニウムに富んだ蒸気および適切な拡散熱処理を用いたパックセメンテーションプロセス、噴霧、化学蒸着法、電気泳動、スパッタリング、ならびにスラリー焼結等であるがこれに限定されない技術によって行ってよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、オーバーレイボンドコートを使用して、タービン部品等の下にある基材に高温酸化および腐食に対する保護を提供してよい。オーバーレイボンドコートとしては、MCrAlY型を挙げてもよく、ここでMはニッケル、コバルト、鉄またはこれらの組み合わせを表し得る。チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、タンタル、タングステン、ニオビウム、レニウムまたはこれらの組み合わせ等の種々の量の他の元素の添加は、ボンドコートの性能を向上させるために使用してよい。有利には、オーバーレイボンドコートは下にある基材の組成に著しく影響され得ない。一例では、オーバーレイボンドコートは、溶射、スパッタリング、電子ビーム物理蒸着法(EBPVD)、陰極アーク蒸着法、電着法、またはこれらの組み合わせ等であるがこれらに限定されない多数の異なる堆積法によって適用されてよい。
【0020】
典型的には、大気プラズマ溶射ボンドコートは多くの場合、意図的に粗面を有するように堆積されて、その後に堆積される遮熱コーティングとの機械的な噛合いを強化する。これらの従来のコーティング系とは著しく対照的に、本明細書に開示される遮熱コーティングは、VPAボンドコート表面等の比較的平滑な表面にさえも比較的高い付着強度を示し得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、ボンドコートは比較的平滑であり、約10〜60マイクロインチRaの表面粗さを有する。一般には、かかる平滑なボンドコートは、噴霧系コーティング技術等のより安価なコーティング技術の好適な候補ではない。遮熱コーティング層中に発生する垂直亀裂は、コーティングの付着強度を低減させるため、このようなコーティングには望ましくない。特定の実施形態にて、本明細書に開示されるコーティングは噴霧法を使用してボンドコートに堆積されてよい。本明細書に開示されるコーティングは、アルミナイド系ボンドコートまたはオーバーレイボンドコート上に堆積された場合、向上した付着性および熱サイクル性能を示すということが意外にも発見された。
【0022】
一般的に、垂直亀裂を有する遮熱コーティングは、コーティングをより柔軟にすることができるため、アルミナイド系ボンドコート等の平滑表面を有するボンドコートに望ましい。例えば、垂直亀裂により層間剥離することなくコーティングが屈曲できる。しかし、亀裂を有しないコーティングはアルミナイド系ボンドコートおよびオーバーレイボンドコートへのより優れた付着性を有することが示された。同様に、亀裂を有しないコーティングはさらに、アルミナイド系ボンドコートおよびオーバーレイボンドコートの場合、より長い熱サイクル寿命を有する。例えば、VPAボンドコート等であるがこれに限定されない比較的平滑なアルミナイド系ボンドコートに適用される垂直亀裂を有するコーティングは、遮熱コーティングとボンドコートとの界面にて層間剥離を示す。有利には、かかる垂直亀裂がない状態では、遮熱コーティングのミクロ構造が垂直亀裂を含んでいない場合、界面の層間剥離は存在しない。特定の実施形態にて、遮熱コーティングは非垂直な成長領域を有し得、層間剥離はこれらの遮熱コーティングにおいて最小限であり得るかまたは存在し得ない。
【0023】
有利には、遮熱コーティングにおける実質的に垂直な亀裂がなく柔軟なミクロ構造により、遮熱コーティングとその下にあるボンドコートとの間における付着性を向上させられる。また、遮熱コーティング系の熱サイクル性能は、より密で垂直な亀裂がある遮熱コーティングよりも実質的に改善され得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、ボンドコートは、約150マイクロインチRa未満の表面粗さを有し得る。一実施形態では、ボンドコートの表面粗さは約100マイクロインチRa以下であってよい。このように低減されたボンドコート粗さの値でさえも、本明細書に記載される遮熱コーティングの付着強度は予想外に高い。いくつかの実施形態では、遮熱コーティングのアルミナイド系ボンドコートへの付着強度は約7メガパスカル(MPa)を超えてよい。一実施形態では、遮熱コーティングのアルミナイド系ボンドコートへの付着強度は約28MPaを超えてよい。本明細書で示す付着強度とは、ASTM規格C633に規定された手順に従って測定した値を指す。
【0025】
特定の実施形態にて、遮熱コーティングは、下部部品から剥がさずとも部品のひずみに耐えるように構成されてよい。遮熱コーティングはセラミック材料から製造されてよく、セラミック材料は下部金属部品よりも比較的低い固有の延性を有する。したがって、特定の実施形態にて、種々のミクロ構造が遮熱コーティング中に組み込まれて、改善された耐ひずみ性および付着性を有する遮熱コーティングが提供され得る。
図1〜5に関して以下で詳細に記述されるように、いくつかの実施形態では、遮熱コーティングは、遮熱コーティングにおいて複数の成長領域を含んでよい。特定の実施形態にて、材料を堆積させて遮熱コーティングを形成する際、材料は、比較的低い(が必ずしも0ではない)密度の領域境界によって区切られた比較的高密度の領域として定義される領域に蓄積する。本発明の実施形態によれば、1つまたは複数の領域は、少なくとも部分的に融解され固化された複数の粒子を含む。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、領域境界は、粒子が成長領域に蓄積するにつれて成長領域間に形成され、成長領域は部分的に融解され固化された粒子を含む境界表面を有し得ると考えられている。領域境界は垂直亀裂とは対照をなすものである。垂直亀裂は、亀裂が元の一体的かつ連続的な材料中で成長する際、コーティング内で発生する区切りである。亀裂表面は、亀裂の成長によって露出された結晶粒界または結晶粒内部の面からなる。複数の成長領域うちの少なくとも1つの成長領域の配向は、コーティングの第1表面に対して垂直でなくてもよく、ここでコーティングの第1表面はボンドコート上に堆積される。
【0026】
図1は、例示的な遮熱コーティング系10を示す。系10は、第1表面14および第2表面15を有する構成要素12を含む。ボンドコート18は構成要素12の第1表面14上に配置され得る。ボンドコート18は第1表面14の少なくとも一部の上に配置される。系10はさらに、第1表面17および第2表面19を有する遮熱コーティング16を含む。遮熱コーティング16の第1表面17はボンドコート18上に配置され、ボンドコート18との界面24を画定する。
【0027】
構成要素12の第1表面14は、湾曲していてもまたは平面であっても、またはこれらの組み合わせであってもよい。遮熱コーティング16およびボンドコート18は共形的に構成要素12の第1表面14上に配置されてよい。
【0028】
遮熱コーティング系10は高温用途にて使用されてよい。一例において、遮熱コーティング系10を、例えば、発電用または船舶、航空機もしくはその他の宇宙船(craft)の推進用のガスタービンアセンブリを含むガスタービンアセンブリにて用いてよい。構成要素12の非限定的な例としては、タービン翼、静翼および燃焼部品を挙げてもよい。いくつかの実施形態では、遮熱コーティング16は、酸化物等のセラミック材料を含む。遮熱コーティング16の特定例としては、イットリア安定化ジルコニア等の安定化ジルコニア、ジルコネート、ならびにハフネートおよびセレート等であり、イットリアまたはセリア等の他の安定化剤で安定化され得る酸化物を含む、その他の酸化物を挙げてもよい。
【0029】
特定の実施形態にて、遮熱コーティング16は概して、全体が参照番号20で表される複数の成長領域を特徴としてよい。複数の成長領域のうち1つまたは複数の成長領域は、少なくとも部分的に融解され固化された複数の粒子を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの成長領域の配向は、第1表面17、または第1表面17とボンドコート18の界面24に対して垂直でなくてよい。本発明で使用する場合、用語「垂直でない」とは断面内に形成される整列角度22を意味し、ここで角度22は、90°から、(a)コーティング16の第1表面17の接線23に対する法線21と、(b)領域境界26に対する接線25との間の角変位を引いた角度として定義される。一実施形態では、角度22は遮熱コーティング16とボンドコート18との間の界面24に対して約30°〜約75°の範囲であってよい。即ち、成長領域の最長軸は、コーティング16の第1表面17に対して約20°〜約75°の範囲の角度22に配向されてよい。一実施形態では、すべての成長領域20は互いに類似の角度に配向されてよい。本実施形態では、成長領域20の角度は互いに5°以内である。一実施形態では、成長領域20は約1超の縦横比からなってよい。
【0030】
本発明の実施形態では、
成長領域20はランダムに配向された、実質的に等軸の結晶粒を含むことができる。本発明で使用する場合、用語「実質的に等軸」とは、コーティング16における結晶粒の集団が約3:1未満の平均縦横比を有することを意味する。また、「ランダムに配向される」とは、結晶粒の長軸(このような長軸が存在する場合)が全体的に噴霧方向または凝固方向に対して配向されないように好ましい配向が全体として欠いていることを意味する。また、いくつかの実施形態では、遮熱コーティング16は概して異なる層状特徴が存在しないことを概して特徴としてよい。結晶粒の空間中の配列を意味する用語「配向」の使用は、当該技術分野においては材料の「組織」とも呼ばれる結晶学的配向と混同されてはならないことに留意されたい。
【0031】
特定の実施形態にて、コーティング16の堆積中に、材料が堆積されてコーティング16を形成するとき、材料は領域20中に蓄積する。いくつかの実施形態では、領域20は比較的高密度のコーティング材料を有し得る。成長領域20は領域境界26によって定義されてよい。成長境界26は、成長領域20よりも比較的低い(が必ずしも0ではない)密度を有し得る。
【0032】
本明細書においては「領域間密度」としても呼ばれる、成長領域20中に含まれる材料の密度は、理論上の密度の少なくとも約75%であってよい。いくつかの実施形態では、この密度は、例えば85%超のようにさらに高く、特定の実施形態では、95%超である。高い領域間密度により、望ましい耐浸食性がもたらされ得、コーティング16の凝集強度を向上し得る。
【0033】
特定の実施形態にて、領域20中に存在する少なくとも50%の材料は、少なくとも部分的に融解され固化された粒子を含み、特定の実施形態では、この量は少なくとも約80%であってよく、さらに特定の実施形態では、領域20中のほぼすべての材料が少なくとも部分的に融解され固化された粒子からなってよい。また、いくつかの実施形態では、蒸着メカニズムにより堆積されたコーティングとは著しく対照的に、領域20は概して実質的な結晶学的組織を欠いている。その代わりに、領域20は典型的には、実質的に等方性の結晶配向を有する。本文脈中、「実質的に等方性の結晶配向」とは、問題の材料が約0.75〜約1.25の範囲の組織係数を有することを意味する。組織係数とはD. S. Rickerby, A. M. JonesおよびB. A. Bellamy, Surface and Coatings Technology, 37, 111-137(1989)に定義される。
【0034】
一実施形態では、1つまたは複数の成長領域は遮熱コーティング16の厚さ25を通って延びてよい。これらの実施形態では、成長領域20は遮熱コーティング16の第1表面17から第2表面19まで延びてよい。別の実施形態では、1つまたは複数の成長領域は遮熱コーティング16の厚さ25の一部のみを通って延びてよい。いくつかの実施形態では、成長領域はコーティング厚の少なくとも約50%にわたって延び、特定の実施形態では、成長領域の長さはコーティング厚の少なくとも75%である。本発明で使用する場合、本文脈中において成長領域の「長さ」は、コーティング16における成長領域20の集団の少なくとも代表的サンプルについて測定された平均長さとして定義されてよい。成長領域が遮熱コーティング16の厚さ25を通ってどの程度延びてよいかは、成長領域の配向、コーティング材料、コーティング16堆積中の噴霧角度、またはこれらの組み合わせ等であるがこれに限定されない因子に依存してよい。一実施形態では、遮熱コーティング16の厚さを通って延びる1つまたは複数の成長領域を有することが望ましい場合もある。いくつかの実施形態では、領域境界26はコーティング厚の少なくとも約50%に等しい長さだけ延び、この長さは特定の実施形態にて厚さの少なくとも75%であってよい。概して、コーティング16の耐ひずみ性はより長く、輪郭のはっきりした境界26の存在によって向上し得る。
【0035】
成長領域20および領域境界26が存在することにより、望ましい柔軟性および耐ひずみ特性がコーティング16にもたらされてよい。一実施形態では、より幅狭の領域20を有するコーティング16は、より高密度の領域境界を有する。いくつかの実施形態では、領域20の平均幅28は約20マイクロメートル〜約100マイクロメートルの範囲であってよい。他のいくつかの実施形態では、幅28は約30マイクロメートル〜約90マイクロメートルの範囲であってよい。一実施形態では、幅28は約40マイクロメートル〜約80マイクロメートルの範囲であってよい。特定の実施形態にて、成長領域20の幅28は、コーティング厚25の33%およびコーティング厚25の67%での噴霧方向に平行なコーティング16の断面に沿って引かれた既知の長さの線によって各々が区切られた平均境界数に基づいて測定された。これらの実施形態では、平均領域幅は、区切られた境界の数で除された長さとして計算されてよい。特定の実施形態にて、コーティング体積の少なくとも約50%は領域20を含むため、コーティング16全体が本明細書に記載される構造からなる必要はない。
【0036】
本明細書に記載される利点により、遮熱コーティング系10の高温用途にて使用するための適合性を向上し得る。いくつかの実施形態では、平滑表面上に堆積される従来の密なコーティングとは異なり、コーティング16はTBC中に最小限の分割亀裂(segmentation cracks)を有し得るか、またはまったく有しないが、この状態を本明細書においては、「実質的に亀裂がない」と呼ぶ。本産業においては垂直亀裂としても公知である分割亀裂は、通常密なコーティング中でより頻繁に見られる。これらの種類の亀裂は最外表面から厚さ全体またはコーティング厚を部分的に通って延びてよい。かかる亀裂は、亀裂中の空間は破断面が境界となっており、またその長さに沿って本質的にコーティング粒子がないという点で、領域境界とは区別可能である。対照的に、領域境界内の空間は、その長さに沿って少なくともいくらかのコーティング粒子等の堆積された材料を含む。特定の実施形態にて、実質的に亀裂がなく柔軟なコーティング16により、著しく改善されたボンドコート18への付着性がもたらされ得る。さらに、実質的に亀裂がなく柔軟なコーティング16は、改善された信頼性、付着性および長い寿命を含む、著しく向上した熱サイクル性能を有するコーティングを提供し得る。特定の実施形態にて、コーティング16はいかなる層間剥離亀裂も有しないことができる。
【0037】
通常はプラズマ溶射堆積において、湾曲を有する表面については、コーティングする表面に対する望ましい噴霧角度を連続的に維持することが難しい。例えば、ロボットアームが表面の曲率変化に対応するのが困難な場合がある。従来のコーティングは、プラズマの入射角がコーティングされる表面に対して垂直ではない場合、より低い付着性および機械的強度を示す場合がある。特定の実施形態にて、所定の範囲内の噴霧角度における向上した付着性を示す方法およびコーティングが提供される。また、この方法は既存のPVD技術よりも費用効果的である。
【0038】
図2は非平坦な表面31を有する遮熱コーティング系30の断面図である。図示した実施形態では、系30は、概して矢印33によって示される溶射ガン方向に対して垂直に見て、凹部34および凸部36を有する非平坦な基材32を含む。系30は、ボンドコート38および遮熱コーティング40をさらに含む。ボンドコート38およびコーティング40は下の表面に共形的であってよい。コーティング40は、領域境界43を有する複数の成長領域42を含んでよい。
【0039】
一例では、部分34および36は、噴霧角度44が約20°〜約75°の範囲であり得るようなものであってよい。本発明で使用する場合、用語「噴霧角度」とは入射点37における時計方向にて測定された角度であり、この角度は入射点37にて表面31に接する平面と、入射角と溶射ガンの位置をつなぐ直線39との間を測定したものであり、ここで溶射ガンの位置は点33により表され、表面31に接する平面は直線35により表される。
【0040】
図3〜
図5は、コーティングが堆積される表面に対して異なる噴霧角度で堆積された遮熱コーティングを示す。特定の実施形態にて、異なる噴霧角度により、コーティングの第1表面とボンドコートとの間の界面に対して異なる非垂直な角度に配向される、複数の成長領域がもたらされ得る。
【0041】
図3は、ボンドコート64上に配置されるコーティング62を有する遮熱コーティング系60を示し、ボンドコートは基材(図示せず)上に配置される。コーティング62は、コーティング62とボンドコート64との間の界面に対して約70°の角度に配向される複数の非垂直な成長領域68を含む。図示した実施形態では、成長領域68は互いに略平行である。成長領域68はコーティング62の厚さ全体を通って延びてよい。あるいは、成長領域68はコーティング62の厚さの一部のみに配置され得る。
【0042】
図4は、基材(図示せず)上に配置されたボンドコート74上に堆積されるコーティング72を有する遮熱コーティング系70を示す。コーティング72は、コーティング72とボンドコート74との間の界面80に対して約60°の角度に配向される複数の非垂直な成長領域78を含む。成長領域78は互いに略平行である。成長領域78はコーティング72の厚さの一部を通る。
【0043】
図5は、基材(図示せず)上に配置されたボンドコート94上に堆積されるコーティング92を有する遮熱コーティング系90を示す。コーティング92は、コーティング92とボンドコート94との間の界面100に対して約45°の角度に配向される複数の非垂直な成長領域98を含む。成長領域98は互いに略平行である。図示されているように、成長領域98はコーティング92の厚さ102全体を通る。
【0044】
図3〜
図5の図示された実施形態では、溶射ガンの角度と成長領域の配向は同じであっても異なっていてもよい。例えば、
図3に戻ると、ガン角度は基材表面に対して約75°であってよく、成長領域68の配向は約70°であってよい。同様に、
図4に戻ると、ガン角度は約60°であり、成長領域78の配向は約52°である。
図5に戻ると、ガン角度は約45°であり、成長領域98の配向は約40°である。
【0045】
特定の実施形態にて、遮熱コーティングは比較的信頼性、付着性がより高く、より柔軟であり、従来のコーティングよりも長い寿命を有し得る。
【0046】
タービンエンジン部品への遮熱コーティングの電子ビームプラズマ蒸着(EBPVD)施工の費用効果的な代替物としては、懸濁液プラズマ溶射法を使用して、本明細書にて開示される遮熱コーティング系を堆積してよい。懸濁液プラズマ溶射法は、懸濁液中に分散した目的のコーティング材料の微細粒子またはその前駆体を利用するが、これらの微細粒子またはその前駆体は液体媒質中の懸濁液に分散され、プラズマ溶射トーチを通って、材料を部品の表面に堆積させる。特定の実施形態にて、遮熱コーティングは拡散ボンドコートまたはオーバーレイボンドコートの表面上に適用されてよい。
【0047】
本発明のコーティングの優れた構造および性質は少なくとも部分的にその製造に用いられる処理のおかげである。この処理には大気プラズマ溶射が伴い、これにより上述のように、PVDまたは真空プラズマ溶射堆積等の真空装置の使用を必要とする処理に勝る特定の経済的利点および製造面での利点がもたらされる。特定の実施形態にて、この処理は液状剤中に懸濁された微細粒子を含む供給原料を使用し、これはプラズマ溶射トーチへと制御された方法で供給され、プラズマプルームに噴射されて基材上に堆積される。粒子は典型的には約0.1マイクロメートル〜約10マイクロメートル、または0.2マイクロメートル〜10マイクロメートルの範囲であるが、必ずしもこの範囲ではない平均粒径を有する。
【0048】
図6はコーティングをアルミナイド系ボンドコート上に堆積させる方法の例示的フローチャートである。ブロック110にて、基材を準備してよい。基材はエンジン部品であってよい。基材は金属基材であってよく、これは平坦または非平坦な表面を有してよい。一実施形態では、基材は1つまたは複数の表面上に拡散ボンドコートを含んでよい。別の実施形態では、基材は1つまたは複数の表面上にオーバーレイボンドコートを含んでよい。一例では、拡散ボンドコートは気相アルミナイズ法を用いて基材表面上に堆積されてよい。
【0049】
任意で、ブロック111では、ボンドコートは、気相堆積法等であるがこれに限定されない公知の技術を使用して堆積されてよい。一例では、アルミナイド系ボンドコートは基材の少なくとも一部の上に配置されてよい。
【0050】
任意で、ブロック112では、ボンドコートの表面を処理して遮熱コーティングのボンドコートへの付着を促してよい。処理の非限定的な例はコーティングの堆積の前に粗化を含む。一例では、ボンドコートの表面はコーティングの堆積の前にグリットブラスト仕上げをしてよい。
【0051】
ブロック114では、遮熱コーティングの材料の微細粒子または前駆体物質を含む供給原料を液体媒質中に懸濁させてよい。一実施形態では、粒子は約0.4マイクロメートル〜約2マイクロメートルの範囲の平均粒径を有し得る。一例では、懸濁液中の粉末の固形分含有量は約5重量%〜約40重量%の範囲であってよい。
【0052】
ブロック114では、懸濁液はプラズマ溶射ガンに制御された方法で供給されて、プラズマプルームに噴射され、基材上に堆積させてよい。
【0053】
ブロック116では、溶射ガンは基材の表面を走査してコーティングを堆積させてよい。基材表面は規則的なまたは不規則なパターンで走査されてよい。一例では、プラズマ溶射トーチは基材表面をラスタしてよい。
【0054】
プラズマ溶射トーチもしくはガン、基材、またはこの両方を、プラズマ溶射が基材の第1表面に約20°〜約75°の範囲の角度で入射するように、互いに配向してよい。一実施形態では、プラズマが基材上に入射する角度は堆積中異なっていてよい。別の実施形態では、プラズマが基材上に入射する角度は堆積中異なっていなくてもよい。
【0055】
一例では、基材表面が変化する曲線を有する場合、表面が走査されるときに溶射角度を連続的に調節するのが容易でない場合がある。この例では、溶射ガンが基材上のある位置から他の位置へと移動するとき、プラズマが基材上に入射する角度は堆積中異なっていてよい。
【実施例1】
【0056】
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)コーティングは、気相拡散ニッケルアルミナイドボンドコートによってRene N5の25mm直径、3mm厚のボタン基材に製造された。YSZコーティングはNorthwest Mettech社のAxial III DCプラズマトーチを使用してボンドコート表面上に堆積された。YSZ堆積に先立って、60psi空気圧にて、220メッシュ白色酸化アルミニウム媒体を使用した吹付け加工によってVPAボンドコート表面を粗化する。
【0057】
供給原料物質は、ポリエチレンイミンを分散剤(固形分の0.2重量%)として使用した、エタノール中に20重量%で懸濁している約0.75μmの平均粒径(d
50)を有するYSZ粉末(ZrO
2−(7〜8)重量%Y
2O
3)であった。2つの異なる懸濁液は、ドイツ、ラウフェンブルクのUCM Ceramics社から入手した異なるYSZ粉末を使用して調製された。2つの異なる懸濁液を共に混合して、最終的な粒径分布を得た。各粉末は異なる平均寸法を有した単峰性粒径分布を有していた。製造業者から提供される粉末のうち一方のd
50はおよそ0.6ミクロンであり、他方の粉末のd
50はおよそ1.0ミクロンであった。
【0058】
懸濁液を、外部チューブを通して送られる窒素噴霧ガスによって、チューブインチューブ型噴霧インジェクタの中心チューブを通してNorthwest Mettech社Axial IIIトーチに注入した。プラズマトーチ端部には3/8インチ直径のノズルを使用した。トーチ電力は約105kWであった。懸濁液供給速度はYSZ約25g/分または約0.6ポンド/時であった。プラズマトーチは600mm/秒で基材上をラスタしながら、トーチノズルと基材間の一定の噴霧距離100mmを維持した。サンプル表面に対してプラズマトーチの異なる噴霧角度でコーティングが製造された。90°、75°、60°および45°の角度を用いて付着性および熱サイクル性能を評価した。約150〜約220ミクロンのコーティング厚が得られた。YSZ堆積に使用されるプラズマ条件は、15%窒素、10%水素および75%アルゴンを有する全ガス流量350slpmであった。200Aの電流を3つの電極各々に使用し、合計ガン電力はおよそ105kWであった。6slpmの窒素キャリアガスがさらに使用された。
【0059】
特定の実施形態にて、コーティング角度が90°から45°に減少されたため、意外にも20%の破砕を引き起こす熱サイクルの数は全体的に増加を示した。45°の噴霧角度で堆積されたコーティングに対して20%の破砕を引き起こす平均熱サイクル数は、90°の噴霧角度で堆積されたコーティングのそれよりも60%上回った。
【実施例2】
【0060】
図7〜
図10に示されるコーティングは上述と同様にして製造されたが、ただしこれらサンプルの供給原料は約1ミクロンのd
50を有するYSZ粉末からなる懸濁液であった。
【0061】
図7は、90°の噴霧角度で堆積されたコーティング142を示し、
図8は、75°の噴霧角度で堆積されたコーティング144を示し、
図9は、60°の噴霧角度で堆積されたコーティング146を示し、
図10は、45°の噴霧角度で堆積されたコーティング148を示す。供給原料により粗大な粒子がある場合、付着性がある柔軟なコーティングを製造した噴霧角度は、より微細な粒子を含む供給原料から製造されたコーティングよりも小さく、粒径と噴霧角度との間の予期しない相互作用を示唆することが見出された。
【0062】
本発明の特定の特徴が本明細書に示され記載されたが、当業者は多くの改変および変更を想到するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲内にあるそのような改変および変更をすべて包含することを目的としていると理解すべきである。
【符号の説明】
【0063】
10 遮熱コーティング系
12 構成要素
14 第1表面
15 第2表面
16 遮熱コーティング
17 第1表面
18 ボンドコート
19 第2表面
20 成長領域
21 法線
22 整列角度
23 接線
24 界面
25 接線
25 コーティング厚
26 領域境界
28 幅
30 遮熱コーティング系
31 表面
32 基材
33 矢印
34 凹部
35 直線
36 凸部
37 入射点
38 ボンドコート
39 直線
40 遮熱コーティング
42 成長領域
43 領域境界
44 噴霧角度
60 遮熱コーティング系
62 コーティング
64 ボンドコート
68 成長領域
70 遮熱コーティング系
72 コーティング
74 ボンドコート
78 成長領域
80 界面
90 遮熱コーティング系
92 コーティング
94 ボンドコート
98 成長領域
100 界面
102 厚さ
110 ブロック
111 ブロック
112 ブロック
114 ブロック
116 ブロック
142 コーティング
144 コーティング
146 コーティング
148 コーティング