(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の開口部が、前記ポリウレタン樹脂層と前記繊維質基材を貫通して設けられ、前記ポリウレタン樹脂層のオモテ面における開口部の占める割合である開口率が10%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合成皮革。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材上にポリウレタン樹脂層が積層され、複数の開口部を有する合成皮革である。
図1は、一実施形態に係る合成皮革1の断面構造を模式的に示したものである。合成皮革1では、繊維質基材2の一方の面に、ポリウレタン樹脂層3が設けられており、ポリウレタン樹脂層3の表面(即ち、合成皮革1のオモテ面)には、通気性を向上するための複数の開口部6が設けられている。開口部6は、ポリウレタン樹脂層3と繊維質基材2を貫通して設けられている。ポリウレタン樹脂層3は、この例では、表皮層4と接着層5とからなり、繊維質基材2上に接着層5を介して表皮層4が積層されている。
【0010】
本実施形態において、繊維質基材としては、3枚筬以上で編成されたトリコット編地が用いられる。トリコット編地は、経編の1つであり、本実施形態では3枚以上の筬(ガイドバー)を用いたトリコット編機で編成された多重編組織のものが用いられる。筬の枚数は、3枚以上であればよく、上限は特に限定しないが、通常は5枚以下である。
【0011】
本実施形態のトリコット編地において、フロント糸によって編成される編組織は、アンダーラップが3針以上のコード編組織である。これによりトリコット編地の目付が大きくなり強度が向上する。さらにはアンダーラップが5針以下のコード編組織であると風合いの面で好ましい。ここで、フロント糸とは、フロント筬から給糸される糸である。
【0012】
また、該トリコット編地において、ミドル糸によって編成される編組織は鎖編組織である。これにより、トリコット編地の伸びを抑制し強度が向上する。ここで、ミドル糸とは、ミドル筬から給糸される糸である。なお、トリコット編地が4枚筬以上で編成される場合、少なくとも1枚のミドル筬から給糸される糸により鎖編組織が編成されればよく、複数枚のミドル筬により鎖編組織とともに他の編み組織を重ね設けてもよい。
【0013】
さらに、該トリコット編地において、バック糸によって編成される編組織は、デンビ編組織またはコード編組織である。これによりトリコット編地の目付が大きくなり強度が向上する。なかでもアンダーラップが2針以上のコード編組織であることが好ましく、より好ましくはアンダーラップが2針以上5針以下のコード編組織である。ここで、バック糸とは、バック筬から給糸される糸である。
【0014】
本実施形態におけるトリコット編地を構成する繊維の素材は、特に限定されることなく従来公知の天然繊維、再生繊維、合成繊維、半合成繊維などを用いることができる。これらは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。車両内装材用途に適した強度を有する点から、繊維の素材は合成繊維が好ましく、さらにはポリエステルを用いることが好ましい。
【0015】
トリコット編地を構成する繊維の形状は、その目的や具体的用途に応じて、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。また、断面形状も特に限定されるものでなく、通常の丸型だけでなく、扁平型、三角型、中空型、Y型、T型又はU型などの異型であってもよい。
【0016】
トリコット編地を構成する繊維(単繊維)の繊度(以下、単糸繊度という。)は、0.7〜3.5dtexであることが好ましく、特には1.5〜2.5dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.7dtex以上であることにより、強度を向上することができる。また、単糸繊度が3.5dtex以下であることにより、孔開け加工により開口部を形成する際の開口性を向上することができ、また、開口部からの繊維質基材のホツレを抑制することができる。
【0017】
トリコット編地を構成する糸条の形態は、紡績糸(短繊維糸)、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸(以上、長繊維糸)のいずれであってもよく、さらには長繊維と短繊維を組み合わせた長短複合紡績糸であってもよい。マルチフィラメント糸は、必要に応じて1本又は複数本引き揃えて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理などの加工を施してもよい。なかでも、強度、特には引裂強度、引張強度の観点から、仮撚加工や流体撹乱処理の加工を施した加工糸を用いることが好ましい。
【0018】
トリコット編地を構成する糸条の繊度(総繊度)は、84dtex以上である。糸条の繊度が84dtex以上であることにより、強度を向上させることができる。さらには250dtex以下であることが風合いの観点から好ましい。トリコット編地を構成する糸条は、上記フロント糸、ミドル糸及びバック糸で同一でも異なってもよい。
【0019】
トリコット編地の目付は200〜550g/m
2であることが好ましく、さらには250〜500g/m
2であることが好ましく、300〜500g/m
2であってもよい。目付が200g/m
2以上であることにより強度を向上することができる。目付が550g/m
2以下であることにより、コストの上昇を抑えることができる。
【0020】
また、本実施形態におけるトリコット編地は、接着指数が350000〜850000であることが好ましく、さらには400000〜800000であることが好ましい。接着指数が上記範囲であることにより、トリコット編地とポリウレタン樹脂層の密着性が高く強度が向上するとともに、風合いが良好である。
【0021】
なお、トリコット編地の接着指数は、下記式により算出される。
接着指数 =((フロント糸の単糸繊度(dtex)×フロント糸のフィラメント本数)+(ミドル糸の単糸繊度(dtex)×ミドル糸のフィラメント本数)+(バック糸の単糸繊度(dtex)×バック糸のフィラメント本数))×コース密度×ウエル密度
ここで、コース密度とは、トリコット編地の経方向1インチ(25.4mm)当たりの編目数であり、コース/25.4mmである。また、ウエル密度とは、トリコット編地の緯方向1インチ(25.4mm)当たりの編目数であり、ウエル/25.4mmである。
【0022】
かかるトリコット編地は、必要に応じて、プレセット、精練などの前処理や、加色を施すことができる。
【0023】
本実施形態に係る合成皮革は、トリコット編地からなる繊維質基材上にポリウレタン樹脂層が設けられたものであり、トリコット編地に直接または接着層を介してポリウレタン樹脂層が設けられたものである。ポリウレタン樹脂層は、トリコット編地のフロント面、バック面のどちらに設けてもよいが、表面がフラットで、ポリウレタン樹脂層との密着性がよく、剥離強度がよいという点で、バック面に設けることが好ましい。ここで、トリコット編地のフロント面とは、フロント糸による編組織で形成された面であり、バック面とは、バック糸による編組織で形成された面である。
【0024】
具体的には、ポリウレタン樹脂液を、ナイフコーティング、ロールコーティング、グラビア又はスプレーなどの方法で繊維質基材の片面に塗布後、乾式凝固または湿式凝固させることにより、直接、ポリウレタン樹脂層を設けてもよい。もしくは、所定のポリウレタン樹脂液を、上記ナイフコーティングなどの方法で離型性基材に塗布後、乾式凝固または湿式凝固させることによりポリウレタン樹脂層を調製し、これをトリコット編地の片面に圧着することにより、直接、ポリウレタン樹脂層を設けてもよい。あるいはまた、上記離型性基材上に調製されたポリウレタン樹脂層を、トリコット編地の片面に接着剤を用いて貼り合わせることにより、ポリウレタン樹脂層を設けてもよい。
【0025】
ポリウレタン樹脂層を構成するポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることができ、これらを1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐摩耗性および耐光堅牢性の観点からポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、求める機能と用途に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
ポリウレタン樹脂には、必要に応じて、従来公知の添加剤、例えば着色剤、可塑剤、安定剤、充填剤、滑剤、塗料、発泡剤、離型剤などを含有させてもよい。これらは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
ポリウレタン樹脂層の厚さは100μm以上であり、特には150μm以上であることが好ましい。ポリウレタン樹脂層の厚さが100μm以上であることにより、得られる合成皮革の強度低下を抑えることができる。ポリウレタン樹脂層の厚さは500μm以下であることが風合いの観点から好ましく、より好ましくは300μm以下である。なお、ポリウレタン樹脂層を設ける際にポリウレタンの接着剤を使用する場合には、接着剤により形成される接着層もポリウレタン樹脂層の一部を構成する。例えば、
図1に示す例では、ポリウレタン樹脂層3は、合成皮革1のオモテ面を構成する表皮層4と、接着層5からなる。そのため、この場合、接着層の厚さをも含めた値をポリウレタン樹脂層の厚さとする。このようにポリウレタン樹脂層は、繊維質基材上に形成されるポリウレタン樹脂からなる層であり、1層構造には限られず、2層又は3層以上であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る合成皮革は複数の開口部を有する。開口部は、ニードルパンチング、放電、レーザー照射など従来公知の手段により形成することができる。開口部は、ポリウレタン樹脂層の表面からトリコット編地まで貫通している。
【0029】
合成皮革のオモテ面(即ち、ポリウレタン樹脂層のオモテ面)における開口部の占める割合、開口率は10%以上であることが好ましく、より好ましくは10〜20%であり、さらに好ましくは10〜15%である。開口率が10%以上であると、車両内装材として十分な通気度が得られる。一方、開口率が20%以下であると強度の観点で優れる。
【0030】
開口部の形状は特に限定されず、例えば丸、三角、四角などの幾何学模様から意匠性を考慮して選択することが可能である。強度の観点から、丸が好ましい。また、開口部の大きさは、0.19〜7.07mm
2(開口部が丸である場合、0.5〜3.0mmの平均口径に該当)が好ましい。開口部の大きさが0.19mm
2以上であることにより、合成皮革の通気度を高めることができ、長時間着座した場合の蒸れやべたつきを抑える効果を高めることができる。また、7.07mm
2以下であることにより、合成皮革の強度低下を抑えることができる。
【0031】
また、開口部の分布状態(平均密度)は、8〜100個/(25.4mm)
2が好ましい。平均密度が8個/(25.4mm)
2以上であることにより、合成皮革の通気度を高めることができ、長時間着座した場合の蒸れやべたつきを抑える効果を高めることができる。また、平均密度が100個/(25.4mm)
2以下であることにより、合成皮革の強度低下を抑えることができる。
【0032】
このような開口部を有する合成皮革は、通気度が60mL/cm
2・sec以上であることが好ましい。通気度は、より好ましくは100mL/cm
2・sec以上である。通気度の上限は特に限定されず、例えば200mL/cm
2・sec以下でもよく、150mL/cm
2・sec以下でもよい。
【0033】
上述のように構成することにより、本実施形態によれば、通気度が60mL/cm
2・sec以上となるように開口部を設けたものでありながら、車両内装材用途として十分な強度(引張強度および引裂強度)をもつ合成皮革を提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は質量基準であるものとする。また、得られた合成皮革の評価は以下の方法に従い行った。
【0035】
[引張強度]
幅30mm、長さ150mmの試験片を、タテ、ヨコ方向各々3枚採取した。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、試験片の両端をつかみ具でたるみのないように挟み、引張試験機オートグラフAG−100A(株式会社島津製作所製)を用いて、つかみ幅30mm、つかみ間隔100mm、つかみ具の移動速度200mm/minで試験片を破断させた。試験片が破断したときの最大荷重(N/cm)を測定し、平均値を求めた。測定値が50N/cm以上であれば、合成皮革として十分な引張強度であるといえ、数値が大きいほど、引張強度に優れる。
【0036】
[引裂強度]
幅50mm、長さ250mmの試験片を、タテ、ヨコ方向から各々3枚採取した。試験片に
図2のような等脚台形のマークを付け、マークの短辺の中央に辺と直角に10mmの切目をいれる。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、引張試験機オートグラフAG−100A(株式会社島津製作所製)を用いて、つかみ間隔10mmで台形の短辺を張り、長辺は緩めてつかみ、移動速度200mm/minで試験片を引裂いた。試験片が切断したときの最大荷重(N/cm)を測定し、平均値を求めた。測定値が100N/cm以上であれば、合成皮革として十分な引裂強度であるといえ、数値が大きいほど、引裂強度に優れる。
【0037】
[剥離強度]
幅30mm、長さ120mmの試験片を、タテ、ヨコ方向各々3枚採取し、ポリウレタン樹脂層と繊維質基材を試験片の短辺の片端から40mm剥離する。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、ポリウレタン樹脂層と繊維質基材をつかみ具でたるみのないように挟み、引張試験機オートグラフAG−100A(株式会社島津製作所製)を用いて、つかみ幅30mm、つかみ具の移動速度200mm/minでポリウレタン樹脂層を剥離した。剥離時の最大荷重(N/cm)を測定し、各々の平均値を剥離強度とした。測定値が8N/cm以上であれば、合成皮革として十分な剥離強度であるといえ、数値が大きいほど、剥離強度に優れる。
【0038】
[通気度]
JIS L1096 8.26.1A法(フラジール形法)に準拠して室温(23℃)での通気度を測定した。測定値が大きいほど通気性が高いことを示す。
【0039】
[風合い]
パネラーによる触感による評価を行い、次の基準に従って判定した。
(評価基準)
1 … 良好(柔軟性がある)
2 … やや悪い(やや柔軟性に欠ける)
3 … 悪い(硬く、柔軟性がない)
【0040】
[実施例1]
28ゲージのトリコット編機(HKS3M:日本マイヤー社製)を用いて、フロント筬に84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメントをフルセットで導糸してコード編組織(3針間でアンダーラップ)を、ミドル筬に84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメントをフルセットで導糸して鎖編組織を、バック筬に84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメントをフルセットで導糸してコード編組織(2針間でアンダーラップ)を、それぞれ形成して、トリコット編地を編成した。各編組織の詳細は、表1に示す通りである。得られたトリコット編地を190℃で1分間プレセットした後、130℃にて染色、乾燥し、150℃で1分間仕上げセットした。
【0041】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(DIC株式会社製 クリスボンNY−328)100質量部に対して、ジメチルホルムアミド40質量部を加え粘度約2000mPa・sに調整してポリウレタン樹脂液を作製した。該ポリウレタン樹脂液を離型紙へ塗布厚さが200μmになるようにコーティングした後、130℃で2分間乾燥し、ポリウレタン樹脂層(表皮層に相当する。)を得た。
【0042】
ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(DIC株式会社製 クリスボンTA−205)100質量部に対してジメチルホルムアミド50質量部を加え、粘度を約4500mPa・sに調整した接着剤樹脂溶液を、上記で形成したポリウレタン樹脂層上に塗布厚さが200μmになるようにコーティングした後、100℃で1分間乾燥した。得られた接着層とトリコット編地のバック面を合わせて39.2N/cm
2条件下で1分間プレス圧着し、合成皮革を得た。このときポリウレタン樹脂層の厚さ(表皮層と接着層を合わせた厚さ)は、199μmであった。得られた合成皮革のトリコット編地は、コース密度が65コース/25.4mm、ウエル密度が34ウエル/25.4mm、接着指数が548964、目付が347g/m
2であった。
【0043】
得られた合成皮革に対し、パンチング加工機にて、合成皮革の表面側により孔開け加工を施した。孔開け加工により開口部の大きさが1.77mm
2、平均口径が1.5mm、平均密度が45個/(25.4mm)
2、開口率が12.3%となる開口部を形成し、実施例1の合成皮革を得た。
【0044】
実施例2〜7及び比較例1〜8は、表1及び表2に従いトリコット編地、ポリウレタン樹脂層を作製した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。表1中の糸条について、「84/36」は、84dtex/36fであること、すなわち、糸条の繊度が84dtexで、フィラメント本数が36本であることを示す。実施例2では、フロント糸に84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメントを2本撚り合わせた双糸を用いた。
【0045】
実施例、比較例によって得られた合成皮革に対し、前述した項目について評価を行い、それらの結果を表1及び表2に示した。表1に示すように、実施例1〜7の合成皮革であると、優れた通気性を持つものでありながら、車両内装材用途として十分な引張強度及び引裂強度を有しており、また剥離強度及び柔軟性も概ね良好であった。実施例1と実施例3との対比から、バック糸はデンビ編組織よりもコード編組織の方が引張強度の点で優れていた。また、実施例1と実施例7との対比から、ポリウレタン樹脂層は、トリコット編地のフロント面に設けるよりも、バック面に設けた方が剥離強度の点で優れていた。
【0046】
表2に示すように、比較例1及び4は、トリコット編地を構成する糸条の繊度が小さく、車両内装材用途としての十分な強度が得られなかった。比較例2はフロント糸が2針間のアンダーラップのコード編組織であり、比較例3はミドル糸がデンビ編組織であり、比較例6はフロント糸がデンビ編組織であり、また、比較例7はミドル糸のない2枚筬で編成されたため、いずれも引張強度及び引裂強度に劣るものであった。比較例5は、ポリウレタン樹脂層の厚みが小さく、引張強度及び引裂強度に劣るものであった。比較例8は、バック糸の編組織が挿入であったため、柔軟性に劣るものであった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】