特許第6387024号(P6387024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387024脱スルホン酸化を介したアルキルラジカル結合生成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387024
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】脱スルホン酸化を介したアルキルラジカル結合生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/02 20060101AFI20180827BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20180827BHJP
   C25B 3/10 20060101ALI20180827BHJP
   C07C 309/04 20060101ALN20180827BHJP
   C01B 3/02 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   C25B3/02
   C25B9/00 G
   C25B3/10
   !C07C309/04
   !C01B3/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-561612(P2015-561612)
(86)(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公表番号】特表2016-516891(P2016-516891A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】US2014020786
(87)【国際公開番号】WO2014138252
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2016年12月6日
(31)【優先権主張番号】61/773,610
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516026376
【氏名又は名称】フィールド アップグレーディング リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】バーヴァラジュ・サイ
(72)【発明者】
【氏名】ペンデルトン・ジャスティン
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/133906(WO,A1)
【文献】 米国特許第04608137(US,A)
【文献】 国際公開第2012/103135(WO,A1)
【文献】 特開平06−199595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00− 9/20
C25B13/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルスルホン酸のナトリウム塩を得る工程と、電解セル内で使用される陽極液を調製する工程と、電解セル内の陽極液を電解する工程とから成るラジカル結合生成物を製造する方法であって、電解セルは陽極液室、陰極液室および陰極液室から陽極液室を分離するNaSICON膜から成り、陽極液は陽極液室内に収納され、陰極液は陰極液室内に収納され、陽極液は第1の溶媒または混合溶媒と所定量のアルキルスルホン酸のナトリウム塩とから成り、電解工程により、アルキルスルホン酸のナトリウム塩の脱スルホン酸化が行われ、アルキルスルホン酸のナトリウム塩が反応してアルキルラジカル結合生成物を生じるような一つ以上のアルキルラジカルに変換されることを特徴とするアルキルラジカル結合生成物を製造する方法。
【請求項2】
アルキルスルホン酸のナトリウム塩がバイオマスから誘導される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルキルラジカル結合生成物が炭化水素から成る請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に、CH−SO−Na又はH−SO−Na材料を脱スルホン酸化してメチルラジカル又は水素ラジカルを形成する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
更に、水素ガスを光分解して水素ラジカルを形成する工程を含む請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2013年3月6日出願の米国仮特許出願第61/773,610号の優先権を主張する。本願は更に、2010年7月21日出願の米国特許出願12/840,508号の一部継続出願である(’508出願と称する)。’508出願は、2009年7月23日出願の米国仮特許出願第61/228,078号、2009年11月5日出願の米国仮特許出願第61/258,557号及び2009年11月13日出願の米国仮特許出願第61/260,961号の優先権を主張する。本願は更に、2010年7月21日出願の米国特許出願第12/840,401号の一部継続出願である。本願は更に、米国特許出願第12/840,913号の一部継続出願である。本願は更に、米国特許出願第13/612,192号の一部継続出願である。これらの仮特許出願および特許出願は、参照により本発明に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
アルキル硫酸のナトリウム塩は容易に製造できる有用な化学物質である。この化学物質は、一般的に以下の構造を有する。
[R−SONa
この化学物質の具体例の一つとしては、広く洗剤として使用されているドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。
【0003】
【化1】
【0004】
もちろん、“R”基はアルキル硫酸塩に添加される。
【0005】
アルキル硫酸のナトリウム塩は、一般に、洗剤、化粧品、界面活性剤、シャンプー、クロマトグラフィー及び他の有用な製品/プロセスで見受けられる。従って、これらの化学物質は容易に入手でき、安全で生分解性であると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同時に、アルキル硫酸のナトリウム塩を反応させて他の異なる有機化合物を形成する新しい方法が必要とされている。そのような方法を本発明において開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アルキルスルホン酸のナトリウム塩([R−SONa)が得られる。一旦得られると、このアルキルスルホン酸塩は、電解セル内で使用される陽極液に添加される。この陽極液は、更に溶媒(水、メタノール等)および任意の支持電解質([R−SONaに加えて)を含んでいてもよい。便宜上、以下でアルキルスルホン酸塩([R−SONaをR−SO−Naと記載することもある。
【0008】
陽極液室と陰極液室の2室を分離するナトリウムイオン伝導性セラミック膜を使用した電解セルに陽極液が供給される。代表的な膜はNaSICON膜である。NaSICONは、一般的に、室温において比較的高いナトリウムイオン伝導性を有する。また、アルカリ金属がリチウムの場合、膜の実施態様を構成するために使用される特に好適な材料はLiSICONである。更に、アルカリ金属がカリウムの場合、膜の実施態様を構成するために使用される特に好適な材料はKSICONである。そのような固体電解質膜の他の例としては、NaSICON構造を基にした物、ナトリウム伝導性ガラス、ベータアルミナ及び固体ポリマーナトリウムイオン伝導体等が挙げられる。そのような材料は市販されている。更に、そのような膜は、陽極液中に存在し、陰極液に混合させられない不純物にも強い。それ故、セル中の陽極液に導入する前に不純物(バイオマスから誘導される)を除去する必要がない。
【0009】
電解セルは、平板電極および/または平らな材料が使用される標準の平行板電極を使用できる。他の実施態様において、電解セルは、チューブ状電極および/またはチューブ状材料が使用されたチューブ状セルであってもよい。
【0010】
電気化学的に活性な第1のアノードは、電池内で第1の陽極液室内に収納される。アノードは平滑白金、ステンレススチールから成るか、または炭素系電極からなる。炭素系電極の例としては、ホウ素がドープされたダイアモンド、ガラス状カーボン、合成カーボン、寸法安定性アノード(DSA)及び二酸化鉛が挙げられる。第1のアノードが所望の反応を生じるのであれば、他の材料も電極材料として使用できる。セルの陽極液室内で、酸化(脱スルホン酸化)反応に引き続きラジカル−ラジカルカップリング反応が起こる。ある実施態様において、陽極の脱スルホン酸化/酸化的スルホン酸の結合が、公知のコルベ反応と類似の反応を介して生じる。「標準的」なコルベ反応はフリーラジカル反応であり、以下に示す。
【0011】
【化2】
【0012】
このコルベ反応は、代表的には、平行板型電解セルを使用して、部分的に中和された酸(アルカリ塩の形態で)と共に非水メタノール溶液中で行われる。セルで使用される陽極液は高密度を有する。
【0013】
コルベ反応から明らかなように、カルボン酸分子の二つの‘R’基互いに結合し、ラジカル結合生成物が生じる。ある実施態様において、コルベ反応は、二つの‘Rラジカル’(R・)が形成され、引き続き互いに結合して炭素−炭素結合を形成するフリーラジカル反応である。当業者ならば明らかなように、使用される出発物質により、ラジカル結合生成物は炭化水素またはある種他の鎖状物質となる。ラジカル結合生成物は、ダイマー(二量体)または1つ以上の高カーボン含有または低カーボン含有材料から成る混合生成物である。ラジカル結合生成物中のラジカルは、アルキル系ラジカル、水素系ラジカル、酸素系ラジカル、窒素系ラジカル、他の炭化水素系ラジカル又はこれらの組合せであってもよい。それ故、炭化水素がラジカル結合生成物として以下の例では示されるが、炭化水素は他の好適なラジカル結合生成物に制限されずに置き換えてもよい。
【0014】
上述のように、本実施態様は、カルボン酸自身よりも、陽極液中のスルホン酸のナトリウム塩(またはアルキル金属塩)を使用する。それ故、標準的なコルベ反応(脂肪酸の形態におけるカルボン酸を使用する)を使用するよりも、本実施態様は、アノードにおいて以下の反応を行うことを含む。
【0015】
【化3】
【0016】
繰り返すが、本実施態様において、二つの‘R’基が結合して炭化水素などのラジカル結合生成物を形成する。これらは、スルホン酸自身の代りにスルホン酸のナトリウム塩を使用することによる以下の利点で区別される。
([R−SONa)はR−SO−Hよりもより極性を有するため、低電圧においてより脱スルホン酸(反応)しやすい。
電解質伝導性は、スルホン酸それ自身よりもスルホン酸のナトリウム塩の方がより高い。
陽極液および陰極液は、それぞれの電極において異なる反応が起きてもよいように完全に異なる。
【0017】
上述のように、セルはナトリウムイオン伝導性膜から成る膜を含む。この膜は、電位差の影響下で、陽極液と陰極液とが混合することを防ぎながら、陽極液室から陰極液室にナトリウムイオン(Na)を選択的に移送する。
【0018】
陰極液はNaOH水溶液または非水メタノール/ナトリウムメトキシド溶液である(陽極液は水性でも非水でもよい)。電気化学的に活性なカソードは陰極液室中に収納され、還元反応が起こる。還元反応は以下の式で示される。
2Na+2HO+2e→2NaOH+H
2Na+2CHOH+2e→2NaOCH+H
水素ガスはカソードにおける還元反応の生成物である。NaOH(水酸化ナトリウム)又はNaOCH(ナトリウムメトキシド)もまた生成する。このNaOH又はNaOCHは、反応で使用されてR−SO−Naを形成するための塩基となる。それ故、この反応は総反応プロセス中に必要な一つの反応種を実質的に(陰極液室内で)再生する。このNaOH又はNaOCHは、回収され、更なる反応において再使用されてもよい。NaOHまたはNaOCHの再生でき、再使用できることは有利であり、プロセスの総コストを大きく削減できる。
【0019】
代替の実施態様において、炭素数の小さいスルホン酸のナトリウム塩(CHSO−Na等)がR−SO−Naに加えて陽極液に添加される。このスルホン酸塩の添加は幾つかの実施態様において以下に示すように有利である。
・溶媒中に非常に可溶であるそれ自身好適な支持電解質として機能し、それにより、陽極液中に高い電解質伝導性を付与する。 以下の反応において、それ自身の脱スルホン酸化し(電解プロセスにおいて)、CH・(メチルラジカル)を形成する。
【0020】
【化4】
【0021】
次いで、メチルラジカルはスルホン酸の炭化水素基と反応して、追加されたCH−官能基を有する炭化水素を形成する。
【0022】
【化5】
【0023】
それ故、ある実施態様において、陽極液の一部としてCH−SO−Naを使用することにより、この実施態様では、スルホン酸からの2つの炭化水素ラジカルが互いに結合する(R−R)か、又はスルホン酸からのラジカルとメチルラジカル(CH−SO−Naからの)とが結合して混合炭化水素生成物が生成する。この混合生成物は所望により分離して使用される。もちろん、この実施態様は、追加反応物質としてCH−SO−Naを使用することを示す。別の方法では、炭素数の小さい他のスルホン酸のナトリウム塩もまた、カーボンラジカルとスルホン酸ラジカルの結合に使用できる。
【0024】
本実施態様の使用により、種々の異なる炭化水素またはラジカル結合生成物が形成されるであろう。例えば、ディーゼル油、ガソリン、ワックス、JP8(「ジェット燃料8」)等に使用される炭化水素を製造するために、選択される特定の‘R’基が選ばれ及び/又は必要に応じて仕立てられる。炭化水素の具体的な応用は選択される出発物質による。
【0025】
上述の実施態様において、以下の特許文献に記載される「脱炭酸化」反応と似ている「脱スルホン酸化」反応を使用する。米国特許出願公開第2011/0024288号、米国特許出願公開第2011/0027848号、米国特許出願公開第2011/0168569号、米国特許出願公開第2013/0001095号など。これらの公開された特許文献は参照により本願に引用される。しかしながら、当業者ならば、上述の文献の脱炭酸プロセスで記載されている反応、反応条件、反応物質などは、本発明の脱スルホン酸化反応にも等しく適用できることは明らかであろう。更に、ここでは、アルカリ金属としてNaに絞って例としているが、当業者ならば、その他のアルカリ金属またはアルカリ金属のアロイもNaと共に又はNaの代りに使用出来ることは明らかであろう。
【0026】
本発明の上述のおよび他の特性ならびに利点が得られ、容易に理解できるように、上述の簡単な説明より具体的な記述を添付の図面に記載されたより具体的な実施態様によって説明する。図面は本発明のある代表的な実施態様を示しているだけであり、本発明の要旨をこれに限定するわけではないことを理解すべきである。本発明は、添付の図面を使用して追加の具体例および詳細を記載、説明するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、アルキル硫酸のナトリウム塩を反応させて他の異なる有機化合物を形成する新しい方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、脱スルホン酸化を使用して結合された炭化水素生成物を製造する総プロセスを示したスキーム図である。
図2図2は、本発明に従い、陽極脱スルホン酸化および引き続き炭素−炭素結合形成によって、スルホン酸のナトリウム塩をラジカル結合生成物に変換するための電解セルの略図である。
図3図3は、スルホン酸のナトリウム塩をラジカル結合生成物に変換するための電解セルの他の実施態様の略図である。
図4図4は、スルホン酸のナトリウム塩をラジカル結合生成物に変換するための電解セルの更に他の実施態様の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に、ラジカル結合生成物を製造する総プロセス10を示す。図1に示すように、工程12は所定量のスルホン酸(R−SOH)を得る工程である。このスルホン酸は有機酸であり、バイオマス又は他の供給源から得られてもよい。当業者ならば種々の異なるスルホン酸の供給源があることを理解できるであろう。ありとあらゆるスルホン酸の供給源が本実施態様の範囲に含まれる。上述の公開公報は、可能性のある出発物質としてバイオマスを記載し、公知の方法によりバイオマスがスルホン酸に変換されることを記載している。
【0030】
一旦スルホン酸が得られると、スルホン酸はアルキルスルホン酸塩(R−SO−Na)に変換される(14)。この変換反応は、スルホン酸を塩基に反応させて行うか、電気化学的セル中で行うか又は他の方法によって行ってもよい。他の実施態様において、スルホン酸を得て反応させてアルキル硫酸ナトリウムを得る代りに、所定量のアルキル硫酸ナトリウムを直接得てもよい(例えば購入するなどして)。
【0031】
アルキルスルホン酸ナトリウムは、次いで、ここに説明されるような方法において脱スルホン酸化電解プロセス工程16に処せられる。記載されるように、このプロセスは所定量のSOガス18(例えば、SO、SO等)を生成する。所定量の水素ガス20もまた生成する。当業者ならば、所望によりこれらのガスは回収され、再使用され、処分などされてもよいことは明らかであろう。更に、脱スルホン酸化プロセス工程16の一部として、ナトリウムイオンが、例えば、NaOH(矢印22で示す)等の塩基の形態でリサイクルされ、R−SO−Naの形成のために再度使用されてもよい。
【0032】
同時に、脱スルホン酸化工程16は、有機ラジカル同士を結合させることによってR−R炭化水素生成物24を形成するように操作される。上述のように、これらの炭化水素は燃料やガソリン添加剤などの価値の高い生成物となる。
【0033】
電解セルは脱スルホン酸化工程16を行うために使用される。セルの代表的な実施態様の例を図2に示す。所定量の第1の溶媒160(例えば、水または、メタノール、エタノール及び/又はグリセロール等のアルコール系溶媒)を含むこのセル200は、進歩したコルベ反応を行うために使用される。溶媒160はいかなる供給源から得てもよい。この進歩したコルベ反応は、所定量のSOガス172を伴って炭化水素170を製造する。所定量の塩基150もまた生成する(図2の実施態様において、塩基はNaOHである)。炭化水素170は、このプロセスによって製造される多数のラジカル結合生成物のほんの一例であり、例えば、炭化水素の混合物であってもよい。同様に、プロセス200において製造されるSOガス172は、天然に存在する化学物質であり、処分、回収、販売などがなされてもよい。
【0034】
プロセス200(進歩したコルベ反応におけるより具体的な)において製造される炭化水素170は重要な価値を持つ。炭化水素は、燃料、ディーゼル燃料、ガソリン、医薬品、ワックス、香料、オイル、他の応用品および製品に使用されるため重要な価値を持つ。本発明の方法で、異なる種の炭化水素が使用されてもよい。炭化水素は、しばしば分子鎖の炭素数によって分類される。更に、炭化水素は、しばしば以下の留分によっても分類される。
【0035】
:メタン留分
−C:天然ガス留分
−C10:ガソリン留分
10−C13:JP8(ジェット燃料)留分
14−C20:ディーゼル留分
20−C25:燃料油留分
20−C30:ワックス
【0036】
これらの分類は、必ずしも正確でなく、具体的な実施態様に従って変更される。例えば、「ガソリン留分」はC11等の部分を有してもよく、JP8留分は何らかのC14等の部分を有してもよい。
【0037】
本実施態様によるラジカル結合生成物の形成によって、種々の炭化水素が一部あるいは全てのこれらの留分において生成される。例えば、ある実施態様は、市販のガソリンの主要構成成分であるC炭化水素(オクタン)が形成されるような構成である。同じ用に、JP8を作るために使用されるC12炭化水素が形成される。もちろん、得られる正確な生成物は個々の出発原料および/または使用される反応条件による。それ故、本実施態様は、バイオマスを合成滑剤、ガソリン、JP8、ディーゼル油または他の炭化水素に変換することができる。
【0038】
図2はセル200を示す(電圧を負荷できる電気化学的セルであったもよい)。セル200は陰極液室204及び陽極液室208を含む。陰極液室204及び陽極液室208は膜212によって分離されている。
【0039】
それぞれのセル200の特徴は個々の実施態様によっている。例えば、セル200が標準的な平行板セルの場合、平板電極および/または平板膜が使用される。他の実施態様において、セル200はチューブ状セルであり、チューブ状電極および/またはチューブ状膜が使用される。電気化学的活性な第1のアノード218が、部分的または全体が陽極液室208に収納されている。一つ以上のアノード218が使用される。アノード218は、例えば平滑白金電極、ステンレススチール電極、カーボン系電極から成る。代表的なカーボン電極の例としては、ホウ素がドープされたダイアモンド、ガラス状炭素、合成炭素、寸法安定性アノード(DSA)及び関連物質および/または二酸化鉛が挙げられる。他の電極としては、S・S、コバール(Kovar、ニッケルコバルト合金)、インコネル/モネルなどの金属および/または金属アロイから成る。他の電極としては、RuO−TiO/Ti、PtO−PtO/Ti、IrO、Co、MnO、Ta及び他のバルブ金属酸化物から成る。更に、SnO、BiRu(BRO)、BiSn、白金、チタン、パラジウム、白金被覆チタン等の貴金属、ガラス状カーボン、BDD、硬質炭素等のカーボン材料などの他の材料も電極を構成するのに使用できる。更なる実施態様では、RuO−TiO、硬質ガラスカーボン及び/又はPbOを有していてもよい。繰り返すが、上述の記載は使用される電極の種類の単なる例示である。カソード室204は少なくとも1つのカソード214を含む。カソード214は、部分的に又は全体がカソード室204内に収納される。カソード214を構成するのに使用される材料は、アノード218を構成するのに使用される材料と同じであってもよい。他の実施例において、アノード218とカソード214が異なる材料で構成されているように設計されていてもよい。
【0040】
陽極液室208は所定量の陽極液228を収納するように設計されている。陰極液室204は所定量の陰極液224を収納するように設計されている。図2の実施態様において、陽極液228及び陰極液224は両方とも液体であり、固体粒子および/またはガス状粒子が更に、陽極液228及び陰極液224のどちらか、及び/又は陽極液228及び陰極液224の両方に含まれていてもよい。
【0041】
アノード室208及びカソード室204はアルカリ金属イオン伝導性膜212によって分離される。この膜は選択的アルカリ金属移送膜として利用する。例えば、ナトリウムの場合、この膜はナトリウムイオン伝導性膜212である。ナトリウムイオン伝導性固体電解質膜212は、電位を加えた状況下で、陽極液228と陰極液224との混合を防きながら選択的にナトリウムイオン(Na)を陽極液室208から陰極液室204に移送する。そのような固体電解質膜の例としては、NaSICON構造を基にしたもの、ナトリウム伝導性ガラス、ベータアルミナ及び固体ポリマーナトリウムイオン伝導体が挙げられる。NaSICONは、代表的には室温において相対的に高いイオン伝導性を有する。代わりに、アルカリ金属がリチウムの場合、膜を構成するのに使用される特に好適な材料はLiSICONである。又、さらに、アルカリ金属がカリウムの場合、膜を構成するのに使用される特に好適な材料はKSICONである。
【0042】
陽極液室208は、それを介して陽極液228を添加できるような一つ以上の注入口240を有する。その代わりに、陽極液228で調製される各成分は、注入口240を介して陽極液室208に別々に添加されセル内で混合されてもよい。陽極液は、所定量のスルホン酸のアルキル金属塩108(R−SO−Na)を含む。図2に示す具体的な実施態様において、アルカリ金属はナトリウムであり、アルカリ金属スルホン酸塩108はナトリウム塩である。陽極液228はまた、水160aであってもよい第1の溶媒160を含む。もちろん他の種類の溶媒も使用できる。陽極液228は、任意に他のスルホン酸アルキル金属塩(例えば、CH−SO−Na等)を含んでいてもよい。異なるスルホン酸のアルキル金属塩の他の混合物を含んでいてもよい。
【0043】
陰極液室204は、それを介して陰極液224を添加できるような一つ以上の注入口242を有する。陰極液224は第2の溶媒160bを含む。第2の溶媒160bは水であってもよく(図2に示す)、アルコール又は他の種類の溶媒あるいは混合溶媒であってもよい。重要なことは、陰極液224中の溶媒160bは陽極液228中の第1の溶媒160aと同じである必要はない。ある実施態様において、溶媒160a及び160bは同じである。この理由は、膜212が室208と室204とを互いに分離しているからである。それ故、溶媒160a及び160bは、それぞれ個々の室で起こる反応によって、それぞれ個別に選択される(及び/又はそれぞれ個々の室内での化学物質の溶解性を調節する)。それ故、セル200の設計者は、溶媒の混合および/または他の室内で起きる反応について心配することなく、個々の室で起こる反応に応じて溶媒160a及び160bを選択できる。これは、セル200の設計において非常に大きな利点である。代表的なコルベ反応は、陽極液および陰極液の両方において1つの溶媒を使用することのみ許される。従って、2つの個々の溶媒の使用は大きな利点である。他の実施態様において、第1の溶媒160aと第2の溶媒160bの何れか一方および/または第1及び第2の溶媒160a及び160bが混合溶媒から成る。
【0044】
陰極液224は塩基150を含んでもよい。図2に示す実施態様において、塩基150はNaOH又はナトリウムメトキシド又はこれらの化学物質の混合物であってもよい。
【0045】
アノード218及びカソード214で起こる反応について説明する。全ての電気化学的セルと同様に、それらの反応は、電源290がセル200に電位を加えた時に生じる。
【0046】
カソード214において還元反応が生じる。この反応はナトリウムイオンと溶媒とを使用し、所定量の塩基150を添加して水素ガス270を形成する。例として、図2の化学物質を使用する場合の還元反応は以下に示される。
【0047】
2Na+2HO+2e→2NaOH+H
2Na+2CHOH+2e→2NaOCH+H
【0048】
水素ガス270及び/又は塩基150は排出口244を通じて排出される。水素ガス270は集められて他の反応に使用するための更なるプロセスを経てもよく及び/又は処分されても販売されてもよい。図1の変換反応14で消費された塩基150がセル200のこの部分で再生されるため、塩基150の製造は大きな利点がある。それ故、電池内で形成された塩基は回収され、後の反応において(又は他の化学プロセスで)再使用される。塩基が再使用されるため、塩基の処分に関する面倒な問題および/またはコストを避けることが出来る。
【0049】
アノード218において起こる反応は脱スルホン酸化を含む。これらの反応は進歩したコルベ反応(=フリーラジカル反応)を含み、所定量の炭化水素170及び二酸化炭素172を形成する。例として、図2に示す化学物質を使う場合、酸化反応は池のように示される。
【0050】
【化6】
【0051】
SOガス172は排出される(排出口248を介して)。ラジカル結合生成物170もまた排出口248を介して回収される。例えば、所定量の溶媒160/160aは排出口248を介して抜き出され、リサイクルされ、必要であれば、後の使用のために注入口240から戻してもよい。
【0052】
進歩したコルベ反応はフリーラジカル反応から成る。それ自体、反応はR・として記載する炭化水素ラジカルを作り出す。従って、これらのR・ラジカル2つが形成され、これらのラジカルが互いに反応すれば炭素−炭素結合を生じる。
【0053】
【化7】
【0054】
図2に示すように、このR−R炭化水素生成物は炭化水素170として示される。基本的に、R部分は脱スルホン酸化されており、スルホニル部分が除去されるために反応して炭化水素を形成するR・ラジカルのみ残る。
【0055】
上述のように、図2において追加のスルホン酸のナトリウム塩が使用されている。例えば、もしCH−SO−Na(又は炭素数の小さい他のスルホン酸のナトリウム塩)が陽極液228の一部(または添加される)である場合、ある溶媒への溶解度が高く、高い電解質伝導性を付与するのであれば、CH−SO−Naはそれ自身好適な支持電解質として機能してもよい。同時に、CH−SO−Naは、以下に示すように、進歩したコルベ反応の一部としてそれ自身脱スルホン酸化し、CH・(メチル)ラジカルを製造してもよい。
【0056】
【化8】
【0057】
メチルラジカルはスルホン酸の炭化水素基と反応して更なるCH−官能基を有する炭化水素を形成する。
CH・+R・→CH−R
その代わりに又はそれに加えて、メチルラジカルは他のメチルラジカルと反応してエタンを形成する。
【0058】
CH・+CH・→CH−CH
エタン(CH−CH)は炭化水素生成物170の一部を形成する炭化水素である。この反応で形成されるCH−Rは、炭化水素生成物170の一部でもある(このR−CH生成物は符号170bで示される)。それ故、炭化水素の混合物が得られ、構造R−Rによって示される。所望であれば、ガスクロマトグラフィー又は他の公知の方法により、種々の炭化水素がそれぞれ分離され及び/又は精製される。本実施態様において、2つの炭化水素ラジカルを結合させ、又はメチルラジカルを炭化水素ラジカルと結合させる。生成物中のCH−R又はR−Rの量は、個々の反応条件、陽極液で使用される反応物質の量などによる。
【0059】
前述の実施例は、反応性メチルラジカルを生成するために酸の塩に加えてCH−SO−Naの使用を含んでおり、R−R生成物に加えてCH−Rも製造された。しかしながら、CH−SO−Naよりもむしろ、炭素数の小さい他の塩をCH−SO−Naの代わり又はそれに加えて使用してもよい。炭素数の小さいこれらの塩は、脱スルホン酸化の際に、例えば、エチルラジカル、プロピルラジカル、イソプロピルラジカル及びブチルラジカルを生成する。Hラジカルを生成する材料もまた使用してもよい。それゆえ、任意成分を変更することにより、更なる炭化水素がセル200内に形成される。使用者は、異なる反応物質を使用することによって形成される特定の生成物を思いのままに作ることができる。それ故、異なるアルキルラジカルが一緒に反応して又はメチルラジカル、水素ラジカル等と反応して、生成物の混合物を作り出すことが可能である。異なるアルキルラジカルは、CH−SO−Na、H−SO−Na等を陽極液中に、例えば陽極液室内の追加のポートを介して添加することにより添加されてもよい。そのような異なる生成物の混合物は、ある実施態様において、不均化反応において生じるそれと似ている。
【0060】
類似の方法において、CH−SO−Naを使用する代わり及び/又はそれに加えて、H−SO−Naが陽極液の一部として使用されてもよい。電気化学的反応中に、H−SO−Naは、CH−SO−Naと同様に脱スルホン酸化が起こり、水素ラジカルが形成される。
【0061】
【化9】
【0062】
同様に、水素ラジカルは反応して以下の生成物を形成する。
H・+R・→H−R 及び/又は H・+H・→H
任意の反応性物質としてのH−SO−Naの使用は、R−R生成物を形成すると共に所定量のR−H生成物(そして更に所定量の水素ガス(H)も)も形成する。(水素ガスは所望により再使用される)。H−SO−Naの使用は不必要なエタンの形成を防ぎ、及び/又は特定の炭化水素(R−H)生成物を形成する反応を設計するために使用されてもよい。
【0063】
これらの反応に示される個々のR基が、バイオマスから得られるいかなる‘R’であってもよく、Rは飽和鎖、不飽和鎖、分岐鎖、非分岐鎖のいずれであってもよい。R−R生成物が形成されると、れは基本的にR基の‘ダイマー’である。例えば、もしR基がCHの場合、2つのメチルラジカル(2CH・)が反応し、‘ダイマー化’してエタン(CH−CH)となる。もしR基がC1834炭化水素である場合、C3678生成物が形成される。これRの単純な原理を使って、H−SO−Na又は短鎖の塩を使用することにより、いかなる所望の炭化水素も得られる。例えば、Cナトリウム塩を使用することにより、CR−R炭化水素が形成され、これは、ガソリンの一部として使用可能である。同様に、Cナトリウム塩が使用されると、C12R−R炭化水素が形成され、これはJP8として使用可能である。合成滑剤、ワックス及び/又は他の炭化水素が同じ方法または類似の方法で形成される。当業者ならば、これらの原理をいかに利用して所望の炭化水素を作るかは明らかであろう。
【0064】
図2に示す代替の実施態様は、図3に示す実施態様に関連して記載されている。図3の実施態様の多くは図2に示すそれと類似であるので、簡潔に説明するために類似の要旨の記載は省略するが、参照によって本説明に組み込む。陽極液室208は陰極液室204から分離されているため、陽極液室208中の反応環境は陰極液室204と異なって作ることが出来る。図3はこの概念を示すものである。例えば、水素ガス(H)320が陽極液室208に導入される。ある実施態様において、陽極液室208は水素ガス320により加圧下となる。ある実施態様において、アノード208又は陽極液は、Pd又は他の貴金属(Rh、Ni、Pt、Ir又はRu等の)或いはSi、ゼオライト等の他の支持体から成る構成要素310を含むことが出来る(この構成要素は電極の全て又は一部であり、電極上の水素ガスを固定するために使用される)。それとは別に、Pd又はPdを有するカーボンがセル内で水素を一時的に留めることもできる。陽極液室208内に水素ガスを有することの効果は、上述の方法で反応する反応プロセス中に水素ガスが水素ラジカル(H・)を形成することである。これらのラジカルはR・ラジカルと反応し、最終的な生成物はR−H及びR−Rとなる。もし十分な水素ラジカル(H・)が存在する場合、R−H生成物が優勢となるか、又は(ほとんど)独占的な生成物となる。この反応は以下にまとめることが出来る(貴金属の例としてPdを使用するが、他の貴金属も使用できる)。
【0065】
R−SO−Na+H及びPd→Pd−H→Pd+H−R+SO+e+Na
陽極液室内で1つ以上の貴金属を水素ガスと共に使用することによって、特定の生成物(R−H)が選択される。図3に示す実施態様において、水素ガス270が、還元反応の一部として陰極液室204内で製造される。この水素ガス270は、陽極液室208内で貴金属と共に反応させる水素ガス320として回収し、使用されてもよい。それ故、セル300は、反応において使用される水素ガス270の供給自身を積極的に製造する。それとは別に、回収された水素ガス270は、クラッキング及び/又は異性化したワックス及び/又はディーゼル燃料などのための炭化水素の更なる加工工程に使用されてもよい。水素ガスを使用する他のプロセスに使用されてもよい。R−H生成物(170eとして示す)はR−R基の形成を最小限にする(R基が十分大きければ、ワックス等の炭化水素である)。
【0066】
図4を参照すると、セル400の更なる実施態様が記載されている。セル400は前述のセルと類似である。従って、簡潔に説明するために、多くの記載については繰り返さない。図4の実施態様において、セル400は、1つ以上の光分解反応が陽極液室208内で起きるように設計されている。具体的には、光分解装置410は、放射線412を陽極液室208に放射(照射)するように設計されている。この照射は水素ラジカル(H・)を生成する。水素ガス320は陽極液室208に供給され、以下の式で示されるように上述の種々の機構に使用される。
【0067】
→H・+H・
(光分解)
この光分解プロセスは上述のセルの電解プロセスと組合せてもよい。
【0068】
【化10】
【0069】
水素ラジカルおよび炭化水素ラジカルは次いで結合して生成物の混合体を形成する。
2H・+2R・→H−R+R−R+H
代わりに、脱スルホン酸化を行い炭化水素ラジカルを発生させるために、光分解装置が使用される。
【0070】
【化11】
【0071】
それ故、光分解および電解の組合せが、炭化水素ラジカル及び/又は水素ラジカルを陽極液室208内で形成するために使用される。
【0072】
【化12】
【0073】
電解および光分解の組合せにより脱スルホン酸化反応の反応速度はスピードアップする。
【0074】
更なる実施態様において、光分解の技術も使用して設計される。例えば、以下の反応が起こる。
【0075】
【化13】
【0076】
この反応の組合せは(光分解および電解を使用する)カルボカチオンとFTアニオンとを形成し、それらは結合して炭化水素を形成する。それ故、光分解は、炭化水素を形成するための更なるメカニズムとして使用されてもよい。上述のように、これらの例において炭化水素が使用されているが、ラジカル結合生成物が炭化水素である必要はない。ある実施態様において、本発明の方法および装置は、結合して有用なラジカル結合生成物となるような非炭化水素ラジカルを生成するのに使用されてもよい。
【0077】
図2図4を纏めて参照すると、これらの図示される実施態様のそれぞれは、膜212を使用して陽極液室208と陰極液室204とを分離することを含むものである。ここに記載されるように、陰極液室204から陽極液室208を分離するためのそのような膜212を有することによって得られる具体的な利点は以下の通りである。
・二つの別々の異なる反応条件、例えば陽極液は非水であり、一方陰極液は水性である(そして逆もまた同様)が可能である。
【0078】
・陽極液が陰極液よりも高い温度である(そして逆もまた同様)。
・陽極液は加圧下であり、陰極液はそうではない(そして逆もまた同様)。
・陽極液は放射線照射しており、陰極液ではそうではない(そして逆もまた同様)。
・陽極液および/またはアノードは特別な反応を行うよう設計されており、陰極液および/またはカソード反応はそれによらない(そして逆もまた同様)。
・異なる室は、異なる流体条件、溶媒、溶解性、生成物回復/分離メカニズム、極性などを有することが出来る。陽極液室および陰極液室中の別々の反応条件を有する可能性は、それぞれの室における反応を最善の結果を達成するために仕立てることが出来る。
【0079】
同じ様に、膜(例えば、NaSICONから成る)は高温耐性を有し、それ故、陽極液は、陰極液の温度に影響を及ぼすことなくより高い温度に加熱することができる(そして逆もまた同様)。NaSICONは加熱でき、より高い温度においてさえもなお有効に機能する。これは、スルホン酸およびナトリウム塩を高温で溶解する極性溶媒(または非極性溶媒)を陽極液中に使用できることを意味する。それと同時に、陰極液は温度に影響されない。実際に、異なる溶媒系が陰極液中に同時に使用できる。これとは別に、他の溶融塩または酸が、イオン性酸ナトリウムおよび塩を陽極液中に溶解するために使用される。長鎖炭化水素、エーテル、トリグリセリド、エステル、アルコールまたは他の溶媒が酸およびナトリウム塩を溶解する。そのような化合物は、陰極液に影響を及ぼすことなく陽極液溶媒として使用できる。イオン性液体は陽極液溶媒として使用できる。これらの材料はスルホン酸のナトリウム塩を多量に溶解するだけでなく、高温で脱スルホン酸化反応を容易に行うことが出来る。イオン性液体は非常に低い蒸気圧を有し、優れた溶解性/溶解特性を有する化学物質の類である。種々の異なるイオン性液体が使用できる。
【0080】
上述のように、本発明のセルの利点の一つは、陰極液室204内に塩基150を製造することである。上述のように、この塩基150は、スルホン酸のナトリウム塩を製造する反応14の一部として使用されてもよい。この反応のNa+イオンは、膜を介して陽極液228から来るものである。別に、スルホン酸が反応させられて陰極液室208内に直接アルキル金属塩を形成するような実施態様も行われる。換言すれば、変換反応14はセルそれ自身の中で生じてスルホン酸のナトリウム塩を形成し、このナトリウム塩は次いで陰極液室204から陽極液室208に送られる(配管などを通じて)。このプロセスは、それ故、その場でスルホン酸をアルキル金属塩に変換する(例えば、セル内で)。このプロセスは、2工程のプロセス(セル内で変換反応および脱スルホン酸化)というよりも、1工程のプロセス(例えば、単にセルを作動させる)であろう。
【0081】
上記の実施態様は、脱スルホン酸化反応の結果としてSOガスを製造するように作動することに注目するべきである。本技術分野における公知の方法によって、これらのSOガスはSOガスに変換される。そして次にこのSOガスは水と反応して(公知の方法で)硫酸(HSO)を製造する。硫酸は化学物質として利用され、販売される等の有用な化学物質である。
SO+HO→HSO
【0082】
R−SO−Naが水中で以下の式で反応する更なる実施態様を設計すると:
O→2H+1/2O+2e
R−SO−Na+H→R−SO−H+Na
2R−SO−H→2R・+2SO+2e
【0083】
換言すれば、上述の実施態様は水が最初に反応するため、それによって酸(R−SO−H)が生成し、次いでこの酸性生成物が脱スルホン酸化する。当業者ならば、酸(R−SO−H)又はそのナトリウム塩(R−SO−Na)の脱スルホン酸化を行うために、種々の条件をいかに制御するかは明らかであろう
【0084】
ある実施態様において、陽極液がG系溶媒、H系溶媒および/またはそれらの混合物から成る。G系溶媒はジヒドロキシル化合物である。ある実施態様において、G系化合物は、2つの水酸基が隣接して成る。H型溶媒は、炭化水素化合物または炭化水素を溶解できる溶媒である。例えば、H型溶媒は、炭化水素、塩素化炭化水素、アルコールケトン、モノアルコール及び、ヘキサン、ガソリン、ケロシン、ドデカン、テトローレン等の石油留分などが挙げられる。H型溶媒は、炭化水素生成物の留分としてリサイクルされる脱スルホン酸化プロセスの生成物であってもよい。これは、追加の溶媒の入手を防ぎ、それ故プロセスの総コストを改善できる。
【0085】
更なる記載として、G系溶媒は、二つの異なる酸素原子と酸のアルキル金属塩の−SO−Na基と溶媒和し、スルホン酸のアルキル金属塩の末端炭化水素はH系溶媒によって溶媒和する。G系溶媒に関し、溶解能力はH系溶媒中の炭化水素の増大に伴って増大する。
【0086】
以下の表にG型およびH型溶媒の例(これに限定されないが)を示す。
【0087】
【表1】
【0088】
分割されたセルを使用する特別な利点があるが、分割されてないセルの実施態様を構築してもよい。このセルは以下のように纏められる。
Pt||R−SO−Na+NaOH+HO||Pt
Pt電極は、ここに説明されるように他の電極と置き換えてもよい。また、塩基NaOHも所望により他の塩基に置き換えてもよい(ナトリウムメチラート又は他の塩基など)。同じ様に、溶媒、水が所望により他の溶媒によって置き換えられてもよい。ある実施態様において、アノード反応は脱スルホン酸化反応であり、SO及びR−Rを形成する。カソード反応は、還元反応で水素ガスを形成する(Hは水により供給される)。他の実施態様において、CH−SO−Na(又は他のR基)が任意に使用されてもよい。同様に、ナトリウム塩に変換されるべき塩基もまた存在するのであれば、ナトリウム塩の酸の形態が使用されてもよい。
【0089】
ここに記載される多くの実施例はモノスルホン酸の使用を含むが、ジスルホン酸またはポリスルホン酸も使用できる。しかしながら、ジスルホン酸またはポリスルホン酸を使用する際、工程(ある実施態様において)は、重合を避けるまたは低減するような手法を取る方がよい。ジスルホン酸によるこの重合反応は、以下に纏められる(ポリスルホン酸でも類似の反応である)。
【0090】
【化14】
【0091】
これらの炭化水素ラジカルはそれぞれの末端に反応サイトが有るため、これらは、・R−R・ラジカルが並んで重合する。
....・R−R・+・R−R・・R−R・+・R−R・....
【0092】
ある実施態様において、そのような重合は望ましいものである。他の実施態様において、そのような重合は望ましくないものである。従って、重合の可能性を低減するように本発明技術は使用されてもよい(例えば、重合を停止させる)。これは、例えば、アセテートを介したメチルラジカル(CH・)の形成、R基を切り取ってH・ラジカルを形成する等が挙げられる。同じ様に、混合溶媒系の使用に関連した技術もまた、そのような重合を低減できる。例えば、陽極液中で非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を使用することにより、形成される炭化水素は非極性溶媒にすばやく取り込まれ、それによって重合が防げる。
【0093】
ここに記載される技術の種々の例が使用され、容易に遂行される。これらの例は以下を含む。
【0094】
【化15】
【0095】
本発明は、広く記載され、以下に請求されるその構成、方法および必須の性質から逸脱しない限り他の具体的な形態で具体化されてもよい。記載された実施態様は単なる例示であって、これに限定されるものではないと考えるべきである。本発明の範囲は上記の記載よりもむしろ添付の特許請求の範囲によって限定されるものである。目的および特許請求の範囲の均等の範囲内での全ての変更は本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4