特許第6387112号(P6387112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387112
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】流体の分析および分離
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20180827BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   G01N27/447 331D
   C12M1/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-565451(P2016-565451)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-516094(P2017-516094A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】GB2015051256
(87)【国際公開番号】WO2015166247
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】1407641.8
(32)【優先日】2014年4月30日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508311226
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ハーリング,テレーズ
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ノウルズ,ツォーマス
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/004236(WO,A1)
【文献】 特開平02−002920(JP,A)
【文献】 特開2007−292773(JP,A)
【文献】 特表2007−515936(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/106663(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/071683(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/064438(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/066191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 35/08
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分の分析方法であって、
(i)第1の流体フローに成分を提供する段階;
(ii)第1の流体フローを、層流が発生するように第2の流体フローと接触させる段階;
(iii)第2の流体フロー中への成分の電気泳動的または熱泳動的移動を提供する段階;
(iv)第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流し、当該分流した一部は、成分を含む第3の流体フローである段階;
(v)第3の流体フローを、層流が発生するように第4の流体フローと接触させる段階;
(vi)第4の流体フロー中への成分の拡散を提供する段階;
(vii)第3の流体フローの一部、第4の流体フローの一部、または第3の流体フローおよび第4の流体フローの一部を分流し、当該分流した一部は、成分を含む第5の流体フローである段階;
(viii)第3の流体フローまたは第5の流体フロー中の成分を標識する段階、
を含む方法。
【請求項2】
以下の後続段階:
(ix)第5の流体フローを、層流を形成するように第6の流体フローと接触させる段階;
(x)層流流体フローのような接触している第5および第6の流体フローの全体にわたり成分の分配を提供する段階、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の後続段階:
(xi)第5の流体フローの一部、第6の流体フローの一部、または第5の流体フローおよび第6の流体フローの一部を分流し、当該分流した一部は、成分を含む第7の流体フローである段階、
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
段階(iii)が、第2の流体フロー中への成分の電気泳動的移動を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
流体フロー中の成分を分析する段階をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
電気泳動的移動が等電点電気泳動を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
成分を分析するためのフロー装置であって、
接触している第1および第2の流体フローのための第1の分離チャネルであって、接触している第1および第2の流体フロー間で成分の電気泳動的な側方移動が可能になるように適応された、前記チャネル;
第1の分離チャネルと流体連通していてその下流にある第1のフローセパレータであって、第1の分離チャネルからの第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流するように適応されており、当該分流した一部は第3のフローである、前記セパレータ;ならびに
第1のフローセパレータと流体連通していてその下流にある第2の分離チャネルであって、接触している第3および第4の流体フローのためのものであり、接触している第3および第4の流体フロー間で成分の電気泳動的な側方移動が可能になるように適応された、前記チャネル、
を含み、
第2の分離チャネルと流体連通していてその下流にある第2のフローセパレータであって、第2の分離チャネルからの第3の流体フローの一部、第4の流体フローの一部、または第3の流体フローおよび第4の流体フローの一部を分流するように適応されており、当該分流した一部は第5の流体フローである、前記セパレータ;ならびに
第3の流体フローに試薬を導入するための試薬フローチャネルかまたは第5の流体フローに試薬を導入するための試薬チャネルであって、試薬は標識であるかまたは成分との反応により検出可能な標識を発生可能である、前記チャネル、
をさらに含む、前記装置。
【請求項8】
第2のフローセパレータと流体連通していてその下流にある第3の分離チャネルをさらに含み、該第3の分離チャネルは、接触している第5および第6の流体フローのためのものであり、接触している第5および第6のフロー間で成分の側方移動が可能になるように適応されている、請求項7に記載のフロー装置。
【請求項9】
フローセパレータの下流にあってこれと流体連通している分析ゾーンをさらに含む、請求項7に記載のフロー装置。
【請求項10】
第1および第2の分離チャネルの少なくとも1つが、チャネルの長さに沿って電極を備える、請求項7に記載のフロー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー拡散およびフロー電気泳動法などのフロー法、ならびにポリペプチドの混合物などの成分の混合物を分析するためのフロー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基本的または技術的に重要な多くの系は、不均一成分の多分散混合物として存在する。そのような混合物の個々の成分の特性の解明は、分析化学から生物物理学に至る分野において重大な問題である。
【0003】
生体内のほとんどのプロセスは、さまざまな異なる構成要素の相互作用に依存するので、複合混合物の構成要素の同定は、現代の生物物理学においてますます重要になっている。とりわけ、多くの疾患の早期発見は、人体のタンパク質レベルをモニタリングすることによりかなり促進させることができる。
【0004】
生体分子の複合溶液の分析方法のこの差し迫った必要性にもかかわらず、必要な精度および分解能を提供する技術は少ない。そして、例えば2次元ゲル電気泳動または質量分析を行う技術は、時間がかかるか、費用がかかるか、またはその両方である。さらに、ゲル電気泳動のような技術は、分析物の性質に関する定量的情報を提供しない。
【0005】
マイクロ流体フローのような流体フロー中の成分の分離および検出は、いくつかの課題を提示する。成分の反応、分離および検出に関する流体技術への関心が最近高まっていることを考えると、連続フローシステムにおける成分の分離および分析を可能にする方法およびデバイスの開発に関心が持たれる。
【0006】
本発明者らは、成分、例えば多成分混合物中の成分を分析するための流体的方法を確立した。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、流体技術を用いた、成分の分析方法を提供する。一般に、本発明は、流体フローの全体にわたり成分を分配し、該成分を含有する流体フローの一部を分離し、続いて該成分を別の流体フローの全体にわたり分配する段階を含む方法を提供する。分配段階における成分の挙動は、該成分に固有の化学的または物理的性質を示し、したがって、各分配段階を用いて、該成分に特徴的な情報を得ることができる。したがって、2つの分配段階を提供することにより、使用者は成分の2つの性質を同定することが可能になる。
【0008】
分配段階における第1の成分の挙動は、第2の成分の挙動とは異なっていることができ、流体フローの全体にわたり2つの成分の異なる分配がもたらされる。第1の成分を含有する流体フローの一部を収集し、このようにして、一方の成分を他方の成分から少なくとも部分的に分離することができる。
【0009】
第1の分配段階において、第2の成分の挙動は、例えば共通の化学的または物理的特性を共有するという理由で、第1の成分と同じであることができる。したがって、第1の成分を含有する流体フローの一部の分離により、第2の成分も収集される。
【0010】
第2の分配を行うと、この第2の分配では、第1および第2の成分の挙動が異なっていて、流体フローの全体にわたり2つの成分の異なる分配がもたらされることができる。2つの異なる成分の存在を確認することができるので、この段階により多成分混合物の分解が可能になる。第1の成分を含有する流体フローの一部を収集し、このようにして、一方の成分を他方の成分から少なくとも部分的に分離することができる。したがって、本発明の技術を用いて、共通の化学的または物理的特性を共有する成分を、他の化学的または物理的特性における相違に基づいて分離することができる。本発明の方法では、複数の分配段階を利用する。複数の分配技術を使用することにより、多成分混合物中の成分の相互に独立した物理的および化学的特性に従った同定および分離が可能になる。このようにして、第2およびさらなる分配段階を導入すると、通常なら第1の分配段階で分離することができなかった成分を識別することができる追加の次元が存在するため、分析方法の分解能が上昇する。
【0011】
したがって、本発明の第1の観点では、成分の分析方法であって、
(iii)層流流体フローのような接触している第1および第2の流体フローの全体にわたり成分の分配を提供する段階;
(iv)第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流し、分流した一部は、成分を含む第3の流体フローである段階;
(v)第3の流体フローを、層流を形成するように第4の流体フローと接触させる段階;および
(vi)層流流体フローのような接触している第3および第4の流体フローの全体にわたり成分の分配を提供する段階、
を含む方法を提供する。
【0012】
1つの態様では、該方法は、以下の予備段階:
(i)第1の流体フローに成分を提供する段階;および
(ii)該流体フローを、層流が発生するように第2の流体フローと接触させる段階、
をさらに含む。この態様では、該方法は、成分の分配をもたらす予備段階を含む。
【0013】
1つの態様では、該方法は、以下の後続段階:
(vii)第3の流体フローの一部、第4の流体フローの一部、または第3の流体フローおよび第4の流体フローの一部を分流し、分流した一部は、成分を含む第5の流体フローである段階、
をさらに含む。この態様では、1つの成分を、例えば第3の流体フロー中に存在する他の成分から、少なくとも部分的に分離することができる。
【0014】
1つの態様では、段階(vi)は、第4の流体フロー中への成分の電気泳動的移動を含む。ここで、段階(iii)は、第2の流体フロー中への成分の拡散を含むことができる。1つの態様では、段階(vi)は、第4の流体フロー中への成分の拡散を含む。ここで、段階(iii)は、第2の流体フロー中への成分の電気泳動的移動を含むことができる。1つの態様では、段階(vi)は、等電点電気泳動としても知られる等電点決定、超遠心分離法、または磁気分離への応答である成分の移動を含む。
【0015】
1つの態様では、該方法は、流体フロー中の成分を分析する段階を含む。流体フローは、第3または第4の流体フローであることができる。該流体フローは、接触している第1および第2の流体フローまたは接触している第3および第4の流体フローであることができる。
【0016】
1つの観点では、第1の成分を、第2および第3の成分をさらに含む混合物から分離するための方法であって、
(i)第1の流体フローに第1、第2、および第3の成分の混合物を提供する段階;
(ii)第1の流体フローを、層流が発生するように第2の流体フローと接触させる段階;
(iii)層流流体フローのような接触している第1および第2の流体フローの全体にわたり第1、第2、および第3の成分の分配を提供する段階;
(iv)第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流し、分流した一部は、第3の成分から少なくとも部分的に分離した第1の成分および第2の成分を含む第3の流体フローである段階;
(v)第3の流体フローを、層流を形成するように第4の流体フローと接触させる段階;および
(vi)層流流体フローのような接触している第3および第4の流体フローの全体にわたり第1および第2の成分の分配を提供する段階、
を含む、前記方法を提供する。
【0017】
該方法により、連続流体フローに実施される2つの分配段階において、第1、第2、および第3の成分を、互いから少なくとも部分的に分離することが可能になる。
1つの態様では、該方法は、第3の流体フローの一部、第4の流体フローの一部、または第3の流体フローおよび第4の流体フローの一部を分流する後続段階(vii)をさらに含む。分流した一部は、第2の成分から少なくとも部分的に分離した第1の成分を含む第5の流体フローである。
【0018】
他の観点は、第1および第2の成分を含む多成分混合物の分析方法であって、
(i)第1の流体フローに第1および第2の成分の混合物を提供する段階;
(ii)第1の流体フローを、層流が発生するように第2の流体フローと接触させる段階;
層流流体フローのような接触している第1および第2の流体フローの全体にわたり第1および第2の成分の分配を提供する段階;
(iv)第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流し、分流した一部は、第3の成分から少なくとも部分的に分離した第1の成分を含む第3の流体フローである段階;
(v)第3の流体フローを、層流を形成するように第4の流体フローと接触させる段階;
(vi)層流流体フローのような接触している第3および第4の流体フローの全体にわたり第1の成分の分配を提供する段階;
(vii)続いて、第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流し、分流した一部は、第1の成分から少なくとも部分的に分離した第2の成分を含む第3の流体フローである段階;
第3の流体フローを、層流が形成するように第4の流体フローと接触させる段階;および
(ix)層流流体フローのような接触している第3および第4の流体フローの全体にわたり第2の成分の分配を提供する段階;
を含む、前記方法を提供する。
【0019】
該方法により、第1の成分を2つの逐次的分配段階で分離することが可能になり、第1の分配段階後の分流段階における変化に続いて、第2の成分を2つの逐次的分配段階で分離することができる。このようにして、第1の成分の複数の物理的および/または化学的特性を決定することができ、第2の成分の複数の物理的および/または化学的特性を決定することができる。
【0020】
1つの態様では、段階(vii)は、層流流体フローのような接触している第1および第2の流体フローの全体にわたり第1および第2の成分の分布を改変することを包含する。1つの態様では、第1の流体フローは、段階(iv)および(vii)を通じて連続的である。
【0021】
本発明の他の観点では、本発明の方法で用いるためのフロー装置を提供する。該フロー装置は、
接触している第1および第2のフローのための第1の分離チャネルであって、接触している第1および第2のフロー間で成分の側方移動が可能になるように適応された、前記チャネル;
第1の分離チャネルと流体連通していてその下流にある第1のフローセパレータであって、第1の分離チャネルからの第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流するように適応されており、分流したフローは第3のフローである、前記セパレータ;ならびに
第1のフローセパレータと流体連通していてその下流にある第2の分離チャネルであって、接触している第3および第4のフローのためのものであり、接触している第3および第4のフロー間で成分の側方移動が可能なるように適応された、前記チャネル、
を含む。本発明のこれらおよび他の観点および態様を、以下にさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、成分の分析および/または分離に用いるための本発明の1つの態様に従ったフロー装置の略図である。縮尺バーは5000μmである。
図2図2は、本発明の1つの態様に従ったフロー装置のフローセパレータの略図である。フローセパレータは、分離チャネルの下流末端で流体フローの一部を分離するためのものであり、ここで成分は電気泳動により分配される。フローセパレータは、特定の質量電荷比を有する成分を含有する流体フローの一部を収集し、図1のフロー装置に示すように、下流の分配チャネルに供給することができる。異なる質量電荷比を有する成分は、他のどこかに分流する。
図3図3は一連の蛍光画像であり、(a)〜(c)は図1に示す設計を有するデバイスの拡散分離チャネルで撮影し;(d)〜(f)は図1に示す設計を有するデバイスの電気泳動分離チャネルの下流末端のフローセパレータで撮影した。像(a)および(d)は、電気泳動分離チャネルの全体にわたり1V印加した電界で;(b)および(e)は、3V印加した電界で;そして(c)および(f)は5V印加した電界で撮影した。黄色い矢印は、続いて下流の拡散分離チャネルに供給される流体フローの分流した部分を示す。用いた成分は、2mg/mLの濃度のβ−ラクトグロブリンである。
図4図4(a)は、図1に示す設計を有するデバイスの拡散分離チャネルの4つの位置(左から右に2.5、4.7、20.7、および64.7mm)でβ−ラクトグロブリンについて記録した、チャネル位置に伴う相対蛍光強度の変化によって測定した拡散プロファイルであり;そして、(b)は、実験から実験的に測定されたサイズおよび電荷特性から決定した、成分電荷(e)および成分サイズ(nm)の変化に伴う相対蛍光強度の変化を示している。
図5-1】図5(a)〜(c)は、公称半径が23.5および100nmである蛍光コロイドの混合物の分布について、図1に示す設計を有するデバイスの電気泳動分離チャネルの下流末端のフローセパレータで撮影した一連の蛍光画像であり、像(a)は、電気泳動分離チャネルの全体にわたり0V印加した電界で;(b)は0.9V印加した電界で;そして(c)は1.5V印加した電界で撮影した。(d)は、図1に示す設計を有するデバイスの拡散分離チャネルの4つの位置(左から右に2.5、4.7、20.7、および64.7mm)で蛍光コロイドについて記録した、チャネル位置に伴う相対蛍光強度の変化によって測定した拡散プロファイルを示す。
図5-2】図5(e)は、分析した成分の混合物の分布密度マップであり、サイズr(nm)と電荷q(100e)の特定の組み合わせに対する測定した成分の相対強度を示す。相対強度は陰影で示されている。強度マップは、成分の最初の母集団中の100nmコロイドおよび23.5nmコロイドに対応する母集団を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、多成分混合物中の成分を含む、流体中の成分を分析するための方法および装置を提供する。
本件の方法は、層流に依存するモジュール式の流体の戦略によって複合混合物を分析するための代替的アプローチを提供する。すなわち、溶液を物理的特性に従って定常状態条件下で予備分離した後、その内容物を別の分量を用いて大域解析によって同定する。本件では、該方法は、マイクロ流体のフリーフロー電気泳動を通じてサイズ/電荷比(size over charge ratio)に関して分析物を分離した後、続いて拡散分光測定を介してサイズに基づいて分離を行うことにより実証される。
【0024】
本発明の方法は典型的には定常状態で行うので、いくつかの分離モジュールを順次加えて、この技術の分解能を乗法的に上昇させることができ、異なる検出モジュールを用いてもよい。
【0025】
本発明者らは、流体フロー中の成分を分析および分離するための流体技術の使用について、以前に記載している。この研究は英国特許1320146.2号(2013年11月14日出願)に記載されており、その内容の全体を本明細書中で参考として援用する。今回、本研究は、成分、例えば多成分混合物中の成分の分離および/または分析が可能になるように、この研究を、分離分配段階を順次用いるように適応させる。これらの技術を用いて、本発明者らは、低濃度および小体積の成分含有流体、例えばタンパク質含有流体の研究に有用な、2次元のフロー分析および分離方法を確立した。
【0026】
本発明の方法は、一定の流体フロー下で単一デバイスにおいて実行することができる。第1の段階で、1つの成分を流体フローの全体にわたり分配する。その後、該成分を、例えば他の成分から該成分を同時に分離しつつ分流し、続いて該成分を第2の段階で他の流体フローの全体にわたり分配する。各分配段階により、使用者が成分の性質を決定することが可能になり、各分配段階により、異なる性質を有する成分からの該成分の分離が可能になる。複数の欠乏(destitution)段階を用いることにより、1つの成分を他の関連成分から分離することを可能にする:成分は1つの分配段階では同様に挙動する可能性があるが、第2の分配段階ではそうではない可能性がある。このようにして、複数成分の混合物を分析的に分解することができ、該混合物を少なくとも部分的に分離して、1つの成分を他のものから少なくとも部分的に精製することが可能になる。本件の方法は直列で実施され、このようにして、フローの全体にわたり分布している成分を含有する流体を分離し、成分を含有するフローの分離した部分を下流のさらなる分配段階に付す。
【0027】
本発明の方法および装置は小型化にとりわけ適しており、1つの態様では、成分の分析および/または精製のためのマイクロ流体技術およびマイクロ流体装置の使用を提供する。標準的技術を用いて作製され、適した微小チャネルを有する装置の提供によって、本発明の方法を上記のように小体積の流体を用いて実施することが可能になる。
【0028】
本発明の方法は、多成分混合物中の複数の成分の分析および/または分離に用いることもできる。1つの成分を他の成分から少なくとも部分的に分離する分流段階は、他の成分を収集するために用いてもよい。これを達成するための主要な方法は2つある。
【0029】
第1に、第1の分離チャネルの下流末端は、複数のフローセパレータを備えることができる。各フローセパレータを提供して、第1および第2のフローの異なる部分を分流させることができる。このようにして、複数のフローを収集することができる。第1の分離チャネルの下流末端で複数のフローを収集する場合、これらの各フローが別個の第2の分離チャネルに流入することが可能になるようにすることができ、ここで、さらなる分離段階を実施することができる。所望により、第2の(またはさらなる)分離チャネルに複数のフローセパレータを提供して、第3および第4のフローの異なる部分から成分を収集することを可能にする。各分流フローを、要求に応じて分析および/または収集することができる。このようにして、複数の成分を連続フローシステムで分離することができる。
【0030】
第2に、分離チャネルの条件をフロー法の間に改変して、分離チャネルの下流末端における1つの成分または多成分混合物の分配プロファイルを変化させることができる。分配プロファイルを変化させると、異なる組成、例えば、異なる成分または異なる分量の成分を有する第1の流体フローの一部および/または第2の流体フローの一部を収集するフローセパレータがもたらされる。
【0031】
フローチャネルの条件は、いくつかの方法で変化させることができる。例えば、流量を増加または減少させて、下流末端における分配プロファイルを改変することができる。1つのフローから他方へ成分を移動させるのに用いる条件を改変して、分配プロファイルに影響を及ぼすことができる。電気泳動条件を採用する場合、チャネルの全体にわたる印加電界を改変して、それによりフロー全体にわたる成分の偏向の程度を改変することができる。成分の偏向の変化は、下流末端における分配プロファイルの改変をもたらす。分配プロファイルの変化は分析方法の間に達成することができ、これにより、単一フローでの複数成分の分析が可能になる。
【0032】
本明細書中で用いる分配プロファイルの変化は、プロファイルの形状における変化(すなわち、フローの全体にわたる位置での成分の母集団の変化)を指すことができる。これは、チャネルの全体にわたる位置における複数成分中の1つの成分の最大母集団の位置の変化を包含する。
【0033】
本発明の方法により、成分の定量化も可能になる。本明細書中に記載する技術により、流体フロー中の全成分の分離および収集が可能になる。該方法は非破壊的であり、したがって、システム中への投入物(input)はすべて出力部(output)で収集される。1つの成分を他のものから少なくとも部分的に分離する能力により、1つの成分の量を、複数成分の全母集団に関し相対的に、または絶対的に、定量化することが可能になる。蛍光分光法などの標準的分析技術を用いると、検出信号の強度と、存在する成分の濃度、したがって量の間の直接的関連性がもたらされる。
【0034】
成分の一般的な分析および精製方法を、以下にさらに詳細に記載する。
一般的方法
本発明の第1の観点の方法は、一般に、溶液中の成分を分析、例えば、特性決定または定量化しようとするものである。さらに、またはあるいは、該方法を用いて、多成分混合物中の1つの成分を他の成分から少なくとも部分的に分離することができる。
【0035】
該方法は、一連の流体フローの全体にわたる成分の分配を包含する。流体フローの全体にわたる成分の分配は、該成分の物理的および/または化学的性質を示すものであり、該分配は、該成分の物理的および/または化学的性質を共有しない他の成分とは異なっている。
【0036】
流体フローの全体にわたる成分の分配は、印加電界など施用された刺激に応答していることができ、または、分配は、成分の固有特性、例えば、成分のサイズに関連する成分の拡散特性を利用するものであることができる。分配段階は、単一フローデバイスにおいて連続流体フローで実施される。
【0037】
1以上の成分を含む第1の流体フローを、層流が発生するように、第1の分離チャネルで第2の流体フローと接触させる。接触しているフローが第1の分離チャネルに沿って流れることを可能にし、第1の流体フロー中の成分が第2の流体フロー中に移動することを可能にして、第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配を提供する。第2の流体フロー中への成分の移動は、例えば拡散または電気泳動移動であることができる。
【0038】
第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1および第2の流体フローの一部を、続いて第1の分流チャネル中に分流し、分流した一部は、成分を、他の成分と一緒に含んでいてもよい第3の流体フローである。分流段階は、第1および第2の流体フローにおける他の成分からの該成分の少なくとも部分的な分離をもたらすことができる。
【0039】
成分を含む第3の流体フローを、層流が発生するように、第2の分離チャネルで第4の流体フローと接触させる。接触しているフローが第2の分離チャネルに沿って流れることを可能にし、第3の流体フロー中の成分が第4の流体フロー中に移動することを可能にして、第3および第4の流体フローの全体にわたる成分の分配を提供する。第4の流体フロー中への成分の移動は、例えば拡散または電気泳動移動であることができる。
【0040】
第4の流体フロー中への成分の移動を可能にする条件は、第2の流体フロー中に成分を分配するために用いる条件とは異なる。使用者に追加的な分析情報を提供し、他の成分から該成分を精製するためにさらなる分離段階を提供するには、異なる分配技術を使用する。
【0041】
所望により、第3の流体フローの一部、第4の流体フローの一部、または第3および第4の流体フローの一部を、続いて第2の分流チャネルに分流し、分流した一部は、該成分を、他の成分と一緒に含んでいてもよい第5の流体フローである。分流段階は、第3および第4の流体フローにおける他の成分からの該成分の少なくとも部分的な分離をもたらすことができる。
【0042】
1つの態様では、接触している第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配は、第2の流体フロー中への成分の電気泳動的移動によってもたらされ、接触している第3および第4の流体フローの全体にわたる成分の分配は、第4の流体フロー中への成分の拡散によってもたらされる。他の態様では、接触している第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配は、第2の流体フロー中への成分の拡散によってもたらされ、接触している第3および第4の流体フローの全体にわたる成分の分配は、第4の流体フロー中への成分の電気泳動的移動によってもたらされる。
【0043】
分離チャネルおよび分流チャネル、ならびに存在する場合は分析チャネルおよび試薬チャネルは、流体デバイスのパーツである。流体デバイス、とりわけ分析チャネルは、成分用の検出器と一緒に用いるのに適している。
【0044】
分離および分流段階の間、各フローの流量は実質的に一定レベルで維持する。分離および分流段階は、安定なフローが各区画のチャネルで確立したときにのみ行うことができる。
【0045】
成分は、バイオポリマーなどのポリマーであるか、そのようなポリマーを含むことができる。成分は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または多糖類であるか、これらを含むことができる。これらのそれぞれは、バイオポリマーとみなすことができる。1つの態様では、成分はポリペプチドであるかポリペプチドを含む。1つの態様では、成分はタンパク質であるかタンパク質を含む。成分は、多成分混合物の一部であることができる。したがって、分離段階は、該成分を他の成分から少なくとも部分的に分離するために用いることができる。例えば、本明細書中に記載する技術により、とりわけサイズまたは電荷−サイズ比に基づく分離が可能になる。該成分がタンパク質である場合、他の成分は他のタンパク質であることができ、または該成分とは異なる凝集状態にある同じタンパク質であることができる。本発明は、300Da以上、500Da以上、1000Da(1kDa)以上、または2kDa以上の分子量を有するポリマー分子などの成分の分析に適している。本発明は、5kDa以下、10kDa以下、50kDa以下、100kDa、200kDa、500kDaまたは1000kDa以下の分子量を有する成分の分析に適している。
【0046】
本発明は、少なくとも0.05nm、少なくとも0.1nm、少なくとも0.5nm、少なくとも1nm、または少なくとも5nmの流体力学半径を有する成分の分析に適している。本発明は、最大10nm、最大15nm、最大25nm、最大50nm、最大100nm、または最大200nm、または最大500nmの流体力学半径を有する成分の分析に適している。
【0047】
とりわけ、本発明は、0.5〜500nm、例えば0.5〜200nm、例えば0.5〜15nmの範囲の流体力学半径を有する成分の分析に適している。成分は、該成分の検出を可能にするための分析用標識を有することができる。該成分は、本発明の方法で用いる前に、標識することができる。あるいは、成分は、本発明の一部として標識することができる。
【0048】
1つの態様では、成分に、1以上の発色団標識、例えば蛍光体標識を提供する。
いくつかの態様では、成分が蛍光分光法などの上記分光法を用いて検出することができる官能性を本質的に持っている場合があるため、成分の標識は必要ない。例えば、成分が蛍光活性基を持つ場合、これらを該成分の蛍光検出に用いることができる。
【0049】
ポリペプチドであるかポリペプチドを含む成分は、アミノ酸のトリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンを有する可能性があり、それらの側鎖は蛍光活性を有する。しかしながら、これらの残基の存在は、成分の検出を可能にするには不十分である可能性がある。例えば、チロシンおよびフェニルアラニンの蛍光活性は非常に弱く、したがって検出が難しい。ポリペプチド内のトリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンのアミノ酸残基が少ない場合、蛍光信号は弱い可能性がある。これらの場合、より高い蛍光活性を有する蛍光標識を提供することが好ましい可能性がある。OPAから誘導される標識は、用いることができる標識の一例である。1つの態様では、多成分混合物は、タンパク質などの成分の凝集物、例えば、単量体、2量体、および3量体種、またはより高次の他の凝集物を含む。したがって、本明細書中に記載する技術は、タンパク質−タンパク質相互作用の分離および分析に用いることができる。所望により、流体フロー中の成分を分析することができる。分析は、例えば第1の分離チャネルにおいて、第1および第2の流体の全体にわたり分配された成分について実施することができる。分析は、例えば第1のフローセパレータにおいて、第3の流体内の成分について実施することができる。分析は、例えば第2の分離チャネルにおいて、第3および第4の流体の全体にわたり分配された成分について実施することができる。第5の流体フローを第3および第4の流体フローから分流する場合、分析は、例えば第2のフローセパレータにおいて、第5の流体内の成分について実施することができる。
【0050】
流体フロー
本発明は、流体フロー中に提供される成分の分離および分析方法を提供する。1つの態様では、流体フローへの言及は液体フローへの言及である。
【0051】
流体フローは、水性フローであることができる。水性フローは、DMSO、アルキルアルコールなどのような他の溶媒を包含していてもよい。
本発明のデバイスは流体フローと一緒に用いるために適応させることができ、水性流体フローと一緒に用いるために適応させることができる。
【0052】
本発明の態様では、成分を最初に第1の流体フローに提供する。成分を第1の流体に溶解することが好ましい。
1つの態様では、第1の流体で、1つの成分または複数成分が固有の状態をそのまま保つことができる。成分がタンパク質などの生体分子である場合、流体フローは適した緩衝液であることができる。したがって、成分を固有の状態に保持するために、とりわけ塩分およびpHを選択することができる。
【0053】
第2の流体フローは、第2の流体フローが該成分を含有しない点を除き、第1の流体フローと同一であることができる。同様に、第4の流体フローは、第2の流体フローが該成分を含有しない点を除き、第1の流体フローと同一であることができる。
【0054】
第3の流体フローは、第1および/または第2の流体フローの分流した一部である。第5の流体フローは、そのようなフローを収集する場合、第3および/または第4の流体フローの分流した一部である。
【0055】
第1および第2の流体フローを接触させ、第1のフロー中の成分が第2のフロー中に移動することができるようにして、第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配を発生させる。接触しているフローは、第1のフローと第2のフローの層流であることができる。
【0056】
第3および第4の流体フローを接触させ、第3のフロー中の成分が第4のフロー中に移動することができるようにして、第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配を発生させる。接触しているフローは、第3のフローと第4のフローの層流であることができる。
【0057】
本発明の特定の態様では、分流した第3の流体フローを標識フローと混合してから第4の流体フローと接触させて、これにより、分流した流体フロー中の成分を分析のために標識することができる。所望により、分流した第3の流体フローを、変性フロー、例えば、第3の流体フローを標識フローおよび第4の流体フローと接触させる前のフローと、混合することができる。変性フローを提供すると、例えば成分が標識に適したものになるように、成分を変性させることができる。
【0058】
これらの標識および所望による変性段階はあまり好ましくなく、分流した第3の流体フローは、典型的には、第1および/または第2の流体フローから分流した直後に第4の流体フローと接触させる。したがって、分流した成分は、一般に、第3および第4の流体フローの全体にわたる分配に先立ち修飾しない。
【0059】
第5の流体フローは、そのようなフローを収集する場合、標識フローと混合して、これにより、分流した流体フロー中の成分を分析のために標識することができる。所望により、分流した第5の流体フローを、変性フロー、例えば、第5の流体フローを標識フローと接触させる前のフローと、混合することができる。変性フローを提供すると、例えば成分が標識に適したものになるように、成分を変性させることができる。
【0060】
本発明の方法が、2、3、または4つの分配段階など複数の横方向の分配段階を含有する場合、標識および変性段階は、これら分配段階の最後の後にのみ実施することができる。他の態様では、成分の標識は、本発明の方法で使用する前に行う。
【0061】
標識フローは、典型的には、成分の標識に適した試薬を含有する液体フロー、例えば水性フローである。フロー手順での使用に適した標識技術は当該技術分野で公知であり、本明細書中に記載する。
【0062】
変性フローは、典型的には、成分の変性に適した試薬を含有する液体フロー、例えば水性フローである。
標識および変性に関するさらなる詳細は、以下に提供する。
【0063】
分配および分離
本発明の方法は、第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の分配を提供し、続いて第3および第4の流体フローの全体にわたる成分の分配を提供する段階を包含する。分配は、典型的には、第1および第2の流体フローの全体にわたる成分の不均一な分配と、第3および第4の流体フローの全体にわたる成分の不均一な分配である。
【0064】
分配段階は、成分が1つの流体フローから他の流体フローに移動することを可能にする、本発明の方法における段階である。本件において、分配という用語は、流体フローの全体にわたる成分の横方向の分配をさす。これは、フロー方向に直交する分配とみなすことができる。
【0065】
本明細書中に記載する場合、分配は、第2もしくは第4の流体フロー中への成分の拡散、または第2もしくは第4の流体フロー中への成分の電気泳動的移動を含むことができる。他の分配技術を用いてもよい。
【0066】
分配は、該成分または該成分を含む多成分混合物の横方向の分配である。
横方向の分配は、流体フローに沿った成分の分配と対比することができる。例えば、流体法を用いて、流体チャネル中の種のTaylor分散に基づき流体フロー中の成分を分離できることは、当該技術分野で公知である。例えば、米国特許出願公開第2011/264380号には、多分散種の流体力学半径の決定方法が記載されている。分析する種を単分散標準物質と混合する。得られた混合物を、キャピラリー管に沿って流れるキャリヤー流体に加え、キャピラリー管から出てきたときに混合物のTaylorプロファイルを記録する。米国特許出願公開第2011/264380号の研究は、流体フローに沿って成分の第1の分配を実施した後に、第2の分配段階を実施する段階を包含しない。
【0067】
Ramseyグループは、タンパク質を分離するための電気泳動法について記載しているが、タンパク質は流体フローに沿って分離され、フローの全体にわたる成分の不均一な分配はない(Liu et al.Anal.Chem.2000、72、4608;Jacobson et al.Anal.Chem.1994、66、4127;Jacobson et al.Anal.Chem.1994、66、3472参照)。これは、空間的分配ではなく時間的分配とみなすことができる。対照的に、先に述べたように、本発明によって成分を定常状態で空間的に分離することが可能になり、低濃度試料を効率的に検出するための長期暴露時間が可能になる。
【0068】
Herling et al.およびKamholz et al.は、それぞれ電気泳動技術および拡散分粒技術を用いて、流体フローの全体にわたり成分を横方向に分配するための方法について記載している。しかしながら、これらの文書は、一連の複数の横方向の分配技術の使用について記載したものではなく、流体フローの一部の分流について記載したものでもない。
【0069】
本明細書中に記載する分離のアプローチは、フローに用いる溶媒条件の性質の影響をほとんど受けない。したがって、タンパク質などの生体分子を固有の条件下で研究することが可能である。このように、分離段階での成分の挙動は、その固有の状態での成分の特徴を示す。分析に較正段階を含ませて、異なる条件下での成分の挙動を自然条件下で予想される挙動に転換する必要はない。
【0070】
成分が混合物(多成分混合物)の一部である場合、混合物の該成分および他の成分をチャネルの全体にわたり分配し、これにより、第1および第2の流体フローの全体ならびに第3および第4の流体フローの全体にわたる全成分の分布プロファイルをもたらすことができる。
【0071】
第1の分流段階は、成分が第2の流体フローの境界(すなわちチャネル壁)に達する前に実施することができる。成分が多成分混合物の一部である場合、分流段階は、多成分混合物中の任意の成分が第2の流体フローの境界に達する前に実施することができる。
【0072】
同様に、第2の分流段階を実施する場合、これは、成分が第4の流体フローの境界(すなわちチャネル壁)に達する前に行うことができる。成分が多成分混合物の一部である場合、分流段階は、多成分混合物中の任意の成分が第4の流体フローの境界に達する前に実施することができる。
【0073】
接触している流体の全体にわたる成分の分配は、分配技術を適切に変更することにより改変することができる。
分布プロファイルは、成分の分配技術および分配に容認される時間に依存する。典型的には、分配に容認される時間は、第1または第3の流体フロー中の成分が第2または第4の流体フローの境界に達していないような時間である。例えば、分離チャネルにおける第1および第2のフローのフロー滞留時間は、第1の流体フロー中の成分が、採用した分離条件下で境界に達する時間を有さないように、選択することができる。
【0074】
1つの態様では、成分の分配は、1つのフローから他のフロー、例えば第1から第2または第3から第4のフローへの拡散であることができる。拡散輸送速度は、成分の拡散係数Dに比例し、流体力学半径ρに反比例する。したがって、より小さな成分は、より大きな成分より速い速度で、接触している流体フロー中に拡散すると予想される。例えば、分流段階では、第2の流体フローの壁における境界に近い第2の流体フローの一部の分流により、より小さなサイズを有する成分が収集される。第1の流体フローとの層流境界に近い第2の流体フローの一部の分流によって、より大きなサイズを有する成分の収集が可能になる。その結果として、層流境界とチャネル境界の間にある第2の流体フローの一部の分流により、中間サイズの成分の収集が可能になる。
【0075】
分流した成分のサイズは、分離チャネル中のフローセパレータの位置に依存する。分流した成分の範囲は、第1または第2の流体フローの全幅と比較した分流した一部、および分流したフローの一部の相対的サイズに依存する。
【0076】
分流段階は、第1または第3の流体フローの一部を収集することができる。拡散分離技術を用いると、第1または第3の流体フロー中のより小さな成分は、より大きな成分より迅速に激減すると予想される。これは、より小さな成分は、第2または第4の流体フロー中により速い速度で拡散するためである。
【0077】
1つの態様では、成分の分配は、第1のフローから第2のフローへ、または第3のフローから第4のフローへの電気泳動的移動であることができる。電気泳動輸送の速度は、成分の電荷−サイズ比に比例する。したがって、大きな電荷および/または小さなサイズを有する成分は、より小さな電荷および/またはサイズを有する成分に比べ大きな電気泳動的移動を有すると予想される。
【0078】
電気泳動を用いて成分を分離する場合、典型的には第2または第4の流体フローを、それぞれ第1の流体および第3の流体フローの両側に提供する。電気泳動中に、負に帯電した種は第2または第4の流体フローの一方に偏向することができ、一方、正に帯電した種は第2または第4の流体フローの他方に偏向する。
【0079】
このように、電荷−サイズ比が大きい成分は、電荷−サイズ比が小さい成分より速い速度で、第2または第4の流体フロー中に移動(分流)すると予想される。したがって、分流段階では、第2または第4の流体フローの壁における境界に近い第2または第4の流体フローの一部の分流により、電荷−サイズ比が大きい成分が収集される。第1または第3の流体フローとの層流境界に近い第2または第4の流体フローの一部の分流により、電荷−サイズ比が小さい成分の収集が可能になる。その結果として、層流境界とチャネル境界の間にある第2または第4の流体フローの一部の分流により、電荷−サイズ比が中程度の成分の収集が可能になる。分流した成分の電荷−サイズ比は、分離チャネル中のフローセパレータの位置に依存する。分流した成分の範囲は、第1または第2の流体フローの全幅と比較した分流した一部、および分流したフローの一部の相対的サイズに依存する。第2の流体フローの一部の分流は、負または正に帯電した種のみを収集することができることは、理解されるであろう。
【0080】
電気泳動法を用いる場合、チャネル全体にわたり印加する電圧は、必要とされる偏向の程度に関し適切に選択することができる。1つの態様では、印加電圧は、最大5V、最大10V、または最大15Vである。1つの態様では、印加電圧は、少なくとも0.1V、少なくとも0.5V、または少なくとも1.0Vである。偏向の程度を変化させ、それにより分流段階で収集する成分を変更するために、方法の最中に電圧を変化させてもよい。
【0081】
上記は、第1および第2の流体フローの全体にわたり成分を分配するための拡散および電気泳動法である。成分の他の分配方法を用いてもよい。例としては、例えば金属タンパク質の、等電点電気泳動としても知られる等電点決定、超遠心分離法、および磁気分離が挙げられる。
【0082】
電気泳動法は、限定されるものではないが、誘電泳動、等電点電気泳動としても知られる等電点決定、および等速電気泳動を包含し、第1および第2の流体フローの全体にわたり成分を分離するために用いられる。誘電泳動は、不均一電界内の誘電体粒子に力を加えることにより、第1および第2の流体フローの全体にわたり中性電荷を持つ成分を分離するために用いられる、一般的な電気泳動法である。誘電泳動による成分の分離は、限定されるものではないが、印加電界の強さに加え、成分の誘電特性およびサイズに依存する。
【0083】
成分の分離に用いられる電気泳動法の他の例は、等電点電気泳動としても知られる等電点決定である。成分は、それらの等電点に従って第1および第2の流体フローの全体にわたり分離される。電界を印加すると、成分はpH勾配によって泳動する。個々の成分は、それらに固有の等電点に近づくと、そのpH勾配で動かなくなる。
【0084】
等速電気泳動法は、固定電流の施用によるイオン移動度に基づき分析物を選択的に分離するために用いられる。
これに加えて、熱泳動技術は、第1および第2の流体フローの全体にわたり温度勾配による異なる成分の移動を観察するために用いられる。温度勾配は、限定されるものではないが、赤外線レーザーによって誘導することができる。温度勾配による成分の拡散速度は、限定されるものではないが、そのサイズ、電荷、構造および水和殻に依存する。
【0085】
本発明の方法は、第1または第2のフローの一部を分流するか、第1および第2の流体フローの一部を分流する段階を含む。流体フローの一部の分析によって、使用者が、拡散プロファイルの一部で材料の分量および素性を決定することが可能になる。
【0086】
他の観点では、分流段階は、第1の流体フローのすべてまたは第2の流体フローのすべてを分流する段階を包含する。
分離段階は、クロマトグラフ法およびTaylor分離法、ならびに、成分を流体フローに沿って分離するRamseyグループの他の電気泳動技術(キャピラリー電気泳動)と区別することができる。そのような技術は、時間的に成分を分離するとみなすことができる。対照的に、本件に採用される分離法は、空間的に成分を分離する。
【0087】
1つの態様では、第1の流体フローを、第2の流体フローの2つの層流の間の中央フローとして提供する。したがって、第1の流体フロー中の成分は、第2の流体フローの一方または両方の中に分配することができる。
【0088】
1つの態様では、フローの全体にわたる1つの成分または複数成分の分布を測定する。1つの成分または複数成分の分布は、流体フローに沿った複数の位置で測定することができる。測定は、層流を分流させる前に行う。例えば、拡散分配技術を用いる場合、各位置は特定の拡散時間を表す。そのような測定は、成分が、その検出を可能にする固有の官能性を有する場合か、成分に、そのような官能性を、例えば本発明の方法での使用に先立ち標識の形態で与えてある場合にのみ、行うことができる。成分がそのような官能性を有さない場合、後の標識段階で官能性を与えてもよい。
【0089】
本発明において、成分の分配に関する情報は本明細書中に記載するように分流フローから記録することができるので、上記段階は必須ではない。
分流
本発明の方法は、第1および第2の流体フローの一部を分流する段階を包含する。流体フローの分流した一部は、第1および第2の流体フローの残存部分から分離された成分を含有する。分流いた一部は、第3の流体フローである。
【0090】
分流段階では、第1の流体フローの一部、または第2の流体フローの一部、または第1および第2の流体フローの一部が処理される。この分流段階は、第1の分流と称することができる。1つの態様では、分流段階において第2の流体フローの一部が処理される。
【0091】
第1および第2の流体フローの一部の分流について言及する場合、これは、第1の流体フローの一部および第2の流体フローの一部の分流に関する言及である。層流のこの一部の分流は、第1の流体フローと第2の流体フローが接触する境界を包含する。
【0092】
他の観点では、分流段階において、第1の流体フローのすべてまたは第2の流体フローのすべてが処理される。一般に、一方の流体フローのすべてを分流すると成分の適切な分離ができなくなるので、これは好ましくない。該段階は、例えば、第2の流体フロー中への1つの成分の明白な分配がある場合、および第1の流体フロー中に他の成分の保持がある場合に、用いることができる。ここで、第1および第2の流体フローの一方の分流は、一方の成分を他方から実質的に除去する効果を有する。しかしながら、第1および第2の流体フローの全体にわたり両成分が分布している場合、第1および/または第2の流体フローの一部を分流することが好ましい。
【0093】
分流段階では、後続する第3および第4の流体フローの間のさらなる分配のために、流体フローの一部を分離する。流体フローの処理部分は、分離段階で確立した横方向の分布プロファイルの一部を表す。分流段階は、流体フローの全幅の画分、または第1または第2の流体フローの幅の画分の分離である。流体フローの分流画分は、特に限定されているわけではなく、分析のための成分と、存在する場合は多成分混合物中の他の成分に基づき選択される。
【0094】
分流段階は、第1の流体フローおよび/または第2の流体フローの一部に相当するフロー部分の分離に関連する。第1および第2の流体フローが最初に接触したときに、第1および第2の流体フローの間には明白な相違がある。前者は成分を持ち、後者は成分を持たない。分離チャネルの下流末端において、第1の流体フローからの成分は第2の流体フロー中を横切って移動して、第1および第2の流体フローの全体にわたり成分の分布を発生させる。ここで、第1の流体と第2の流体の間に明白な境界はない。
【0095】
本件において、流体フローの分流に関する言及は、接触している第1および第2の流体フローの特定の横断面部分、例えばチャネル中の特定領域に関する言及である。チャネルのその領域は、それが、第1の流体フローが第2の流体フローと最初に接触する合流点など、チャネルの上流部分におけるチャネル中の領域に相当する場合、第1の流体フローの一部であると言われる。
【0096】
例えば、第1および第2のフローが最初に接触するときに、第1の流体フローがチャネル幅の半分を占め、第2の流体フローがチャネル幅の残りの半分を占めているチャネルの上流部分で、接触しているフローを構築することができる。流体フローの分流した一部は、もともと第1の流体フローによって占められていたチャネル幅の半分から該一部が取られている場合、第1の流体フローの分流した一部と称することができる。この状態において、第1および第2の流体フローの間の境界設定は、単純にチャネルの中心線である。
【0097】
接触しているフローの下流末端における第1および第2の流体の位置は、第1の流体フローで維持されている成分の分布から決定することができる。例えば、拡散分配では、非常に大きな成分は第2の流体フロー中にごくわずかしか拡散しない。下流末端では、非常に大きな成分は第1の流体フローに保持される。電気泳動分離では、非荷電成分は印加電界に応答してごくわずかにしか偏向せず、したがって第1の流体フローから実質的に移動しない。
【0098】
所望により、本発明の方法は、第3および第4の流体フローの一部の分流段階を包含する。該流動フローの分流した一部は、第3および第4の流体フローの残存部分から分離した成分を含有する。分流した一部は第5の流体フローである。この分流は、第2の分流段階と称することができる。
【0099】
分流段階では、第3の流体フローの一部、または第4の流体フローの一部、または第3および第4の流体フローの一部が処理される。1つの態様では、分流段階で、第4の流体フローの一部が処理される。特定量の第1および第2のフローの分流に関する以下の言及は、それぞれ第3および第4のフローの特定量の分流に当てはめることができる。
【0100】
1つの態様では、分流段階では、第1の流体フロー、第2の流体フロー、または第1および第2の流体フローの少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%が分流される。1つの態様では、分流段階では、第1の流体フロー、第2の流体フロー、または第1および第2の流体フローの最大40%、最大50%、最大60%、最大75%、最大85%が分流される。1つの態様では、分流段階では、ある範囲からのある量の第1の流体フロー、第2の流体フロー、または第1および第2の流体フローが分流され、前記範囲の下方および上方値は、上記最小値および最大値から選択される。
【0101】
1つの態様では、分流段階で、第2の流体フローの一部が分流される。1つの態様では、第2の流体フローの分流した一部は、第2の流体フローと第1の流体フローの境界から、第2の流体フローの幅の最大5%、10%、15%、25%、50%または75%を横断して伸長する部分であることができる。1つの態様では、第2の流体フローの分流した一部は、第2の流体フローとチャネル壁の境界から、第2の流体フローの幅の最大5%、10%、15%、25%、50%または75%を横断して伸長する部分であることができる。1つの態様では、第2の流体フローの分流した一部は、第2の流体フローと第1の流体フローの境界から伸長する部分、または第2の流体フローとチャネル壁の境界から伸長する部分を包含しない。したがって、分流した一部は、第2の流体フローの中間部分である。この中間部分は、第2の流体フローの幅の最大5%、10%、15%、25%、50%または75%であることができる。方向付けした流体フローの一部は、検出する成分の素性に依存する可能性がある。
【0102】
先の分配および分離の節で述べたように、拡散および電気泳動分離技術を用いて、第1および第2の流体フローならびに第2および第3の流体フローの全体にわたる1つの成分または複数成分の分配を得ることができる。流体フローの分流した一部は、対象となる特性、例えば、特定のサイズまたは特定の電荷−サイズ比を有する成分を分析するために選ぶことができる。
【0103】
本発明の方法は、対象となる特性に相違がある成分の分流に用いることができる。別の成分を分流するために、第1または第2の流体フローの収集部分を変更してもよい。フローの分流点における成分の分配を改変するために、分離技術を適応させることもできる。例えば、拡散分離中の拡散時間を、流量の変更または分離チャネルの長さの変更により改変することができる(PCT/GB2013/052757号に記載されているように)。電気泳動分離における成分の偏向は、流量の変更または印加電界の変更により改変することができる(例えば、Herling et al.によって記載されているように)。フローの高さ(または深さ)部分として組み合わさっているフローの分離は必須ではない。本発明のデバイスでは、分離チャネルの下流末端に出口チャネルを適切に設けることにより、流体フローを分離することができる。分流チャネルを適切な横方向の位置に位置決めして、分離チャネルからの第1または第2の流体フロー(または複数のフロー)の必要な部分から流体を分流することができる。
【0104】
分流しない層流の残存部分は収集することができ、またはこれらの部分は、以下にさらに詳細に記載するように分析することができる。
本発明の1つの態様では、複数の流体フローの一部を分流する。層流流体フローの少なくとも1つの分流した一部を分析する。層流の分流した一部が第2の流体フローを包含する場合、その分流した一部を分析する。
【0105】
各分流フローは、第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部である。分流した一部のうち1つが成分を含む。第1の流体フローが複数の成分を含む場合、複数の流体フローの一部のそれぞれが成分を含有することができる。
【0106】
つづいて、分流フローを、以下に記載するように下流で分析する。
本発明の1つの態様では、第1および第2のフローの分流した一部を、分析後にフローの他の部分と再び組み合わせる。したがって、最初の第1および第2の流体フロー中の全成分を、さらに分析および使用するために収集することができる。
【0107】
標識
本発明の方法は、例えば検出および/または単離を容易にするために、フロー装置内で成分を標識する標識段階を包含することができる。
【0108】
本発明者らは、分離デバイス内のフロー中のタンパク質などの成分を標識するための方法を確立した。適した標識技術は、2013年11月14日出願の本発明者らの先願、英国特許第1320146.2号に記載されており、その内容の全体を本明細書中で参考として援用する。
【0109】
1つの態様では、分流フロー中に存在する成分を、分析のために標識する。成分は、第2の分離の前に第3の流体フロー中で標識することができ、または、成分は、第2の分離の後に第3の流体フロー中で標識することができる。
【0110】
1つの態様では、成分を本発明の方法で使用する前に標識する。したがって、さらなる標識段階は必要ない。1つの態様では、成分を、方法の最後に収集した後で標識する。ここで、該方法の間に成分を標識する必要はない。1つの態様では、成分を分析に先立ち標識する。成分は、分流フロー中で標識してもよい。
【0111】
1つの態様では、分流フローを試薬フローと接触させ、試薬フロー中の1以上の試薬が分流フロー中の成分と混合、所望により反応することができるようにする。適した混合および反応の後、分析を実施する。成分は流体フロー中で分析することができる。試薬は、標識であることができ、または反応により検出可能な標識を発生することができる。本発明の1つの態様では、成分は、分離後、例えば分流後に標識する。標識プロセスは、成分を分析するための検出段階の一部である。1つの態様では、標識は潜在的標識である。潜在的標識は、成分と結合したときにのみ分光学的活性、例えば蛍光活性を示す標識である。他の状況では、標識は分光学的に不活性である。したがって、潜在的標識は、成分と結合したときにのみ検出可能であり、成分と結合を形成していない標識は、分光学的に不活性なままである。その結果、流体フローから未反応標識を除去する、または記録された分光学的信号への標識の寄与を割り引いて考える必要がないので、成分の検出は単純化される。例えば、本明細書中に記載するように、成分との反応により、標識上に存在し蛍光を消光させる基を除去することができ、これにより、反応は消光を除去する。他の例では、例えば拡張共役系の形成により、蛍光体基などの標識を標識反応中に形成する。
【0112】
1つの態様では、標識を成分に共有結合させる。したがって、標識段階は、標識と成分の間に1以上の共有結合を形成することを包含する。共有結合は、成分上のアミノ、ヒドロキシ、またはチオール基と形成することができる。成分がタンパク質などのポリペプチドである場合、共有結合はアミノ酸残基側鎖官能基と形成することができる。
【0113】
1つの態様では、非共有結合性標識を用いることができ、これは成分に特異的または非特異的であることができる。成分のための非共有結合性標識の例は、Ramseyグループによって記載されている(例えば、Liu et al.Anal.Chem.2000、72、4068参照)。
【0114】
1つの態様では、標識を成分のアミノ官能基、例えば第1級アミノ官能基(−NH)と反応させる。成分がタンパク質などのポリペプチドであるかこれを含む場合、標識はポリペプチドのリシン残基と反応することができる。
【0115】
1つの態様では、標識は、オルト−フタルアルデヒドまたはオルトフタルアルデヒド含有化合物から誘導される。
本発明者らは、オルト−フタルアルデヒド(OPA)を潜在的な共有結合性標識として用いることができることを見いだした。OPAは成分の1以上のアミノ基と反応して、検出可能な蛍光標識を形成することができる。OPAは、チオール含有試薬、例えばエタノール(BME)などのアルキルチオールの存在下で、成分のアミノ基と反応させることが好ましい。
【0116】
1つの態様では、標識反応は、実質的に定量的反応である。したがって、1つの態様では、分流した成分の実質的にすべてを標識する。さらに、成分が、標識と反応することができる複数の基を含有する場合、これらの基の実質的にすべてが標識と反応する。したがって、記録される分光学的信号を用いて、フロー中の成分を直接定量化することができる。さらに、高度の標識(すなわち、全成分が標識される、および/または成分が多重標識を有する)により、流体フロー中の成分の検出は一般に改善される。これは、成分が非常に低濃度で存在するフロー条件下でとりわけ重要である。
【0117】
標識反応は、フローシステムでの使用に適したものであるべきである。したがって、デバイス中での流体の滞留時間は長くないので、標識反応は比較的短い時間枠で起こることが重要である。本発明者らは、OPA標識がタンパク質などの成分と迅速に反応し、したがって本明細書中に記載するフロー法での使用に適していることを見いだした。1つの態様では、標識反応時間は最大5秒、最大2秒、最大1.5秒、または最大1秒である。標識反応時間は、成分の少なくとも50モル%、少なくとも80モル%、または少なくとも90モル%、好ましくは90モル%を標識するのにかかる時間を指すことができる。1つの態様では、標識反応時間は、反応時間の半分を指すことができる。
【0118】
本発明の方法が分流成分の標識段階を包含する場合、分流フローを、標識(標識流体フロー)を所望により標識反応の関連試薬と一緒に含む流体フローと接触させる。分流フローおよび標識流体フローを、フローセパレータの下流の合流点で一緒にする。
【0119】
成分および標識が流体フロー中で混ざり合い、これにより成分を標識することが可能になる。標識フローおよび分流フローが混合チャネルに沿って流れることができるようにして、デバイス内での適切な標識時間を確実にする、例えば、分光分析に先立ち適切な標識時間を可能にすることができる。
【0120】
一般的な1つの態様では、成分の第2級、第3級、および/または第4級構造、例えば第2級または第3級構造、好ましくは第3級構造を、分析に先立ち分離段階後に改変する。本明細書中に記載する標識技術を用いて、本発明者らは、適した標識を可能にするために、成分の第2級構造を崩壊させる必要はなく、第3級および/または存在する場合は第4級構造の改変で十分であることを見いだした。
【0121】
1つの態様では、成分は分析に先立ち変性させる。変性段階は、成分の標識および/または検出に有用であり得る成分上および成分内の官能基を利用できるようにすることを意図している。例えば、成分がタンパク質などのポリペプチドである場合、変性段階は、アミノ、ヒドロキシおよびチオール官能基を標識との反応に付すことができる。
【0122】
成分の変性は、流体フローに変性試薬を加えることによりもたらすことができる。例えば、成分がポリペプチドである場合、SDSを変性試薬として用いることができる。変性段階は変性試薬の使用に限定されるわけではなく、温度などの環境変化を用いて変性を達成してもよい。
【0123】
成分は標識に先立ち変性することができる。変性および標識を組み合わせた段階中に起こる可能性がある成分の沈殿を最小限に抑えるために、変性段階および標識段階を分けてもよい。
【0124】
変性段階で変性試薬を利用する場合、変性試薬は、分流フローと接触している流体フロー(変性フロー)に提供することができる。分流フローおよび変性流体フローを、フローセパレータの下流の合流点で一緒にする。成分および変性試薬が流体フロー中で混ざり合い、これにより成分を変性することが可能になる。変性フローおよび分流フローが混合チャネルに沿って流れることができるようにして、デバイス内での適切な変性時間を確実にする、例えば、標識フロー(用いる場合)との接触前または分光分析の前に適切な変性時間を可能にすることができる。
【0125】
該方法が成分を標識する段階も包含する場合、標識段階は変性段階の下流で行う。
あるいは、成分を、組み合わせた一段階で変性および標識することができる。変性および標識を組み合わせた段階は、成分が沈殿するリスクがほとんどない場合に用いることができる。したがって、1つの態様では、標識流体フローは追加的に変性試薬を含む。本明細書中に示すように、分流フローおよび標識フロー(変性剤を含有する)の接触を可能にする合流点は、変性の課題に対応するように適応させることができる。したがって、合流点における流体チャネルの表面は、流体中の成分をはじくようなものであることができ、例えば、親水性表面を用いて、疎水性成分がチャネル表面に付着するのを妨げることができる。分流フローを標識フローまたは変性フローと接触させる場合、フローの内容物が、これが接触するフローの内容物と迅速に混合することができることが好ましい。迅速な混合は、成分の迅速な標識または変性を確実にするためのものである。これは、第1および第2のフローの両方の全体にわたる成分の迅速な分配が必須または望ましいわけではない、第1の流体フローと第2の流体フローを接触させる段階と対比されるべきである。例えば、拡散分離段階では、分離チャネルにおいて成分の均一な分布を早期に確立することは、成分が分離されなくなるので望ましくない。拡散分離では、第1および第2の流体フローの全体にわたり不均一な分布プロファイルを確立することが必要である。
【0126】
分析および検出
本発明の方法は、流体フロー中の成分を分析、例えば検出する段階を含むことができる。流体フローは、第3または第5の流体フローであることができる。流体フローは、接触している第1および第2の流体フローまたは接触している第3および第4の流体フローであることができる。
【0127】
成分は、流体フロー内で分析することを可能にする官能性を持つことができる。あるいは、本明細書中に記載するように、流体フロー内での成分の検出が可能になるように、成分を標識することができる。本明細書中に記載するように、蛍光標識で適切に標識することができる成分の検出に、蛍光法を用いることができる。
【0128】
分析段階は、分析のために流体フローの分流した一部を作製する、例えば成分を作製する、予備段階を包含することができる。したがって、第3の流体フローまたは存在する場合は第5の流体フロー中の成分を、必要に応じて分析のために作製することができる。成分を分析のために作製する場合、成分をその分離後のその分離前に標識することが好ましい。典型的には、成分は、紫外/可視分光法および蛍光分光法を含む分光法、好ましくは蛍光分光法により分析する。蛍光分光法は、高い信号対雑音比をもたらすので、とりわけ魅力的である。
【0129】
成分は、接触している第1および第2のフローまたは接触している第3および第4のフローなどの接触しているフローの全体にわたり分布している間に、分析することができる。記録される分布プロファイルは、分布内の成分を分けるのに十分な分析情報を提供することができる。接触しているフローの成分を確認するために、フローの一部を分流する必要はない可能性がある。したがって、本発明の特定の方法は、流体チャネルの全体にわたる一成分または複数成分の分布を決定する段階を包含する。フロー中への成分の移動の測定方法に特別な制約はなく、採用する検出方法は、検出する成分の性質に基づくことができる。
【0130】
検出器は、流体フローチャネル、詳細にはマイクロ流体チャネルでの使用に適したものである。拡散検出法は当分野で周知であり、例えばKamholz et al.によって記載されている。例としては、とりわけ、上記のような紫外−可視分光法、蛍光分光法または発光分光法が挙げられる。
【0131】
成分または複数成分の分布は、分配チャネル中のある位置で決定することができる。しかしながら、とりわけ2以上の成分が存在する場合、成分の分布は、チャネルに沿った2以上、例えば3、4、または5カ所で決定することができる。該方法は、チャネル中の複数の位置で成分の分布プロファイルを決定する段階を包含することができる。
【0132】
少なくとも1つの分布測定は、成分フロー中の一成分が、ブランク流体フローに対するデバイスの境界であるチャネルの端に移動する前に、記録すべきである。未知の成分の試料の場合、どの点で第1の成分が境界の端に達するかを決定するために、試験フローを設けることができる。したがって、第1の分布測定は、この点の上流で行うことができる。
【0133】
複数の分布測定をチャネルに沿って行う場合、チャネルに沿った第2および後続の各位置は、特に限定されない。典型的には、後続の測定は、前の測定とは有用な相違がある分布プロファイルが得られるように、チャネルに沿って十分に離れた距離で行う。
【0134】
本発明の方法では、成分フローとブランクフローの層流を設け、横断面が小さなチャネルに提供する。該フローが構築されると、横断面が小さなチャネルに沿って拡散勾配がもたらされる。したがって、横断面が小さなチャネルに沿った2以上の位置で拡散プロファイルを分析することにより、異なる拡散時間のデータを同時に得ることができる。
【0135】
本発明の方法は、成分フローからのブランクフローの分離を必要としない。したがって、成分フローとブランクフローが接触している間に1以上の成分の拡散プロファイルを測定することができる。
【0136】
Kamholz et al.は、成分フロー(単一成分を含む)およびブランクフローを有するチャネル中の単一の測定位置における拡散プロファイルの測定について、記載している。
【0137】
米国特許出願公開第2006/263903号の流体システムでは、ブランクフローを、成分フローから、十字形のチャネル領域での接触期間後に分流する。接触点において、成分フロー中の成分はブランクフロー中へ拡散することができる。別個のブランクフローを分析し、成分の量を定量化する。成分の拡散係数の値を得るためには、ブランクフロー、成分フローまたは両方について、さまざまな異なる流量で時間をかけていくつかの測定を行うことが必要である。
【0138】
分析に先立ち、対象の成分を標識して、本発明の方法でのそれらの検出を可能にすることができる。標識は、例えば、標準的な紫外−可視分光法、蛍光分光法または発光分光法により検出可能な化学基の形態をとることができる。
【0139】
拡散係数の決定
本発明は、例えば第1または第2の分配段階における流体中の一成分または複数成分の拡散係数を決定するための方法を提供する。
【0140】
成分流体が単分散成分を含有する場合、標準的技術を用いて成分の流体力学半径を決定することが可能である。そのようなものは、例えばYagerグループ(Hatch et al.およびKamholz et al.参照)によって記載されている。
【0141】
成分流体が複数成分の多分散混合物を含有する場合、本発明は、混合物中の2以上の成分、または各成分の拡散係数の決定方法を提供する。これは、典型的には大域的混合物の平均拡散値のみを提供する、当分野で公知の方法とは対照的である。本発明の第3の観点の方法では、複数の拡散測定を、さまざまな拡散時間にわたり記録する。
【0142】
本明細書中で述べるように、本発明の方法は、2つの層流流体フローを提供する。該方法は、対流および拡散のみが質量輸送に関連するメカニズムである低レイノルズ数で実行する。これにより、チャネル内での成分の移動のシミュレーションが単純化される。
【0143】
一般に、記録された拡散スペクトルを、調査中の成分の有望な半径の範囲の全体にわたる流体力学半径(したがって、拡散係数)を有するある範囲の成分について決定した、一連の理論的拡散プロファイルに関してデコンボリューションする。デコンボリューション段階は、記録したデータを、個々の理論上の拡散プロファイルのもっとも有望な蓄積から作成される大域的プロファイルに適合させる。この適合は、実験誤差と一致するもっとも簡単な解に関し行われる。本文中、もっとも簡単な解への言及は、最小エントロピー正規化(minimal entropy regularisation)への言及である。
【0144】
記録された拡散プロファイルのデコンボリューションを、生じた基底関数に関して行う。基底関数は理論上の拡散プロファイルの蓄積であり、各理論上のプロファイルは、特定の流体力学半径を有する成分に関するものである。該蓄積は、ある範囲の流体力学半径に関するプロファイルで構成される。例えば、ポリペプチドを含有する試料の場合、該プロファイルは、ポリペプチド成分に有望な半径の範囲、例えば、0.5〜200nm、例えば0.5〜15nmに及ぶ。
【0145】
最小二乗適合を用いる記録データの回帰分析を、最大エントロピー正規化で行う。シミュレートした基底関数と組み合わせて、記録された空間的プロファイルを個々の拡散プロファイルのスペクトルにデコンボリューションすることができる。
【0146】
上記デコンボリューション法は、最小の情報を含有する最良適合の誤差内に解を提供するので有利である。これにより、データのいわゆる過剰適合が妨げられる。
さらに詳細には、本発明によって、所定サイズの種のカーネルを決定するための正確な数値計算が可能になる。その後、フロー実験で得た拡散プロファイルを、予測されるカーネルの線形重ね合わせに大域的に適合させ、ここで、各カーネルの振幅を、係数を0〜1の区間に限定して分別濃度としてのそれらの物理的解釈を確実にする、制約付き最小二重適合により決定する。適合における残差は、測定誤差の推定量を提供する。その後、第2の一連の最小二乗適合を、今回は最小エントロピー正規化で実施する。エントロピーの項は、正規化された適合の残差が正規化されていない適合の残差とランダム誤差レベルで異なるようになるまで、徐々に大きさを増大させる。その結果、この最終的な適合に関する係数は、実験誤差と一致するもっとも単純な(エントロピーが最小である)解である。
【0147】
成分の流体力学半径は、当分野で公知のように、拡散係数から決定することができる。
拡散プロファイルは、当分野で公知のように、成分流体中の成分の濃度の決定に用いることもできる。
【0148】
フロー装置
本発明は、本発明の方法で使用するためのフロー装置も提供する。フロー装置は、流体フローの全体にわたり成分が分配されるのを可能にし、流体フローの一部を分流するのを可能にする、適したフローチャネルを有する。
【0149】
典型的には、フロー装置は、流体連通している2つの分離チャネルを有する。各分離チャネルは、2つの流体フローが例えば層流として分離チャネル内を流れることが可能になるように適応されている。
【0150】
本明細書中に記載するように、本発明のフロー装置は、第1および第2のフローならびに第3および第4の流体フローのための、第1および第2の分離チャネルを含む。第1の分離チャネル、および所望により第2の分離チャネルは、下流のフローセパレータと流体連結している。各分離チャネルは、接触しているフロー、例えば第1および第2のフローならびに第3および第4のフローの間での成分の側方移動が可能になるように適応されており、フローセパレータは、接触しているフローの一部を分流するように適応されている。例えば、フローセパレータを、第1の分離チャネルからの第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部、または第1の流体フローおよび第2の流体フローの一部を分流させるように、適応させる。
【0151】
本発明のフローデバイスは、統合されたチャネル網を有する一体式デバイスのような統合デバイスであることができる。したがって、該デバイスは死容積を有さず、バンド広がりは限定される。
【0152】
フロー装置は、小さな流体チャネル、とりわけマイクロ流体チャネルを使用するものであり、したがって、非常に小さな試料体積を分析することができる。このようにして、体積がマイクロリットル未満の流体中に提供されている成分を、本明細書中に記載する方法により分析することができる。さらに、流体フロー技術を用いると、測定時間を適切に増大させることにより、非常に低濃度な試料を分析することもできる。
【0153】
分離チャネルの横断面は典型的にはマイクロメートル範囲にあり、したがって、本発明の第1の観点の方法に用いられる流体デバイスは、マイクロ流体デバイスとよぶことができる。
【0154】
本発明は、本明細書中に記載するマイクロ流体デバイスも提供する。
第1、第2、第3および第4の流体フローを保持するためにマイクロ流体チャネルを使用すると、フローが確実に低レイノルズ数で生じる。本明細書中に記載する拡散分離段階では、対流および拡散のみがシステム内での質量輸送に関連するメカニズムである。したがって、これにより、本明細書中でさらに詳細に記載するように、所定サイズの各成分について正確な数値計算を実施することが可能になる。分離に電気泳動法を用いる場合、対流および電気泳動のみが、システム内での質量輸送に関連するメカニズムである。
【0155】
分離チャネルは、その内部において2つ(または3つ)の流れの層流の発生および維持を可能にするのに適した寸法を有する。2つの流れの層流とは、フローが並んでいて安定していることを意味する。したがって、典型的には流体が再循環している領域はなく、乱流は最小限である。典型的には、そのような条件は、マイクロチャネルなどの小さなチャネルによってもたらされる。
【0156】
デバイス中のチャネルの全体的な寸法は、合理的な移動速度および分析時間がもたらされるように選択する。デバイスの寸法は、十分な分析を実施するのに必要とされる流体の量が低減するように選択することもできる。
【0157】
流体フローの全体にわたる成分の拡散に用いる、例えば、分散測定に用いるためのデバイスは、当分野で周知であり、例えばKamholz et al.(Biophysical Joumal 80(4):1967−1972、2001)によって記載されている。
【0158】
流体フローの全体にわたる成分の電気泳動に用いるためのデバイスは当分野で周知であり、例えばHerling et al.(Applied Physics Letters 102、184102−4(2013))によって記載されている。したがって、分離チャネルは、チャネルの全体にわたり帯電成分を偏向(分配)させるために、チャネルの長さと平行して電極を備えていることができる。これは、チャネルの長さに沿って成分が分配されるように電極をチャネル末端に置く、Ramsey groupによって記載されているデバイスと区別できる点である。
【0159】
分離チャネルは、安定な流体フローの発生およびフロー全体にわたる成分の適切な分離の達成を可能にする、適した寸法を有するチャネルである。第1の分離チャネルは、第1の流体フローを第2の流体フローと接触させる領域である。第2の分離チャネルは、第3の流体フローを第4の流体フローと接触させる領域である。
【0160】
本明細書中での分離チャネルに関する言及は、実質的に長方形の横断面を有するチャネルに関する言及である。したがって、分離チャネルは、実質的に平坦な基底部と、そこから実質的に垂直に伸長する壁部、そして所望により上部カバーから、形成されていることができる。典型的には、基底部および壁部はシリコーン基体に形成される。カバーは、ガラスカバー、例えば、標準的なスライドガラスまたはホウケイ酸塩ウエハであることができる。
【0161】
典型的には、デバイス内の他のチャネル、例えば供給チャネルも、実質的に長方形である。
第1の分離チャネルは、第1の流体を供給するための1以上のリザーバと流体連通している。第1の分離チャネルは、第2の流体を供給するための1以上のリザーバと流体連通している。
【0162】
第2の分離チャネルは、第4の流体を供給するための1以上のリザーバと流体連通している。第2の分離チャネルは、第3の流体を供給するために、第1のフローセパレータを介して第1の分離チャネルと流体連通している。
【0163】
分離チャネルは、その長さの全体にわたり実質的に一定の幅を有する領域を有する。分離チャネルのこの領域の幅は、最大500、最大700、最大1000μm、最大2000または最大5000であることができる。この領域の幅は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100または少なくとも200であることができる。一態様において、分離チャネルのこの領域の幅は、上記の上方値および下方値から選択される範囲にあることができる。例えば、幅は10〜500の範囲にあることができる。
【0164】
一態様において、分離チャネルは、断面が大きなチャネルである上流領域と、横断面が小さいチャネルである下流領域を有する。上記のチャネル領域は、横断面が小さなチャネル領域であることができる。
【0165】
断面が大きなチャネルは、成分溶液のフロー(第1のフローなど)をブランク溶液のフロー(第2のフローなど)と接触させる領域であることができる。その後、これらのフローは、横断面が大きなチャネルによって、横断面が小さなチャネルに方向付けられる。ブランクフロー中への1以上の成分の側方移動をモニタリングするのは、横断面が小さなチャネルにおいてである。横断面が大きなチャネルは、横断面が小さなチャネルと流体連通している。
【0166】
横断面が大きなチャネルの最大幅Wは、断面が小さなチャネルの幅より大きい。一態様において、横断面が大きなチャネルには、横断面が小さなチャネルの幅より幅が小さい区画はない。一態様において、横断面が大きなチャネルの最小幅は、横断面が小さなチャネルの幅と同じである。
【0167】
断面が大きなチャネルの最大幅Wは、最大500、最大700、最大1000、最大2000、最大5000または最大10000であることができる。一般に、10000を超えるチャネル幅は、デバイスの作製材料、典型的にはPDMSが垂れる可能性があるので、実用的ではない。断面が大きなチャネルの最大幅Wは、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、または少なくとも500であることができる。一態様において、横断面が大きなチャネルの最大幅は、上記の上方値および下方値から選択される範囲にあることができる。例えば、幅は200〜5000、例えば200〜1000または例えば1000〜5000の範囲にあることができる。
【0168】
断面が大きなチャネルの長さは、最大500、最大700または最大1000である。断面が大きなチャネルの長さは、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100または少なくとも200である。一態様において、横断面が大きなチャネルの長さは、上記の上方値および下方値から選択される範囲にあることができる。例えば、長さは、50〜500、例えば100〜500の範囲にあることができる。
【0169】
横断面が大きなチャネルによって、流体デバイス中の供給チャネルの合流部におけるよどみの影響は限定される。したがって、例えば、計算した拡散計数値および疎水性半径(hydrophobic radius)は、横断面が大きなチャネルを流体合流部に用いる場合、より正確であるとみなすことができる。
【0170】
横断面が大きなチャネルが、最大幅が実質的に一定である領域と、幅が横断面が小さなチャネルの幅に収束する下流領域とを含む場合、最大幅が実質的に一定である領域は、横断面が大きなチャネルの全長の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%であることができる。
【0171】
実質的に一定な幅を有するチャネル領域の長さは、対象の成分が、接触している流体フロー中に典型的な流体流量で移動するのを可能にするのに十分な長さである。1mm以上の長さのチャネル長さで、一般には十分である。一態様において、実質的に一定な幅を有するチャネル領域は、少なくとも0.5mm、少なくとも1mm、少なくとも2mm、または少なくとも5mmの長さである。一態様において、実質的に一定な幅を有するチャネル領域は、最大10mm、最大20mm、最大50mm、最大100mmまたは最大500mmの長さである。一態様において、実質的に一定な幅を有するチャネル領域は、上記の上方値および下方値から選択される範囲にあることができる。例えば、実質的に一定な幅を有するチャネル領域は、0.5〜50mm、例えば1〜20mmの範囲にあることができる。
【0172】
流体の流れは、横断面が小さなチャネルの縦軸に沿っている。ブランクフロー中への成分フロー中の成分の拡散は、チャネルの幅の全体にわたりフローの縦軸を横切るものである。
【0173】
典型的には、フロー装置は第1の供給チャネルおよび第2の供給チャネルを含み、これらのチャネルは、下流にある第1の分離チャネルと流体連通している。第1の供給チャネルは第1の流体フローを保持するためのものであり、第2の供給チャネルは第2の流体フローを提供するためのものである。第1および第2の供給チャネルは、層流中の第1および第2の流体フローを保持するように適応されている下流の分離チャネルとの合流部で合流する。該チャネルは、リザーバと分離チャネルの間の流体連通を提供する。
【0174】
同様に、該フロー装置は第4の供給チャネルを含み、該チャネルは、下流にある第2の分離チャネルと流体連通している。第4の供給チャネルは第4の流体フローを保持するためのものである。第4の供給チャネルは、例えば層流中の第3および第4の流体フローを保持するように適応されている下流の第2の分離チャネルとの合流部で、第3の供給チャネルと合流する。該チャネルは、リザーバと第2の分離チャネルの間の流体連通を提供する。第3の供給チャネルは、第1のフローセパレータの下流にあるチャネルである。
【0175】
一態様において、分離チャネルは、横断面が大きな第1のチャネルと、横断面が大きなチャネルの下流にあってこれと流体連通している、横断面が小さな第2のチャネルとを含む。
【0176】
本発明者らは、第1および第2の流体または第3および第4の流体などの流体が最初に接触する合流点で横断面が大きなチャネルを使用すると、流体のよどみが最小限になることを見いだした。そのようなチャネルはPCT/GB2013/052757号に記載されている。
【0177】
流体の流れは、分離チャネルの縦軸に沿っている。一方のフローから他方のフローへの一成分または複数成分の移動、例えば、成分または複数成分の拡散は、チャネルの幅の全体にわたりフローの縦軸を横切るものである。本発明のフロー装置は、PCT/GB2013/052757号に記載されている発明者らの以前の研究のフローデバイスを組み込むことができる。この内容の全体を、本明細書では参考として援用する。
【0178】
フロー装置は、第1の分離チャネルの下流に、これと流体連通している第1のフローセパレータを包含する。第1のフローセパレータは、層流の一部を収集するため、とりわけ、第1の流体フローの一部、第2の流体フローの一部または第1および第2の流体フローの一部を収集するために、分離チャネルの一部の全体にわたり位置決めされているチャネルである。該チャネルの位置および幅は、収集する層流部分および収集するフローの割合に応じて選択する。
【0179】
フローセパレータは、分離チャネルからのフローの一部を分流する。フローセパレータは、下流にある第2の分離チャネルへフローを分流し、該チャネルと流体連通している。第1の分離チャネルは第2の分離チャネルの上流に提供される。第1の分離チャネルは、第1および第2の供給チャネルと流体連通している。第1のチャネルは、成分を含有する第1の流体を供給するためのものであり、第2のチャネルは、ブランク流体である第2の流体を供給するためのものである。第1および第2のフローは、第1の分離チャネルの上流末端の合流部で一緒になる。
【0180】
第1のフローセパレータは、第1の分離チャネルの下流末端に提供される。第1のフローセパレータは、第1の分離チャネルからの流体フローの一部を収集し、このフローを、下流にある第2の分離チャネルに、例えば第1のフローセパレータと第2の分離チャネルの間で流体連通している第3の流体供給チャネルを介して分流する。第1の分離チャネルから収集した一部は第3の流体フローである。
【0181】
第2の分離チャネルは、上流にある第1のフローセパレータおよび第4の供給チャネルと流体連通している。第4の供給チャネルは、ブランク流体である第4の流体を供給するためのものである。第3および第4の流体フローは、第2の分離チャネルの上流末端の合流点で一緒になる。
【0182】
所望により、第2のフローセパレータを第2の分離チャネルの下流末端に提供する。第2のフローセパレータは、第2の分離チャネルからの流体フローの一部を収集する。第2の分離チャネルから収集した一部は第5の流体フローである。この分流フローは収集することができる。
【0183】
本発明のデバイスは、一部分において、本明細書中に記載するような標準的フォトリソグラフィー技術を用いて作製することができる。
流体デバイスのチャネル表面は、成分が表面に付着するのが妨げられるように適応させることができる。したがって、一態様において、チャネル表面は、表面上への成分の吸収を制限または防止する。
【0184】
一態様において、流体デバイス内のチャネルは親水性または疎水性である。本発明者らは、親水性のチャネル表面をとりわけ検出域で用いると、疎水性タンパク質などの疎水性成分の吸収が妨げられ、これによりデバイスにおける成分の分析が改善されることを見いだした。同様に、疎水性チャネルは、親水性成分の吸収を妨げるために用いることができる。
【0185】
とりわけ、発明者らは、親水性または疎水性チャネル表面の使用が、成分の標識および変性工程において有益であることを見いだした。標識段階で発生する不溶性材料の量が最小化される。
【0186】
親水性チャネルは、当業者に周知の技術を用いて作製することができる。例えば、デバイス中のチャネルをPDMSから作製する場合、材料をプラズマ処理して、表面を親水性にすることができる。ここで、プラズマ処理により、チャネルの表面上に親水性シラノール基が生じる。そのような技術は、Tan et al.(Biomicrofluidics 4、032204(2010)によって記載されている。
【0187】
本発明のフローデバイスは、第2の分離チャネルの下流に連続して配置されているさらなる分離チャネルを包含することができる。このようにして第2の分離チャネル中の流体フローの一部を分流することができ、分離したフロー、すなわち第5の流体フローを、第3の分離チャネル中に通し、ここで第6の流体フローと接触させることができる。第5の流体フロー中に存在する成分が第3の流体フロー中に移動できるようにして、第5および第6の流体フローの全体にわたり不均一分布を達成することができる。
【0188】
フロー装置の下流末端は、乾燥質量検出器(dry mass detector)を備えていることができる。
他の優先傾向
本明細書中では、上記態様のあらゆる互換性のある組み合わせを、あらゆる組み合わせが個々に明確に挙げられているかのように、明確に開示する。
本発明のさまざまな他の観点および態様は、本開示を考慮して、当業者には明らかになるであろう。
【0189】
本明細書中で用いられる「および/または」は、2つの特定の特徴または成分のそれぞれが、他方の有無にかかわらず具体的に開示されているとみなすべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)AおよびBのそれぞれが、本明細書中でそれぞれがまさに個々に提示されているかのように、具体的に開示されているとみなすべきである。
文脈でそうでないことが示されない限り、上記特徴に関する記載および定義は、本発明の任意の特定の観点または態様に限定されるものではなく、記載されているすべての観点および態様に同等に適用される。
【0190】
ここで、本発明の特定の観点および態様を、一例として、上記図面を参照して例示する。
実験
デバイスの製作および操作
デバイスは、SU8−3025フォトレジスト(MicroChem、米国マサチューセッツ州ニュートン)を3000rpmで回転させて用いるソフトリソグラフィーのアプローチを通じて、25のチャネル高さに製作した。照射および現像したレジストは雌型を形成し、この上に非架橋ポリジメチルシロキサン(PDMS、Sylgard 184、ダウ・コーニング、ミシガン州ミッドランド、米国)を注入して硬化する。硬化したPDMSを剥がし、顕微鏡用スライドガラスにプラズマ接着すると、硬化PDMS中に押し抜かれた弾性管スルーホールに到達可能な密封マイクロチャネルが生じた。電極は、接着したデバイスを78℃のホットプレート上に置き、低融点合金(51%In、32.5%Si、16.5%Sn、Indium Corporation、ニューヨーク州Utica、米国)を自動整合した型に挿入することにより作り出した。半径が25で25離れている一連の柱は、その表面張力によって溶融金属を保持し、温度を低下させると、合金は凝固し、固体壁電極を形成した。
【0191】
本デバイスの設計を図1に示す。これは、電気泳動分離のための第1のモジュール(1)と、拡散分離のためのモジュール(2)を含む。第1のモジュールにより、成分のサイズ/電荷比を決定することが可能になり、第2のモジュールにより、成分のサイズを決定することが可能になる。
【0192】
流体の処理は、シリンジポンプ(neMESYS、Cetoni GmbH、コルブーセン、ドイツ)を250μL/hの一定流量で用いて共通の出口から液体を引き抜き、すべての入口にリザーバを取り付けることにより行った(ゲルローディングピペットチップ、フィッシャーブランド、フィッシャー・サイエンティフィック、ラフバラー、英国)。デバイス上の流体力学的抵抗網は、フリーフロー電気泳動モジュールおよび拡散モジュールの両方を通じて約125μL/hのフローをもたらす。分析物用液と補助流体(緩衝液フロー)の流量比は、第1および第2のモジュールの両方で1:10であった。
【0193】
流体デバイスの説明および使用
図1は、本発明の一態様に従った流体デバイス3の略図である。そのような流体デバイスを、本明細書中に記載する代表的方法に用いた。
【0194】
該デバイスは、電気泳動分離ユニット1および拡散分離ユニット2を包含する。該デバイスは、上記のように標準的ソフトリソグラフィー技術を用いて作製することができる。これに加えて、拡散デバイスおよび電気泳動デバイスの作製方法は、Kamholz et al.(Biophysical Journal 80(4):1967−1972、2001)およびHerling et al.(Applied Physics Letters 102、184102−4(2013))によって記載されており、それに記載されている方法を、本明細書中に記載するデバイスの作製における使用に適応させることができる。
【0195】
デバイス3は、電気泳動分離ユニット1内に第1の分離チャネル4を包含する。電極5は、チャネルのどちらかの側に、その長さに沿って提供される。電極5は、分離チャネル4の全体にわたり電界を印加するのに適した電源(図示していない)に接続されている。第1の分離チャネル4は、成分の電気泳動分配のために提供される。第1の分離チャネル4は、上流にある第1の供給チャネル6および上流にある第2の供給チャネル7によって供給される。第1の供給チャネル6は、第1の流体リザーバ8(「試料入口」)から第1の分離チャネル4へ第1の流体フローを供給するためのものである。第1の流体フローは、ある成分を例えば多成分混合物中に含む。第2の供給チャネル7は、第2の流体リザーバ9(「緩衝液入口」)から第1の分離チャネル4へ第2の流体フローを供給するためのものである。使用時に、第1および第2の流体を、リザーバ8および9から供給チャネル6および7を通って流れることができるようにして、第1の分離チャネル4の上流末端の合流点10で合流させる。第2の流体フローは、第1の流体フローのどちらかの側に提供される。第1の分離チャネル4は、横断面が大きな上流領域と、横断面が小さな下流領域を有する。分離チャネルの上流領域に横断面が大きなチャネルが存在することは、分離チャネルにおける安定な流体フローの形成に関連する。
【0196】
デバイスを通る流体の移動は、シリンジポンプ(図示していない)によって制御することができる。これらは、各リザーバからの流体の流れを個々に制御するために、上流末端に位置決めすることができる。ポンプは、慎重に、装置を通して材料を引き出すために、下流末端に位置決めすることができる。流体は、重力供給下でデバイスに通して移動させることもできる。
【0197】
接触している第1および第2の流体フローは、第1の分離チャネルを通って流れることができる。電極5の両端間に適切な電圧を印加することにより、第1の分離チャネル4の全体にわたり電界を印加する。印加電界は、成分を、該成分の電荷−サイズ比に基づき、第1の流体フローから第2の流体フローの一方に移動させることができる。印加電界に応答しての成分の移動は、偏向とよぶことができる。第1の分離チャネル4の下流末端において、一成分または複数成分は第1および第2の流体フローの全体にわたり不均一に分配される。
【0198】
チャネルの全体にわたる成分の移動方向は、成分の電荷の影響を受ける。正に帯電した成分は陰極に向かって移動し、負に帯電した成分は陽極に向かって移動する。このため、2つの第2の流体フローを、第1の流体フローのどちらかの側に提供する:第2の流体フローのそれぞれが、正または負のいずれかに帯電した成分を復活させる(revive)。
【0199】
偏向の程度は成分の質量−電荷比に依存する。大きな電荷および/またはより小さな質量を有する成分は、小さな電荷および/または大きな質量を有する成分より大きく偏向する。より大きく偏向している成分は、第1の流体フローからの移動がもっとも大きく、第2の流体フローとチャネル壁の境界により近い位置にある。偏向がもっとも小さい成分は、第1の流体フローからの移動がもっとも小さく、第2の流体フローと第1の流体フローの接触領域により近い位置にある。
【0200】
第1の分離チャネル4の下流末端に、第1の分離チャネル4からの流体フローの一部を分流するための第1の流体セパレータ11を提供する。第1のフローセパレータ11は、対象となる成分を含有する接触している第1および第2の流体フローの横断面の一部を収集するように位置決めされる。流体フローの分流した一部は、成分を含有する第3の流体フローである。フローセパレータは、第1および/または第2の流体フローの一部を第3の供給チャネル中に分流する。分流段階により、特定の質量−電荷比を有する一成分または複数成分を、他の質量−電荷比を有する成分から分離することが可能になる。このように、分流段階を用いて、多成分混合物中の一成分を他の成分から少なくとも部分的に精製することができる。原理を図2に示す。図中、中央のフローセパレータは、対象となる電荷−サイズ比を有する成分を分流し、比が大きすぎるまたは小さすぎる成分を他のどこかに分流する。
【0201】
また、分流段階は、一成分または複数成分の分析に用いることができる。特定の質量−電荷比を有する成分のみが、分流される。したがって、第3の供給チャネル(または該チャネルの下流)における成分の存在は、特定の質量−電荷比を有する成分であることを示している。
【0202】
流体フローの残存部分も分流され、該フローは後で下流にあるデバイスの出口で収集チャンバー12において再び組み合わされる。あるいは、これらの分流した一部は、続いて、分流した第3の流体フローについて以下に記載するように、拡散技術を用いて分析することもできる。
【0203】
第1のフローセパレータは、下流にある第3の供給チャネル13(「試料ループ」)に供給し、この第3の供給チャネルは、第2の分離チャネル14に供給する。
第2の分離チャネル14は、上流の第3の供給チャネル13および上流の第4の供給チャネル15によって供給される。第4の供給チャネル15は、第4の流体リザーバ16(「緩衝液入口」)から第2の分離チャネル14へ第4の流体フローを供給するためのものである。使用時に、第3および第4の流体を、第1のフローセパレータ11および第4の流体リザーバ16から供給チャネル13および15を通って流れることができるようにして、第2の分離チャネル14の上流末端の合流点16で合流させる。第4の流体フローは、第3の流体フローのどちらかの側に提供される。第2の分離チャネル14は、横断面が大きな上流領域と、横断面が小さな下流領域を有する。分離チャネルの上流領域に横断面が大きなチャネルが存在することは、分離チャネルにおける安定な流体フローの形成に関連する。
【0204】
接触している第3および第4の流体フローは、第2の分離チャネル14を通って流れることができる。第3の流体フロー中の成分は、フローが第2の分離チャネル14に沿って通過するときに、第3のフローから第4のフロー中へ拡散することができる。移動の量は成分のサイズに関連する。第2の分離チャネル14の下流末端において、一成分または複数成分は第3および第4の流体フローの全体にわたり不均一に分布している。
【0205】
移動の量は成分のサイズに依存する。大きなサイズを有する成分は、小さなサイズを有する成分より移動が少ない。小さな成分は、第3の流体フローからもっとも大きく移動する。大きな成分は、第1の流体フローからの移動がもっとも小さく、実質的に第3の流体フローに残存する可能性がある。
【0206】
成分の拡散は、異なる拡散時間で測定することができる。実際には、第2の分離チャネル14の全体にわたる成分の拡散プロファイルは、チャネルに沿った異なる位置で測定することができる。これは、本件で行った実施例に記載されている。
【0207】
異なる拡散時間における拡散プロファイルの測定は、第2の分離チャネル14の単一の位置において、システムを通る流量を変化させて達成することができる。これは、流量を変化させると、同じ成分が第1の分離チャネルの末端で確実に収集されるように、第1の分離チャネル4の分離条件を変化させることが必要になるので、あまり好ましくない。例えば、システムを通る流量を変化させると、第1の分離チャネル4の全体にわたる印加電界も変化させることが必要になり得る。
成分
タンパク質溶液は、pH8.0の5mM HEPES緩衝液中に2mg/mLの濃度で調製した。共有結合標識は、600の潜在的蛍光体(オルトフタルアルデヒド、P0657、シグマ・アルドリッチ、ドーセット、英国)および900の2−メルカプトエタノール(35602、サーモ・サイエンティフィック、クラムリントン、英国)を加えることにより生じさせた。標識試料は、デバイスで使用する前に氷(+4℃)上で少なくとも5分間インキュベートした。その後、タンパク質の相互付着を避けるために、標識タンパク質溶液に20%v/vジメチルスルホキシドを補った。
【0208】
20%v/vジメチルスルホキシドを補ったpH8.0の5mM HEPESの緩衝溶液を、補助流体として用いた。
混合物の分粒に用いる蛍光コロイドはFluoroMaxから入手した(G50およびG200)。それらの半径は、製造者によってそれぞれ23.5および100nmであると決定されていた。
【0209】
データ解析
原理上、拡散分粒は、本発明者らによるPCT/GB2013/052757号での特許出願に記載されているように実行した。したがって、いわゆる基底関数B(y)は、所定サイズrを有する多数の個々の粒子を、対流および拡散によりチャネルに通して伝播させることにより作り出す。その後、拡散モジュールの異なる位置における実験プロファイルをこれらの基底関数の線形結合に適合させて、溶液中の半径rを有する粒子の割合を定量化する係数Crを得る。最適化アルゴリズム自体は、最小エントロピー項を包含する残差の大域的最小点を見いだすために、少なくとも100のランダム移動でベイズンホッピング(basin hopping)手順により行う。
【0210】
電気泳動分離段階を包含させると、電荷が独立変数として加わる。ここで、基底関数は、追加的に、所定の大きさの電界に関するサイズ/電荷比に従って分粒モジュールに移された分析物の画分に対応する振幅を有する。これは、半径rの粒子を電気泳動モジュールに通して伝播させ、得られた分布の中心位置を泳動速度に比例的にシフトさせることによりシミュレートされる。その後、Br,q(y)で示される基底関数の振幅を、分離モジュールの出口の関連領域における粒子の画分を計数することにより決定した。電界を調整することによってこの画分は改変され、大域的に分析することができるさまざまな電圧における拡散測定の完全なセットを決定することができる、すなわち、基底関数の線形結合は、ここで、すべての印加電圧に関し得られた拡散プロファイルを満たさなければならない。これは、同様なサイズを有する粒子はさらに、電界を変化させたときに異なる振幅の痕跡をもたらす電荷に従って予備分離することができるので、該方法の分解能を乗法的に向上させる。
【0211】
PCT/GB2013/052757における発明者らの以前の研究の大域解析において、成分の大域解析は、複数の拡散時間位置、例えば、単一の分離チャネルに沿った複数の位置で、拡散プロファイルを検討することによってもたらされる。拡散プロファイルはすべて同じ物理的パラメーター(流体力学半径[サイズ])に関連し、異なる拡散時間における拡散プロファイルの測定数の増加は、成分の複合混合物の分解を一定程度まで補助することができる。本件では、拡散分離に先立ち、追加的に、電荷および等電点など流体力学半径から独立しているパラメーターに基づく分離段階を包含させることにより、例えば、プロファイルのセットに含有される情報の量は、あらゆる分離パラメーターに関し乗法的に増大する(例えば、これらのパラメーターが独立している場合)。
【0212】
デバイスの使用
電気泳動モジュールの末端における拡散チャネル内部の一連の蛍光顕微鏡像を、図3に示す。1V〜5Vの印加電圧の段階的増大は、分析物のビーム−これは、潜在的蛍光体で標識した2mg/mLの濃度のβ−ラクトグロブリンからなる−を、分析チャンバー(黄色い矢印を付けてある)の出口に向かって偏向させ、その結果として、拡散モジュール内部のプロファイルの振幅を増大させる。これらの像から、拡散チャネル中の4つの位置(ノズルから2.5、4.7、20.7および64.7mm下流)における蛍光プロファイルを抽出することができる。20%DMSOに溶解し、潜在的蛍光体(OPA)で標識した、2mg/mLのβ−ラクトグロブリンについて0V〜5Vの範囲の電圧で得たプロファイルを、図4(a)の黒色破線により示す。赤線はこれらのデータへの大域的適合であり、図4(b)に図示する基底関数計数をもたらす。この係数のセットは、われわれが分析物のサイズおよび電荷を同時に決定することができることを示している。得られた約3nmの流体力学半径は、われわれの以前の所見に十分に対応している。しかしながら、分離モジュールの選択性はまだ中程度なので、この工程において、電荷に関する値は依然として信頼性が高くない。
【0213】
混合物の分離および分析能力を示すために、半径23.5および100nmの蛍光コロイドの溶液を検討した。図5(a)〜(c)は、0、0.9および1.5Vの電圧での電気泳動分離モジュールの末端におけるこの混合物の蛍光顕微鏡像を示す。電界の非存在下で、小さな画分のコロイドのみを分析チャネル中に供給する。重要なことには、より小さなコロイドのみが拡散によりこのチャネルに達することができ、これは、それぞれ23.5および100nmのコロイドの拡散的広がりを示す赤い点線および黄色い破線の目線へのガイドにより視覚化されている。非ゼロ電界では、ますます多くの粒子が分析チャネル中に離脱(defect)しており、1.5V(図5(c)参照)では、混合物の両成分が分粒モジュールに達する。さらに、この電圧において、2つのコロイド流の中心は、それらの明らかに異なるサイズ/電荷比に起因して、ここで互いに相殺する。
【0214】
図5(d)において、分粒モジュール内部で測定した拡散プロファイルを黒色破線で示す一方、対応する適合を赤色実線で表す。すでに分離モジュールの末端の像から見えるように、分粒モジュール中に偏向した粒子の量は、より高い電圧では強力に増大する。シミュレーションによれば非常に小さな粒子だけが分析チャネルに達するべきであるゼロ電界の場合を除き、適合した分布は実験を非常に良く表現しており、図5(e)に示す得られた係数は、23.5および100nmのコロイドの両方の存在を示している。これに加えて、適合は、拡散によって粒子が分析チャネルに入ることが可能になるとまだ期待されない0Vの分粒モジュール内のコロイドに起因して現れる、ある範囲の小さな粒子も包含する。これらの不自然な結果を回避するために、デバイスの幾何学的構造を改変して、i)分離モジュール内部の拡散の相対量をより少なくすることを可能にし(例えば、チャネルを拡大することにより)、ii)ゼロ電界の分粒モジュールに達することができる分析物の量が低減するように、左の廃棄チャネルに通すフローを増大させ、iii)分離チャネルと分析/廃棄チャネルを接続するノードに、より単純なフロー電界をもたらすことができ、これによって、より正確なシミュレーションが可能になる。
【0215】
結論として、定常状態の層流下での分離電気泳動段階後の拡散分粒は、複合混合物の多次元分析のための原理を証明する実験として実証される。本発明者らは、単分散溶液および混合物の両方の正確な分粒を提示し、分離チャネル内部の電界が、分析モジュールに入る混合物の構成要素の相対量を改変することを示した。電荷の次元における限定された分解は、電気泳動モジュールの本幾何学的構造に由来するもので、決して該アプローチに必須なものではない。実際に、発明者らは、電子の電荷より良好な精度での電荷測定を、以前に達成していた。
【0216】
参考文献
本明細書内で言及した文書はすべて、その全体を本明細書中で参考として援用する。
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【符号の説明】
【0217】
1 電気泳動分離ユニット
2 拡散分離ユニット
3 流体デバイス
4 第1の分離チャネル
5 電極
6 第1の供給チャネル
7 第2の供給チャネル
8 第1の流体リザーバ
9 第2の流体リザーバ
10 合流点
11 第1の流体セパレータ
12 収集チャンバー
13 第3の供給チャネル
14 第2の分離チャネル
15 第4の供給チャネル
16 第4の流体リザーバ
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】