【実施例】
【0024】
<凝集粒子>
炭化珪素を反応生成させる珪素源として窒化珪素を、炭素源としてグラファイトを使用し、珪素及び炭素のモル比(Si/C)を1とした原料から、ペレット状の成形体を成形した。成形体を、窒素を含まない非酸化性雰囲気で焼成することにより、炭化珪素質焼結体を得た。得られた炭化珪素質焼結体をボールミルで粉砕した。その際、ボールの径と量によって粉砕条件を異ならせることにより、二次粒子径の異なる複数種類の凝集粒子を得た。なお、以下では骨材としての凝集粒子を「凝集粒子骨材」と称することがある。
【0025】
<導電性炭化珪素質焼結体>
珪素源として珪素(単体)または窒化珪素を、炭素源としてグラファイトを使用し、珪素及び炭素のモル比(Si/C)を1とした炭化珪素生成原料に、上記のように調製した二次粒子径の異なる凝集粒子骨材のうちの一種と、炭化珪素の微細粒子とを加えて混合原料とした。混合原料にバインダ及び水を添加して混合し、混錬物を得た。混錬物の押出成形により、ハニカム構造体を成形した。ハニカム構造体は、36mm×36mm×100mmの角柱状とし、セル密度300セル/inch
2、隔壁の厚さ10mil(約0.25mm)とした。この成形体を乾燥・脱脂した後、窒素を含むアルゴン雰囲気で焼成することにより、実施例の導電性炭化珪素質焼結体である試料S1〜S10を作製した。
【0026】
試料S1〜S10は、混合原料を構成する各原料、すなわち珪素源(S1〜S5,S10は珪素、S6〜S9は窒化珪素)の材質と粒子径、炭素源の材質と粒子径、微細粒子の材質と粒子径、及び、凝集粒子骨材の材質において共通しており、混合原料の組成と、凝集粒子骨材の粒子径とを異ならせることにより、種々の気孔径を有する導電性炭化珪素質焼結体を得ることを意図したものである。試料S1〜S10について、凝集粒子骨材の平均粒子径、及び、混合原料の組成を表1に示す。
【0027】
比較例として、従来法と同様に、骨材として炭化珪素の粗大粒子を使用した試料R1〜R6を作製した。試料R1〜R6は、混合原料を構成する各原料、すなわち珪素源(R1〜R4は窒化珪素、R5及びR6は珪素)の材質と粒子径、炭素源の材質と粒子径、及び、微細粒子の材質と粒子径において実施例と共通であり、混合原料の組成と、骨材としての粗大粒子(以下、「粗大粒子骨材」と称することがある)の粒子径とを異ならせることにより、種々の気孔径を有する導電性炭化珪素質焼結体を得ることを意図したものである。試料R1〜R6について、粗大粒子骨材の平均粒子径、及び、混合原料の組成を表1に合わせて示す。
【0028】
ここで、試料S1〜S10の凝集粒子骨材の二次粒子径、及び、試料R1〜R6の粗大粒子骨材の粒子径は、何れもレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、MT3000II)により測定した粒子径分布における体積基準メディアン径である。測定された粒子径分布によれば、何れの凝集粒子骨材も、二次粒子径2μm〜25μmの凝集粒子で全体の95体積%以上を占め、二次粒子径3μm〜25μmの凝集粒子で全体の80体積%以上を占めていた。例として、実施例S2〜S4,S6に使用した凝集粒子骨材の二次粒子径分布を、
図1に示す。
【0029】
また、実施例の各試料に使用した凝集粒子骨材を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、何れの試料においても、凝集粒子を形成している一次粒子の粒子径は0.5μm〜5μmであった。例として、実施例S2〜S4,S6に使用した凝集粒子骨材の走査型電子顕微鏡観察像を、
図7(a)に示す。また、対比のために、比較例R2〜R4,R6に使用した粗大粒子骨材の走査型電子顕微鏡観察像を、
図7(b)に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例の試料S1〜S10、及び、比較例の試料R1〜R6の導電性炭化珪素質焼結体のそれぞれについて、次の方法で見掛け気孔率、4点曲げ強度、ヤング率を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
平均気孔径:水銀ポロシメータ(micromeritics社製,オートポアIV9500)を使用して水銀圧入法により測定した気孔径分布から、体積基準メディアン径として求めた。
見掛け気孔率:平均気孔径の測定に際し、試料に圧入された水銀体積と試料体積とから算出した。
4点曲げ強度:ハニカム構造の試料を5セル×4セル×40mmの大きさに切り出して試験片とした。JIS R1601に準拠し、下部支点間距離30mm、上部支点間距離10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minの条件で測定した。
ヤング率:JIS R1602に準拠し、4点曲げ強度試験における荷重点変位から算出した。
【0033】
また、耐熱衝撃性の指標として、「4点曲げ強度/ヤング率」(σ/E)を算出した。これは、次式で表される熱衝撃破壊抵抗Rにおいて、材料固有の係数である熱膨張係数、及び、ヤング率と共に弾性限界内であれば材料固有の係数とみなされるポアソン比を、定数として扱ったものである。従って、この値(σ/E)が大きいほど、耐熱衝撃性が高いと評価することができる。各試料について、値(σ/E)の算出結果を表2に合わせて示す。
熱衝撃破壊抵抗 R=σ(1−ν)/αE
ここで、σ:応力
ν:ポアソン比
α:熱膨張係数
E:ヤング率
【0034】
【表2】
【0035】
表2から分かるように、実施例及び比較例の何れについても、約40%〜60%の範囲で種々の見掛け気孔率を有する試料が製造された。
【0036】
ここで、実施例S4と比較例R5、実施例S10と比較例R6は、それぞれ骨材が凝集粒子であるか粗大粒子であるかのみが異なり、他の全ての条件、すなわち、骨材の平均粒子径、骨材の含有率、微細粒子の材質・粒子径・含有率、珪素源の材質・粒子径・含有率、及び、炭素源の材質・粒子径・含有率が同一である組み合わせである。これらの組み合わせそれぞれについて、骨材の粒子径(凝集粒子骨材の場合は二次粒子径)と4点曲げ強度との関係を、
図2に示す。
図2から、凝集粒子を骨材とする実施例は、粗大粒子を骨材とする比較例と骨材の粒子径が同程度であっても、高い機械的強度を示していることが分かる。
【0037】
その他の試料も含め、見掛け気孔率と4点曲げ強度との関係を、
図3に示す。
図3から明らかなように、凝集粒子を骨材として使用した実施例と、粗大粒子を骨材として使用した比較例は、何れも見掛け気孔率の増加に伴い4点曲げ強度が下に凸の湾曲線を描くように減少している。そして、凝集粒子を骨材とする実施例は、粗大粒子を骨材とする比較例に比べて、同程度の4点曲げ強度を示す試料の見掛け気孔率が高い傾向を示している。換言すれば、凝集粒子を骨材とする実施例は、粗大粒子を骨材とする比較例に比べて、高気孔率であっても高い機械的強度を示している。このような実施例と比較例との差異は、見掛け気孔率が52%に達するまでは有意であった。見掛け気孔率が52%を超えると、実施例と比較例とで4点曲げ強度に有意な差異は見られなかった。
【0038】
また、耐熱衝撃性の指標である4点曲げ強度/ヤング率(σ/E)と見掛け気孔率との関係を、
図4に示す。実施例及び比較例ともに、見掛け気孔率の増加に伴い耐熱衝撃性は僅かに低下しているが、実施例と比較例とは単一の直線に沿っている。このことから、骨材を凝集粒子にすることによって見掛け気孔率が増大しても、骨材が粗大粒子である場合に比べて耐熱衝撃性は低下していないことが分かる。
【0039】
このように、骨材を凝集粒子とすることにより、骨材が粗大粒子である場合に比べて、見掛け気孔率が高くても機械的強度が高く、且つ耐熱衝撃性の低下が抑制されているのは、骨材自体が多数の一次粒子が焼結により集合した凝集粒子であることによりネックの数(一次粒子間のネック、骨材と周囲の粒子とのネック)が増加するため、と考えられる。
【0040】
更に、骨材である凝集粒子において一次粒子間に小さな空隙が存在することにより、凝集粒子である骨材の二次粒子径が小さくても高気孔率を実現できるために、骨材が粗大粒子である場合と同程度の気孔率であっても、骨材が粗大粒子である場合に比べて骨材粒子間の空隙が小さく、且つ、骨材と周囲の炭化珪素粒子との間の空隙も小さい。そのため、骨材が凝集粒子である場合は、骨材が粗大粒子である場合と同程度の気孔率であるときの平均気孔径が小さいことも、上記の理由の一つと考えられた。実施例及び比較例の各試料について、平均気孔径に対して見掛け気孔率をプロットしたグラフを
図5に示す。
図5から、同程度の見掛け気孔率を示す場合の平均気孔径は、骨材が凝集粒子である実施例の方が、骨材が粗大粒子である比較例より小さいことが明らかである。
【0041】
また、骨材が凝集粒子であるか粗大粒子であるかのみが異なり、他の全ての条件が同一である上記の組み合わせ、実施例S4と比較例R5、及び、実施例S10と比較例R6について、骨材の粒子径(凝集粒子骨材の場合は二次粒子径)に対して、平均気孔径及び見掛け気孔率をそれぞれプロットしたグラフを、
図6に示す。
図6からも、骨材が凝集粒子である実施例では、骨材が粗大粒子である比較例より、平均気孔径は小さいが見掛け気孔率は大きいことが分かる。
【0042】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、骨材として凝集粒子を使用することにより、骨材として粗大粒子を使用していた従来の製造方法に比べて、高気孔率でありながら機械的強度が高く、耐熱衝撃性も同程度である導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。従って、機械的強度や耐熱衝撃性の低下を抑えつつ気孔率を高めることにより、熱容量の小さい導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。
【0043】
加えて、粗大粒子を骨材としていた従来は、骨材は非導電性であった。これに対し、本実施形態の製造方法では、骨材とする凝集粒子を珪素源と炭素源とから反応生成させ、珪素源として窒化珪素を使用しているため、炭化珪素が生成する際に窒素がドープされて導電性の凝集粒子となる。これにより、骨材を取り囲むように焼結する炭化珪素質導電性相に加えて、骨材も導電性を有することとなり、導電性炭化珪素質焼結体全体としての導電性を高めることができる。
【0044】
そして、上記実施形態の製造方法により、一次粒子径が0.5μm〜5μmで、二次粒子径が2μm〜25μmの凝集粒子を、凝集粒子の二次粒子径より粒子径の小さい粒子からなる炭化珪素質導電性相が取り囲んで焼結している構成の導電性炭化珪素質焼結体が製造される。例として、実施例S2の導電性炭化珪素質焼結体について、破断面、及び研磨面の走査型電子顕微鏡による観察像を、それぞれ
図8(a)及び
図8(b)に示す。
図7(a)との対比により、凝集粒子骨材(二次粒子径)と考えられる2μm〜25μmの凝集粒子を、0.2μm〜2μm未満の小粒子が取り囲んで焼結している様子が観察される。
【0045】
なお、本実施形態では、凝集粒子骨材として二次粒子径2μm〜25μmの凝集粒子が全体の95体積%以上を占める凝集粒子を使用していることにより、上記構成の導電性炭化珪素質焼結体を得ているが、このような粒子径の範囲は、上述したように、目的とする作用効果を発揮する凝集粒子骨材の粒子径として適している。凝集粒子の二次粒子径が2μmより小さければ、骨材としての役割を十分に発揮することができないと考えられる。一方、二次粒子径が25μmを超えれば、実施例S9の結果から推測されるように平均気孔径が大きくなり、比較例R4との対比から推測されるように、粗大粒子を骨材とした場合と見掛け気孔率に対する機械的強度が同程度となってしまい、凝集粒子を骨材とする利点が十分に得られないと考えられる。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記では、珪素源及び炭素源を反応焼結させ、得られた焼結体を粉砕することにより、骨材とする凝集粒子を作製する場合を例示した。これに限定されず、炭化珪素を生成させる珪素源及び炭素源に、反応生成の核となる粗大粒子の骨材を加えて焼結させ、得られた焼結体を粉砕した後、分級によって粗大粒子を除くことにより、骨材とする凝集粒子を作製することもできる。