特許第6387181号(P6387181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387181ポリイミドフィルムの製造方法及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387181
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/24 20060101AFI20180827BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20180827BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20180827BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180827BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20180827BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   B29C41/24
   B32B15/088
   C08J3/22
   C08J5/18
   B29K79:00
   B29L7:00
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-510090(P2017-510090)
(86)(22)【出願日】2016年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2016060357
(87)【国際公開番号】WO2016159061
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-74455(P2015-74455)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅義
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−328161(JP,A)
【文献】 特開2010−43134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/24
B32B 15/088
C08J 3/22
C08J 5/18
B29K 79/00
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とを極性溶剤中で混合して重合し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を製造する工程(A)と、
上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液の一部を取り出し、取り出したポリアミド酸溶液とフッ素樹脂粒子とを混合することによりポリアミド酸系分散液のマスターバッチを製造する工程(B)と、
上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液及び上記工程(B)で取り出したポリアミド酸溶液の残りのポリアミド酸溶液の少なくとも一方のポリアミド酸溶液と、上記工程(B)で得られたマスターバッチと、化学イミド化剤とを−20℃〜5℃において混合することによりポリアミド酸系混合物を製造する工程(C)と、
上記工程(C)で得られたポリアミド酸系混合物を支持体へキャストすることにより液膜を形成し、当該液膜を上記支持体とともに熱処理して自己支持性フィルムとし、当該自己支持性フィルムを上記支持体から引き剥がした後、当該自己支持性フィルムをさらに熱処理することによりポリイミドフィルムを得る工程(D)と、
を含むポリイミドフィルムの製造方法であって、
上記工程(B)において、ゲージ圧0.01atm〜0.9atmの減圧条件下で、かつ−20℃〜20℃の温度範囲において、分散機を用いて上記フッ素樹脂粒子を分散することにより上記ポリアミド酸系分散液のマスターバッチを得ることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
工程(A)から工程(D)が連続工程であることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
上記ポリイミドフィルムの表面粗さRaが0.5μm〜2.0μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
工程(B)において使用される上記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が0.5μm〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法により得られるポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設ける工程を含むことを特徴とする接着性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の接着性ポリイミドフィルムの製造方法により得られる接着性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属箔を張り合わせる工程を含むことを特徴とするフレキシブル金属張積層板の製造方法。
【請求項7】
上記金属箔と上記接着性ポリイミドフィルムとの密着強度が5N/cm〜15N/cmであることを特徴とする、請求項6に記載のフレキシブル金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドフィルムの製造方法に関し、特に、ポリテトラフルオロエチレン等の表面自由エネルギーの低い粒子を含むポリイミドフィルムの連続的製造に好適に用いることができるポリイミドフィルムの製造方法に関する。また、本発明は、接着性ポリイミドフィルムの製造方法及びフレキシブル金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器における情報処理能力の向上を目的とし、回路を伝達する電気信号の高周波化が進められている。この電気信号の高周波化に伴い、回路基板に対しては、電気信頼性を保つと共に、回路における電気信号の伝達速度遅延の抑制及び電気信号の損失の抑制が望まれており、高周波領域(1GHz以上)において誘電率及び誘電正接の低い材料が求められている。一方で、信号伝達に使用されるフレキシブル配線板は、従来、基材樹脂の両面または片面に銅箔等の金属箔が積層され、さらに回路を形成されて製造される。基材樹脂としてはポリイミドが使用される。ポリイミド樹脂は、一般的に吸水率及び吸湿率が高く、この水分に起因して誘電率及び誘電正接が高くなるため、上記のような信号伝達の高速化への対応には不十分であった。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等に代表されるフッ素樹脂は、誘電率、誘電正接及び吸水率が非常に低く信号伝達に関して優れた性質を有している。しかし、PTFEはポリイミドより熱安定性が劣り、また他の材料との密着性が低いといった性質から使用される範囲が限られていた。ポリイミドとフッ素樹脂との優れた部分を組み合わせる手段としてポリイミドマトリックス中にフッ素樹脂粒子を分散させたフィルムに関する技術が開示されている。例えば特許文献1には、粒子径の大きなPTFE粒子を破砕して、当該破砕されたPTFE粒子をポリイミド中へ分散し、溶融することによってポリイミドフィルムの表面へPTFE粒子を偏在させる技術が開示されている。また特許文献2には、フッ素樹脂を分散したポリイミド層を、塗布により、金属箔上に接着層を介して積層する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許公報「特許第4237694号(2009年3月11日発行)」
【特許文献2】日本国公表特許公報「特表2014−526399号(2014年10月6日公表)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの技術が開示するポリイミドとフッ素樹脂との複合化に関する内容は特性面で優れた効果を発揮すると考えられるものの、実際に使用され得るようなコストにて、ポリイミドフィルムを高効率で、かつ安定した品質で生産するには多くの課題を抱えている。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、フッ素樹脂粒子を含有するポリイミドフィルムの製造方法において、熱及び化学イミド化法の併用による生産性が優れ、さらに接着層を介して金属箔等とポリイミドフィルムとを貼り合わせた際の剥離強度が高いポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。さらに、フィルム化工程において揮発成分となったり、フィルムの欠陥の原因となったりする分散剤を用いることなく、生産されるフィルムの面内の品質ばらつきの少ないポリイミドフィルムを得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸の一部を取り出して、減圧及び冷却条件下において、適切な粒径のフッ素樹脂粒子を細かく砕くことなく解砕する分散方法を用いることにより、適切な分散状態であって剥離強度が高いポリイミドフィルムの製造方法を提供することができ、これにより上記課題を解決しうることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とを極性溶剤中で混合して重合し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を製造する工程(A)と、
上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液の一部を取り出し、取り出したポリアミド酸溶液とフッ素樹脂粒子とを混合することによりポリアミド酸系分散液のマスターバッチを製造する工程(B)と、
上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液及び上記工程(B)で取り出したポリアミド酸溶液の残りのポリアミド酸溶液の少なくとも一方のポリアミド酸溶液と、上記工程(B)で得られたマスターバッチと、化学イミド化剤を含む混合物とを−20℃〜5℃において混合することによりポリアミド酸系混合物を製造する工程(C)と、
上記工程(C)で得られたポリアミド酸系混合物を支持体へキャストすることにより液膜を形成し、当該液膜を上記支持体とともに熱処理して自己支持性フィルムとし、当該自己支持性フィルムを上記支持体から引き剥がした後、当該自己支持性フィルムをさらに熱処理することによりポリイミドフィルムを得る工程(D)と、
を含むポリイミドフィルムの製造方法であって、
上記工程(B)において、ゲージ圧0.01atm〜0.9atmの減圧条件下で、かつ−20℃〜20℃の温度範囲において、分散機を用いて上記フッ素樹脂粒子を分散することにより上記ポリアミド酸系分散液のマスターバッチを得ることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、工程(A)から工程(D)が連続工程であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、ポリイミドフィルムの上記表面粗さRaが0.5μm〜2.0μmであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、工程(B)において使用される上記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が0.5μm〜10μmであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、上記ポリイミドフィルムの製造方法により得られるポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設ける工程を含むことを特徴とする接着性ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、上記接着性ポリイミドフィルムの製造方法により得られる接着性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属箔を張り合わせる工程を含むことを特徴とするフレキシブル金属張積層板の製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、上記金属箔と上記接着性ポリイミドフィルムとの密着強度が5N/cm〜15N/cmであることを特徴とする、フレキシブル金属張積層板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、化学イミド化剤の存在下においてイミド化を行うために生産効率が高く、さらにマトリックス樹脂と同じ樹脂を含む溶液を分散安定化剤として用いるために、化学イミド化剤との混合時にもフッ素樹脂粒子が凝集を起こしにくい。また、本製造方法では、予め低粘度の状態で分散しながら脱気するため、樹脂溶液中から効率よく気泡を抜くことが可能であり、気泡の混入によるフィルムへの欠陥発生を抑制できる。そのため、本製造方法によって得られるポリイミドフィルムは、品質安定性が高い。あわせて本製造方法によれば、最適なフッ素樹脂粒子のサイズを選定しかつ破砕による表面積の増大を起こすことなく適度な分散状態を維持することによって、フッ素樹脂粒子とポリイミドとの界面での剥離による剥離強度の低下を防ぐことが出来る。そのため、本発明は、得られるフィルムと他材との貼り合わせ強度が高いといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」をそれぞれ意味する。また、本明細書において、「wt%」は「重量%」を意味する。
【0016】
〔1.ポリイミドフィルムの製造方法〕
本発明は、(A)ポリアミド酸を製造する工程、(B)ポリアミド酸溶液とフッ素樹脂粒子を混合することによりポリアミド酸系分散液を製造する工程、(C)ポリアミド酸系混合物を製造する工程、(D)ポリアミド酸系混合物の液膜を形成してポリイミドフィルムを得る工程を含み、(B)において、ゲージ圧0.01atm〜0.9atmの減圧条件下かつ−20℃〜20℃の温度範囲でフッ素樹脂粒子を分散することにより分散液を得ることを特徴とする。
【0017】
<1−1.ポリイミドフィルム>
本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液から得られる。ポリアミド酸は、通常、芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とを、実質的に等モル量となるように有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液中の固形分濃度は特に限定されないが、通常5〜35wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適切な分子量と溶液粘度とを得ることができ、さらにポリイミドとした際に十分な機械強度を有することができる。
【0018】
<1−2.工程(A)>
工程(A)は、芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とを極性溶剤中で混合して重合し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を製造する工程である。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムの原料モノマーとして使用し得る芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニル N−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などが挙げられる。これらを単独または、任意の割合の混合物として好ましく用い得る。出来上がるポリイミドの粘弾性の制御のし易さ、並びに誘電率及び誘電正接の低減、並びに吸水率低減の観点から、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン及び/または1,4−ジアミノベンゼン等を組み合わせて使用することが好ましい。
【0020】
本発明のポリイミドフィルムの原料モノマーとして使用し得る芳香族酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物等が挙げられる。これらを単独または、任意の割合の混合物として好ましく用い得る。出来上がるポリイミドの粘弾性の制御のし易さ、並びに誘電率及び誘電正接の低減、並びに吸水率低減の観点から、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/または4,4’−オキシフタル酸二無水物等を組み合わせて使用することが好ましい。
【0021】
本発明において、これらの芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物との組合せとしては、芳香族ジアミンとして、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、パラフェニレンジアミン(PDA)及び4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)からなる群より選択される少なくとも2つの芳香族ジアミンを含み、芳香族酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)からなる群より選択される少なくとも2つの芳香族酸二無水物を含むことが好ましい。
【0022】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒(すなわち、極性溶剤)は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などがモノマーの溶解性及び沸点などの観点から好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、原料モノマーである芳香族ジアミン及び芳香族酸二無水物の構造のみならず、モノマー添加順序を制御することによっても、諸物性を制御することが可能である。本発明のポリイミドフィルムを得るためには、下記工程(a)〜工程(c)を経ることによって得られたポリアミド酸溶液をイミド化することが好ましい。
(a)芳香族酸二無水物と、これに対し過剰モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。
(b)続いて、ここに芳香族ジアミンを追加添加する。
(c)更に、全工程における芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとが実質的に等モルとなるように芳香族酸二無水物を添加して重合する。
【0024】
上記工程(a)において、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を形成するプレポリマーを得ることが好ましい。熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を形成するプレポリマーを得るためには、屈曲性を有するジアミン(柔構造のジアミン)と酸二無水物とを反応させることが好ましい。本発明において熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分とは、その高分子量体のフィルムが400℃に加熱した際に溶融し、フィルムの形状を保持しないようなものを指す。具体的には、工程(a)で用いる芳香族ジアミン及び芳香族酸二無水物を等モル反応させて得られるポリイミドが、上記温度で溶融するか、あるいはフィルムの形状を保持しないかを確認することで、芳香族ジアミン及び芳香族酸二無水物を選定することができる。このプレポリマーを用いて工程(b)及び工程(c)の反応を進めることにより、熱可塑性部位が分子鎖中に点在したポリアミド酸が得られる。
【0025】
ここで、工程(b)及び工程(c)で用いる芳香族ジアミン及び芳香族酸二無水物を選択して、最終的に得られるポリイミドが非熱可塑性となるようにポリアミド酸を重合すれば、これをイミド化して得られるポリイミドフィルムは、熱可塑性部位を有することにより、高温領域で貯蔵弾性率の変曲点を発現するようになる。その一方で、分子鎖中の大部分は非熱可塑性の構造であるため、熱可塑性部位と非熱可塑性部位との割合を制御することによって、高温領域で貯蔵弾性率が極端に低下することを防ぐことが可能となる。このような特性の制御は、本発明によって得られるポリイミドフィルムが用途として想定する接着性ポリイミドフィルムにおいて、金属箔と張り合わせるときに生じる応力を緩和しフレキシブル金属張積層板の寸法変化率を小さくすることが出来るという観点から重要な思想である。
【0026】
工程(A)により得られるポリアミド酸溶液の溶液粘度は23℃の測定で2000ポイズ〜4000ポイズが好ましい。上記溶液粘度がこの範囲内にある場合、工程(B)以降の溶液の取り扱いが容易となり、製造しやすくなるために好ましい。
【0027】
また、工程(A)で得られるポリアミド酸溶液の樹脂固形分濃度は、10wt%〜30wt%が好ましく、12wt%〜20wt%がより好ましく、14wt%〜18wt%がさらに好ましい。固形分濃度が30wt%以下であれば、分子量が低いにもかかわらず粘度が高くなることがなく、それゆえ、より取り扱いやすいため好ましい。固形分濃度が10wt%以上であれば、重合の終点が判別しやすく、それゆえ、粘度の調整がより容易になるため好ましい。
【0028】
<1−3.工程(B)>
本発明における工程(B)は、工程(A)で得られたポリアミド酸溶液の一部を取り出し、取り出したポリアミド酸溶液とフッ素樹脂粒子とを混合し(プレ分散)、更に、分散及び脱気することによりポリアミド酸系分散液のマスターバッチを製造する工程である。また、工程(B)では、分散機等を使用することが好ましい。
【0029】
上記「ポリアミド酸溶液の一部」は、マスターバッチを製造するためにフッ素樹脂粒子と混合されるものであり、分散安定化剤として用いられる。本明細書において、「分散安定化剤」とは、後述する工程(C)におけるフッ素樹脂粒子の分散状態の安定化に寄与する成分を意味する。
【0030】
ここで、「ポリアミド酸溶液の一部」が意図することは、工程(B)でフッ素樹脂粒子と混合する樹脂は工程(A)で得られるポリアミド酸溶液であり、後述する工程(C)で更に混合するポリアミド酸溶液と同一組成のものであるということを意味する。一方、必ずしも同一の重合槽(反応槽)、または同一のバッチ(重合)から得られたポリアミド酸溶液同士を混合しなければならないという意味ではない。実際には2つの重合槽で同じ組成のポリアミド酸溶液を重合し、片方を(B)工程にのみ使用し、片方を(C)工程にのみ使用したり、同一の重合槽で連続的に合成した別のバッチのポリアミド酸溶液を工程(C)で混合することになっても問題は無い。設備を共有することが出来るため連続生産における設置場所及びコストの観点から1つの重合層で製造したポリアミド酸溶液の一部を工程(B)へ別ラインで送液し、残りを貯蔵タンクへ送った後、工程(C)へ送液することが好ましいという意味である。本発明は、工程(B)を有するがゆえに、既存の製造ラインを用いた場合であってもフッ素樹脂粒子によるコンタミネーションを防ぐことができる。
【0031】
また、本発明において、「ポリアミド酸溶液の一部」とは、工程(C)で製造するポリアミド酸系混合物の溶液粘度が工程(D)におけるキャスト時に適切であれば問題ない。例えば、工程(A)で得られたポリアミド酸溶液と同一の重合槽であり、かつ同一のバッチのポリアミド酸溶液を用いる場合、工程(A)で得られたポリアミド酸溶液100重量部のうち、3重量部〜10重量部を取り出すことが好ましい。
【0032】
(フッ素樹脂粒子)
本発明におけるフッ素樹脂粒子とは、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、クロロトリフルオロエチレンポリマー(CTFE)、テトラフルオロエチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(TFE/CTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリ(テトラフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリ(エチレン−co−テトラフルオロエチレン)(ETFE)を含む群から選択される樹脂粒子である。フッ素樹脂は、ポリイミドと混合するための耐熱性の観点から、PTFE、ETFEまたはPFA等が好ましく、PTFEが特に好ましい。これらの樹脂を単独または混合して使用することが可能である。
【0033】
フッ素樹脂粒子の平均粒子径は0.5μm〜10μmが好ましく、0.5μm〜7μmがより好ましい。平均粒子径が0.5μm以上である場合、フッ素樹脂粒子とマトリックスとなるポリイミド樹脂との界面の面積は小さい。この界面は密着性が低いために、樹脂自体がこの界面を起点に破壊され易い。しかしながら、平均粒子径が0.5μm以上であれば、接着層等を介して金属箔と張り合わせた場合にも剥離強度が著しく低下することはないため好ましい。一方、平均粒子径が10μm以下である場合、フィルムの凹凸が大きくなりすぎないため、当該凹凸に接着層が隙間無く入り込んで密着強度が向上する。また、この場合、大きな粒子の界面を起点とした破壊が起こりにくくなり、フィルムの機械強度が向上する。好ましいフッ素樹脂粒子の添加率は、フッ素樹脂含有ポリイミドフィルム中20wt%〜60wt%であることが好ましく、30wt%〜50wt%であることがより好ましい。
【0034】
本発明において、フッ素樹脂粒子の平均粒子径は上記の通り0.5μm〜10μmが好ましく0.5μm〜7μmがより好ましい。
【0035】
フィルム中におけるフッ素樹脂粒子の凝集体は少ない方が好ましい。また、フッ素樹脂粒子は、必要以上に細かく破砕されず適度な大きさを保つことが好ましい。フッ素樹脂粒子の凝集体が多い場合は、フィルム表面の凹凸が大きくなって、厚みを正しく測定できなくなったり、フッ素樹脂粒子がフィルムを貫通して接着層をはじいて接着性を下げたり、接着層がフィルム中の隙間または凹凸に入り込めずに空隙が空いてしまい密着強度が低下するといった悪影響が生じる。また、フッ素樹脂粒子をハンマーミルまたはビーズミルを用いて元の一次粒子径よりも更に細かく砕いて分散した場合、ポリイミドとフッ素樹脂粒子との界面の面積が増大し、この界面での密着強度が低くなることから、接着層を使用した銅箔引き剥がし試験などで密着強度を著しく損なうことになる。従い、本発明で用いられるフッ素樹脂粒子は上記の平均粒子径を持ち、以下に述べるような過度の破砕を促進しない分散方法によって分散されることが好ましい。なお、本発明におけるフッ素樹脂粒子の平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックシリーズ等の粒度分布計を用いて測定することが出来る。ただし、装置内で希釈操作が発生し、この希釈操作によってフッ素樹脂粒子が凝集してしまい正しく測定できない場合がある。この現象を防ぐため、フッ素系分散剤を添加しておくことが好ましい。フッ素系分散剤としてDIC社製メガファックF555などが好ましく例示できる。
【0036】
(プレ分散)
一般的に、乾燥した粒子を液体中へ分散する場合、粒子表面の空気を液体へ置換するいわゆる「濡れ」と呼ばれる状態を経て、粒子凝集体が解され、分散状態へと移行していく。特にフッ素樹脂粒子はポリアミド酸を合成するために好適に用いられるアミド系等の溶剤(例えば、DMF、DMAc及びNMP等)への濡れ性が著しく低いため、フッ素樹脂粒子と液体とを接触させるだけでは分散することが出来ない。具体的には、単純にフッ素樹脂粒子をアミド系溶剤中に分散しただけでは、アミド系溶剤の上に空気を抱き込んだフッ素樹脂粒子が浮いた状態になってしまい、強く攪拌したとしても時間の経過とともに数分で分離してしまう。このような現象に対して、一般的には分散剤として界面活性剤が適用されることがある。しかしながら、この界面活性剤はポリイミドフィルムの製膜工程で分解してフィルム中で欠陥となったり、揮発して排ガス燃焼炉等の除害設備を劣化させたりするため、使用することが好ましくない。また界面活性剤であるため分散液が泡立ってしまい、後述する工程(C)において混合液中に多くの気泡を含ませてしまうという問題もある。
【0037】
例えば、上述の特許文献2には、フッ素樹脂とポリエステル系分散剤と極性溶剤とをボールミル機器で撹拌しながらフッ素樹脂を分散した後、その分散液中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とフッ素含有酸二無水物とを重合してポリアミド酸を取得する技術が開示されている。しかしながら、ポリアミド酸を製造するために好適な極性溶剤中でフッ素樹脂を分散し、さらにその分散状態を安定的に長時間維持することは非常に難しい。具体的には、分散剤を使用しても、極性溶媒中ではフッ素樹脂が比較的短時間の間に再凝集しやすい傾向にあるため、フッ素樹脂微粒子をポリアミド酸と混合して加熱してイミド化とともにフィルム化した場合に、フッ素樹脂微粒子の偏在が起こり、品質にばらつきが生じ易くなる。さらに、分散剤を含むポリアミド酸のイミド化時には、高温の加熱条件下において分散剤が熱により分解したり、焼けたりしてフィルム中で欠陥となる可能性がある。また、加熱条件下で分散剤が揮発して、排ガス燃焼炉等の溶剤除害設備に悪影響を与えるという懸念があった。
【0038】
本発明においては、これらの問題に対して耐熱性の高いポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸溶液を分散安定化剤として用い、ポリアミド酸樹脂がフッ素樹脂粒子表面に吸着して粒子間の凝集を妨げる効果と、分散液の粘度を上げることによる粒子の移動速度を下げる効果との二つの効果により分散安定化を達成している。
【0039】
また、本発明の工程(B)において粘度を調整するために有機溶媒を添加することが可能である。このときに使用する溶媒は、ポリアミド酸を析出させることが無いように、ポリアミド酸を合成するために好適に用いられるアミド系等の溶剤(例えば、DMF、DMAcまたはNMP等)を用いることが好ましいが、部分的にポリアミド酸との反応を起こさない溶媒を併用することが可能である。当該溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン及びアセトンといったケトン系有機溶剤、n-ヘキサン及びシクロヘキサン等の非極性溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン化炭素溶媒、並びにジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒はフッ素樹脂粒子を比較的濡れさせ易い性質があり、濡れ状態を促進する効果がある。好ましい有機溶媒の添加量は、混合液中5wt%〜30wt%程度である。当該添加量が5wt%以上であれば濡れ性向上の効果が十分に得られるため、好ましい。また、当該添加量が30wt%以下で有るとポリアミド酸が十分に溶解し、それゆえ、ポリアミド酸の析出を防ぐことができるため好ましい。また、添加するタイミングはアミド系溶剤と同時でも良いし、先にフッ素樹脂粒子と混合して「濡れ」状態を促進した後にアミド系溶剤とポリアミド酸溶液とを加えて攪拌及び混合しても良い。
【0040】
プレ分散工程において使用する攪拌・分散機は特に限定されない。当該攪拌・分散機は、溶媒の液面に浮いたフッ素樹脂粒子を吸い込んで混合槽の底部へ撹拌する流れを作り出せる攪拌翼を使用して混合するものであることが好ましい。また、撹拌翼としては、分散槽の壁面に付着したフッ素樹脂粒子を掻き落とすためにスクレーパーが付いた攪拌翼がより好ましい。またこの工程ではフッ素樹脂粒子の粗大な凝集体が存在するため、狭いクリアランスを持つ分散機または過度な破砕を伴う強力な分散方式は好ましくない。
【0041】
(分散工程)
工程(B)においては、フッ素樹脂粒子を破砕することなく分散することが好ましい。また、工程(B)においては、分散機を用いてフッ素樹脂粒子を分散することがより好ましい。分散工程において使用される分散機はフッ素樹脂粒子を破砕することなく、かつフッ素樹脂粒子の凝集体をほぐすだけのエネルギーを与えることが出来るものであれば、特に限定されない。分散機として、具体的には、ローター・ステーター構造を持ち、機械的なせん断によりフッ素樹脂粒子を分散できる機構を持つものが好ましく例示される。例えば、プライミクス株式会社製ホモミクサー、IKA社製MKシリーズ、MKOシリーズ、DRシリーズ及びUTLシリーズ、シルバーソン社製ハイシアミキサー、アイリッヒ社製インテンシブミキサー及びエバクテルム、マツボー社製マイルダー及びシャープフローミル、エムテクニック社製クレアミックス、ネッチバクミックス社製ホモジナイジングミキサー等が好ましく用いられ得る。なお、これらの分散機は元来乳化工程を得意とした分散機であるため、気泡を分散液中に細かく砕いて混入させてしまい易い。混入した気泡はフッ素樹脂粒子の凝集、またはフッ素樹脂粒子と有機溶媒若しくはポリアミド酸溶液との分離を促進させ、またポリイミドフィルム製造工程における急激な加熱により発泡してフィルムの平滑性を著しく損なう可能性が高い。そのため、分散と減圧による脱気とを同時に行うことが好ましい。分散工程の後に減圧脱気を行った場合、気泡が液中を移動する際にフッ素樹脂粒子を凝集させてしまう場合がある。また、分散液に更に高粘度のポリアミド酸ワニス等を混合して粘度を上げ、安定性を増した上で脱気する方法もあるが脱気工程に長時間の待ち時間を発生させる場合がある。
【0042】
本発明における分散工程は、ゲージ圧0.01atm〜0.9atmの減圧条件下で行うことが好ましく、0.1atm〜0.7atmで行うことがより好ましい。このような減圧条件下で行うことにより有機溶媒中に含まれる気泡を適切に脱気することができる。圧力が大気圧に近い場合、脱気が不十分となるため、分散不良となり好ましくない。圧力が低すぎる場合、使用する溶剤の揮発が多くなるため、分散液の固形分濃度または粘度が高くなり好ましくない。また、減圧時に揮発した溶剤を回収して、系内に戻す機構を備えた分散設備を使用することがより好ましい。
【0043】
また本発明における分散工程は−20℃〜20℃の温度範囲において行うことが好ましい。−15℃〜15℃の温度範囲がより好ましい。攪拌または分散時には機械的なせん断による発熱が伴い、系の温度を上げる原因となる。この温度上昇は、分散安定化に使用するポリアミド酸の分子量低下の原因、または溶剤の揮発若しくは分散安定性の低下の原因につながるため好ましくない。
【0044】
上記のように、フッ素樹脂粒子と、有機溶媒と、ポリアミド酸溶液とを混合し、プレ分散工程を経て分散されたポリアミド酸系分散液を本願ではマスターバッチと定義する。フッ素樹脂粒子、有機溶剤およびポリアミド酸の添加比率はフッ素樹脂粒子10wt%〜40wt%、ポリアミド酸溶液10wt%〜50wt%とし、残りを有機溶剤で調整することが好ましい。また、添加比率はフッ素樹脂粒子20wt%〜40wt%、有機溶剤40wt%〜60wt%、ポリアミド酸溶液10wt%〜30wt%程度がより好ましい。フッ素樹脂粒子濃度が10wt%以上であれば、(C)工程でポリアミド酸溶液と混合した場合に、ポリアミド酸に対するフッ素樹脂粒子の比率が十分であるため、フッ素樹脂粒子を添加する効果が得られ易くなる。また、フッ素樹脂粒子濃度が40wt%以下であれば、より容易に分散することができる。またポリアミド酸溶液の添加比率が10wt%以上であれば、分散安定化の能力が落ちず、送液待ちの貯蔵タンク内で分離することがないため、好ましい。ポリアミド酸の添加比率が50wt%以下であれば、分散液の粘度が上昇しないため、分散機での効率的な分散を行うことができる。好ましい分散液の粘度の範囲は、20ポイズ〜1000ポイズである。
【0045】
<1−4.工程(C)>
本発明における工程(C)は、上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液及び上記工程(B)で取り出したポリアミド酸溶液の残りのポリアミド酸溶液の少なくとも一方のポリアミド酸溶液と、上記工程(B)で得られたマスターバッチと、化学イミド化剤とを−20℃〜5℃において混合することによりポリアミド酸系混合物を製造する工程である。
【0046】
本発明において製造されるポリイミドフィルムは化学イミド化法及び熱イミド化法の併用によりイミド化される。例えば、ポリイミドフィルムを連続的に大量に生産する場合には化学イミド化法と熱イミド化法とを併用することにより短時間でのイミド化を達成することが有利である場合が多い。しかし、化学イミド化法と熱イミド化法とを併用する方法は、イミド化において加熱時間が短くなる。このため、特許文献1が開示するようにフッ素樹脂を溶融させ表面に偏在化させることは困難であった。更に、表面に偏在化させないような製造条件下においてフッ素樹脂粒子をハンマーミルなどで破砕して細かくしたものをポリイミドと混合するとフッ素樹脂粒子の表面積が大きくなる。その結果、フッ素樹脂粒子とポリイミドとの界面で剥離する機会が増える。そのため、金属箔などと貼り合わせた場合にはポリイミドマトリックス中におけるフッ素樹脂粒子界面での剥離が発生しやすくなり、剥離強度が低下するという問題があった。本発明によれば、化学イミド化法と熱イミド化法との併用により、特許文献1に記載の技術とは異なるプロセスで、かつ、フッ素樹脂粒子の表面積の増大を起こすことなく適度な分散状態を維持することによって、フッ素樹脂粒子とポリイミドとの界面での剥離による剥離強度の低下を防ぐことができる。
【0047】
化学イミド化剤は脱水剤またはイミド化触媒の少なくとも一方を含む。ここで、脱水剤とは、ポリアミド酸に対し、脱水閉環作用を示すものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物、またはそれら2種以上の混合物が挙げられる。中でも入手の容易性及びコストの点から、無水酢酸、無水プロピオン酸若しくは無水酪酸等の脂肪族酸無水物、またはそれら2種以上の混合物を好ましく用いることができる。脱水剤の好ましい量は、ポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5モル〜5モルであり、より好ましくは1.0モル〜4モルである。
【0048】
また、イミド化触媒とはポリアミド酸に対する脱水閉環作用を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミンまたは複素環式第三級アミン等が用いられる。中でもイミド化触媒としての反応性の点から、複素環式第三級アミンから選択されるものが特に好ましく用いられる。具体的にはキノリン、イソキノリン、β−ピコリンまたはピリジン等が好ましく用いられる。イミド化触媒の好ましい量はポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05モル〜3モルであり、より好ましくは0.2モル〜2モルである。
【0049】
脱水剤及びイミド化触媒の量が上記範囲の下限値以上であれば、化学イミド化が十分に進行するため、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがない。また、これらの量が上記範囲の上限値以下であれば、イミド化の進行が早くなりすぎず、フィルム状にキャストすることが容易である。
【0050】
更に、上記工程(A)で得られたポリアミド酸溶液及び上記工程(B)で取り出したポリアミド酸溶液の残りのポリアミド酸溶液の少なくとも一方のポリアミド酸溶液と、工程(B)で得られたフッ素樹脂分散液(すなわち、ポリアミド酸系分散液のマスターバッチ)と、化学イミド化剤とを混合する時の各液体の温度は、−20℃〜5℃であることが好ましい。上記温度が−20℃以上である場合、ポリアミド酸溶液の粘度が高くなりすぎず、良好に混合できるため、出来上がるフィルムに欠陥が生じにくくなる。また、上記温度が5℃以下である場合イミド化反応速度が増大しにくいため、ゲル化しにくく、また、欠陥を生じにくくなる。また、これらの液体を混合するミキサーはピンミキサー等の高粘度の液体を密閉した状態で混合できるものが好ましい。密閉した状態で混合できるものであれば、混合物への気泡の混入を防ぐことができるため、得られるフィルムに穴状の欠陥が発生しにくい。更に、この工程で混合される液体はそれぞれフィルターによってろ過されることが好ましい。フィルターの目開きは好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下である。
【0051】
<1−5.工程(D)>
本発明における工程(D)は、上記工程(C)で得られたポリアミド酸系混合物を支持体へキャストすることにより液膜を形成し、当該液膜を支持体とともに熱処理して自己支持性フィルムとし、当該自己支持性フィルムを支持体から引き剥がした後、当該自己支持性フィルムをさらに熱処理することによりポリイミドフィルムを得る工程である。
【0052】
(自己支持性フィルム)
工程(C)で得られたポリアミド酸系混合物は、ダイスによって拡幅されて、液膜となって支持体であるエンドレスステンレスベルトまたはステンレスドラムなどへフィルム状にキャストされる。液膜は支持体上で好ましくは80℃〜200℃、より好ましくは100℃〜180℃の温度領域で加熱されることにより脱水剤及びイミド化触媒を活性化することによって、部分的に硬化及び乾燥される。その後、液膜を支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有する。本明細書においては、当該ゲルフィルムを「自己支持性フィルム」とも称する。ゲルフィルムにおいて、下記(式1)で算出される揮発分含量は5重量%〜500重量%であることが好ましく、5重量%〜200重量%であることがより好ましく、5重量%〜150重量%であることがさらに好ましい。これは、この範囲のゲルフィルムを用いた場合、焼成過程でフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ及び特性ばらつき等の不具合が起こりにくいためである。
(A−B)×100/B・・・・(式1)
(式1)中、A及びBは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量。
B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量。
【0053】
上記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存脱水剤及びイミド化触媒を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、本発明のポリイミドフィルムが得られる。
【0054】
この時、最終的に400℃〜650℃の温度で5秒〜400秒加熱するのが好ましい。最終的な加熱温度が650℃以下である場合及び加熱時間が400秒以下である場合、フィルムの熱劣化が起こりにくいため、品質等に問題が生じにくい。また、最終的な加熱温度が400℃以上である場合及び加熱時間が5秒以上である場合、イミド化が十分に進行するため、所定の効果が発現し易い。
【0055】
また、フィルム中に残留している内部応力を緩和させるために、フィルムを搬送する際に必要最低限の張力下において加熱処理をすることもできる。この加熱処理はフィルム製造工程において行ってもよいし、また、別途この工程を設けても良い。加熱条件はフィルムの特性または用いる装置に応じて変動するため一概に決定することはできないが、一般的には200℃〜500℃、より好ましくは250℃〜500℃、特に好ましくは300℃〜450℃の温度で、好ましくは1秒〜300秒、より好ましくは2秒〜250秒、特に好ましくは5秒〜200秒の熱処理により内部応力を緩和することができる。
【0056】
なお、得られたポリイミドフィルムの表面粗さRaは、0.5μm〜2.0μmであることが好ましく、0.5μm〜1.5μmであることがより好ましい。0.5μm以上であれば、フッ素樹脂粒子が過剰に粉砕されて表面積が増加することによる密着強度の低下が起こりにくい。また、2.0μm以下であれば、厚み測定誤差が生じにくいため正しく特性を評価でき、さらに、大きな凝集体が少ないため、後で設ける接着層が弾かれずに密着性を担保できる。本明細書において、表面粗さRaは、後述の実施例に記載した測定方法によって得られる値である。
【0057】
<1−6.連続工程>
上記工程(A)〜工程(D)は連続的に行うことが好ましい。特に、工程(B)で得られる分散液は分散安定化時間が短いため、連続的に製造され、連続的に工程(C)及び(D)に移行しフィルムロールとすることが好ましい。連続的に生産することでマスターバッチの分離を抑制し、品質の安定したフッ素樹脂分散ポリイミドフィルムを得ることが出来る。
【0058】
〔2.接着性ポリイミドフィルム及びその製造方法〕
本発明に係る接着性ポリイミドフィルムは、上記ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けることにより得られる。接着性ポリイミドフィルムの製造方法としては、基材フィルムとなるポリイミドフィルムに接着層を形成する方法が例示され得る。接着性ポリイミドフィルムに含有される熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を完全にイミド化してしまうと、有機溶媒への溶解性が低下する場合があることから、ポリイミドフィルム上に上記接着層を設けることが困難となることがある。従って、上記観点から、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有する溶液を調製して、これをポリイミドフィルムに塗工し、次いでイミド化する方法を採った方がより好ましい。この時のイミド化の方法としては、熱イミド化または化学イミド化の少なくとも一方の方法を用いることができる。
【0059】
いずれのイミド化方法を採る場合も、イミド化を効率良く進めることができるという観点から、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のイミド化時の温度は、熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度をTgとすると、(Tg−100℃)〜(Tg+200℃)の範囲内に設定することが好ましく、(Tg−50℃)〜(Tg+150℃)の範囲内に設定することがより好ましい。熱イミド化の温度は高い方が、イミド化が起こりやすいため、キュア速度を速くすることができ、生産性の面で好ましい。但し、高すぎると熱可塑性ポリイミドが熱分解を起こすことがある。一方、熱イミド化の温度が低すぎると、化学イミド化でもイミド化が進みにくく、キュア工程に要する時間が長くなってしまう。
【0060】
熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のイミド化時間は、実質的にイミド化及び乾燥が完結するに十分な時間を取ればよく、一義的に限定されるものではないが、一般的には1秒〜600秒の範囲で適宜設定される。
【0061】
上記ポリアミド酸溶液をポリイミドフィルムに塗工する方法については特に限定されず、ダイコーター、リバースコーターまたはブレードコーター等の既存の方法を使用することができる。
【0062】
接着性ポリイミドフィルムにおけるポリイミドフィルム及び接着層の各層の厚み構成については、用途に応じた総厚みになるように適宜調整すれば良い。ただし、熱ラミネート時の熱歪みの発生を抑制するという観点から、200℃〜300℃における接着性ポリイミドフィルムの熱膨張係数が金属箔に近くなるように設定することが好ましい。具体的には、金属箔の熱膨張係数の−10ppm〜+10ppmとすることが好ましく、−5ppm〜+5ppmとすることがより好ましい。また、必要に応じて、接着層を設ける前のコアフィルム(すなわち、基材フィルムとなるポリイミドフィルム)、または接着層を設けた後の接着性ポリイミドフィルムの両面へ、コロナ処理、プラズマ処理またはカップリング処理等の各種表面処理を施しても良い。
【0063】
<2−1.接着層>
本発明における接着層に用いられる熱可塑性ポリイミドとは、ガラス転移温度を有し、かつ、圧縮モード(プローブ径3mmφ、荷重5g)の熱機械分析測定(TMA)において、10℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)の温度範囲で永久圧縮変形を起こすものをいう。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリイミドの原料となる芳香族酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物などが挙げられる。これらを単独または、任意の割合の混合物として好ましく用い得る。
【0065】
また、本発明の熱可塑性ポリイミドの原料となる芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニル N−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン及びそれらの類似物などが挙げられる。これらを単独または、任意の割合の混合物として好ましく用い得る。
【0066】
また、既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られるフレキシブル金属張積層板の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明における熱可塑性ポリイミドは、150℃〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有していることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。本発明に用いられる熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸については、特に限定されるわけではなく、あらゆるポリアミド酸を用いることができる。ポリアミド酸溶液の製造に関しても、上記原料及び上記製造条件等を全く同様に用いることができる。使用する原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に剛構造の芳香族ジアミン使用比率が大きくなるとガラス転移温度が高くなったり、加熱時の貯蔵弾性率が大きくなり、結果として接着性及び加工性が低くなったりするため好ましくない。剛構造の芳香族ジアミン使用比率は好ましくは40mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。
【0067】
本発明の接着層には、必要に応じて無機物あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
【0068】
〔3.フレキシブル金属張積層板及びその製造方法〕
本発明に係るフレキシブル金属張積層板は、上記接着性ポリイミドフィルムに金属箔を貼り合わせることにより得られる。使用する金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器または電気機器用途に本発明のフレキシブル金属張積層板を用いる場合には、例えば、銅若しくは銅合金、ステンレス鋼若しくはその合金、ニッケル若しくはニッケル合金(42合金も含む)、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる箔を挙げることができる。一般的なフレキシブル金属張積層板では、圧延銅箔または電解銅箔といった銅箔が多用されるが、本発明においても好ましく用いることができる。なお、これらの金属箔の表面には、防錆層、耐熱層または接着層が塗布されていてもよい。
【0069】
本発明において、上記金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。
【0070】
接着性ポリイミドフィルムと金属箔との貼り合わせ方法としては、例えば、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理を用いることができる。中でも、装置構成が単純であり保守コストの面で有利であるという点から、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を用いる方法(以下、熱ラミネートともいう)が好ましい。また、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置で金属箔と貼り合わせた場合に一般的に寸法変化が発生しやすいことから、本発明のポリイミドフィルム及び接着性ポリイミドフィルムは、熱ロールラミネート装置で張り合わせた場合に顕著な効果を発現する。ここでいう「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【0071】
上記熱ラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することが好ましい。保護材料としては、熱ラミネート工程の加熱温度に耐えうる材料、即ち、非熱可塑性ポリイミドフィルム等の耐熱性プラスチック、または銅箔、アルミニウム箔若しくはSUS箔等の金属箔等が挙げられる。中でも、耐熱性及び再使用性等のバランスが優れる点から、非熱可塑性ポリイミドフィルム、または熱ラミネート温度よりも50℃以上高い熱可塑性ポリイミドからなるフィルムが好ましく用いられる。また、熱ラミネート時の緩衝及び保護の役目を十分に果たすという観点からは、非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは75μm以上であることが好ましい。
【0072】
また、この保護材料は必ずしも1層である必要はなく、異なる特性を有する2層以上の多層構造でも良い。
【0073】
また、熱ラミネート温度が高温の場合、保護材料をそのまま熱ラミネートに用いると、急激な熱膨張により、得られるフレキシブル金属張積層板の外観または寸法安定性が充分でない場合がある。従って、熱ラミネート前に保護材料に予備加熱を施した方が好ましい。予備加熱の手段としては、保護材料を加熱ロールに抱かせるなどして接触させる方法が挙げられる。接触時間としては1秒以上が好ましく、更に好ましくは3秒以上接触させることが好ましい。保護材料の予備加熱を行うことにより、熱ラミネートする際には保護材料の熱膨張が終了しているため、フレキシブル金属張積層板の外観または寸法特性に影響を与えることが抑制される。接触時間が1秒以上であれば、保護材料の熱膨張が終了した状態でラミネートが行われるため、熱ラミネート時に保護材料の急激な熱膨張が起こらず、それゆえ、得られるフレキシブル金属張積層板の外観または寸法特性の悪化を防ぐことができる。保護材料を加熱ロールに抱かせる距離については特に限定されず、加熱ロールの径と上記接触時間とから適宜調整すれば良い。
【0074】
保護材料の剥離は、熱ラミネート後に冷却された段階で行う。熱ラミネート直後は、保護材料及び被積層材料が高温で軟化した状態にあるため、この時に保護材料を剥離すると、被積層材料が剥離応力の影響を受け、寸法安定性が悪化することがある。また、高温で保護材料を剥離すると、被積層材料の動きが抑制されず、冷却収縮により被積層材料の外観が悪化することがある。保護材料の剥離は、接着性ポリイミドフィルムのガラス転移温度よりも100℃以上低い温度まで被積層材料が冷却されてから剥離することが好ましく、室温まで冷却されてから剥離することが更に好ましい。
【0075】
上記熱ラミネート手段における被積層材料の加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、熱循環方式、熱風加熱方式または誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用した加熱手段を用いることができる。同様に、上記熱ラミネート手段における被積層材料の加圧方式も特に限定されるものではなく、例えば、油圧方式、空気圧方式またはギャップ間圧力方式等、所定の圧力を加えることができる従来公知の方式を採用した加圧手段を用いることができる。
【0076】
上記熱ラミネート工程における加熱温度、すなわちラミネート温度は、接着性ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)+50℃以上の温度であることが好ましく、接着性ポリイミドフィルムのTg+100℃以上がより好ましい。Tg+50℃以上の温度であれば、接着性ポリイミドフィルムと金属箔とを良好に熱ラミネートすることができる。また、Tg+100℃以上であれば、ラミネート速度を上昇させてその生産性をより向上させることができる。特に、本発明の接着性ポリイミドフィルムのコアとして使用しているポリイミドフィルムは、Tg+100℃以上でラミネートを行った場合に、熱応力の緩和が有効に作用するように設計しているため、寸法安定性に優れたフレキシブル金属張積層板を生産性良く得られる。
【0077】
また、上記フレキシブル金属張積層板において、金属箔と接着性ポリイミドフィルムとの密着強度は、5N/cm〜15N/cmであることが好ましく、7N/cm〜15N/cmであることがより好ましい。密着強度がこの範囲内であればフレキシブル金属張積層板を細線化した場合にも密着性を十分に担保できるため好ましい。本明細書において、密着強度は、後述の実施例に記載した測定方法によって得られる値である。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0079】
本発明は以下のように構成することも可能である。
【0080】
〔1〕以下の工程(A)〜(D)、
(A)芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を極性溶剤中で混合して重合し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を製造する工程、
(B)前記工程(A)において製造したポリアミド酸溶液の一部を取り出し、取り出したポリアミド酸溶液とフッ素樹脂粒子を混合することによりポリアミド酸系分散液のマスターバッチを製造する工程、
(C)前記工程(A)において製造したポリアミド酸溶液または前記工程(B)で取り出したポリアミド酸溶液の残りのポリアミド酸溶液の少なくとも一方のポリアミド酸溶液、
前記工程(B)で得られたマスターバッチ、
および化学イミド化剤を含む混合物、
を−20℃〜5℃において分散することによりポリアミド酸系混合物を製造する工程、
(D)前記工程(C)において製造したポリアミド酸系混合物を支持体へキャストすることにより液膜を形成し、
支持体とともに熱処理を行い自己支持性を有するフィルムとし、
前記自己支持性フィルムを支持体から引き剥がした後、
自己支持性フィルムをさらに熱処理することによりポリイミドフィルム得る工程、
を含むポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記工程(B)において、ゲージ圧0.01atm〜0.9atmの減圧条件下で、かつ−20℃〜20℃の温度範囲において、フッ素樹脂粒子を分散することによりポリアミド酸系分散液のマスターバッチを得ることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0081】
〔2〕工程(A)から工程(D)が連続工程であることを特徴とする、〔1〕に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0082】
〔3〕工程(B)において、ローター・ステーター方式の分散機を用いてフッ素樹脂を分散することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0083】
〔4〕ポリイミドフィルムの表面粗さRaが0.5μm〜2.0μmであることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0084】
〔5〕工程(B)において使用されるフッ素樹脂粒子の平均粒子径が1μm〜10μmであることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0085】
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の製造方法により得られるポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層を含有する接着層を設けることを特徴とする接着性ポリイミドフィルムの製造方法。
【0086】
〔7〕〔6〕に記載の製造方法により得られる接着性ポリイミドフィルムの熱可塑性ポリイミド層を介して金属箔と張り合わせることを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【0087】
〔8〕〔7〕に記載の製造方法により得られる金属張積層板であって、金属箔と接着性ポリイミドフィルムとの密着強度が5N/cm〜15N/cmであることを特徴とする、金属張積層板の製造方法。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
〔ポリアミド酸溶液の粘度測定〕
東機産業社製E型粘度計(RC−550U)を使用し、1°34’×R24サイズのコーンローターを用いて0.1rpm、23℃で測定した。
【0090】
〔分散液流動性〕
得られた分散液をポンプで吸引し、送液することが可能であれば「良好」と判断した。これに対し、得られた分散液をポンプで吸引した場合に送液することができなければ「流動せず」と判断した。
【0091】
〔分散液安定性〕
目視によって分散液中の分離が確認されなければ「良好」と判断した。これに対し、目視によって分散液中の分離が確認された場合は「分離」と判断した。
【0092】
〔工程(B)からの連続性〕
工程(B)から連続して工程(C)へ進むことができた場合、「良好」と評価した。これに対し、PTFE粒子の分離または流動性の低下等によって工程(C)へ進むことが困難となった場合、「不可」と評価した。
【0093】
〔フィルム外観〕
目視によってフッ素樹脂粒子分散ポリイミドフィルムを観察して穴欠陥、つや消し及び焦げ等が確認されなければ「良好」と判断した。これに対し、穴欠陥、つや消し及び焦げ等が確認された場合はいずれが確認されたかを記載した。
【0094】
〔フィルムハンドリング性〕
評価作業中に通常の取り扱いによってフッ素樹脂粒子分散ポリイミドフィルムが破断されなければ「良好」と判断した。これに対し、フィルムが破断された場合は「裂け易い」と判断した。
【0095】
〔表面粗さ(Ra)測定〕
キーエンス社製レーザー顕微鏡VK−9700を用いて、倍率100倍で表面計測モードにてフッ素樹脂粒子分散ポリイミドフィルムをスキャンしたときのRa値を採用した。
【0096】
〔フレキシブル金属張積層板の密着強度測定〕
JIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、5mm幅の金属箔部分を、180度の剥離角度、50mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定した。また、引き剥がした後の銅箔及び引き剥がされた樹脂面の光学顕微鏡及びSEM(走査型電子顕微鏡)による観察を行い、剥離または破壊が起こっている界面を確認した。
【0097】
〔実施例1〕
<工程(A)>
容量330LのSUS製重合反応層にDMFを243kg、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル4.5kg、BAPPを13.8kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAともいう)を7.2kg、更にPMDAを6.1kg添加し30分間撹拌を行った。ついで、p−フェニレンジアミン(以下、p−PDAともいう)を6.1kg、PMDA13.1kgを添加し30分間撹拌を行った。最後に、PMDA0.4kgを固形分濃度7%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気をつけながら上記反応溶液に徐々に添加し、20℃での粘度が4000ポイズに達した時点で重合を終了し、300kgのポリアミド酸溶液を得た。これを合成例1とする。
【0098】
<工程(B)>
合成例1で得られたポリアミド酸溶液26kgを、冷却ジャケットを備えた150LのSUS製のタンクへ送液し、更にDMFを77kg添加し、攪拌翼を用いて攪拌及び混合し溶解した。得られた希釈ポリアミド酸溶液中へ、PTFE粒子(平均一次粒子径4.5μm)を26kg添加し、高速攪拌機を使用して3000rpmで攪拌しながら全体的にPTFE粒子とポリアミド酸溶液とが馴染むように15分間攪拌、混合した。次いで、タンク内を0.3atmに減圧し、層内温度が0℃になるように冷却しながら更に高速攪拌機を用いて30分間、混合液を攪拌混合して脱気した。その後圧力及び温度を保ったまま、スネークポンプを用いてローター・ステーター構造を備えたIKA社製分散機MK2000/4へ混合液を送り、15000rpmで高速回転しながらPTFE粒子を分散し、処理された分散液を再びタンクへ戻し、循環しながら1Hr分散及び脱気を実施した。この操作により分散液が気泡を含まなくなったことを目視で確認した。またPTFE粒子は破砕されること無く一次粒子径まで分散されたことを、グラインドゲージを用いて確認した。
【0099】
<工程(C)>
合成例1で得られたポリアミド酸溶液を、ギアポンプを用いて150g/minの吐出量で送液し、同時に工程(B)で得られた分散液を61g/minの吐出量でスネークポンプを用いて上記ポリアミド酸溶液とは別の送液配管から送液し、更にDMF、無水酢酸及びイソキノリンを12:2:1の重量比で混合した化学イミド化剤を75g/minの吐出量でプランジャーポンプを用いて送液し、これら三種の液を同時にピンミキサー中で混合した。送液配管とピンミキサーとは冷却用チラー液を流しており温度は−5℃に保たれていた。
【0100】
<工程(D)>
工程(C)のピンミキサーとTダイとを直接接続し、混合された液をTダイより連続的に押し出し、Tダイの下20mmを走行しているステンレス製のエンドレスベルト上にキャストした。この樹脂膜を110℃×100秒で加熱した後エンドレスベルトから自己支持性のゲルフィルムを引き剥がして(揮発分含量50重量%)テンタークリップに固定し加熱炉に搬送し、250℃の熱風乾燥炉で30秒、350℃の熱風乾燥炉で30秒、450℃のIR炉で30秒、連続的に乾燥及びイミド化させ、幅500mm、厚み44μmのフッ素樹脂粒子分散ポリイミドフィルムのロールを得た。測定結果を表1に示す。
【0101】
〔実施例2〕
工程(B)においてローター・ステーター構造を備えたIKA社製分散機MK2000/4ではなく、低速攪拌翼軸と、高速回転ディスパー翼軸と、ローター・ステーター構造を持つ高速回転乳化分散軸との3軸構造を持つプライミクス社製コンビミックスを使用する以外は全て実施例1と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0102】
〔実施例3〕
工程(B)においてDMFを77kg添加する代わりに57kg添加し、20kgをメチルエチルケトンに置き換えかつ事前にPTFE粒子と馴染ませておいたポリアミド酸溶液を添加した後、分散を開始した以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0103】
〔実施例4〕
工程(B)においてDMFを77kg添加する代わりに57kg添加し、20kgをシクロヘキサンに置き換えかつ事前にPTFE粒子と馴染ませておいたポリアミド酸溶液を添加した後、分散を開始した以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0104】
〔実施例5〕
工程(B)において分散時の液温を−10℃とした以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0105】
〔実施例6〕
工程(B)において分散時の液温を10℃とした以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0106】
〔実施例7〕
工程(B)においてタンク内の圧力を0.15atmとした以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0107】
〔実施例8〕
工程(B)においてタンク内の圧力を0.6atmとした以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0108】
〔比較例1〕
工程(B)において、合成例1で得られたポリアミド酸溶液を使用せず、DMFとPTFE粒子とのみを用いてPTFE粒子が20wt%となるように添加した以外は全て実施例1と同様の設備で混合及び分散操作を行った。しかし、PTFE粒子が分散状態を保たず送液配管内で分離してしまい、一定の流量を保って送液することができなかった。結果として工程(C)へ進むことが出来なかった。
【0109】
〔比較例2〕
工程(B)において、タンク内の圧力を常圧(1.0atm)に保ったままである以外は全て実施例1と同様の設備及び条件でポリイミドフィルムロールを取得した。フィルムの全面に気泡の破裂による穴状の欠陥が発生し、製品化することは困難であった。測定結果を表1に示す。
【0110】
〔比較例3〕
工程(B)でローター・ステーター構造を備えたIKA社製分散機MK2000/4ではなく、横型ビーズミルを使用し、直径1mmのジルコニアビーズを充填して周速12m/秒で分散すること以外は全て実施例1と同様にして混合及び分散を行った。ビーズミルでの分散が進むにつれ、分散液の粘度が上昇し、ホイップクリーム状になると共に流動性が低下し、送液することが困難になった。連続的に工程(C)へ進むことが出来なかったため、ラボにて以下の手順で非連続的ではあるがフィルムを作製した。合成例1のワニス150gと、流動性の低下したマスターバッチ61gとを混合し、更にDMF、無水酢酸及びイソキノリンを12:2:1の重量比で混合した化学イミド化剤を75g添加しアルミ箔の上にキャストした後、110℃×100秒で加熱した。アルミ箔から自己支持性のゲルフィルムを引き剥がし、4辺にピンシートを備えた金枠に固定し、250℃の熱風乾燥炉で30秒、350℃の熱風乾燥炉で30秒、450℃のIR炉で30秒加熱し、シート状のフィルム(すなわち、実施例1で得られる連続的な長尺のフィルムに比べて非連続的なフィルム)を得た。測定結果を表1に示す。
【0111】
〔比較例4〕
工程(B)でローター・ステーター構造を備えたIKA社製分散機MK2000/4を使用せず、攪拌機で混合したのみであること以外は全て実施例1と同様の設備及び条件でポリイミドフィルムロールを取得した。欠陥の発生は無かったが、フィルム表面の光沢度が低くつや消し状の外観を示していた。測定結果を表1に示す。
【0112】
〔比較例5〕
工程(B)において、合成例1で得られたポリアミド酸溶液を使用せず、代わりにDIC社製フッ素系界面活性剤メガファックF555が2wt%、フッ素樹脂粒子が20wt%となるようにDMF中へ添加した以外は全て実施例1と同様の設備及び条件でポリイミドフィルムロールを取得した。出来上がったフィルムロールは全体的に茶色く焦げたような色であった。測定結果を表1に示す。
【0113】
〔比較例6〕
<工程(A)>
容量330LのSUS製重合反応層にDMFを239kg、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル24.4kgを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDAを25.8kg添加し30分間撹拌を行った。ついで、PMDA0.8kgを固形分濃度7%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気をつけながら上記反応溶液に徐々に添加し、20℃での粘度が4000ポイズに達した時点で重合を終了し、300kgのポリアミド酸溶液を得た。これを合成例2とする。
【0114】
<工程(B)>
ローター・ステーター構造を備えたIKA社製分散機MK2000/4ではなく、横型ビーズミルを使用し、直径1mmのジルコニアビーズを充填して周速12m/秒で分散し比較例3と同様にホイップクリーム状の分散液を得た。流動性が低く連続工程である工程(C)及び(D)へ供することは出来なかったため、合成例2で得られたポリアミド酸溶液100gと得られたホイップクリーム状の分散液50gとをシンキー社製泡取り練太郎を用いて攪拌、混合及び脱気を行った。本設備は自転公転式の混合機で、ハンドワークスケールでの作業に好適に用いられ得るが、本発明で意図する連続工程及びスケールでの使用は困難であった。得られた混合液へ、DMF、無水酢酸及びイソキノリンを12:2:1の重量比で混合した化学イミド化剤を50g添加し、コンマコーターを用いてアルミ箔上へキャストした。得られた液膜を120℃で300秒乾燥し、アルミ箔から引き剥がして自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルムを金属製のピン枠へ固定し、250℃で30秒、350℃で30秒、450℃で20秒加熱し、30cm四方の44μmのポリイミドフィルムを得た。測定結果を表1に示す。
【0115】
〔比較例7〕
工程(B)において分散時の液温を40℃に保った以外は全て実施例2と同様に、分散及び製膜を行った。結果を表1に示す。
【0116】
〔熱可塑性ポリイミド前駆体の合成〕
容量330LのSUS製重合反応層にDMFを240kg、BAPPを28.8kg加え、窒素雰囲気下で0℃に保ちながら攪拌し、BPDAを21.3kg添加して更に30分間撹拌を行い20℃での粘度が200ポイズのポリアミド酸溶液を得た。これを合成例3とする。
【0117】
〔接着性ポリイミドフィルムの製造〕
実施例1〜4及び比較例2〜7で得られたポリイミドフィルムロールの両面へ、コロナ放電処理を実施した。次いで、合成例3で得られたポリアミド酸溶液をDMFで7wt%まで希釈し、リバースコーターを用いて乾燥厚みが3μmとなるように調整したのち、コロナ処理された実施例1〜4及び比較例2〜7のフィルムの片面に塗工し、150℃で30秒乾燥した。もう一方の面にも同様に塗工して乾燥した後、350℃で20秒熱イミド化し、接着性ポリイミドフィルムを得た。
【0118】
〔フレキシブル金属張積層板の製造〕
上記〔接着性ポリイミドフィルムの製造〕において得られた接着性ポリイミドフィルムの両側に18μm圧延銅箔(BHY−22B−T,ジャパンエナジー社製)を配置し、さらに銅箔の両側に保護フィルム(アピカル125NPI;株式会社カネカ製、厚み125μm)を用いて、ポリイミドフィルムの張力0.4N/cm、ラミネート温度380℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.5m/分の条件で連続的に熱ラミネートを行い、フレキシブル金属張積層板を作製した。金属箔(銅箔)との密着強度及び破壊界面を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
なお、表1中のコアポリイミド層とは、接着性ポリイミドフィルムにおいて基材となるポリイミドフィルム(すなわち、フッ素樹脂粒子分散ポリイミドフィルム)を意味する。
【0121】
〔結果の整理及び考察〕
実施例1及び2において、分散機として2種の装置を用いた。工程(B)において、分散液は滑らかで流動性があり、かつ、一部をガラス瓶に入れて数時間静置しても分離することは無かった。また、製造したフィルム断面を観察し、添加前のフッ素樹脂粒子と比較したところ大きさに違いが見られなかった。このことから、当該2種の分散機を使用した場合、フッ素樹脂は破砕されていないと判断した。実施例3及び4では、フッ素樹脂粒子の濡れ性を向上するために、MEKまたはシクロヘキサンによって予めフッ素樹脂を濡らした後に分散することを意図しており、目的の通り分散を円滑に行うことが出来た。
【0122】
一方、比較例1のようにワニスを分散剤として使用せずに溶剤とPTFE粒子とのみを混合した場合には、分散液を得ることが出来ずフィルムを連続的に取得することは出来なかった。また、比較例2のように分散時に減圧を行わなかった場合、PTFE粒子が気泡を抱き込んだままとなったため、フィルムにした場合に無数の発泡した穴状の欠陥が見られた。比較例3及び6のようにビーズミルを用いて分散した場合には、フッ素樹脂粒子の大きさは著しく小さくなっており、フッ素樹脂粒子が破砕され細かな形状になっていることがわかった。また、ビーズミルの流量、回転数、またはビーズ充填量等を変更して数種の実験を行ったが粒子径を再現性良くそろえることは出来なかった。また得られたフィルムの密着性が低下した。これらのことから、フッ素樹脂粒子の破砕を伴う分散は制御が困難であり、またフッ素樹脂粒子を細かくするとポリイミドとの接触界面が増え密着強度が低下すると考える。
【0123】
また、比較例6ではフッ素樹脂粒子が表面に偏在することは無かった。これは化学イミド化法による加熱条件のため、フッ素樹脂粒子が溶融及び溶出するために十分な時間加熱されていないことによると推測し、同様の先行技術とは異なる状況であることが示された。
【0124】
比較例4では、分散機を用いなかったため、凝集体が多くフィルム表面粗さが上昇してしまい、つや消しのような外観を呈していた。また、フッ素樹脂粒子がフィルム表面に露出し、接着層との密着力が低下してしまっていた。
【0125】
比較例5では、工程Bにおいて分散性は良好であったものの、製造されたフィルムに焦げたような跡が無数に見られた。この跡は、フッ素系分散剤の分解によるものと推測する。また表面の焦げの影響もあり、接着層との密着強度の低下が見られた。
【0126】
比較例7では、分散時に冷却せず40℃で処理を行った。フィルムは問題なく製造することが出来たが、フィルムがやや裂け易い傾向にあった。分散時の温度によりポリアミド酸の分子量が低下したためと推測する。
【0127】
なお、密着強度の測定において、いずれの実施例で得られたフィルムを用いて接着性ポリイミドフィルムを作製し、銅箔と貼り合せて密着強度を測定しても、高い密着力を示し、破壊界面は接着層であった。このことから、PTFE粒子を分散したポリイミド層と接着層とはそれ以上の強度で密着していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、例えば、電子機器等の分野において好適に利用可能である。