【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/資源生産性を向上できる革新的プロセス及び化学品の開発(微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態に係る電極複合体、並びに当該電極複合体を用いた微生物燃料電池及び水処理装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
[電極複合体]
本実施形態に係る電極複合体100は、
図1〜
図3に示すように、内部に中空部1を有する中空部材10と、中空部1に設けられる緩衝部材20とを備えている。中空部材10は、
図1に示すように略U字状の枠部材であり、上部が開口している。つまり、中空部材10は、2本の第一柱状部材2の底部を第二柱状部材3で連結した枠部材であり、第一柱状部材2及び第二柱状部材3で囲繞された内部空間に中空部1が形成されている。そして、中空部材10は、中空部1に酸素を供給する酸素供給部4と、中空部1に供給された酸素を透過する酸素透過部5とを有する。なお、
図1において、酸素供給部4は中空部材10の上面に設けられた開口であり、酸素透過部5は中空部材10の右側面6a及び左側面6bに設けられた開口である。
【0013】
緩衝部材20は、直方体状であり、右側壁21a、左側壁21b、前壁21c及び後壁21dを備え、これらにより内部空間が形成されている。緩衝部材20の上面は、酸素(空気)が通気できるように開口されている。そして、
図3に示すように、緩衝部材20は、中空部材10の中空部1内に配設される。なお、中空部材10の内部に緩衝部材20を配設した場合、中空部材10の右側面6aと緩衝部材20の右側壁21aは略面一になっていることが好ましく、中空部材10の左側面6bと緩衝部材20の左側壁21bは略面一になっていることが好ましい。
【0014】
図4に示すように、本実施形態に係る電極複合体100は、酸素透過部5において中空部材10の外側に設けられる電極30を備えている。電極30は、酸素透過部5側から、酸素透過性を有する撥水層31と導電層32とが積層されて構成されている。また、中空部材10の右側面6aは、電極30の撥水層31の外周部と接合している。そのため、後述するように、電極複合体100が電解液中に浸漬した場合、撥水層31の外周部と右側面6aとの接合部から中空部材10の内部空間に、電解液が流入することを抑制できる。
【0015】
電極複合体100では、中空部材10の酸素供給部4から緩衝部材20の内部空間に酸素(空気)が供給される。そして、後述するように、緩衝部材20の少なくとも右側壁21a及び左側壁21bは酸素透過性を有している。そのため、酸素供給部4から緩衝部材20の内部空間に供給された酸素が、緩衝部材20の右側壁21a及び左側壁21b並びに中空部材10の酸素透過部5を通じて、電極30の撥水層31に供給される。つまり、本実施形態では、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5にかけて、通気性を有している。
【0016】
このように、本実施形態の電極複合体100では、中空部材10の内部空間に緩衝部材20を配置している。そのため、電極複合体100を電解液に浸漬し、電極30に水圧がかかったとしても緩衝部材20によって電極30が保持されることから、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。その結果、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5への通気性が十分に確保されるため、電極30の撥水層31への酸素供給性を向上させることが可能となる。
【0017】
電極複合体100において、酸素供給部4から酸素透過部5にかけてのISO透気度は、1×10
−5μm/Pa・s〜100μm/Pa・sであることが好ましい。つまり、酸素供給部4から緩衝部材20及び酸素透過部5を通過し、電極30の撥水層31の表面に至るまでのISO透気度が上記範囲内であることが好ましい。透気度は、単位面積、単位圧力差及び単位時間当たりに透過する空気の平均流量であり、その数値が高いほど空気が通過しやすい。電極複合体100がこのような範囲の透気度を有していることにより、撥水層31に十分な酸素を供給することができ、安定的な性能を有する微生物燃料電池及び水処理装置を実現することが可能となる。
【0018】
具体的には、電極複合体100のISO透気度が1×10
−5μm/Pa・s以上であることにより、酸素透過性が向上し、酸素と撥水層31及び導電層32との接触率を高めることができる。なお、電極複合体100のISO透気度は高い方が好ましく、上限は特に限定されないが、例えば100μm/Pa・sとすることができる。酸素供給部4から酸素透過部5にかけてのISO透気度は、2×10
−5μm/Pa・s以上であることが好ましく、7.9×10
−5μm/Pa・sであることがより好ましく、2.9×10
−4μm/Pa・s以上であることが特に好ましい。なお、電極複合体100のISO透気度は、日本工業規格JIS P8117:2009(紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法)に沿って測定することができる。
【0019】
電極複合体100において、電極30が設けられた面の圧縮強さは、0.01kgf/cm
2〜10kgf/cm
2であることが好ましい。具体的には、
図4に示す電極複合体100の場合、緩衝部材20における電極30が積層された右側壁21a及び左側壁21bの圧縮強さが、0.01kgf/cm
2〜10kgf/cm
2であることが好ましい。電極複合体100の圧縮強さがこの範囲内であることにより、電極複合体100を大型化して電極30に大きな水圧がかかった場合でも、電極30の湾曲を抑制して平面状態を保持し、高い酸素透過性を維持することが可能となる。なお、圧縮強さは、材料が圧縮力を受けて変形や破壊するときの圧縮荷重を、材料の断面積で除した値である。そして、本明細書における圧縮強さは、国際標準化機構が規定したISO844:2004(硬質発泡プラスチック−圧縮特性の測定)に従い、相対変形が10%以内である場合に到達した圧縮応力を示している。そのため、電極複合体100における、電極30が設けられた面の圧縮強さは、ISO844:2004に沿って測定することができる。
【0020】
上述のように、緩衝部材20は、直方体状であり、酸素透過性を確保するために上面が開口し、さらに右側壁21a、左側壁21b、前壁21c及び後壁21dにより内部空間が形成されている。そして、緩衝部材20の圧縮強さをより向上させるため、緩衝部材20の内部空間に支持部材22を設けてもよい。支持部材22を設けることで、電極30と対向する緩衝部材20の右側壁21a及び左側壁21bの間を支持して補強することから、上述の圧縮強さを高め、電極30の変形をより抑制することが可能となる。
【0021】
支持部材22の形状は、緩衝部材20の圧縮強さを高めることができるならば特に限定されない。具体的には、
図5(a)に示すように、緩衝部材20は内部に板部材22aを備え、緩衝部材20における、中空部材10と電極30との積層方向Xに沿った断面の形状がトラス状であることが好ましい。つまり、支持部材22は板部材22aからなり、板部材22a並びに緩衝部材20の右側壁21a、左側壁21b、前壁21c及び後壁21dによりトラス構造を形成することが好ましい。このような三角形を基本単位とし、当該三角形を複数組み合わせたトラス構造を形成することで、緩衝部材20の安定性が向上し、圧縮強さをより向上させることが可能となる。
【0022】
図5(b)に示すように、緩衝部材20は内部に板部材22bを備え、緩衝部材20における、中空部材10と電極30との積層方向Xに沿った断面の形状が波形状であることも好ましい。つまり、支持部材22は波形の板部材22bからなり、さらに板部材22bの頂点22cは、緩衝部材20の右側壁21a及び左側壁21bと接触している。このような波形状の支持部材22を備えることによっても緩衝部材20の安定性が向上し、圧縮強さをより向上させることが可能となる。
【0023】
また、
図5(c)に示すように、緩衝部材20は、一又は二以上の円筒部材を備えることも好ましい。つまり、支持部材22は円筒状である円筒部材22dからなり、さらに円筒部材22dが、緩衝部材20の右側壁21a、左側壁21b、前壁21c及び後壁21dに接触するように、複数配置されている。このように、複数の円筒部材22dを配置することもよっても緩衝部材20の安定性が向上し、圧縮強さをより向上させることが可能となる。
【0024】
支持部材22は、
図2〜
図4に示すように、中空部材10と電極30との積層方向Xに垂直な鉛直方向Yに沿って、緩衝部材20の上面から底面にかけて緩衝部材20の内部全体に設けられていてもよい。また、支持部材22は、鉛直方向Yにおける緩衝部材20の上面と底面の中央部にのみ設けられていてもよい。さらに支持部材22は、積層方向X及び鉛直方向Yに垂直な奥行方向Zに沿って、緩衝部材20の前壁21cから後壁21dにかけて緩衝部材20の内部全体に設けられていてもよい。また、支持部材22は、奥行方向Zにおける緩衝部材20の前壁21cと後壁21dの中央部にのみ設けられていてもよい。
【0025】
図5において、支持部材22を構成する板部材は、鉛直方向Yに沿って配置されている。つまり、XZ平面に沿った断面が、トラス状や波形状、円状になるように板部材が配置されている。しかし、支持部材22を構成する板部材は、奥行方向Zに沿って配置されていてもよい。つまり、XY平面に沿った断面が、トラス状や波形状、円状になるように板部材が配置されていてもよい
【0026】
緩衝部材20を構成する部材の材料は特に限定されないが、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、金属としては、ステンレス鋼及びアルミニウムの少なくとも一方を用いることができる。
【0027】
緩衝部材20を構成する部材の形状も特に限定されない。ただ、上述のように、本実施形態の電極複合体100は、中空部材10の中空部1に緩衝部材20が挿入された状態で、酸素供給部4から酸素透過部5にかけて通気性を有する必要がある。そのため、緩衝部材20自体も高い通気性を有する必要があることから、緩衝部材20は複数の細孔を有する平板から構成されていることが好ましい。また、緩衝部材20は複数の細孔を有する網目状の構造体から構成されていることも好ましい。さらに緩衝部材20は、複数の細孔が一定のピッチで形成されていることが好ましい。ただ、これらの構成に限定されず、例えば平板の一部が大きく貫通した構造であってもよい。
【0028】
なお、電極複合体100は、酸素供給部4から酸素透過部5にかけて通気性を有する必要がある。そのため、緩衝部材20は、少なくとも電極30と対向する右側壁21a及び左側壁21bに細孔が形成されていることが好ましい。そして、電極30と対向していない前壁21c及び後壁21dには細孔が形成されていなくてもよい。支持部材22を構成する材料及び形状も特に限定されないが、緩衝部材20と同様にすることができる。
【0029】
本実施形態に係る電極複合体100では、
図1〜
図4に示すように、中空部材10は2本の第一柱状部材2の底部を第二柱状部材3で連結したU字状の枠部材である。そして、中空部材10の上面は開口し、酸素供給部4が形成されている。しかし、本実施形態の電極複合体はこの態様に限定されない。
【0030】
例えば、電極複合体100Aとして、
図6に示すような中空部材10Aを用いることも好ましい。具体的には、中空部材10Aとして、2本の第一柱状部材2の底部を第二柱状部材3で連結した枠部材の上部を、第三柱状部材7で連結したものを使用することも好ましい。そして、第三柱状部材7に通気管8を設け、通気管8を通じて緩衝部材20に酸素(空気)を供給し、さらに反応後の空気を排出する。この場合には、通気管8を通じ、ポンプによって外部から酸素が供給される構成とすることができるため、電極複合体100A内部の通気性をより向上させることが可能となる。なお、電極複合体100Aにおいて、中空部材10Aの酸素供給部4は通気管8である。
【0031】
また、電極複合体100Bとして、
図7に示すような中空部材10Bを用いることも好ましい。具体的には、中空部材10Bは、酸素透過膜を袋状に成形し、その内部に中空部を有するものである。そして、中空部に緩衝部材20を挿入し、さらに中空部材10Bの側面11に電極30を設ける。このような袋状の中空部材10Bを用いることで、中空部材の構成を簡易なものとすることができる。なお、中空部材10Bの側面11は、酸素透過性を確保するために、細孔を有することが好ましい。また、電極複合体100Bにおいて、中空部材10Aの酸素供給部4は上部に設けられた開口であり、酸素透過部5は側面11に設けられた細孔である。
【0032】
なお、袋状の中空部材10Bを構成する材料は特に限定されないが、緩衝部材20と同様に、例えば樹脂、金属及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、中空部材10Bを構成する部材の形状も特に限定されないが、例えば複数の細孔を有する薄膜で構成されていてもよく、また複数の細孔を有する網目状の構造体から構成されていてもよい。
【0033】
図1及び
図6に示すように、本実施形態では、中空部材が直方体状であり、酸素供給部が中空部材の一面に設けられた開口部であることが好ましい。つまり、
図1及び
図6に示すように、中空部材10,10Aは、内部に中空部1を有し、さらに上面に開口部が形成されていることが好ましい。しかし、本実施形態はこの態様に限定されず、例えば中空部材が円筒状であり、酸素供給部が中空部材の一面に設けられた開口部であることも好ましい。
【0034】
具体的には、
図8に示すように、電極複合体100Cにおいて、中空部材10Cは、内部に中空部1を有する円筒からなり、さらに中空部1には、円筒状である円筒部材22dからなる支持部材22が複数配置されている。そして、支持部材22は、1本の円筒部材22dを中心に、6本の円筒部材22dが同心状に集合して構成されている。また、中空部材10Bの周囲全体に電極30が積層されている。なお、電極複合体100Cにおいて、中空部材10Cの酸素供給部4は上面に設けられた開口であり、酸素透過部5は中空部材10Cの側面に設けられた細孔である。
【0035】
円筒状の中空部材10C及び支持部材22を構成する材料は特に限定されないが、緩衝部材20と同様に、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、中空部材10C及び支持部材22を構成する部材の形状も特に限定されないが、例えば複数の細孔を有する薄膜で構成されていてもよく、また複数の細孔を有する網目状の構造体から構成されていてもよい。
【0036】
本実施形態において、電極30は、酸素透過性を有する撥水層31と、撥水層31に積層されている導電層32とを備えるガス拡散電極からなる。このようなガス拡散電極を用いることにより、気相中の酸素を容易に供給することが可能になる。さらに、例えば水中に溶存する溶存酸素を電極30へ供給する場合と比べて、次のような利点がある。溶存酸素を電極30へ供給する場合、廃水などの被処理液(電解液)に含まれる有機性物質の酸化及び発電が溶存酸素の拡散速度によって律速されるという問題がある。これに対し、気相中の酸素の拡散速度は、溶存酸素の拡散速度よりも極めて大きいため、有機性物質の酸化及び発電を効率よく行うことができる。したがって、燃料電池の出力を向上させることが可能となる。
【0037】
撥水層31は、撥水性と気体透過性とを併せ持つ層である。撥水層31は、微生物燃料電池における電気化学系中の気相と液相とを良好に分離しながら、気相から液相へ向かう気体の移動を許容するように構成される。つまり、撥水層31は、気相における酸素を透過し、導電層32へ移動させるように構成されている。このような撥水層31は、多孔質であることが好ましい。この場合、撥水層31は、高い気体透過性を有することができる。
【0038】
導電層32は、例えば多孔質な導電性材料と、この導電性材料に担持されている触媒とを備えることが好ましい。なお、導電層32が、多孔質かつ導電性を有する触媒から構成されてもよい。
【0039】
さらに電極30は、
図9に示すように、撥水層31と導電層32との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層33をさらに備えていることが好ましい。酸素透過層33は酸素透過性を有するため、導電層32に酸素を供給する機能を有する。
【0040】
本実施形態における電極30の撥水層31、導電層32及び酸素透過層33について、さらに詳しく説明する。
【0041】
撥水層31は、酸素を拡散し、導電層32に対し酸素を略均一に供給している。そのため、撥水層31は、当該酸素を拡散できるように、多孔質体であることが好ましい。また、撥水層31は撥水性を有することが好ましい。撥水層31が撥水性を有することにより、結露等により多孔質体の細孔が閉塞し、酸素の拡散性が低下することを抑制できる。また、後述するように、電極複合体100を微生物燃料電池や水処理装置に用いた場合、撥水層31の内部に液相が染み込み難くなり、撥水層31が酸素と接触しやすくなる。
【0042】
撥水層31を構成する材料としては、酸素を拡散できれば特に制限されない。撥水層31を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。これらの材料は、多孔質体を形成しやすく、さらに撥水性も高いため、細孔の閉塞を抑制してガス拡散性を向上させることができる。また、撥水層31は、上記材料からなる不織布やフィルムであることが好ましい。なお、撥水層31が上記材料のフィルムからなる場合には、撥水層31及び導電層32の積層方向Xに複数の貫通孔を有することが好ましい。
【0043】
また、撥水層31は撥水性を高めるために、必要に応じて撥水剤を用いて撥水処理を施してもよい。具体的には、撥水層31を構成する多孔質体に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水剤を付着させ、撥水性を向上させてもよい。
【0044】
導電層32は、多孔質な導電性材料と、当該導電性材料に担持されている触媒とを備える構成とすることができる。導電層32における導電性材料は、例えば炭素系物質、導電性ポリマー、半導体及び金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料を用いることができる。炭素系物質の例としては、カーボンペーパー、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、導電層32は、カーボンペーパー、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる一種からなるものであってもよく、これらを複数積層してなる積層体でもよい。炭素繊維の不織布であるカーボンペーパー、炭素繊維の織布であるカーボンクロス、及び黒鉛からなる黒鉛シートは、高い耐食性を有し、かつ、電気抵抗率が金属材料と同等であるため、電極の耐久性と導電性を両立することが可能となる。
【0045】
導電性ポリマーとは、導電性を有する高分子化合物の総称である。導電性ポリマーとしては、例えば、アニリン、アミノフェノール、ジアミノフェノール、ピロール、チオフェン、パラフェニレン、フルオレン、フラン、アセチレン若しくはそれらの誘導体を構成単位とする単一モノマーの重合体や、二種以上のモノマーの共重合体が挙げられる。具体的には、導電性ポリマーとして、例えば、ポリアニリン、ポリアミノフェノール、ポリジアミノフェノール、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリフルオレン、ポリフラン、ポリアセチレン等が挙げられる。金属製の導電性材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの導電性金属が挙げられる。入手の容易性、コスト、耐食性、耐久性等を考慮した場合、導電性材料は炭素系物質であることが好ましい。
【0046】
また、導電性材料の形状は、粉末状又は繊維状であることが好ましい。また、導電性材料は、支持体に支持されていてもよい。支持体とは、それ自身が剛性を有し、ガス拡散電極に一定の形状を付与することのできる部材をいう。支持体は絶縁体であっても導電体であってもよい。支持体が絶縁体である場合、支持体としては、例えばガラス、プラスチック、合成ゴム、セラミックス、耐水又は撥水処理した紙、木片などの植物片、骨片や貝殻などの動物片等が挙げられる。多孔質構造の支持体としては、例えば、多孔質セラミック、多孔質プラスチック、スポンジ等が挙げられる。支持体が導電体である場合、支持体としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンファイバー、炭素棒などの炭素系物質、金属、導電性ポリマー等が挙げられる。支持体が導電体の場合には、炭素系材料を担持した導電性材料が支持体の表面上に配置されることで、支持体が集電体としても機能し得る。
【0047】
ここで、導電層32における触媒は、金属原子がドープされている炭素系材料であることが好ましい。金属原子としては特に限定されないが、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。この場合、炭素系材料が、特に酸素還元反応及び酸素発生反応を促進させるための触媒として優れた性能を発揮する。炭素系材料が含有する金属原子の量は、炭素系材料が優れた触媒性能を有するように適宜設定すればよい。
【0048】
炭素系材料には、更に窒素、ホウ素、硫黄及びリンから選択される一種以上の非金属原子がドープされていることが好ましい。炭素系材料にドープされている非金属原子の量も、炭素系材料が優れた触媒性能を有するように適宜設定すればよい。
【0049】
炭素系材料は、例えばグラファイト及び無定形炭素等の炭素源原料をベースとし、この炭素源原料に金属原子と、窒素、ホウ素、硫黄及びリンから選択される一種以上の非金属原子とをドープすることで得られる。
【0050】
炭素系材料にドープされている金属原子と非金属原子との組み合わせは、適宜選択される。特に、非金属原子が窒素を含み、金属原子が鉄を含むことが好ましい。この場合、炭素系材料が特に優れた触媒活性を有することができる。なお、非金属原子が窒素のみであってもよい。また、金属原子が鉄のみであってもよい。
【0051】
非金属原子が窒素を含み、金属原子がコバルトとマンガンとのうち少なくとも一方を含んでもよい。この場合も、炭素系材料が特に優れた触媒活性を有することができる。なお、非金属原子が窒素のみであってもよい。また、金属原子がコバルトのみ、マンガンのみ、あるいはコバルト及びマンガンのみであってもよい。
【0052】
炭素系材料の形状は、特に制限されない。例えば、炭素系材料は、粒子状の形状を有してもよく、またシート状の形状を有してもよい。シート状の形状を有する炭素系材料の寸法は特に制限されず、例えばこの炭素系材料が微小な寸法であってもよい。シート状の形状を有する炭素系材料は、多孔質であってもよい。シート状の形状を有し、かつ、多孔質な炭素系材料は、例えば織布状、不織布状等の形状を有することが好ましい。このような炭素系材料は、導電性材料が無くても導電層32を構成することができる。
【0053】
導電層32における触媒として構成される炭素系材料は、次のように調製することができる。まず、例えば窒素、ホウ素、硫黄及びリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の非金属を含む非金属化合物と、金属化合物と、炭素源原料とを含有する混合物を準備する。そして、この混合物を、800℃以上1000℃以下の温度で、45秒以上600秒未満加熱する。これにより、触媒として構成される炭素系材料を得ることができる。
【0054】
ここで、炭素源原料としては、上述の通り、例えばグラファイト又は無定形炭素を使用することができる。さらに、金属化合物としては、炭素源原料にドープされる非金属原子と配位結合し得る金属原子を含む化合物であれば、特に制限されない。金属化合物は、例えば金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、臭化物、ヨウ化物、フッ化物などのような無機金属塩、酢酸塩などの有機金属塩、無機金属塩の水和物、及び有機金属塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。例えばグラファイトに鉄がドープされる場合には、金属化合物は塩化鉄(III)を含有することが好ましい。また、グラファイトにコバルトがドープされる場合には、金属化合物は塩化コバルトを含有することが好ましい。また、炭素源原料にマンガンがドープされる場合には、金属化合物は酢酸マンガンを含有することが好ましい。金属化合物の使用量は、例えば炭素源原料に対する金属化合物中の金属原子の割合が5〜30質量%の範囲内となるように決定されることが好ましく、更にこの割合が5〜20質量%の範囲内となるように決定されることがより好ましい。
【0055】
非金属化合物は、上記の通り、窒素、ホウ素、硫黄及びリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の非金属の化合物であることが好ましい。非金属化合物としては、例えば、ペンタエチレンヘキサミン、エチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、エチレンジアミン、オクチルボロン酸、1,2−ビス(ジエチルホスフィノエタン)、亜リン酸トリフェニル、ベンジルジサルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することができる。非金属化合物の使用量は、炭素源原料への非金属原子のドープ量に応じて適宜設定される。非金属化合物の使用量は、金属化合物中の金属原子と、非金属化合物中の非金属原子とのモル比が、1:1〜1:2の範囲内となるように決定されることが好ましく、1:1.5〜1:1.8の範囲内となるように決定されることがより好ましい。
【0056】
触媒として構成される炭素系材料を調製する際の、非金属化合物と金属化合物と炭素源原料とを含有する混合物は、例えば次のようにして得られる。まず、炭素源原料と金属化合物と非金属化合物とを混合し、更に必要に応じてエタノール等の溶媒を加えて全量を調整する。これらを更に超音波分散法により分散させる。続いて、これらを適宜の温度(例えば60℃)で加熱した後に、混合物を乾燥して溶媒を除去する。これにより、非金属化合物と金属化合物と炭素源原料とを含有する混合物が得られる。
【0057】
次に、得られた混合物を、例えば還元性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で加熱する。これにより、炭素源原料に非金属原子がドープされ、さらに非金属原子と金属原子とが配位結合することで金属原子もドープされる。加熱温度は800℃以上1000℃以下の範囲内であることが好ましく、加熱時間は45秒以上600秒未満の範囲内であることが好ましい。加熱時間が短時間であるため、炭素系材料が効率よく製造され、しかも炭素系材料の触媒活性が更に高くなる。なお、加熱処理における、加熱開始時の混合物の昇温速度は、50℃/s以上であることが好ましい。このような急速加熱は、炭素系材料の触媒活性を更に向上する。
【0058】
また、炭素系材料を、更に酸洗浄してもよい。例えば炭素系材料を、純水中、ホモジナイザーで30分間分散させ、その後この炭素系材料を2M硫酸中に入れて、80℃で3時間攪拌してもよい。この場合、炭素系材料からの金属成分の溶出が抑えられる。
【0059】
このような製造方法により、不活性金属化合物及び金属結晶の含有量が著しく低く、かつ、導電性の高い炭素系材料が得られる。
【0060】
酸素透過層33の材料としては、酸素透過性を有し、さらに好ましくは撥水性能を有する材料であれば特に限定されない。酸素透過層33の材料としては、例えばシリコーンゴム及びポリジメチルシロキサンの少なくともいずれか一方を用いることができる。これらの材料は、シリコーンの分子構造に由来する高い酸素溶解性及び酸素拡散性を有しているため、酸素透過性に優れている。さらにこれらの材料は、表面自由エネルギーが小さいため、撥水性能にも優れている。そのため、酸素透過層33はシリコーンを含有することが特に好ましい。
【0061】
また、酸素透過層33の材料としては、エチルセルロース、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブタジエン、ポリテトラフルオロエチレン及びブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。これらの材料も高い酸素透過性と撥水性を有しているため、好ましい。
【0062】
なお、酸素透過層33としては、防水透過膜などの不織布や、ポリエチレン及びポリプロピレンの不織布も用いることができる。具体的には、酸素透過層33としては、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルムとポリウレタンポリマーを複合化してなるゴアテックス(登録商標)を用いることができる。
【0063】
導電層32に効率的に酸素を供給するために、
図9に示すように、酸素透過層33は、撥水層31及び導電層32と接触していることが好ましい。これにより、導電層32に直接酸素が供給され、さらに導電層32の内部を通じて酸素が触媒に到達するため、後述する局部電池反応が進行しやすくなる。ただ、導電層32に酸素が供給されるならば、撥水層31と酸素透過層33との間や、導電層32と酸素透過層33との間に隙間が存在していてもよい。
【0064】
また、酸素透過層33は、撥水性能を有することが好ましい。つまり、酸素透過層33は、撥水性能を有するシートであることがより好ましい。後述するように、酸素透過層33は、酸素を含む気相と、廃水槽の内部に保持された、液相としての電解液とを分離するように配置されている。ここでいう「分離」とは、物理的に遮断することをいう。これにより、電解液中の有機物や窒素含有化合物が気相側に移動することを抑制できる。
【0065】
さらに酸素透過層33は、使用する材料により酸素透過量を調整し、気相側の酸素分子が電解液に過度に透過することを抑制できる。そのため、後述するように、廃水槽内を、酸素が存在しない嫌気性条件により確実に保つことができる。この結果、廃水槽内において好気性微生物の繁殖が抑えられるので、嫌気性条件下で液体処理を行うことができる。
【0066】
このように、本実施形態に係る電極複合体100は、中空部1と、中空部1に酸素を供給する酸素供給部4と、中空部1に供給された酸素を透過する酸素透過部5とを有する中空部材10を備える。さらに電極複合体100は、酸素透過部5において中空部材10の外側に設けられ、かつ、酸素透過部5側から、酸素透過性を有する撥水層31と導電層32とが積層されてなる電極30と、中空部1に設けられ、耐圧性を有する緩衝部材20とを備える。そして、酸素供給部4から酸素透過部5にかけて通気性を有する。このため、電極複合体100を電解液に浸漬し、高い水圧環境下となった場合でも、正極へ十分に酸素を供給するための空間が確保される。そのため、電池特性の低下を抑制して安定的に電気エネルギーを生産することが可能となる。
【0067】
なお、上述のように、緩衝部材20の右側壁21a及び左側壁21bを構成する材料は、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。ただ、緩衝部材20の右側壁21a及び左側壁21b自体が電極30からなる構成であってもよい。この場合には、中空部材10の酸素供給部4から供給された酸素が酸素透過部5を通じて直接電極30に供給されるため、発電性能をより向上させることが可能となる。
【0068】
また、
図4〜
図7及び
図9では、中空部材10及び緩衝部材20の右側面及び左側面の両方に電極30を設けている。しかし、本実施形態はこの構成に限定されない。例えば、中空部材10及び緩衝部材20の一方の側面のみに電極30を接合し、他方の側面は板部材で封止してもよい。
【0069】
また、緩衝部材20の底面は板部材で封止してもよく、また後述するように、封止材により封止してもよい。同様に、
図8の円筒状の中空部材10及び支持部材22の底面も板部材で封止してもよく、また封止材により封止してもよい。このように板部材や封止材で封止することで、中空部材や緩衝部材の内部の気相を維持することが可能となる。
【0070】
[微生物燃料電池]
次に、本実施形態に係る微生物燃料電池について説明する。本実施形態の微生物燃料電池110は、
図10及び
図11に示すように、微生物を担持する負極40と、水素イオンを透過するイオン移動層50と、イオン移動層50を介して負極40と隔てられた、上述の電極30からなる正極60とを備える。
【0071】
負極40は、導電性を有する導電体シートに微生物を担持した構造を有する。導電体シートとしては、多孔質の導電体シート、織布状の導電体シート及び不織布状の導電体シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、導電体シートは複数のシートを積層した積層体でもよい。負極40の導電体シートとして、このような複数の細孔を有するシートを用いることにより、後述する局部電池反応で生成した水素イオンがイオン移動層50の方向へ移動しやすくなり、酸素還元反応の速度を高めることが可能となる。また、イオン透過性を向上させる観点から、負極40の導電体シートは、電極30、負極40及びイオン移動層50の積層方向X、つまり厚さ方向に連続した空間(空隙)を有していることが好ましい。
【0072】
当該導電体シートは、厚さ方向に複数の貫通孔を有する金属板であってもよい。そのため、負極40の導電体シートを構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル及びチタンなどの導電性金属、並びにカーボンペーパー、カーボンフェルトからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0073】
負極40に担持される微生物としては、被処理液(電解液)中の有機物、又は窒素を含む化合物(窒素含有化合物)を分解する微生物であれば特に限定されないが、例えば増殖に酸素を必要としない嫌気性微生物を使用することが好ましい。嫌気性微生物は、被処理液中の有機物を酸化分解するための空気を必要としない。そのため、空気を送り込むために必要な電力を大幅に低減することができる。また、微生物が獲得する自由エネルギーが小さいので、汚泥発生量を減少させることが可能となる。
【0074】
負極40は、嫌気性微生物を含むバイオフィルムが重ねられて固定されることで、嫌気性微生物が保持されることが好ましい。なお、バイオフィルムとは、一般に、微生物集団と、微生物集団が生産する菌体外重合体物質(extracellular polymeric substance、EPS)とを含む三次元構造体のことをいう。ただ、嫌気性微生物は、バイオフィルムによらずに負極40に保持されていてもよい。負極40に保持される嫌気性微生物は、例えば細胞外電子伝達機構を有する電気生産細菌であることが好ましい。具体的には、嫌気性微生物として、例えばGeobacter属細菌、Shewanella属細菌、Aeromonas属細菌、Geothrix属細菌、Saccharomyces属細菌が挙げられる。
【0075】
本実施形態の微生物燃料電池110は、水素イオンを透過するイオン移動層50を備えている。イオン移動層50は、負極40で生成した水素イオンを透過し、正極60側へ移動させる機能を有する。イオン移動層50としてはイオン交換樹脂を用いたイオン交換膜を使用することができる。イオン交換樹脂としては、例えばデュポン株式会社製のNAFION(登録商標)、並びに旭硝子株式会社製のフレミオン(登録商標)及びセレミオン(登録商標)を用いることができる。
【0076】
また、イオン移動層50として、水素イオンが透過することが可能な細孔を有する多孔質膜を使用してもよい。つまり、イオン移動層50は、負極40と正極60との間を水素イオンが移動するための空間(空隙)を有するシートであってもよい。そのため、イオン移動層50は、多孔質のシート、織布状のシート及び不織布状のシートからなる群より選ばれる少なくとも一つを備えることが好ましい。また、イオン移動層50は、ガラス繊維膜、合成繊維膜、及びプラスチック不織布からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができ、これらを複数積層してなる積層体でもよい。このような多孔質のシートは、内部に多数の細孔を有しているため、水素イオンが容易に移動することが可能となる。なお、イオン移動層50の細孔径は、負極40から正極60に水素イオンが移動できれば特に限定されない。
【0077】
上述のように、イオン移動層50は、負極40で生成した水素イオンを透過し、正極60側へ移動させる機能を有する。ただ、例えば、負極40と正極60とが接触しない状態で近接していれば、イオン移動層50を設けなくても、水素イオンは負極40から正極60へ移動することができる。そのため、本実施形態の微生物燃料電池110において、イオン移動層50は必須の構成要素ではない。しかし、イオン移動層50を設けることにより、負極40から正極60へ水素イオンを効率的に移動させることが可能となるため、出力向上の観点からイオン移動層50を設けることが好ましい。
【0078】
本実施形態の微生物燃料電池110は、上述の電極複合体100を備え、さらに電極30は撥水層31と導電層32とを備えている。また、導電層32の外側にイオン移動層50を配置している。そして、
図11に示すように、正極60の導電層32及び負極40は、それぞれ外部回路70と電気的に接続されている。
【0079】
電極複合体100の底面又は緩衝部材20の底面は、封止材90によって封止されていてもよい。電極複合体100の底面及び緩衝部材20の底面には高い水圧がかかる場合があるため、封止材90によって封止することにより当該底面から電解液81が流入することを防ぎ、緩衝部材20の内部の気相を維持することができる。なお、上述のように、電極複合体100の中空部材10は、電極30における撥水層31の外周部と接合しているため、電解液が緩衝部材20の内部に流入することを防ぐことができる。封止材90の素材は特に限定されないが、例えば、接着剤やシーラント、パテ、セメントなどを用いることができる。
【0080】
廃水槽80は、電極複合体100、負極40及びイオン移動層50を内部に設置している。この際、中空部材10内部への通気性を確保するために、電極複合体100は、酸素供給部4が外気に露出するように電解液に浸漬される。また、廃水槽80は、内部に電解液81を保持しているが、電解液81が流通するような構成であってもよい。例えば、
図10及び
図11に示すように、廃水槽80には、電解液81を廃水槽80に供給するための液体供給口82と、処理後の電解液81を廃水槽80から排出するための液体排出口83とが設けられていてもよい。
【0081】
なお、廃水槽80内は、例えば分子状酸素が存在しない、又は分子状酸素が存在してもその濃度が極めて小さい嫌気性条件に保たれていることが好ましい。これにより、廃水槽80内で、電解液81を酸素と殆ど接触しないように保持することが可能となる。
【0082】
次に、本実施形態の微生物燃料電池110の作用について説明する。微生物燃料電池110の動作時には、負極40に、有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含有する電解液81を供給し、正極60に空気(又は酸素)を供給する。この際、空気は、電極複合体100の上部に設けられた酸素供給部4を通じて連続的に供給される。なお、電解液81も、液体供給口82及び液体排出口83を通じて連続的に供給されることが好ましい。
【0083】
そして、正極60では、撥水層31により空気が拡散し、導電層32へ到達する。この際、正極60(電極30)が酸素透過層33を有している場合、撥水層31により空気が拡散し、酸素透過層33を空気中の酸素が透過し、導電層32へ到達する。また、負極40では、微生物の触媒作用により、電解液81中の有機物及び/又は窒素含有化合物から水素イオン及び電子を生成する。生成した水素イオンは、イオン移動層50を透過して正極60側へ移動する。また、生成した電子は負極40の導電体シートを通じて外部回路70へ移動し、さらに外部回路70から正極60の導電層32に移動する。そして、導電層32に移動した水素イオン及び電子は、触媒の作用により酸素と結合し、水となって消費される。このとき、外部回路70によって、閉回路に流れる電気エネルギーを回収する。
【0084】
ここで、本実施形態に係る負極40には、例えば、電子伝達メディエーター分子が修飾されていてもよい。あるいは、廃水槽80内の電解液81は、電子伝達メディエーター分子を含んでいてもよい。これにより、嫌気性微生物から負極40への電子移動を促進し、より効率的な液体処理を実現できる。
【0085】
具体的には、嫌気性微生物による代謝機構では、細胞内又は最終電子受容体との間で電子の授受が行われる。電解液81中にメディエーター分子を導入すると、メディエーター分子が代謝の最終電子受容体として作用し、かつ、受け取った電子を負極40へと受け渡す。この結果、電解液81における有機物などの酸化分解速度を高めることが可能となる。このような電子伝達メディエーター分子は、特に限定されないが、例えばニュートラルレッド、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQDS)、チオニン、フェリシアン化カリウム、及びメチルビオローゲンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0086】
このように、本実施形態に係る微生物燃料電池110は、電極複合体100と、微生物を担持する負極40とを備える。そして、電極複合体100における電極30は正極60である。微生物燃料電池110では、通気性を確保するために中空部材10及び緩衝部材20を備えているため、正極60は高い耐圧性を示す。これにより、微生物燃料電池110が大型化した場合や、微生物燃料電池110の水深が深くなった場合でも、正極へ酸素を供給するための空間が確保されることから、正極60に対して十分に酸素を供給することができる。そのため、微生物燃料電池110の発電性能の低下を抑制して、安定的に電気エネルギーを生産することが可能となる。
【0087】
微生物燃料電池110は、電極複合体100における電極30と負極40との間に設けられ、プロトン透過性を有するイオン移動層50をさらに有することが好ましい。イオン移動層50を設けることにより、負極40から正極60へ水素イオンを効率的に移動させることが可能となるため、微生物燃料電池110の更なる出力向上を図ることが可能となる。
【0088】
微生物燃料電池110において、電極複合体100における酸素供給部4は、中空部材10の一面に設けられた開口部であり、電極複合体100は、開口部が外気に露出するように電解液に浸漬されることが好ましい。これにより、電極複合体100の内部に電解液が流入することを抑制し、さらに中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5にかけて高い通気性を確保することが可能となる。
【0089】
[水処理装置]
次に、本実施形態に係る水処理装置について説明する。本実施形態の水処理装置は、電極複合体100と、被処理液を浄化する微生物を担持する負極40とを備える。そして、電極複合体100における電極30は、正極60である。
【0090】
上述のように、本実施形態の微生物燃料電池110は、有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含有する電解液81(被処理液)を負極40に供給している。そして、負極40に担持された微生物の代謝により、電解液81中の有機物及び/又は窒素含有化合物から水素イオン及び電子と共に、二酸化炭素又は窒素を生成している。
【0091】
具体的には、例えば電解液81が有機物としてグルコースを含有する場合、以下の局部電池反応により、二酸化炭素、水素イオン及び電子を生成している。
・負極40(アノード):C
6H
12O
6+6H
2O→6CO
2+24H
++24e
−
・正極60(カソード):6O
2+24H
++24e
−→12H
2O
また、電解液81が窒素含有化合物としてアンモニアを含有する場合、以下の局部電池反応により、窒素、水素イオン及び電子を生成している。
・負極40(アノード):4NH
3→2N
2+12H
++12e
−
・正極60(カソード):3O
2+12H
++12e
−→6H
2O
【0092】
このように、本実施形態の水処理装置は、微生物燃料電池110を用いることにより、電解液81中の有機物及び窒素含有化合物が負極40に接触して酸化分解されるため、電解液81を浄化することができる。また、上述のように、廃水槽80に、電解液81を廃水槽80に供給するための液体供給口82と、処理後の電解液81を廃水槽80から排出するための液体排出口83を設け、電解液81を連続的に供給することができる。そのため、負極40に電解液81を連続的に接触させ、電解液81を効率的に処理することが可能となる。
【0093】
本実施形態の水処理装置は、電極複合体100における電極30と負極40との間に設けられ、プロトン透過性を有するイオン移動層50をさらに有することが好ましい。イオン移動層50を設けることにより、負極40から正極60へ水素イオンを効率的に移動させることが可能となるため、浄化性能の向上を図ることが可能となる。
【0094】
[緩衝部材]
次に、電極複合体における緩衝部材の実施形態1〜4について、図面に基づき詳細に説明する。なお、上述の電極複合体、微生物燃料電池及び水処理装置と同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0095】
(実施形態1)
図12では、実施形態1に係る緩衝部材200と中空部材10とを組み合わせた状態を示している。中空部材10は、上述のように、2本の第一柱状部材2の底部を第二柱状部材3で連結した枠部材であり、第一柱状部材2及び第二柱状部材3で囲繞された内部空間に中空部1が形成されている。
【0096】
緩衝部材200は、複数の微小な殻201を有している。殻201は殻壁202により囲繞されることで形成されており、さらに中空部材10と電極30との積層方向Xに沿って空気が流通できるように貫通している。そして、積層方向Xから見た場合の殻201の断面形状は、略正方形となっている。
【0097】
殻壁202には、隣接する殻201の間を空気が流通できるように、通気孔203が形成されている。また、緩衝部材200の上面204にも通気孔203が形成されており、緩衝部材200の外部から殻201の内部に空気を供給することができる。
【0098】
図13に示すように、電極複合体100Dは、酸素透過部5において中空部材10の外側に設けられる電極30を備えている。電極30は、酸素透過部5側から、酸素透過性を有する撥水層31と導電層32とが積層されて構成されている。また、中空部材10の右側面6aは、電極30の撥水層31の外周部と接合しているため、電極複合体100Dが電解液中に浸漬した場合、撥水層31の外周部と右側面6aとの接合部から中空部材10の内部空間に、電解液が流入することを抑制できる。
【0099】
2つの電極30の間は空気が流通できるように空洞となっているが、殻壁202における電極30と対向する面は、中空部1の内側から電極30を支持している。そのため、電極複合体100Dを電解液に浸漬し、電極30に水圧がかかったとしても、緩衝部材200における殻壁202によって電極30が支持されることから、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。その結果、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5への通気性が十分に確保されるため、撥水層31への酸素供給性を向上させることが可能となる。
【0100】
そして、隣接する殻201の間を空気が流通できるように、殻壁202には通気孔203が形成されており、さらに緩衝部材200の上面204にも通気孔203が形成されている。そのため、中空部材10の酸素供給部4から上面204の通気孔203を通じて、緩衝部材200の内部に空気が流入し、さらに殻壁202の通気孔203を通じて、緩衝部材200の内部に空気が拡散する。そして、中空部材10の酸素透過部5を通じて、電極30の撥水層31に空気が供給される。このように、電極複合体100Dは、中空部材10の酸素供給部4から供給された酸素が緩衝部材200及び酸素透過部5を通じて電極30に効率的に供給されるため、発電性能を向上させることが可能となる。
【0101】
上述のように、緩衝部材200において、中空部材10と電極30との積層方向Xから見た場合、殻壁202によって形成される殻201の断面形状は略正方形となっている。そして、緩衝部材200の両面に貼付される電極30は、この正方形の面に対して水圧に耐える強度を有していればよい。そのため、殻201の面積を小さくすればする程、電極30が受ける水圧に対する耐久性(強度)には余裕ができる。その結果、電極30を薄くすることができるため、酸素透過性が向上し、より効率よく電気エネルギーに変換が可能となる。
【0102】
緩衝部材200を構成する部材の材料は特に限定されないが、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。また、金属としては、ステンレス鋼及びアルミニウムの少なくとも一方を用いることが可能である。
【0103】
緩衝部材200の外観形状も特に限定されない。ただ、電極複合体100Dは、中空部材10の中空部1に緩衝部材200が挿入された状態で、酸素供給部4から酸素透過部5にかけて通気性を確保する必要がある。そのため、緩衝部材200自体も高い通気性を有する必要がある。また、緩衝部材200は、電極30からの水圧に対して高い耐久性を有する必要がある。このことから、緩衝部材200は、複数の微小な殻201を有する平板として構成されていることが好ましい。
【0104】
中空部材10と電極30との積層方向Xから見た場合の殻201の断面形状も特に限定されない。殻201の断面形状は、三角形、正方形、長方形、円形、六角形などでもよい。また、隣接する殻201の間の通気性が必要となるため、殻壁202には通気孔203が設けられているが、通気性が確保できるならば、通気孔203の形状、大きさ及び数も特に限定されない。
【0105】
ここで、
図14では、緩衝部材200Aを構成する殻201の断面形状が略正六角形の場合を示している。さらに
図15では、緩衝部材200Aを備えた中空部材10の外側に、電極30を設けた電極複合体100Eを示している。このようなハニカム構造の緩衝部材200Aは、外部からの水圧に対する耐久性が高いことから、殻壁202の数を減らして高い通気性を確保しつつも、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することをより抑制することができる。その結果、電極30を薄くすることもできるため、酸素透過性が向上し、より効率よく電気エネルギーに変換が可能となる。
【0106】
次に、緩衝部材200の製造方法について説明する。緩衝部材200の製造方法は上述の構成を有する緩衝部材200が製造できれば特に限定されないが、例えば次のように製造することができる。
【0107】
図16に示すように、まず、緩衝部材200をYZ平面に沿って二分割した形状である格子材210を作製する。格子材210の殻壁202には、二つの格子材210を重ね合わせることにより、円状の通気孔203が形成されるように、半円状の通気孔203が複数形成されている。このような格子材210の製造方法は特に限定されないが、例えば金型を用いて成形することにより得ることができる。
【0108】
そして、
図16(a)及び(b)に示すように、格子材210における半円状の通気孔203が形成された面からなるパーティングライン211が互いに接し合うように、二つの格子材210を付き合わせる。そして、付き合わせた格子材210の殻壁202同士を接合することにより、緩衝部材200を得ることができる。接合方法は特に限定されず、格子材210が樹脂からなる場合には溶着や圧着により接合することができる。また、接着剤等を用いて格子材210同士を接合してもよい。なお、
図16では、殻201の断面形状が正方形の場合を示しているが、三角形、長方形、円形、六角形などの場合も同様に形成することができる。
【0109】
次に、緩衝部材200の他の製造方法について説明する。
図17に示すように、まず、緩衝部材200の厚みt1と等しい幅を有する帯板220に対し、円形の通気孔203を等間隔に設ける。通気孔203は、例えば打ち抜き加工により形成することができる。
【0110】
さらに、
図17(b)に示すように、帯板220には、緩衝部材200の厚みt1と同じ間隔で、勘合用の切り欠き221を形成する。なお、切り欠き221の深さdは、緩衝部材200の厚みt1の略半分となっている。また、隣接する切り欠き221の中央に、通気孔203が設けられている。
【0111】
次に、
図17(a)に示すように、電極複合体の上下方向(鉛直方向Y)と水平方向(奥行方向Z)に沿って、複数の帯板220を、切り欠き221同士がかみ合うように嵌合して組み付ける。そして、中空部材10の中空部1の大きさに沿うように帯板220の枚数を調整することにより、格子状の緩衝部材200を形成することができる。
【0112】
緩衝部材200の強度を高めるために、必要に応じて、格子状に組み付けた帯板220の外周部の三面に、略U字状の外周補強部材222を設けることができる。なお、
図17(a)において、外周補強部材の一面(上面)のみが囲まれない構成となっているのは、外部の空気との通気性を確保するためである。
【0113】
図17に示す製造方法では、複数の帯板220を上下方向(鉛直方向Y)と水平方向(奥行方向Z)に組み付けることにより、緩衝部材200を形成している。しかし、帯板220は互いに分離している必要はなく、
図18に示すように、一本の帯板230を折り曲げた後に組み付けることにより、緩衝部材200を形成してもよい。
【0114】
具体的には、まず、折り曲げ加工が可能な材料を用いた帯板230に対し、
図17の帯板220と同様に、通気孔203及び切り欠き221を形成する。次に、
図18(a)及び(c)に示すように、一本の帯板230を切断することなく折り曲げ、電極複合体の上下方向(鉛直方向Y)の殻壁202を形成する。同様に、一本の帯板230を切断することなく折り曲げ、電極複合体の水平方向(奥行方向Z)の殻壁202を形成する。そして、
図18(b)に示すように、二本の帯板230を、切り欠き221同士がかみ合うように嵌合して組み付けることにより、格子状の緩衝部材200を形成することができる。なお、緩衝部材200の強度を高めるために、必要に応じて、格子状の帯板230の外周部の三面に、略U字状の外周補強部材222を設けることができる。
【0115】
このように、折り曲げ加工ができる材料を用いて緩衝部材を製造する場合、上下方向及び水平方向の帯板230が一本で形成できるため、部品点数を少なくすることが可能となる。さらに、二本の帯板230を付き合わせて一度で嵌合できるため、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0116】
(実施形態2)
図19(a)では、実施形態2に係る緩衝部材300を分解した状態で示している。緩衝部材300は、実施形態1と同様に、複数の微小な殻301を有している。殻301は殻壁302により囲繞されることで形成されており、さらに中空部材10と電極30との積層方向Xに沿って空気が流通できるように貫通している。そして、積層方向Xから見た場合の殻301の断面形状は、略正方形となっている。なお、実施形態1と異なり、殻壁302には、隣接する殻301の間を空気が流通できるような通気孔は形成されていない。
【0117】
緩衝部材300は、
図19(a)及び(b)に示すように、複数の殻壁302が格子状に配列した2つの格子材310を備えている。そして、2つの格子材310は、複数の間隙設置用支柱320を介在させることにより、一定の間隙330を設けて固定されている。間隙設置用支柱320には、格子材310の殻壁302における交差部分が挿入できるように、十字状の溝部321が裏表に形成されている。そのため、
図19(b)に示すように、格子材310の殻壁302が間隙設置用支柱320の溝部321に挿入することにより、2つの格子材310を一定の間隙330で固定することができる。なお、緩衝部材300の強度を高めるために、必要に応じて、格子材310の外周部の三面に、略U字状の外周補強部材322を設けることができる。
【0118】
このような緩衝部材300を用いて電極複合体を形成した場合、殻壁302における電極30と対向する面は、中空部1の内側から電極30を支持している。そのため、電極複合体を電解液に浸漬し、電極30に水圧がかかったとしても、緩衝部材300における殻壁302及び間隙設置用支柱320によって電極30が支持されることから、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。その結果、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5への通気性が十分に確保されるため、撥水層31への酸素供給性を向上させることが可能となる。さらに、実施形態2の緩衝部材300は、2つの格子材310の間に間隙330が設けられている。そのため、中空部材10の酸素供給部4から供給された空気は、間隙330及び殻301を通過して酸素透過部5へ到達するため、電極30へ空気を効率的に供給することが可能となる。
【0119】
緩衝部材300では、間隙設置用支柱320を格子材310の間に設置することにより、殻301の間の通気性を確保でき、さらに耐水圧性をも確保することができる。そして、通気性の必要量に応じて、
図19(c)に示すように、間隙設置用支柱320の長さを変えることで間隙330の大きさを調整できる。そのため、緩衝部材300の内部における通気量を容易に変更することが可能となる。
【0120】
実施形態2の緩衝部材300において、間隙設置用支柱320の位置及び個数は任意に設定することができる。例えば、電極複合体の水深に応じて必要な耐水圧性が変化するため、例えば水深が浅い部分は間隙設置用支柱320の数を減らし、水深が深い部分は間隙設置用支柱320の数を増やすことができる。
【0121】
図19(a)では、格子材310における殻301の断面形状が正方形の場合を示している。ただ、殻301の断面形状は正方形に限定されず任意の多角形とすることができ、例えば、三角形、長方形又は六角形等であってもよい。また、格子材310及び間隙設置用支柱320の材料は特に限定されないが、緩衝部材200と同様に、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。格子材310及び間隙設置用支柱320の製造方法も特に限定されないが、例えば金型を用いて成形することにより得ることができる。
【0122】
ここで、格子材310としては、
図19(a)に示すような帯板を格子状に組み合わせたものを使用することができる。ただ、格子材310は
図19に示すものに限定されず、例えば、
図20(a)に示すように、縦糸と横糸を格子状に組み合わせて網目を形成した網状部材も使用することができる。このような水圧に耐え得る面内剛性を十分に有する網状部材を使用し、間隙設置用支柱320を用いて通気性を確保した場合でも、殻壁302及び間隙設置用支柱320によって電極30が支持される。そのため、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。
【0123】
図19(a)では、間隙設置用支柱320に十字状の溝部321が形成されている。ただ、殻壁302の太さが溝部321の幅よりも大きい場合には、殻壁302を溝部321に挿入することができないため、
図19(b)に示すように、殻壁302と間隙設置用支柱320とを接合することが好ましい。接合方法は特に限定されず、格子材310及び間隙設置用支柱320が樹脂からなる場合には溶着や圧着により接合することができる。また、接着剤等を用いて、格子材310及び間隙設置用支柱320を接合してもよい。
【0124】
網状部材の材料は特に限定されないが、例えば、水圧に耐え得る剛性を備える樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。また、樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。また、金属としては、ステンレス鋼及びアルミニウムの少なくとも一方を用いることが可能である。網状部材としては、例えばタキロン株式会社製のトリカルネット(登録商標)を使用することができる。
【0125】
(実施形態3)
図21では、実施形態3に係る緩衝部材400を分解した状態で示している。緩衝部材400は、実施形態1及び実施形態2と同様に、複数の微小な殻401を有している。殻401は殻壁402により囲繞されることで形成されており、さらに中空部材10と電極30との積層方向Xに沿って空気が流通できるように貫通している。そして、積層方向Xから見た場合の殻401の断面形状は、略正方形となっている。なお、実施形態2と同様に、殻壁402には、隣接する殻401の間を空気が流通できるような通気孔は形成されていない。
【0126】
緩衝部材400は、
図21に示すように、複数の殻壁402が格子状に配列した2つの格子材410を備えている。そして、2つの格子材410は、複数の間隙設置用支柱420を介在させることにより、実施形態2と同様に、一定の間隙を設けて固定されている。間隙設置用支柱420は、YZ平面に沿った断面形状が十字状である柱状部材からなる。そして、間隙設置用支柱420には、格子材410の殻壁402における交差部分が挿入できるように、十字状の溝部421が裏表に形成されている。そのため、格子材410の殻壁402が間隙設置用支柱420の溝部421に挿入することにより、2つの格子材410を一定の間隙で固定することができる。
【0127】
このような緩衝部材400を用いて電極複合体を形成した場合、殻壁402における電極30と対向する面は、中空部1の内側から電極30を支持している。そのため、電極複合体を電解液に浸漬し、電極30に水圧がかかったとしても、緩衝部材400における殻壁402及び間隙設置用支柱420によって電極30が支持されることから、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。その結果、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5への通気性が十分に確保されるため、撥水層31への酸素供給性を向上させることが可能となる。
【0128】
さらに、実施形態3の緩衝部材400は、2つの格子材410の間に間隙が設けられている。つまり、緩衝部材400は、2つの格子材410の間に間隙設置用支柱420が装着された状態で、酸素供給部4から酸素透過部5にかけて通気性を確保する必要がある。そのため、2つの格子材410の間は、複数の間隙設置用支柱420によって間隙が設けられている。その結果、中空部材10の酸素供給部4から供給された空気は、間隙及び殻401を通過して酸素透過部5へ到達するため、電極30へ空気を効率的に供給することが可能となる。
【0129】
格子材410における殻401の断面形状は、実施形態2と同様に正方形に限定されず任意の多角形とすることができ、例えば、三角形、長方形又は六角形等であってもよい。また、格子材410において、中空部材10と電極30との積層方向Xから見た場合の殻401の面積も特に限定されず、水圧に対する耐久性を有するように任意の大きさとすることができる。さらに、格子材410及び間隙設置用支柱420の材料も特に限定されないが、実施形態2と同様に、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。
【0130】
実施形態3の緩衝部材400において、間隙設置用支柱420の位置及び個数は任意に設定することができる。例えば、電極複合体の水深に応じて必要な耐圧性が変化するため、例えば水深が浅い部分は間隙設置用支柱420の数を減らし、水深が深い部分は間隙設置用支柱420の数を増やすことができる。
【0131】
ここで、格子材410は、複数枚の格子材をYZ方向に並べた状態で一体化した平板であってもよい。具体的には、
図22(a)に示すように、四枚の格子材410を組み合わせるような場合は、四枚の格子材410の四隅を突き合わせた後に、間隙設置用支柱420の溝部421に、突き合わせた部分の殻壁402を差し込む。これにより、四枚の格子材410を一体的に固定することができる。なお、
図22(b)に示すように、間隙設置用支柱420の溝部421の幅wは、格子材410における殻壁402の厚みt2の2倍より若干大きくなっている。
【0132】
また、二枚の格子材410を組み合わせるような場合も同様に、二枚の格子材410の二辺を並置した後に、間隙設置用支柱420の溝部421に殻壁402を差し込むことで、二枚の格子材410を一体的に固定することができる。そして、間隙設置用支柱420を用いて一体化した格子材を、
図21のように間隙設置用支柱420を介して積層することにより、緩衝部材400を得ることができる。
【0133】
このように、実施形態3では、複数枚の格子材410をYZ方向に並べた状態で一体化することができる。そのため、中空部材10の中空部1の大きさに合わせて格子材410を組み合わせればよいことから、緩衝部材400のモジュール化を図ることができる。つまり、例えば、中空部材10の中空部1における酸素透過部5の面積が1m
2を超える場合、単一の格子材410を二枚積層して緩衝部材400を得ようとすると、面積が1m
2を超える格子材を用意しなければならず、製造工程が複雑化してしまう。しかし、中空部材10の中空部1の大きさに合わせて複数枚の格子材410を組み合わせる場合には、面積が大きな格子材を用意する必要がないため、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0134】
(実施形態4)
図23では、実施形態4に係る緩衝部材500を分解した状態で示している。緩衝部材500は、実施形態1〜3と同様に、複数の微小な殻501を有している。殻501は殻壁502により囲繞されることで形成されており、さらに中空部材10と電極30との積層方向Xに沿って空気が流通できるように貫通している。そして、積層方向Xから見た場合の殻501の断面形状は、略正方形となっている。なお、実施形態2及び3と同様に、殻壁502には、隣接する殻501の間を空気が流通できるような通気孔は形成されていない。
【0135】
緩衝部材500は、
図23(a)に示すように、複数の殻壁502が格子状に配列した2つの格子材510,511を備えている。そして、2つの格子材510,511は、複数の間隙設置用支柱520を介在させることにより、実施形態2及び3と同様に、一定の間隙を設けて固定されている。
【0136】
実施形態4では、間隙設置用支柱520が格子材511と一体成形されている。具体的には、
図23(b)に示すように、間隙設置用支柱520は、格子材510の殻壁502が挿入する十字状の溝部521を有している。そして、間隙設置用支柱520における溝部521が設けられている部分は、円柱状となっている。間隙設置用支柱520は、格子材511に近接するにしたがって次第に縮径しており、間隙設置用支柱520における最も縮径した部分は格子材511の殻壁502に接合されている。そして、格子材510の殻壁502が間隙設置用支柱520の溝部521に挿入することにより、2つの格子材510,511を一定の間隙で固定することができる。
【0137】
格子材510,511における殻501の断面形状は、実施形態2及び3と同様に、正方形に限定されず任意の多角形とすることができ、例えば、三角形、長方形又は六角形等であってもよい。また、格子材510,511において、中空部材10と電極30との積層方向Xから見た場合の殻501の面積も特に限定されず、水圧に対する耐久性を有するように任意の大きさとすることができる。さらに、格子材510,511及び間隙設置用支柱520の材料は特に限定されないが、実施形態2及び3と同様に、例えば樹脂、金属、ガラス及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが可能である。
【0138】
このような緩衝部材500を用いて電極複合体を形成した場合、殻壁502における電極30と対向する面は、中空部1の内側から電極30を支持している。そのため、電極複合体を電解液に浸漬し、電極30に水圧がかかったとしても、緩衝部材500における殻壁502及び間隙設置用支柱520によって電極30が支持されることから、電極30が中空部材10の内部空間に湾曲することが抑制される。その結果、中空部材10の酸素供給部4から酸素透過部5への通気性が十分に確保されるため、電極30の撥水層31への酸素供給性を向上させることが可能となる。さらに、実施形態4の緩衝部材500は、2つの格子材510,511の間に間隙が設けられている。そのため、中空部材10の酸素供給部4から供給された空気は、間隙及び殻501を通過して酸素透過部5へ到達するため、電極30へ空気を効率的に供給することが可能となる。
【0139】
実施形態4では、格子材510には間隙設置用支柱520を一体成形せず、格子材511に間隙設置用支柱520を一体成形している。そのため、部品点数を削減し、緩衝部材500の組立工程を簡略化することが可能となる。また、間隙設置用支柱520における溝部521を形成した表面に、格子材510の殻壁502を誘い込むような隙間を設けておけば、格子材510,511の位置決め機能も同時に兼ね備えることが可能である。なお、このような格子材510,511の製造方法は特に限定されないが、例えば金型を用いて成形することにより得ることができる。
【0140】
ここで、
図23に示す緩衝部材500では、間隙設置用支柱520を有しない格子材510と、間隙設置用支柱520を一体成形した格子材511の二種類の部品を作製する必要がある。しかし、例えば
図24に示すように、格子材512の一方の面に対し、間隙設置用支柱520を、対称軸530を軸として線対称となるように一体成形する。そして、2つの格子材512を間隙設置用支柱520が内側に配置されるように積層することで、
図23と同様の緩衝部材500を得ることができる。この場合には、一種類の格子材512を二枚重ね合わせることで緩衝部材が得られるため、部品の種類の削減を図ることができる。また、格子材512を形成するための金型も一種類で済むため、製造コストの削減も図ることができる。
【0141】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。なお、本明細書において、支持部材は緩衝部材の一部を構成する。そのため、正極へ十分に酸素を供給するための空間が確保されるならば、緩衝部材は支持部材のみからなる構成であってもよい。
【0142】
特願2015−114565号(出願日:2015年6月5日)の全内容は、ここに援用される。