(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合成樹脂フィルムの前記中間領域と前記ガラスベースとの界面の前記少なくとも一部は、前記ガラスベースの前記外縁に沿って延びる2本の平行なストライプ領域を含む、請求項1に記載の製造方法。
前記合成樹脂フィルムの前記中間領域と前記ガラスベースとの界面の前記少なくとも一部は、前記ストライプ領域に平行な少なくとも1本の中間ストライプ領域を含む、請求項2に記載の製造方法。
前記合成樹脂フィルムの前記中間領域と前記ガラスベースとの界面の前記少なくとも一部における前記レーザ光の照射強度と、前記合成樹脂フィルムの前記複数のフレキシブル基板領域と前記ガラスベースとの前記界面に対する前記レーザ光の照射強度との差異は、50mJ/cm2以上である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照しながら、本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法および製造装置の実施形態を説明する。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0023】
<積層構造体>
図1Aおよび
図1Bを参照する。本実施形態におけるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法では、まず、
図1Aおよび
図1Bに例示される積層構造体100を用意する。
図1Aは、積層構造体100の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示される積層構造体100のB−B線断面図である。
図1Aおよび
図1Bには、参考のため、互い直交するX軸、Y軸、およびZ軸を有するXYZ座標系が示されている。
【0024】
積層構造体100は、ガラスベース(マザー基板またはキャリア)10と、それぞれがTFT層20AおよびOLED層20Bを含む複数の機能層領域20と、ガラスベース10と複数の機能層領域20との間に位置してガラスベース10に固着している合成樹脂フィルム(以下、単に「樹脂膜」と称する)30と、複数の機能層領域20を覆う保護シート50を備えている。積層構造体100は、更に、複数の機能層領域20と保護シート50との間において、機能層領域20の全体を覆うガスバリア膜40を備えている。積層構造体100は、バッファ層などの図示されていない他の層を有していてもよい。
【0025】
積層構造体100の第1の表面100aはガラスベース10によって規定され、第2の表面100bは保護シート50によって規定されている。ガラスベース10および保護シート50は、製造工程中に一時的に用いられる部材であり、最終的なフレキシブルOLEDデバイスを構成する要素ではない。
【0026】
図示されている樹脂膜30は、複数の機能層領域20をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域30dと、個々のフレキシブル基板領域30dを囲む中間領域30iとを含む。フレキシブル基板領域30dと中間領域30iは、連続した1枚の樹脂膜30の異なる部分にすぎず、物理的に区別される必要はない。言い換えると、樹脂膜30のうち、各機能層領域20の真下に位置している部分がフレキシブル基板領域30dであり、その他の部分が中間領域30iである。
【0027】
複数の機能層領域20のそれぞれは、最終的にフレキシブルOLEDデバイスのパネルを構成する。言い換えると、積層構造体100は、分割前の複数のフレキシブルOLEDデバイスを1枚のガラスベース10が支持している構造を有している。各機能層領域20は、例えば厚さ(Z軸方向サイズ)が数十μm、長さ(X軸方向サイズ)が12cm程度、幅(Y軸方向サイズ)が7cm程度のサイズを持つ形状を有している。これらのサイズは、必要な表示画面の大きさに応じて任意の大きさに設定され得る。各機能層領域20のXY平面内における形状は、図示されている例において、長方形であるが、これに限定されない。各機能層領域20のXY平面内における形状は、正方形、多角形、または、輪郭に曲線を含む形状を有していてもよい。
【0028】
図1Aに示されるように、フレキシブル基板領域30dは、フレキシブルOLEDデバイスの配置に対応して、行および列状に、二次元的に配列されている。中間領域30iは、直交する複数のストライプから構成され、格子パターンを形成している。ストライプの幅は、例えば1〜4mm程度である。樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、最終製品の形態において、個々のフレキシブルOLEDデバイスの「フレキシブル基板」として機能する。これに対して、樹脂膜30の中間領域30iは、最終製品を構成する要素ではない。
【0029】
本開示の実施形態において、積層構造体100の構成は、図示されている例に限定されない。1枚のガラスベース10に支持されている機能層領域20の個数は、任意である。
【0030】
なお、各図面に記載されている各要素のサイズまたは比率は、わかりやすさの観点から決定されており、実際のサイズまたは比率を必ずしも反映していない。
【0031】
本開示の製造方法に用いられ得る積層構造体100は、
図1Aおよび
図1Bに示される例に限定されない。
図1Cおよび
図1Dは、それぞれ、積層構造体100の他の例を示す断面図である。
図1Cに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、樹脂膜30よりも外側に拡がっている。
図1Dに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、かつ、ガラスベース10よりも外側に拡がっている。後述するように、積層構造体100からガラスベース10が隔離された後、積層構造体100は、剛性を有しないフレキシブルな薄いシート状の構造物になる。保護シート50は、ガラスベース10の剥離を行う工程、および、剥離後の工程において、機能層領域20が外部の装置または器具などに衝突したり、接触したりしたとき、機能層領域20を衝撃および摩擦などから保護する役割を果たす。保護シート50は、最終的に積層構造体100から剥がし取られるため、保護シート50の典型例は、接着力が比較的小さな接着層(離型剤の塗布層)を表面に有するラミネート構造を有している。積層構造体100のより詳細な説明は、後述する。
【0032】
<OLEDデバイスの分割>
本実施形態のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法によれば、上記の積層構造体100を用意する工程を実行した後、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する工程を行う。
【0033】
図2は、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する位置を模式的に示す断面図である。照射位置は、個々のフレキシブル基板領域30dの外周に沿っている。
図2において、矢印で示される位置を切断用のレーザビームで照射し、積層構造体100のうちでガラスベース10以外の部分を複数のOLEDデバイス1000とその他の不要部分とに切断する。切断により、個々のOLEDデバイス1000と、その周囲との間に数十μmから数百μmの隙間が形成される。このような切断は、レーザビームの照射に代えて、ダイシングソーによって行うことも可能である。切断後も、OLEDデバイス1000およびその他の不要部分は、ガラスベース10に固着されている。
【0034】
レーザビームによって切断を行う場合、レーザビームの波長は、赤外、可視光、紫外のいずれの領域にあってもよい。ガラスベース10に及ぶ切断の影響を小さくすると言う観点からは、波長が緑から紫外域に含まれるレーザビームが望ましい。例えば、Nd:YAGレーザ装置によれば、2次高調波(波長532nm)、または3次高調波(波長343nmまたは355nm)を利用して切断を行うことができる。その場合、レーザ出力を1〜3ワットに調整して毎秒500mm程度の速度で走査すれば、ガラスベース10に損傷を与えることなく、ガラスベース10に支持されている積層物をOLEDデバイスと不要部分とに切断(分割)することができる。
【0035】
本開示の実施形態によれば、上記の切断を行うタイミングが従来技術に比べて早い。樹脂膜30がガラスベース10に固着した状態で切断が実行されるため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔が狭くても、高い正確度および精度で切断の位置合わせが可能になる。このため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔を短縮して、最終的に不要になる無駄な部分を少なくできる。また、従来技術では、ガラスベース10から剥離した後、樹脂膜30の表面(剥離表面)の全体を覆うように、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドなどが張り付けられることがある。そのような場合、切断により、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドもOLEDデバイス1000を覆う部分と、その他の不要な部分とに分割される。不要な部分は無駄に廃棄されることになる。これに対して、本開示の製造方法によれば、後に説明するように、このような無駄の発生を抑制できる。
【0036】
<剥離光照射>
樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割した後、剥離光照射装置により、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面をレーザ光で照射する工程を行う。
【0037】
図3Aは、ステージ210が積層構造体100を支持する直前の状態を模式的に示す図である。本実施形態におけるステージ210は、吸着のための多数の孔を表面に有する吸着ステージである。積層構造体100は、積層構造体100の第2の表面100bがステージ210の表面210Sに対向するように配置され、ステージ210によって支持される。
【0038】
図3Bは、ステージ210が積層構造体100を支持している状態を模式的に示す図である。ステージ210と積層構造体100との配置関係は、図示される例に限定されない。例えば、積層構造体100の上下が反転し、ステージ210が積層構造体100の下方に位置していてもよい。
【0039】
図3Bに示される例において、積層構造体100は、ステージ210の表面210Sに接しており、ステージ210は積層構造体100を吸着している。
【0040】
次に、
図3Cに示されるように、樹脂膜30とガラスベース10との界面をレーザ光(剥離光)216で照射する。
図3Cは、図の紙面に垂直な方向に延びるライン状に成形された剥離光216によって積層構造体100のガラスベース10と樹脂膜30との界面を照射している状態を模式的に示す図である。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10と樹脂膜30との界面において、剥離光216を吸収して分解(消失)する。剥離光216で上記の界面をスキャンすることにより、樹脂膜30のガラスベース10に対する固着の程度を低下させる。剥離光216の波長は、典型的には紫外域にある。剥離光216の波長は、剥離光216がガラスベース10には、ほとんど吸収されず、できるだけ樹脂膜30によって吸収されるように選択される。ガラスベース10の光吸収率は、例えば波長が343〜355nmの領域では10%程度だが、308nmでは30〜60%に上昇し得る。
【0041】
以下、本実施形態における剥離光の照射を詳しく説明する。
【0042】
本実施形態におけるLLO装置は、剥離光216を出射するラインビーム光源を備えている。ラインビーム光源は、レーザ装置と、レーザ装置から出射されたレーザ光をラインビーム状に成形する光学系とを備えている。本開示では、剥離光照射装置を「レーザリフトオフ(LLO装置)」と呼ぶ。
【0043】
図4Aは、LLO装置220のラインビーム光源214から出射されたラインビーム(剥離光216)で積層構造体100を照射する様子を模式的に示す斜視図である。わかりやすさのため、ステージ210、積層構造体100、およびラインビーム光源214は、図のZ軸方向に離れた状態で図示されている。剥離光216の照射時、積層構造体100の第2の表面100bはステージ210に接している。
【0044】
LLO装置220は、ラインビーム光源214およびステージ210の動作を制御するコントローラ300を備えている。コントローラ300は、ステージ210の位置に応じてラインビーム光源214から放射される剥離光の照射強度を変化させる。コントローラ300は、公知の構成を有する汎用的なコンピュータであり得る。コントローラ300は、例えばマイクロプロセッサおよび不揮発性メモリを備え、不揮発性メモリにはマイクロプロセッサに与える指令を含むプログラムが記憶されている。
【0045】
図4Bは、剥離光216の照射時におけるステージ210の位置を模式的に示している。
図4Bには表れていないが、積層構造体100はステージ210によって支持されている。
【0046】
剥離光216を放射するレーザ装置の例は、エキシマレーザなどのガスレーザ装置、YAGレーザなどの固体レーザ装置、半導体レーザ装置、および、その他のレーザ装置を含む。XeClのエキシマレーザ装置によれば、波長308nmのレーザ光が得られる。ネオジウム(Nd)がドープされたイットリウム・四酸化バナジウム(YVO4)、またはイッテルビウム(Yb)がドープされたYVO4をレーザ発振媒体として使用する場合は、レーザ発振媒体から放射されるレーザ光(基本波)の波長が約1000nmであるため、波長変換素子によって340〜360nmの波長を有するレーザ光(第3次高調波)に変換してから使用され得る。
【0047】
樹脂膜30とガラスベース10との界面に犠牲層(金属または非晶質シリコンから形成された薄層)を設けてもよい。アッシュの生成を抑制するという観点からは、波長が340〜360nmのレーザ光よりも、エキシマレーザ装置による波長308nmのレーザ光を利用することが、より有効である。また、犠牲層を設けることはアッシュ生成の抑制に顕著な効果がある。
【0048】
剥離光216の照射位置は、ガラスベース10に対して相対的に移動し、剥離光216のスキャンが実行される。LLO装置220内において、剥離光を出射する光源214および光学装置(不図示)が固定され、積層構造体100が移動してもよいし、積層構造体100が固定され、光源214が移動しても良い。本実施形態では、ステージ210が
図4Bに示される位置から
図4Cに示される位置に移動する間、剥離光216の照射が行われる。すなわち、X軸方向に沿ったステージ210の移動により、剥離光216のスキャンが実行される。
【0049】
次に
図5Aから
図5Dを参照する。
図5Aから
図5Dは、剥離光216のスキャンの様子を模式的に示す斜視図である。これらの図におけるZ軸の方向は、
図4Aから
図4CにおけるZ軸の方向から反転している。
【0050】
図5Aおよび
図5Dでは、剥離光216を示す光線が破線の矢印によって表されている。これに対して、
図5Bおよび
図5Cでは、剥離光216を示す光線は実線の矢印によって表されている。破線の矢印は、実線の矢印に比べて照射強度が相対的に低い光線を示している。
【0051】
本実施形態における剥離光216は、ガラスベース10の外縁に平行な方向(この例ではY軸の方向)に延びるラインビームである。このラインビームは、
図4Aなどに示されているラインビーム光源214から出射される。積層構造体100における剥離光216の照射位置は、時間の経過に伴って、
図5A、
図5B、
図5C、および
図5Dに示されるように、X軸の正方向に移動する。
【0052】
次に
図6を参照する。
図6は、剥離光216の照射強度のY軸方向分布の例を模式的に示す図である。
図6におけるグラフの横軸は、照射領域のY軸座標値を示し、縦軸は照射強度を示している。照射強度の単位は、単位面積あたりのエネルギ密度(例えば[mJ/cm
2])によって示される。
図6のグラフでは、照射強度の具体的な数値は記載されていない。照射強度は、例えば0mJ/cm
2以上500mJ/cm
2以下の範囲内における値を示す。
図6におけるグラフ中の実線は、照射強度のY軸方向の分布I(Y)を示している。一点鎖線は、剥離に必要な照射強度の閾値レベルThを示している。閾値レベルThは、例えば250〜300mJ/cm
2である。この閾値レベルThよりも低い照射強度の剥離光が照射された領域では、樹脂膜30による剥離光の吸収量が不充分になるため、その領域の樹脂膜30はガラスベース10から剥離しないで固着した状態を維持する。
【0053】
図6におけるグラフの上方には、参考のため、YZ面に平行な積層構造体100の断面が示されている。ガラスベース10は位置Y0から位置Y5まで広がっている。左側のOLEDデバイス1000は、位置Y1から位置Y2までの領域にあり、右側のOLEDデバイス1000は位置Y3から位置Y4までの領域にある。言い換えると、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、位置Y1から位置Y2までの領域と、位置Y3から位置Y4までの領域に相当する。一方、樹脂膜30の中間領域30iは、位置Y0から位置Y1までの領域、位置Y2から位置Y3までの領域、および、位置Y4から位置Y5までの領域に相当する。
【0054】
図6の例において、剥離光の照射強度分布I(Y)は、位置Y0から位置Y5までの領域よりも広い領域において、閾値レベルThを超えている。剥離光の照射強度分布I(Y)は、少なくとも位置Y1から位置Y2までの領域および位置Y3から位置Y4までの領域において、閾値レベルThを超える必要がある。言い換えると、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面は、閾値レベルThを超える照射強度の剥離光で照射される必要がある。本実施形態における剥離光は、ガラスベース10のY軸方向サイズよりも長いラインビームである。スキャン中に剥離光の照射強度分布I(Y)が示す最低値は、典型的には0mJ/cm
2であるが、閾値レベルThよりも低ければ、0mJ/cm
2を超える値であってもよい。
【0055】
図6の例において、剥離光の照射強度分布I(Y)は、直線的であるが、本開示の実施形態は、このような例に限定されない。例えば
図7に示される例のように、剥離光の照射強度分布I(Y)の一部または全部が曲線であってもよい。非晶質半導体をラインビーム状のレーザ光照射によって加熱して結晶化する場合、結晶性を均一化するため、照射強度分布は一様であることが望まれる。これに対して、本実施形態における剥離を行う場合、剥離が必要な界面における剥離光の照射強度が閾値レベルThを超えていれば、ラインビームの一様性は必要ない。
【0056】
図6および
図7の例においては、樹脂膜30の中間領域30iとガラスベース10との界面も、閾値レベルThを超える照射強度の剥離光で照射されている。樹脂膜30の中間領域30iとガラスベース10との界面(例えば位置Y0から位置Y1までの範囲の界面)は、閾値レベルThよも低い照射強度の剥離光で照射されてもよい。
【0057】
次に
図8を参照する。
図8は、剥離光216の照射強度のX軸方向(走査方向)分布の例を模式的に示す図である。
図8におけるグラフの横軸は、照射位置のX軸座標値を示し、縦軸は照射強度を示している。
図8におけるグラフ中の実線は、照射強度のX軸方向の分布I(X)を示している。一点鎖線は、剥離に必要な照射強度の閾値レベルThを示している。
【0058】
図8におけるグラフの上方には、参考のため、XZ面に平行な積層構造体100の断面が示されている。この断面は、
図6の断面に直交する関係にある。ガラスベース10は位置X0から位置X5まで広がっている。図中の左側のOLEDデバイス1000は、位置X1から位置X2までの領域にあり、右側のOLEDデバイス1000は位置X3から位置X4までの領域にある。言い換えると、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、位置X1から位置X2までの領域と、位置X3から位置X4までの領域に相当する。一方、樹脂膜30の中間領域30iは、位置X0から位置X1までの領域(幅:W1)、位置X2から位置X3までの領域(幅:W3)、および、位置X4から位置X5までの領域(幅:W3)に相当する。なお、
図8における樹脂膜30の左端に位置する中間領域30i(幅:W1)には、照射強度が閾値レベルThよりも低い領域(幅:S1)が形成されている。一方、
図8における樹脂膜30の右端に位置する中間領域30iの(幅:W2)には、照射強度が閾値レベルThよりも低い他の領域(幅:S2)が形成されている。ここで、W1>S1、および、W2>S2が成立している。幅S1は幅W1の50%以上、幅S2は幅W2の50%以上であることが好ましい。
【0059】
照射強度のX軸方向分布I(X)は、剥離光のスキャン全体(総和または積分値)を示している。例えば剥離光の照射位置(ラインビームの中心線の位置)が位置X0から位置X1まで移動している時、位置X1から位置X5までの領域は剥離光で照射されておらず、その時の位置X1から位置X5までの領域における剥離光の照射強度は当然にゼロである。
【0060】
剥離光216のライン幅(短軸寸法、X軸方向サイズ)は、例えば0.2mm(=200μm)程度であり得る。この寸法は、ある時刻における、樹脂膜30とガラスベース10との界面における照射領域の大きさを規定する。剥離光216は、パルス状または連続波として照射され得る。パルス状の照射は、例えば毎秒200回程度の周波数(1秒間のショット数)で行われ得る。パルス状の剥離光216を用いる場合、連続する2回のショットで照射領域が部分的に重なるように走査速度が決定される。例えば、剥離光216のライン幅(短軸寸法、X軸方向サイズ)が0.2mmの場合において、照射位置がX軸方向に沿って毎秒20mm移動するとき、毎秒100回未満のショット数であれば、各ショット間に隙間が発生し得る。従って、毎秒100回を超えるショット数が必要になる。
【0061】
照射位置の位置決め精度は、ステージ210の機械的な送り精度に異存する。YAGレーザ装置を用いる場合、照射光216のライン幅(短軸寸法、X軸方向サイズ)は例えば40μmに設定され得る。ステージ210を20μm単位でステップ的に移動させると、連続する2回のショットによる照射領域のオーバーラップ量を50%にすることができる。これに対して、ステージ210を30μm単位でステップ的に移動させると、連続する2回のショットによる照射領域のオーバーラップ量を75%にすることができる。一般に、照射光216のライン幅(短軸寸法、X軸方向サイズ)は、レーザ光源の種類および光学系によって決まるが、照射領域のオーバーラップ量を制御すれば、レーザ光源の出力そのものを変調することなく、照射強度を変化させることができる。
【0062】
剥離光の照射位置をステップ送りする場合、「ラインビーム光源214のステップ移動」と「剥離光のパルス照射」とを繰り返すことができる。この場合、剥離光の照射は、ステージ210に対するラインビーム光源214の相対的な移動が停止しているときに実行され得る。停止している物体をレーザ光で照射することは、移動している物体をレーザ光で照射することに比べて、照射強度を目標値に調整することが容易である。例えば、停止位置における照射パルスの回数または照射時間を増減することにより、照射強度を調整することができる。
【0063】
照射位置の移動速度(走査速度)が所定値に固定されているとき、毎秒のショット数を増減することにより、照射強度を変調することができる。逆に、毎秒のショット数が固定されているとき、照射位置の移動速度(走査速度)を増減することにより、照射強度を変調することができる。他のパラメータ、例えばラインビーム光源214の出力、または、ラインビーム光源214から積層構造体100までの光学距離などを変化させることにより、照射強度を変調することが可能である。なお、ラインビーム光源214とガラスベース10との間にメカニカルシャッタを配置し、このシャッタによって剥離光の光路を遮断しても低照射領域を形成することが可能である。
【0064】
図8からわかるように、この例では、樹脂膜30の中間領域30iとガラスベース10との界面の少なくとも一部に対する剥離光の照射強度が、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面に対する剥離光の照射強度よりも低下している。この「少なくとも一部」の領域を「低照射領域」または「非剥離領域」と呼んでもよい。
図8の例において、低照射領域は、ガラスベース10の外縁に沿って延びる2本の平行なストライプ領域(幅S1の領域と幅S2の領域)を含んでいる。2本のストライプ領域は、それぞれ、
図5Aおよび
図5Dに示される弱い剥離光216の照射によって形成され得る。この2本のストライプ領域では、剥離光216の照射強度が閾値レベルThよりも低いため、樹脂膜30の中間領域30iがガラスベース10に固着したままになる。
【0065】
図9は、剥離光216のスキャンの途中において、照射強度を一時的に閾値レベルThよりも低くする例を示している。具体的には、位置X2から位置X3までの領域の一部(幅:S3)で、照射強度が閾値レベルThよりも低下している。この例において、樹脂膜30の中間領域30iとガラスベース10との界面の「低照射領域」は、2本のストライプ領域に加えて、これらに平行な1本の中間ストライプ領域(幅:S3)を含んでいる。これらのストライプ領域の幅S1、S2、S3は、いずれも、例えば1mm以上、ある例においては3mm以上である。
【0066】
図8および
図9の例では、X軸の方向に沿って2個のOLEDデバイス1000が配列されている。Nを3以上の整数として、N個のOLEDデバイス1000がX軸の方向に沿って配列されている場合、隣り合う2個のOLEDデバイス1000に挟まれる中間領域30iが形成するストライプの総数はN−1個である。N−1個のストライプの全てに低照射領域を設ける必要はない。また、1本のストライプを構成する中間領域30iについて複数の低照射領域を設けてもよい。
【0067】
図8および
図9の例では、幅S1の低照射領域、および幅S2の低照射領域は、いずれも、樹脂膜30の外縁に達しているが、本開示の実施形態は、この例に限定されない。例えば
図10Aおよび
図10Bに示すように、低照射領域の形態は多様であり得る。
図10Aおよび
図10Bは、それぞれ、剥離光の照射強度のX軸方向分布の更に他の例を模式的に示す図である。これらの図には、
図8の左側に位置するOLEDデバイス1000を囲む中間領域30iとガラスベース10との界面における照射強度の変調パターンが例示されている。
【0068】
図10Aに示される例において、樹脂膜30の外縁に沿って延びるストライプ状の低照射領域(幅:S1)は、樹脂膜30の外縁に達していない。剥離光の照射強度は、剥離光がガラスベース10を照射する前から閾値レベルThを超えていてもよい。また、
図10Aに示される位置X1から位置X3までの領域におけるように、照射強度は徐々に変化してもよい。照射強度が徐々に変化する場合、「低照射領域」の幅(走査方向のサイズ)は、照射強度が閾値レベルThよりも低い領域の幅と定義することができる。
【0069】
図10Bに示される例において、低照射領域は、相対的に幅の狭い複数本のストライプによって構成されている。このような低照射領域は、例えば、パルス状の剥離光を照射するとき、連続するショット間で照射領域が重なり合わないようにすれば実現できる。
【0070】
なお、照射強度を相対的に低下させることにより、樹脂膜30の中間領域30iの少なくとも一部をガラスベース10に固着させるには、「その少なくとも一部」における照射強度を閾値レベルThよりも低くすることが望ましい。しかしながら、閾値レベルThよりも低くしない場合でも、剥離するべき領域における照射強度よりも低い照射強度を実現すことにより、中間領域30iはガラスベース10に残りやすくなる。剥離するべき領域における照射強度と低照射領域における照射強度の差が50mJ/cm
2以上あれば、充分な効果が得られる。
【0071】
本実施形態では、剥離光は、ガラスベース10の外縁に平行な方向(第1の方向)に延びるラインビームであり、走査方向は第1の方向に直交する第2の方向である。しかし、第1の方向と第2の方向とは直交している必要はなく、交差していればよい。
【0072】
<リフトオフ>
図11Aは、剥離光の照射後、積層構造体100がステージ210に接触した状態を記載している。この状態を維持したまま、ステージ210からガラスベース10までの距離を拡大する。このとき、本実施形態におけるステージ210は積層構造体100のOLEDデバイス部分を吸着している。
【0073】
不図示の駆動装置がガラスベース10を保持してガラスベース10の全体を矢印Lの方向に移動させることにより、剥離(リフトオフ)が実行される。ガラスベース10は、不図示の吸着ステージによって吸着した状態で吸着ステージとともに移動し得る。ガラスベース10の移動の方向は、積層構造体100の第1の表面100aに垂直である必要はなく、傾斜していてもよい。ガラスベース10の移動は直線運動である必要はなく、回転運動であってもよい。また、ガラスベース10が不図示の保持装置または他のステージによって固定され、ステージ210が図の上方に移動してもよい。
【0074】
図11Bは、こうして分離された積層構造体100の第1部分110と第2部分120とを示す断面図である。
図12は、積層構造体100の第2部分120を示す斜視図である。積層構造体100の第1部分110は、ステージ210に接触した複数のOLEDデバイス1000を含む。各OLEDデバイス1000は、機能層領域20と、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとを有している。これに対して、積層構造体100の第2部分120は、ガラスベース10と、樹脂膜30の中間領域30iとを有している。樹脂膜30の中間領域30iは、少なくとも一部の低照射領域において、ガラスベース10に固着している。このため、樹脂膜30の中間領域30iの全体がガラスベース10に付着して状態でステージ210から離れていく。
【0075】
図12の例では、剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方が、ステージ210を備えるLLO装置220によって実行されている。本開示の実施形態は、このような例に限定されない。剥離光の照射プロセスは、ステージ210を備える剥離光照射装置によって実行し、剥離プロセスは、ステージ210とは異なる他のステージを備える他の装置を用いて実行してもよい。この場合、剥離光の照射後に、積層構造体100をステージ210から不図示の他のステージに移動させる必要がある。同一のステージを用いて剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方を実行すれば、ステージ間で積層構造体を移動させる工程を省くことができる。
【0076】
上述のように、本実施形態において積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離する工程は、ステージ210が積層構造体100の第2の表面100bを吸着している状態で実行される。この分離工程で重要な点は、積層構造体100のうち、OLEDデバイス1000を構成しない不要な部分がガラスベース10とともにステージ210から離れることにある。本実施形態では、
図2に示される切断工程、すなわち、積層構造体100のうちでガラスベース10以外の部分を複数のOLEDデバイス1000とその他の不要部分とに切断する工程を剥離光の照射前に行う。このように切断工程を剥離光照射工程の前に行うことが、
図11Bおよび
図12に示される分離を実現するために有効である。また、OLEDデバイス1000を構成しない不要な部分をガラスベース10に残すため、その不要な部分の一部はガラスベース10に固着するように剥離光の照射強度を変調している。
【0077】
<剥離後の工程>
図13は、ステージ210に吸着された状態にある積層構造体100の第1部分110(OLEDデバイス1000)と、ステージ210から離れた位置にある第2部分120(ガラスベース10と付着物)とを示す斜視図である。積層構造体100のうち、OLEDデバイス1000を構成しない不要な部分がガラスベース10に付着している。
【0078】
図14は、ステージ210に吸着された状態にある積層構造体100の第1部分110を示す斜視図である。ステージ210に支持された積層構造体100の第1部分110は、行および列状に配列された複数のOLEDデバイス1000である。
図14の例においては、樹脂膜30のうち、フレキシブル基板領域30dの表面(剥離表面)30sが露出している。
【0079】
図15は、ステージ210がOLEDデバイス1000を吸着している状態を示す断面図である。この断面は、ZX面に平行な断面である。
図15のZ軸の方向は、
図13および
図14のZ軸の方向から反転している。
【0080】
ステージ210に接触した複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対しては、順次または同時に、様々な処理を実行することができる。
【0081】
OLEDデバイス1000に対する「処理」は、複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに、誘電体および/または導電体のフィルムを貼ること、クリーニングまたはエッチングを行うこと、ならびに、光学部品および/または電子部品を実装することを含み得る。具体的には、個々のOLEDデバイス1000のフレキシブル基板領域30dに対して、例えば、偏光板、封止フィルム、タッチパネル、放熱シート、電磁シールド、ドライバ集積回路などの部品が実装され得る。シート状の部品には、光学的、電気的、または磁気的な機能をOLEDデバイス1000に付加し得る機能性フィルムが含まれる。
【0082】
複数のOLEDデバイス1000がステージ210に吸着した状態で支持されているため、各OLEDデバイス1000に対する様々な処理が効率的に実行できる。
【0083】
ガラスベース10から剥離された樹脂膜30の表面30sは、活性であるため、表面30sを保護膜で覆ったり、疎水化の表面処理を行ったりした後、その上に各種の部品を実装してもよい。
【0084】
図16は、シート状の部品(機能性フィルム)60が実装された後、OLEDデバイス1000がステージ210から取り外された状態を模式的に示す断面図である。
【0085】
従来技術によれば、OLEDデバイス1000を分割する前に樹脂膜をガラスベースから剥離するため、その後の処理を行うときには、多数のOLEDデバイス1000が一枚の樹脂膜に固着した状態にある。そのため、個々のOLEDデバイス1000に対して効率的な処理を実行することが困難である。また、シート状の部品を取り付けた後に、OLEDデバイス1000を分割する場合、シート状部品のうち、隣接する2個のOLEDデバイス1000の中間領域に位置する部分は無駄になる。
【0086】
これに対して、本開示の実施形態によれば、ガラスベース10から剥離した後も多数のOLEDデバイス1000がステージ210上に整然と配列されているため、個々のOLEDデバイス1000に対して、順次または同時に、様々な処理を効率的に実行することが可能になる。
【0087】
積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離する工程を行った後、
図17に示すように、ステージ210に接触した複数のOLEDデバイス1000に他の保護シート(第2の保護シート)70を固着する工程を更に実行してもよい。第2の保護シート70は、ガラスベース10から剥離した樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dの表面を一時的に保護する機能を発揮し得る。第2の保護シート70は、前述の保護シート50と同様のラミネート構造を有し得る。保護シート50を第1の保護シート50と呼ぶことができる。
【0088】
第2の保護シート70は、ステージ210に接触した複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対して上記の様々な処理を実行した後、複数のOLEDデバイス1000に固着されてもよい。
【0089】
第2の保護シート70を付着した後、OLEDデバイス1000に対するステージ210による吸着を停止すると、第2の保護シート70に固着された状態にある複数のOLEDデバイス1000をステージ210から離すことができる。その後、第2の保護シート70は、複数のOLEDデバイス1000のキャリアとして機能し得る。これは、ステージ210から第2の保護シート70へのOLEDデバイス1000の転写である。第2の保護シート70に固着された状態にある複数のOLEDデバイス1000のそれぞれに対して、順次または同時に、様々な処理を実行してもよい。
【0090】
図18は、複数のOLEDデバイス1000にそれぞれ実装される複数の部品(機能性フィルム)80を載せたキャリアシート90を示す断面図である。このようなキャリアシート90を矢印Uの方向に移動させることにより、各部品80をOLEDデバイス1000に取り付けることが可能である。部品80の上面は、OLEDデバイス1000に強く付着する接着層を有している。一方、キャリアシート90と部品80との間は、比較的弱く付着している。このようなキャリアシート90を用いることにより、部品80の一括的な「転写」が可能になる。このような転写は、複数のOLEDデバイス1000がステージ210に規則的に配置された状態で支持されているため、容易に実現する。
【0091】
積層構造体
以下、
図2の分割を行う前における積層構造体100の構成をより詳しく説明する。
【0092】
まず、
図19Aを参照する。
図19Aは、表面に樹脂膜30が形成されたガラスベース10を示す断面図である。ガラスベース10は、プロセス用の支持基板であり、その厚さは、例えば0.3〜0.7mm程度であり得る。
【0093】
本実施形態における樹脂膜30は、例えば厚さ5μm以上100μm以下のポリイミド膜である。ポリイミド膜は、前駆体であるポリアミド酸またはポリイミド溶液から形成され得る。ポリアミド酸の膜をガラスベース10の表面に形成した後に熱イミド化を行ってもよいし、ポリイミドを溶融または有機溶媒に溶解したポリイミド溶液からガラスベース10の表面に膜を形成してもよい。ポリイミド溶液は、公知のポリイミドを任意の有機溶媒に溶解して得ることができる。ポリイミド溶液をガラスベース10の表面10sに塗布した後、乾燥することによってポリイミド膜が形成され得る。
【0094】
ポリイミド膜は、ボトムエミッション型のフレキシブルディプレイの場合、可視光領域の全体で高い透過率を実現することが好ましい。ポリイミド膜の透明度は、例えばJIS K7105−1981に従った全光線透過率によって表現され得る。全光線透過率は80%以上、または85%以上に設定され得る。一方、トップエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合には透過率の影響は受けない。
【0095】
樹脂膜30は、ポリイミド以外の合成樹脂から形成された膜であってもよい。ただし、本開示の実施形態では、薄膜トランジスタを形成する工程において、例えば350℃以上の熱処理を行うため、この熱処理によって劣化しない材料から樹脂膜30は形成される。
【0096】
樹脂膜30は、複数の合成樹脂層の積層体であってもよい。本実施形態のある態様では、フレキシブルディスプレイの構造物をガラスベース10から剥離するとき、ガラスベース10を透過する紫外線レーザ光を樹脂膜30に照射するレーザリフトオフが行われる。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10との界面において、このような紫外線レーザ光を吸収して分解(消失)する必要がある。また、例えば、ある波長帯域のレーザ光を吸収してガスを発生する犠牲層をガラスベース10と樹脂膜30との間に配置しておけば、そのレーザ光の照射により、樹脂膜30をガラスベース10から容易に剥離することができる。犠牲層を設けると、アッシュの生成が抑制されるという効果も得られる。
【0097】
<研磨処理>
樹脂膜30の表面30x上にパーティクルまたは凸部などの研磨対象(ターゲット)が存在する場合、研磨装置によってターゲットを研磨し平坦化してもよい。パーティクルにどの異物の検出は、例えばイメージセンサによって取得した画像を処理することによって可能である。研磨処理後、樹脂膜30の表面30xに対する平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理は、平坦性を向上させる膜(平坦化膜)を樹脂膜30の表面30xに形成する工程を含む。平坦化膜は樹脂から形成されている必要はない。
【0098】
<下層ガスバリア膜>
次に、樹脂膜30上にガスバリア膜を形成してもよい。ガスバリア膜は、種々の構造を有し得る。ガスバリア膜の例は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの膜である。ガスバリア膜の他の例は、有機材料層および無機材料層が積層された多層膜であり得る。このガスバリア膜は、機能層領域20を覆う後述のガスバリア膜から区別するため、「下層ガスバリア膜」と呼んでもよい。また、機能層領域20を覆うガスバリア膜は、「上層ガスバリア膜」と呼ぶことができる。
【0099】
<機能層領域>
以下、TFT層20AおよびOLED層20Bなどを含む機能層領域20、ならびに上層ガスバリア膜40を形成する工程を説明する。
【0100】
まず、
図19Bに示されるように、複数の機能層領域20をガラスベース10上に形成する。ガラスベース10と機能層領域20との間には、ガラスベース10に固着している樹脂膜30が位置している。
【0101】
機能層領域20は、より詳細には、下層に位置するTFT層20Aと、上層に位置するOLED層20Bとを含んでいる。TFT層20AおよびOLED層20Bは、公知の方法によって順次形成される。TFT層20Aは、アクティブマトリクスを実現するTFTアレイの回路を含む。OLED層20Bは、各々が独立して駆動され得るOLED素子のアレイを含む。TFT層20Aの厚さは例えば4μmであり、OLED層20Bの厚さは例えば1μmである。
【0102】
図20は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイにおけるサブ画素の基本的な等価回路図である。ディスプレイの1個の画素は、例えばR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)などの異なる色のサブ画素によって構成され得る。
図20に示される例は、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、保持容量CH、およびOLED素子ELを有している。選択用TFT素子Tr1は、データラインDLと選択ラインSLとに接続されている。データラインDLは、表示されるべき映像を規定するデータ信号を運ぶ配線である。データラインDLは選択用TFT素子Tr1を介して駆動用TFT素子Tr2のゲートに電気的に接続される。選択ラインSLは、選択用TFT素子Tr1のオン/オフを制御する信号を運ぶ配線である。駆動用TFT素子Tr2は、パワーラインPLとOLED素子ELとの間の導通状態を制御する。駆動用TFT素子Tr2がオンすれば、OLED素子ELを介してパワーラインPLから接地ラインGLに電流が流れる。この電流がOLED素子ELを発光させる。選択用TFT素子Tr1がオフしても、保持容量CHにより、駆動用TFT素子Tr2のオン状態は維持される。
【0103】
TFT層20Aは、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、データラインDL、および選択ラインSLなどを含む。OLED層20BはOLED素子ELを含む。OLED層20Bが形成される前、TFT層20Aの上面は、TFTアレイおよび各種配線を覆う層間絶縁膜によって平坦化されている。OLED層20Bを支持し、OLED層20Bのアクティブマトリクス駆動を実現する構造体は、「バックプレーン」と称される。
【0104】
図20に示される回路要素および配線の一部は、TFT層20AおよびOLED層20Bのいずれかに含まれ得る。また、
図20に示されている配線は、不図示のドライバ回路に接続される。
【0105】
本開示の実施形態において、TFT層20AおよびOLED層20Bの具体的な構成は多様であり得る。これらの構成は、本開示の内容を制限しない。TFT層20Aに含まれるTFT素子の構成は、ボトムゲート型であってもよいし、トップゲート型であってもよい。また、OLED層20Bに含まれるOLED素子の発光は、ボトムエミション型であってもよいし、トップエミション型であってもよい。OLED素子の具体的構成も任意である。
【0106】
TFT素子を構成する半導体層の材料は、例えば、結晶質のシリコン、非晶質のシリコン、酸化物半導体を含む。本開示の実施形態では、TFT素子の性能を高めるために、TFT層20Aを形成する工程の一部が350℃以上の熱処理工程を含む。
【0107】
<上層ガスバリア膜>
上記の機能層を形成した後、
図19Cに示されるように、機能層領域20の全体をガスバリア膜(上層ガスバリア膜)40によって覆う。上層ガスバリア膜40の典型例は、無機材料層と有機材料層とが積層された多層膜である。なお、上層ガスバリア膜40と機能層領域20との間、または上層ガスバリア膜40の更に上層に、粘着膜、タッチスクリーンを構成する他の機能層、偏光膜などの要素が配置されていてもよい。上層ガスバリア膜40の形成は、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術によって行うことができる。封止信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate)は、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下であることが求められている。本開示の実施形態によれば、この基準を達成している。上層ガスバリア膜40の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0108】
図21は、上層ガスバリア膜40が形成された段階における積層構造体100の上面側を模式的に示す斜視図である。1個の積層構造体100は、ガラスベース10に支持された複数のOLEDデバイス1000を含んでいる。
図21に示される例において、1個の積層構造体100は、
図1Aに示される例よりも多くの機能層領域20を含んでいる。前述したように、1枚のガラスベース10に支持される機能層領域20の個数は任意である。
【0109】
<保護シート>
次に
図19Dを参照する。
図19Dに示されるように、積層構造体100の上面に保護シート50を張り付ける。保護シート50は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの材料から形成され得る。前述したように、保護シート50の典型例は、離型剤の塗布層を表面に有するラミネート構造を有している。保護シート50の厚さは、例えば50μm以上200μm以下であり得る。
【0110】
こうして作製された積層構造体100を用意した後、前述の製造装置(LLO装置220)を用いて本開示による製造方法を実行することができる。
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法によれば、積層構造体(100)の樹脂膜(30)の中間領域(30i)とフレキシブル基板領域(30d)とを分割した後、フレキシブル基板領域(30d)とガラスベース(10)との界面をレーザ光で照射する。積層構造体(100)をステージ(210)に接触させた状態で、積層構造体(100)を第1部分(110)と第2部分(120)とに分離する。第1部分(110)は、ステージ(210)に接触した複数のOLEDデバイス(1000)を含み、OLEDデバイス(1000)は、複数の機能層領域(20)とフレキシブル基板領域(30d)を有する。第2部分(120)は、ガラスベース(10)と中間領域(30i)とを含む。レーザ光で照射する工程は、中間領域(30i)とガラスベース(10)との界面の少なくとも一部に対するレーザ光の照射強度を、フレキシブル基板領域(30d)とガラスベース(10)との界面に対するレーザ光の照射強度よりも低下させる工程を含む。