(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記減圧雰囲気中において前記合成樹脂フィルムの前記表面に保護層を形成する工程は、物理蒸着法により、誘電体および/または導電体の層を前記合成樹脂フィルムの前記表面上に形成する工程を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面をレーザ光で照射する工程を含む、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面でブレードをスライドさせる工程を含む、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、イオナイザによって前記ドライガス雰囲気中にイオンを供給する工程を含む、請求項1から10のいずれかに記載の製造方法。
前記減圧雰囲気中において前記合成樹脂フィルムの前記表面に前記保護層を形成する工程を行った後、大気雰囲気中において、前記積層構造体の前記第1部分に対して電子部品または光学部品の実装を行う、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
前記合成樹脂フィルムの表面を前記ドライガス雰囲気中に露出させる工程を行う前に、保護シートを前記機能層領域に粘着させる工程を含む、請求項1から12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によると、従来の製造方法によって製造されたフレキシブルOLEDデバイスには、耐湿性が充分ではないという課題がある。
【0008】
本開示は、上記の課題を解決することができる、フレキシブルOLEDデバイスの製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法は、例示的な実施形態において、ガラスベース;TFT層およびOLED層を含む機能層領域;および、前記ガラスベースと前記機能層領域との間に位置して前記ガラスベースに固着している合成樹脂フィルム;を備える積層構造体を用意する工程と、露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気中において、前記積層構造体を、前記機能層領域および前記合成樹脂フィルムを含む第1部分と前記ガラスベースを含む第2部分とに分離し、前記合成樹脂フィルムの表面を前記ドライガス雰囲気中に露出させる工程と、前記積層構造体の前記第1部分を前記ドライガス雰囲気中から減圧雰囲気中に移送し、前記減圧雰囲気中において前記合成樹脂フィルムの前記表面に保護層を形成する工程とを含む。
【0010】
ある実施形態において、前記減圧雰囲気中において前記合成樹脂フィルムの前記表面に保護層を形成する工程は、物理蒸着法により、誘電体および/または導電体の層を前記合成樹脂フィルムの前記表面上に形成する工程を含む。
【0011】
ある実施形態において、前記保護層は金属層を含む。
【0012】
ある実施形態において、前記金属層は、アルミニウムまたは銅から形成されている。
【0013】
ある実施形態において、前記合成樹脂フィルムの前記表面の面粗度に応じて異なる厚さに前記金属層を堆積する。
【0014】
ある実施形態において、前記金属層の厚さは5nm以上200nm以下である。
【0015】
ある実施形態において、前記金属層の厚さは200nm超1μm以下である。
【0016】
ある実施形態において、前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面をレーザ光で照射する工程を含む。
【0017】
ある実施形態において、前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面でブレードをスライドさせる工程を含む。
【0018】
ある実施形態において、前記積層構造体を前記第1部分と前記第2部分とに分離する工程は、イオナイザによって前記ドライガス雰囲気中にイオンを供給する工程を含む。
【0019】
ある実施形態において、前記減圧雰囲気中で前記合成樹脂フィルムの前記表面に前記保護層を形成する工程を行った後、大気雰囲気中において、前記積層構造体の前記第1部分に対して電子部品または光学部品の実装を行う。
【0020】
ある実施形態において、前記合成樹脂フィルムの表面を前記ドライガス雰囲気中に露出させる工程を行う前に、保護シートを前記機能層領域に粘着させる工程を含む。
【0021】
ある実施形態において、前記機能層領域は、複数であり、前記合成樹脂フィルムは、前記複数の機能層領域をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域と、前記複数のフレキシブル基板領域を囲む中間領域とを含んでおり、前記合成樹脂フィルムの前記表面に前記保護層を形成する工程を行った後、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域と前記複数のフレキシブル基板領域のそれぞれとを分割する工程を含む。
【0022】
ある実施形態において、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域と前記複数のフレキシブル基板領域のそれぞれとを分割する工程は、前記合成樹脂フィルムの表面を前記ドライガス雰囲気中に露出させる工程の前に実行する。
【0023】
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造装置は、例示的な実施形態において、ガラスベースと、TFT層およびOLED層を含む機能層領域と、前記ガラスベースと前記機能層領域との間に位置して前記ガラスベースに固着している合成樹脂フィルムとを備える積層構造体を支持するステージを有するリフトオフ装置であって、露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気を形成し、前記ドライガス雰囲気中において、前記積層構造体を、前記機能層領域および前記合成樹脂フィルムを含む第1部分と前記ガラスベースを含む第2部分とに分離し、前記合成樹脂フィルムの表面を前記ドライガス雰囲気中に露出させるリフトオフ装置と、減圧雰囲気を形成し、前記積層構造体の前記第1部分を大気に暴露することなく前記リフトオフ装置から受け取り、前記減圧雰囲気中において前記合成樹脂フィルムの前記表面に保護層を形成する表面処理装置とを備える。
【0024】
ある実施形態において、前記ドライガス雰囲気中にイオンを供給するイオナイザを備える。
【0025】
ある実施形態において、前記リフトオフ装置は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面をレーザ光で照射する光源を有している。
【0026】
ある実施形態において、前記リフトオフ装置は、前記合成樹脂フィルムと前記ガラスベースとの界面でブレードをスライドさせる機構を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態によれば、フレキシブルOLEDデバイスの耐湿性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
従来、剥離光が照射されてガラスベースから剥離した樹脂膜の表面は、その後、大気に露出していた。本発明者らの実験によると、剥離直後の樹脂膜の表面は、短時間でも大気に触れることにより、大気中の水蒸気を吸着および吸収し、その後のOLEDデバイスの信頼性に影響を与え得ることがわかった。特にポリイミド膜は吸湿性が高い。厚さが約15μmのポリイミド膜は、温度が23℃、相対湿度が50%の大気雰囲気中に置かれた場合、数分から数十分の間に大気中の水蒸気を吸収して反りが生じ、ポリイミド膜の内部に水分が浸透していく。フレキシブル基板として機能するポリイミド膜に浸透した水分は、OLEDデバイスの動作中に水分の供給源として機能し得るため、OLEDデバイスの信頼性を劣化させ、製品寿命を短くする可能性がある。
【0030】
本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法および製造装置では、このような課題を解決するため、ドライ雰囲気中で樹脂膜を剥離した後、大気に露出させることなく樹脂膜の表面処理を実行することにより、フレキシブルOLEDデバイスの信頼性を高め、製品寿命を延ばすことができる。
【0031】
以下、本開示の実施形態を説明する。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0032】
実施形態
図面を参照しながら、本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法および製造装置の概略構成を説明する。
【0033】
図1Aおよび
図1Bを参照する。本実施形態におけるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法では、まず、
図1Aおよび
図1Bに例示される積層構造体100を用意する。
図1Aは、積層構造体100の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示される積層構造体100のB−B線断面図である。
図1Aおよび
図1Bには、参考のため、互い直交するX軸、Y軸、およびZ軸を有するXYZ座標系が示されている。
【0034】
積層構造体100は、ガラスベース(マザー基板またはキャリア)10と、それぞれがTFT層20AおよびOLED層20Bを含む複数の機能層領域20と、ガラスベース10と複数の機能層領域20との間に位置してガラスベース10に固着している合成樹脂フィルム(以下、単に「樹脂膜」と称する)30とを備えている。積層構造体100は、更に複数の機能層領域20の全体を覆うガスバリア膜40および保護シート50を備えている。積層構造体100は、バッファ層などの図示されていない他の層を有していても良い。
【0035】
積層構造体100の第1の表面100aはガラスベース10によって規定され、第2の表面100bは保護シート50によって規定されている。ガラスベース10および保護シート50は、製造工程中に一時的に用いられる部材であり、最終的なフレキシブルOLEDデバイスを構成する要素ではない。
【0036】
図示されている樹脂膜30は、複数の機能層領域20をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域30dと、個々のフレキシブル基板領域30dを囲む中間領域30iとを含む。フレキシブル基板領域30dと中間領域30iは、連続した1枚の樹脂膜30の異なる部分にすぎず、物理的に区別される必要はない。言い換えると、樹脂膜30のうち、各機能層領域20の真下に位置している部分がフレキシブル基板領域30dであり、その他の部分が中間領域30iである。
【0037】
複数の機能層領域20のそれぞれは、最終的にフレキシブルOLEDデバイスのパネルを構成する。言い換えると、積層構造体100は、分割前の複数のフレキシブルOLEDデバイスを1枚のガラスベースが支持している構造を有している。各機能層領域20は、例えば厚さ(Z軸方向サイズ)が数十μm、長さ(X軸方向サイズ)が12cm程度、幅(Y軸方向サイズ)が7cm程度のサイズを持つ形状を有している。これらのサイズは、必要な表示画面の大きさに応じて任意の大きさに設定され得る。各機能層領域20のXY平面内における形状は、図示されている例において、長方形であるが、これに限定されない。各機能層領域20のXY平面内における形状は、正方形、多角形、または、輪郭に曲線を含む形状を有していても良い。
【0038】
図1Aに示されるように、フレキシブル基板領域30dは、行および列状に、二次元的に配列されている。中間領域30iは、直交する複数のストライプから構成され、格子パターンを形成している。ストライプの幅は、例えば1〜4mm程度である。樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、最終製品の形態において、個々のフレキシブルOLEDデバイスの「フレキシブル基板」として機能する。これに対して、樹脂膜30の中間領域30iは、最終製品を構成する要素ではない。
【0039】
本開示の実施形態において、積層構造体100の構成は、図示されている例に限定されない。1枚のガラスベース10に支持されている機能層領域20の個数は、複数である必要はなく、単数であってもよい。機能層領域20が単数である場合、樹脂膜30の中間領域30iは、1個の機能層領域20の周りを囲む単純なフレームパターンを形成する。
【0040】
なお、各図面に記載されている各要素のサイズまたは比率は、わかりやすさの観点から決定されており、実際のサイズまたは比率を必ずしも反映していない。
【0041】
本開示の製造方法に用いられ得る積層構造体100は、
図1Aおよび
図1Bに示される例に限定されない。
図1Cおよび
図1Dは、それぞれ、積層構造体100の他の例を示す断面図である。
図1Cに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、樹脂膜30よりも外側に拡がっている。
図1Dに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、かつ、ガラスベース10よりも外側に拡がっている。後述するように、積層構造体100からガラスベース10が隔離された後、積層構造体100は、剛性を有しないフレキシブルな薄いシート状の構造物になる。保護シート50は、ガラスベース10の剥離を行う工程、および、剥離後の工程において、機能層領域20が外部の装置または器具などに衝突したり、接触したりしたとき、機能層領域20を衝撃および摩擦などから保護する役割を果たす。保護シート50は、最終的に積層構造体100から剥がし取られるため、保護シート50の典型例は、接着力が比較的小さな接着層(離型剤の塗布層)を表面に有するラミネート構造を有している。
【0042】
積層構造体100のより詳細な説明は、後述する。
【0043】
図2を参照する。
図2は、本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造装置200の構成例を模式的に示す図である。図示されている製造装置200は、リフトオフ装置210と、表面処理装置220とを備える。
図2に示される例において、リフトオフ装置210と表面処理装置220とは、搬送空間230によって連結されている。搬送空間230の一部または全部は、表面処理装置220のロードロックチャンバとして機能する。
【0044】
リフトオフ装置210は、積層構造体100を支持するステージ212を有している。
図3Aは、ステージ212が積層構造体100を支持する直前の状態を模式的に示す図である。積層構造体100は、ステージ212に積層構造体100の第2の表面100bが対向するように配置され、ステージ212によって支持される。
【0045】
図3Bは、ステージ212が積層構造体100を支持している状態を模式的に示す図である。ステージ212と積層構造体100との配置関係は、図示される例に限定されない。例えば、積層構造体100の上下が反転し、ステージ212が積層構造体100の下方に位置していてもよい。
【0046】
ステージ212が積層構造体100を支持する態様も任意である。ステージ212の表面が真空チャックによって積層構造体100を吸着していてもよいし、ステージ212に取り付けられた固定具(不図示)が積層構造体100を機械的に保持していてもよい。
図3Bに示される例において、積層構造体100の第2の表面100bは、ステージ212に接しており、ステージ212に吸着している。この例において、ステージ212は「吸着ステージ」として機能する。
【0047】
リフトオフ装置210は、露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気Dを形成し、ドライガス雰囲気D中において、積層構造体100を、後述するように2個の部分(
図3Dの第1部分110および第2部分120)に分離する。
【0048】
図3Cは、図の紙面に垂直な方向に延びるライン状に成形されたレーザ光(剥離光)によって積層構造体100のガラスベース10と樹脂膜30との界面を照射している状態を模式的に示す図である。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10と樹脂膜30との界面において、剥離光を吸収して分解(消失)する。剥離光で上記の界面をスキャンすることにより、樹脂膜30のガラスベース10に対する固着の程度を低下させる。剥離光の波長は、典型的には紫外域にある。剥離光の波長は、ガラスベース10には、ほとんど吸収されず、できれだけ樹脂膜30によって吸収されるように選択される。ガラスベース10の光吸収率は、例えば波長が343〜355nmの領域では10%程度だが、308nmでは30〜60%に上昇し得る。
【0049】
リフトオフ装置210がレーザ光(剥離光)の照射によってリフトオフを行うレーザリフトオフ(LLO)装置である場合、リフトオフ装置210は、ラインビーム光源214を備えている。ラインビーム光源214は、レーザ装置と、レーザ装置から出射されたレーザ光をラインビーム状に成形する光学系とを備えている。
【0050】
図4は、ラインビーム光源214から出射されたラインビームで積層構造体100を照射する様子を模式的に示す斜視図である。わかりやすさのため、ステージ212、積層構造体100、およびラインビーム光源214は、図のZ軸方向に離れた状態で図示されている。剥離光の照射時、積層構造体100はステージ212に接している。
【0051】
レーザ装置の例は、エキシマレーザなどのガスレーザ装置、YAGレーザなどの固体レーザ装置、半導体レーザ装置、および、その他のレーザ装置を含む。XeClのエキシマレーザ装置によれば、波長308nmのレーザ光が得られる。ネオジウム(Nd)がドープされたイットリウム・四酸化バナジウム(YVO4)、またはイッテルビウム(Yb)がドープされたYVO4をレーザ発振媒体として使用する場合は、レーザ発振媒体から放射されるレーザ光(基本波)の波長が約1000nmであるため、波長変換素子によって340〜360nmの波長を有するレーザ光(第3次高調波)に変換してから使用され得る。
【0052】
剥離光の照射は、例えば250〜300mJ/cm
2のエネルギ照射密度で実行され得る。ラインビーム状の剥離光は、ガラスベース10を横切るサイズ、すなわちガラスベースの1辺の長さを超えるライン長さ(長軸寸法、
図4のY軸方向サイズ)を有する。ライン長さは、例えば750mm以上であり得る。一方、剥離光のライン幅(短軸寸法、
図4のX軸方向サイズ))は、例えば0.2mm程度であり得る。これらの寸法は、樹脂膜30とガラスベース10との界面における照射領域のサイズである。剥離光は、パルス状または連続波として照射され得る。パルス状の照射は、例えば毎秒200回程度の周波数で行われ得る。
【0053】
剥離光の照射位置は、ガラスベース10に対して相対的に移動し、剥離光のスキャンが実行される。リフトオフ装置210内において、剥離光を出射する光源および光学装置が固定され、積層構造体100が移動してもよいし、積層構造体100が固定され、光源が移動しても良い。
図4に示される例において、剥離光のスキャンはX軸方向に沿って実行される。
【0054】
図3Dは、剥離光の照射後に、積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離した状態を模式的に示す図である。第1部分110は、機能層領域20および樹脂膜30を含み、第1部分110から最終的なフレキシブルOLEDデバイスが作製される。これに対して、第2部分120は、ガラスベース10を含む。第2部分120の実質的な構成要素はガラスベース10であるが、ガラスベース10に付着した樹脂膜30の一部が第2部分に含まれていてもよい。
【0055】
積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離することは、言い換えると、積層構造体100からガラスベース10を剥離することである。この分離(剥離)により、樹脂膜30の表面(剥離表面)30sはドライガス雰囲気D中に露出する。前述したように、ポリイミド膜などの樹脂膜30は高い吸湿性を有しているが、露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気Dの水蒸気圧は極めて低い。具体的には、露点が−50℃以下のとき、1立方メートルの空間内に存在し得る水蒸気の質量は0.0382グラム以下である。すなわち、ドライガス雰囲気Dの絶対湿度は0.0382g/m
3以下である。ドライガス雰囲気Dの温度が25℃、圧力が1気圧であれば、相対湿度は0.2%RH以下である。このように乾燥した雰囲気ガスであれば、剥離直後における樹脂膜30の表面30sであっても、水蒸気をほとんど吸収しない。
【0056】
ドライガス雰囲気Dを形成するため、リフトオフ装置210には、
図2に示されるようにドライガス供給装置240が接続されている。ドライガスを構成する気体の典型例は、窒素である。ドライガス雰囲気の一部または全部は、アルゴンなどの不活性ガスであってもよいし、酸素および二酸化炭素などの大気を構成する気体成分を含んでいてもよい。ドライガス供給装置240は、不図示の除湿ロータを備えており、外部から除湿前のガスまたは大気の供給を得て除湿を実行する。ドライガス供給装置240の構成は、露点が−50℃以下であるドライガスを生成できれば、特に限定されない。
【0057】
リフトオフ装置210は、レーザ光(剥離光)の照射によってリフトオフを行うLLO装置である必要はない。リフトオフ装置210は、樹脂膜30とガラスベース10との界面にブレード(刃)を挿入して界面に沿ってブレードスライドさせる機械剥離(メカニカルリフトオフ:MLO)機構を有していても良い。ブレードによって剥離を行った場合、樹脂膜30の表面30sの面粗度は比較的低く、剥離光の照射によって剥離を行った場合に比べて、より平滑な表面30sが得られる。剥離光の照射によって剥離を行った場合、樹脂膜30の表面30sには、レーザアブレーションの残渣(アッシュ)が存在するため、面粗度が高くなる傾向がある。面粗度が高いほど、表面積が増大し、表面30sは活性になるため、大気中の水蒸気を吸着しやすい欠点がある。
【0058】
なお、レーザ光の照射によって剥離を行う場合でも、樹脂膜30とガラスベース10との間に剥離層(犠牲層)を配置しておけば、剥離後における樹脂膜30の表面30sの平滑性を改善できる。樹脂膜30の表面30sの平滑性が高いほど、形成すべき保護層を薄くできる利点がある。
【0059】
ドライガス雰囲気D中において剥離を行うとき、雰囲気が乾燥しているため、静電気が発生しやすい。除電のため、リフトオフ装置210は、イオナイザを備えていてもよい。イオナイザは、静電気除去装置として機能する。積層構造体100の第1部分110と第2部分120との間で徐々に剥離面が広がるとき、樹脂膜30がガラスベースから剥がれる位置(剥がれ開始位置)で最も静電気が発生しやすい。ガラスベース10が大型である場合、剥がれ開始位置の移動に応じてイオナイザの位置を移動させることが効果的である。
【0060】
搬送空間230の内部は、リフトオフ装置210の内部と同様に、露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気Dを形成し得る。搬送空間230の内部は、積層構造体100の第1部分110を表面処理装置220の内部に移送するとき、いったん、減圧される。搬送空間230とリフトオフ装置210との間、および、搬送空間230と表面処理装置220との間には、開閉する仕切りが設けられている。リフトオフ装置210および表面処理装置220のそれぞれは、一時的に搬送空間230から仕切られた空間を形成し得る。
【0061】
図2の表面処理装置220は、搬送空間230を介して積層構造体100の第1部分110を受け取る。表面処理装置220は、減圧雰囲気Rを形成し、減圧雰囲気R中において第1部分110の樹脂膜30に対して表面処理を実行する。この表面処理の具体例のひとつは、金属の蒸着である。
【0062】
図5Aは、蒸着源224から金属の原子または原子団が蒸発する様子を模式的に示す図である。積層構造体100の第1部分110は、ステージ222によって支持されている。積層構造体100の第1部分110は、ガラスベース10から離れて剛性を失った状態にある。このため、ステージ222は、例えば保護シート50の端部に水平方向に張力を付与することにより、積層構造体100の第1部分110を水平に保持する機構を有していてもよい。また、ステージ222は、静電チャックまたは粘着性のある部材(粘着材など)によって保護シート50に密着して積層構造体100の第1部分110を保持してもよい。
【0063】
ステージ222は、リフトオフ装置210のステージ212とは別のステージであってもよいし、リフトオフ装置210から搬送空間230を通って表面処理装置220内に搬送されてきたステージ212であってもよい。同一ステージを用いる場合、ステージ212(222)の例は、静電チャックまたは粘着材などによって第1部分110を保持するステージである。一方、それぞれで異なるステージを用いる場合、ステージ212の例は、吸着ステージであるが、ステージ222の例は、静電チャックまたは粘着材などによって第1部分110を保持するステージである。
【0064】
ステージ222とステージ212とが別々のステージである場合、
図3Dに示されるようにガラスベース10が取り除かれて剛性を失った積層構造体100の第1部分110を、ステージ212からステージ222に移動させる必要がある。このような移動も、大気に露出しないドライガス雰囲気D中で実行される必要がある。効率的な処理を行うためには、リフトオフ装置210のステージ212を、積層構造体100の第1部分110を支持した状態のまま、搬送空間230を介して表面処理装置220まで移動させ、表面処理のステージ222として用いることが望ましい。
【0065】
蒸着源224から蒸発して樹脂膜30の表面30sに衝突した金属の原子または原子団は、樹脂膜30の表面30sに堆積する。
【0066】
図5Bは、樹脂膜30の表面30sに堆積した金属が保護層60を形成している状態を模式的に示す図である。保護層60の厚さは、堆積レートおよび堆積時間の積によって調整される。
【0067】
図2に示されるように、表面処理装置220には、減圧雰囲気Rを形成するため、真空ポンプなどの減圧装置250が接続されている。真空蒸着によって保護層60を形成する場合、減圧雰囲気Rの圧力は、例えば10
-4Paから10
-1Paである。
【0068】
表面処理装置220の一例は、抵抗加熱式または電子ビーム加熱式の真空蒸着機である。抵抗加熱式による場合、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属を樹脂膜30の表面30sに堆積して保護層60を形成することができる。抵抗加熱式は、装置が簡便であり、堆積レートも高いが、前述したような比較的低い温度で十分な蒸気圧が得られる材料に限られる。そのため、融点が1500℃を超える高融点金属は、抵抗加熱式によって蒸着することが困難である。電子ビーム加熱式によれば、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、またはタングステン(W)などの高融点金属を樹脂膜30の表面30sに堆積して保護層60を形成することができる。また、堆積レートの制御性にも優れる。
【0069】
樹脂膜30の表面30sに形成する保護層60の厚さは、樹脂膜30の面粗度に応じて決定され得る。樹脂膜30の面粗度が低く、平滑である場合、保護層60の厚さは例えば5nm以上200nm以下である。これに対し、樹脂膜30の面粗度が高く、表面30sが粗い場合、保護層60の厚さは200nm超1μm以下であり得る。保護層60の厚さは、樹脂膜30の吸湿を抑制するという観点からは、上記の範囲に設定され得るが、更に放熱性を高めるという機能を付加する場合は、例えば1μm超5μm以下の範囲に設定され得る。放熱性を向上させるためには、熱伝導率の高い金属、例えばAg、Cu、Alなどの金属から保護層60を形成することが好ましい。Cuの熱伝導率は403W/m・Kであり、Alの熱伝導率(236W/m・K)よりも高い。抵抗加熱式の真空蒸着機を用いる場合は、融点が相対的に低く、価格的にも低廉なAlおよび/またはCuから保護層60を形成することが容易である。
【0070】
表面処理装置220の他の例は、スパッタ装置である。Alおよび/またはCuの層を樹脂膜30の表面30sに堆積する方法は、スパッタ法であってもよい。スパッタ法によれば、真空蒸着よりも、歪みやばらつきが少ない均一な成膜を実現しやすい。また、スパッタ法によれば、真空蒸着法よりも、ターゲット原子(分子)の運動エネルギが大きいため、剥がれにくい保護層60を形成しやすい。
【0071】
樹脂膜30の表面30sに形成する保護層60は、金属の層に限定されない。保護層60は、樹脂膜30の表面30s上に形成された、種々の誘電体および/または導電体の層であり得る。保護層60は多層膜であってもよい。保護層60は、吸湿性に悪影響を与えない限り、例えば、塗布されたフッ素樹脂またはシリコーン樹脂の層を表面に有していてもよい。このような樹脂の層は撥水性を有するため、樹脂膜30の耐湿性が向上し得る。
【0072】
保護層60は、樹脂膜30の改質された表面層であってもよい。樹脂膜30の表面30sを例えば炭化水素系のガスプラズマに曝すことにより、樹脂膜30の表面30sに疎水性を与えてもよい。また、樹脂膜30の表面30sにアルゴンイオンを注入することにより、樹脂膜30の表面30sを改質して吸湿性を低下させてもよい。改質された表面30sは、それ自体で樹脂膜30の「保護層」として機能する。
【0073】
上記のような表面処理を行って樹脂膜30の表面30sに「保護層」を形成すると、樹脂膜30の吸湿性が低下するため、ガラスベース10から剥離された後、大気に暴露されても、樹脂膜30が原因となってOLEDデバイスの信頼性を低下するという課題を解決できる。
【0074】
図5Cは、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割した後の状態を模式的に示す図である。図示される例において、保護シート50も剥離されている。積層構造体100の第1部分110から個々のフレキシブルOLEDデバイス1000を分割(切断)するには、分割すべき境界に切断用のレーザビームを照射すればよい。このような切断は、レーザビームの照射に代えて、ダイシングソーによって行うことも可能である。
【0075】
分割を行う前、または分割を行った後、個々のフレキシブルOLEDデバイス1000には、例えば大気雰囲気中で、ドライバ集積回路、タッチパネル、偏光板、放熱シート、電磁シールドなどの種々の電子部品または光学部品(不図示)が実装され得る。
【0076】
図6および
図7は、「分割」をリフトオフ工程前に実行する例を模式的に示す図である。図示される例では、
図6に示されるように、保護シート50を張り付ける前に、レーザビームによって樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する。その後、保護シート50を積層構造体100に張り付ける。分割された状態にある個々の機能層領域20は一枚の保護シート50とガラスベース10とによって挟まれた状態にある。なお、分割の方法は、この例に限定されない。
【0077】
このような構成の積層構造体100は、
図7に示されるように、ステージ212に支持され、前述した工程と同様の工程が実行され得る。積層構造体100からガラスベース10が剥離した後も、個々の機能層領域20は保護シート50によって支持された状態にあり、保護シート50が製造工程中のキャリアとして機能する。
【0078】
また、表面処理装置220によって樹脂膜30の表面30sに保護層60を形成すると、この保護層60が、分割後の個々の機能層領域20が保護シート50から剥がれることを抑制する機能も発揮し得る。
【0079】
積層構造体
以下、積層構造体100の構成をより詳しく説明する。
【0080】
まず、
図8Aを参照する。
図8Aは、表面に樹脂膜30が形成されたガラスベース10を示す断面図である。ガラスベース10は、プロセス用の支持基板であり、その厚さは、例えば0.3〜0.7mm程度であり得る。
【0081】
本実施形態における樹脂膜30は、例えば厚さ5μm以上100μm以下のポリイミド膜である。ポリイミド膜は、前駆体であるポリアミド酸またはポリイミド溶液から形成され得る。ポリアミド酸の膜をガラスベース10の表面に形成した後に熱イミド化を行っても良いし、ポリイミドを溶融または有機溶媒に溶解したポリイミド溶液からガラスベース10の表面に膜を形成してもよい。ポリイミド溶液は、公知のポリイミドを任意の有機溶媒に溶解して得ることができる。ポリイミド溶液をガラスベース10の表面30sに塗布した後、乾燥することによってポリイミド膜が形成され得る。
【0082】
ポリイミド膜は、ボトムエミッション型のフレキシブルディプレイの場合、可視光領域の全体で高い透過率を実現することが好ましい。ポリイミド膜の透明度は、例えばJIS K7105−1981に従った全光線透過率によって表現され得る。全光線透過率は80%以上、または85%以上に設定され得る。一方、トップエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合には透過率の影響は受けない。
【0083】
樹脂膜30は、ポリイミド以外の合成樹脂から形成された膜であってもよい。ただし、本開示の実施形態では、薄膜トランジスタを形成する工程において、例えば350℃以上の熱処理を行うため、この熱処理によって劣化しない材料から樹脂膜30は形成される。
【0084】
樹脂膜30は、複数の合成樹脂層の積層体であっても良い。本実施形態のある態様では、フレキシブルディスプレイの構造物をガラスベース10から剥離するとき、ガラスベース10を透過する紫外線レーザ光を樹脂膜30に照射するレーザリフトオフが行われる。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10との界面において、このような紫外線レーザ光を吸収して分解(消失)する必要がある。また、例えば、ある波長帯域のレーザ光を吸収してガスを発生する犠牲層をガラスベース10と樹脂膜30との間に配置しておけば、そのレーザ光の照射により、樹脂膜30をガラスベース10から容易に剥離することができる。
【0085】
<研磨処理>
樹脂膜30の表面30x上にパーティクルまたは凸部などの研磨対象(ターゲット)が存在する場合、研磨装置によってターゲットを研磨し平坦化してもよい。パーティクルにどの異物の検出は、例えばイメージセンサによって取得した画像を処理することによって可能である。研磨処理後、樹脂膜30の表面30xに対する平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理は、平坦性を向上させる膜(平坦化膜)を樹脂膜30の表面30xに形成する工程を含む。平坦化膜は樹脂から形成されている必要はない。
【0086】
<下層ガスバリア膜>
次に、樹脂膜30上にガスバリア膜を形成してもよい。ガスバリア膜は、種々の構造を有し得る。ガスバリア膜の例は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの膜である。ガスバリア膜の他の例は、有機材料層および無機材料層が積層された多層膜であり得る。このガスバリア膜は、機能層領域20を覆う後述のガスバリア膜から区別するため、「下層ガスバリア膜」と呼んでもよい。また、機能層領域20を覆うガスバリア膜は、「上層ガスバリア膜」と呼ぶことができる。
【0087】
<機能層領域>
以下、TFT層20AおよびOLED層20Bなどを含む機能層領域20、ならびに上層ガスバリア膜40を形成する工程を説明する。
【0088】
まず、
図8Bに示されるように、複数の機能層領域20をガラスベース10上に形成する。ガラスベース10と機能層領域20との間には、ガラスベース10に固着している樹脂膜30が位置している。
【0089】
機能層領域20は、より詳細には、下層に位置するTFT層20Aと、上層に位置するOLED層20Bとを含んでいる。TFT層20AおよびOLED層20Bは、公知の方法によって順次形成される。TFT層20Aは、アクティブマトリクスを実現するTFTアレイの回路を含む。OLED層20Bは、各々が独立して駆動され得るOLED素子のアレイを含む。TFT層20Aの厚さは例えば4μmであり、OLED層20Bの厚さは例えば1μmである。
【0090】
図9は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイにおけるサブ画素の基本的な等価回路図である。ディスプレイの1個の画素は、例えばR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)などの異なる色のサブ画素によって構成され得る。
図9に示される例は、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、保持容量CH、およびOLED素子ELを有している。選択用TFT素子Tr1は、データラインDLと選択ラインSLとに接続されている。データラインDLは、表示されるべき映像を規定するデータ信号を運ぶ配線である。データラインDLは選択用TFT素子Tr1を介して駆動用TFT素子Tr2のゲートに電気的に接続される。選択ラインSLは、選択用TFT素子Tr1のオン/オフを制御する信号を運ぶ配線である。駆動用TFT素子Tr2は、パワーラインPLとOLED素子ELとの間の導通状態を制御する。駆動用TFT素子Tr2がオンすれば、OLED素子ELを介してパワーラインPLから接地ラインGLに電流が流れる。この電流がOLED素子ELを発光させる。選択用TFT素子Tr1がオフしても、保持容量CHにより、駆動用TFT素子Tr2のオン状態は維持される。
【0091】
TFT層20Aは、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、データラインDL、および選択ラインSLなどを含む。OLED層20BはOLED素子ELを含む。OLED層20Bが形成される前、TFT層20Aの上面は、TFTアレイおよび各種配線を覆う層間絶縁膜によって平坦化されている。OLED層20Bを支持し、OLED層20Bのアクティブマトリクス駆動を実現する構造体は、「バックプレーン」と称される。
【0092】
図9に示される回路要素および配線の一部は、TFT層20AおよびOLED層20Bのいずれかに含まれ得る。また、
図9に示されている配線は、不図示のドライバ回路に接続される。
【0093】
本開示の実施形態において、TFT層20AおよびOLED層20Bの具体的な構成は多様であり得る。これらの構成は、本開示の内容を制限しない。TFT層20Aに含まれるTFT素子の構成は、ボトムゲート型であってもよいし、トップゲート型であってもよい。また、OLED層20Bに含まれるOLED素子の発光は、ボトムエミション型であってもよいし、トップエミション型であってもよい。OLED素子の具体的構成も任意である。
【0094】
TFT素子を構成する半導体層の材料は、例えば、結晶質のシリコン、非晶質のシリコン、酸化物半導体を含む。本開示の実施形態では、TFT素子の性能を高めるために、TFT層20Aを形成する工程の一部が350℃以上の熱処理工程を含む。
【0095】
<上層ガスバリア膜>
上記の機能層を形成した後、
図8Cに示されるように、機能層領域20の全体をガスバリア膜(上層ガスバリア膜)40によって覆う。上層ガスバリア膜40の典型例は、無機材料層と有機材料層とが積層された多層膜である。なお、上層ガスバリア膜40と機能層領域20との間、または上層ガスバリア膜40の更に上層に、粘着膜、タッチスクリーンを構成する他の機能層、偏光膜などの要素が配置されていても良い。上層ガスバリア膜40の形成は、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術によって行うことができる。封止信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate)は、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下であることが求められている。本開示の実施形態によれば、この基準を達成している。上層ガスバリア膜40の厚さは例えば2.0μm以下である。
【0096】
図10は、上層ガスバリア膜40が形成された段階における積層構造体100の上面側を模式的に示す斜視図である。1個の積層構造体100は、ガラスベース10に支持された複数のフレキシブルOLEDデバイス1000を含んでいる。
図10に示される例におい、1個の積層構造体100は、
図1Aに示される例よりも多くの機能層領域20を含んでいる。前述したように、1枚のガラスベース10に支持される機能層領域20の個数は任意である。
【0097】
<保護シート>
次に
図8Dを参照する。
図8Dに示されるように、積層構造体100の上面に保護シート50を張り付ける。保護シート50は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの材料から形成され得る。前述したように、保護シート50の典型例は、離型剤の塗布層を表面に有するラミネート構造を有している。保護シート50の厚さは、例えば50μm以上150μm以下であり得る。
【0098】
こうして作製された積層構造体100を用意した後、前述の製造装置200を用いて本開示による製造方法を実行することができる。その結果、封止性能の高いフレキシブルOLEDデバイスを得ることが可能になる。
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法によれば、ガラスベース(10);TFT層(20A)およびOLED層(20B)を含む機能層領域(20);およびガラスベース(10)と機能層領域(20)との間に位置してガラスベース(10)に固着している合成樹脂フィルム(30)を備える積層構造体(100)を用意する。露点が−50℃以下であるドライガス雰囲気中において積層構造体(100)を機能層領域20および合成樹脂フィルム(30)を含む第1部分(110)とガラスベース(10)を含む第2部分(120)とに分離し、合成樹脂フィルム(30)の表面(30s)をドライガス雰囲気中に露出させる。第1部分(110)をドライガス雰囲気中から減圧雰囲気R中に移送し、減圧雰囲気R中において合成樹脂フィルム(30)の表面(30s)に保護層(60)を形成する。