【実施例】
【0047】
[実施例1]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末(スーパータイタニア(登録商標)F−6グレード、昭和電工製)を0.2g秤量し、石英管状炉を用いて、アンモニアガス(ガス流量200mL/分)の気流(アンモニアガス:100容量%)下において、昇温速度50℃/分で室温から600℃まで昇温し、600℃で3時間焼成を行うことで、酸素還元触媒(1)を得た。
【0048】
(2)電気化学測定
(触媒電極作製)
酸素還元触媒からなる燃料電池用電極(以下「触媒電極」)の作製は次のように行った。得られた酸素還元触媒(1)15mg、2−プロパノール1.0mL、イオン交換水1.0mL及びナフィオン(NAFION(登録商標)、5%ナフィオン水溶液、和光純薬製)62μLを含む溶液に超音波を照射して攪拌し、懸濁して混合した。この混合物20μLをグラッシーカーボン電極(東海カーボン製、直径:5.2mm)に塗布し、70℃で1時間乾燥し、酸素還元触媒活性測定用の触媒電極を得た。
【0049】
(酸素還元触媒活性測定)
酸素還元触媒(1)の酸素還元活性触媒能の電気化学評価を次のように行った。上記「触媒電極作製」にて作製した触媒電極を、酸素ガス雰囲気及び窒素ガス雰囲気のそれぞれにおいて、0.5mol/dm
3の硫酸水溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流―電位曲線を測定した。また、酸素ガス雰囲気下で分極していない状態の自然電位(開回路電位)を得た。その際、同濃度の硫酸水溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0050】
前記電気化学評価で得た電流―電位曲線のうち酸素ガス雰囲気での還元電流曲線と窒素ガス雰囲気での還元電流曲線との差分から10μAでの電極電位(以下、電極電位とも記す。)を得た。これらの電極電位及び自然電位を表1に示す。自然電位は酸素還元触媒活性の質を、10μAにおける電極電位は酸素還元触媒活性の量を示している。
【0051】
(3)粉末X線回折測定(アナターゼ型二酸化チタン結晶とアナターゼ含有率)
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、試料の粉末X線回折測定を行った。測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10〜90°の範囲で測定を行い、酸素還元触媒(1)のX線回折スペクトルを得た。前記粉末X線回折測定を行い得られたX線回折スペクトルを
図1に示す。なお、
図1中「a.u.」とあるのは、任意単位(arbitrary unit)を意味し、
図2〜18においても同様である。
【0052】
アナターゼ型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークの高さ(Ha)、ルチル型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピーク高さ(Hr)、ブルッカイト型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピーク高さ(Hb)及び立方晶の窒化チタンに対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークの高さ(Hc)を求め、以下の計算式により、酸素還元触媒(1)中におけるアナターゼ型二酸化チタンの含有量(アナターゼ含有率)を求めた。なお、それぞれの最も強い回折強度のピークの高さは、回折ピークの検出されていない50〜52°の範囲の信号強度の算術平均をベースラインとして差し引いたうえで、ピークの高さとした。
【0053】
アナターゼ含有率(モル%)={Ha/(Ha+Hr+Hb+Hc))}×100
酸素還元触媒(1)はアナターゼ含有率が70モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有していることが確認された。
【0054】
(4)リートベルト解析
得られた酸素還元触媒(1)の格子定数は前記粉末X線回折スペクトルのリートベルト解析から求めた。リートベルト解析は、パナリティカルMPD付属の解析ソフトウェアHighScore+ Ver.3.0dにおいて、Pseudo−Voigt関数と標準アナターゼ型二酸化チタンとしてリファレンスコード98−015−4604を用い、X線回折パターンのサーチマッチを行って結晶構造に関するパラメータを精密化することでアナターゼ型二酸化チタンの格子定数を得た。前記リートベルト解析により求めた酸素還元触媒(1)のアナターゼ型二酸化チタンの格子定数a、b、cを表1に示す。
【0055】
標準アナターゼ型二酸化チタンの格子定数a、b、cはそれぞれ3.786Å、3.786Å、9.495Åである。酸素還元触媒(1)は、格子定数a、b、cのいずれにおいてもそれぞれ標準アナターゼ型二酸化チタンとの格子定数の差が0.005Å以下であった。
【0056】
(5)X線光電子分光分析
X線光電子分光分析装置QuanteraII(アルバックファイ社製)を用いて、酸素還元触媒(1)のX線光電子分光分析を行った。試料固定は金属In埋め込みで行った。測定は、X線:Alモノクロ・25W・15kV、測定面積:400×400μm
2、電子・イオン中和銃:ON、光電子取出し角:45°の条件で測定を行い、結合エネルギー補正はC1sXPSスペクトルの汚染炭化水素鎖由来のピークの位置を284.6eVとして行った。得られたTi2pXPSスペクトルを
図2に示す。455.5eVにおける信号強度はN−Ti−Nの結合状態を反映しており、窒化チタンの形成を意味し、酸素還元能の低い状態を意味する。458.3eVにおける信号強度はO−Ti−OのOがNに置換されたO−Ti−Nの結合状態を反映しており、すなわち二酸化チタン中の酸素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元能の高い状態を意味する。Ti2p由来の信号の観測されない450〜452eVの範囲の信号強度の算術平均をベースラインとして差し引いたうえで、Ti2pXPSスペクトルの455.5eVにおける信号強度の値をN−Ti−Nの強度とし、458.3eVにおける信号強度の値をO−Ti−Nの強度として求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置を表1に併せて示す。
【0057】
458.0〜459.5eVの範囲に位置するピークの結合エネルギーが、酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のO−Ti−Oの結合エネルギー459.0eVと比較してピーク位置が低エネルギー側にシフトしていると、二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換され酸素欠損を有していると判断できる。酸素還元触媒(1)はアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しており、酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のO−Ti−Oの結合エネルギー459.0eVより低エネルギー側にピーク位置がシフトしていてかつ窒素元素含有量が15質量%以下であるため、アナターゼ型二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換されることによって形成された酸素欠損を有していると判断することができる。
【0058】
(6)元素分析
酸素還元触媒(1)約10mgをニッケルカプセルに秤量し、LECO社製 TC−600を用い、1500W−5000W(70Wup/秒)の出力で不活性ガス融解−熱伝導度法で測定した。ここで得られた窒素元素含有量(質量%)を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ20mL/分及び180mL/分(アンモニアガス:10容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(2)を得た。
【0060】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元物触媒(2)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図3及び
図4に示す。
【0061】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元物触媒(2)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0062】
酸素還元触媒(2)は格子定数a、b、cのいずれにおいてもそれぞれ標準アナターゼ型二酸化チタンとの格子定数の差が0.005Å以下であった。
酸素還元触媒(2)はアナターゼ含有率が50モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有していることが確認された。さらに酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のチタンの結合エネルギー(すなわち、O−Ti−Oの結合エネルギー)459.0eVより低エネルギー側にピーク位置がシフトしていてかつ窒素元素含有量が15質量%以下であるため、アナターゼ型二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換されることによって形成された酸素欠損を有していると判断することができる。
【0063】
[比較例1]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c1)を得た。
【0064】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c1)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0065】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図5及び
図6に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0066】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c1)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0067】
[比較例2]
(1)酸素還元触媒の作製
昇温の到達温度及び焼成を行う温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c2)を得た。
【0068】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c2)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0069】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図7及び
図8に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0070】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c2)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ20mL/分及び180mL/分(アンモニアガス:10容量%)に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c3)を得た。
【0072】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c3)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0073】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図9及び
図10に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0074】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c3)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0075】
[比較例4]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c4)を得た。
【0076】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c4)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0077】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図11及び
図12に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は92モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0078】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c4)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0079】
[比較例5]
(1)酸素還元触媒の作製
昇温の到達温度及び焼成を行う温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c5)を得た。
【0080】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c5)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0081】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図13及び
図14に示す。酸素還元触媒(c5)は、全て立方晶の窒化チタンでアナターゼ含有率が0モル%で、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しなかった。
【0082】
また、酸素還元触媒(c5)の元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0083】
[比較例6]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末(F−6、昭和電工社製)につき、熱処理を実施することなくそのまま酸素還元触媒(c6)として用いた。
【0084】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c6)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図15及び
図16に示す。
【0085】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c6)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0086】
[比較例7]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末を、ブルッカイト(Brookite)型二酸化チタン粉末(ナノチタニア(登録商標)製品名:NTB−200、昭和電工社製)に変更し、アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を700℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで酸素還元触媒(c7)を得た。
【0087】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c7)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0088】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ
図17及び
図18に示す。酸素還元触媒(c7)のアナターゼ含有率は4モル%で残りは全てブルッカイト型の二酸化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しなかった。
【0089】
また、酸素還元触媒(c7)の元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0090】
【表1】