特許第6387213号(P6387213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6387213
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】酸素還元触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20180827BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180827BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180827BHJP
【FI】
   B01J27/24 M
   H01M4/90 X
   H01M8/10 101
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-523825(P2018-523825)
(86)(22)【出願日】2017年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2017046109
【審査請求日】2018年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-249353(P2016-249353)
(32)【優先日】2016年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/酸化物系触媒の革新的高機能化のためのメカニズム解析」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】大和 禎則
(72)【発明者】
【氏名】太田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 顕光
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/146490(WO,A1)
【文献】 特開2004−097868(JP,A)
【文献】 特開2011−042535(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0143119(US,A1)
【文献】 REN yaqi, et al.,Solvothermal synthesis of a dendritic TiNxOy nanostructure for oxygen reduction reaction electrocatalysis,RSC Advances, Royal Society of Chemistry [online],2015年,[retrieved on 2018.01.30], Retrieved from the Internet: <URL: http://pubs.rsc.org/en/content/article
【文献】 ANANDAN Sambandam, et al.,Catalytic degradation of a plasticizer, di-ethylhexyl phthalate, using Nx-TiO2-x nanoparticles synthesized via co-precipitation,Chemical Engineering Journal,2013年,Vol.231,pp. 182-189,特にFig.1,2
【文献】 SELVAM K., et al.,Mesoporous nitrogen doped nano titania -A green photocatalyst for the effective reductive cleavage of azoxybenzenes to amines or 2-phenyl indazoles in methanol,Applied Catalysis A: General,2012年,No.413-414,pp. 213-222,特にFig.1,5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
H01M 4/90
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素元素含有量が8.0〜15質量%であり、粉末X線回折測定においてアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造を有し、X線光電子分光分析における信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nが0.35〜0.70の範囲であるチタン酸窒化物である酸素還元触媒。
【請求項2】
前記チタン酸窒化物について結晶構造の格子定数a,b,cをそれぞれa1,b1,c1とし、チタンと酸素のみからなるアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造の格子定数a,b,cをそれぞれa0,b0,c0としたとき、|a1−a0|、|b1−b0|及び|c1−c0|のいずれも0.005Å以下である請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸素還元触媒からなる燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用電極触媒を含む触媒層を有する燃料電池用電極。
【請求項5】
カソードと、アノードと、当該カソードと当該アノードとの間に配置された高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、当該カソード及び当該アノードのうちの少なくともいずれか一方が請求項4に記載の燃料電池用電極である膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸窒化物からなる酸素還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物は、光触媒や酸化還元反応にかかわる触媒として用いられている。中でも、チタン酸化物触媒の酸素還元触媒能を利用して、燃料電池の電極触媒に使用することも可能であることが知られている。
【0003】
特許文献1では、金属炭窒化物や金属窒化物を酸素及び水素下で熱処理し、酸素が他の元素に置換された酸素欠損を作り出すことで活性点や導電性の確保が可能となり、高い酸素還元触媒能を有するチタン酸化物触媒の製造ができることを報告している。
【0004】
特許文献2では、TiO2などの金属酸化物をスパッタすることで酸素欠損を持つ直接型燃料電池の酸素還元電極を作製し、高い酸素還元触媒能を有する酸化物系触媒の製造ができることを報告している。
【0005】
非特許文献1では、チタン炭窒酸化物を水素・酸素・窒素雰囲気下で処理した後にアンモニアガスで処理することで高い酸素還元触媒能を有するチタン酸化物触媒の製造ができることが報告されている。また、アナターゼ(Anatase)型二酸化チタン構造を持つチタン酸化物をアンモニアガス雰囲気下で熱処理した粉末を作製し、酸素還元触媒能比較のリファレンスに用いている。
【0006】
特許文献1の方法は、酸素を他元素で置換することで活性点を得ているが、酸素欠損を作り出す際に結晶格子が膨張しているという特徴を持つ。そのため、特許文献1記載の触媒は燃料電池運転時の強酸性条件に対して不安定であり溶出が起きやすく耐久性の面で好ましくない。
【0007】
特許文献2の方法は、金属酸化物内から他の元素で置換することなく酸素原子を減らした触媒を作製しており、窒素置換によって生み出された酸素欠損を有する触媒は作製していない。また、スパッタによって薄膜として作製されるので、粉末等の比表面積の大きな触媒として必要量得ることが困難であるという点で好ましくない。
【0008】
非特許文献1のチタン炭窒酸化物の作製方法は、酸素を他元素で置換することで活性点を得ているが、触媒中にチタン、酸素、窒素以外に炭素を含むので原子半径が異なる元素の種類が増え、結晶格子にひずみがより発生する。そのため、非特許文献1記載の触媒は燃料電池運転時の強酸性条件に対して不安定であり溶出が起きやすく耐久性の面で好ましくない。また、リファレンス用のアンモニア処理したアナターゼ型チタン酸化物は作製方法が一般的であるため、X線光電子分光分析における信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nが0.70を超えており、窒化チタンが多くなってしまっている。その結果、触媒活性が下がり、自然電位も0.4V程度となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−194328号公報
【特許文献2】特許5055557号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Electrochimica Acta, 2013, 88, 697−707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような従来技術における問題点の解決を課題とする。
すなわち、本発明は、高い酸素還元能を持つチタン酸窒化物からなる酸素還元触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の[1]〜[6]に関する。
[1] 窒素元素含有量が8.0〜15質量%であり、粉末X線回折測定においてアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造を有し、X線光電子分光分析における信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nが0.35〜0.70の範囲であるチタン酸窒化物である酸素還元触媒。
【0013】
[2] 前記チタン酸窒化物について結晶構造の格子定数a,b,cをそれぞれa1,b1,c1とし、チタンと酸素のみからなるアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造の格子定数a,b,cをそれぞれa0,b0,c0としたとき、|a1−a0|、|b1−b0|及び|c1−c0|のいずれも0.005Å以下である前記[1]に記載の酸素還元触媒。
【0014】
[3] 前記[1]または[2]に記載の酸素還元触媒からなる燃料電池用電極触媒。
【0015】
[4] 前記[3]に記載の燃料電池用電極触媒を含む触媒層を有する燃料電池用電極。
【0016】
[5] カソードと、アノードと、当該カソードと当該アノードとの間に配置された高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、当該カソード及び当該アノードのうちの少なくともいずれか一方が前記[4]に記載の燃料電池用電極である膜電極接合体。
【0017】
[6] 前記[5]に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明の酸素還元触媒を燃料電池用電極触媒として用いることにより、高い酸素還元能を有する燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の酸素還元触媒(1)のX線回折スペクトルを示す。
図2】実施例1の酸素還元触媒(1)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図3】実施例2の酸素還元触媒(2)のX線回折スペクトルを示す。
図4】実施例2の酸素還元触媒(2)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図5】比較例1の酸素還元触媒(c1)のX線回折スペクトルを示す。
図6】比較例1の酸素還元触媒(c1)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図7】比較例2の酸素還元触媒(c2)のX線回折スペクトルを示す。
図8】比較例2の酸素還元触媒(c2)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図9】比較例3の酸素還元触媒(c3)のX線回折スペクトルを示す。
図10】比較例3の酸素還元触媒(c3)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図11】比較例4の酸素還元触媒(c4)のX線回折スペクトルを示す。
図12】比較例4の酸素還元触媒(c4)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図13】比較例5の酸素還元触媒(c5)のX線回折スペクトルを示す。
図14】比較例5の酸素還元触媒(c5)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図15】比較例6の酸素還元触媒(c6)のX線回折スペクトルを示す。
図16】比較例6の酸素還元触媒(c6)のTi2pXPSスペクトルを示す。
図17】比較例7の酸素還元触媒(c7)のX線回折スペクトルを示す。
図18】比較例7の酸素還元触媒(c7)のTi2pXPSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔酸素還元触媒〕
本発明の酸素還元触媒は、窒素元素含有量が8.0〜15質量%であり、粉末X線回折測定においてアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造を有し、X線光電子分光分析における信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nが0.35〜0.70の範囲であるチタン酸窒化物である。いいかえると、本発明の酸素還元触媒は、特定のチタン酸窒化物からなる酸素還元触媒ともいえる。ただ、このことは、本発明の酸素還元触媒における不純物の存在を厳密に排除するものでなく、原料及び/または製造過程などに起因する不可避不純物、その他、触媒の特性を劣化させない範囲内の不純物が本発明の酸素還元触媒に含まれることは差し支えない。
【0021】
なお、本明細書では、「チタン酸窒化物」は、全体としてみたときにチタン、窒素、酸素のみを構成元素として有し、1または2以上の化合物種からなる物質を総称していう。また、これに関連して、本明細書では、「チタン酸化物を含む酸素還元触媒」を「チタン酸化物触媒」ということがある。
【0022】
本発明の酸素還元触媒を構成するチタン酸窒化物が取りうる結晶構造として、ルチル(Rutile)型の二酸化チタンの結晶構造、アナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造、ブルッカイト(Brookite)型の二酸化チタンの結晶構造が挙げられる。粉末X線回折測定から得られるX線回折スペクトルにおいて、これらの結晶構造は、それぞれの結晶構造に特徴的なピークの存在及び出現パターンによって判別することができる。
【0023】
ルチル型の二酸化チタンの結晶構造では、2θが27°〜28°の位置に大きなピークが現れるが、2θが30°〜31°の位置にはピークが出現しないパターンとなる傾向がある。
一方、アナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造では2θが25°〜26°の位置に、大きなピークが現れる傾向がある。
【0024】
また、ブルッカイト型の二酸化チタンの結晶構造では2θが25°〜26°の位置に大きなピークが現れるとともに、2θが30°〜31°の位置にもピークが現れる傾向がある。したがって、ブルッカイト型の二酸化チタンの結晶構造と、アナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造との区別は、2θが30°〜31°の位置におけるピークの有無によって判別することができる。
【0025】
ここで、窒素元素含有量の多いチタン酸窒化物では、窒化チタンに基づく立方晶の結晶構造が含まれる場合がある。この場合、2θが37°〜38°の位置及び43°〜44°の位置にそれぞれピークが現れる傾向にある。
【0026】
本願明細書において、アナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造を有するとは、X線回折測定において確認されるチタン化合物結晶の全量を100モル%としたとき、アナターゼ型の二酸化チタンの含有量(以下、「アナターゼ含有率」ということがある)が50モル%以上であり、かつルチル型及びブルッカイト型の二酸化チタンの含有量が合わせて5モル%未満であると確認されるものをいう。残りは立方晶の窒化チタンである。本願実施例に示されるように、本発明の典型的な態様では、本発明の酸素還元触媒は少量の立方晶の窒化チタンを含む。このことから、本発明の酸素還元触媒では、前記アナターゼ含有率は、多くの場合100モル%未満、例えば、80モル%以下となる傾向にある。このアナターゼ含有率は、後述するとおり、XRDによって測定した値である。
【0027】
前記アナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造は、燃料電池運転時の耐酸性を得るために、チタンと酸素のみからなるアナターゼ型の二酸化チタン(すなわち、窒素を含有しないアナターゼ型の二酸化チタン)と比較した際に格子定数の変化がより少なく、熱力学的に安定である二酸化チタンの結晶格子を保持していることが好ましい。具体的には、前記チタン酸窒化物についての格子定数a,b,cをそれぞれa1,b1,c1とし、チタンと酸素のみからなるアナターゼ型の二酸化チタン(本明細書において、「標準アナターゼ型二酸化チタン」と呼ばれる場合がある。)についての格子定数a,b,cをそれぞれa0,b0,c0としたとき、|a1−a0|、|b1−b0|及び|c1−c0|のいずれも0.005Å(0.0005nm)以下であることが好ましい。
なお、前記格子定数a,b,cは、粉末X線回折スペクトルのリートベルト解析によって求めることができる。
【0028】
前記窒素元素含有量は、8.0〜15質量%の範囲であり、9.0〜13質量%であることが好ましく、9.0〜11質量%であることがより好ましい。窒素元素含有量が上記下限値より少ない状態、特に8.0質量%より少ない状態は酸化チタンの窒化が不十分な状態であり、触媒としての活性点の形成が十分でない傾向にある。窒素元素含有量が上記上限値より大きい状態、特に15質量%より多い状態は酸性条件に対して不安定な窒化チタンをより多く含む状態であり、燃料電池運転時に触媒としての機能がすぐに失われてしまう傾向にある。
【0029】
本発明の酸素還元触媒を構成するチタン酸窒化物について、前記X線光電子分光分析における信号強度比N−Ti−N/O−Ti−Nは、0.35〜0.70の範囲であり、0.36〜0.64であることが好ましい。信号強度比N−Ti−N/O−Ti−Nが上記下限値より小さい状態は酸化チタンの窒化が不十分な状態であり、触媒としての活性点の形成が十分でない傾向にある。一方で、信号強度比N−Ti−N/O−Ti−Nが上記上限値より大きいチタン酸窒化物は、窒化チタンを構成化合物種として多く含有している。窒化チタンは酸性条件下で不安定なので、窒化チタンを構成化合物種として多く含有するチタン酸窒化物を酸素還元触媒として用いると、燃料電池運転時に触媒としての機能がすぐに失われてしまう傾向にある。
【0030】
ここで、信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nは、具体的には、X線光電子分光分析を行い、C1sXPSスペクトルの炭化水素鎖由来のピーク位置を284.6eVとして結合エネルギーを補正してTi2pXPSスペクトルを得、このTi2pXPSスペクトルの455.5eVにおける強度の値をN−Ti−Nの強度とし、458.3eVにおける強度の値をO−Ti−Nの強度として、これらの信号強度比として得ることができる。
【0031】
〔酸素還元触媒の製造方法〕
本発明の酸素還元触媒は、チタン酸化物を原料とし、これを、アンモニアガス気流下において、40〜80℃/minで昇温し500〜1000℃で焼成することで得られる。
詳細な条件を以下に記す。
【0032】
(原料:チタン酸化物)
本発明の製造方法で原料として用いるチタン酸化物は、アナターゼ型二酸化チタン、Ti34、Ti47、Ti35等の還元型酸化チタン及びTiO(OH)等のチタン水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましいが、アナターゼ型二酸化チタンが特に好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは800℃以上でルチル型二酸化チタンへの相転移が起こり始める。そのため、より低温で窒素原子が置換するとともにアナターゼ型二酸化チタン骨格を保持するという観点から、窒素との反応性が高くなるように粒子径の小さなチタン酸化物を用いることがより好ましい。一方、上記Ti34等の還元型酸化チタン及びTiO(OH)等のチタン水酸化物は、700℃以下程度の低温で熱処理することによりアナターゼ型二酸化チタンに導くことができる。
なお、これらのチタン酸化物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。
【0033】
(焼成条件)
本発明では、前記チタン酸化物の熱処理は、目的とする熱処理温度にまで前記チタン酸化物を昇温する昇温工程と、当該目的とする熱処理温度に到達した後、そのまま当該温度を維持して前記チタン酸化物の焼成を行う焼成工程によって行われる。この昇温工程及び焼成工程は、アンモニアガス気流下で行われる。
【0034】
ここで、前記昇温工程及び焼成工程を行う際に用いられるアンモニアガス気流は、アンモニアガスのみからなる気流であってもよく、アンモニアガスと不活性ガスとの混合気流であってもよい。アンモニアガス気流としてアンモニアガスと不活性ガスとの混合気流を採用する場合における、当該混合気流中のアンモニア濃度は、10容量%〜100容量%である。より詳細には、後述する熱処理温度600〜700℃においては60容量%〜100容量%の範囲とすることが好ましく、70容量%〜100容量%の範囲とすることがより好ましい。熱処理温度700〜800℃においては、10容量%〜70容量%の範囲とすることが好ましく、10容量%〜60容量%の範囲とすることがより好ましく、10容量%〜40容量%の範囲とすることがさらに好ましい。これらのアンモニア濃度と熱処理温度の範囲で焼成すると、酸素還元触媒活性の指標である10μAにおける電極電位及び酸素ガス雰囲気下での自然電位がともに良好となるので好ましい。前述の条件は、後述のブルッカイト型二酸化チタンを用いて作製する比較例7で得られる酸素還元触媒には当てはまらない。
【0035】
前記昇温を行うときの昇温速度は、40〜80℃/minの範囲であり、好ましくは50〜60℃/minである。昇温速度が前記範囲よりも速いと、昇温時に目的の熱処理温度以上に過熱される恐れがあり、得られる酸素還元触媒の粒子相互間においての焼結や粒子成長が起こり、アナターゼ型二酸化チタン以外への結晶相の転移や触媒の比表面積減少が起こるために、触媒性能が劣る場合がある。一方、昇温速度が前記範囲よりも遅いと、酸化チタンの窒素置換よりも窒化チタンの生成が優先して起こり、高い触媒活性を有する酸素還元触媒を得ることが困難になる場合がある。
【0036】
前記焼成を行う熱処理温度(以下、「焼成温度」)は600〜800℃である。焼成温度が前記温度範囲よりも高いと、得られる酸素還元触媒の粒子相互間においての焼結や粒子成長が起こり、アナターゼ型二酸化チタン以外への結晶相の転移や触媒の比表面積減少が起こるために、触媒性能が十分でないことがある。一方、焼成温度が前記温度範囲よりも低いと、酸化チタンの窒化反応の進行が遅いためあるいは起きないため、高い触媒活性を有する酸素還元触媒を得ることが困難になる傾向にある。前述したように混合気流中のアンモニア濃度との組合せにも留意する必要がある。また、焼成を行う時間は、通常1〜5時間であり、2〜4時間がより好ましい。焼成時間が前記上限時間よりも長いと、得られる酸素還元触媒の粒子相互間においての焼結や粒子成長が起こり、触媒の比表面積減少が起こるために、触媒性能が十分でないことがある。一方、焼成時間が前記下限時間よりも短いと、酸化チタンの窒化反応の進行が不十分になるため、高い触媒活性を有する酸素還元触媒を得ることが困難になる傾向にある。
【0037】
〔電極・膜電極接合体・燃料電池〕
上述した本発明の酸素還元触媒は、特に用途に限りがあるわけではないが、燃料電池用電極触媒、空気電池用電極触媒などに好適に用いることができる。
【0038】
(燃料電池用電極)
本発明の好適な態様の1つとして、上述した本発明の酸素還元触媒を含む触媒層を有する燃料電池用電極が挙げられる。この態様では、燃料電池用電極は、本発明の酸素還元触媒からなる燃料電池用電極触媒を含むことになる。
【0039】
燃料電池用電極を構成する触媒層には、アノード触媒層、カソード触媒層があるが、本発明の酸素還元触媒はいずれにも用いることができる。本発明の酸素還元触媒は、高い酸素還元能を有するので、カソード触媒層に用いることが好ましい。
【0040】
ここで、前記触媒層は、好ましくは高分子電解質をさらに含む。前記高分子電解質としては、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホ基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(NAFION(登録商標))、スルホ基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。これらの中でも、ナフィオン(NAFION(登録商標)が好ましい。前記触媒層を形成する際のナフィオン(NAFION(登録商標))の供給源としては、5%ナフィオン(NAFION(登録商標))溶液(DE521、デュポン社)などが挙げられる。
【0041】
また、前記触媒層は、必要に応じて、炭素、導電性高分子、導電性セラミックス、金属または酸化タングステンもしくは酸化イリジウム等の導電性無機酸化物などからなる電子伝導性粒子をさらに含んでいてもよい。
【0042】
触媒層の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜採用しうる。
一方、前記燃料電池用電極は、上記触媒層に加えて、さらに、多孔質支持層を有していてもよい。
【0043】
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層(以下「ガス拡散層」とも記す。)である。ガス拡散層としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料が用いられる。
【0044】
(膜電極接合体)
本発明の膜電極接合体は、カソードと、アノードと、当該カソードと当該アノードとの間に配置された高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、カソード及びアノードのうちの少なくともいずれか一方が上述した本発明の燃料電池用電極である。このとき、本発明の燃料電池用電極を採用しなかった方の電極として、従来公知の燃料電池用電極、例えば、白金担持カーボンなど白金系触媒を含む燃料電池用電極を用いることができる。本発明の膜電極接合体の好適な態様の一例として、少なくとも前記カソードが本発明の燃料電池用電極であるものが挙げられる。
【0045】
ここで、本発明の燃料電池用電極がガス拡散層を有する場合、本発明の膜電極接合体においてこのガス拡散層は、高分子電解質膜から見て、触媒層の反対側に配置される。
高分子電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系を用いた電解質膜または炭化水素系電解質膜などが一般的に用いられるが、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜または多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。
本発明の膜電極接合体は、従来公知の方法を用いて適宜形成することができる。
【0046】
(燃料電池)
本発明の燃料電池は、上述した膜電極接合体を備える。ここで、本発明の典型的な態様において、本発明の燃料電池は、膜電極接合体を挟む態様でさらに2つの集電体を備える。集電体は、燃料電池用に一般的に採用される従来公知のものとすることができる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末(スーパータイタニア(登録商標)F−6グレード、昭和電工製)を0.2g秤量し、石英管状炉を用いて、アンモニアガス(ガス流量200mL/分)の気流(アンモニアガス:100容量%)下において、昇温速度50℃/分で室温から600℃まで昇温し、600℃で3時間焼成を行うことで、酸素還元触媒(1)を得た。
【0048】
(2)電気化学測定
(触媒電極作製)
酸素還元触媒からなる燃料電池用電極(以下「触媒電極」)の作製は次のように行った。得られた酸素還元触媒(1)15mg、2−プロパノール1.0mL、イオン交換水1.0mL及びナフィオン(NAFION(登録商標)、5%ナフィオン水溶液、和光純薬製)62μLを含む溶液に超音波を照射して攪拌し、懸濁して混合した。この混合物20μLをグラッシーカーボン電極(東海カーボン製、直径:5.2mm)に塗布し、70℃で1時間乾燥し、酸素還元触媒活性測定用の触媒電極を得た。
【0049】
(酸素還元触媒活性測定)
酸素還元触媒(1)の酸素還元活性触媒能の電気化学評価を次のように行った。上記「触媒電極作製」にて作製した触媒電極を、酸素ガス雰囲気及び窒素ガス雰囲気のそれぞれにおいて、0.5mol/dm3の硫酸水溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流―電位曲線を測定した。また、酸素ガス雰囲気下で分極していない状態の自然電位(開回路電位)を得た。その際、同濃度の硫酸水溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0050】
前記電気化学評価で得た電流―電位曲線のうち酸素ガス雰囲気での還元電流曲線と窒素ガス雰囲気での還元電流曲線との差分から10μAでの電極電位(以下、電極電位とも記す。)を得た。これらの電極電位及び自然電位を表1に示す。自然電位は酸素還元触媒活性の質を、10μAにおける電極電位は酸素還元触媒活性の量を示している。
【0051】
(3)粉末X線回折測定(アナターゼ型二酸化チタン結晶とアナターゼ含有率)
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、試料の粉末X線回折測定を行った。測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10〜90°の範囲で測定を行い、酸素還元触媒(1)のX線回折スペクトルを得た。前記粉末X線回折測定を行い得られたX線回折スペクトルを図1に示す。なお、図1中「a.u.」とあるのは、任意単位(arbitrary unit)を意味し、図2〜18においても同様である。
【0052】
アナターゼ型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークの高さ(Ha)、ルチル型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピーク高さ(Hr)、ブルッカイト型二酸化チタン結晶に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピーク高さ(Hb)及び立方晶の窒化チタンに対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークの高さ(Hc)を求め、以下の計算式により、酸素還元触媒(1)中におけるアナターゼ型二酸化チタンの含有量(アナターゼ含有率)を求めた。なお、それぞれの最も強い回折強度のピークの高さは、回折ピークの検出されていない50〜52°の範囲の信号強度の算術平均をベースラインとして差し引いたうえで、ピークの高さとした。
【0053】
アナターゼ含有率(モル%)={Ha/(Ha+Hr+Hb+Hc))}×100
酸素還元触媒(1)はアナターゼ含有率が70モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有していることが確認された。
【0054】
(4)リートベルト解析
得られた酸素還元触媒(1)の格子定数は前記粉末X線回折スペクトルのリートベルト解析から求めた。リートベルト解析は、パナリティカルMPD付属の解析ソフトウェアHighScore+ Ver.3.0dにおいて、Pseudo−Voigt関数と標準アナターゼ型二酸化チタンとしてリファレンスコード98−015−4604を用い、X線回折パターンのサーチマッチを行って結晶構造に関するパラメータを精密化することでアナターゼ型二酸化チタンの格子定数を得た。前記リートベルト解析により求めた酸素還元触媒(1)のアナターゼ型二酸化チタンの格子定数a、b、cを表1に示す。
【0055】
標準アナターゼ型二酸化チタンの格子定数a、b、cはそれぞれ3.786Å、3.786Å、9.495Åである。酸素還元触媒(1)は、格子定数a、b、cのいずれにおいてもそれぞれ標準アナターゼ型二酸化チタンとの格子定数の差が0.005Å以下であった。
【0056】
(5)X線光電子分光分析
X線光電子分光分析装置QuanteraII(アルバックファイ社製)を用いて、酸素還元触媒(1)のX線光電子分光分析を行った。試料固定は金属In埋め込みで行った。測定は、X線:Alモノクロ・25W・15kV、測定面積:400×400μm2、電子・イオン中和銃:ON、光電子取出し角:45°の条件で測定を行い、結合エネルギー補正はC1sXPSスペクトルの汚染炭化水素鎖由来のピークの位置を284.6eVとして行った。得られたTi2pXPSスペクトルを図2に示す。455.5eVにおける信号強度はN−Ti−Nの結合状態を反映しており、窒化チタンの形成を意味し、酸素還元能の低い状態を意味する。458.3eVにおける信号強度はO−Ti−OのOがNに置換されたO−Ti−Nの結合状態を反映しており、すなわち二酸化チタン中の酸素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元能の高い状態を意味する。Ti2p由来の信号の観測されない450〜452eVの範囲の信号強度の算術平均をベースラインとして差し引いたうえで、Ti2pXPSスペクトルの455.5eVにおける信号強度の値をN−Ti−Nの強度とし、458.3eVにおける信号強度の値をO−Ti−Nの強度として求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置を表1に併せて示す。
【0057】
458.0〜459.5eVの範囲に位置するピークの結合エネルギーが、酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のO−Ti−Oの結合エネルギー459.0eVと比較してピーク位置が低エネルギー側にシフトしていると、二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換され酸素欠損を有していると判断できる。酸素還元触媒(1)はアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しており、酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のO−Ti−Oの結合エネルギー459.0eVより低エネルギー側にピーク位置がシフトしていてかつ窒素元素含有量が15質量%以下であるため、アナターゼ型二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換されることによって形成された酸素欠損を有していると判断することができる。
【0058】
(6)元素分析
酸素還元触媒(1)約10mgをニッケルカプセルに秤量し、LECO社製 TC−600を用い、1500W−5000W(70Wup/秒)の出力で不活性ガス融解−熱伝導度法で測定した。ここで得られた窒素元素含有量(質量%)を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ20mL/分及び180mL/分(アンモニアガス:10容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(2)を得た。
【0060】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元物触媒(2)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図3及び図4に示す。
【0061】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元物触媒(2)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0062】
酸素還元触媒(2)は格子定数a、b、cのいずれにおいてもそれぞれ標準アナターゼ型二酸化チタンとの格子定数の差が0.005Å以下であった。
酸素還元触媒(2)はアナターゼ含有率が50モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有していることが確認された。さらに酸素欠損を持たないアナターゼ型二酸化チタン中のチタンの結合エネルギー(すなわち、O−Ti−Oの結合エネルギー)459.0eVより低エネルギー側にピーク位置がシフトしていてかつ窒素元素含有量が15質量%以下であるため、アナターゼ型二酸化チタン中の酸素原子が窒素原子に置換されることによって形成された酸素欠損を有していると判断することができる。
【0063】
[比較例1]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c1)を得た。
【0064】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c1)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0065】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図5及び図6に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0066】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c1)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0067】
[比較例2]
(1)酸素還元触媒の作製
昇温の到達温度及び焼成を行う温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c2)を得た。
【0068】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c2)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0069】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図7及び図8に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0070】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c2)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量をそれぞれ20mL/分及び180mL/分(アンモニアガス:10容量%)に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c3)を得た。
【0072】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c3)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0073】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図9及び図10に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は100モル%でアナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0074】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c3)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0075】
[比較例4]
(1)酸素還元触媒の作製
アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c4)を得た。
【0076】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c4)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0077】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図11及び図12に示す。酸素還元触媒(c1)のアナターゼ含有率は92モル%で残りが立方晶の窒化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有した。
【0078】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c4)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0079】
[比較例5]
(1)酸素還元触媒の作製
昇温の到達温度及び焼成を行う温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで、酸素還元触媒(c5)を得た。
【0080】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c5)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0081】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図13及び図14に示す。酸素還元触媒(c5)は、全て立方晶の窒化チタンでアナターゼ含有率が0モル%で、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しなかった。
【0082】
また、酸素還元触媒(c5)の元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0083】
[比較例6]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末(F−6、昭和電工社製)につき、熱処理を実施することなくそのまま酸素還元触媒(c6)として用いた。
【0084】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c6)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図15及び図16に示す。
【0085】
また、リートベルト解析によって求めた酸素還元触媒(c6)の格子定数a、b、c、元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0086】
[比較例7]
(1)酸素還元触媒の作製
アナターゼ型二酸化チタン粉末を、ブルッカイト(Brookite)型二酸化チタン粉末(ナノチタニア(登録商標)製品名:NTB−200、昭和電工社製)に変更し、アンモニアガスの気流をアンモニアガスと窒素ガスの混合気流に変更し、アンモニアガス及び窒素ガスの流量を共に100mL/分(アンモニアガス:50容量%)に変更するとともに、昇温の到達温度及び焼成を行う温度を700℃に変更した以外は、実施例1と同様に昇温及び焼成を行うことで酸素還元触媒(c7)を得た。
【0087】
(2)電気化学測定・粉末X線回折測定・リートベルト解析・X線光電子分光分析・元素分析
実施例1と同様に、酸素還元触媒(c7)の電気化学測定、粉末X線回折測定、リートベルト解析、X線光電子分光分析、及び元素分析を行った。
【0088】
得られたX線回折スペクトル及びTi2pXPSスペクトルを、それぞれ図17及び図18に示す。酸素還元触媒(c7)のアナターゼ含有率は4モル%で残りは全てブルッカイト型の二酸化チタンであり、アナターゼ型二酸化チタン結晶構造を有しなかった。
【0089】
また、酸素還元触媒(c7)の元素分析によって得られた窒素元素含有量(質量%)、X線光電子分光分析によって求めた信号強度比N−Ti−N/O−Ti−N及び458.0〜459.5eVにおいて最も高い強度が得られている結合エネルギーとして求めたピーク位置、並びに、電気化学測定から求めた電極電位及び自然電位を表1に示す。
【0090】
【表1】
【要約】
本発明は、高い酸素還元能を持つチタン酸窒化物からなる酸素還元触媒を提供することを目的とする。本発明の酸素還元触媒は、窒素元素含有量が8.0〜15質量%であり、粉末X線回折測定においてアナターゼ型の二酸化チタンの結晶構造を有し、X線光電子分光分析における信号強度比 N−Ti−N/O−Ti−Nが0.35〜0.70の範囲であるチタン酸窒化物である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18