(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キャンセルプレートのガス軟窒化処理を施した部分の表面硬さがHV400〜1000であり、その窒化層の深さが8〜40μmである請求項1に記載のシリンダ装置。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の自動変速機として、駆動プーリ(プライマリプーリ)と、従動プーリ(セカンダリプーリ)と、当該両プーリ間に巻き掛けられた無端状の駆動ベルトとを備えたベルト式無段変速機(CVT)が知られている(例えば特許文献1参照)。前記駆動プーリ及び従動プーリは、それぞれ固定シーブと可動シーブとを備えており、シリンダ装置にて可動シーブをプーリ軸の軸方向に移動させて両シーブ間の間隔を変化させ、駆動ベルトの巻き掛け径を変更することにより、無段階の変速を行うことができる。
【0003】
前記シリンダ装置は、可動シーブの背後に設けられた第1の油圧室に作動油を供給することによって可動シーブをプーリ軸の軸方向に移動させることができる。前記第1の油圧室は、可動シーブに設けられたシリンダ部の内部をボンデッドピストンシールによって区画することにより形成されている。
【0004】
また、前記シリンダ装置には、可動シーブの回転に伴って第1の油圧室に発生する遠心油圧を相殺するために、第1の油圧室の背後に第2の油圧室(バランスチャンバ)が設けられている。この第2の油圧室は、前記シリンダ部の内部を前記ボンデッドピストンシールとその背後に間隔を設けて配置されたキャンセルプレートとによって区画することにより形成されている。前記第2の油圧室には、キャンセルプレートとボンデッドピストンシールとの軸方向の相対移動に対応させて、繰り返し作動油が供給される。このキャンセルプレートは鋼板をプレス成形したものであり、その硬さはHV200程度である。
【0005】
可動シーブのシリンダ部の内周に設けられた周溝には、スナップリングが嵌合されており、このスナップリングによって、第2の油圧室に供給された作動油の圧力によりキャンセルプレートがシリンダ部から抜脱するのが規制されている。
キャンセルプレートの外周部には、径方向外方に突出する凸部が形成されており、この凸部をシリンダ部の内周側に形成された凹部に係合させることにより、キャンセルプレートと可動シーブとが供回りするようになっている。
【0006】
一方、多板クラッチを備える遊星歯車式自動変速機(AT)についても、第1の油圧室及び第2の油圧室を有するシリンダ装置が設けられている。各油圧室はシリンダ部の内部をボンデットピストンシールやキャンセルプレートによって区画することにより形成されている。前記キャンセルプレートは鋼板をプレス成形したものであり、その硬さはHV200程度である。
この自動変速機においては、第1の油圧室に作動油を供給してボンデットピストンシールを軸方向一方側に移動させることにより、多板クラッチを押圧することができ、第2の油圧室に作動油を供給してボンデットピストンシールを軸方向他方側に移動させることにより、多板クラッチの押圧を解除することができる。
前記キャンセルプレートは、軸部の外周に設けられた周溝に嵌合されたスナップリングによって、第2の油圧室に供給された作動油の圧力によりキャンセルプレートがシリンダ部から抜脱するのが規制されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記ベルト式無段変速機では、第2の油圧室に作動油の油圧が繰り返し作用するので、キャンセルプレートの背面の外周側がスナップリングに何度も押し当てられる。このためキャンセルプレートのスナップリングとの接触部にへたりが生じる。また、キャンセルプレートの前記凸部と可動シーブの前記凹部との間の周方向隙間に起因して、キャンセルプレートとスナップリングとの間で相対的な微少回転が生じることから、キャンセルプレートの接触部が摩耗する。このようなへたりや摩耗がある程度進行すると、接触部の強度が不足することになる。そこで、キャンセルプレート全体の板厚を厚くして、へたりや摩耗によりキャンセルプレートの耐久性が低下するのを防止している。しかしこの場合キャンセルプレートの重量が重くなるという問題がある。
【0009】
また、前記遊星歯車式自動変速機においても、第2の油圧室に繰り返し作用する油圧によって、キャンセルプレートの背面の内周側がスナップリングに何度も押し当てられるので、キャンセルプレートのスナップリングとの接触部にへたりが生じる。また、キャンセルプレートとスナップリングとの間で相対的な微少回転が生じることから、キャンセルプレートの接触部が摩耗する。このため、前記ベルト式無段変速機と同様な問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、キャンセルプレートの耐久性を確保しつつ軽量化を図ることができるシリンダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るシリンダ装置は、筒状のシリンダ部と、このシリンダ部の一端側を閉塞する側壁と、シリンダ部と同軸に設けられた軸部とを有するハウジングと、前記軸部に嵌合され、前記シリンダ部の内部を区画して第1の油圧室を形成するボンデッドピストンシールと、前記ボンデッドピストンシールに対向させた状態で前記シリンダ部又は前記軸部に嵌合され、前記ボンデッドピストンシールと共に前記シリンダ部の内部を区画して第2の油圧室を形成するキャンセルプレートと、前記シリンダ部の内周又は軸部の外周に嵌合され、第2の油圧室の圧力によって前記キャンセルプレートが軸方向一方側へ移動するのを規制するスナップリングと、を備え、前記第1の油圧室に供給された作動油の圧力により、前記シリンダ部とボンデッドピストンシールとを軸方向へ相対的に移動させるシリンダ装置であって、前記キャンセルプレートの少なくとも前記スナップリングとの接触部
が軸方向に対して直角な平面であって、当該接触部が、ガス軟窒化処理によって硬化されていることを特徴としている。
【0012】
本発明のシリンダ装置におけるキャンセルプレートは、少なくとも前記接触部がガス軟窒化処理によって硬化されているので、当該接触部のへたりや摩耗が進行するのを抑制することができる。このため、キャンセルプレート全体の板厚を、前記接触部が硬化されていない従来のキャンセルプレートの板厚よりも薄くしても、その耐久性を確保することができる。この結果、キャンセルプレートの軽量化を図ることができる。
【0013】
(2)前記シリンダ装置においては、キャンセルプレートのガス軟窒化処理を施した部分の表面硬さがHV400〜1000であり、窒化層の深さが8〜40μmであるのが、前記接触部の耐久性を確保しつつ軽量化を図る上で特に好ましい。
【0014】
(3)前記シリンダ部がベルト式無段変速機の可動シーブに一体形成され、前記軸部が固定シーブに一体形成されていてもよい。
(4)前記ボンデッドピストンシールが、軸方向への移動により自動変速機の多板クラッチを押圧するものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、キャンセルプレートの耐久性を確保しつつ軽量化が可能なシリンダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置について添付図面を参照しながら詳述する。このシリンダ装置1Aは、ベルト式無段変速機における従動プーリPに設けられているものである。
【0018】
図1は前記シリンダ装置1Aを備える従動プーリPを示す断面図である。従動プーリPは、プーリ軸2(軸部)と、このプーリ軸2に一体形成されている固定シーブ3と、この固定シーブ3と軸方向に対向した状態で軸方向へ移動可能にプーリ軸2に支持されている可動シーブ4とを備えている。前記固定シーブ3と可動シーブ4との間には駆動ベルト(チェーン)9が巻き掛けられている。
【0019】
シリンダ装置1Aは、ハウジング1と、このハウジング1の内部を区画して第1の油圧室8を形成するボンデッドピストンシール7と、このボンデッドピストンシール7と共に前記ハウジング1の内部を区画して第2の油圧室13を形成するキャンセルプレート10とによって主要部が構成されている。
前記ハウジング1は、円筒状のシリンダ部5と、このシリンダ部5の一端側を閉塞する側壁4aと、前記プーリ軸2とによって構成されている。
前記シリンダ部5は、可動シーブ4に一体形成されており、当該可動シーブ4の外周部から固定シーブ3側と反対方向に向かって延びる円筒状のものである。また、前記側壁4aは、可動シーブ4によって兼用されている。前記シリンダ部5はプーリ軸2と同軸に設けられている。
【0020】
前記ボンデットピストンシール7は、側壁4aの背後(
図1において左方)に当該側壁4aと間隔をあけて対向させた状態で配置されている。このボンデットピストンシール7は、第1筒状部7a、第1円環部7b、第2筒状部7c及び第2円環部7dで構成されており、これらは、鋼板をプレス成形することにより一体に形成されている。
第1筒状部7aは、プーリ軸2の外周に嵌合されている。第1円環部7bは、第1筒状部7aの右端部から径方向斜め外方に延びている。第2筒状部7cは、第1円環部7bの外周部から固定シーブ3に向かって延びている。第2円環部7dは、第2筒状部7cの右端部から曲面部7eを介して径方向外方に延びている。
【0021】
シリンダ部5の内部はボンデットピストンシール7によって区画されており、このボンデットピストンシール7、プーリ軸2、側壁4a及びシリンダ部5によって囲まれる空間が、第1の油圧室8として構成されている。第1の油圧室8には、プーリ軸2の内部に設けられた第1油路2a及びこれに連通された第2油路15cを通して、作動油が供給される。また、第1の油圧室8に供給された作動油は、第2油路15c及び第1油路2aを通して排出される。可動シーブ4とボンデットピストンシール7との間には、プリロード用のスプリング16が、弾性収縮された状態で設置されている。
【0022】
前記キャンセルプレート10は、ボンデットピストンシール7の背後に当該ボンデットピストンシール7と間隔をあけて対向させた状態で配置されている。このキャンセルプレート10の外周は、シリンダ部5の先端部(左端部)の内周に嵌合されている。前記シリンダ部5の内部は、ボンデットピストンシール7とキャンセルプレート10とによって区画されており、これらとシリンダ部5とで囲まれる空間が、第2の油圧室13として構成されている。
【0023】
図2はキャンセルプレート10とシリンダ部5の先端部の拡大断面図であり、
図3はキャンセルプレート10の正面図である。キャンセルプレート10は、円筒部10bと、円筒部10bの端部から曲面部10eを介して径方向外方に延びる外側円環部10cと、円筒部10bの左端部から曲面部10fを介して径方向内方に延びる内側円環部10dとを備えており、これらは鋼板をプレス成形することにより一体形成されている。
前記鋼板としては、成形性の良いSPFH鋼板(自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板)が用いられている。また、キャンセルプレート10は、プレス成形後において全体的にガス軟窒化処理が施されて硬化されている。具体的には、キャンセルプレート10は、ビッカース硬さ(HV)が400〜1000、窒化層の深さが8〜40μmとなるようにガス軟窒化処理が施されている。
【0024】
外側円環部10cには径方向外方に突出する一対の凸部10gが、キャンセルプレート10の軸中心A(
図3参照)を挟んで互いに対向する位置に形成されている。この凸部10gはシリンダ部5の内周側に形成された凹部5gに係合されており、これにより、キャンセルプレート10とシリンダ部5とが供回りするようになっている。
【0025】
キャンセルプレート10の固定シーブ3側の側面の外周部には、ゴム等の弾性素材からなり、キャンセルプレート10の外周部と略同径の円環状に形成されたシール11が加硫接着されている。シール11は、断面略楔状のシールリップ11bを備えている。このシールリップ11bの先端は、シリンダ部5の内周面に接触しており、第2の油圧室13内の作動油がシリンダ部5とキャンセルプレート10の間を通して外部に漏出するのを防止している。
【0026】
シリンダ部5の先端部内周には周溝5rが形成されており、この周溝5rにはスナップリング12が嵌め込まれている。このスナップリング12は、第2の油圧室13に供給された作動油の圧力によって、キャンセルプレート10がシリンダ部5の内部から
図2において左方に抜脱するのを規制している。
【0027】
第2の油圧室13には、
図1に示されるプーリ軸2の内部に設けられた第3油路2b及びこれに連通された第4油路15eを通して作動油が供給される。この第2の油圧室13に供給された作動油の遠心油圧によって第1の油圧室8の作動油の遠心油圧が相殺される。
ボンデットピストンシール7の外周には、第4油路15eを通過した作動油を第2の油圧室13へ導くためのガイド部材14が設けられている。このガイド部材14は、第1筒状部7aに嵌合されている円環部14aと、この円環部14aからボンデットピストンシール7の第2筒状部7cに沿って可動シーブ4側に向かって延びる筒状部14bとを備えている。第2筒状部7cと筒状部14bとの間には、作動油を通すための隙間が設けられている。
キャンセルプレート10の内周と筒状部14bとの間にも隙間が設けられており、キャンセルプレート10側にボンデットピストンシール7が移動した際に、第2の油圧室13内の作動油がこの隙間から外部へ排出されるようになっている。
【0028】
前記シリンダ装置1Aは、第1の油圧室8に対する油圧制御により、可動シーブ4を軸方向に移動させて、駆動ベルト9の従動プーリPに対する巻き付け径を無段階に変化させることができる。
【0029】
前記シリンダ装置1Aにおいては、キャンセルプレート10にガス軟窒化処理が施されて硬化されているので、スナップリング12との接触面10i(
図2参照)にへたりや摩耗が生じるのを抑制することができる。このため、キャンセルプレート10の板厚を、前記接触部が硬化されていない従来のキャンセルプレートの板厚よりも薄くしても、その耐久性を確保することができる。この結果、キャンセルプレート10の軽量化を図ることができる。
【0030】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置2Aは、遊星歯車式自動変速機(AT)の動力伝達機構21に設けられているものである。
図4はこの動力伝達機構21の断面図である。
【0031】
図4において、動力伝達機構21は、遊星ギヤ等を用いた変速機構(図示せず)に対する動力の伝達を断続するための多板クラッチCと、この多板クラッチCを作動させるためのシリンダ装置2Aとを備えている。このシリンダ装置2Aは、クラッチピストンとしての機能を備えた密封装置22と、これらを内部に収納しているハウジング24とを備えている。
【0032】
ハウジング24は、軸方向一方側(
図4における左側)が開口し、他端側が閉塞された環状のものであり、シリンダ部25と、シリンダ部25より大径の外側円筒部26と、シリンダ部25より小径の内側円筒部27(軸部)とを備えている。シリンダ部25の軸方向一方側の端部と外側円筒部26の軸方向他方側の端部とは、第1円環部28を介して連続している。シリンダ部25の軸方向他方側の端部と内側円筒部27の軸方向他方側の端部とは、第2円環部29(側壁)を介して連続している。外側円筒部26の内側には多板クラッチCが収納されている。
【0033】
密封装置22は、環状のボンデッドピストンシール31と、ボンデッドピストンシール31に軸方向に対向させた状態で配置された環状のキャンセルプレート32とを備えている。
【0034】
ボンデッドピストンシール31は、シリンダ部25及び内側円筒部27と共に第1の油圧室35を形成し、多板クラッチCを作動させるクラッチピストンとして機能する。このボンデッドピストンシール31は、金属環36と、ゴム等の弾性素材からなり、この金属環36の外面に固着された第1シール部37とを有している。
【0035】
金属環36は、円環部36a、内円筒部36b、外円筒部36c及びフランジ部36dを備えている。円環部36aは、第2円環部29に対向している。内円筒部36bは、円環部36aの内周縁から内側円筒部27に沿って軸方向一方側に延びて内側円筒部27に隙間を有して嵌合している。外円筒部36cは、円環部36aの外周縁からシリンダ部25に沿って軸方向一方側に延びている。フランジ部36dは、外円筒部36cの軸方向一端部から径方向外方に延びている。
第1シール部37は、円環部36aの外周側端部の第1の油圧室35側に加硫接着されており、シリンダ部25の内周面に摺接する外周側シールリップ37bを有している。
【0036】
内側円筒部27の外周面には凹溝27cが形成されており、この凹溝27cにはOリングからなる第2シール39が装着されている。第2シール39は、ボンデッドピストンシール31の内円筒部36bの内周面に摺接する。
【0037】
内側円筒部27には、第1の油圧室35に作動油を供給するための油路27dが設けられている。この油路27dから第1の油圧室35に作動油を供給することによって、ボンデッドピストンシール31をシリンダ部25の内部で軸方向一方側に移動させることができる。これにより、フランジ部36dの押圧面36eで多板クラッチCを軸方向に沿って押圧して、多板クラッチを接続状態にすることができる。
【0038】
キャンセルプレート32は、内側円筒部27とボンデッドピストンシール31の外円筒部36cとの間に嵌め込まれており、ボンデッドピストンシール31と内側円筒部27と共に第2の油圧室41を形成している。キャンセルプレート32は、ボンデッドピストンシール31の内周側に位置する大径円環部32aと、この大径円環部32aよりも軸方向一端側に位置する小径円環部32bと、これらを軸方向に繋ぐ円筒部32cとを備えている。
キャンセルプレート32にはSPFH鋼板が用いられており、プレス成型により前記の形状に成形されている。キャンセルプレート32は、成形後に全体的にガス軟窒化処理が施されて硬化されている。
【0039】
内側円筒部27の内周における、キャンセルプレート32の軸方向一方側に隣接する部位には、リング溝27eが形成されていて、リング溝27eにはスナップリング42が嵌め込まれている。そして、小径円環部32bの軸方向一方側の側面とスナップリング42の軸方向他方側の側面とが接触することにより、キャンセルプレート32の軸方向一方側への移動が規制されている。
【0040】
大径円環部32aの外周端部には、キャンセルプレート32と、ボンデッドピストンシール31との間を密封する合成ゴム等の弾性素材からなる環状の第3シール43が加硫接着されている。第3シール43は、ボンデッドピストンシール31の外円筒部36cの内周面に摺接するシールリップ43bを有している。第3シール43は、キャンセルプレート32とボンデッドピストンシール31との間を密封することで、第2の油圧室41を密封している。また、小径円環部32bの内周縁部には、ハウジング24の内側円筒部27との間を密封する合成ゴム等の弾性素材からなる第4シール32hが加硫接着されている。
【0041】
前記シリンダ装置2Aは、第1の油圧室35に作動油を供給して、ボンデッドピストンシール31を軸方向一方側に移動させることにより、多板クラッチCを押圧して、これを接続状態にすることができる。この状態から、第1の油圧室35への作動油の供給を停止し、第1の油圧室35からの作動油の排出を許容して、第2の油圧室41に作動油を供給すると、ボンデッドピストンシール31を軸方向他方側に移動させて、多板クラッチCの押圧状態を解除することができる。
【0042】
前記シリンダ装置2Aは、そのキャンセルプレート32がガス軟窒化処理によって硬化されているので、スナップリング42との接触部32i(
図4参照)のへたりや摩耗が進行するのを抑制することができる。このため、硬化処理が施されていない従来のキャンセルプレートに比べて、その板厚を薄くすることができる。したがって、キャンセルプレート32の耐久性を確保しつつ軽量化を図ることができる。
【0043】
[効果確認試験]
実施例として実施形態1に示すキャンセルプレートを作成し、これをベルト式自動変速機に組み込んだ状態を再現した試験装置に組み込んで、耐久試験を行った。比較例として、実施例と同じ型番でガス軟窒化処理が施されていない従来のキャンセルプレートを作成し、これを前記試験装置に組み込んで耐久試験を行った。
【0044】
1.実施例の仕様
(1)材質:SPFH鋼板
(2)寸法:外径139.7mm 内径82.0mm 板厚:1.6mm
(3)表面硬さ:HV600
(4)窒化層深さ:20μm
2.比較例の仕様
(1)材質:SPFH鋼板
(2)寸法:外径139.7mm 内径82.0mm 板厚:1.6mm
(3)表面硬さ:HV200
3.耐久試験条件
(1)キャンセルプレートとスナップリングとの接触面圧:200MPa
(2)試験時間:車両走行距離91,000km相当
【0045】
前記耐久試験の結果、実施例のキャンセルプレートのスナップリングとの接触部には接触痕を認めるのみで、摩耗の発生は認められなかった。これに対して比較例のキャンセルプレートのスナップリングとの接触部は、深さ0.25mmの摩耗が認められた。この結果から、実施例は比較例に比べて優れた耐久性を発揮できることが確認された。
【0046】
[疲労破壊試験]
比較例の板厚を2.0mmから1.6mmにした以外は前記耐久性試験に用いたものと同じ実施例及び比較例を作成し、それぞれについて疲労破壊試験を行った。
この疲労破壊試験は、実施例及び比較例について、最大主応力を500MPaから1050MPaの間で段階的に変化させて行った。
【0047】
図5は労破壊試験結果を示すS−N線図である。
図5のグラフ中、黒に塗り潰した四角及び丸は、疲労破壊に至るまでの試験結果であり、白抜きの四角及び丸は、疲労破壊に至る前に試験を打ち切ったときの結果である。
この疲労破壊試験の結果、実施例の疲労限度は739MPaであるのに対して、比較例の疲労限度は563MPaであり、実施例の疲労限度が比較例の疲労限度に比べて約30%向上していることが分かる。
【0048】
この発明は前記実施形態に限定されるものでは無い。例えば前記実施形態では、キャンセルプレートの全体にガス軟窒化処理を施して、その全体を硬化させた場合を示したが、少なくともスナップリングとの接触面が、ガス軟窒化処理によって硬化されていればよい。
また、この発明は、自動変速装置以外の種々の機器のシリンダ装置にも適用して実施することができる。