特許第6387276号(P6387276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝キヤリア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000002
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000003
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000004
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000005
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000006
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000007
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000008
  • 特許6387276-冷凍サイクル装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387276
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20180827BHJP
   F24F 11/41 20180101ALN20180827BHJP
   F24F 11/52 20180101ALN20180827BHJP
   F24F 11/84 20180101ALN20180827BHJP
【FI】
   F25B49/02 A
   F25B49/02 520E
   F25B49/02 570Z
   !F24F11/41
   !F24F11/52
   !F24F11/84
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-194095(P2014-194095)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-65660(P2016-65660A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 賢
(72)【発明者】
【氏名】畠田 崇史
【審査官】 小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−127568(JP,A)
【文献】 特開平08−021675(JP,A)
【文献】 特開2001−133090(JP,A)
【文献】 特開平01−019267(JP,A)
【文献】 特開2008−249234(JP,A)
【文献】 特開平04−093567(JP,A)
【文献】 特開2013−137165(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0018096(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00 − 11/89
F25B 43/00 − 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸込んで圧縮し吐出する圧縮機を有し、その圧縮機から吐出される冷媒を凝縮器、膨張弁、および蒸発器に通して前記圧縮機に戻す冷凍サイクルと、
室内空気を吸込む室内ファンと、
前記室内ファンの吸込み風路に配置された塵埃除去用のフィルタと、
前記フィルタに塵埃が着いていない状態で前記冷凍サイクルが運転する場合の前記冷媒の飽和温度を前記冷凍サイクルの状態変化量に基づいて予測し、この予測飽和温度と前記冷凍サイクルの運転時における前記冷媒の実際の飽和温度とのずれ量に応じて、前記フィルタの目詰まりによる前記冷凍サイクルの性能低下および前記室内ファンの故障を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記フィルタに塵埃が着いていない状態かつ前記冷凍サイクルの安定運転時、前記冷媒の飽和温度を初期飽和温度として記憶するとともに前記冷凍サイクルの状態量を初期状態量として記憶し;この初期状態量と、その初期状態量の記憶後に前記冷凍サイクルが安定運転しているときの同冷凍サイクルの現状態量との差を、前記状態変化量として検出し;前記記憶した初期飽和温度を前記検出した状態変化量で補正する演算により、前記フィルタに塵埃が着いていない状態で前記冷凍サイクルが安定運転する場合の前記冷媒の飽和温度を予測し;この予測飽和温度と、前記冷凍サイクルの安定運転時における前記冷媒の実際の飽和温度とのずれ量が、第1閾値以上かつ第2閾値(>第1閾値)未満の場合に前記フィルタが目詰まりしていると判定し前記第2閾値以上の場合に前記室内ファンが故障であると判定する、
前記初期状態量は、前記フィルタに塵埃が着いていない状態かつ前記冷凍サイクルの安定運転時における前記圧縮機の運転周波数,前記蒸発器における冷媒の過熱度,前記凝縮器における冷媒の過冷却量,前記室内ファンの速度の少なくとも1つであり、
前記冷凍サイクルの現状態量は、前記初期状態量の記憶後に前記冷凍サイクルが安定運転しているときの前記圧縮機の運転周波数,前記蒸発器における冷媒の過熱度,前記凝縮器における冷媒の過冷却量,前記室内ファンの速度のうち、前記初期状態量と同じ少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記判定部が前記フィルタの目詰まりによる前記冷凍サイクルの性能低下を判定した場合にその旨を報知するとともに、前記判定部が前記室内ファンの故障を判定した場合にその旨を報知する報知手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷凍サイクルの性能低下に対処した冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機から吐出される冷媒を凝縮器、減圧器、蒸発器に通して圧縮機に戻す冷凍サイクルでは、冷媒が通る配管の接続部などから冷媒が漏洩することがある。冷媒が漏洩すると、当然ながら冷凍サイクルの性能が低下する。
【0003】
空気調和機の場合、室内ユニットに装着された塵埃除去用のフィルタが目詰まりして吸込み風量が低下することがある。吸込み風量の低下も、冷凍サイクルの性能低下につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−164265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷凍サイクルの性能低下は、消費電力の増加につながり、省エネルギー性の面で好ましくない。
【0006】
本実施形態の冷凍サイクル装置の目的は、冷凍サイクルの性能低下を確実かつ精度よく検出できることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の冷凍サイクル装置は冷媒を吸込んで圧縮し吐出する圧縮機を有し、その圧縮機から吐出される冷媒を凝縮器、膨張弁、および蒸発器に通して前記圧縮機に戻す冷凍サイクルと;室内空気を吸込む室内ファンと;前記室内ファンの吸込み風路に配置された塵埃除去用のフィルタと;前記フィルタに塵埃が着いていない状態で前記冷凍サイクルが運転する場合の前記冷媒の飽和温度を前記冷凍サイクルの状態変化量に基づいて予測し、この予測飽和温度と前記冷凍サイクルの運転時における前記冷媒の実際の飽和温度とのずれ量に応じて、前記フィルタの目詰まりによる前記冷凍サイクルの性能低下および前記室内ファンの故障を判定する判定部と;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の構成を示すブロック図。
図2】第1実施形態の制御を示すフローチャート。
図3】第1実施形態における膨張弁の予測開度と実開度とのずれ量を、冷媒漏洩量をパラメータとして示す図。
図4】第1実施形態における冷媒漏洩率と冷房時省エネ性能との関係を示す図。
図5】第2実施形態の制御を示すフローチャート。
図6】第2実施形態における飽和温度の予測値と実際値とのずれ量を、目詰まり率をパラメータとして示す図。
図7】第2実施形態におけるフィルタの通風率と冷房時省エネ性能との関係を示す図。
図8】第2実施形態におけるフィルタの通風率と冷房時省エネ性能との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]第1実施形態
以下、第1実施形態について図面を参照して説明する。第1実施形態として、空気調和機に搭載される冷凍サイクル装置を例に説明する。
図1に示すように、圧縮機1の吐出口に四方弁2を介して室外熱交換器3が配管接続され、その室外熱交換器3に電動膨張弁4を介してパックドバルブ5が配管接続される。このパックドバルブ5に室内熱交換器6が配管接続され、その室内熱交換器6にパックドバルブ7が配管接続される。そして、パックドバルブ7に上記四方弁2およびアキュームレータ8を介して圧縮機1の吸込口が配管接続される。これら配管接続により、ヒートポンプ式冷凍サイクルが構成される。
【0010】
圧縮機1は、インバータ10の出力により動作し、冷媒を吸込んで圧縮し吐出する。インバータ10は、商用交流電源の電圧を直流に変換し、変換した直流電圧を所定周波数およびその周波数に応じたレベルの交流電圧に変換する。このインバータ10の出力周波数(交流電圧の周波数)を変えることにより、圧縮機1の能力が変化する。
【0011】
冷房時は、矢印で示すように、圧縮機1から吐出された冷媒が、四方弁2、室外熱交換器3、電動膨張弁4、パックドバルブ5、室内熱交換器6、パックドバルブ7、四方弁2、アキュームレータ8を通って圧縮機1に吸込まれる。この冷媒の流れにより、室外熱交換器3が凝縮器として機能し、室内熱交換器6が蒸発器として機能する。暖房時は、四方弁2の流路が切換わることにより、圧縮機1から吐出された冷媒が、四方弁2、パックドバルブ7、室内熱交換器6、パックドバルブ5、電動膨張弁4、室外熱交換器3、四方弁2、アキュームレータ8を通って圧縮機1に吸込まれる。この冷媒の流れにより、室内熱交換器6が凝縮器として機能し、室外熱交換器3が蒸発器として機能する。
【0012】
電動膨張弁4は、入力される駆動パルスの数に応じて開度が連続的に変化するパルスモータバルブ(PMV)である。室外熱交換器3の近傍に、外気を吸込んで室外熱交換器3に通す室外ファン11が配置される。室内熱交換器6の近傍に、室内空気を吸込んで室内熱交換器6に通す室内ファン12が配置される。この室内ファン12の吸込み風路の上流側に、塵埃除去用のフィルタ13が配置される。室内ファン12が運転すると、室内空気が吸込まれ、その吸込み空気がフィルタ13を通って室内熱交換器6に流入する。吸込み空気に混じる塵埃は、フィルタ13に付着する。室内熱交換器6に流入した空気は、室内熱交換器6を通る冷媒と熱交換した後、空調用空気として室内に吹出される。
【0013】
圧縮機1と四方弁2との間の高圧側配管に、圧力センサ20が取付けられる。室外熱交換器3の冷房時冷媒流出側となる位置に、温度センサ21が取付けられる。室内熱交換器6の冷房時冷媒流入側となる位置に、温度センサ22が取付けられる。四方弁とアキュームレータ8との間の配管に、温度センサ23が取付けられる。室外ファン11の運転により吸込まれる室外空気の風路に、外気温度Toを検知する外気温度センサ24が配置される。室内ファン12の運転により吸込まれる室内空気の風路に、室内温度Taを検知する室内温度センサ25が配置される。
【0014】
室外ユニットAは、圧縮機1、四方弁2、室外熱交換器3、電動膨張弁4、パックドバルブ5、室内熱交換器6、パックドバルブ7、アキュームレータ8、インバータ10、室外ファン11、圧力センサ20、温度センサ21,23、外気温度センサ24などを収容する。室内ユニットBは、室内熱交換器6、室内ファン12、フィルタ13、温度センサ22、室内温度センサ25などを収容する。
【0015】
室外ユニットAおよび室内ユニットBにコントローラ30が接続され、そのコントローラ30にリモートコントロール式の操作表示器31および手操作式のリセットスイッチ32が接続される。
【0016】
操作表示器31は、当該冷凍サイクル装置が搭載される空気調和機の運転条件設定用であり、操作手段および表示手段を有する。リセットスイッチ32は、いわゆる自動復帰型の押釦スイッチであり、コントローラ30が搭載される制御回路基板などに配置される。
【0017】
コントローラ30は、主要な機能として開度制御部51、判定部52、更新部53を有するとともに、データ記憶用の不揮発性のメモリ54を内蔵している。
【0018】
開度制御部51は、蒸発器における冷媒の過熱度SHが目標値SHt一定となるように、電動膨張弁4の開度を制御する(過熱度一定値制御)。蒸発器は、冷房時が室内熱交換器6であり、暖房時が室外熱交換器3である。過熱度SHは、冷房時が温度センサ22の検知温度T2と温度センサ23の検知温度T3との差(=T3−T2)であり、暖房時が温度センサ21の検知温度T1と温度センサ23の検知温度T3との差(=T3−T1)である。
【0019】
判定部52は、冷凍サイクルに性能低下がない場合の同冷凍サイクルの運転状態(電動膨張弁4の開度Qm)を予測し、この予測結果と冷凍サイクルの実際の運転状態(電動膨張弁4の開度Qa)との比較により、冷凍サイクルの性能低下を判定する。
【0020】
具体的には、判定部52は、冷凍サイクルの運転初期かつ安定運転時における電動膨張弁4の開度Qを初期開度Qxとしてメモリ54に記憶するとともに、冷凍サイクルの運転初期かつ安定運転時における冷凍サイクルの状態量を初期状態量としてメモリ54に記憶する。また、判定部52は、メモリ54に記憶した初期状態量と、その初期状態量の記憶後に冷凍サイクルが安定運転しているときの同冷凍サイクルの現状態量との差を、状態変化量として検出する。さらに、判定部52は、上記記憶した初期開度Qxを上記検出した状態変化量で補正する演算により、冷凍サイクルに冷媒漏洩がない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の電動膨張弁4の開度Qmを予測(推定)する。そして、判定部52は、この予測開度Qmと、冷凍サイクルの安定運転時の電動膨張弁4の実際の開度Qaとの差ΔQに応じて、冷凍サイクルの冷媒漏洩による同冷凍サイクルの性能低下を判定する。
【0021】
予測開度Qmは、冷凍サイクルに冷媒漏洩がない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合に、電動膨張弁4が至る筈の本来の開度である。
【0022】
上記初期状態量は、リセットスイッチ32が操作されてから設定時間txが経過した後の安定運転時における運転周波数Fx,凝縮温度Tcx,蒸発温度Tex,過熱度SHxの少なくとも1つである。設定時間txは、運転初期であるところの例えば10〜50時間であり、当該冷凍サイクル装置が設置される環境などに応じた適切な値が選定される。
【0023】
運転周波数Fxは、圧縮機1の運転周波数(インバータ10の出力周波数)である。凝縮温度Tcxは、冷房時は室外熱交換器3に取付けられた温度センサ21の検知温度T1であり、暖房時は室内熱交換器6に取付けられた温度センサ22の検知温度T2である。蒸発温度Texは、冷房時は室内熱交換器6に取付けられた温度センサ22の検知温度T2であり、暖房時は室外熱交換器3に取付けられた温度センサ21の検知温度T1である。過熱度SHxは、冷房時は温度センサ22の検知温度T2と温度センサ23の検知温度T3との差(=T3−T2)であり、暖房時は温度センサ21の検知温度T1と温度センサ23の検知温度T3との差(=T3−T1)である。
【0024】
初期状態量の記憶後における冷凍サイクルの現状態量は、運転周波数Fa,凝縮温度Tca,蒸発温度Tea,過熱度SHaの少なくとも1つである。
【0025】
なお、判定部52は、初期状態量として記憶する要素が運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Te,過熱度SHの4つであれば、同じ4つの要素を現状態量として抽出する。また、判定部52は、初期状態量として記憶する要素が運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Teの3つであれば、同じ3つの要素を現状態量として抽出する。
【0026】
上記更新部53は、メモリ54内の初期開度Qxおよび初期状態量Fx,Tcx,Tex,過熱度SHxをリセットスイッチ32のオン操作に応じて更新する。
【0027】
つぎに、コントローラ30が実行する制御を図2のフローチャートを参照しながら説明する。
コントローラ30は、初期状態フラグfが“0”であるかを判定する(ステップS1)。初期状態フラグfは、初期開度Qxおよび初期状態量の記憶が済んでいるか否かの指標である。コントローラ30は、ユーザや作業員によってリセットスイッチ32がオン操作された場合に、初期状態フラグfを“0”にリセットする。
【0028】
初期状態フラグfが“0”の場合(ステップS1のYES)、コントローラ30は、初期開度Qxおよび初期状態量の記憶が済んでいないとの判断の下に、運転時間tを積算し(ステップS2)、その積算運転時間tが設定時間tx以上(t≧tx)であるかを判定する(ステップS3)。積算運転時間tは、コントローラ30のメモリ54に逐次に更新記憶されるとともに、リセットスイッチ32のオン操作があった場合にコントローラ30によって零クリアされる。
【0029】
積算運転時間tが設定時間tx未満の場合(ステップS3のNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。積算運転時間tが設定時間txに達した場合(ステップS3のYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する(ステップS4,S5,S6)。
【0030】
すなわち、ステップS4において、コントローラ30は、冷凍サイクルの現運転時の過熱度SHaと目標値SHtとの差ΔSHの絶対値“|ΔSH|”が、設定値ΔSHs未満(|ΔSH|<ΔSHs)であるかを判定する。設定値ΔSHsは例えば2〜3Kである。ステップS5において、コントローラ30は、冷凍サイクルの現運転時の過熱度SHaが設定値SHs以上(SHa≧SHs)であるかを判定する。設定値SHsは例えば1〜2Kである。過熱度SHaが設定値SHs以上の場合、過熱度SHaは正の値である。ステップS6において、コントローラ30は、冷凍サイクルの現運転時における圧縮機1の運転周波数Faが設定値Fs以上(Fa≧Fs)であるかを判定する。設定値Fsは例えば30Hzである。
【0031】
ステップS4,S5,S6の判定結果の少なくとも1つが否定の場合(ステップS4のNO、あるいはステップS5のNO、あるいはステップS6のNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。
【0032】
ステップS4,S5,S6の判定結果が共に肯定の場合(ステップS4のYES、ステップS5のYES、ステップS6のYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態に入ったとの判断の下に、その時点の電動膨張弁4の開度Qxを初期開度としてメモリ54に記憶(更新記憶)するとともに、その時点の運転周波数Fx,凝縮温度Tcx,蒸発温度Tex,過熱度SHxを初期状態量としてメモリ54に記憶(更新記憶)する(ステップS7)。
【0033】
初期開度Qxおよび初期状態量Fx,Tcx,Tex,SHxの記憶に伴い、コントローラ30は、初期状態フラグfを“1”にセットし(ステップS8)、ステップS1のフラグ判定に戻る。初期状態フラグfが“1”の場合(ステップS1のNO)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する(ステップS9,S10,S11)。ステップS9,S10,S11の判定は、ステップS4,S5,S6の判定と同じである。
【0034】
ステップS9,S10,S11の判定結果の少なくとも1つが否定の場合(ステップS9のNO、あるいはステップS10のNO、あるいはステップS11のNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。
【0035】
ステップS9,S10,S11の判定結果が共に肯定の場合(ステップS9のYES、ステップS10のYES、ステップS11のYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態に入ったとの判断の下に、メモリ54内の初期状態量Fx,Tcx,Tex,SHxと、冷凍サイクルの現状態量Fa,Tca,Tea,SHaとの差を、状態変化量として検出する(ステップS12)。状態変化量は、運転周波数Fxと運転周波数Faとの差ΔFであり、かつ凝縮温度Tcxと凝縮温度Tcaとの差ΔTcであり、かつ蒸発温度Texと蒸発温度Teaとの差ΔTeであり、かつ過熱度SHxと過熱度SHaとの差ΔSHxaである。
【0036】
続いて、コントローラ30は、冷凍サイクルに冷媒漏洩による性能低下がない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の電動膨張弁4の開度Qmを、上記検出した状態変化量ΔF,ΔTc,ΔTe,ΔSHxaに基づいて予測する(ステップS13)。この予測について、以下、説明する。
まず、電動膨張弁4の開度Qを決める要因として、“かわき度”“冷媒循環量”“蒸発温度Te”“凝縮温度Tc”がある。“かわき度”とは、冷媒が湿り飽和蒸気であるときの蒸気(乾き飽和蒸気)と飽和液との重量比のことである。
【0037】
これらの要因から、電動膨張弁4の開度Qを表わす次の理論式が得られる。
Q=L・(ρ/ΔP)^0.5
Lは、冷媒循環量である。ρは、電動膨張弁4の冷媒入口側における冷媒密度である。ΔPは、電動膨張弁4の冷媒入口側における冷媒の圧力P1と、電動膨張弁4の冷媒出口側における冷媒の圧力P2との、差(=P1−P2)である。ΔPのことを、以下、冷媒圧力差という。
【0038】
冷媒密度ρを除く冷媒循環量Lおよび冷媒圧力差ΔPは、状態変化量の要素である運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Te,過熱度SHをパラメータとして用いる演算により、求めることが可能である。そして、運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Te,過熱度SHを用いて開度Qを補正することにより、冷媒密度ρを知ることができる。冷媒密度ρの変化量は、冷凍サイクルにおける冷媒の変化量でもある。つまり、冷媒密度ρの変化量から、冷媒漏洩の有無を判定することが可能である。
【0039】
上記演算のパラメータとして用いる運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Te,過熱度SHは、冷媒漏洩が生じて冷媒量が減少した場合(冷媒密度ρが減少)でも、その冷媒量の減少の影響をあまり受けない。
【0040】
したがって、初期開度Qxを状態変化量ΔF,ΔTc,ΔTe,ΔSHxaで補正する下式の演算により、冷凍サイクルに冷媒漏洩による性能低下がない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の電動膨張弁4の開度Qmを予測(推定)することができる。この予測開度Qmは、冷凍サイクルに冷媒漏洩による性能低下がないことを前提とした場合に、電動膨張弁4が至る筈の本来の開度である。
Qm=a・ΔF+b・ΔTc+c・ΔTe+d・ΔSHxa+Qx
上記a,b,c,dは、予め実験により求めた定数である。
【0041】
仮に、冷媒漏洩によって冷凍サイクル中の冷媒量が減少した場合(冷媒密度ρが減少)、電動膨張弁4は、コントローラ30の過熱度一定値制御により、予測開度Qmよりも大きい開度に調節される。
【0042】
コントローラ30は、電動膨張弁4の実際の開度Qaを当該開度制御から逐次に認識しており、その開度Qaと予測開度Qmとのずれ量ΔQ(=Qa−Qm)を求める(ステップS14)。そして、コントローラ30は、ずれ量ΔQが閾値ΔQs以上であるかを判定する(ステップS15)。閾値ΔQsは、駆動パルスの数として例えば100パルス分乃至200パルス分の開度であり、冷凍サイクルを構成する機器の容量や配管長などに応じて適切な値が選定される。
【0043】
ずれ量ΔQが閾値ΔQs以上の場合(ステップS15のYES)、コントローラ30は、冷媒漏洩によって冷凍サイクルの性能が低下していると判定する(ステップS16)。この判定に基づき、コントローラ30は、冷凍サイクルに冷媒漏洩による性能低下がある旨を例えば操作表示器31の文字表示やアイコン画像表示により報知する(ステップS17)。この報知により、ユーザは、冷媒漏洩および性能低下を認識し、点検・修理を依頼することができる。
【0044】
なお、冷房時のずれ量ΔQを、冷媒漏洩量をパラメータとして実験により求め、それをプロットしたのが図3である。実線が正規冷媒量、破線がずれ量ΔQ(%)[=(Qa−Qm)/Qa_max]を示している。Qa_maxは電動膨張弁4の最大開度である。Qa=Qmである場合、ずれ量ΔQは、0(%)である。電動膨張弁4の全開開度が500パルス分である場合、ずれ量ΔQ=10(%)は、50パルス分に相当する。
【0045】
冷媒漏洩率と冷房時省エネ性能(冷房能力・COP)との関係を実験により求めた結果を図4に示す。すなわち、冷媒漏洩率が増すほど、冷房能力およびエネルギー消費効率COP(Coefficient-Of-Performance)が低下する。
【0046】
以上のように、冷凍サイクルに冷媒漏洩による性能低下がない場合の電動膨張弁4の開度Qmを冷凍サイクルの状態変化量に基づいて予測し、この予測開度Qmと電動膨張弁4の実際の開度Qaとの比較によって冷凍サイクルの性能低下を判定することにより、冷凍サイクルの配管長にかかわらず、また当該冷凍サイクル装置が搭載される空気調和機の仕様の相異などにかかわらず、冷凍サイクルの冷媒漏洩による性能低下を確実に捕らえることができる。
【0047】
冷凍サイクルの状態変化量として、冷媒漏洩の影響をあまり受けない運転周波数F,凝縮温度Tc,蒸発温度Te,過熱度SHのそれぞれ変化量ΔF,ΔTc,ΔTe,ΔSHxaを用いるので、予測開度Qmを高い精度で求めることができる。結果として、漏洩判定用の閾値ΔQsを低く設定できる。漏洩判定用の閾値ΔQsを低く設定できるので、冷媒の漏洩量が少ない場合でも、その冷媒漏洩を的確に捕えることができる。
【0048】
点検・修理によって冷媒漏洩が解消された場合、あるいは冷凍サイクル中の冷媒を回収する冷媒回収運転が実行されて当該冷凍サイクル装置が別の場所に移設された場合、ユーザや作業員は、リセットスイッチ32をオン操作する。リセットスイッチ32がオン操作された場合、コントローラ30は、新たに運転が開始された後の初期開度Qxおよび初期状態量ΔF,ΔTc,ΔTe,ΔSHxaをメモリ54に更新記憶する。この更新により、以後の冷媒漏洩を確実に捕らえることができる。
【0049】
冷凍サイクルが安定運転状態であることを条件に、初期開度Qxおよび初期状態量ΔF,ΔTc,ΔTe,ΔSHxaを記憶し、かつ冷媒漏洩を判定するので、冷媒漏洩の検出精度が向上する。
【0050】
冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する要素として、“過熱度SHaと目標値SHtとの差の絶対値ΔSHが設定値ΔSHs未満”および“過熱度SHaが設定値SHs以上(過熱度SHが正の値)”という複数の条件を用いるので、圧縮機1に液冷媒が吸込まれるいわゆる液バックや電動膨張弁4の動作遅れがない状態で、冷媒漏洩を判定することができる。
【0051】
運転周波数Fが低い場合に室外熱交換器3に液冷媒が溜まり込むことがあるが、冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する要素として、運転周波数Faが設定値Fs以上という条件を加えているので、液冷媒が室外熱交換器3に溜まり込まない状態で、冷媒漏洩を判定することができる。
【0052】
[2]第2実施形態
第2実施形態は、コントローラ30における判定部52の機能が第1実施形態と異なるだけで、他の構成は第1実施形態と同じである。よって、第1実施形態と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0053】
判定部52は、フィルタ13に塵埃が着いていない場合の冷凍サイクルの運転状態(冷媒の飽和温度Um)を予測し、この予測結果と冷凍サイクルの実際の運転状態(冷媒の飽和温度Ua)との比較により、冷凍サイクルの性能低下を判定する。
【0054】
具体的には、判定部52は、フィルタ13の使用初期(フィルタ13に塵埃が着いていない状態)かつ冷凍サイクルの安定運転時、冷媒の飽和温度Uを初期飽和温度Uxとしてメモリ54に記憶するとともに、冷凍サイクルの状態量を初期状態量としてメモリ54に記憶する。また、判定部52は、上記記憶した初期状態量と、その初期状態量の記憶後に冷凍サイクルが安定運転しているときの同冷凍サイクルの現状態量との差を、状態変化量として検出する。さらに、判定部52は、上記記憶した初期飽和温度Uxを上記検出した状態変化量で補正する演算により、フィルタ13に塵埃が着いていない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の冷媒の飽和温度Umを予測(推定)する。そして、判定部52は、予測飽和温度Umと、冷凍サイクルの安定運転時における冷媒の実際の飽和温度Uaとの差ΔUに応じて、フィルタ13の目詰まりによる冷凍サイクルの性能低下を判定する。フィルタ13の目詰まりとは、多量の塵埃がフィルタ13に付着して、フィルタ13の通風率が悪化する状態のことである。
【0055】
予測飽和温度Umは、フィルタ13に塵埃が着いていない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合に、冷媒の飽和温度Uが至る筈の本来の値である。
【0056】
冷媒の飽和温度Uは、室内熱交換器6の伝熱面積、室内熱交換器6の熱交換量、熱通過率(通風率)、室内温度Taなどにより決定される。室内熱交換器6の伝熱面積は、フィルタ13の目詰まりがあってもなくても同じである。熱通過率は、フィルタ13の目詰まりにより低下する。冷媒の飽和温度Uは、低圧側配管に取付けられている温度センサ23により検知することができる。
【0057】
上記初期状態量は、リセットスイッチ32が操作されてから設定時間tyが経過した後の安定運転時における運転周波数Fx,過熱度SHx,過冷却量SCx,室内ファン速度Wxの少なくとも1つである。設定時間tyは、圧縮機1の起動から一定時間(例えば10分)を超える時間であって、かつフィルタ13の使用初期に相当する所定時間(例えば20時間)である。圧縮機1の起動から一定時間は、冷媒溜まりや膨張弁過絞りの影響で室内飽和温度Uが過渡的に変動し得る時間である。フィルタ13の使用初期に相当する所定時間は、フィルタ13への塵埃の付着量がまだ少ない時間であって、室内ユニットBが設置される室内環境などに応じて適宜に選定される。
【0058】
過冷却量SCは、圧力センサ20の検知圧力Pdから換算される高圧側冷媒温度(飽和凝縮温度)Tdstと温度センサ21の検知温度T1との差(=Tdst−T1)に相当する。室内ファン速度Wxは、室内ファン12の速度である。
【0059】
初期状態量の記憶後における冷凍サイクルの現状態量は、運転周波数Fa,過熱度SHa,過冷却量SCa,室内ファン速度Waの少なくとも1つである。
【0060】
なお、判定部52は、初期状態量として記憶する要素が運転周波数F,過熱度SH,過冷却量SC,室内ファン速度Wの4つであれば、同じ4つの要素を現状態量として抽出する。また、判定部52は、初期状態量として記憶する要素が運転周波数F,過熱度SH,過冷却量SCの3つであれば、同じ3つの要素を現状態量として抽出する。
【0061】
更新部53は、メモリ54内の初期飽和温度Uxおよび初期状態量Fx,SHx,SCx,Wxをリセットスイッチ32のオン操作に応じて更新する。
【0062】
つぎに、コントローラ30が実行する制御を図5のフローチャートを参照しながら説明する。
コントローラ30は、初期状態フラグfが“0”であるかを判定する(ステップS1)。初期状態フラグfは、初期飽和温度Uxおよび初期状態量Fx,SHx,SCx,Wxの記憶が済んでいるか否かの指標である。コントローラ30は、ユーザや作業員によってリセットスイッチ32がオン操作された場合に、初期状態フラグfを“0”にリセットする。
【0063】
初期状態フラグfが“0”の場合(ステップS1のYES)、コントローラ30は、初期飽和温度Uxおよび初期状態量Fx,SHx,SCx,Wxの記憶が済んでいないとの判断の下に、運転時間tを積算し(ステップS2)、その積算運転時間tが設定時間ty以上(t≧ty)であるかを判定する(ステップS3a)。
【0064】
積算運転時間tが設定時間ty未満の場合(ステップS3aのNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。積算運転時間tが設定時間tyに達した場合(ステップS3aのYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する(ステップS4,S5,S6)。
【0065】
ステップS4,S5,S6の判定結果の少なくとも1つが否定の場合(ステップS4のNO、あるいはステップS5のNO、あるいはステップS6のNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。
【0066】
ステップS4,S5,S6の判定結果が共に肯定の場合(ステップS4のYES、ステップS5のYES、ステップS6のYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態に入ったとの判断の下に、その時点の冷媒の飽和温度Uを初期飽和温度Uxとしてメモリ54に記憶(更新記憶)するとともに、その時点の運転周波数Fx,過熱度SHx,過冷却量SCx,室内ファン速度Wxを初期状態量としてメモリ54に記憶(更新記憶)する(ステップS7a)。
【0067】
初期飽和温度UQxおよび初期状態量Fx,SHx,SCx,Wxの記憶に伴い、コントローラ30は、初期状態フラグfを“1”にセットし(ステップS8)、ステップS1のフラグ判定に戻る。
【0068】
初期状態フラグfが“1”の場合(ステップS1のNO)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する(ステップS9,S10,S11)。
【0069】
ステップS9,S10,S11の判定結果の少なくとも1つが否定の場合(ステップS9のNO、あるいはステップS10のNO、あるいはステップS11のNO)、コントローラ30は、ステップS1のフラグ判定に戻る。ステップS9,S10,S11の判定結果が共に肯定の場合(ステップS9のYES、ステップS10のYES、ステップS11のYES)、コントローラ30は、冷凍サイクルが安定運転状態に入ったとの判断の下に、メモリ54内の初期状態量Fx,SHx,SCx,Wxと冷凍サイクルの現状態量Fa,SHa,SCa,Waとの差を状態変化量として検出する(ステップS12a)。すなわち、状態変化量は、運転周波数Fxと運転周波数Faとの差ΔFであり、かつ過熱度SHxと過熱度SHaとの差ΔSHであり、かつ過冷却量SCxと過冷却量SCaとの差ΔSCであり、かつ室内ファン速度Wxと室内ファン速度Waとの差ΔWである。
【0070】
続いて、コントローラ30は、フィルタ13に塵埃が着いていない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の冷媒の飽和温度Umを、上記検出した状態変化量ΔF,ΔSH,ΔSC,ΔWに基づいて予測する(ステップS13a)。
【0071】
状態変化量の要素である運転周波数F,過熱度SH,過冷却量SC,室内ファン速度Wは、フィルタ13が塵埃で目詰まりした場合でも、その影響を受けない。したがって、フィルタ13の使用初期における初期飽和温度Uxを状態変化量ΔF,ΔSH,ΔSC,ΔWで補正する下式の演算により、フィルタ13に塵埃が着いていない状態で冷凍サイクルが安定運転する場合の冷媒の飽和温度Umを予測(推定)することができる。この予測飽和温度Umは、フィルタ13に塵埃が着いていない状態で冷凍サイクルが安定運転することを前提とした場合に、冷媒の飽和温度Uが至る筈の本来の値である。
Um=a・ΔF+b・ΔSH+c・ΔSC+d・ΔW+Ux
上記a,b,c,dは、予め実験により求めた定数である。
仮に、フィルタ13が塵埃で目詰まりした場合、室内熱交換器6の熱通過率が低下する。熱通過率が低下すると、冷房時の飽和温度Uaは、冷媒の熱交換量を確保するべく下降方向に変化し、室内温度Taとの差が大きくなる(悪化する)。
【0072】
コントローラ30は、冷凍サイクルの現運転時における冷媒の飽和温度Uaを逐次に求め、求めた飽和温度Uaと予測飽和温度Umとのずれ量ΔU(=|Ua−Um|)を求める(ステップS14)。そして、コントローラ30は、求めたずれ量ΔUが閾値ΔU1以上であるかを判定する(ステップS15a)。閾値ΔU1は、例えば3Kであり、室内熱交換器6の容量などに応じて適切な値が選定される。
【0073】
ずれ量ΔUが閾値ΔU1以上の場合(ステップS15aのYES)、コントローラ30は、ずれ量ΔUが閾値ΔU2(>U1)以上であるかを判定する(ステップS15b)。
【0074】
ずれ量ΔUが閾値ΔU1以上・閾値ΔU2未満の場合(ステップS15aのYES、ステップS15bのNO)、コントローラ30は、フィルタ13が塵埃で目詰まりしていると判定する(ステップS16a)。この判定に基づき、コントローラ30は、フィルタ13が塵埃で目詰まりして冷凍サイクルの性能が低下している旨を例えば操作表示器31の文字表示やアイコン画像表示により報知する(ステップS17)。この報知により、ユーザは、フィルタ13の目詰まりおよびそれに伴う冷凍サイクルの性能低下を認識し、フィルタ13を清掃または交換することができる。
【0075】
ずれ量ΔUが閾値ΔU2以上の場合(ステップS15bのYES)、コントローラ30は、風量低下がフィルタ13の目詰まりでなく室内ファン12の故障によるものであると判定する(ステップS16b)。この判定に基づき、コントローラ30は、室内ファン12が故障している旨を例えば操作表示器31の文字表示やアイコン画像表示により報知する(ステップS17)。この報知により、ユーザは、室内ファン12の故障を認識し、点検・修理を依頼することができる。
【0076】
なお、冷房時のずれ量ΔUを、フィルタ13の目詰まり率をパラメータとして実験により求め、それをプロットしたのが図6である。
【0077】
フィルタ13の通風率と冷房時省エネ性能(入力電力・冷房能力・COP)との関係を実験により求めた結果を図7に示す。フィルタ13の通風率が低下するほど、入力電力、冷房能力、エネルギー消費効率COPが共に低下する。
【0078】
フィルタ13の通風率と暖時省エネ性能(入力電力・暖房能力・COP)との関係を実験により求めた結果を図8に示す。フィルタ13の通風率が低下するほど、入力電力が上昇して暖房能力とエネルギー消費効率COPが低下する。
【0079】
以上のように、フィルタ13に塵埃が着いていない場合の冷媒の飽和温度Umを冷凍サイクルの状態変化量に基づいて予測し、この予測飽和温度Umと冷媒の実際の飽和温度Uaとの比較によってフィルタ13の塵埃による目詰まりを判定することにより、空調負荷の変動に影響を受けることなく、フィルタ13の塵埃による目詰まりを確実に捕らえることができる。ひいては、冷凍サイクルの性能低下を確実に捕らえることができる。
【0080】
冷凍サイクルの状態変化量として、フィルタ13が塵埃により目詰まりした場合でもその影響を受けない運転周波数F,過熱度SH,過冷却量SC,室内ファン速度Wのそれぞれ変化量ΔF,ΔSH,ΔSC,ΔWを演算に用いるので、予測飽和温度Umを高い精度で算出することができる。
【0081】
フィルタ13の清掃や交換が済んだ場合、あるいは室内ファン12の修理や交換が済んだ場合、ユーザや作業員は、リセットスイッチ32をオン操作する。リセットスイッチ32がオン操作された場合、コントローラ30は、新たに運転が開始された後の初期飽和温度Uxおよび初期状態量をメモリ54に更新記憶する。この更新により、その後においても、フィルタ13の塵埃による目詰まりおよびそれに伴う冷凍サイクルの性能低下を確実に捕らえることができる。
【0082】
冷凍サイクルが安定運転状態であることを条件に判定を行うので、フィルタ13の塵埃による目詰まりを精度よく捕らえることができる。
【0083】
[変形例]
上記各実施形態では、冷凍サイクルが安定運転状態にあるか否かの判定要素として、“冷凍サイクルの現運転時の過熱度SHaと目標値SHtとの差ΔSHの絶対値が設定値ΔSHs未満”という条件(ステップS4)を用いたが、それに代えて“電動膨張弁4の開度Qaの単位時間当りの変化量ΔQaが設定値ΔQas未満の状態を一定時間tz以上継続”という条件を用いてもよい。設定値ΔQasは、駆動パルスの数として例えば3パルス乃至5パルス分の開度であり、冷凍サイクル機器の容量や配管長などに応じて適切な値が選定される。一定時間tzは、例えば3分乃至5分であり、これも冷凍サイクル機器の容量や配管長などに応じて適切な値が選定される。
【0084】
冷凍サイクルが安定運転状態にあるかを判定する要素として、さらに、外気温度センサ24により検知される外気温度Toが設定値Tos未満という条件を加えてもよい。外気温度Toが低い場合に室外熱交換器3に液冷媒が溜まり込むことがあるので、外気温度Toが設定値Tos未満という条件を加えることにより、液冷媒が室外熱交換器3に溜まり込まない状態で冷媒漏洩を検出できる。
【0085】
上記各実施形態では、メモリ54の記憶内容を更新する手段として手操作式のリセットスイッチ32を設けたが、同様のリセット操作手段を操作表示器31に設けてもよい。
【0086】
上記各実施形態は、空気調和機に搭載される冷凍サイクル装置を例に説明したが、給湯機等の他の機器に搭載される冷凍サイクル装置においても同様に実施可能である。
【0087】
その他、上記各実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な各実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…圧縮機、2…四方弁、3…室外熱交換器、4…電動膨張弁、6…室内熱交換器、10…インバータ、11…室外ファン、12…室内ファン、13…フィルタ、30…コントローラ、31…操作表示部、32…リセットスイッチ、51…開度制御部、52…判定部、53…更新部、54…メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8