(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロッカーアームに設けられたローラに当接するカムが回動することによりロッカーアームの一端側に設けられた摺動部材に当接する弁棒が上下動することにより吸気弁または排気弁を開閉する構造を有する内燃機関の動弁装置の当該ロッカーアームの製造方法であって、上記ロッカーアームに設けられた溝部に摺動部材を配置し、当該摺動部材の下面側に金型を配置し、当該摺動部材の上面側に拘束部材を配置し、当該摺動部材を、上面側に配置した拘束部材と下面側に配置した金型と溝部のロッカーアームとで拘束した状態でロッカーアーム側方から加圧することによって、溝部のロッカーアームを変形させて摺動部材を両側から挟みこんで保持するように、上記弁棒をガイドするためのステムガイドを形成することを特徴とする内燃機関の動弁装置のロッカーアームの製造方法。
摺動部材に上方に向けて突出させたスリッパ軸を溝部の上部に設けたスリッパ孔に挿入して溝部に固定した状態で摺動部材を配置することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の動弁装置のロッカーアームの製造方法。
【背景技術】
【0002】
一端部がカムシャフトのカムに接触し、他端部が内燃機関の吸気弁または排気弁(吸排気弁)と連携して、上記カムの作用により中間部を支点として揺動することによって吸排気弁を開閉するロッカーアームの材料として、動弁装置の軽量化のためにアルミニウム合金等の鉄鋼材料よりも軽量の材料が用いられることが多い。しかし、ロッカーアームは鉄鋼材料からなるカムと接触して揺動する構造であるため、鉄鋼材料よりも強度の低いアルミニウム合金等からなるロッカーアームの摺動部では摩耗が進行しやすい。そのために、ロッカーアームの摺動部には耐摩耗性に優れた部材が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
図6に示すように、ロッカーアーム31のバルブステムとの当たり面にセラミック体32を固着する構造であって、プッシュロッドとの当たり面に浸炭焼き入れした鋼製の受け部材33をねじ止めし、セラミック体32の嵌合軸は、ロッカーアーム31の嵌合孔34に圧入される構造のロッカーアームが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、
図7に示すように、軽合金であるアルミニウム合金製のロッカーアーム本体41と、このロッカーアーム本体41の回動端に設けられ、カム軸と摺接によりカム係合する耐摩耗性のある焼結合金製の係合体42とを有し、ロッカーアーム本体41には上下方向に貫通する貫通孔43が形成され、係合体42には貫通孔43に嵌入される支軸44が上下方向に向かって一体的に突設され、支軸44の外周面には全周にわたって結合溝たる周溝45が形成され、ロッカーアーム本体41が上方から加圧されることによって生じた貫通孔43内周面の塑性変形部分が周溝45に嵌りこみ、これによって貫通孔43内周面に支軸44が固着され、この固着で係合体42がロッカーアーム本体41に固着される構造のロッカーアームが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、
図8に示すように、アルミニウム系の粉末冶金合金材からなるロッカーアーム本体51にSCr材からなるチップ52の脚部53を埋め込む構造のロッカーアームを模した試験片が開示されている。
【0006】
そして、特許文献4には、
図9に示すように、バルブ側本体61とカム側本体 62とが接合されてなるアーム本体63を有し、カムシャフトとともに回転するカムに接触してカムの回転運動をアーム本体63に伝達するカム接触部材としてのカム接触パッド64を有し、カム接触パッド64の裏面にはカム側本体62に形成されたアリ溝に対応するアリ突起が形成され、上記アリ溝にアリ突起が嵌ることでカム接触パッド64がカム側本体62に固着される構造のロッカーアームが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の内燃機関の高回転に伴い、摺動による負荷が増大する結果、特許文献1と2に記載されたような摺動部材(セラミック体32と係合体42)を圧入する方法では、この摺動部材とロッカーアームとの締結力が不足してしまう恐れがある。
【0009】
また、特許文献3と4に開示された摺動部材(チップ52とカム接触パッド64)は、先端部に近づくにつれて幅が広くなる凸部と、底部に近づくにつれ幅が狭くなる凹部を圧入により嵌合する構造であるから、圧入方向に対して垂直の方向に対して摺動部材をしっかりと位置決め固定することができる。しかし、実際に摺動部材を正確に位置決め固定するには凸部と凹部を高精度に仕上げ加工する必要がある。ところが、特許文献3と4に開示された複雑な構造の凸部と凹部に対して高精度に仕上げ加工を施す場合、大幅な製造コストの上昇を招いてしまう。
【0010】
本発明は、従来の前記問題点に鑑みてこれを改良したものであって、製造コストを増大させることなく、耐摩耗性を有する摺動部材が装着されたロッカーアームの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本願発明は、ロッカーアームに設けられたローラに当接するカムが回動することによりロッカーアームの一端側に設けられた摺動部材に当接する弁棒が上下動することにより吸気弁または排気弁を開閉する構造を有する内燃機関の動弁装置の当該ロッカーアームの製造方法であって、上記ロッカーアームに設けられた溝部に摺動部材を配置し、当該摺動部材の下面側に金型を配置し、当該摺動部材の上面側に拘束部材を配置し、当該摺動部材を、上面側に配置した拘束部材と下面側に配置した金型と溝部のロッカーアームとで拘束した状態でロッカーアーム側方から加圧することによって、溝部のロッカーアームを変形させて摺動部材を両側から挟みこんで保持するように、上記弁棒をガイドするためのステムガイドを形成することを特徴とする内燃機関の動弁装置のロッカーアームの製造方法を第一発明とし、
上記第一発明において、摺動部材に上方に向けて突出させたスリッパ軸を溝部の上部に設けたスリッパ孔に挿入して溝部に固定した状態で摺動部材を配置することを特徴とする内燃機関の動弁装置のロッカーアームの製造方法を第二発明とする。
【発明の効果】
【0012】
本願第一発明によれば、精密な加工を施す必要がなく、低コストで摺動部材の締結力を十分に確保しつつ弁棒をガイドするためのステムガイドを形成することができる。しかも、摺動部材を、上面側に配置した拘束部材と下面側に配置した金型と溝部のロッカーアームとで拘束した状態でロッカーアーム側方から加圧するので、摺動部材の装着位置を高精度で制御するとともに、ステムガイドを高精度で成形することができる。
本願第二発明によれば、ロッカーアームに対して摺動部材を容易に位置決めすることができるので、摺動部材の装着精度およびステムガイドの成形精度を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、内燃機関上部の部分縦断面図である。
【
図2】
図2(a)は吸気ロッカーアーム13aの平面図、
図2(b)は
図2(a)のB−B断面図、
図2(c)は吸気ロッカーアーム13aの側面図、
図2(d)は吸気ロッカーアーム13aの底面図、
図2(e)は吸気ロッカーアーム13aの端面図である。
【
図3】
図3(a)は摺動部材17aの平面図、
図3(b)は摺動部材17aの側面図、
図17(c)は摺動部材17aの端面図、
図3(d)は
図3(a)のD−D断面図である。
【
図4】
図4(a)、
図4(b)および
図4(c)は
図5(b)のX−X断面を拡大して示す、ステムガイドの成形過程を概念的に示す図である。
図4(d)は
図4(c)の一部をさらに拡大して示す図である。
【
図5】
図5(a)は吸気ロッカーアーム13aに摺動部材17aを挿入してステムガイド21を成形する過程を上方から見た概念図、
図5(b)は吸気ロッカーアーム13aに摺動部材17aを挿入してステムガイド21を成形する過程を側方から見た概念図、
図5(c)は
図5(b)のX−X線断面を拡大して示す図である。
【
図6】
図6は、特許文献1に記載されたロッカーアームの一部を断面にして示す分解正面図である。
【
図7】
図7は、特許文献2に記載されたロッカーアームの側面断面図である。
【
図8】
図8は、特許文献3に記載されたロッカーアームを模した試験片の斜視図である。
【
図9】
図9は、特許文献4に記載されたロッカーアームの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。
図1において、1は4サイクルエンジンの上部で、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に取り付けられるシリンダヘッド3とを有し、シリンダブロック2内にはシリンダ4が上下摺動自在に装入されている。
【0015】
シリンダヘッド3には、吸気ポート5と排気ポート6とが形成され、吸気ポート5を開閉自在とする吸気弁7と、排気ポート6を開閉自在とする排気弁8とが設けられている。これら吸気弁7、排気弁8はそれぞれ吸気ポート5、排気ポート6を閉じる方向にスプリング9、10で付勢されている。
【0016】
シリンダヘッド3には、吸気弁7と排気弁8を作動させる動弁装置11が設けられており、以下に、動弁装置11について説明する。
シリンダヘッド3には一対のローラ軸12aと12bとが支持され、各ローラ軸12a、12bにはそれぞれ吸気ロッカーアーム13a、排気ロッカーアーム13bが上下回動自在に枢支されている。
【0017】
シリンダヘッド3には、図示しないクランク軸に連動して回動する吸気カム14aと排気14bが支持されている。吸気カム14aは吸気ロッカーアーム13aのローラ軸12aに嵌着されたローラ15aに当接しており、排気カム14bは排気ロッカーアーム13bのローラ軸12bに嵌着されたローラ15bに当接している。
【0018】
クランク軸の回動に伴って吸気カム14aが回動すると、ローラ15aを介して吸気ロッカーアーム13aは枢支部16aを支点として上下動し、クランク軸の回動に伴って排気カム14bが回動すると、ローラ15bを介して排気ロッカーアーム13bは枢支部16bを支点として上下動する。吸気ロッカーアーム13aの一端側には摺動部材17aが装着されており、排気ロッカーアーム13bの一端側には摺動部材17bが装着されている。摺動部材17aは吸気弁7の弁棒18aに当接しており、摺動部材17bは排気弁8の弁棒18bに当接している。
【0019】
かくして、吸気ロッカーアーム13aが枢支部16aを支点として上下動すると、これに連動して吸気弁7がスプリング9の弾発力に抗して吸気ポート5を開閉させ、排気ロッカーアーム13bが枢支部16bを支点として上下動すると、これに連動して排気弁8がスプリング10の弾発力に抗して排気ポート6を開閉させる。
【0020】
図2(a)は吸気ロッカーアーム13aの平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のB−B断面図、
図2(c)は吸気ロッカーアーム13aの側面図、
図2(d)は吸気ロッカーアーム13aの底面図、
図2(e)は吸気ロッカーアーム13aの端面図である。
図1から明らかなように、排気ロッカーアーム13bはシリンダ4の上下方向中心軸4aに対して吸気ロッカーアーム13aと線対称の関係にあるので、以下には吸気ロッカーアーム13aについて説明するが、同様のことが排気ロッカーアーム13bについてもあてはまる。
【0021】
図1に示すように、吸気ロッカーアーム13aは枢支部16aを支点として上下動するが、
図2(b)に示すように、吸気ロッカーアーム13aには枢支部16aを受け入れるための曲面状の凹部19が形成されており、吸気ロッカーアーム13aの一端側には摺動部材17aが装着されている。そして、摺動部材17aの下面のスリッパ面20と弁棒18aの端面とが接触することで、
図1に示すように、スプリング9の押圧力を受けて吸気ロッカーアーム13aに設けられたローラ15aが吸気カム14aに向けて付勢されている。
【0022】
図1に示すように、吸気ロッカーアーム13aは、枢支部16aを上下動の支点として、吸気カム14aと吸気弁7の弁棒18aとで上下から挟みこまれるようにして支持されているだけなので、摺動部材17aと弁棒18aの端面とのローラ軸12a方向の位置関係がずれないように、
図2(e)に示すように、摺動部材17aの両側には弁棒18aを挟みこむことができるようにステムガイド21が設けられている。
【0023】
図3(a)は摺動部材17aの平面図、
図3(b)は摺動部材17aの側面図、
図3(c)は摺動部材17aの端面図、
図3(d)は
図3(a)のD−D断面図である。摺動部材17bは摺動部材17aと同じ働きをするので、以下には摺動部材17aについて説明するが、同様のことが摺動部材17bについてもあてはまる。
【0024】
摺動部材17aは耐摩耗性および摺動特性に優れた材料、例えば、熱処理や表面処理が施された鉄鋼材料、焼結合金またはセラミックスで製造される。鉄鋼材料としては、浸炭鋼、軸受鋼などを挙げることができ、セラミックスとしては、Si
3N
4、SiC、Al
2O
3などを挙げることができる。
図3(a)〜(d)に示すように、摺動部材17aには、中心部に円柱状のスリッパ軸22が設けられ、吸気ロッカーアーム13aの所定の位置に設けられたスリッパ孔(
図4(a)の25参照)にスリッパ軸22を挿入することにより、摺動部材17aを吸気ロッカーアーム13aに対して位置決めすることができる。
【0025】
図3(d)に示すように、摺動部材17aの下面には円弧状のスリッパ面23が形成されている。
図3(c)に示すように、摺動部材17aの下部側面は、スリッパ面23に近づくにつれて幅が減少するように傾斜したテーパ面24、24となっている。
【0026】
吸気ロッカーアーム13aには、摺動部材17aを挟みこんで固定するための溝部(
図4(a)の26参照)が設けられている。この溝部に摺動部材17aを配置して、所定寸法のステムガイドを成形することができる。
【0027】
次に、摺動部材17aを吸気ロッカーアーム13aに取り付ける手順について説明する。
(1)
図4(a)に示すように、摺動部材17aのスリッパ軸22を吸気ロッカーアーム13aのスリッパ孔25に挿入し、吸気ロッカーアーム13aの溝部26に所定寸法の金型27を挿入して摺動部材17aを金型27上に配置する。この金型27はスリッパ面23に対応した円弧形状を備えており、摺動部材17aの位置決めを正確に行うことができる。
【0028】
(2)
図4(b)に示す矢示方向(ローラ軸方向)に加圧して所定寸法となるまで変形させる。このとき、摺動部材17aは、左右から加圧されるとともに、上方に配置された拘束部材28と下方に配置された金型27とによって上下方向からも拘束された状態にある。このように、摺動部材17aは上下左右から完全に拘束された状態で、ステムガイド21が成形される(
図4(c)参照)。スリッパ軸22がスリッパ孔25に挿入された状態で成形されるので偏って成形されることがなく、仮に、吸気ロッカーアーム13aの中心と摺動部材17aの中心とがステムガイド21の成形中心に対して平面視でずれた状態にあったとしても、吸気ロッカーアーム13aは摺動部材17aとともに左右方向に移動させるか、又は吸気ロッカーアーム13aはスリッパ軸22を中心として回転させることにより、ステムガイド21の成形中心(金型27の中心)に対して吸気ロッカーアーム13aの中心と摺動部材17aの中心を合せることができるので、
図4(c)に示すように、左右対称形状のステムガイド21、21を成形することができる。
【0029】
(3)
図4(b)および(c)に示すように、ステムガイド21の内壁部21aは金型27の側面に押し付けられて成形されるので、正確な寸法が得られるうえ、ステムガイド21の内壁部21aも金型27の表面粗度に対応した粗さが得られる。
【0030】
(4)
図3(c)に示すように、摺動部材17aの下部側面には、スリッパ面23に近づくにつれて幅が減少するように傾斜したテーパ面24、24が形成されていて、吸気ロッカーアーム13aはこのテーパ面24に沿った形状に成形されて加締められた状態となっているので、摺動部材17aの側面を弾性的に挟み込む状態となる。また、このテーパ面24によって
図4(d)に示す矢示方向の力(締結力)が摺動部材17aに作用するので、摺動部材17aが吸気ロッカーアーム13aに押し付けられ、両者を強力に締結できるうえ、密着性も向上するため、摺動部材17aの上下方向の装着精度が向上する。
図3(c)に示す傾斜角θを大きくすれば上記締結力を増加させることができ、傾斜角θを小さくすれば上記締結力を減少させることができる。
(5)さらに高い締結力が必要な場合は、スリッパ軸22端面に加締めを行うことができる。
【0031】
図5(a)は吸気ロッカーアーム13aに摺動部材17aを挿入してステムガイド21(
図2(e)参照)を成形する過程を上方から見た概念図、
図5(b)は吸気ロッカーアーム13aに摺動部材17aを挿入してステムガイド21(
図2(e)参照)を成形する過程を側方から見た概念図、
図5(c)は
図5(b)のX−X線断面図である。
【0032】
図3(c)に示すように、摺動部材17aの下部側面はスリッパ面23に近づくにつれて幅が減少するように傾斜したテーパ面24となっているが、このテーパ面24は必ずしも直線状である必要はなく、曲面状であってもよく、要求される形状精度や製造コストや強度などに対応して様々な形状を採用することができる。
【0033】
図4(a)に示すスリッパ軸22とスリッパ孔25の形状については、スリッパ軸22を円形断面とするだけでなく、多角形断面とすることもできる。要するに、スリッパ孔25の形状をスリッパ軸22の形状に対応させて、吸気ロッカーアーム13aの中心と摺動部材17aの中心とをステムガイド21の成形中心に対して平面視で一致させるように、スリッパ軸22を中心として吸気ロッカーアーム13aを回転させることができるものであればよい。
【0034】
ロッカーアームの材料としては、アルミニウム合金等に限らず、鉄系や樹脂材料等が使用された場合であっても、スリッパ面23が摩耗する恐れがある場合は本発明を適用することができる。