(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程c)において、前記第2の触媒層が、予め製作された触媒層を熱および圧力を用いて前記イオノマー膜の上に転写するデカール転写法によって適用される、請求項1または2に記載の方法。
前記第1の触媒層および/または前記第2の触媒層が、ナイフ塗布、スロットダイ塗布、スライド塗布、カーテン塗布、ロール塗布、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷およびフレキソ印刷ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって、インクを流延または印刷することにより適用される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、反応物、すなわち燃料および酸化剤の流体流れを変換して、電力および熱を発生させる電気化学的電池である。広範な反応物が燃料電池において使用され得、そのような反応物は気体流れまたは液体流れとして供給され得る。例えば、燃料流れは、実質的に純粋な水素ガス、ガス状水素含有改質油流れまたは水性アルコール(例えば、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)におけるメタノール)であり得る。酸化剤は、例えば、純粋な酸素または希薄酸素流れ(例えば、空気)であり得る。
【0003】
これまでに開発された種々の燃料電池の種類の中で、PEMFC(ポリマー電解質膜燃料電池)が、移動用途、固定用途および携帯用途に対する重要性の高まりを得つつある。そのようなPEM燃料電池において、ポリマー電解質膜は、典型的に、酸形態のペルフッ素化スルホン酸ポリマー膜である。この膜は、アノード層とカソード層との間にそれらと接触した状態で配置され;アノードにおける電極触媒およびカソードにおける電極触媒が、PEM燃料電池における(アノードでの)水素酸化および(カソードでの)酸素還元の所望の電気化学的反応を惹起する。
【0004】
PEM燃料電池の重要な構成要素は、所謂触媒被覆膜(以下「CCM」と略記)である。触媒被覆膜は、層状構造をなして構築され、アノード触媒層(燃料電池の負極)、イオノマー膜、およびカソード触媒層(正極)から実質的になる。両触媒層の間にそれらと接触した状態で膜が配置される。ガス拡散層または封止材などのさらなる構成要素が追加され得る。3層触媒被覆膜(CCM)および両側に取り付けられた2つのガス拡散層(GDL)を含む接合体は、しばしば膜電極接合体(MEA)と称される。その結果、そのようなMEAは5つの層からなる。導電材料で作られかつ反応物に流れ場を提供する双極板が、隣接するMEAの間に配置される。いくつものMEAおよび双極板がこのようにして組み立てられて、燃料電池スタックが得られる。
【0005】
これまで、CCMの3つの層(すなわち、第1の触媒層、イオノマー膜および第2の触媒層)が中間乾燥工程を伴ってまたは伴わずに次々に積み重ねて製作されるプロセスが開発されてきた。そのようなプロセスは、本特許出願の文脈において「一体型プロセス」と称される。一般に、CCMは、全製造プロセスの間支持基材上にあり、したがって、離層および/または再積層工程は必要とされない。さらに、そのような一体型プロセスは、圧力を加える必要なしに、膜と電極との間に極めて良好な界面をもたらす。したがって、膜の完全性が保存される。
【0006】
前記「一体型プロセス」または「一体型方法」に従って製造されるCCM製品は、こうしたCCMが、異なる層の間に非常に良好な付着性を有する一体化した構造物として形成されるものであることから、下記において「一体型CCM」と呼ばれる。概して、本出願で使用される用語「一体型触媒被覆膜」および「一体型CCM」は、液体イオノマー組成物の使用によって少なくとも1つの触媒層と接触した状態でイオノマー膜が製作される方法に従って製造された触媒被覆膜(CCM)をいう。
【0007】
本発明は、PEM燃料電池のための一体型触媒被覆膜(CCM)の製造方法に関する。
【0008】
CCMの数多くの製作方法が、先行技術において報告されている。
【0009】
典型的な方法は、所謂「デカール法」であり、この方法においては、2つの触媒層(アノードおよびカソード)が2つの支持フィルム上で別個に供給され、イオノマー膜の2つの反対の位置にある表面に、熱および圧力によって転写される(デカール転写法)。この方法には、膜と電極の製作に典型的に用いられる触媒インクの溶媒との間の接触を妨げるという利点があるが、この方法にはいくつかの不利点がある。第1に、この方法は、多くの加工工程(例えば、別個の電極および膜の製作工程、デカール転写工程など)を含有する。第2に、触媒層と膜との接触は、膜への電極の乾式適用のため最適ではない。最後に、デカール転写プロセスの間に圧力が使用されるので、膜が損なわれ得るであろう。これは、特に膜が非常に薄いもの(例えば、15μmまたはそれ以下)である場合に、短絡または耐久性の低下を引き起こし得る。
【0010】
CCMの別の典型的な製作方法は、イオノマー膜への触媒層の直接塗布である(例えば(特許文献1)および(特許文献2)参照)。この方法は、層の湿式堆積のため、デカール法に比べて、電極と膜との間により良好な界面をもたらすと考えられるが、しかしながら、この方法には依然として著しい欠点がある。塗布過程において膜が著しく膨潤し得、したがって、製造工程の間膜を支持箔に担持させながら、触媒層の塗布が行われることが推奨される((特許文献3)参照)。これにより、さらなる離層および再積層工程の必要が生じ、これがプロセスを複雑にし、極めて薄い膜を取り扱う場合に重大になり得る。
【0011】
上記の製作方法の制約を克服するために、支持体フィルムから出発してCCMの3つの層が中間乾燥工程を伴ってまたは伴わずに次々に積み重ねて製作されるプロセスが開発された。そのような「一体型プロセス」および先に規定した「一体型CCM」が、本特許出願の対象である。
【0012】
(特許文献4)は、以下の工程、すなわち、1)不活性支持体上に第1の電極触媒層を塗布する工程、2)その第1の電極上にイオノマー膜を塗布する工程、3)その膜上に第2の電極触媒層を塗布する工程、および4)不活性支持体上の3層構造物をアニールする工程からなる、CCMの一体型調製方法について記載している。第1の触媒層上への膜の塗布(工程2)のために使用されるイオノマー分散体は、十分に高い、すなわち(25℃および剪断速度0.1s
−1において)100cPより高い、好ましくは500cPより高い粘度を有する必要があることが開示されている。そのような高い粘度は、不活性支持体から第1の触媒層が除去されるのを防ぐため、および電極層の細孔内へのイオノマー分散体の浸透を回避するために必要とされると主張されている。(特許文献4)の実施例2は、1000cPの粘度を有する分散体を用いている。
【0013】
(特許文献5)は、一体型方法に従うCCMの調製について記載している。イオノマー分散体が、仮支持体に適用された第1の電極の自由表面に適用され、次いで乾燥されて膜を形成する。次いで、第2の電極が、膜の自由表面の上に製作され、乾燥される。結果として生じるCCMは、最後に仮支持体から取り外される。実施例1は、電極表面に膜を引き続き製作する際の電極の細孔構造内へのイオノマーの浸透を防ぐために、速乾性溶媒中のNafion(登録商標)分散体またはNafion(登録商標)を多量に含む触媒インクの封止層が第1の触媒層の上に適用されるべきであることを教示している。n−ブタノール溶媒中のイオノマーの12wt%固形分分散体が実施例において膜製作のために使用されているが、膜製作のためのイオノマー分散体の好ましい特性は開示されていない。
【0014】
(特許文献6)は、一体型CCMの別の製造方法について記載している。この特許は、第1の触媒層がアノードに対応し、第2の触媒層がカソードとして作用するものである場合が好ましいことを教示している。これは、イオン交換膜を構成するイオノマーが第1の触媒層の細孔に含浸し、その中で固化し、それにより、触媒層が緻密になりすぎて、電池の電流−電圧特性を損なうであろう酸素の限られた質量輸送速度のために、カソードとして適切に使用できなくなるからである。イオノマー塗布溶液は、1〜50wt%の間、特に5〜35wt%の間の固形分を有すると規定されているが、そのようなイオノマー溶液の粘度に関しては、言及されていない。
【0015】
さらに、(特許文献7)が、一体型CCMを作製するための方法を開示している。第1の電極層上にイオノマーフィルムを形成するためのイオノマー溶液の特性については言及されていない。
【0016】
(特許文献8)は、第1の塗料を基材上に塗布して第1の触媒層を形成した後に、触媒層上にこれがまだ乾いていない間にイオノマー溶液(第2の塗料)を塗布して電解質層を形成する、CCM製造方法について記載している。次いで、電解質層の表面を乾燥させてからか、または電解質層のいかなる乾燥もなしに、第3の塗料を電解質層上に塗布して第2の触媒層を形成する。(特許文献8)によれば、第1の触媒層の上にこれがまだ乾いていない間に電解質層を塗布することは、触媒層の気孔内へのイオノマーの浸透を防ぎ、したがって、電気的性質の劣化を防ぐ。第2の触媒層がイオノマー層上に前記イオノマー層の乾燥の前に塗布される場合において、この特許出願は、第2の触媒層の亀裂を回避する1つの方法が、イオノマー塗料に十分に高い粘度を与えることであることを教示している。増粘剤またはゲル化剤を導入することが提案されている。イオノマー塗料の粘度(η
1)は、第2の触媒層を製作するために使用される塗料の粘度(η
2)の1/25を下回るべきではなく、1つの実施形態は、電解質塗料の粘度η
1が、第2の触媒層を製作するために使用される塗料の粘度η
2をさらには上回る(η
1>η
2)べきであることを教示している。実施例3は、電解質塗料について、以下の特性、すなわち、23.5wt%のイオノマーならびに25℃および1s
−1で測定されたη
1=0.7Pa s(=700cP)を報告している。実施例4においては、増粘剤の導入により、イオノマー塗料の粘度が20倍高くさえある値にまで至らされている。
【0017】
(非特許文献1)という発表は、発泡PTFE強化膜を含むCCMの製作方法について述べている。この方法においては、第1の電極がバッキング支持体上に塗布され、乾燥される。第2の工程において、含浸ePTFEフィルムが、第1の電極の上に付着され、次いで乾燥される。最後に、含浸ePTFEフィルムが、第2の電極で被覆され、乾燥されて、CCMが得られる。依然として、こうした製造方法は、優れた性能を特に乾燥した燃料電池作動条件下において示すMEAの製造を可能にするように改善される必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
概して、高い生産速度は、低粘度の分散体を用いることによって、多くの塗布法で達成され得る。例には、浸漬塗布、ナイフ塗布、スロットダイ塗布、スライド塗布、カーテン塗布および類似のものがある。国際公開第2010/142772号パンフレットに詳述されているように、低粘度、低表面張力および高濃度を有する分散体が、高性能強化膜を得るためには好ましい。しかしながら、膜が第1の電極の上に塗布される一体型CCM製作プロセスにおいて、先行技術は、電極特性の劣化を伴う電極内への分散体の浸透のため、イオノマー塗料としての低粘度分散体の使用を回避することを教示している。
【0024】
乾燥したガスの供給下において改善された燃料電池性能を示すCCMを得るためには、電極中に存在するイオノマーの量(すなわち、イオノマー/触媒比)を高めることが、概して実行可能である。しかしながら、これは、PEMFCを湿潤条件下において作動させる場合には、電極、特にカソードが水浸しになり、電池性能が劣化していくということを典型的に含意している。特に、より高い電流密度においては、カソード側で、より多くの水が生成され、より多くの酸素が必要とされる。そのようなイオノマー量の増加(すなわち、高いイオノマー/触媒比)は、主として移動PEMFC用途における燃料電池の動的作動の間に生じる様々な条件下において堅牢に動作することができないCCM製品に繋がる。
【0025】
驚くべきことに、CCMの製作において、低粘度および高イオノマー濃度という特徴を併せ持つイオノマー分散体を用いて第1の電極の上に膜を直接塗布することによって膜が作製される場合に、結果として生じるCCMは、あらゆる作動条件下において、特に乾燥したガスの供給の場合において改善された電池性能を示すということが見出された。意外なことに、低粘度および高イオノマー濃度を有する分散体の使用は、高い膜生産速度および改善された膜設計という利点だけでなく、燃料電池性能の点で改善された電極特性をも結果としてもたらす。
【0026】
本発明は、第1の触媒層と、イオノマー膜と、第2の触媒層とからなる3層触媒被覆膜(CCM)を調製するための方法に関し、本発明によれば、前記方法は、
a)支持基材上に第1の触媒層を調製する工程と、
b)第1の触媒層をイオノマー分散体で被覆して、第1の触媒層と接触した状態のイオノマー膜を形成する工程と、
c)イオノマー膜の上に第2の触媒層を適用する工程と
を含み、ここで、工程b)において適用されたイオノマー分散体は、10〜400センチポアズ(cP)の範囲内、好ましくは10〜200cPの範囲内、さらにより好ましくは10〜80cPの範囲内の粘度、および15〜35wt%の範囲内、好ましくは15〜25wt%の範囲内のイオノマー濃度を有する。
【0027】
CCM製作の工程a)において、第1の触媒層(第1の電極)は、支持基材上に電極触媒を含有するインクを塗布することによって調製され得る。別の実施形態において、触媒層は、支持基材上に真空蒸着法によって調製され得る。さらに、塗布法および真空蒸着法の組み合わせが使用され得る。
【0028】
CCM製作の工程b)において、膜は、触媒層の上にイオノマー分散体を直接流延して、「流延膜」と一般的に呼ばれるもの、すなわち、主としてイオノマーを場合によっては他の無機添加剤または有機添加剤と混合して含む緻密膜を得ることによって調製され得る。別の実施形態において、イオノマー分散体は、微孔質強化用フィルム上に流延され、次いでこれが、イオノマー分散体の溶媒が蒸発される前に第1の触媒層に付着されて、最終CCMにおいて強化膜が得られる。
【0029】
微孔質強化用フィルムの例には、GORE−TEX(登録商標)、Tetratex(登録商標)およびBHA−Tex(登録商標)という商標で販売されている発泡PTFE(ePTFE)、SOLUPOR(登録商標)という商標で販売されている微孔質ポリエチレン、Treo−Pore(登録商標)という商標で販売されている微孔質ポリプロピレン、微孔質PVDFなどがある。そのような微孔質強化用フィルムは、典型的に、緻密ポリマーフィルムの二軸延伸によって作製される。他の方法(例えば、溶媒ベースの転相法およびエキシマーレーザー技術によるフィルムの微細加工)もまた、微孔質強化用フィルムを得るために使用され得る。燃料電池膜に好適な微孔質強化材のレーザー微細加工による調製は、例えば、米国特許第7,947,405号明細書(セラミック強化材)および米国特許第7,867,669号明細書(ポリマー強化材)に開示されている。
【0030】
微孔質支持体は、それを第1の触媒層に付着させる前に、例えば浸漬塗布によりまたはスロットダイ塗布により、両面とも塗布され得る。あるいは、微孔質強化材は、片面に塗布が行われ、第1の触媒層に付着され、かつ場合によっては第2(上方)の面に塗布が行われて、イオノマー分散体の含浸が完了し得る。あるいは、微孔質強化材は、それが流延により第1の電極層上に堆積された後にイオノマー分散体中に埋封され得る。微孔質強化材へのイオノマーの適用順序に関わりなく、イオノマー分散体が第1の電極層と接触する際にイオノマー分散体の溶媒が依然として実質的に蒸発されておらず、したがってイオノマー分散体の粘度が本発明により規定される範囲内にあることが、本発明の実現に不可欠である。これは、分散体が、第1の触媒層と接触する前に微孔質強化材上に堆積される場合には、溶媒の実質的蒸発を防ぐために、含浸フィルムが、迅速に第1の触媒層と接触した状態に至らされなければならないということを含意している。
【0031】
本発明の方法の工程c)において、第2の触媒層の適用は、様々なやり方で行われ得る。1つの実施形態において、第2の触媒層は膜接合体の上に直接塗布されるが、他の適用方法が実行可能である。本発明のさらなる実施形態において、第2の触媒層(電極)は、デカール転写法によって適用される。この実施形態は、以下「混合アプローチ」と呼ばれ、このアプローチにおいては、第1の触媒層が、イオノマー分散体で被覆されて膜接合体を生じ、続いて第2の触媒層が、熱および圧力を用いたデカール転写法により第1の電極−膜接合体に転写される。これによっては、第2の触媒層は予め製作されており、支持フィルム(デカール剥離フィルム)上に供給され、第2の触媒層が膜/第1の触媒層接合体の膜側に面した状態で配置され、次いで、熱および圧力を用いて膜に転写される。膜の上への第2の触媒層の直接塗布は、非常に薄い、具体的に言えば15μmよりも薄い膜を当該方法で得る場合に特に好ましく、この場合においては、第2の触媒層のデカール転写の間に膜を損傷するという危険が回避される。
【0032】
さらなる任意選択の工程d)において、本発明の方法は、アニール工程を含み得る。一例として、第2の電極が膜の上に流延される場合は、CCMの完成後にアニール工程が実施される、すなわち3つの層が一度にアニールされることが好ましい。概して、前記アニール工程は、工程b)後、工程c)後、または工程b)および工程c)後に行われ得る。アニール工程は、膜を強化し、膜と両電極との間に最適な界面を形成する。
【0033】
「混合アプローチ」を適用する場合、アニール工程は、第2の触媒層のデカール転写の前または後に行われ得るか、または代替的に、接合体はデカール転写の過程において既に熱に曝露されているので省かれ得る。
【0034】
アニール工程d)は、概して、少なくとも120℃、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも170℃の温度で実施される。最高温度は、膜層中および電極層中のイオノマーが影響を受けずかつ電極中の電極触媒が損なわれないならば特に限定されない。したがって、アニール工程d)は、概して、260℃を超えない、好ましくは240℃を超えない、さらにより好ましくは220℃を超えない温度で実施される。
【0035】
イオノマー分散体は、概して、15〜50mN/mの範囲内、好ましくは15〜30mN/mの範囲内の、25℃で測定された表面張力を有する。本発明のイオノマー分散体の表面張力は、ASTM D 1331−89規格の方法Aに準じて張力計を用いて測定される。
【0036】
(ペル)フッ素化イオン交換ポリマーの分散体は、典型的に、(ペル)フッ素化イオン交換ポリマー(すなわち、イオノマー)を、適切な水性媒体または水−アルコール媒体に溶解または懸濁させることによって調製される。そのような液体分散体を得るのに有用な方法は、例えば、米国特許第4,433,082号明細書、英国特許第1286859号明細書、欧州特許出願公開第1004615A号明細書または米国特許第6,150,426号明細書に記載されている。
【0037】
そのような分散体を得るのに好適なイオノマーは、完全にフッ素化(ペルフッ素化)されたまたは部分的にフッ素化されたポリマーであり、典型的に、以下の官能基、すなわち、スルホン酸基(−SO
3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO
3H
2)、スルホニルアミド基(−SO
2NH
2)、ビス−スルホニルイミド基(−SO
2NHSO
2−)、ビス−カルボニルイミド基(−CONHCO−)、スルホニルカルボニルイミド基(−SO
2NHCO−)を、場合によっては組み合わせで含有する。炭化水素(非フッ素化)イオノマーもまた使用され得る。そのような炭化水素イオノマーの例には、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリスルホンおよびスルホン化ポリスチレンがある。本発明において使用される好ましいイオノマーは、スルホン酸官能基と共にペルフッ素化されているものである。
【0038】
ペルフッ素化イオノマー分散体は、例えばNafion(登録商標)DE、Aciplex(登録商標)SS、Aquivion(登録商標)Dという商品名で、商品化されている。こうした液体組成物は、溶液と呼ばれることもあるが、一般に、ポリマー粒子の分散体(すなわち、コロイド懸濁液)であると認識されている。イオノマー分散体が高イオノマー濃度において低粘度であることを必要とする本発明の目的のために、当該分散体は、好ましくは、イオノマーを高温(典型的には>180℃)で純水に溶解させ、次の工程でその分散体を他の溶媒(例えば、水と混和性のアルコールまたは他の極性溶媒)と配合することによって得られる。実際のところ、高温溶解工程が、イオノマーを膨潤させる傾向がある溶媒(例えば、アルコール、例えば、2−プロパノール、t−ブタノール)の存在下で実施される場合には、一般に、高粘度の分散体が結果として生じる。
【0039】
分散体とアルコールまたは他のイオノマー膨潤性溶媒との配合の後に環境よりも著しく高い温度、典型的には60℃以上に分散体を曝露することは、低い値の粘度を維持するために、一般に、回避されなければならない。粘度値はまた、ポリマー特性(化学構造、当量重量、分子量、および分散前におけるイオノマーの加工の仕方を含む)にも依存する。一例として、国際公開第2010/142772号パンフレットは、フッ素元素によるフッ素化か、または極性有機溶媒による処理により、フルオロ−イオノマー精製を行って、低粘度分散体を得ることを教示している。
【0040】
本発明の方法における使用のための分散体は、典型的に、少なくとも1種の極性有機溶媒を含む。好適な極性有機溶媒(1種または複数種)は、≧15の誘電率を有するべきである。極性有機溶媒は、プロトン性または非プロトン性であり得る。プロトン性溶媒の例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、ならびにそれらの混合物および組み合わせがある。好ましい溶媒は、1−プロパノールである。
【0041】
さらなる成分が、本発明において使用されるイオノマー分散体中に存在し得る。非イオン界面活性剤(例えば、TRITON(登録商標)界面活性剤、TERGITOL(登録商標)界面活性剤)が挙げられ得;さらに、高沸点有機添加剤(例えば、リン酸トリエチル(TEP)、N−メチル−ピロリドン(NMP)、炭酸エチレン(EC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc))が使用され得る。
【0042】
さらなる成分が、イオノマー分散体中に含まれ得る。こうした成分は、典型的に、分散体から出発して調製される膜の機械的および化学的耐久性を向上させるために添加される。機械的耐久性を向上させるためには、無機または有機成分が添加され得る。無機成分は、例えば、シリカ粒子、ヘテロポリ酸、金属リン酸塩およびホスホン酸塩(典型的には、層状リン酸ジルコニウムおよびホスホン酸ジルコニウム)を含む。有機成分は、通常は、ポリマー、例えば、フッ素化ポリマー(例えば、フィブリル形態のPTFEナノ粒子)または炭化水素ポリマー(例えば、(通常は、アルカリ金属水酸化物と混合した)ポリアゾール)である。化学的耐久性を向上させるためには、典型的には無機または有機スカベンジャー分子が、分散体に添加され得る。無機スカベンジャーは、典型的には、場合によっては金属酸化物ナノ粒子(例えば、コロイドシリカ)に担持されているCeまたはMn化合物(例えば、塩または酸化物)である。有機スカベンジャーは、例えばフェノールまたはキノンを含み得る。分散金属ナノ粒子(例えば、Pt族ベースのナノ粒子)もまた、イオノマー分散体中に含まれ得る。
【0043】
以下の部分では、本発明の方法の種々の加工工程が、より詳細に説明される。
【0044】
調製されるべき第1の電極は、好ましくは、カソードである(実施例1参照)。これにより、本発明に従うイオノマー分散体を用いて第1の電極の上に膜が塗布された場合に、改善された特性がカソードに付与される。また、カソードの方が通常はより大きな影響をCCMの最終燃料電池挙動に及ぼす電極であるので、CCM性能もこれにより強力に改善される。しかしながら、適用分野によっては、本発明の方法において、塗布されるべき第1の電極は、アノードであってもよい。
【0045】
各層は、好ましくは、次の層が塗布される前に乾燥される。乾燥とは、溶媒の少なくとも80%が塗布層から除去されることを意味している。概して、連続生産に好適なベルト乾燥炉が使用される。典型的な乾燥温度は、40〜120℃の範囲内にある。
【0046】
第1の触媒層の調製のための、そしてそのあと製作プロセスの間において全CCMを支持するための支持基材(キャリアー基材)として、不活性な非多孔質フィルムが使用され得る。用語「不活性(な)」とは、当該プロセスにおいて使用される溶媒およびイオノマー化合物と化学的に反応しない支持体をいう。さらに、支持基材は、溶媒により膨潤すべきではなく、かつ当該プロセスが操作される際の温度において良好な機械的結着性および寸法安定性を維持すべきである。電極の適切な取り外しおよびデカール法での前記電極の適切で完全な転写を可能にするために、キャリアー基材が良好な剥離特性、すなわち低い表面エネルギーを有することが、先行技術においては通常推奨されている。好ましい基材は、例えば、フルオロポリマーフィルムまたは良好な剥離特性のための表面処理(例えば、ケイ素処理)を加えたポリマーフィルムである。そのような材料の例には、PTFEフィルム、ガラス繊維強化PTFEフィルム、ETFEフィルム、ECTFEフィルム、FEPフィルムおよびケイ素処理PETフィルムがある。表面処理された紙フィルムもまた使用され得る。
【0047】
概して、本発明に従う方法は、第1の触媒層から支持基材を取り除く工程をさらに含み得る。本発明者らは、本発明の方法を適用すると、支持基材上に残る残留触媒のない触媒層の良好な剥離が、高い表面エネルギーを有する支持体(例えば、剥離処理なしの炭化水素ポリマーフィルムまたは金属被覆ポリマーフィルム)を用いる場合でさえも達成されることを見出した。これは、これらのフィルムが、通常、塗布がより容易であり、かつ非常に良好な機械的性質(例えば、塗布の間において完全な平面性を維持しながらの良好なロールツーロール加工のための適切な剛性)および良好な寸法安定性(膜またはCCMの乾燥およびアニールの間における収縮なし)を伴って得られ得るので有利である。しかしながら、低表面エネルギーの支持体もまた使用され得る。
【0048】
支持基材としては、微孔質フィルムも、そしてGDLさえも使用することが可能である。後者の場合、CCMは、GDLに一体的に結合される。GDLがキャリアー基材として使用され、第2のGDLが第2の触媒層に乾燥前に結合される場合は、完全な5層MEAを製作するために熱圧工程は全く必要とされない。
【0049】
概して、本発明の方法の加工工程は、全部または一部が連続製造ラインで実施され得る。特に、連続する3層の塗布は、そのような製造ラインで中間巻取り工程なしに実施され得る。あるいは、各層が塗布後に乾燥される場合においては、中間の巻取りおよび巻出しが見込まれ得る。後者のアプローチは、異なる塗布技術が、異なる速度で進む例えば電極および膜生産のために使用されることを可能にする。
【0050】
特定の実施形態において、カーボンブラックと疎水性結合剤とを含む第1の微孔質層が、第1の電極を塗布する前に支持基材上に塗布され得、そして第2の微孔質層が、第2の電極の上に塗布され得る。
【0051】
さらなる実施形態において、ガス拡散層(GDL)が、支持基材として使用され得る。ガス拡散媒体またはバッキングとも呼ばれることがあるガス拡散層は、典型的に、炭素ベースの基材(例えば、不織炭素繊維紙または炭素織布)を含む。GDLは、任意選択で、カーボンブラックと疎水性結合剤とを含む微孔質層で被覆され得る。好適なGDLは、様々な販売業者から市販されている。
【0052】
概して、触媒層において使用される電極触媒は、アノード側では燃料の酸化、そしてカソード側では酸素の還元を触媒することができる金属を含む。典型的に、白金族金属(PGM=Ru、Os、Rh、Ir、PdおよびPt)および白金族金属と卑金属とを含む合金を含む電極触媒が用いられる。より典型的には、白金電極触媒および白金合金電極触媒が使用される。純水素を用いて作動する燃料電池については、通常、純Pt電極触媒がアノード側で使用され、PtかまたはPt合金がカソード側で使用される。触媒貴金属ベースの粒子は、典型的には微分散され、好ましくはカーボンブラック担体上、導電性金属酸化物担体上、または金属もしくはセラミックコア担体上に担持される。好ましくは、貴金属ベースのナノ粒子が、カーボンブラック担体上または導電金属酸化物担体上に担持される。カーボンブラック担体は、例えば、アモルファスの高表面積カーボンブラックまたは黒鉛化されたカーボンブラックもしくはグラファイトであり得る。好適な電極触媒は、様々な販売業者から市販されている。
【0053】
金属またはセラミックコア担体上に担持された電極触媒の例には、触媒活性貴金属がナノサイズの金属またはセラミックコア粒子の表面に適用されている、所謂コア−シェル型電極触媒がある。
【0054】
上記の電極触媒を含有する触媒層および電極は、典型的に、触媒インクを用いて塗布工程により調製される。先行技術において記載されているように、そのような触媒インクは、電極触媒粉末を、分散媒およびイオノマーをさらに含有するインク中に分散させることによって調製される。好適な分散媒は、水と水に混和性の1種以上の極性溶媒との混合物である。インク中に含まれるイオノマーは、典型的に、分散体として提供されており、例えば、Nafion(登録商標)DE、Aciplex(登録商標)SS、Aquivion(登録商標)Dという商品名で商品化されているものである。
【0055】
疑義を回避するために述べると、触媒インク調製のために使用されるイオノマー分散体は、本発明において概説されるような粘度およびイオノマー濃度に関する特定の要件を満たす必要はない。
【0056】
他の添加剤(例えば、動的作動の間の高電圧への曝露から電極を守るIrまたはRuベースの触媒粒子などの水酸化触媒)が、インクに添加され得る。他の添加剤は、疎水性粒子(例えば、PTFE)または細孔形成剤であり得る。
【0057】
触媒インクは、典型的に、当該技術分野において記載されているような流延法または印刷法によって電極にされる。これらの方法としては、ナイフ塗布、スロットダイ塗布、スライド塗布、カーテン塗布、ロール塗布、噴霧、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などが挙げられる。概して、それに続く乾燥工程が、触媒インクに含まれている溶媒の除去のために適用される。
【0058】
好ましくは、定量供給装置(dosing equipment)(塗布ヘッド、塗りロールまたは印刷版)が塗布されるべき基材と直接接触していることを必要としない塗布法または印刷法(例えば、スロットダイ塗布またはインクジェット印刷)が、本発明の方法において膜上への第2の電極の直接塗布のために使用される。そのような塗布法の使用は、基材への直接接触を回避し、したがって、特に接合体が非常に薄い膜を含有する場合に、膜損傷の危険を防止する。
【0059】
概して、本発明の方法はまた、真空蒸着法が第1および第2の触媒層の調製のために使用される実施形態も含む。第1の触媒層の場合においては、真空法は、触媒層を直接支持基材上に調製するために使用され得る。第2の触媒層の場合においては、この触媒層は、好適な基材上に真空蒸着法によって予め製作され、次いで、デカール転写法を用いて電極/膜接合体に転写され得る(すなわち、デカール転写による第2の触媒層の適用)。デカール転写法を用いる場合、触媒層は、触媒インクを用いた塗布法によって予め製作されてもよいということに留意されたい。混合および組み合わせが可能である。
【0060】
第1の触媒層の調製のため、そしてまた「混合アプローチ」(すなわち、デカール転写による第2の触媒層の適用)の場合における第2の触媒層の予めの製作のためにも、真空蒸着法は使用され得る。そのような方法としては、物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法およびスパッタ法が挙げられる。これらの場合において、典型的には有機または無機マイクロウィスカーが、真空蒸着法によって基材上に生成され、通常は続いてアニールされ、次いで、再び真空蒸着法を用いて触媒金属で被覆される。このようにして、「ナノ構造化薄膜」触媒層と一般的に呼ばれる触媒層が得られる。マイクロウィスカーを生成するための好ましい分子は、有機平面芳香族分子である。触媒金属は、典型的に、白金族金属および白金族金属を含む金属合金である。そのような触媒層製作方法は、例えば、米国特許第5,338,430号明細書および米国特許第5,879,827号明細書に記載されている。真空蒸着法およびインク塗布法の組み合わせはまた、異なる構造および組成特性を有する異なる副層からなる触媒層を得るためにも使用され得る(例えば国際公開第2011/087842号パンフレット参照)。
【0061】
一体型CCMの製作のための本発明の方法の適用により、特に、極めて低いイオン抵抗が電極において達成され、結果として、PEM燃料電池の乾燥作動条件および湿潤作動条件下において著しく改善した性能を示すCCMがもたらされる。
【0062】
先行技術のCCMと本発明に従って製造されたCCMとの間の比較を可能にするために、電極抵抗は、その厚さに対して(または代替的に、貴金属添加量に対して)正規化されて異なるCCMの間の比較を可能にして表されなければならない。見かけのカソード抵抗率値ρ
a(すなわち、カソード厚さに対して正規化された見かけの比面積抵抗)<650Ωcmおよびさらには<300Ωcm(85℃および相対湿度21%で測定)が、本発明の方法によって作製された一体型CCMにより達成された。方法の項に詳述されるように、ρ
aは、インピーダンス分光法測定、電池の活性面積およびカソード厚さから求められ得る。25Ωcm〜650Ωcmの範囲内、好ましくは25Ωcm〜500Ωcmの範囲内の見かけのカソード抵抗率ρ
aの値が、本発明の方法によって得られ得る。そのような低い値は、特に、湿潤作動条件における電池性能が影響を受けないまたはさらには改善されるという事実と組み合わせては、以前にはまだ示されたことはなかった。
【0063】
1.5Ωcm
4mg
−1未満およびさらには1.35Ωcm
4mg
−1未満の貴金属(p.m.)添加量に対して正規化された見掛けのカソード抵抗値r
LNが、本発明の方法を用いてCCMを製作することによって達成された。方法の項に詳述されるように、r
LNは、インピーダンス分光法測定、電池の活性面積およびカソードの貴金属(p.m.)添加量から求められ得る。0.1Ωcm
4mg
−1〜1.5Ωcm
4mg
−1の範囲内、好ましくは0.1Ωcm
4mg
−1〜1.35Ωcm
4mg
−1の範囲内の見かけのカソード抵抗の値(p.m.添加量に対して正規化)が、典型的に、本発明の方法によって得られる。そのような低い値は、特に、湿潤電池性能が影響を受けないまたはさらには改善されるという事実と組み合わせては、以前にはまだ報告されたことはなかった。
【0064】
膜を製作するために使用されるイオノマーおよび場合によっては微孔質強化材の量は、所望の膜厚さを達成するように選択される。典型的に、非常に乾燥した条件および非常に湿った条件においてCCMの良好な性能を伴って電池を作動させなければならない用途には、膜厚さは、25μm未満、好ましくは20μ未満およびさらにより好ましくは15μm未満であることが好ましい。3〜10μmの範囲内の厚さを有する膜(超薄膜)でさえも、CCMに組み込まれ得る。
【0065】
乾燥および湿潤の両方の燃料電池作動条件下において機能するCCMに特に適している、そのような薄い厚さの膜の使用により、本発明の方法は、触媒層が同種の条件下において改善された様式で機能することが企図されている、理想的なCCMを提供する。
【0066】
注目すべきことには、CCMがキャリアーフィルム上に支持された状態で製作されかつCCM製作の間に膜がプレス工程に供されることがないことから、本発明の方法は、特に、超薄膜を一体化することが企図されている。
【0067】
方法の項
本特許出願において報告されている関連パラメータのうちのいくつかの測定のための測定方法、条件およびプロトコルが、下記においてより詳細に説明される。
【0068】
粘度測定:
イオノマー分散体の粘度は、動的機械的レオメーターを用いて、「クエット」配置(すなわち、同心で組み立てられた円筒)を用い、定常速度掃引モードにおいて25℃の温度で測定される。ロータ/カップ型NVと組み合わせたHAAKE Viscotester Type 550という回転式Searle型粘度計が使用される。粘度値は、100s
−1の剪断速度および25℃の温度で測定される。
【0069】
イオノマー含有量の測定:
イオノマー分散体のイオノマー含有量は、恒量に達するまで箱形炉内で保護的窒素雰囲気下において200℃に加熱した時の、およそ10グラムの試料の減量をモニタリングすることによって、重量分析により測定される。
【0070】
電気化学的試験:
触媒被覆膜(CCM)の電気化学的試験は、0.8mmのチャネル幅を有するグラファイト二重チャネル蛇行流れ場を備えた、50cm
2の単セルにおいて行われる。セルは、対向流で作動させる。CCMは、非圧縮性強化PTFEガスケットでシールされる。ガス拡散層(GDL)が、触媒層と流れ場プレートとの間においてCCMの両側に適用される。実験において用いられるGDLは、アノード側およびカソード側において、それぞれSigracet(登録商標)SGL24 BiおよびSigracet(登録商標)SGL25 BCH(SGL,Meitingen,Germanyから)である。GDLは、単セル内で、その元の厚さの80%に圧縮される。セルは、通風機によって空冷される。作動ガスは、冷却/加熱噴水装置を用いることによって加湿される。セル性能の測定(I/V分極による)および触媒層抵抗の測定(インピーダンス分光法による)に先立って、セルは、8時間にわたり水素/空気中で予め状態調整される。分極測定は、水素/空気(化学量論=1.5/2)中、1.5バールの圧力で、以下の条件下において行われる:乾燥条件については、セル温度は、95℃で保たれ、アノードおよびカソードの加湿は、61℃で行われる。湿潤条件については、セル温度は、60℃で維持され、アノード/カソードの加湿は、60℃で行われる。I/V分極データポイントは、最高電流から開放電圧までのものが、各ポイントにおいて15分間にわたり電流を保ち、電流保持の最後の10秒の間の平均電圧値を取ることによって得られる。
【0071】
カソード触媒層の正規化抵抗:
触媒層抵抗は、電気化学インピーダンス分光法により、高周波数領域におけるスペクトルを分析して測定され得る。この抵抗は、電子抵抗が無視できるほどであるという事実から、通常、電極のイオン抵抗に相当する。この方法は、CCMのアノード側およびカソード側の両方に適用され得、下記においてはカソード側に適用されて、「見かけのカソード触媒層抵抗」と呼ばれるものが得られる。
【0072】
この方法の一般理論は、特にR.Makharia et al.,Journal of Electrochemical Society,152(5),A970−A977(2005)に記載されており、燃料電池電気化学の分野における当業者によく知られている。本特許出願において適用される方法によれば、セルには、セル電圧を0.5Vに保ちながら、アノード側(参照電極)に水素が供給され、カソード側(測定電極)に窒素が供給される。次いで、5mVの摂動振幅を適用して、周波数を50kHzから0.1Hzまで変化させながら、ACインピーダンススペクトルが記録される。使用した計器は、ZAHNER IM6(Zahner Electric GmbH,Kronach,Germany)である。
【0073】
ナイキストプロット表示(Re(Z)に対する−Im(Z)、ここで、Zはセルのインピーダンスである)において、Im(Z)=0のポイントから出発して、曲線は、典型的に、第1の(およそ)45°の勾配を示し、次いで、曲線は、垂直またはほぼ垂直な状態に変化する(
図5参照)。勾配の変化は、通常かなり急激であり、十分正確に特定され得る。この勾配変化が起こるRe(Z)値を得るための可能な方法は、第1の直線L
1により(およそ)45°の勾配の曲線の部分を、そして第2の直線L
2により曲線の垂直(またはほぼ垂直)な部分を内挿し、その2つの直線の交点を取ることである。
図5の点Iを参照されたい。触媒層の見かけの抵抗R
aは、点Iの横座標とIm(Z)=0における点の横座標との差であると見なされる(
図5のパラメータR
a参照)。
【0074】
触媒層におけるイオノマー分布が均一である場合において、上で規定した見かけの抵抗R
aを3倍に乗じることによって触媒層の厚さ方向のイオン抵抗(through−plane ionic resistance)(R
CL)が求められることが、この理論により示されている。他の場合においては、この倍率は異なり得る。R
aを求めるための上に記載した方法は、簡易適用ものであり、依然として手作業によるアプローチに基づく僅かな誤差による影響を受ける。
【0075】
触媒層の見かけの抵抗R
aのより正確な値を得るために、より体系的な方法が、本発明のCCMを評価するために使用される。一般に、この体系的な方法により求められる値は、先の手作業による内挿法により求められる値に非常に近く、概してせいぜい5%しか異ならない。この方法は、実験から得られたインピーダンスデータと、実際のセルにおいて測定される同じインピーダンス応答を与えることができる同等の電気回路を記述する数学的モデルとのフィッティングに基づいている。
【0076】
ここで適用したモデルは、Makharia et al.(上記で引用)と同様に伝送線路モデルであり、触媒層を、イオノマーの均質分布を有する均一な多孔質電極と見なす。
【0077】
インピーダンススペクトルフィッティングは、Zahner電気化学ワークステーションIM6に含まれているThalesソフトウェアパッケージに含まれるSIMプログラムを用いて実施される。このフィッティングは、触媒層の厚さ方向のイオン抵抗(R
CL)の値を与え、これから、3で除して触媒層の見かけの抵抗R
aが得られる。
【数1】
測定は、セル温度T
cell=85℃、周囲圧力、ならびに以下のガス流量、すなわち、40NL/時間のH
2および40NL/時間のN
2で実施される。
ガスの相対湿度(RH)は、21%(両側の加湿器温度50℃に対応)で保たれる。イオノマー触媒層抵抗はRHに強く依存し、低いRHでの方がCCM間の差異を検出し易いので、低いRH値が選択される。この試験の開始に先立って、セルは、測定条件において平衡状態に置かれる。
【0078】
異なるCCMを比較するために、R
aが測定された後に、単位cm
2での活性CCM面積A
CL(触媒層作用面積)をその値に乗ずることによってR
aの第1の正規化が行われて、Ωcm
2という単位を有する比面積抵抗が得られる。
【0079】
異なる厚さを有する触媒層を比較するために、比面積抵抗を触媒層厚さ(cmで表される)で除することによって触媒層厚さt
CLに対する正規化が行われて、Ωcmという単位を有する見かけの触媒層抵抗率ρ
aが得られる。
【数2】
【0080】
比面積抵抗の異なる正規化が、異なるPt容量添加量(または概して貴金属添加量)を有する触媒層を、それらの厚さに関係なく比較するために行われ得る。この場合においては、比面積抵抗をmg/cm
2で表される触媒層のPt(または貴金属)添加量L
PMで除して、Ωcm
4mg
−1という単位を有する添加量に対して正規化された見かけの抵抗r
LNを得る。
【数3】
【0081】
見かけの触媒層抵抗率ρ
aおよび添加量に対して正規化された見掛けの触媒層抵抗r
LNが、異なるCCMのカソードを比較するために、本特許出願において使用される。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は、本発明について、特許請求の範囲の範囲を限定することなく説明するものとする。
【0083】
実施例1
この実施例は、本発明の方法に従う一体型CCMの製造について記述するものである。ここでは、強化膜に基づいて、完全一体型プロセスが適用される。
【0084】
1)イオノマー分散体の製造
水中の短側鎖PFSAイオノマー分散体である、Solvay Solexis S.p.A.(20021 Bollate(MI),IT)からのAquivion(登録商標)D79−20BSを用いる。この分散体は、20wt%の乾燥含有量およびイオノマーの当量重量EW=800g/eqを有する。分散体を、28.2wt%の濃度(重量による乾燥含有量)に達するまで、撹拌ガラス容器中で、60℃で水分を蒸発させることによって濃縮する。分散体を周囲温度まで冷却し、次いで、分散体の以下の組成に達するように、適度の撹拌下において1−プロパノールを添加する。
イオノマー含有量:18wt%
液体媒体含有量:82wt%
液体媒体の組成:水:56wt%
1−プロパノール:44wt%
【0085】
分散体を、レオメーター(ロータ/カップNVを備えたHAAKE Viscotester 550)による粘度測定に供する。25℃、100s
−1での粘度は63cPであり、10〜1000s
−1の剪断速度間隔にわたって実質的にニュートン型の挙動となる。
【0086】
2)第1の触媒層(Pt合金カソード)の製造
216.5gの水性イオノマー分散体(Aquivion(登録商標)D83−20B、水中20wt%イオノマー(Solvay Solexis S.p.A.,Bollate,IT)と、162.4gの4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール、MERCK)と、162.4gのt−ブタノール(MERCK)とを含む混合物を、フラスコ中で1時間にわたり60℃で撹拌および加熱する。混合物を、室温まで冷却し、機械的撹拌機を備えたミキサー中に移す。それに続いて、混合物を穏やかな撹拌下に保ちながら、さらなる372.1gの4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよび86.7gの合金電極触媒担持カーボンブラック(白金−コバルト、50wt%PtCo/C)を添加する。インク中の触媒/イオノマー重量比は2/1である。混合物を5分間さらに撹拌し、撹拌速度を高める。
【0087】
このインクを、ナイフ塗布によりフッ素化キャリアー基材フィルム上に適用する。キャリアーフィルムのロールを塗布機の一端から巻出し、ナイフコーターを備えた塗布部に通し、その塗布部において、基材上にインクを堆積させる。それに続いてこのフィルムを炉に通し、その炉において、触媒層を5分間にわたり100℃で乾燥させる。触媒層担持ロールを、最後に塗布機の終端で巻取る。結果として生じたカソード触媒層の厚さは10μmであり、貴金属添加量(Pt添加量)は0.35mg/cm
2である。
【0088】
3)イオノマー層の適用(膜製造)
工程2)で得られたPt合金カソード電極担持キャリアー基材の数メートルのロールを、巻出しローラー上に取り付けて巻出す。38μmの厚さを有するロール形態のTETRATEX(登録商標)#3101発泡PTFE(ePTFE)多孔質フィルム(Donaldson Company,Inc.)を巻出して、それに分散体を含浸させるために、15Lの工程1)で調製されたイオノマー分散体を含有する容器内に進める。容器に入った分散体は、周囲温度において、再循環ポンプによりこの作業の間十分に混合された状態に保つ。カソード電極を、含浸浴から出てきたまだ湿っている含浸ePTFEフィルムに合わせて付着させ、その接合体を、一定速度で移動させる。
【0089】
次いで、乾燥のために、接合体を、空気再循環を備えた80℃で保たれた炉を通り抜けさせ、続いて巻取る。2つの原動機、すなわち、電極担持キャリアー基材が巻出される所であるラインの始端にある第1のもの、炉を過ぎたラインの終端にある第2のものが、キャリアー基材/カソード/含浸ePTFE接合体を必要な速度に維持する。
【0090】
4)第2の触媒層(アノード層)の適用
アノード触媒インクを、Pt合金カソードインクについて工程2)で説明した手順に従うが、以下の変更を加えて調製する:水性イオノマー分散体の量は、336.5gであり、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンの量は、第1の添加については269.2g、第2の添加については84.8gであり、t−ブタノールの量は、269.2gである。白金コバルト合金電極触媒の代わりに、純白金電極触媒担持カーボンブラックを使用する(20wt%Pt/C)。この物質は、74.0gの量で添加する。インク中の触媒/イオノマー重量比は、1.1/1である。
【0091】
次いで、依然としてキャリアー基材上にあるカソード層/強化膜接合体を、ナイフコーターを備えた塗布機に通し、その塗布機において、上で調製したアノードインクを膜の自由表面に塗布する。次いで、接合体を、空気再循環炉に通し、その空気再循環炉において、アノード層を100℃で乾燥させる。接合体を、さらに190℃でアニールする。こうして得られたCCMロールを、キャリアー基材から分離する。
【0092】
電気化学的試験
2つの正方形のCCM片をロールから切り取り、電気化学的特徴付けを実施する。2つのCCMを、分極曲線および触媒層抵抗について測定する。各CCMについて、2回の測定を行い、4つの測定の平均値を記録する。乾燥作動条件および湿潤作動条件下における分極曲線を、
図1(乾燥)および
図2(湿潤)に示す。正規化カソード抵抗値(ρ
aおよびr
LN)を表1に報告する。
【0093】
比較例1
この比較例は、実施例1に従う一体型CCMの製造について記述するものであるが、しかしながら、(先行技術に従って)高粘度分散体が使用される。
【0094】
水/1−プロパノール中の18wt%イオノマー分散体をその粘度を高めるために膜製造のための使用に先立って熱処理すること以外は、実施例1を繰り返す。熱処理は、フラスコ中で4時間にわたり80℃で実施する。フラスコは、1−プロパノール溶媒の減少を回避するために、水冷冷却器を備えている。分散体の粘度上昇はポリマー膨潤作用に起因するものであり、イオノマー分散体の固形分は18wt%で一定のままであるということに留意されたい。粘度は、25℃および剪断速度100s
−1においてHAAKE Viscotesterを用いて検出される場合、455cPである。
【0095】
分極曲線(乾燥および湿潤)およびカソード抵抗値を、
図1(乾燥)、
図2(湿潤)および表1に報告する。比較例1を参照されたい。
【0096】
【表1】
【0097】
本発明に従って製造されたCCMの電気化学的性能が、先行技術の方法に従って作製されたCCMと比較して明らかに改善されていることが、これらの図から分かる。これは、乾燥条件について特に当てはまる(
図1参照)が、湿潤作動条件についても当てはまる(
図2参照)。したがって、本発明の方法に従って製造されたCCMは、非常に汎用性があり、あらゆる湿度条件下において改善された性能を示す。I/V分極データに加えて、正規化されたカソード抵抗の値(すなわち、見かけの触媒層抵抗率ρ
aおよび添加量に対して正規化された見かけの抵抗r
LNの値)は、本発明に従って製造されたCCMにおいて著しく低下する(表1参照)。この所見は、燃料電池性能の改善と一致する。
【0098】
実施例2
この実施例は、本発明に従う一体型CCMの製造について記述するものである。ここでは、流延イオノマー膜に基づいて、完全一体型プロセスが適用される。
【0099】
1)イオノマー分散体の製造
水中の短側鎖PFSAイオノマー分散体である、Solvay−Solexis S.p.A.(Bollate,IT)からのAquivion(登録商標)D83−20Bを用いる。この分散体は、20wt%の乾燥含有量およびイオノマーの当量重量EW=830g/eqを有する。分散体を、30.8wt%の濃度(重量による乾燥含有量)に達するまで、撹拌ガラス容器中で、60℃で水分を蒸発させることによって濃縮する。分散体を周囲温度まで冷却し、次いで、分散体の以下の組成に達するように、適度の撹拌下において1−プロパノールを添加する。
イオノマー含有量:20wt%
液体媒体含有量:80wt%
液体媒体の組成:水:56wt%
1−プロパノール:44wt%
【0100】
25℃、100s
−1での粘度は80cPであり、10〜1000s
−1の剪断速度間隔にわたって実質的にニュートン型の挙動となる(HAAKE Viscotester)。
【0101】
2)第1の触媒層(純Ptカソード)の製造
263gの水性イオノマー分散体(Aquivion(登録商標)D83−20B、水中20wt%イオノマー(Solvay Solexis S.p.A.,Bollate,IT)と、197gの4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール、MERCK)と、197gのt−ブタノール(MERCK)とを含む混合物を、フラスコ中で1時間にわたり60℃で撹拌および加熱する。混合物を、室温まで冷却し、機械的撹拌機を備えたミキサー中に移す。それに続いて、混合物を穏やかな撹拌下に保ちながら、さらなる235gの4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよび108gの電極触媒担持カーボンブラック(純白金、40wt%Pt/C)を添加する。インク中の触媒/イオノマー重量比は2.05/1である。
【0102】
このインクを、Pt合金カソードインクについて実施例1で詳述したナイフ塗布により、フッ素化キャリアー基材フィルム上に適用する。乾燥後に結果として生じたカソード触媒層の厚さは14μmであり、貴金属添加量(Pt添加量)は0.45mg/cm
2である。
【0103】
3)イオノマー層の適用(膜製造)
次いで、カソード層担持キャリアー基材を、ナイフコーターを備えた塗布機に通す。工程1)で製造されたイオノマー分散体を、触媒層の自由表面に塗布する。ナイフの刃は、電極表面の上方600μmの距離に配置する。次いで、接合体を、空気再循環炉に通し、その空気再循環炉において、膜を80℃で乾燥させる。
【0104】
4)第2の触媒層(アノード層)の適用
アノード触媒インクを、実施例1の場合のように調製する。次いで、依然としてキャリアー基材上にあるカソード層/流延膜接合体を、ナイフコーターを備えた塗布機に通し、その塗布機において、アノードインクを膜の自由表面に塗布する。次いで、接合体を、空気再循環炉に通し、その空気再循環炉において、アノード層を100℃で乾燥させる。接合体を、さらに190℃でアニールする。こうして得られたCCMロールを、キャリアー基材から分離する。
【0105】
電気化学的試験
2つの正方形のCCM片をロールから切り取り、電気化学的特徴付けを実施例1で説明したように実施する。乾燥条件および湿潤条件下における分極曲線を、
図3(乾燥)および
図4(湿潤作動条件)に報告する。正規化カソード抵抗値(ρ
aおよびr
LN)を表1に報告する。
【0106】
比較例2
この比較例は、実施例2に従う一体型CCMの製造について記述するものであるが、しかしながら、(先行技術に従って)高粘度分散体が使用される。
【0107】
水/1−プロパノール中の20wt%イオノマー分散体をその粘度を高めるために膜製造のための使用に先立って熱処理すること以外は、実施例2を繰り返す。熱処理は、フラスコ中で4時間にわたり80℃で実施する。フラスコは、1−プロパノールの除去を回避し、分散体の濃度を一定に維持するために、水冷冷却器を備えている。剪断速度100s
−1での25℃における粘度は、495cP(HAAKE Viscotester)である。
【0108】
I/V分極曲線(乾燥作動条件および湿潤作動条件について)およびカソード抵抗値を、
図3(乾燥)および
図4(湿潤)に報告する。カソード抵抗値は表1に記載されている。比較例2を参照されたい。
【0109】
実施例1および比較例1で述べたのと同様の結論を出し得る。この場合もまた、本発明の方法のCCMの場合に、I/V性能が改善され、かつ正規化カソード抵抗値が著しく低下することが分かる。
【0110】
実施例3
この実施例は、本発明に従う一体型CCMの製造について記述するものであるが、しかしながら、アノード触媒層がデカール法によって適用される(「混合アプローチ」)。
【0111】
膜の上への直接塗布によるのではなくデカール転写により第2の触媒層(アノード層)が適用されること以外は、実施例1を繰り返す。この目的のために、アノードインクを、ナイフ塗布によりフッ素化キャリアー基材(剥離フィルム)に適用し、転写の前に100℃で乾燥させる。デカール転写のための条件は、温度220℃、圧力175N/cm
2、時間=45秒である。
【0112】
結果として生じたCCMの正規化カソード抵抗値は表1に報告されている。
【0113】
比較例3
この比較例は、先行技術に従う(予め製作した強化イオノマー膜へのデカール転写を用いる)CCMの製造について記述するものである。
【0114】
TETRATEX(登録商標)#3101発泡PTFE多孔質フィルム(Donaldson Company,Inc.)に実施例1の工程1)で製造されたイオノマー分散体を含浸させることによって、厚さ22μmの強化膜を得る。含浸は、塗布ラインで浸漬塗布により行い、分散体を蒸発させ、膜を190℃でアニールする。
【0115】
実施例3で使用したのと同じインクから出発して、カソード電極およびアノード電極を、ナイフ塗布によりフッ素化キャリアー基材(デカール剥離フィルム)上に得る。これらの電極を100℃で乾燥させ、以下の条件、すなわち、温度220℃、圧力175N/cm
2および時間45秒を用いて、膜にデカール転写する。結果として生じたCCMの正規化カソード抵抗値は表1に報告されている。これらの値が実施例3で得られたものよりも著しく高いことが分かる。
【0116】
比較例4
この比較例は、先行技術(低濃度イオノマー分散体の使用)に従う一体型CCMの製造について記述するものである。
【0117】
20wt%乾燥含有量およびイオノマーEW=830g/eqを有する水性イオノマー分散体(Aquivion(登録商標)D83−20B,Solvay Solexis S.p.A.,Bollate,IT)600gに、450gの4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール、MERCK)および450gのt−ブタノール(MERCK)を添加する。分散体を、撹拌下に保ち、フラスコ中で1時間にわたり60℃に加熱する。フラスコは、分散体の濃縮を回避するために、水冷冷却器を備えている。結果として生じたイオノマー分散体は、以下の組成を有している。
イオノマー含有量:8wt%
液体媒体含有量:92wt%
液体媒体の組成:水:34.8wt%
ジアセトンアルコール:32.6wt%
t−ブタノール:32.6wt%
【0118】
剪断速度100s
−1での25℃における粘度は、120cP(HAAKE Viscotester)である。
【0119】
実施例1の工程2)で調製されたカソード触媒層担持フッ素化支持基材フィルム片を、ラボコーティングテーブルのプレートに固定し、上で調製した8wt%イオノマー分散体でナイフ塗布によりオーバーコートして、触媒層の上に膜を得る。ナイフの刃は、電極表面の上方1500μmの距離に配置する。触媒層の大部分が支持基材から取り除かれてしまい、CCMを製作することは不可能である。
【0120】
この比較例は、低濃度イオノマー分散体が、一体型プロセスに基づく一体型CCMの製作には適していないことを示している。本発明の方法のためには、ある特定の低粘度範囲および高イオノマー濃度の合わせた特徴を示す特定のイオノマー分散体が必要であるということに留意することが重要である。