(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一傾斜面と前記第一プレキャスト床版の主面を延長した面との交線の少なくとも一部は曲線状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のプレキャスト床版の接続構造。
前記並び方向に直交し、前記第二プレキャスト床版の前記第二凸部を複数の前記橋桁のうち前記交差方向の他方側の端に配置された前記橋桁が支持するとともに、前記第二凸部よりも前記交差方向の他方側に前記第一凸部が配置された位置での断面において、
前記第二傾斜面は前記第二プレキャスト床版の第二主面から前記主面側に前記厚さ方向に移動するにしたがって前記交差方向の他方側に向かうように傾斜し、かつ、前記第二傾斜面の前記交差方向の一方側の端は前記橋桁の前記支持面上に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の橋構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の歩道橋では、一対のプレキャスト床版の間にパイプを配置したうえでプレキャスト床版の凹部とパイプとの間にMMA樹脂を充填する必要がある。このため、一対のプレキャスト床版の接続に手間がかかるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、プレキャスト床版同士を容易に接続できるプレキャスト床版の接続構造、このプレキャスト床版の接続構造を備えるプレキャスト床版システム、及びこのプレキャスト床版システムを備える橋構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のプレキャスト床版の接続構造は、板状に形成され、厚さ方向に交差する並び方向に並べて配置された第一プレキャスト床版と第二プレキャスト床版とを接続するプレキャスト床版の接続構造であって、前記第一プレキャスト床版の側面から突出するように形成され、前記厚さ方向及び前記並び方向にそれぞれ交差する交差方向の一方側に向かうにしたがって前記厚さ方向の一方側に向かうように傾斜した第一傾斜面を有する第一凸部と、前記第二プレキャスト床版の側面から突出するように形成され、前記第一傾斜面に沿って傾斜するとともに前記第一傾斜面に接触する第二傾斜面を有する第二凸部と、を備え、前記第一凸部と前記第二凸部との前記第一傾斜面に沿う方向の移動が、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面との間に作用する静止摩擦力、又は、前記第一傾斜面及び前記第二傾斜面に作用する固着力により規制されることを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、第二凸部から第一凸部に向かって厚さ方向に荷重が作用したときに、第一凸部に対して第二凸部が第一傾斜面に沿って移動しようとする。第一凸部と第二凸部との第一傾斜面に沿う方向の移動が静止摩擦力又は固着力により規制されているため、第一凸部に対して第二凸部が厚さ方向及び交差方向にそれぞれ移動せず、第一プレキャスト床版と第二プレキャスト床版とが一体化した状態が保持される。
【0009】
また、上記のプレキャスト床版の接続構造において、前記第一凸部と前記第二凸部との前記第一傾斜面に沿う方向の移動が、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面との間に作用する前記静止摩擦力により規制され、前記並び方向に直交する断面において、前記第一プレキャスト床版の主面と前記第一傾斜面とのなす角度をθ(rad)としたときに、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面との静止摩擦係数はtanθの値以上であってもよい。
この発明によれば、第一傾斜面と第二傾斜面との間に作用する静止摩擦力が、作用する荷重により第一凸部に対して第二凸部を第一傾斜面に沿って移動しようとする分力以上になる。
【0010】
また、上記のプレキャスト床版の接続構造において、前記第一プレキャスト床版の側面と前記第二プレキャスト床版の側面との間に設けられ、前記第一傾斜面及び前記第二傾斜面にそれぞれ固着する充填材を備え、前記第一凸部と前記第二凸部との前記第一傾斜面に沿う方向の移動が、前記第一傾斜面と前記充填材との間に作用する前記固着力、及び前記第二傾斜面と前記充填材との間に作用する前記固着力により規制されてもよい。
【0011】
また、上記のプレキャスト床版の接続構造において、前記第一傾斜面と前記第一プレキャスト床版の主面との交線の少なくとも一部は曲線状であってもよい。
この発明によれば、第一凸部の交線の少なくとも一部が曲線状であることで第一凸部の角部が少なくなる。
また、本発明のプレキャスト床版システムは、上記に記載のプレキャスト床版の接続構造と、前記第一プレキャスト床版と、前記第二プレキャスト床版と、を備えることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の橋構造は、上記に記載のプレキャスト床版システムと、前記第一プレキャスト床版の主面及び前記第二プレキャスト床版の主面に支持面が取付けられ、前記並び方向に延びるとともに前記交差方向に間隔を空けて複数並べて配置され、前記第一プレキャスト床版及び前記第二プレキャスト床版を下方から支持する橋桁と、を備え、前記交差方向において、前記交差方向に隣り合う前記橋桁の前記支持面の間には、前記第一傾斜面及び前記第二傾斜面の少なくとも一部がそれぞれ配置され、前記並び方向に直交し、かつ、前記第二プレキャスト床版の前記第二凸部を前記橋桁が支持する位置での断面において、前記第二傾斜面は前記第二プレキャスト床版の第二主面から前記主面側に前記厚さ方向に移動するにしたがって前記交差方向の一方側に向かうように傾斜し、かつ、前記第二傾斜面の前記交差方向の他方側の端は前記橋桁の前記支持面上に配置されていることを特徴としている。
【0013】
この発明によれば、交差方向に隣り合う橋桁の支持面の間に第一傾斜面及び第二傾斜面の少なくとも一部がそれぞれ配置される。このため、交差方向に隣り合う橋桁の支持面の間において、第一傾斜面及び第二傾斜面のうち上方にあるものが下方にあるものから支持される。
並び方向に直交し、かつ、第二プレキャスト床版の第二凸部を橋桁が支持する位置での断面において、並び方向において支持面の交差方向の一方側よりも交差方向の一方側の第一凸部に厚さ方向に沿って下方に向かって荷重を作用させる。この荷重は、第一傾斜面及び第二傾斜面を介して、第一凸部の下方に配置されるとともに橋桁で支持された第二凸部で支持される。
【0014】
また、上記の橋構造において、前記並び方向に直交し、前記第二プレキャスト床版の前記第二凸部を複数の前記橋桁のうち前記交差方向の他方側の端に配置された前記橋桁が支持するとともに、前記第二凸部よりも前記交差方向の他方側に前記第一凸部が配置された位置での断面において、前記第二傾斜面は前記第二プレキャスト床版の第二主面から前記主面側に前記厚さ方向に移動するにしたがって前記交差方向の他方側に向かうように傾斜し、かつ、前記第二傾斜面の前記交差方向の一方側の端は前記橋桁の前記支持面上に配置されてもよい。
この発明によれば、橋桁で支持された第二凸部よりも交差方向の他方側に配置された第一凸部に厚さ方向に沿って下方に向かって荷重を作用させる。この荷重は、第一傾斜面及び第二傾斜面を介して、第一凸部の下方に配置されるとともに橋桁で支持された第二凸部で支持される。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、請求項1に記載のプレキャスト床版の接続構造によれば、非特許文献1のようにパイプ及びMMA樹脂といった複数の部材を用いることなく、第一凸部と第二凸部とを接続することでプレキャスト床版同士を容易に接続することができる。
請求項2に記載のプレキャスト床版の接続構造によれば、第一凸部と第二凸部との間に他の部材を設けることなく、第一凸部と第二凸部とを第一傾斜面と第二傾斜面との間に作用する静止摩擦力により接続することができる。
【0016】
請求項3に記載のプレキャスト床版の接続構造によれば、第一凸部と第二凸部とが第一傾斜面に直交する方向にガタつくのを抑制することができる。
請求項4に記載のプレキャスト床版の接続構造によれば、外力に対して第一凸部が破損しにくくなる。
請求項5に記載のプレキャスト床版システムによれば、両プレキャスト床版をプレキャスト床版の接続構造を用いて容易に接続することができる。
【0017】
請求項6に記載の橋構造によれば、交差方向に隣り合う橋桁の支持面の間において、一方のプレキャスト床版と他方のプレキャスト床版の凸部との間に厚さ方向に段差が形成されるのを抑制することができる。
請求項7に記載の橋構造によれば、複数の橋桁のうち交差方向の他方側の端に配置された橋桁が支持する第二凸部よりも交差方向の他方側に配置された第一凸部と第二プレキャスト床版との間に、厚さ方向に段差が形成されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明に係るプレキャスト床版システム(以下、床版システムとも略称する)の第1実施形態を、
図1から
図10を参照しながら説明する。
図1から3に示すように、本床版システム1は、第一プレキャスト床版10と、第一プレキャスト床版10の側面10aから突出するように形成された複数の第一凸部15と、第二プレキャスト床版20と、第二プレキャスト床版20の側面20aから突出するように形成された複数の第二凸部25とを備えている。
なお、複数の第一凸部15及び複数の第二凸部25で、本実施形態のプレキャスト床版の接続構造(以下、接続構造とも略称する)2を構成する。これら、第一プレキャスト床版10の側面10a及び第二プレキャスト床版20の側面20aは、第一プレキャスト床版10の厚さ方向Zに平行な面である。
図3は、後述する並び方向Xに直交する平面による断面図である。
【0020】
第一プレキャスト床版10は、第一プレキャスト床版10の厚さ方向Zに平行に見たときに矩形状となる板状に形成されている。
本実施形態では、第一凸部15は、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが並べて配置される並び方向Xに平行に見たときに、平行四辺形状に形成されている(
図3参照)。この並び方向Xは、厚さ方向Zに直交(交差)する方向である。
第一凸部15の外面15a、15bは、第一プレキャスト床版10の第一主面(主面)10b、第二主面10cにそれぞれ面一である。これら外面15a、15bは、厚さ方向Zに直交する平坦な面である。第一凸部15の厚さ(厚さ方向Zの長さ)は、第一プレキャスト床版10の厚さに等しい。
【0021】
図3に示すように、第一凸部15の外面である第一傾斜面15c、15dは、直交方向(交差方向)Yの一方側Y1に向かうにしたがって厚さ方向Zの一方側Z1に向かうように傾斜している。この直交方向Yは、並び方向X及び厚さ方向Zにそれぞれ直交(交差)する方向である。これら第一傾斜面15c、15dは、並び方向Xに平行な平坦な面である。
図2に示すように、第一傾斜面15cと第一プレキャスト床版10の第一主面10bを延長した面との交線L1は、直線状である。
図3に示すように、第一プレキャスト床版10の第一主面10bと第一傾斜面15c、15dとのなす角度を、θ(rad:ラジアン)とする。ただし、角度θは鋭角、すなわち0よりも大きくπ/2未満であるとする。この例では、例えば角度θは0.436rad(25°)である。
【0022】
本実施形態では、直交方向Yに隣り合う第一凸部15の一部が厚さ方向Zに重なる。
第一プレキャスト床版10及び複数の第一凸部15は、RC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)又はPC(Prestressed Concrete)等で一体に形成されている。
【0023】
第二プレキャスト床版20、第二凸部25は、第一プレキャスト床版10、第一凸部15と同様に構成されている。
すなわち、第二プレキャスト床版20は、厚さ方向Zに平行に見たときに矩形状となる板状に形成されている。第二凸部25は、並び方向Xに平行に見たときに、平行四辺形状に形成されている。第二プレキャスト床版20の側面20aは、第一プレキャスト床版10の側面10aに対向する面である。
図3に示すように、第二凸部25の外面25a、25bは、第二プレキャスト床版20の第一主面(主面)20b、第二主面20cにそれぞれ面一である。これら外面25a、25bは、厚さ方向Zに直交する平坦な面である。第二凸部25の厚さは、第二プレキャスト床版20の厚さに等しい。第二プレキャスト床版20の厚さは、第一プレキャスト床版10の厚さに等しい。
【0024】
第二凸部25の外面である第二傾斜面25c、25dは、第一傾斜面15c、15dに沿ってそれぞれ傾斜する。より具体的には、第二傾斜面25c、25dは直交方向Yの一方側Y1に向かうにしたがって厚さ方向Zの一方側Z1に向かうように傾斜している。これら第二傾斜面25c、25dは、並び方向Xに平行な平坦な面である。
第二プレキャスト床版20の第一主面20bと第二傾斜面25c、25dとのなす角度は、前述の角度θとなる。
【0025】
直交方向Yに隣り合う第二凸部25の直交方向Yの距離は、第一凸部15の直交方向Yの長さよりもわずかに長い。複数の第二凸部25を複数の第一凸部15に係合させて第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とを接続したときに、第二凸部25の第二傾斜面25c、25dは第一傾斜面15d、15cにそれぞれ接触する。第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの静止摩擦係数μは、tanθの値以上である。
例えば、角度θが0.436radの場合には、tanθの値は0.47になる。第一凸部15及び第二凸部25がそれぞれコンクリートで形成されているこの例では、例えば静止摩擦係数μは0.6である。
同様に、第一傾斜面15dと第二傾斜面25cとの静止摩擦係数は、前述の静止摩擦係数μに等しく、tanθの値以上である。
【0026】
本実施形態では、直交方向Yに隣り合う第二凸部25の一部が厚さ方向Zに重なる。
第二プレキャスト床版20及び複数の第二凸部25は、第一プレキャスト床版10と同一の材料で一体に形成されている。
このように構成された床版システム1は、例えば
図4に示すように、第一プレキャスト床版10に対して第二プレキャスト床版20を第一傾斜面15cに沿う方向である方向Tに移動させ、複数の第一凸部15と複数の第二凸部25とを係合させることで、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが接続される。複数の第一凸部15及び複数の第二凸部25は、床版システム1の櫛形のせん断キーとなる。
このとき、第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの間等に摩擦力が作用するが、この摩擦力に抗して第一凸部15と第二凸部25とを係合させる。
【0027】
このように構成された床版システム1は、後述するように高速道路等の道路橋に用いられる。このとき、
図3に示すように、道路橋の橋軸方向Uと床版システム1の並び方向Xとが平行になるように道路橋に床版システム1が取付けられる。厚さ方向Zは、例えば鉛直方向Vと平行になる。床版システム1上には、図示はしないが公知の防水層及びアスファルト舗装層が順次積層される。
自動車Cは、アスファルト舗装層上を並び方向Xに沿って走行する。自動車CのタイヤC1が、アスファルト舗装層を介して床版システム1に下方に向かって輪荷重(荷重)Pを作用させるとする。この例では、輪荷重Pが第一凸部15の外面15bに作用する場合について説明する。
輪荷重Pは、第一傾斜面15cに沿う方向である方向Tの分力であるずれ力P
hと、方向Tに直交する方向の分力である支圧力P
vとに分解される。なお、ずれ力P
h及び支圧力P
vの大きさは、(1)式及び(2)式のように規定される。
P
h=Psinθ ・・(1)
P
v=Pcosθ ・・(2)
【0028】
第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの間に作用する静止摩擦力Qは、(3)式のようになる。
Q=μP
v=μPcosθ ・・(3)
ここで、静止摩擦力Qの大きさとずれ力P
hの大きさとを比較すると、(4)式のようになる。
Q−P
h=μPcosθ−Psinθ=Pcosθ(μ−tanθ)
≒P×0.91×(0.6−0.47) ・・(4)
【0029】
輪荷重Pは正の値である。角度θが鋭角あるときはcosθの値は正になる。静止摩擦係数μはtanθの値以上であるため、(4)式の値が0以上になる。すなわち、(Q−P
h)の値が0以上であれば、静止摩擦力Qがずれ力P
h以上になり、第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの間にずれ力P
hが作用しても、第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとが方向Tに相対的に移動しない。すなわち、静止摩擦力Qにより第一凸部15と第二凸部25との方向Tの移動が規制され、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが一体化する。
このように、輪荷重Pが作用したときに、第一凸部15に対して第二凸部25が方向Tに移動しようとする。しかし、静止摩擦力Qにより第一凸部15と第二凸部25との方向Tの移動が規制されているため、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが相対的に移動しないで一体化した状態が保持される。
【0030】
一方で、
図5に示すように輪荷重Pが第二凸部25の外面25bに作用する場合について説明する。
輪荷重Pが第一凸部15に作用する場合と同様に、輪荷重Pは、方向Tの分力であるずれ力P
hと、方向Tに直交する方向の分力である支圧力P
vとに分解される。
ずれ力P
h、支圧力P
v、及び静止摩擦力Qの大きさは、(1)式、(2)式、及び(3)式と同一である。なお、この場合の静止摩擦力Qは、第一傾斜面15dと第二傾斜面25cとの間に作用するものとなる。
この場合においても、静止摩擦力Qの大きさとずれ力P
hの大きさとの差が(4)式のようになる。静止摩擦力Qにより第一凸部15と第二凸部25との方向Tの移動が規制され、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが一体化する。
このように、輪荷重Pが接続構造2である第一凸部15及び第二凸部25のいずれに作用しても、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが一体化した状態が保持される。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の接続構造2によれば、厚さ方向Zに沿って下方に向かって輪荷重Pが作用したときに、第一凸部15に対して第二凸部25が方向Tに移動しようとする。第一凸部15と第二凸部25との方向Tの移動が静止摩擦力Qにより規制されているため、第一凸部15に対して第二凸部25が厚さ方向Z及び鉛直方向Vにそれぞれ移動せず、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とが一体化した状態が保持される。
こうして、非特許文献1のようにパイプ及びMMA樹脂といった複数の部材を用いることなく、第一凸部15と第二凸部25とを静止摩擦力Qだけで接続することでプレキャスト床版10、20同士を容易に接続することができる。
【0032】
第一凸部15及び第二凸部25の全体としての厚さは、プレキャスト床版10、20の厚さに等しい。このため、接続構造2のせん断強度は、本体であるプレキャスト床版10、20せん断強度とほぼ等しくなる。したがって、プレキャスト床版10、20及び凸部15、25内に補強用の鋼材を追加する必要がない。
【0033】
本実施形態の床版システム1によれば、両プレキャスト床版10、20を接続構造2を用いて容易に接続することができる。
第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの静止摩擦係数μはtanθの値以上であるため、第一凸部15と第二凸部25との間に他の部材を設けることなく、第一凸部15と第二凸部25とを第一傾斜面15cと第二傾斜面25dとの間に作用する静止摩擦力により接続することができる。
【0034】
なお、本実施形態の接続構造2及び床版システム1は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
例えば、
図6に示すように、第一凸部30の第一傾斜面30c、30dが曲面であってもよい。この変形例では、第一傾斜面30cと第一プレキャスト床版10の第一主面10bを延長した面との交線L2は、直線状である。このように、第一傾斜面30c、30dは、平坦でなく、所定の曲率半径で湾曲していてもよい。
図示はしないが、第二凸部も第一凸部30と同様に形成される。
この場合、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とを接続するには、第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20とを並び方向Xに移動させる。
【0035】
図7に示す床版システム1Aのように、本実施形態の第一凸部15、第二凸部25に代えて第一凸部35、第二凸部40を備えてもよい。
第一凸部35の第一傾斜面35c、35dは曲面であり、第一傾斜面35cと第一傾斜面35dとは滑らかに連なっている。
第一凸部35の第一傾斜面35c、35dと第一プレキャスト床版10の第一主面10bを延長した面との交線L4、L5は曲線状である。交線L4、L5は、全体として正弦波のようであり、全ての部分が曲線状である。
第二凸部40は、第一凸部35と同様に第一凸部35に係合するように形成されている。
【0036】
このように構成された変形例の床版システム1Aによれば、第一凸部35の交線L4、L5が曲線状であることで、第一凸部35の角部が少なくなる。したがって、外力に対して第一凸部35が破損しにくくなる。
なお、この変形例では、交線L4、L5の全ての部分が曲線状であるとしたが、交線L4、L5の一部が直線状でもよい。具体的には、
図2に示す交線L1の長手方向の中央部が直線状で、両端部がそれぞれ角を無くすように曲線状であってもよい。
【0037】
図8に示す床版システム1Bのように、本実施形態の床版システム1において、第一プレキャスト床版10の側面10aと第二プレキャスト床版20の側面20aとの間の隙間Sに充填材45を備えてもよい。充填材45としては、アクリル樹脂モルタルやエポキシ樹脂等を用いることができる。充填材45は、第一傾斜面15c、15d及び第二傾斜面25c、25dにそれぞれ固着する。言い換えると、第一傾斜面15c、15dと充填材45との間に作用する固着力、及び第二傾斜面25c、25dと充填材45との間に作用する固着力により、第一凸部15と第二凸部25との方向Tの移動が規制される。
充填材45の固着力は、凸部15、25に輪荷重Pが作用しても第一凸部15と第二凸部25とが方向Tに移動しないように、充填材45に添加する添加物や充填材45のグレード等を選定して調節される。
このように床版システム1Bを構成しても、本実施形態の床版システム1と同様の効果を奏することができる。
さらに、第一凸部15と第二凸部25とが充填材45により固着されることで、第一凸部15と第二凸部25とが第一傾斜面15cに直交する方向にガタつくのを抑制することができる。
【0038】
ここで、実施例及び比較例の床版システムの段差及び目開きについて解析した結果を
図9及び10を用いて説明する。
図9は、実施例及び比較例のプレキャスト床版の段差の解析結果を示す。線L21で示したものが充填材45を有する実施例の床版システム1Bでの解析結果である。図の横軸における位置A1、A2に接続構造2が配置され、位置A1と位置A2との間の範囲A3に1枚のプレキャスト床版10が配置されている。1枚のプレキャスト床版10の並び方向Xの長さは、2mとした。プレキャスト床版10を並び方向Xに挟むように、他のプレキャスト床版が配置されている。
なお、輪荷重Pは、図中に示すプレキャスト床版の位置A1側の端部に作用させている。
【0039】
比較例として、プレキャスト床版が非特許文献1のようにMMA樹脂等で比較的弱い強度で接続されているもの(以下、非連続構造の床版システムと称する)の解析結果を線L22で示す。比較例として、プレキャスト床版が継ぎ目無く並び方向Xに連なるとしたもの(連続構造の床版システムに相当する)の解析結果を線L23で示す。
非連続構造では、並び方向Xに隣り合うプレキャスト床版間に長さD6の大きな段差が生じる。連続構造では段差は生じない。
実施例の床版システム1Bによる段差の長さD7は、0.15mm程度である。
プレキャスト床版間に接続構造を設けて実施例の床版システム1Bとすることで、比較例の床版システムに比べて段差が小さくなり、連続構造の床版システムに近い変形量となることが分かった。
【0040】
図10は、実施例及び比較例のプレキャスト床版の目開きの解析結果を示す。
線L24で示したものが実施例の床版システム1Bでの解析結果である。比較例として、非連続構造の床版システムの解析結果を線L25で示し、連続構造の床版システムの解析結果を線L26で示す。
床版システム1Bの目開きの長さD8は、非連続構造の床版システムの目開きの長さD9と同程度で0.25mm程度であることが分かった。なお、連続構造では目開きは生じない。
【0041】
本実施形態では、第一プレキャスト床版10に複数の第一凸部15が形成され、第一凸部15に複数の第二凸部25が形成されるとした。しかし、プレキャスト床版10、20に形成される凸部15、25の数に制限はなく、1つでもよい。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図11及び
図12を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図11に示すように、本実施形態の道路橋(橋構造)3は高速道路等用のものであり、前述の床版システム1と、プレキャスト床版10、20に取付けられ、プレキャスト床版10、20を下方から支持する複数の橋桁50とを備えている。
なお、
図11は、並び方向Xに直交する平面による断面図である。
【0043】
橋桁50は、ウェブ51の上方、下方にそれぞれフランジ52、53が位置するように配置されている。橋桁50には、公知のI形鋼又はH形鋼等を用いることができる。
複数の橋桁50は、並び方向Xに延びるとともに直交方向Yに間隔を空けて並べて配置されている。この並び方向Xは、道路橋3の橋軸方向Uに平行な方向となる。厚さ方向Zは、例えば鉛直方向Vと平行になる。
橋桁50は、並び方向Xに間隔を開けて配置された橋脚55(
図11では1本のみ示す)により下方から支持されている。
【0044】
フランジ52の上方の面である支持面52aは、第一プレキャスト床版10の第一主面10b及び第二プレキャスト床版20の第一主面20bに取付けられる。
直交方向Yにおいて、直交方向Yに隣り合う橋桁50の支持面52aの間である範囲R1には、第一傾斜面15c、15d及び第二傾斜面25c、25dの少なくとも一部がそれぞれ配置されている。
本実施形態では範囲R1内において、上方にある第一傾斜面15cが下方にある第二傾斜面25dに支持される。これにより、第二凸部25に対して第一凸部15が下方に移動することで第一プレキャスト床版10と第二プレキャスト床版20の第二凸部25との間に厚さ方向Zに段差が形成されるのを抑制することができる。
【0045】
これに対して、上記の条件を満たさない比較例の場合を、
図12を用いて説明する。この場合には、仮想線L11で示すように、範囲R1の全体にわたり第二凸部25が下方に向かって凸となるように湾曲する。その結果、第一プレキャスト床版10と第二凸部25との間に比較的大きな段差D1が形成されてしまう。
【0046】
また、
図11に示す範囲R2のような、並び方向Xに直交し、かつ、第二プレキャスト床版20の第二凸部25を橋桁50が支持する位置での断面における道路橋3の構成について説明する。
第二傾斜面25dは、第二プレキャスト床版20の第二主面20cから第一主面20b側に厚さ方向Zに(下方に)移動するにしたがって直交方向Yの他方側Y2に向かうように傾斜している。第二傾斜面25dの直交方向Yの一方側Y1の端25eは、橋桁50の支持面52a上に配置されている。すなわち、厚さ方向Zに平行に見たときに、第二傾斜面25dの端25eは橋桁50の支持面52aが占める範囲内に配置されている。
このため、並び方向Xにおいて支持面52aの直交方向Yの他方側Y2よりもさらに直交方向Yの他方側Y2の第一凸部15の位置Q1に厚さ方向Zに沿って下方に向かって輪荷重Pを作用させる。この輪荷重Pは、第二傾斜面15c及び第一傾斜面25dを介して、輪荷重Pを作用させた第一凸部10の下方に配置されるとともに橋桁50で支持された第二凸部25で支持される。
【0047】
これに対して、上記の条件を満たさない比較例の場合を、
図13を用いて説明する。この比較例では、例えば、厚さ方向Zに平行に見たときに、第二傾斜面25dの端25eが支持面52aが占める範囲よりも直交方向Yの他方側Y2の位置Q2に配置されている。
この場合、輪荷重Pは第二凸部25に作用するが、第二凸部25の下方には第二凸部25を支持する第一凸部10や橋桁50がないので、第二凸部25の直交方向Yの他方側Y2の端部は、仮想線L12示すように下方に向かって湾曲してしまう。
【0048】
また、
図11に示すように、複数の橋桁50のうち直交方向Yの一方側Y1の端に配置された橋桁50を橋桁50Aと称することにする。範囲R3のような、並び方向Xに直交し、第二プレキャスト床版20の第二凸部25を橋桁50Aが支持するとともに、第二凸部25よりも直交方向Yの一方側Y1に第一凸部15である第一凸部15Aが配置された位置での断面における道路橋3の構成について説明する。
第二傾斜面25cは厚さ方向Zに沿って下方に移動するにしたがって直交方向Yの一方側Y1に向かうように傾斜している。第二傾斜面25cの直交方向Yの他方側Y2の端25fは、橋桁50Aの支持面52a上に配置されている。すなわち、厚さ方向Zに平行に見たときに、第二傾斜面25dの端25fは橋桁50Aの支持面52aが占める範囲内に配置されている。
【0049】
このため、第一凸部15Aの位置Q3に厚さ方向Zに沿って下方に向かって輪荷重Pを作用させる。この輪荷重Pは、第一傾斜面15d及び第二傾斜面25cを介して、輪荷重Pを作用させた第一凸部15Aの下方に配置されるとともに橋桁50Aで支持された第二凸部25で支持される。
【0050】
これに対して、上記の条件を満たさない比較例の場合を、
図14を用いて説明する。この比較例では、例えば第二傾斜面が下方に移動するにしたがって直交方向Yの他方側Y2に向かうように傾斜して位置Q4に配置されている。
この場合、輪荷重Pは第一凸部15Aに作用するが、第一凸部15Aの下方には第一凸部15Aを支持する第二凸部25や橋桁50がないので、第一凸部15Aは仮想線L13示すように下方に移動してしまう。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の道路橋3によれば、直交方向Yに隣り合う橋桁50の支持面52aの間に第一傾斜面15c、15d及び第二傾斜面25c、25dの少なくとも一部がそれぞれ配置される。このため、直交方向Yに隣り合う橋桁50の支持面52aの間において、第一傾斜面15c、15d及び第二傾斜面25c、25dのうち上方にあるものが下方にあるものから支持される。
また、並び方向Xにおいて支持面52aの直交方向Yの他方側Y2よりもさらに直交方向Yの他方側Y2の第一凸部15の位置Q1に厚さ方向Zに沿って下方に向かって輪荷重Pを作用させる。この輪荷重Pは、第二傾斜面15c及び第二傾斜面25dを介して、第一凸部15の下方に配置されるとともに橋桁50で支持された第二凸部25で支持される。
したがって、交差方向に隣り合う橋桁50の支持面52aの間において、一方のプレキャスト床版と他方のプレキャスト床版の凸部との間に厚さ方向Zに段差が形成されるのを抑制することができる。
【0052】
第二傾斜面25cは厚さ方向Zに沿って下方に移動するにしたがって直交方向Yの一方側Y1に向かうように傾斜し、第二傾斜面25cの直交方向Yの他方側Y2の端25fは、橋桁50Aの支持面52a上に配置されている。
このため、第一凸部15Aに厚さ方向Zに沿って下方に向かって輪荷重Pを作用させる。この輪荷重Pは、第一傾斜面15d及び第二傾斜面25を介して、第一凸部15Aの下方に配置されるとともに橋桁50Aで支持された第二凸部25で支持される。
したがって、第一凸部15Aと第二プレキャスト床版20との間に、厚さ方向Zに段差が形成されるのを抑制することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、
図15に示す道路橋3Aのように、直交方向Yの一方側Y1の端に配置された第一凸部15Aが耳桁等の支持部材60で支持される場合には、第二傾斜面25cは厚さ方向Zに沿って下方に移動するにしたがって直交方向Yの他方側Y2に向かうように傾斜してもよい。
橋構造は道路橋であるとしたが、橋構造は鉄道橋等であるとしてもよい。
【0054】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。