(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387364
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】電子射出窓箔、電子ビーム発生器、電子射出窓箔を提供するための方法及び高性能電子ビームデバイスを提供するための方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/00 20060101AFI20180827BHJP
H01J 33/04 20060101ALI20180827BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20180827BHJP
A61L 2/08 20060101ALI20180827BHJP
B65B 55/08 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
G21K5/00 W
H01J33/04
G21K5/04 E
A61L2/08 108
B65B55/08 B
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-56637(P2016-56637)
(22)【出願日】2016年3月22日
(62)【分割の表示】特願2013-541954(P2013-541954)の分割
【原出願日】2011年11月9日
(65)【公開番号】特開2016-176943(P2016-176943A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】1051277-0
(32)【優先日】2010年12月2日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】391053799
【氏名又は名称】テトラ ラバル ホールディングス アンド ファイナンス エス エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100151105
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸川 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンデルス・クリスティアンソン
(72)【発明者】
【氏名】ベンノ・ジガーリグ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・ポッピ
(72)【発明者】
【氏名】ラース−オーケ・ネースルンド
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・ハーグ
(72)【発明者】
【氏名】クルト・ホルム
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2002/078039(WO,A1)
【文献】
特開平08−315759(JP,A)
【文献】
特開平10−142399(JP,A)
【文献】
特開平05−002100(JP,A)
【文献】
特開2001−099999(JP,A)
【文献】
特開2006−090873(JP,A)
【文献】
特開平09−211199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00
G21K 5/04
A61L 2/00−2/28
A61L11/00−12/24
B65B 55/08
H01J 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境において動作する高性能電子ビーム発生器で使用するための電子射出窓箔であって、
Tiの膜(202)と、
Tiよりも高い熱伝導率を有する物質を含み、前記Tiの膜(202)の一方の表面に設けられた第一層(204)と、
前記Tiの膜(202)を前記腐食環境から保護する物質を含み、前記Tiの膜(202)の他方の表面に設けられた第二層(206)を備え、
前記第一層(204)の物質がAlであり、
前記第二層(206)の物質が、Al2O3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択される、
電子射出窓箔。
【請求項2】
前記第二層(206)は異なる物質の少なくとも二つの層(208、209)を含み、前記少なくとも二つの層(208、209)の各層の物質は、Al2O3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択される、請求項1記載の電子射出窓箔。
【請求項3】
前記Tiの膜(202)と前記第一層(204)及び/又は前記第二層(206)との間の少なくとも一つの接着バリアコーティングを更に備えた請求項1又は2に記載の電子射出窓箔。
【請求項4】
前記接着バリアコーティングが、1nmから150nmの間の厚さを有するAl2O3又はZrO2の層である、請求項3に記載の電子射出窓箔。
【請求項5】
腐食環境で動作するように構成された電子ビーム発生器であって、
電子ビームを発生及び成形するアセンブリ(103)を収容及び保護する筐体(102)と、
前記電子ビームの出力に関する部品を有する支持体(104)とを備え、
前記支持体(104)が、請求項1から4のいずれか一項に記載の電子射出窓箔を備える、電子ビーム発生器。
【請求項6】
腐食環境において動作する高性能電子ビーム発生器で使用するための電子射出窓箔を提供するための方法であって、
Tiの膜(202)を提供するステップと、
前記膜(202)の一方の側の上に、Tiよりも高い熱伝導率を有する物質の第一層(204)を提供するステップと、
前記膜(202)の他方の側の上に、前記膜(202)を前記腐食環境から保護する物質の第二層(206)を提供するステップとを備え、
前記第一層(204)の物質がAlであり、
前記第二層(206)の物質が、Al2O3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択される、方法。
【請求項7】
前記第一層(204)を提供するステップ及び前記第二層(206)を提供するステップの少なくとも一方の前に、前記膜(202)の上に接着コーティングを提供するステップが行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高性能電子ビームデバイスを提供するための方法であって、
フレームの上にTiの膜(202)を取り付けるステップと、
前記膜(202)の一方の側の上にTiよりも高い熱伝導率を有する物質の第一層(204)を提供し、前記膜(202)の他方の側の上に前記膜(202)を腐食環境から保護する物質の第二層(206)を提供することによって、前記膜(202)を処理するステップであって、前記第二層(206)が前記腐食環境に向けられる、ステップと、
電子ビームデバイスを密封するために前記電子ビームデバイスのチューブ筐体に箔‐フレームサブアセンブリを取り付けるステップとを備え、
前記第一層(204)の物質がAlであり、
前記第二層(206)の物質が、Al2O3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子射出窓箔に係る。特に、本発明は、腐食環境において使用され高性能で動作する電子射出窓箔に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームデバイスは、例えば表面処理のために、物体を電子で照射するのに使用可能である。このようなデバイスは、食品包装産業において一般的に使用されており、電子ビームが、パッケージ(例えば、プラスチックボトルや、後でパッケージに変換される包装材料)の効率的な殺菌を提供している。
【0003】
電子ビーム殺菌の主な利点は、例えばH
2O
2を用いた湿式化学を回避して、このような湿式環境に必要な多数の部品及び設備を減らすことができる点である。
【0004】
電子ビームデバイスは典型的に電源に接続されたフィラメントを備え、そのフィラメントが電子を放出する。好ましくは、フィラメントは、放出された電子の平均自由行程を増大させるために高真空中に配置されて、加速器が放出された電子を射出窓に向ける。電子射出窓は、電子が電子ビーム発生器から出て行くことを可能にして、電子が電子ビーム発生器の外に出て行き、殺菌される物体に衝突して、その対象の表面において電子のエネルギーを放出することができる。
【0005】
電子射出窓は典型的に、電子透過性薄箔から成り、その電子透過性薄箔は、電子ビーム発生器内部の真空を維持するために電子ビーム発生器に対して密封されている。グリッド状の冷却された支持プレートが更に、高真空によって箔が潰れることを防止するために設けられる。Tiが、その高い融点と電子透過性との間の妥当な整合並びに薄膜を提供する性能のために、箔材料として一般的に使用される。
【0006】
Ti膜の問題点は、それが酸化し得て、寿命及び動作安定性の低下につながり得る点である。射出窓を長寿命にするためには、略250℃の最大温度を、電子ビームデバイスの動作中に超えてはならない。材料のランニングウェブを殺菌するのに用いられる場合、典型的には、高性能電子ビームデバイスは、最大100m/分において、80keVで22kGyを提供するように設計される。従って、単純なTi箔はこのような高性能電子ビームデバイスにおいて使用することができない。何故ならば、窓を通りぬけて放出された電子の量が、この臨界値よりも温度をかなり高くし得るからである。
【0007】
充填機器、つまり、パッケージを形成、充填及び密封するように設計された機器において、殺菌は、パッケージのためだけではなく、機器自体にとっても重要なプロセスである。このような機器の殺菌は、開始時に行われることが好ましいものであるが、その殺菌中において、射出窓の外側が、機器の殺菌に使用される化学薬品に晒される。こうした応用において一般的に使用されるH
2O
2等の高腐食性物質は、Tiをエッチングして、射出窓に影響する。
【0008】
射出窓の特性を改善するための様々な解決策が、上述の欠点を解消するために提案されてきた。
【0009】
特許文献1には、Ti箔及びAlの保護層から成る窓射出箔が記載されており、そのAlの保護層が、Ti/Alの構成の熱拡散処理によって金属間化合物を形成している。この解決策は、比較的厚い射出窓、つまり、1マイクロメートル以上の厚さの保護層が許容される窓には適している。しかしながら、金属間化合物は、物理的強度を低下させるため、Ti薄箔では許容できない。
【0010】
特許文献2には、Ti箔及び酸化シリコンの保護層から成る窓射出箔が記載されており、その酸化シリコンの保護層は、照射される物体に向き合う射出箔の側に存在する。Ti箔はこのような層によって保護され得るが、酸化シリコンは非常に脆く、真空にされた際に、箔が屈曲する領域、つまり、支持プレートのグリッド間の領域において簡単にひび割れし得る。この欠点のため、特許文献2の箔は、射出箔に接触して配置されたグリッド状冷却プレートを用いた電子ビームデバイス等の射出箔が局所的な曲率を示すような応用に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第0480732号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0622979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上述の欠点を軽減又は排除することである。
【0013】
本発明の更なる課題は、箔に対する腐食並びに熱負荷を低下させることができる電子射出箔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のアイディアは、安価なコーティングプロセス及び確立されたX線製造プロセスの適用によって、長寿命を有し、メンテナンスをあまり必要とせず、従来技術のシステムよりもコスト効率的な電子ビーム発生器を提供することである。
【0015】
本発明の第一側面によると、腐食環境において動作する高性能電子ビーム発生器で使用するための電子射出窓箔が提供される。電子射出窓箔は、Ti膜と、Tiよりも高い熱伝導率を有する物質の第一層と、膜を腐食環境から保護することができる物質の柔軟な第二層とを有するサンドイッチ構造を備え、第二層が腐食環境に向けられる。
【0016】
第一層は、膜と第二層との間に配置され得て、又は、膜が、第一層と第二層との間に配置され得る。
【0017】
第二層は、異なる物質の少なくとも二つの層を備え得て、これは、箔の異なる機械的及び/又は物理的特性(腐食耐性や強度等)を特定の応用に向けて微調整することができるという点において有利である。
【0018】
第一層は、Tiの熱伝導率と密度との間の比よりも高い熱伝導率と密度との間の比を有する複数の材料から成る群から選択され得る。
【0019】
第一層は、Al、Cu、Ag、Au及びMoから成る群から選択され得て、第二層は、Al
2O
3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択され得る。
【0020】
腐食環境はH
2O
2を有し得る。そこで、箔は、腐食殺菌剤に晒される機器(例えば、食品包装産業の充填機器等)の中で動作する電子ビームデバイスに組み込まれ得る。
【0021】
電子射出窓箔は更に、TI膜と第一層又は第二層との間に少なくとも一つの接着コーティングを備え得る。接着コーティングは、1nmから150nmの間の厚さを有するAl
2O
3又はZrO
2の層であり得る。これは、膜/層の界面における反応又は物質の拡散を防止し、又は、Ti膜と一つの層との間、若しくは二つの層の間の接着を改善するという点において有利である。
【0022】
第二側面によると、腐食環境において動作するように構成された電子ビーム発生器が提供される。電子ビーム発生器は、電子ビームを発生及び成形するアセンブリを収容及び保護する筐体と、電子ビームの出力に関する部品を有する支持体とを備え、支持体は、本発明の第一側面に係る電子射出窓箔を備える。
【0023】
第一側面の利点は、本発明の第二側面にも当てはまる。
【0024】
本発明の第三側面によると、腐食環境において動作する高性能電子ビーム発生器で使用される電子射出窓箔を提供するための方法が提供される。本方法は、Ti膜を提供するステップと、膜の第一側の上に、Tiよりも高い熱伝導率を有する物質の第一層を提供するステップと、膜を腐食環境から保護することができる物質の柔軟な第二層を提供するステップとを備え、第二層が腐食環境に向けられる。
【0025】
柔軟な第二層を提供するステップは、膜の第二側の上に柔軟な第二層を配置することを備え得る。
【0026】
柔軟な第二層を提供するステップは、第一層の上に柔軟な第二層を配置することを備え得る。
【0027】
第一層を提供するステップ及び柔軟な第二層を提供するステップの少なくとも一方の前に、膜の上に接着コーティングを提供するステップが行われ得る。
【0028】
本発明の第四側面によると、高性能電子ビームデバイスを提供するための方法が提供される。本方法は、フレームの上にTi膜を取り付けるステップと、膜の一方の側の上にTiよりも高い熱伝導率を有する物質の第一の層を提供し、腐食環境から膜を保護することができる材料の柔軟な第二層を提供することによって膜を処理するステップ(ここで第二層が腐食環境に向けらえる)と、電子ビームデバイスを密封するために電子ビームデバイスのチューブ筐体に箔‐フレームサブアセンブリを取り付けるステップとを備える。
【0029】
本発明の第一側面の利点は、本発明の第三及び第四側面にも当てはまる。
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来技術に係る電子ビームデバイスの概略断面等角図である。
【
図2】電子射出窓箔及び箔支持プレートの概略断面等角図である。
【
図3a】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【
図3b】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【
図3c】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【
図3d】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【
図3e】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【
図3f】多様な実施形態に係る電子射出窓箔の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1を参照すると、電子ビームデバイスが示されている。電子ビームデバイス100は、チューブ筐体102と支持フランジ104という二つの部品を備え、そのチューブ筐体102は、電子ビームを発生及び成形するアセンブリ103を収容及び保護し、その支持フランジ104は、窓箔106や箔支持プレート108等の電子ビームの出力に関係する部品を有し、その箔支持プレート108は、デバイス100内部が真空にされた際に窓箔106が潰れるのを防止する。更に、電子ビームデバイスの動作中、箔106は過度の熱に晒される。そこで、箔支持プレート108は、使用中に箔106に生じた熱を箔106からデバイスの外に伝えるという重要な役割も果たす。箔の温度を適度に保つことによって、箔106の十分に長い寿命を得ることができる。
【0033】
図2を参照すると、箔106及び箔支持体108を備えた電子射出窓が示されている。支持体108は、射出窓の内部の真空が維持されるように電子ビームデバイスの内部に配置される。これは、
図2においてP
1及びP
2によって示されていて、P
1は、射出窓の外側の大気圧を表し、P
2は内部の真空を表す。
【0034】
製造時に、銅製の箔支持プレート108が、好ましくはフランジ104に取り付けられて、チューブ筐体102の一部を形成する。フランジ104は一般的にステンレス鋼製である。そして、射出箔106がセパレートフレーム上に結合されて、箔‐フレームサブアセンブリを形成する。次に、箔106は、瞬間熱伝達に関する特性を改善するために、コーティングされる。次に、箔‐フレームサブアセンブリがチューブ筐体102に取り付けられて、密封された筐体を形成する。
【0035】
代替実施形態では、フランジがチューブ筐体に溶接される前に、射出窓箔106がフランジに直接取り付けられて、つまり支持プレートに取り付けられる。従って、この実施形態では、射出窓箔は、チューブ筐体102に取り付けられる前に、コーティングされる。
【0036】
図3a〜
図3fを参照すると、多様な実施形態の電子射出窓箔106a〜106fが示されている。
【0037】
まず
図3aを参照すると、箔106aは、Ti薄膜202を備える。Ti膜202は、略5から15マイクロメートルの厚さを有する。Ti膜202の一方の側の上に、熱伝導層204が配置される。熱伝導層204は、温度の低下が箔106全体にわたって得られるように射出箔に沿って熱を伝達するために設けられる。熱伝導層204は、スパッタリングや蒸着等の適切なプロセスによって設けられて、真空にされた際に支持プレート108の開口内に箔が屈曲することを許容しつつ、電子射出窓106aの温度を低下させるための熱伝導率の十分な改善を可能にしなければならない。好ましくは、熱伝導層204の物質は、Al、Cu、Ag、Au及びMoから成る群から選択される。Be等の他の物質は、熱伝導率と密度との間の高い比を有し得るが、有毒であり、特に、電子ビームデバイスが市販の商品を処理するために設けられる応用においては好ましくない。
【0038】
TI膜の他方の側の上に、保護層206が配置される。保護層206は、スパッタリングや熱蒸着等の適切なコーティングプロセスによって設けられる。好ましくは、保護層の材料は、過酸化水素含有環境に対する耐性のため、Al
2O
3、Zr、Ta及びNbから成る群から選択される。従って、保護層206が、大気環境、つまり殺菌される物体に向き合うことは理解されたい。
【0039】
熱伝導層204の厚さは好ましくは1マイクロメートルから5マイクロメートルの間であり、保護層206の厚さは1マイクロメートルよりも実質的に薄い。好ましくは、保護層206の厚さは略200nmである。窓箔106を可能な限り薄く保つことによって、電子出力が最大化される。従って、保護層206の厚さは、a)過酸化水素又は特定の応用において提供され得る他の強力な化学薬品による腐食、及び、b)空気中の電子によって生成されるプラズマに起因する腐食からTi膜を保護することができるように設計されなければならない。更に、保護層206の厚さは、真空にされた際に支持プレート108の開口に向けて箔全体が屈曲して一致するためにその層206が柔軟であるように、気密性及び物理的強度を保証しなければならない。更に他のパラメータは、保護層206を電子が透過することを許容する密度であり得る。
【0040】
熱伝導層204及び保護層206をTi箔の両側に配置することによって、層内の応力を低下させ得る。例えば、熱伝導層としてAlを用いて、保護層としてZrを用いると、これらの層の間に配置されたTi箔が、加熱の際に誘起される応力をある程度低下させる。これは、Tiの熱膨張率が、AlとZrの対応する値の間にあるからである。
【0041】
図3bは、他の実施形態の箔106bを示す。この場合、熱伝導層204及び保護層206は、TI膜202の同じ側の上に設けられて、保護層206が熱伝導層204の上に直接コーティングされる。この構造は、コーティングの前に電子射出窓箔をチューブ筐体に取り付けなればならない、つまり、電子ビームデバイスの内部に向き合うTI箔の側をコーティングすることができない電子ビームデバイスにとって有利となり得る。
【0042】
図3c及び
図3dは、
図3a及び
図3bを参照して上述したものに似た二つの異なる実施形態を示す。しかしながら、
図3c及び
図3dにおいて、保護層206は、第一層208及び第二層209という異なる材料の少なくとも二つの層を備える。保護層206の第一層208及び第二層209は両方とも、Al
2O
3、Zr、Ta、Nb、これらの合金から成る群から選択される。しかしながら、層208、209の各々それ自体が、二つ以上の保護層のサンドイッチ構造となり得ることは理解されたい。
【0043】
例えば、腐食保護層206自体が、酸化物、金属、酸化物、金属等を備えた多層構造であり得る。具体的な実施形態によると、このような多層構造は、ZrO
2の第一層、Zrの第二層、ZrO
2の第三層、Zrの第四層によって形成され得る。これは、サブ層のうち一つにおいて考えられる破壊が、保護層206の全体的な腐食保護の顕著な低下を誘起しないという点において有利である。
【0044】
電子射出窓箔の多様な層/膜の間の良好な接着を得るため、接着バリアコーティングを界面に設け得る。このようなコーティングは、Al
2O
3又はZrO
2の薄層であり得て、1nmから150nmの間、好ましくは50nmから100nmの間の厚さを有する。このようなコーティングの使用は、Tiと熱伝導層及び/又は保護層との間の界面における物質の反応又は拡散を防止するという点において有利である。反応又は拡散は、含有される物質の特性に悪影響を与える金属間化合物の形成をもたらし得る。Ti薄箔の場合、物理的強度が低下し得る。更に、金属間化合物の存在は、熱伝導層204及び保護層206それぞれの熱伝導率及び腐食保護性能を低下させ得る。
【0045】
図3eは、
図3aと似ているが、上述のバリアコーティングが設けられた更なる実施形態を示す。電子射出窓箔106eは、Ti膜と、Tiよりも高い熱伝導率を有するAlの第一層204と、腐食環境から膜202を保護することができる柔軟なZrの第二層206とを有するサンドイッチ構造を備え、第二層206が腐食環境に向けられる。
【0046】
アルミニウム(Al)の熱伝導層204は、チタン(Ti)箔の一方の側の上に配置される。酸化ジルコニウム(ZrO
2)の第一バリアコーティング210aが、TI膜202とAl層204との間に設けられる。Ti膜202の他方の側の上に、ジルコニウム(Zr)の保護層206が配置される。酸化ジルコニウム(ZrO
2)の第二バリアコーティング210bが、Ti膜とZr層206との間に設けられる。この実施形態は、Ti箔202が、一方の側において熱伝導層としてのAlに覆われ、他方の側において保護層としてのZrに覆われるという点において有利である。Tiの熱伝導率はAlとZrの対応する値の間にあるので、箔の加熱中に誘起される応力の一部が減じられる。代替例として、バリアコーティング210a、210bの一方又は両方が、酸化アルミニウム(Al
2O
3)製となり得る。バリアコーティングが、熱伝導層又は保護層のいずれかに提供された材料に基づいていると有利である。例えば、保護層がジルコニウムであり、熱伝導層がアルミニウムである場合、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムのいずれかをバリアコーティングに用いるのが好ましい。これは、これらの層がスパッタリング機器によって適用されるからである。このような機器では、堆積される各材料に対して一つずつ、スパッタターゲットが用いられる。一つの同じターゲットを、例えばジルコニウム及び酸化ジルコニウムの両方に使用することができる。アルミニウム及び酸化アルミニウムについても同様である。従って、バリアコーティングが、腐食保護又は熱伝導層のいずれかに使用されている材料の酸化物であると好ましい。
【0047】
図3fは、
図3bと似ているがバリアコーティングが設けられた実施形態を示す。電子射出窓箔106fは、Ti膜と、Tiよりも高い熱伝導率を有するAlの第一層204と、腐食環境から膜202を保護することができる柔軟なZrの第二層206とを有するサンドイッチ構造を備え、第二層206が腐食環境に向けられる。熱伝導層204及び保護層206は、Ti膜202の同じ側の上に設けられる。Ti膜202の上に、第一バリアコーティング210aがコーティングされる。バリアコーティング210aは酸化アルミニウム(Al
2O
3)製である。アルミニウム(Al)の熱伝導層204は、第一バリアコーティング210aの上にコーティングされる。そして、熱伝導層204の上に、第二バリアコーティング210bがコーティングされる。バリアコーティング210bも酸化アルミニウム製である。最後に、ジルコニウム(Zr)製の保護層206が、第二バリアコーティング210bの上にコーティングされる。代替例として、バリアコーティング210a、210bの一方又は両方を、酸化ジルコニウム(ZrO
2)製とし得る。
【0048】
図3e及び
図3fの両実施形態において、保護層206は、
図3c及び
図3dに関して説明したような多層構造となり得る。
【0049】
本発明をいくつかの実施形態を参照して主に説明してきた。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、上述のもの以外の他の実施形態も、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲内において同様に可能である。
【符号の説明】
【0050】
100 電子ビームデバイス
102 チューブ筐体
103 アセンブリ
104 支持フランジ
106 電子射出窓箔
108 箔支持プレート
202 Ti膜
204 熱伝導層
206 保護層