(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387400
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】医薬組成物、その製造および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20180827BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20180827BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20180827BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20180827BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20180827BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20180827BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20180827BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20180827BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K9/127
A61K47/02
A61K47/44
A61K47/42
A61K47/30
A61K45/00
A61K39/395
A61K48/00
A61K31/704
A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-516193(P2016-516193)
(86)(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公表番号】特表2016-522833(P2016-522833A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】EP2014061296
(87)【国際公開番号】WO2014191569
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年4月4日
(31)【優先権主張番号】13305712.5
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/828,794
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506377178
【氏名又は名称】ナノビオティックス
【氏名又は名称原語表記】NANOBIOTIX
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アニエス・ポティエ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・レヴィ
(72)【発明者】
【氏名】マリー−エディット・メイル
(72)【発明者】
【氏名】オドレイ・ダルモン
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・ジェルマン
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−523090(JP,A)
【文献】
特開平10−120597(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/086639(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A61K 9/127
A61K 31/704
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/02
A61K 47/30
A61K 47/42
A61K 47/44
A61K 48/00
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)生体適合性ナノ粒子と、(ii)目的とする医薬化合物との組み合わせを含むキットであって、ここで該生体適合性ナノ粒子の最長の寸法が約4nmと約500nmの間にあり、該生体適合性ナノ粒子の表面帯電量がその必要とする対象の治療、予防、または診断方法に使用するために負電荷で、かつ−15mV未満であり、治療、予防、または診断方法が目的とする該医薬化合物を該対象に投与する工程および該ナノ粒子を投与する別の工程を含み、目的とする該医薬化合物の前に、該ナノ粒子が該対象に5分間より長く、約72時間までの間に投与される、キット。
【請求項2】
ナノ粒子が有機ナノ粒子である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
ナノ粒子が、脂質をベースとするナノ粒子、蛋白をベースとするナノ粒子、ポリマーをベースとするナノ粒子、コポリマーをベースとするナノ粒子、炭素をベースとするナノ粒子、およびウイルス様ナノ粒子より選択される、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
ナノ粒子がいずれかの無機ナノ粒子であり、該ナノ粒子の最長の寸法が約7nmよりも小さい、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
ナノ粒子が無機ナノ粒子であって、該ナノ粒子の最長の寸法が、少なくとも10nmであり、該ナノ粒子の無機材料が(i)例えば、Mg、Ca、Ba、およびSrより選択される1または複数の二価の金属元素、(ii)例えば、FeおよびAlより選択される1または複数の三価の金属元素、ならびに(iii)Siを含む1または複数の四価の金属元素より選択される、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
無機材料が、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、酸化鉄(Fe3O4またはFe2O3)、酸化アルミニウム(Al3O4)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)、および酸化ケイ素(SiO2)より選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
ナノ粒子が生体適合性コーティング剤でさらに覆われている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のキット。
【請求項8】
生体適合性ナノ粒子と化合物との併用投与が、該化合物の標準的な治療量によって誘発される治療効果および毒性と比べた場合に、対象のために、該化合物の治療効果を維持して毒性を減少させるか、あるいは該化合物の治療効果を向上させて毒性を同等または減少させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
生体適合性ナノ粒子と化合物との併用投与が、該化合物の標準的な治療量と比較した場合に、投与される化合物の治療量を少なくとも10%減少させ、対象のために同じ治療効果を維持する一方で毒性を同等または毒性を減少させるか、あるいは対象のために治療効果を向上させる一方で毒性を同等または減少させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
ナノ粒子が、請求項1に記載の目的とする医薬化合物を必要とする対象に該粒子を投与した後の1時間と6週間の間に、該粒子を投与した対象から一掃される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
化合物が、生物学的化合物、小分子標的治療薬、および細胞傷害性化合物から好ましくは選択される有機化合物である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
化合物が、抗体、オリゴヌクレオチド、および合成ペプチドより選択される、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
化合物が、金属のナノ粒子、金属酸化物のナノ粒子、金属硫化物のナノ粒子、およびそれらのいずれかの混合物より選択される無機化合物である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
目的とする化合物がキャリアにてカプセル化されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
目的とする化合物がキャリアと結合している、請求項1〜13のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)生体適合性ナノ粒子と、(ii)目的とする化合物との組み合わせを含み、そのような化合物を必要とする対象に投与されることを目的とする医薬組成物であって、ここで該ナノ粒子が目的とする化合物の効能を強化するところの医薬組成物に関する。生体適合性ナノ粒子の最長の寸法が典型的には約4nmと約500nmの間にあり、その絶対表面帯電量が少なくとも10mV(|10mV|)である。
【0002】
本発明はまた、その必要とする対象に目的とする化合物を投与するのに使用されるような組成物であって、ナノ粒子と目的とする化合物が対象に連続的に、典型的には相互に5分間より長く、約72時間までの間に投与されるべき組成物に関する。
【0003】
生体適合性ナノ粒子と、目的とする化合物とを併用して、典型的には連続して対象に投与することは、該化合物の標準的な治療量によって誘発される治療効果および毒性と比べた場合に、対象において、目的とする該化合物の医薬的(すなわち、治療的、予防的または診断的)効果を維持してその毒性を減少させるか、あるいはその治療的効果を向上させて毒性を同等または減少させる。
【0004】
本発明の医薬組成物は、典型的には、該化合物の標準的な治療量と比較した場合に、投与される化合物の治療量を少なくとも10%減少させ、対象のために同じ治療効果を維持する一方で毒性を同等とし、好ましくは毒性を減少させるか、あるいは対象のために治療効果を向上させる一方で毒性を同等または減少させる。
【背景技術】
【0005】
安全性および薬効を確保するのに、治療用化合物をその必要とする対象におけるその標的部位に最適な割合で選択的に送達することが必要とされる。
【0006】
薬物動態(pK)は、生物に外部から投与される物質の経路を決定するのに供される薬理学の分野に関するものである。この決定には、十分な期間にわたって、好ましくは化合物が消失するまで主要なあらゆる組織にて化合物の濃度を測定する工程を含む。薬物動態学は、その吸収および分配機構ならびに体内でのその化学的変化を含む、インビボでの化合物の構造を効率よく記載する必要がある。血液中のpKプロフィールを種々のプログラムを用いて適合させ、身体が該化合物をどのように処理するかを量的に記載する、主要pKパラメータを得ることができる。重要なパラメータとして、最大濃度(C
max)、半減期(t
1/2)、クリアランス、曲線下面積(AUC)、平均滞留時間(MRT)(すなわち、化合物が生体内に滞留する平均時間)が挙げられる。製剤の化合物の血液循環の長期化が観察される場合、それは、通常、t
1/2の増加、クリアランスの減少、AUCの増加、およびMRTの増加と関連付けられる。pKデータは、しばしば、副作用を最小としながら、治療上の薬効を改善するために、所望の血中濃度を維持するための最適用量および投与計画を決定するのに使用される。さらに、当業者に周知であるように、化合物の血中濃度は、大抵のケースで、典型的には遊離ドラッグ(free drug)の場合で、その薬効および毒性の両方と相関付けられる。
【0007】
治療用ならびに予防用化合物の物理化学特性は、体内におけるその薬物動態経路および代謝経路に重要な影響を与える。従って、かかる化合物を設計する場合には、適切な物理化学特性を選択することが重要となる。しかしながら、そのような化合物は生物それ自体で常に内因的に提供されるものではなく、通常は外から投与されるものであり、その生体分布プロフィールはその所望の薬理学的作用と適合し、好ましくは該作用を最適化するように最大限に利用しなければならない。
【0008】
化合物のその標的部位へのデリバリーを最適化するのに、いくつかの解決手段が調査された。一の手段は、その血中半減期を延ばし、結果としてその標的部位への蓄積を強化するように、ステルス性を有する治療用化合物を設計することである。一の好ましい解決手段は、ポリエチレングリコール(PEG)を、循環性化合物のインビボでの半減期(t
1/2)を延ばすことが証明されている治療用化合物と共有結合させ、化合物の特性およびコーティング剤の特性に応じていくらか変化するインビボでの半減期のレベルを増大させることである。また、リポソーム、エマルジョンまたはミセルなどの、対象体内でのその生体分布特性を修飾することで薬物の治療効力を向上させる、薬物キャリアも開発された。
【0009】
しかしながら、治療用化合物の生体分布における選択性の欠如は、依然として、関心の的である。これまでの薬物動態の乏しさおよび毒性の高さが治療用化合物を開発する際に失敗する大きな原因である。
【0010】
一例として、がん治療に照らして、がん細胞を殺すために体の必要不可欠な機能を意図的に阻害することは、正常細胞における標的または機構に対して傷害をもたらし、臨床医は腫瘍組織と正常組織の間で用量応答および治療用化合物の分布の違いに応じて可能性のある治療域を見つける必要がある。注目すべきは、薬物誘発性細胞傷害が肝臓において直接的または間接的に作用するために、肝毒性は医薬品開発および臨床使用から薬物を除外する主たる原因として残存する。
【0011】
薬物キャリアなどのナノ粒子の化合物について提案される一の解決手段[Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 11 (1): 31-59 1994]は、予めデコイキャリアを注射し、細網内皮系(RES)の貪食能を減少させ、満腹にし、あるいは不活化さえさせることである。機能的障害または遮断もオプソニン分子の血漿中レベルの減少に付随するかもしれない。試験粒子を投与する前に、クロドロネートを空にするか、またはカプセル化するかのいずれかで、脂肪酸のアルキルエステル、硫酸デキストリン、希土類元素の塩(例えば、GdCl
3)、薬物キャリアなどの特定の試剤を静脈内投与することは、クッパ−細胞の取り込みにおける適度ないし劇的な減少を誘発することが証明された。
【0012】
例えば、「腫瘍にホーミングするナノ粒子の擬生化学増幅(Biomimetic amplification of nanoparticle homing to tumors)」[PNAS 2007]の著者は、そのナノ粒子「CREKA-SPIO」のクリアランスにおけるRESの役割を報告した。初期の実験では、静脈内(IV)注射された「CREKA-SPIO」ナノ粒子がMDA-MB-435乳がんの異種移植片に効果的に蓄積しないことが明らかにされた。反対に、高濃度の粒子がRESに認められた。肝臓でのRESマクロファージをリポソームクロドロネートと一緒に枯渇させることで、それらはその粒子半減期を5倍長くすることが判明した。しかしながら、クロドロネート剤は、肝臓および脾臓から由来のマクロファージのアポトーシスを誘発し、このことは、マクロファージの枯渇が免疫抑制および感染と関連付けられる危険性を増大させるのと同様に全体として有害であると考えられる。第2実験にて、著者は、酸化鉄およびNi(II)が類似する血漿中オプソニンを引きつけ、そこでNi−リポソームがそれらを全身性循環にて枯渇させうると仮定する可能性のあるデコイ粒子としてキレート化Ni(II)で被覆したリポソームを試験した。実際、静脈内(IV)注射したNi−リポソーム(CREKA-SPIOナノ粒子を注射する5分または48時間のいずれかの前に投与された)は、ナノ粒子の血中半減期を5倍増加させた。しかしながら、腫瘍マウスの間で死に至る高毒性が観察された。Ni−リポソームの代わりにプレイン(plain)リポソームも試験された。しかし、当該Ni−リポソームと比較した場合に、毒性は減るが、プレインリポソームはNi−リポソームよりもずっと効果が小さかった。実際に、血中半減期の増加は約2倍に過ぎなかった。
【0013】
WO2005086639は、典型的には超音波またはX−線照射に照らして、または磁気共鳴画像(MRI)に照らして、ならびに療法に照らして、対象の標的部位に選択的に所望の試剤を投与する方法に関する。そこに記載の方法の目的は、目的とする試剤の効能を改善または維持する一方で、デコイ不活性キャリアを同時に投与することに起因して具体的に投与される試剤の総用量を減少させることである。
【0014】
そこに記載の発明は確率をベースとする解決手段を利用する。標的とされない不活性な試剤(「不活性キャリア」)を、目的とする標的とされる試剤によるRES系を回避するために、類似する物理特性を示す、目的とする標的とされる試剤(「活性な組成物」中に配合されている)と一緒に(すなわち「実質的に同時に」)投与し、それにより所望の部位での目的とする試剤の取り込みの改善が可能となる。この解決手段は患者が目的とする試剤に曝されることが少なくなるようにし、その結果として、一投与当たりの目的とする試剤の費用が低下することとなる。活性な組成物と、デコイの不活性なキャリアは互いに5分以内に、好ましくは互いに2分以内に、あるいはさらに短時間内に投与される。この解決手段は、大過剰の標的とされない「キャリア」または「デコイ」ベヒクルの存在に、そしてこの過剰なデコイキャリアが、所望のロケーションを標的とするベヒクルの存在下で供給される場合に、目的とする標的となる試剤と細網内皮系による取り込みについて競合するであろうとの可能性に依存する。RESにより捕獲される粒子の半減期は用量依存的であり、すなわち粒子の循環性半減期は投与量の増加と共に増大する。投与量が高くなるほどにクリアランスが遅くなるということは、試剤全体の濃度を高く維持し、投与されるべき目的とする試剤の用量を減少させることが好ましいと考えられる。言い換えれば、その全体の投与量を高くすることに起因する試剤全体の半減期の増加は、WO2005086639の発明者によれば、標的とされる試剤にとって有利なはずである。この解決手段に含まれる要件は、活性な試剤と不活性なものが、その個々の組成物が何であっても、RESにおけるそのクリアランス特性に関して同様に行動することである。
【0015】
この解決手段において、不活性な試剤と、活性な試剤との半混合注射は、血中に存在する試剤の全体量を増大させ、結果的にその血中半減期を長期化するのに必要である。確率をベースとする解決手段に明らかに依存するそのような戦略は、その活性な試剤が不活性な試剤よりも効果をもたらすことで、標的部位で思い通りに蓄積することを達成するために、活性な試剤と標的とする試剤との接合を必然的に必要とする。さらに、その半混合注射のために、意図する活性な組成物の使用に応じて、不活性なキャリアを特別にデザインする必要があるかもしれない。
【0016】
従来技術から明らかなように、そして長期にわたって医療ニーズがあるにもかかわらず、その許容できない毒性のため、あるいはその望ましくない薬物動態学的パラメータのために、患者において効率良く使用され得ない化合物(治療、予防ならびに診断用化合物を含む)の改善が関心事として残ったままである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、治療、予防または診断に照らして、その意図する使用が何であっても、目的とする化合物(本明細書においてはまた、簡単に「化合物」とも称する)の効能を最適とすることができる。(i)生体適合性ナノ粒子と、(ii)目的とする少なくとも1つの化合物との組み合わせである、本明細書に記載の組成物は、目的とする少なくとも1つの化合物の薬物動態学的パラメータを最適化し、結果として、例えばその許容できない毒性のために、別の方法では開発することのできない治療用化合物の開発を可能とする。
【0018】
本発明の典型的な組成物(本明細書中、一般的に、「医薬組成物」と称される)は、(i)生体適合性ナノ粒子と、(ii)少なくとも1つの化合物(「目的とする化合物」)との組み合わせを含む組成物であり、ここでその生体適合性ナノ粒子の最長寸法が、典型的には、約4nmと約500nmの間にあり、その生体適合性ナノ粒子の絶対表面帯電量が少なくとも10mVの組成物である。
【0019】
本発明の好ましい目的物は、(i)生体適合性ナノ粒子と、(ii)目的とする医薬化合物との組み合わせを含む医薬組成物であって、ここでその生体適合性ナノ粒子の最長の寸法が、典型的には、約4nmと約500nmの間にあり、その生体適合性ナノ粒子の絶対表面帯電量がその必要とする対象に目的とする医薬化合物を投与するのに使用するために少なくとも10mV(|10mV|)であり、そのナノ粒子と、目的とする化合物が、当該目的とする化合物を必要とする対象に、互いに5分間より長く、約72時間までの間に投与される、ところの医薬組成物である。
【0020】
生体適合性ナノ粒子の、そして目的とする化合物の、本発明の組成物を介する対象への併用投与は、典型的には、該化合物の標準的な医薬用量で誘発される医薬的効果および毒性と比較した場合に、該化合物の同じ医薬的(すなわち、治療的、予防的または診断的)効果を維持する一方で、対象に対するその毒性を減らし、あるいは該化合物の医薬的効果を増やす一方で、対象に対する毒性を同等のまま、または減らす(好ましくは毒性を減らす)ことができる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、典型的には、投与された医薬的(すなわち、治療的、予防的または診断的)化合物の用量を、該化合物の標準的医薬用量と比較した場合に、(i)同じ医薬的効果を維持しながら、対象に対する毒性を同等のまま、好ましくは毒性を減らし、あるいは(ii)医薬的効果を増やしながら、対象に対する毒性を同等または減らし、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%減らすことができる。
【0022】
粒子の形状がその「生体適合性」に影響を及ぼしうるため、全く同じ形状を有する粒子が好ましい。薬物動態特性の理由から、本質的に、形状が球形、丸形または卵形のナノ粒子が好ましい。かかる形状はまた、ナノ粒子の細胞との相互作用または細胞による取り込みに有利である。球形または丸形が特に好ましい。発明の精神において、「ナノ粒子」なる語は、大きさがナノメーターの範囲にある、典型的には、約1nmと約500nmの間に、好ましくは約4nmと約500nmの間に、約4nmと約400nmの間に、約30nmと約300nmの間に、約20nmと約300nmの間に、約10nmと約300nmの間に、例えば、約4nmと約100nmの間に、例えば約10nm、15nmまたは20nmと約100nmの間に、あるいは約100nmと約500nmの間に、典型的には約100nmと約300nmの間にある、生成物、特に合成生成物をいう。
【0023】
「ナノ粒子の大きさ」、「ナノ粒子の最大の大きさ」および「ナノ粒子の最長の大きさ」なる語は、典型的には、形状が球形または卵形である場合に、「ナノ粒子の最長または最大の寸法」あるいは「ナノ粒子の直径」をいう。透過電子顕微鏡(TEM)またはCryo-TEMは、ナノ粒子の大きさを測定するのに使用され得る。同様に、動的光散乱(DLS)は、ナノ粒子の溶液中の流体力学的径を測定するのに使用され得る。これらの2つの方法はさらに、測定した大きさを比較し、その大きさを確認するのに、交互に使用されてもよい。好ましい方法がDLSである(国際標準ISO22412 粒度分析−動的光散乱(Particle Size Analysis-Dynamic Light Scattering)、国際標準化機構(ISO)2008を参照のこと)。
【0024】
本発明に照らして使用可能であるために、生体適合性ナノ粒子の絶対静電表面帯電性(本明細書において「帯電量」または「表面帯電量」とも称される)は、|10mV|(絶対値)よりも大きいことが必要である。ナノ粒子の表面帯電量は、典型的には、ナノ粒子が0.2と10g/Lの間の濃度で、pHが6と8の間の水性媒体中にて、典型的にはその水性媒体中の電解質濃度が0.001と0.2M、例えば0.01Mまたは0.15Mにて、ゼータ電位測定法により測定される。
【0025】
典型的には、本発明の生体適合性ナノ粒子は、少なくとも|10mV|の電子表面帯電性、すなわち−10mVより低いまたは+10mVより高い、例えば−12mVまたは−15mVと−20mVの間よりも低く、+12mVまたは+15mVと+20mVの間よりも高い、典型的には−15mVより低く、または+15mVよりも高い、電子表面帯電性を有する。好ましくは、本発明の生体適合性ナノ粒子は10mVよりも大きな絶対電子表面帯電量(「絶対表面帯電量」)を有し、より好ましくは、その帯電性は負の電荷である。
【0026】
ナノ粒子が帯電される限り、本発明に照らして用いることができるナノ粒子は有機または無機のいずれとすることもできる。有機と無機のナノ粒子の混合物もさらに使用可能である。
【0027】
有機である場合、ナノ粒子は脂質をベースとするナノ粒子(糖脂質、リン脂質、ステロール脂質等)、蛋白をベースとするナノ粒子(本明細書にて「蛋白−ナノ粒子」とも称される)(例えば、アルブミン)、ポリマーをベースとするナノ粒子(「ポリマーナノ粒子」)、コポリマーをベースとするナノ粒子(「コポリマーナノ粒子」)、炭素をベースとするナノ粒子、ウイルス様ナノ粒子(例えば、ウイルスベクター)であり得る。
【0028】
有機ナノ粒子はさらにはナノ球体(プレインナノ粒子)またはナノカプセル(中空ナノ粒子)、例えばリポソーム、ゲル、ヒドロゲル、ミセル、デンドリマー等であってもよい。本明細書に記載の有機ナノ粒子の混合物も使用され得る。ポリマーまたはコポリマーは天然または合成起源とすることができる。
【0029】
有機ナノ粒子を調製するのに本発明に照らして用いることのできる合成(人工)および天然のポリマーまたはコポリマーの例は、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ラクチド−コ−グリコ−ル)酸(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグラクチン、ポリラクチド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリアクリレート−コ−グリコレート、ポリ(アミドアミン)、ポリ(エチレンイミン)、アルギネート、セルロース、およびセルロース誘導体ポリマー、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸(PGA)、アクチン、多糖類、およびゼラチンより選択され得る。
【0030】
無機性であって、その最長の寸法が、典型的には、約10nmよりも短い場合、例えば約8nmよりも短い、約7nmよりも短い、典型的には約7nmと約4nmの間にある場合、例えば約6nmよりも短い、約5nmよりも短い、あるいは約4nmよりも短い場合、ナノ粒子はいずれの無機材料で製造されてもよい。無機材料は、例えば、メンデレーエフの周期表の第3、4、5、6周期からの金属元素(ランタニドを含む)から構成されてもよい。ナノ粒子の最長寸法が、典型的には、約10nm未満の場合、ナノ粒子がより大きな構造体に集合してもよい。ナノ粒子のより大きな構造体への集合は、典型的には、ナノ粒子と、生体適合性ポリマー、蛋白等との間の相互作用によりトリガーされてもよい。より大きな構造体はまた、ナノ粒子をキャリアに、典型的には、ゼラチン構造体(本明細書においては「ゼラチンナノ粒子」とも称される)などのプレインキャリアに、またはリポソームなどの中空キャリアにトラップすることで得られてもよい。インビボ投与した後に、そのより大きな構造体がさらにナノ粒子を放出してもよい。
【0031】
ナノ粒子が無機性であって、その最長の寸法が、典型的には、少なくとも10nmで、典型的には10nmと500nmの間にある場合、そのナノ粒子は、(i)例えば、Mg、Ca、BaおよびSrより選択される1または複数の二価の金属元素、(ii)例えば、FeおよびAlより選択される1または複数の三価の金属元素、および(iii)Siを含む1または複数の四価の金属元素の少なくとも1つを含んでもよく、あるいはそれらの金属元素から構成されてもよい。
【0032】
個々の実施態様において、ナノ粒子の無機材料は、(i)例えば、Mg、Ca、BaおよびSrより選択される1または複数の二価の金属元素、(ii)例えば、FeおよびAlより選択される1または複数の三価の金属元素、および(iii)Siを含む1または複数の四価の金属元素より選択される。
【0033】
さらなる個々の実施態様において、ナノ粒子の無機材料は、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、水酸化鉄(Fe(OH)
2)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、酸化鉄(Fe
3O
4またはFe
2O
3)、酸化アルミニウム(Al
3O
4)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)および酸化ケイ素(SiO
2)より選択される。
【0034】
本明細書に記載の組成物に使用されるナノ粒子は、生体適合性、すなわち生きている組織と適合しうるものでなければならない。その組成物で必要ならば、その場合、ナノ粒子を生体適合性材料で被覆し、使用できるようにしなければならない。本発明の個々の実施態様において、本明細書に記載のナノ粒子はその場合に生体適合性コーティング剤で覆われる。
【0035】
生体適合性材料は生物学的標的と相互作用しうる試剤とすることができる。かかる試剤は、ナノ粒子の絶対帯電量が少なくとも10mVである場合に、ナノ粒子の表面に正または負の荷電を生じさせるであろう。
【0036】
ナノ粒子の表面に正の荷電を形成する試剤は、例えば、アミノプロピルトリエトキシシランまたはポリリジンより選択され得る。ナノ粒子の表面に負の荷電を形成する試剤は、例えば、ホスファート(例えば、ポリホスファート、メタホスファート、ピロホスファート等)、カルボキシラート(例えば、シトラートまたはジカルボン酸、特にコハク酸)またはサルファートより選択され得る。
【0037】
特定の実施態様において、ナノ粒子の絶対帯電量が少なくとも10mV(|10mV|)である限り、そのナノ粒子は立体的な基を表示する試剤より選択される生体適合性材料で被覆され得る。かかる基は、ポリエチレングリコール(PEG);ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリアクリレート;ポリアクリルアミド(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド));ポリカルバミド;バイオポリマー;デキストラン、キシランおよびセルロースなどの多糖類;コラーゲン;ポリスルホベタインなどの双性イオン化合物より選択されてもよい。
【0038】
生体適合性コーティングは、有利には、「フルコーティング」(全単層)であってもよい。このことはナノ粒子の全表面に適切な電荷を付与する極めて高密度の生体適合性分子が存在することを意味する。
【0039】
生体適合性コーティングはさらに、標識化剤、典型的には標準的な画像装置を用いて色相の可視化を可能とする試剤を含んでもよい。
【0040】
生体適合性ナノ粒子と目的とする化合物との併用投与は、典型的には、目的とする化合物を必要とする対象に、相互に5分間より長く、約72時間までの間に投与した場合で、該化合物の標準的な医薬的、典型的には治療的用量で誘発される医薬的(すなわち、治療的、予防的または診断的)効果および毒性と比較した場合に、対象のために、目的とする化合物の同じ医薬的効果、典型的には治療的効果を維持してその毒性を減らし、あるいは該化合物の医薬的効果を増やし、毒性を同等のまま、または減らすことができる。
【0041】
特定の実施態様において、生体適合性ナノ粒子と、目的とする化合物との併用投与は、典型的には、目的とする化合物を必要とする対象に、相互に5分間より長く、約72時間までの間に投与した場合で、該化合物の標準的な治療的用量を比較した場合に、投与される化合物の治療的用量を少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%減少させ、その一方で対象のために同じ治療的効果を維持し、化合物の毒性を同等とし、または毒性を減らし(好ましくは毒性を減らし)、あるいは対象のために治療的効果を向上させ、その毒性を同等または減らすことができる。
【0042】
特定の実施態様において、ナノ粒子は、目的とする数種の化合物と、典型的には目的とする2種の化合物と一緒に投与される。
【0043】
ナノ粒子は、好ましくは、典型的には、目的とする化合物を必要とする対象にそれを投与した後の、1時間と6週間の間に、例えば1ヶ月(4週間)後に、1時間と1ヶ月の間に、例えば1時間と3週間の間に、あるいは1時間と2週間の間に、あるいは1時間と1週間の間に、それを投与した対象より一掃される。
【0044】
ナノ粒子を構成する材料(表面が覆われている場合、その生体適合性コーティング剤も含まれる)はナノ粒子の生体持続性を決定するのに重要である。ナノ粒子は生分解性(例えば、PLGAまたはPLAなどの生分解性ポリマーで構成される場合)、溶解性(例えば、酸化鉄で構成されている場合)とみなされてもよく、あるいは非生分解性でかつ非溶解性と考えることもできる。生分解性で溶解性のナノ粒子が対象からナノ粒子を迅速に一掃することを容易なものとする。
【0045】
異なる分子または試剤は、少なくとも1つの目的とする化合物として、典型的には少なくとも1つの目的とする医薬化合物として、当該教示に従って使用され、上記されるような生体適合性ナノ粒子と組み合わせて投与され得る。この化合物は、上記において説明されるように、治療的、予防的または診断的化合物であってもよい。それは有機化合物または無機化合物であり得る。
【0046】
目的とする化合物として使用可能な有機化合物の例は、生物学的化合物、抗体、オリゴヌクレオチド、合成ペプチド、小分子を標的とする治療薬、細胞傷害性化合物、およびその対応するいずれのプロドラッグまたは誘導体等より選択され得る。
【0047】
特定の実施態様において、本発明に照らして用いることのできる目的とする化合物は、生物学的化合物、小分子を標的とする治療薬、および細胞傷害性化合物より選択されるのが好ましい。もう一つ別の特定の実施態様において、目的とする化合物は抗体、オリゴヌクレオチドおよび合成ペプチドより選択される。
【0048】
生物学的化合物は、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ラニビズマブ、セツキシマブ、マナチムマブなどの抗体、好ましくはモノクローナル抗体(「mAb」);エンブレル(エタネルセプト)またはインターフェロンベータ−1aなどの蛋白または組換え蛋白;インスリングラルギンまたはベータセロンなどのペプチドまたは組換えペプチド;プレブナ−13またはガルダシルなどのワクチン;エポジンなどの後発生物製剤;レプラガルまたはクレオンなどの酵素または組換え酵素等である。
【0049】
オリゴヌクレオチドは、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、例えばミポメルセンナトリウムまたはプルゼニド等である。
【0050】
合成または人工ペプチドは、酢酸グラチラマーまたは酢酸ロイプロリドである。
【0051】
小分子を標的とする治療薬は、一般に、悪性細胞の中の変異蛋白、過剰発現蛋白、さもなければ重要な意味を有する蛋白(がん治療に照らして標的の可能性のある蛋白)上の酵素ドメインを阻害する。ある治療剤として、細胞分裂を標的とする治療剤(例えば、オーロラ−キナーゼ阻害剤またはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤)ならびに蛋白ターンオーバーおよびクロマチン修飾などの他の生物学的機構を標的とする治療剤(例えば、ヒストン−脱アセチル酵素阻害剤)が挙げられる。小分子を標的とする治療薬は、例えば、イマチニブ、ラパマイシン、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ラパチニブ、ボルテゾミブ、アトルバスタチン等である。
【0052】
細胞傷害性化合物は、例えば、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン等)などのDNA修飾剤、アルキル化剤(例えば、メルファランまたはテモゾロミド)ならびに微小管重合(例えば、タキソール)または代謝物合成(例えば、メトトレキサート)などの所定の生理機構を極めて正確に干渉する薬物である。活性型細胞傷害性化合物(例えば、フォトフリン)は、典型的には、光力学療法に照らして使用され、レーザー源などの外部源により活性化され、その治療効果を生じさせる。他の典型的な細胞傷害性化合物は、典型的には、本明細書に記載の、あるいは腫瘍学者により公知の化学治療薬より選択される。
【0053】
プロドラッグ(例えば、カペシタビンまたはイリノテカン)はインビボでその活性形態に代謝され、その予想される治療効果を生じさせる。
【0054】
目的とする化合物として用いることのできる無機化合物の例が、遷移金属配位錯体、放射性製薬用化合物、ナノ粒子等より選択され得る。
【0055】
遷移金属配位錯体はより一般的な有機体をベースとする薬物よりも可能性として大きな利点(広範囲にわたる配位数および幾何学、アクセス可能なレドックス状態、配位子置換の熱力学および動力学の「同調性」、ならびに広い構造多様性を含む)を提供する。金属をベースとする物質は、細胞分子標的と相互作用し、生化学機能に影響を及ぼし、悪性細胞の破壊がもたらされる。遷移金属配位錯体は、典型的には、細胞傷害性剤(例えば、白金配位錯体:シスプラチン、カルボプラチン、オキサロプラチン、またはルテニウムもしくは金配位錯体)であり、DNA構造に作用する。
【0056】
放射性製薬用化合物は、診断を目的として、あるいは悪性細胞を選択的に破壊するために放射能を放出する。典型的な放射性医薬品は、例えば、ストロンチウム−89、タリウム−201、テクテニウム(techtenium)−99、サマリウム−83等を含有してもよい。
【0057】
ナノ粒子は、典型的には、金属酸化物のナノ粒子(例えば、WO2009/147214およびWO2007/118884を参照のこと)、金属のナノ粒子(例えば、金、白金、または銀のナノ粒子)、金属硫化物(例えば、Bi
2S
3)のナノ粒子およびそれらのいずれの混合物(例えば、酸化ハフニウム物質で覆われた金のナノ粒子)より選択される。ナノ粒子は、例えば、電磁放射源、超音波源、または磁気源等などの外部源を介して活性化され得るナノ粒子である。
【0058】
上記されるように生体適合性ナノ粒子と組み合わせて投与される(典型的には本明細書に記載されるように連続的に投与される)目的とする化合物は、当業者に既知の手段に従って、キャリアでカプセル化されてもよく、あるいはかかるキャリアにグラフト(または結合)させてもよい。典型的なキャリアは、例えば、リポソーム(感熱性脂質を用いるDOXILまたはThermoDoxなど)、ミセル、重合体(または「ポリマー」)キャリア、ヒドロゲル、ゲル、共重合体キャリア、蛋白キャリア、無機キャリアである。
【0059】
本発明の医薬組成物(目的とする化合物と、ナノ粒子の組み合わせと定義される)は、多くの分野、特にヒトまたは獣医薬の分野にて使用され得る。この組成物は、典型的には、動物、好ましくは哺乳動物にて(例えば、獣医薬に照らして)、さらにいっそう好ましくはその年齢または性別にこだわることなく、いずれのヒトにおいても使用されるものである。
【0060】
本発明の医薬組成物は、心血管疾患、中枢神経系(CNS)疾患、胃腸疾患、遺伝性障害、血液疾患、免疫疾患、感染疾患、代謝異常、筋骨格障害、腫瘍学、呼吸器系疾患、毒物学等にて使用され得る。好ましい実施態様にて、該医薬組成物は、心血管疾患、CNS疾患、腫瘍学、感染疾患、代謝異常に使用される。
【0061】
本発明に照らして、ナノ粒子および化合物(「目的とする化合物」)は、有利には、当該化合物を必要とする対象において、その化合物の薬理学的効能を最適とするために、互いに、5分間より長く、約72時間までの間に、典型的には5分間より長く、約24時間までの間に、好ましくは5分間または30分間より長く、約12時間までの間に投与されるべきである。
【0062】
本発明において、ナノ粒子および化合物(「目的とする化合物」)が、有利には、当該化合物を必要とする対象において、互いに、5分間より長く、約72時間までの間に投与される場合、その生体適合性ナノ粒子の絶対表面帯電量は少なくとも10mV(|10mV|である。
【0063】
本発明の特定の実施態様において、ナノ粒子および化合物(「目的とする化合物」)が、有利には、当該化合物を必要とする対象において、互いに、5分間より長く、約24時間までの間に投与される場合、その生体適合性ナノ粒子の絶対表面帯電量は、有利には、少なくとも15mV(|15mV|)である。
【0064】
本発明のもう一つ別の特定の実施態様において、ナノ粒子および化合物(「目的とする化合物」)が、有利には、当該化合物を必要とする対象において、互いに、5分間より長く、約12時間までの間に投与される場合、その生体適合性ナノ粒子の絶対表面帯電量は、有利には、少なくとも20mV(|20mV|)である。
【0065】
また、本明細書に記載される疾患などの病気を患っている対象を治療する方法であって、該対象に本発明の医薬組成物を投与すること、典型的には本明細書に記載の生体適合性ナノ粒子と少なくとも1つの目的とする化合物とを投与することを含む方法も記載される。ナノ粒子と少なくとも1つの目的とする化合物が、互いに、5分間より長く、約72時間までの間に投与される限り、そのナノ粒子または化合物のいずれであってもまず対象に投与することができる。ナノ粒子または少なくとも1つの目的とする化合物のいずれの投与も、各々、単回投与と、あるいは、各々、反復投与と、例えば、各々、数回の連続投与とすることができる。生体適合性ナノ粒子を一回投与し、そして少なくとも1つの目的とする化合物を再三投与してもよく、またその逆であってもよい。
【0066】
特定の実施態様において、生体適合性ナノ粒子は、目的とする化合物を数回投与することを含むプロトコルを開始する際に少なくとも投与され、すなわち目的とする化合物の投与の前後を問わず、少なくともその化合物をまず投与する際に投与される。
【0067】
もう一つ別の特定の実施態様において、生体適合性ナノ粒子は、目的とする化合物を数回投与することを含むプロトコルを開始する際に、その投与の前後を問わずに投与され、目的とする化合物を投与する第2または第3の投与の前には投与されない。
【0068】
これらのすぐ上に記載した2つの実施態様に照らして、生体適合性ナノ粒子はまた、その後の目的とする化合物の一部の投与またはあらゆる投与の間に、目的とする化合物と一緒に(上記されるように前後で)投与され得る。
【0069】
特定の実施態様において、本発明のナノ粒子は、少なくとも1つの目的とする化合物を対象に投与する前に、典型的には少なくとも1つの目的とする化合物を投与する5分間より長く、約72時間までの間の前に、該対象に投与される。
【0070】
本明細書において、「ナノ粒子」なる語は、さらに具体的には、大きさが約4nmと約100nmの間の、例えば約10nm、15nmまたは20nmと、約100nmの間にある生成物、とりわけ合成物をいう。かかるナノ粒子と一緒に使用される目的とする化合物の一例が有機化合物、典型的には生物学的化合物である。該化合物は、有利には、抗体、オリゴヌクレオチド、合成ペプチド、治療薬を標的とする小分子、細胞傷害性化合物より選択され、抗体、治療薬を標的とする小分子、および/または細胞傷害性化合物が好ましい。「ナノ粒子」なる語は、別に言えば、大きさが約100nmと約500nmの間、典型的には約100nmと約300nmの間の生成物、特に合成物とすることができる。かかるナノ粒子と一緒に使用される目的とする化合物の一例が、典型的には、金属のナノ粒子、金属酸化物のナノ粒子、金属硫化物のナノ粒子およびそれらのいずれの混合物より選択される無機化合物であり、関心のあるいずれの化合物もキャリアでカプセル化されてもよく、あるいはかかるキャリアにグラフトさせてもよい。
【0071】
本発明の医薬組成物の生体適合性ナノ粒子は、静脈内(IV)、動脈内および/または腹腔内投与などのいずれの経路でも投与され得る。好ましい投与経路は静脈内経路である。
【0072】
本発明の医薬組成物の目的とする化合物は、皮下、静脈内(IV)、皮内、動脈内、気道(吸引)、腹腔内、筋肉内および/または経口(口腔を介する)経路などの種々の経路で投与され得る。
【0073】
次の実施例を用いて本発明を説明するが、その範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】化合物の大きさ(最長の寸法)に応じて治療用化合物が血液循環より取り除かれる可能性のある経路を示す概略図である。
【0075】
【
図2】(i)実施例3の生体適合性ナノ粒子と、(ii)Dox-NP(登録商標)とを含む医薬組成物についての、MDA-MB-231-lucD3H2LNの異種移植片における治療計画の概略図を示す。
【0076】
【
図3】実施例3の生体適合性ナノ粒子と、Dox-NP(登録商標)とを含む医薬組成物による、MDA-MB-231-lucD3H2LNの異種移植片における腫瘍再増殖の遅れ(平均RTV±SD)を示す。
【0077】
実施例
実施例1:生体適合性ナノ粒子としてのリポソームの合成(No1)
脂質フィルムの再水和方法を用いてリポソームを調製する:
a)脂質をクロロホルムに可溶化させる。クロロホルムは最終的に窒素流下で蒸発させる。脂質フィルムのHEPES(20mM)およびNaCl(140mM)(pH7.4)での再水和を、脂質濃度が5mMであるように、50℃で行う。次の脂質組成物:
DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン):86%モル;MPPC(モノパルミトイルホスファチジルコリン):10%モル;DSPE−PEG(ジステアリルホスファチジルエタノールアミン−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000]):4%モルを用いて荷電リポソームを調製した;
b)次に凍結融解サイクルを6回行い、つづいて該サンプルを液体窒素に、そして50℃に調整した水浴に入れた;
c)サーモ−バレル(thermobarrel)押出機(LIPEX(登録商標)Extruder、Northern Lipids)を用い、温度および圧力の制御下でリポソームの大きさを測定した。いずれのケースにおいても、押出は50℃の温度で、10バールの圧力の下で行った。
【0078】
調製されたリポソームのサイズ分布を、Zetasizer NanoZS(Malvern装置)を用い、633nmのHeNeレーザーにて90°の角度で、動的光散乱(DLS)により測定した。リポソーム懸濁液をHEPES(20mM)およびNaCl(140mM)(pH7.4)で100倍に希釈した。リポソームの大きさ(すなわち、流体力学的な径)はほぼ170nmに等しく、多分散指標(PDI)はほぼ0.1に等しかった。
【0079】
当業者に理解されるように、脂質組成物を選択することで所望の表面電荷が得られ、その値はZetasizer NanoZS(Malvern装置)を用いゼータ電位を測定することで確認された。
【0080】
リポソームを水中で100倍に希釈し、得られた懸濁液のpHを7.4に調整した。リポソーム表面電荷はpH7.4でほぼ−14mVに等しかった。
【0081】
実施例2:対象において同等の治療効能を付与し、対象に投与される治療用化合物の投与量を少なくとも10%減少させる方法
生体適合性ナノ粒子と、X線などの電離放射線に曝されるとエレクトロンおよび/または高エネルギーのフォトンを生成しうる抗がん療法に用いるための活性化しうるオキシドナノ粒子(「化合物」または「製薬用化合物」として用いられる)とを含む医薬組成物(請求項1に記載の組成物)を、以下の方法にて、異種移植された腫瘍を担持するヌードマウスに投与する:
a)各ヌードマウスに生体適合性ナノ粒子を(静脈内注射を介して)投与し;
b)工程a)を行った後の5分間より長く、約72時間までの間に、工程a)の各マウスに治療用化合物を、一般に使用される投与量と比べて、(10%)少ない投与量で(静脈内注射を介して)投与し;
c)各マウスの血液または血漿サンプル中の治療用化合物の濃度を測定して、該治療用化合物の薬物動態学的パラメータを得、ここで該濃度は治療用化合物を投与した後の1分間〜24時間に1回、または好ましくは数回測定され;
d)医薬組成物を投与した後の毒性についての臨床徴候を評価し;および
e)静脈内(IV)投与を行った24時間後の治療用化合物の腫瘍での蓄積を測定する。
【0082】
実施例3:生体適合性ナノ粒子としてのリポソームの合成(No2)
脂質フィルムの再水和方法を用いてリポソームを調製する:
a)脂質をクロロホルムに可溶化させる。クロロホルムは最終的に窒素流下で蒸発させる。脂質フィルムのHEPES(20mM)およびNaCl(140mM)(pH7.4)での再水和を、脂質濃度が25mMであるように、60℃で行う。次の脂質組成物:
DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)62%モル;HSPC(硬化大豆ホスファチジルコリン)20%モル;CHOL(コレステロール)16%モル;POPS(1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルセリン)1%モル;DSPE−PEG(ジステアリルホスファチジルエタノールアミン−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000])1%モルを用いて荷電リポソームを調製した;
b)次に凍結融解サイクルを6回行い、つづいて該サンプルを液体窒素に、そして60℃に調整した水浴に入れた;
c)サーモ−バレル押出機(LIPEX(登録商標)Extruder、Northern Lipids)を用い、温度および圧力の制御下でリポソームの大きさを測定した。あらゆるケースで、押出は孔の大きさが0.1μmのポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜を用い、60℃で、5バールの圧力下で行った。
【0083】
調製されたリポソームのサイズ分布を、Zetasizer NanoZS(Malvern装置)を用い、633nmのHeNeレーザーにて90°の角度で、動的光散乱(DLS)により測定した。リポソーム懸濁液をHEPES(20mM)およびNaCl(140mM)(pH7.4)で100倍に希釈した。リポソームの大きさ(すなわち、流体力学的な径)はほぼ145nmに等しく、多分散指標(PDI)はほぼ0.1に等しかった。
【0084】
当業者に理解されるように、脂質組成物を選択することで所望の表面荷電が得られ、その値はZetasizer NanoZS(Malvern装置)を用いゼータ電位を測定することで確認された。
【0085】
リポソームを塩化ナトリウム溶液(1mM)中で100倍に希釈し、得られた懸濁液のpHを7.4に調整した。リポソーム表面電荷はpH7.4、NaCl 1mMで約−25mVと同じであった。
【0086】
実施例4:実施例3の生体適合性ナノ粒子と、Dox-NP(登録商標)とを含む医薬組成物による、MDA-MB-231-lucD3H2LNの異種移植片における腫瘍再増殖の遅れ(
図2および3)
【0087】
この研究は、(i)実施例3からの生体適合性ナノ粒子と、(ii)目的とする治療用化合物としてのDox-NP(登録商標)(リポソームカプセル化ドキソルビシン)とを含む医薬組成物の、NMRIヌードマウスに異種移植したMDA-MB-231-luc-D3H2LNでの効能を調べるのに行われた。
【0088】
ヒト乳腺がんMDA-MB-231-luc-D3H2LN細胞系をCaliper Life Science(Villepinte, France)より購入した。該細胞を、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、1%L−グルタミンおよび1%ピルビン酸ナトリウム(Gibco)を補足したエールバランス塩溶液を含む最小必須培地(MEM/EBSS培地)で培養した。
【0089】
6−7週齢のNMRIヌードマウス(20−25g)をJanivier Labs(France)より注文した。異種移植片のがん細胞を植え付ける1日前に、マウスをセシウム−137照射装置を用いて3Gyの全身照射に供した。
【0090】
マウスの下右脇腹に4・10
6個の細胞/50μLを皮下注射することでMDA-MB-231-luc-D3H2LN腫瘍を得た。該腫瘍をほぼ100mm
3に近い体積に達するまで増殖させた。腫瘍の直径をデジタル式キャリパーを用いて測定し、腫瘍の体積(mm
3)を次式:
腫瘍体積(mm
3)=長さ(mm)x(幅)
2(mm
2)/2
で計算した。
【0091】
マウスを無作為に選択して別々のケージに入れ、(タトゥーで)番号を付して特定した。4群を
図2に示されるように処理した。
【0092】
− 群1:滅菌グルコース5%(対照(ベヒクル)群)
4匹のマウスに、滅菌グルコース5%溶液の静脈内(IV)注射を1日目、7日目および14日目に行った。各時点(各日)にて、グルコース5%の注射を2回行った。グルコース5%溶液の注射をまず行い、その4時間後に2回目の注射を行った。
【0093】
− 群2:実施例3からの生体適合性ナノ粒子(対照群)
4匹のマウスに、滅菌グルコース5%溶液および実施例3から由来の生体適合性ナノ粒子(10ml/kg)の静脈内(IV)注射を1日目、7日目および14日目に行った。各時点(各日)にて、実施例3からの生体適合性ナノ粒子の注射を行い、その4時間後にグルコース5%溶液の注射を行った。
【0094】
− 群3:Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)(処理群)
5匹のマウスに、滅菌グルコース5%溶液およびDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)の静脈内(IV)注射を1日目、7日目および14日目に行った。各時点(各日)にて、滅菌グルコース5%溶液の注射を行い、その4時間後にDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)の注射を行った。
【0095】
− 群4:医薬組成物、すなわち(i)実施例3から由来の生体適合性ナノ粒子と(ii)Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)との組み合わせ(処理群)
5匹のマウスに、実施例3から由来の生体適合性ナノ粒子(10ml/kg)およびDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)の静脈内(IV)注射を1日目、7日目および14日目に行った。各時点(各日)にて、実施例3からの生体適合性ナノ粒子の注射を行い、その4時間後にDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)の注射を行った。
【0096】
Dox-NP(Avanti Polar脂質−10%w/vシュークロースを含む、10mMヒスチジンバッファー中、pH6.5−6.8での2mg/mlの塩酸ドキソルビシンのリポソーム製剤)は、さらに希釈することなく、ドキソルビシンを3mg/kg注射するのに必要な容量で注射された。
【0097】
実施例3から由来の生体適合性ナノ粒子の懸濁液は何らさらに希釈されることなく使用された。
【0098】
Dox-NP(登録商標)および実施例3からの生体適合性ナノ粒子は、100U(0.3ml)インスリンシリンジ(TERUMO, France)を用いて尾部側静脈を介して静脈内(IV)注射により投与された。
【0099】
マウスを臨床徴候、体重および腫瘍の大きさについて追跡調査した。
【0100】
腫瘍体積は、デジタル式キャリパーで測定した腫瘍体積の2つの寸法の値から次式:
腫瘍体積(mm
3)=長さ(mm)x(幅)
2(mm
2)/2
を用いて推定された。
【0101】
各群において、腫瘍体積の相対比(RTV(relative tumor volume))をV
t/V
0の割合で示す(V
tは処理の間の所定の日の腫瘍体積であり、V
0は処理を開始する際の腫瘍体積である)。
【0102】
処理の効能は、2x倍増時間(1x倍増時間は腫瘍の体積が倍となるのに要する時間である)に及ぶ比増殖遅延(SGD)、およびパーセントT/C値(%T/C)の最適値を用いて決定された。
【0103】
SGDは次式:
SGD=(処理T4d−対照T4d)/対照T4d
(ここで、T4dは腫瘍の体積が倍増して2倍になるのに(RTVの平均値が100mm
3から400mm
3になるまでに)要する時間である)
のように、2x倍増時間にわたって計算された。
【0104】
パーセントT/C値(「%T/C」)は、1日目、3日目、7日目、10日目、13日目、15日目、18日目、21日目、および24日目における処理群(群2、3、4)の腫瘍体積の中央値を対照群(群1)の中央値で割り、相対化させ、その除算した結果に100を掛けることで算定された(表2を参照のこと)。(本発明に照らして使用される生体適合性ナノ粒子を、またはそれなしで)注射の処理をした後の2週間以内に得られる%T/Cの最低値は%T/Cの最適値に相当する。
【0105】
図3は、
− 1日目、7日目および14日目にベヒクル(滅菌グルコース5%)(群1);
− 1日目、7日目および14日目に各ベヒクルを注射する4時間前に、実施例3の生体適合性ナノ粒子(群2);
− 1日目、7日目および14日目にDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)(群3);または
− 1日目、7日目および14日目にDox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)を注射する4時間前に、実施例3の生体適合性ナノ粒子(群4)
をIV注射した後に(上記した条件にて)得られる全ての群についての腫瘍体積の相対比の平均値を示す。
【0106】
図3に示されるように、Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)単独と比較した場合に、(i)実施例3の生体適合性ナノ粒子と、(ii)Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)との組み合わせを含む医薬組成物を最初に注射した後に、著しい腫瘍増殖阻害が観察される。
【0107】
各腫瘍の体積が倍増して2倍になるまでに要する時間(日数で表す)(T4d)が(治療効果の持続期間を測定するのに)計算された。Dox-NP(登録商標)単独でのT4dが約14日であるのに対して、医薬組成物では約31日と評価された(表1)。さらに、2x倍増時間(100mm
3のRTV平均値から出発して400mm
3に至るまでの時間)にわたる腫瘍増殖より評価される比増殖遅延(SGD)は、Dox-NP(登録商標)単独では略0であるのに対して、医薬組成物では約2に等しかった(表1)
【0108】
【表1】
【0109】
表1:腫瘍の体積が倍増の倍に要する時間(T4d)および比増殖遅延(SGD)を2x倍増時間にわたる腫瘍増殖で評価した。T4dは2x倍増の体積(RTV平均値が100mm
3から400mm
3の体積)に達するまでの日数を示す。対照群はベヒクル(グルコース5%)単独(−)である。
【0110】
さらには、パーセントT/C(%T/C)(群1が犠牲となる日まで計算した)は、Dox-NP(登録商標)単独の場合よりも医薬組成物の場合により速く減少する。このことは医薬組成物において著しいインパクトを示す。医薬組成物では、すなわち、(i)実施例3の生体適合性ナノ粒子と、(ii)Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)との組み合わせでは、24日目に観察される%T/Cの最適値として25の値が実際に得られるのに対して、Dox-NP(登録商標)単独の群では、21日目に観察される%T/Cの最適値として38の値が得られる(表2)。
【0111】
【表2】
【0112】
表2:パーセントT/C(%T/C)は、1日目、3日目、7日目、10日目、13日目、15日目、18日目、21日目、および24日目における処理群(群2、3、4)の腫瘍体積の中央値を対照群(群1)の中央値で割り、相対化させ、その除算した結果に100を掛けることで算定される。対照群は群1(ベヒクルの滅菌グルコース5%単独)である。%T/Cは群1(対照群)が犠牲となる日に相当する24日目まで算定する。%T/Cの最適値は各群で星印を用いて示される。
【0113】
総合的には、これらの結果は、本発明の医薬組成物[(i)実施例3の生体適合性ナノ粒子と、(ii)Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)との組み合わせに相当する医薬組成物]を用いた場合に、Dox-NP(登録商標)(3mg/kgのドキソルビシン)を単独で用いる場合(すなわち、本発明に照らして使用される生体適合性ナノ粒子が不在の場合)には観察されない、有利な腫瘍増殖遅延を示した。この腫瘍増殖遅延は、実施例3から由来の生体適合性ナノ粒子と、目的とする化合物(Dox-NP(登録商標))が経時的に、すなわち生体適合性ナノ粒子がDox-NP(登録商標)を投与する4時間前に対象に投与される場合に観察された。
【0114】
本発明者らはこの実験を再現し、目的とする化合物および生体適合性ナノ粒子が相互に5分間より長く、約72時間までの間に対象に投与される限り、同じ結果が観察されることを確かめている。