(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387406
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】歯の根管を充填し、歯髄をカバーする系
(51)【国際特許分類】
A61K 6/093 20060101AFI20180827BHJP
A61K 6/027 20060101ALI20180827BHJP
A61K 6/083 20060101ALI20180827BHJP
A61K 6/08 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
A61K6/093
A61K6/027
A61K6/083
A61K6/08 H
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-524720(P2016-524720)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公表番号】特表2016-523937(P2016-523937A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014062875
(87)【国際公開番号】WO2015003882
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】13175925.0
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516011143
【氏名又は名称】コルテン/ウェルデント・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COLTENE/WHALEDENT AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュルター,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エゼ,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】マンシェデル,ベルナー
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−279415(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/045646(WO,A1)
【文献】
特開平11−228329(JP,A)
【文献】
特開平11−349426(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101647756(CN,A)
【文献】
独国特許出願公開第10021605(DE,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0024645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K6/00−6/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
WPI
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯根管を充填し、歯髄をカバーするための組成物であって、
シリコーン材料と、
二成分CaO/SiO2組成物、三成分CaO/P2O5/SiO2組成物および四成分SiO2/CaO/P2O5/Na2O組成物からなる群から選択されるCaO/SiO2ガラスおよびガラス−セラミックの少なくともいずれかとを含み、
<100μmの平均粒子径(重量平均)の少なくとも1つのイソプレン系ポリマーをさらに含む、組成物。
【請求項2】
二成分CaO/SiO2組成物、三成分CaO/P2O5/SiO2組成物および四成分SiO2/CaO/P2O5/Na2O組成物からなる群から選択されるCaO/SiO2ガラスおよびガラス−セラミックの少なくともいずれかが、<100μm、好ましくは0.01から90μmの範囲内、より好ましくは0.1から90μmの範囲内、および特に好ましくは1から60μmの平均粒子径(重量平均)を示すことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イソプレン系ポリマーが、ポリイソプレン、特にトランス−1,4−ポリイソプレン、ガッタパーチャ、バラタおよびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
イソプレン系ポリマーが、1から60μm、好ましくは2から45μm、より好ましくは5から30μmおよび特に好ましくは10から30μmの範囲内の平均粒子系(重量平均)を示すことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
成分AおよびBが別々に存在し、
−成分Aが、少なくとも2つのSi−H基を有する少なくとも1以上のシリコーン油を含むか、またはこれらからなり、
−成分Bが、少なくとも2つのビニル基を有する少なくとも1以上のシリコーン油を含むか、またはこれらからなり、
−特に成分AおよびBの少なくとも1つが、Si−H基とビニル基との付加反応のための触媒を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
−少なくとも1種のイソプレン系ポリマー;および/または
−二成分CaO/SiO2組成物、三成分CaO/P2O5/SiO2組成物および四成分SiO2/CaO/P2O5/Na2O組成物からなる群から選択されるCaO/SiO2ガラスおよびガラス−セラミックの少なくともいずれか
が、成分Aおよび成分Bの両方において存在することを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
i)少なくとも2つのSi−OH基を有する少なくとも1以上のシリコーン油;
ii)場合により水分の適用によりSi−OH基と反応可能な少なくとも2つの官能基を有する、少なくとも1以上のシリコーン油を含み、
前記シリコーン油が一成分または二成分系として利用されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
シリコーン材料が、特に、亜鉛、イッテルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ジルコニウム、ストロンチウム、タングステン、タンタル、ニオブ、バリウム、ビスマス、モリブデン、ランタンからなる群の化合物;合金、フッ化物、硫酸塩、炭酸塩、タングステン酸塩、カーバイドおよび上述の元素のすべての酸化物、特に好ましくはYbF3またはZrO2;有機および無機のヨウ素化合物から選択されるX線造影剤を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
1以上のカプセル、カートリッジ(特にダブルチャンバーシリンジ)またはチューブラーバッグに事前に分割された、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の根管用ポスト、特にイソプレンポリマーに基づく根管用ポストをさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
カプセル、カートリッジ、ダブルチャンバーシリンジまたはチューブラーバッグのためのディスペンサー;流動性組成物のためのアプリケーターチップ;および根管の深さを決定するためのアプリケーターチップにおいて可動性のマーキング補助具からなる群から選択される1以上の構成成分をさらに含む、請求項から1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医学において根管のケアに関する分野、特に根管を充填し、歯髄をカバーするための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯髄に対する非可逆的損傷の従来の処置において、罹患した歯髄は根管から機械的に取り除かれ、根管は清掃され、穿孔され、弾塑性要素または別の充填材料で充填され、その後密封される。理想的な根管充填材料は、根尖周囲組織を刺激せず、根管を縦横に密に封鎖し、体積が安定して、根管においてどんなことがあっても縮小しないことが必要である。最新技術に関しては、例えば、Friedman et al.、J.Dent.Res.,54 1975,921−925およびBriseno、Philipp J.,7(2) 1990,65−73および米国特許第4,632,977号明細書を参照されたい。Brisenoは、根管充填材料として、特に、人工樹脂系、酸化亜鉛ユージノール系、水酸化カルシウム系およびグラスアイオノマー系の半固体セメントを記載している。米国特許第4,632,977号明細書は、トランスポリイソプレン系、例えばガッタパーチャ系またはバラタ系の充填材料を提唱している。このような組成物、例えば、ガッタパーチャ成形品または「ガッタパーチャポイント」が市販されている。これらは普通、20重量%のガッタパーチャマトリックス、60から75重量%の酸化亜鉛をフィラーとして、1から17重量%の重金属硫酸塩をX線造影剤として、ならびに3から4重量%のワックスおよび樹脂を可塑剤として含む。このようなガッタパーチャ組成物は熱可塑性であり、したがって、根内部に流動性状態で思い通りに接着することができる。
【0003】
欧州特許第864312号明細書は、付加架橋シリコーン組成物に基づく歯根管の充填のための系を教示している。ポリイソプレン系(例えばガッタパーチャ)根管用ポストは、このような組成物でさらに包埋することができる。しかし、このような系の使用の容易さは、すべての条件下で最適ではない。
【0004】
欧州特許第951895号明細書は、ガッタパーチャ粉末をシーラー(例えば、シリコーン材料系)に直接組み込む系を教示している。シーラーおよびガッタパーチャの系の使用の容易さおよび結果の再現性は、この系によって既に改善可能であった。
【0005】
同様に、整えられた根尖への無機三酸化骨材の適用が記載されており、次いで根管はガッタパーチャおよびシーラーで従来通りにふさがれる(Schweiz.Monatsschr.Zahnmed.,Vol.114:3/2004,pp.223−230)。しかし、いくつかの段階におけるいくつかの材料の面倒な操作および数回に及ぶ通院の必要性による患者にとっての不便さが、これに関連する不利益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,632,977号明細書
【特許文献2】欧州特許第864312号明細書
【特許文献3】欧州特許第951895号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Friedman et al.、J.Dent.Res.,54 1975,921−925
【非特許文献2】Briseno、Ph ilipp J.,7(2) 1990,65−73
【非特許文献3】Schweiz.Monatsschr.Zahnmed.,Vol.114:3/2004,pp.223−230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、根管の充填のための系の使用の容易さおよび処置の成功をさらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、
−M
xO
y(式中、M
xO
yはCaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択され、特にCaOが好ましい);
および/または
−少なくとも1つのM
xO
y含有化合物(M
xO
yは、CaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択され、特にCaO含有化合物、特にCaO/SiO
2含有化合物が好ましい);
ならびにさらにこれらの混合物
を含む、シリコーン材料に基づく歯根管の充填のための系により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SBFバッファーに浸した14日後の、CaO/SiO
2混合物を含むシリコーンペレットのSEM写真である。
【
図2】SBFバッファーに浸した14日後の、生体活性ガラスを含むシリコーンペレットのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「系」という用語は、本発明に関連して、根管重点組成物の一成分および二成分提示型の両方を意味すると理解される。一成分組成物において、シリコーン組成物のための架橋構成成分は予備混合においてすでに存在し、その後、水分の適用により架橋が実施される。二成分系において、架橋反応可能な組成物の構成成分は別々に存在するが、一緒に使用するように配置される。このような二成分系の架橋は、概して、水分の適用とは独立して実施される。
【0012】
シリコーン材料に基づく最先端技術の上述の系は不活性であり、特に硬組織の再生を支持も促進もしない。シリコーン材料中のM
xO
y(CaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択される)またはM
xO
y含有化合物(特にCaO/SiO
2含有化合物)のさらなる存在は、硬構造の形成を有意に促進することが現在見出されている。M
xO
y(特にCaO)または上述のM
xO
y含有化合物の重量百分率は、好ましくは3重量%から80重量%の範囲内にある。このことが、シリコーン材料それ自体の加工性および得られた密封性に対抗しないこともまた、同様に予想されない。予想に反して、硬構造のこの形成は密封性に正の効果を有する。特に、象牙質のひび割れおよび弱点をより良く補うことができる。さらに望ましくない、例えば、褐色、退色を回避することができる。
【0013】
加えて、驚くべきことに非常に確実で耐久性のある歯髄のカバーリングが、本発明に従った系により達成することができる。
【0014】
好ましい実施形態において、M
xO
y(CaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択される、特にCaOが好ましい)またはM
xO
y含有化合物は、<100μm、好ましくは0.01から90μmの範囲内、より好ましくは0.1から90μmの範囲内、および特に好ましくは1から60μmの範囲内の平均粒子
径(重量平均)を示す。このような粒子
径を有するM
xO
y(特にCaO)またはM
xO
y含有化合物は、シリコーン組成物中に満足にいくように組込むことができ、硬構造の再生に対する上記の効果も十分に示される。
【0015】
特に好ましくは、この系は、少なくとも1種のイソプレン系ポリマーをさらに示す。イソプレン系ポリマーは、これに関連してポリイソプレン、特にトランス−1,4−ポリイソプレン、ガッタパーチャ、バラタおよびこれらの混合物からなる群から選択することができる。この場合のイソプレン系ポリマーは、<100μm、特に1から60μmの範囲内、好ましくは2から45μmの範囲内、より好ましくは5から30μmおよび特に好ましくは10から30μmの範囲内の平均粒子
径(重量平均)を示す。
【0016】
欧州特許第951895号明細書の組成物の有利性を示すが、上記のようにさらに硬構造の形成を促進するこのような組成物、例えば付加架橋シリコーンおよびガッタパーチャ粉末に基づくような組成物が、見出されている。
【0017】
本発明の特に好ましい別の形態は、成分AおよびBが別々に存在し、
−成分Aは、少なくとも2つのSi−H基を有する少なくとも1以上のシリコーン油を含むか、またはこれらからなり、
−成分Bは、少なくとも2つのビニル基を有する少なくとも1以上のシリコーン油を含むか、またはこれらからなる、
付加架橋シリコーン系に関する。
【0018】
場合により、成分AまたはBの少なくとも1つは、Si−H基とビニル基の付加反応のための触媒を含み得る。
【0019】
シリコーン材料の架橋は、本発明のこれらの実施形態において、下記のような図式:
【0021】
のヒドロシリル化反応によって実施される。
Rは、これに関連して、任意のアルキル部分を表し、同一であっても、または異なっていてもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、Rはメチル基を表し、したがってこれらの系は、メチルヒドロシランおよびジメチルシロキサンに基づく。
【0022】
それ自体公知である白金触媒が、ヒドロシリル化反応のための触媒として好ましく使用される。
【0023】
より好ましくは、シリコーン材料の膨張を軽度にすることが、例えば、膨潤の制御によって、または下記の図式:
【0025】
の部分的脱水素型カップリングによって提供され得る。
その部分について、これに関連してRは任意のアルキル部分を表し、同一であっても、または異なっていてもよい(しかし、R=CH
3の実施形態が好ましい)。水素の発生は、シリコーン材料の架橋において発泡をもたらし、この発泡は、日常試験を使用する当業者によって、ヒドロキシル基を含むシリコーン油の含有量により所望の量に容易に調製可能である。
【0026】
場合により、架橋のためのそれ自体が公知である触媒、例えば白金触媒、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、ジラウリン酸ジブチル錫または一般式Sn(OOCR)
2(式中、Rはアルキル部分を表す)の化合物を、脱水素型カップリングのための触媒として使用可能である。
【0027】
本明細書に記載のすべての二成分系において、
−少なくとも1種のイソプレン系ポリマー;および/または
−M
xO
y(CaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択され、CaOが特に好ましい);および/または
−少なくとも1つのM
xO
y含有化合物(M
xO
yはCaO、BaO、MgO、Na
2O、K
2OおよびSrOからなる群から選択され、CaO含有化合物、特にCaO/SiO
2含有化合物が特に好ましい);
が、成分Aおよび成分Bの両方において存在可能ということである。特に非常に好ましくは、上述の構成成分は、それらが存在する限りにおいて、二成分AおよびBにわたって均一に分布する。このことにより、高価なミキサーを使用しなくても、完成した混合物においてこれらの構成成分の特にバランスのとれた分布を達成することが可能である。
【0028】
または、本発明に従った系は縮合架橋によっても形成することができる。その場合この系は通常:
i)少なくとも2つのSi−OH基を有する少なくとも1以上のシリコーン油;
ii)場合により水分の適用によりSi−OH基と反応可能な少なくとも2つの官能基を有する、少なくとも1以上のシリコーン油、
を含む。
【0029】
これらの実施形態において、シリコーン油は、一成分または二成分系として利用可能である。実践的に最も重要な縮合架橋系は、官能性シラン末端基、例えば:
【0031】
などを含むシリコーン油を構成成分ii)として含む。
場合により、それ自体が公知の触媒、例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、ジラウリン酸ジブチル錫または一般式Sn(OOCR)
2(式中、Rはアルキル部分を表す)の化合物が、縮合架橋のための触媒として使用可能である。
【0032】
本発明に関連して、Al
2O
3(および高い頻度でこれと一緒に発生するFe
2O
3)の存在はなしで済ませることもできる。提唱されているアルミニウムの神経毒性についてのいくつかの研究を考慮して、Al
2O
3非含有組成物が、本発明に関連して特に好ましい。驚くべきことに、Al
2O
3(特に、C
3A(アルミン酸三カルシウム、(CaO)
3・Al
2O
3)、C
2AF(ジカルシウムアルミノフェライト、(CaO)
2・Al
2O
3・Fe
2O
3)およびC
4AF(テトラカルシウムアルミノフェライト(CaO)
4・Al
2O
3・Fe
2O
3)、これらはMTAの典型的な構成成分である)の存在は、本発明の操作にとってそれほど重要ではないことが示されている。
【0033】
同様に、CaSO
4・2H
2O(石膏)は存在してもよいが、本発明に関連して、必ずしも必要ではない。
【0034】
本発明の効果はまだ完全には理解されていない。この説明に縛られるものではないが、現在のところ、驚くべきことに、これらの化合物のシリコーン材料は完全に湿潤可能ではなく、その結果、これらの材料は、体液の影響下で硬構造(特にヒドロキシアパタイト)の形成を起こすような方法で、未だシリコーン材料の表面に少なくとも部分的に露出されると考えられている。
【0035】
アパタイトは、化学的に類似しているが、厳密には定義されていない当業者に公知の鉱物の群の略称および一般名である。
【0036】
アパタイト形成は、Ca
2+、Ba
2+、Mg
2+、Sr
2、Na
+またはK
+の組成物からの浸出により起こると思われ、このイオンは組成物表面のH
3O
+イオンにより置き換えられる。これを介して生成される組成物表面のSiOH基は、イオン活量積(IAP)を上げることによりさらに強くされ得るアパタイトの種結晶の形成を誘導可能である。種結晶は一度形成されると、体液中に過剰に存在するカルシウムイオンおよびリン酸イオンのために自発的にさらに成長し得る。体液は実験室においてシミュレートされ、「simulated body fluid」、SBF(Kokubo et al.,J.Biomed.Mater.Res.,24(1990),721−734)を参照されたい。この場およびそれに続いて使用されるSBFのイオン濃度は、(ヒト血漿と比較して)下記の以下の通りであり、pHは50mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび45mM HClを使用して、36.5℃において7.25に調整される。
【0038】
例えばリン酸カルシウムおよび水酸化カルシウムからのヒドロキシアパタイトの生成は、それ自体明白に公知であるが(欧州特許第367808号明細書を参照されたい)、強塩基条件下(pH>11)では下記のように要約される:
3Ca(H
2PO
4)
2・2H
2O+7Ca(OH)
2→2Ca
5(PO
4)
3OH+18H
2O。
【0039】
しかし、このような強塩基反応条件は、in vivoでは明らかに望ましくない。さらに、本発明に関連して、ヒドロキシアパタイトの形成がSBF、特にpH7.25のSBFにおいてさらにCaOまたはSiO
2/CaOから出発して、驚くほど急速に穏やかな条件下で起こることが示されている。
【0040】
さらなる好ましい実施形態において、本発明に従った系は、少なくとも1つのCaO/SiO
2含有化合物をガラスおよび/またはガラス−セラミックの形態で含み得る。このようなガラスは、二成分CaO/SiO
2組成物、三成分CaO/P
2O
5/SiO
2組成物、またはさらに四成分SiO
2/CaO/P
2O
5/Na
2O組成物であり得、上記の組成物の混合物も同様に明確に可能である。
【0041】
本発明に関連して、好ましいガラスは公知であり、Bioglass(登録商標)ブランドの下で(さらに、例えばSchott社から「生体活性ガラス」として)利用可能であり、Hench、J.Mater.Sci:Mater.Med.,(2006)17,967−978を参照されたい(Bioglass(登録商標)組成物に関するこの文献の開示は参照により本明細書に含まれる)。本発明に関連して、適切な生体活性ガラスが、Hupa,p.3 ff.,、Bioactive glasses:Materials,properties and applications,2011,Woodhead Publishing Ltd.,ISBN 1845697685にさらに記載されている(生体活性ガラスの組成物について考察するこの本の章の開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0042】
本発明に関連して、下記の構成成分:
i)35から65mol%、特に35から60mol%のSiO
2、
10から50mol%のCaO、
5から40mol%のNa
2O;
ii)50.01から65mol%のSiO
2、
1から9.99mol%のCaO、
5から40mol%のNa
2O。
(さらに、通常2から6重量%の間、場合によりおよそ20重量%までのP
2O
5)を示すガラスi)およびii)から選択されるガラスが特に好ましいと思われる。
【0043】
45S5、58S、S70C30、S53P4およびこれらの混合物からなる群から選択されるガラスが特に非常に好ましい。
【0044】
上述のすべての系は、好ましくはX線造影剤、特に、亜鉛、イッテルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ジルコニウム、ストロンチウム、タングステン、タンタル、ニオブ、バリウム、ビスマス、モリブデン、ランタンからなる群の化合物;合金、フッ化物、硫酸塩、炭酸塩、タングステン酸塩、カーバイドおよび上述の元素のすべての酸化物、特に好ましくはYbF
3またはZrO
2;有機および無機のヨウ素化合物から選択されるX線造影剤をさらに含む。所望の造影を得るために組成物に加えられるX線造影剤の個別の構成成分量は、日常的試験を使用して当業者により容易に決定され得る。
【0045】
上記の本発明に従った系は、1以上のカプセル(複数可)、カートリッジ(複数可)(特にダブルチャンバーシリンジ)またはチューブラーバッグ(複数可)に事前に分割されて利用可能である。これは一成分および二成分系の両方に適用される。二成分系において、成分AおよびBは、特に好ましくはジョイントカプセル(joint capsule)、カートリッジ(特にダブルチャンバーシリンジ)またはチューブラーバッグ中で互いに別々に利用可能であり、ディスペンサーに挿入されるカプセルであり得る。操作は、それ自体公知の方法でこのような提示形態により簡略化される。しかし、成分AおよびBを個別のカプセル、カートリッジ(特にダブルチャンバーシリンジ)またはチューブラーバッグで提供することも同様に、明らかに可能である。
【0046】
上記の本発明に従った系は、少なくとも1種の根管用ポスト、特にイソプレンポリマーに基づく根管ポストをさらに含み得る。これらの根管用ポストは、それ自体公知の方法で、歯根管において本発明に従った組成物で被包される。
【0047】
上記の本発明に従った系のさらなる構成成分候補は、カプセル(複数可)、カートリッジ(複数可)(特にダブルチャンバーシリンジ(複数可))またはチューブラーバッグ(複数可)のためのディスペンサー;流動性組成物のための(シリコーン材料に基づく本発明に従った組成物の適用のための)アプリケーターチップ;および根管の深さを決定するためのアプリケーターチップにおいて可動性のマーキング補助具である。このようなマーキング補助具は、例えば、アプリケーターチップにおいて巻き上げたり、またそれを広げることができる弾性リングである。
【0048】
本発明は、下記の例示的実施形態および図を使用して説明され、本発明の主題は、これらの実施形態に限定されるものではない。これに関連して:
【実施例】
【0049】
シリコーン材料中のCaO/SiO
2混合物の生体活性
下記の混合物を調製した:
【0050】
【表3】
【0051】
ペレット形態の試験体を、得られたペーストから調製した。このために、プラスチックフィルムを、内径20mmおよび高さ1.5mmのスプリットリングモールドに広げ、一片のデンタルフロスをその上に置いた。その後、スプリットリングモールドを上記の混合物で満たし、第2のプラスチックフィルムを載せ、1枚のガラスで圧迫した。3時間後、硬化したペレットをスプリットリングモールドから取り外した。その後、結果として得られたペレットに、37℃においてデンタルフロスを吊り下げることにより、pH7.25のSBFバッファーを染み込ませた。
【0052】
SBFバッファーに14日浸した後のSEM写真を
図1に見ることができる。SEM写真の撮影前に、ペレットを、その都度超純水ですすぎ、その後乾燥させた。結晶がペレット表面に形成されていることは明らかである。当業者に公知のアパタイト結晶の球状結晶が形成されている。EDX測定ならびにさらにIRおよびラマン分光分析により同様に、アパタイトの形成を確認した(データ非掲載)。
【0053】
シリコーン材料中のガラス材料の生体活性
下記の混合物を調製した:
【0054】
【表4】
【0055】
ペレット形態の試験体を、得られたペーストから調製した。このために、プラスチックフィルムを、内径20mmおよび高さ1.5mmのスプリットリングモールドに広げ、一片のデンタルフロスをその上に置いた。その後、スプリットリングモールドを上記の混合物で満たし、第2のプラスチックフィルムを載せ、1枚のガラスで圧迫した。3時間後、硬化したペレットをスプリットリングモールドから取り外した。その後、結果として得られたペレットを、37℃においてデンタルフロスを吊り下げることにより、pH7.25のSBFバッファーに浸した。
【0056】
SBFバッファーに14日間浸した後のSEM写真を
図2に見ることができる。SEM写真の撮影前に、ペレットを、その都度超純水ですすぎ、その後乾燥させた。結晶がペレット表面に形成されていることは明らかである。当業者に公知のアパタイト結晶の球状結晶が形成されている。EDX測定ならびにさらにIRおよびラマン分光分析により同様に、アパタイトの形成を確認した(データ非掲載)。