(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387439
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】アナログディスプレー針
(51)【国際特許分類】
G04B 19/04 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
G04B19/04 B
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-103328(P2017-103328)
(22)【出願日】2017年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-211385(P2017-211385A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】16171513.1
(32)【優先日】2016年5月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・メルトナ
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−062886(JP,A)
【文献】
特開2005−326218(JP,A)
【文献】
特表2009−508084(JP,A)
【文献】
特開平08−094395(JP,A)
【文献】
特開2009−264445(JP,A)
【文献】
特開平03−081370(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/037988(WO,A1)
【文献】
独国特許出願公開第04445817(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
G01D 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器に装備されるように意図されたディスプレー針(1)を製造する方法であって、
前記各ディスプレー針は、本体(10)及びパイプ(20)を有し、
前記パイプ(20)には、アーバー穴(21)が形成されており、このアーバー穴(21)によって、駆動アーバーに前記ディスプレー針(1)が嵌まるように構成しており、
当該方法は、
型の内部に前記少なくとも1つのパイプ(20)を配置するステップと、
複合材料を注入して前記少なくとも1つのパイプ(20)に成型された複合材料のシート(30)を、前記少なくとも1つのパイプ(20)が前記シート(30)と一体化するように、形成するステップと、
前記少なくとも1つの針(1)の前記本体(10)を形成するように前記シート(30)を微細加工するステップと
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記微細加工するステップは、前記同じ複合材料シート(30)内において同時に複数の前記ディスプレー針(1)を生産するように行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記微細加工するステップは、レーザー切断、ウォータージェット切断又はCNCミルによって行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記各ディスプレー針(1)の前記本体(10)の少なくとも1つの面に被覆を堆積するステップを少なくとも1つ有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
形成する前記本体の上側面を微細加工して、その上側面にレリーフ又は切子面の形態のパターンを形成するステップを少なくとも1つ有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計の分野、特に、計時器の針のようなアナログディスプレーメンバーの分野に関する。
【0002】
本発明は、さらに、計時器及びディスプレー針を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
計時器におけるディスプレーメンバーとして用いられることが意図された針の製造は、複雑であり、針に完璧な面がなければならず切子面があることもあるようなハイエンドの計時器に装備されることを意図された針の場合には、特に複雑である。
【0004】
通常、針は、黄銅、鋼、金、アルミニウム又は特別な合金から作られる。このような針は、直流電気めっき、塗料で被覆、酸化されている場合もあり、金を材料として用いる場合に未処理の場合もある。これらは、、一般的には、機械加工やスタンピングによって生産される。
【0005】
これらのディスプレー針の1つの課題は、用いられる材料の密度が高いことである。このことは、慣性モーメントが高く、バランスされていない力が大きいことを意味している。このことによって、衝撃を受けたときに針が外れたり針が滑ってずれたりする。
【0006】
また、機械加工とスタンピング技術には、大きな機械的な応力を必要とする。これには、針の形を調整して比較的平坦な針を得る操作が必要となる。
【0007】
別の課題として、現状の針の製造技術においては、すべての所望の形態を作ることができないということがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの既知技術の様々な課題を克服することを目的とする。
【0009】
より詳細には、本発明は、重量が軽い任意の所望の形態のディスプレー針を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、少なくとも特定の実施形態において、実装が単純で廉価なディスプレー針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的や下において明確になる他の目的は、本発明によって、計時器に装備されるように意図されたディスプレー針によって達成される。この針は、本体とパイプを有し、このパイプには、アーバー穴が形成されており、このアーバー穴によって、駆動アーバーにディスプレー針が嵌まるように構成している。
【0012】
本発明によると、本体は、複合材料で作られており、パイプには、外周のすべて又は一部にわたって、針の本体への接続面があり、これによって、パイプに対する複合材料の接着が確実になる。
【0013】
したがって、本発明の主題は、記載される様々な機能的及び構造的な特徴によって、針の重量について懸念をする必要がなく、異なる大きさ及び/又は異なる形態を有することができるディスプレー針を得ることができる。
【0014】
本発明の他の好ましい変形実施形態によると、
* パイプは、直径D1の第1の部分及び直径D1よりも大きい直径D2の第2の部分を有する。
* 第2の部分は、針の本体への接続面を有する。
* 接続面には、テキスチャー模様が形成されている。
* 針の本体は、パイプの第2の部分をカバーする。
* パイプは、黄銅や銅−ベリリウムのような金属性材料で作られている。
* 本体は、射出成型された炭素繊維強化プラスチック材料又は射出成型された炭素繊維強化熱可塑性材料で作られている。
* 本体の上側面には、レリーフ又は切子面の形態のパターンがある。
* 本体の上側面は、処理されている。
【0015】
本発明は、さらに、本発明に係るディスプレー針が少なくとも1つ嵌められる計時器に関する。
【0016】
本発明は、さらに、計時器に装備されるように意図されたディスプレー針を製造する方法に関し、各ディスプレー針は、本体及びパイプを有し、前記パイプには、アーバー穴が形成されており、このアーバー穴によって、駆動アーバーに前記ディスプレー針が嵌まるように構成しており、当該方法は、
* 型の内部に少なくとも1つのパイプを配置するステップと、
* 複合材料を注入して前記パイプに成型された複合材料のシートを形成するステップと、
* 少なくとも1つの針の本体を形成するように前記シートを微細加工するステップと
を有する。
【0017】
本発明の方法の他の好ましい変形実施形態によると、下記の特徴を有する。
* 前記微細加工するステップは、同じ複合材料シート内において同時に複数のディスプレー針を生産するように行われる。
* 前記微細加工するステップは、レーザー切断、ウォータージェット切断又はCNCミルによって行われる。
* 当該方法は、各ディスプレー針の前記本体の少なくとも1つの面に被覆を堆積するステップを少なくとも1つ有する。
* 形成する前記本体の上側面を微細加工して、その上側面にレリーフ又は切子面の形態のパターンを形成するステップを少なくとも1つ有する。
【0018】
図面を参照しながら下の本発明の特定の実施形態についての説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を明確に理解することができるであろう。なお、これには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るディスプレー針の平面図である。
【
図2】
図2a及び2bはそれぞれ、本発明に係るディスプレー針の平面図及び線A−Aで切断した断面図である。
【
図3】本発明に係るディスプレー針のパイプの平面図である。
【
図4-7】
図4から
図7は、本発明の教示によってディスプレー針を製造する方法のいくつかのステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1〜7をともに参照しながら、本発明に係るディスプレー針について説明する。
【0021】
ディスプレー針1は、計時器に装備されるように意図されている。針1は、本体10及びパイプ20を有し、パイプ20には、アーバー穴21が形成されており、このアーバー穴21によって、ディスプレー針1が駆動アーバーに嵌まるように構成している。
【0022】
図示した実施形態によると、本体10は、環状の頭部11を有する。この頭部11の内側には、パイプ20が収容されており、これによって、腕時計の駆動アーバーに針1を組み立てることができる。パイプ20のアーバー穴21には、圧入操作などによって、駆動アーバーが嵌められるように構成している。
【0023】
パイプ20は、駆動アーバーにクランプ力を与える。これによって、駆動アーバーに針1を軸方向に保持し、これらの2つの要素を連結して回転させることができる。
【0024】
また、本体10は、先端部12を有する。これは、針1のインジケーター区画を形成しており、細長部13によって頭部11に連結している。先端部12は、ここでは三角形の形態であるが、計時器の表盤上の所定の角度位置を示すために適したいずれの他の形態であることができる。
【0025】
また、針1の本体10は、長方形の形状の釣り合いおもり14を有することができ、細長部13の延長線上の頭部12に連結している。同様に、釣り合いおもり14は、他の形態であることができ、例えば、釣り合いおもりがロゴの形態であることを想到することができる。
【0026】
本発明によると、本体10は、炭素繊維強化プラスチック材料、炭素繊維強化熱可塑性材料、炭素繊維強化高分子材料のような複合材料で作られている。このような材料は、非常に軽く、耐久性があり、針の慣性モーメントを小さくし、所望の形態及び大きさを有する針を得ることを可能にする。
【0027】
ここで、パイプは、アーバー穴21が形成された円筒状の形態である。このアーバー穴21によって、駆動アーバーにディスプレー針1が嵌まるように構成している。パイプ20は、黄銅、銅−ベリリウム、アルミニウム又は金のような金属性材料で作ることができる。なぜなら、パイプをそのアーバーに押し付けるときに、これらの材料が容易に変形するからである。実際に、パイプ20は、一般的には、アーバー穴の直径よりもわずかに大きな直径を有するアーバーに押し付けられる。用いられる金属性材料の弾性及び可塑性の性質によって、複合材料によって作られた針の本体10を損傷せずに、回転するアーバーにパイプ20を押し付けることが可能になる。
【0028】
本発明によると、パイプ20には、その外周のすべて又は一部にわたって、接続面24があり、この接続面24は、針の本体10に接続してパイプ20に対する複合材料の接着を確実にする。接続面24がパイプ20の全外周にわたって延在したり、特定の角位置にて幾何学的に構成していたりすることを想到することができる。
【0029】
図1において観察することができるように、パイプは、アーバーに押し付けられるように構成している直径D1の第1の部分22と、及び針の本体10を受け保持するように構成している直径D2の第2の部分23とを有する。この直径D2は、直径D1よりも大きい。高さ全体にわたって同じ直径を有するパイプを用いることができる。
【0030】
本発明によると、接続面24は、第2の部分23の高さのすべて又は一部にわたって延在することができる。例えば、接続面23は、パイプ20の第2の部分の高さ全体を占めたり、この高さの半分のみを占めたりすることができる。
【0031】
本発明の第1の実施形態によると、接続面24に、テキスチャー模様を形成して、パイプ20に対する針の本体10の接着が良好であることを確実にすることができる。例えば、
図3に示すように、凹凸がある上部に複合材料が入り込むように、パイプの第2の部分23に対して彫り付け(knurling)を形成することができる。
【0032】
図2a及び2bに示す本発明の別の実施形態によると、接続面24は、ピニオン又は歯車の形態であることができる。この場合に、歯の間に複合材料が挿入され、パイプ20に対する本体10の保持が良好であることを確実にする。
【0033】
このようにして、接続面24は、パイプ20と本体11の間の半径方向の接続が良好であることを確実にすることができる。
【0034】
図1及び2bにおいて観察することができるように、針1の本体10は、パイプ20の第2の部分24をカバーすることができる。針には、第2の部分23の下に、直径D3のオーバーモールドされた部分があり、これによって、軸方向の保持が良好になる。なぜなら、直径D3は、パイプ20の第2の部分23の直径D2より小さいからである。
【0035】
本発明の1つの実施形態によると、針1の本体10の上側面には、針を装飾するために、レリーフや切子面の形態のパターンがあることができる。
【0036】
本発明の別の実施形態によると、針1の本体10の上側面には、金属性被覆のような被覆が施されていることができる。この被覆は、化学気相成長や物理気相成長の技術によって堆積させることができる。
【0037】
図4〜7は、本発明が教示することによってディスプレー針1を製造する方法のいくつかのステップを示している。
【0038】
本発明は、さらに、計時器に装備されるように意図されたディスプレー針1を製造する方法に関し、各ディスプレー針は、本体10及びパイプ20を有し、このパイプ20には、アーバー穴21が形成されており、このアーバー穴21によって、駆動アーバーにディスプレー針が嵌まるように構成している。この方法は、
* 型の内部にパイプ20を配置するステップ
* 複合材料を注入して、パイプ20に成型された複合材料のシート30を形成するステップであって、パイプの接続面のおかげでパイプがシート30と一体化されるような、ステップ
* 少なくとも1つの針1の本体を形成するようにシート30を微細加工するステップ
を有する。
【0039】
図4は、本発明の方法が実行される前、すなわち、型の内部に配置される前、の一連のパイプ20を示している。
【0040】
図5は、パイプ20が入った型に複合材料を注入して、パイプ20と接するように複合材料シート30を形成するステップを示している。
【0041】
図6は、複合材料シート30を示しており、針1がシート30内において微細加工される。この微細加工は、レーザー切断、ウォータージェット又はプラズマ切断、又はCNCミルによって行うことができる。
【0042】
針1の製造における最終ステップは、複合材料シート30から針1を解放することを伴う。
【0043】
好ましいことに、一連の複数の針1が、同じ複合材料シート30内において同時に生産される。
【0044】
本発明に係る方法は、金属性被覆のような被覆を複合材料シート30上に堆積するステップを少なくとも1つ有することができる。この被覆は、化学気相成長又は物理気相成長の技術によって堆積することができる。
【0045】
このようなステップは、複合材料シート30がパイプに成型される場合に行うことができる。
【0046】
本発明によると、この方法は、本体の上側面を微細加工して、そこにレリーフ又は切子面の形態のパターンを形成するステップを少なくとも1つ有する。このパターンは、興味深い光学的作用を得ることができる幾何学的又は他のパターンであることができる。このような幾何学的パターンは、例えば、針の表面に縄編み模様(guilloche)の効果を与えることができる。
【0047】
このようなステップは、針1が複合材料シート30によって依然として担持されているときに行うことができる。
【0048】
また、パイプ20に注入されるときに複合材料シート30に切子面を形成するための特定の型を想像することができる。
【0049】
なお、本発明に係る針1を製造する方法によって、非常に多様な形態や外観の針1を生産することが容易になる。
【0050】
好ましいことに、本発明に係る方法をいくつかの複合材料シート30上で同時に行って、いくつかの複合材料シートにおいて同様な特徴を備えた針を同時に生産することができる。
【0051】
本発明の異なる態様の結果、現在用いられている材料よりも比重量が低いディスプレー針が得られ、このことによって、針の慣性モーメント及びバランスされていない力を減らすことができる。また、本発明によって、いずれの所望の針の形態をも得ることができる。
【0052】
上記の説明は、好ましい実施形態に対応するものであり、これに制限されるものとして考えられるべきではない。特に、針の様々な構造的な要素又はそれらの材料について、制限されない。当業者であれば、針の本体などのために、本発明を実行するために必要な機械的性質を有する他の材料を選ぶ際に特に困難に遭遇しないであろう。
【0053】
本発明に係る針には多くの可能な用途がある。なぜなら、針を有する任意のタイプの携行可能なデバイス、特に、手に携行可能なデバイスや手首に着用されるデバイス、に対して本発明を実装することができるからである。
【符号の説明】
【0054】
1 針
10 本体
11 頭部
12 先端部
13 細長部
14 釣り合いおもり
20 パイプ
21 アーバー穴
22 第1のパイプ部分
23 第2のパイプ部分
24 接続面
30 複合材料シート
D1 第1の部分の直径
D2 第2の部分の直径
D3 下側部分の直径