特許第6387458号(P6387458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387458
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】多汗症治療用外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20180827BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180827BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20180827BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180827BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   A61K31/216
   A61K47/04
   A61K47/12
   A61K9/08
   A61P25/02 107
   A61P43/00 111
   A61P17/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-515577(P2017-515577)
(86)(22)【出願日】2016年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2016063188
(87)【国際公開番号】WO2016175240
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2017年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-92946(P2015-92946)
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】今村 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】篠田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】染川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】道中 康也
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/062930(WO,A1)
【文献】 国際公開第95/028914(WO,A1)
【文献】 DEL BOZ, J,Systemic Treatment of Hyperhidrosis,ACTAS Dermo-Sifiliograficas,2015年 4月 6日,Vol. 106, No. 4,p. 271-277,ISSN 0001-7310, 第274頁右欄最終段落−右欄第2段落
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/216
A61K 9/08
A61K 47/04
A61K 47/12
A61P 17/00
A61P 25/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシブチニン又はその薬学的に許容される塩と、乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される1以上の塩と、を含む、多汗症治療用外用剤。
【請求項2】
水と、オキシブチニン又はその薬学的に許容される塩と、乳酸ナトリウムと、を含む、多汗症治療用外用剤。
【請求項3】
液剤である、請求項1又は2に記載の外用剤。
【請求項4】
ローションの剤形である、請求項に記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多汗症治療用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多汗症の治療方法として、オキシブチニンなどの抗コリン作用薬を含む外用組成物を投与する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0037713号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/046102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗コリン作用薬は、アセチルコリンがムスカリン性アセチルコリン受容体に結合することを阻害する薬物であり、副交感神経を抑制する。したがって、抗コリン作用薬の投与は口渇などの副作用を生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記副作用を抑制しつつ多汗症を治療するためには、皮膚の付属器官である汗腺に対する抗コリン作用薬の蓄積性を高めることが重要であると本発明者らは考え、鋭意検討を行った。その結果、所定の塩が皮膚の付属器官に対する抗コリン作用薬の蓄積性を高めることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、水、抗コリン作用薬並びに乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される1以上の塩を含む、多汗症治療用外用剤を提供する。上記抗コリン作用薬はオキシブチニン又はその薬学的に許容される塩であってよい。上記塩は乳酸ナトリウムであってよい。上記外用剤は液剤であってよい。上記液剤はローションの剤形であってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる多汗症治療用外用剤は、乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される1以上の塩を含む。したがって、皮膚の付属器官に対する抗コリン作用薬の蓄積性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ローション剤中の塩がオキシブチニンのブタ毛嚢への蓄積性に及ぼす影響を調べた試験の結果を表すグラフである。
図2】ローション剤中のオキシブチニンの濃度が発汗抑制作用に及ぼす影響を調べた試験の結果を表すグラフである。
図3】ローション剤中のオキシブチニンの濃度が発汗抑制作用に及ぼす影響を調べた試験の結果を表すグラフである。
図4】ローション剤中のオキシブチニンの濃度がオキシブチニンのブタ毛嚢への蓄積性に及ぼす影響を調べた試験の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、一実施形態を示して、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態は、水、抗コリン作用薬並びに乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される1以上の塩を含む、多汗症治療用外用剤である。
【0011】
抗コリン作用薬は、抗コリン作用を有する任意の薬物であれば特に限定されず、例えば、オキシブチニン、イミダフェナシン、トロスピウム、トルテロジン、グリコピロレート、プロパンテリン、ベンズトロピン、アトロピン、ホマトロピン、トロピカミド、ベナクチジン、ビベリデン、スコポラミン、臭化ブチルスコポラミン、シクロペントレート、ダリフェナシン、デキセチミド、ジサイクロミン、エメプロニウム、ヘキサヒドロシラジフェニドール、オクチロニウム、オルフェナドリン、オキシフェノニウム、ピレンゼピン、プロシクリジン、ダロトロピウム、イプラトロピウム、チオトロピウム、オキシトロピウム、キニジン、トリヘキシフェニジル、ミバクリウム、アトラクリウム、ドキサクリウム、シスアトラクリウム、ベクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、ツボクラリン、ガラミン、ピペクロニウム、トリメタファン、サクシニルコリン、スキサメトニウム、デカメトニウム及びヘキサメトニウムなどが挙げられる。皮膚の付属器官に対する蓄積性の観点から、抗コリン作用薬は、オキシブチニン又はその薬学的に許容される塩であることが好ましい。オキシブチニンの薬学的に許容される塩としては、オキシブチニン塩酸塩などが挙げられる。
【0012】
抗コリン作用薬の含有量は、外用剤の全質量を基準として、例えば、0.5〜35質量%であってよく、0.5〜15質量%であってもよい。
【0013】
乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される1以上の塩を外用剤が含むことで、皮膚の付属器官に対する抗コリン作用薬の蓄積性が高まる。塩は無水物でも水和物でもよい。乳酸はL体及びD体のいずれでもよく、これらの任意の混合物であってもよい。酒石酸はL体、D体及びメソ体のいずれでもよく、これらの任意の混合物であってもよい。塩は、例えば、ナトリウム、カリウム及びリチウムなどの一価の金属との塩、カルシウム及びマグネシウムなどの二価の金属との塩、アルミニウムなどの三価の金属との塩並びにアンモニア、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びメグルミンなどのアミン化合物との塩などが挙げられる。皮膚の付属器官に対する抗コリン作用薬の蓄積性を向上させる観点から、塩は、乳酸塩であることが好ましく、乳酸ナトリウムであることがより好ましい。
【0014】
上記塩の含有量は、外用剤の全質量を基準として、例えば、0.1〜10質量%であってよい。外用剤における抗コリン作用薬と上記塩のモル比は、例えば、1:0.5〜1:2の範囲であってよい。
【0015】
多汗症治療用外用剤は、例えば、液剤であってよく、クリーム剤、ゲル剤、又は水性軟膏剤であってもよい。
【0016】
多汗症治療用外用剤が液剤である場合、液剤における水は、抗コリン作用薬及び上記塩並びにその他の成分を溶解又は分散させるための媒体となる。水の含有量は、液剤の全質量を基準として、例えば、10〜99質量%であってよい。
【0017】
液剤は、上記成分の他に、低級アルコール、界面活性剤、保存安定剤、油脂、溶解剤、充填剤、保湿剤、pH調節剤、浸透圧調節剤、増粘剤、清涼剤、収斂薬及び血管収縮薬などを含んでいてもよい。
【0018】
低級アルコールは、抗コリン作用薬の溶解性及び分散性を高め、抗コリン作用薬の皮膚への分配性を高める。低級アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール及びイソプロパノールなどが挙げられる。低級アルコールの含有量は、液剤の全質量を基準として、例えば、0〜90質量%であってよい。
【0019】
界面活性剤は、抗コリン作用薬を水などの媒体に乳化させるために有用である。界面活性剤の具体例としては、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60など)、イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤の含有量は、液剤の全質量を基準として、例えば、0〜10質量%であってよい。
【0020】
保存安定剤の具体例としては、パラベン、イソプロピルメチルフェノール、フェノキシエタノール及びチモールなどが挙げられる。
【0021】
油脂及び溶解剤の具体例としては、脂肪酸、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0022】
充填剤の具体例としては、無機粉体(タルク、モンモリロナイト、スメクタイト及びカオリンなど)及び有機粉体などが挙げられる。
【0023】
保湿剤の具体例としては、多価アルコール、糖類、尿素、ワセリン、及びパラフィンなどが挙げられる。
【0024】
液剤のpHは4.5〜7.5の範囲内とすることができる。pHの測定は、第16改正日本薬局方の一般試験法の「2.54 pH測定法」に準じ、複合ガラス電極を用いて行う。
【0025】
液剤は、ローション剤及びリニメント剤などの形態であってもよく、また、適切な容器(例えば、液剤を噴霧するためのスプレー容器、液剤を塗布するための容器及びエアゾール剤容器など)に収容された塗布剤及びスプレー剤などの形態であってもよい。
【0026】
多汗症治療用外用剤がクリーム剤である場合、水、抗コリン作用薬及び上記塩は、クリーム基剤に配合されていてもよい。クリーム基剤は特に制限されず、ワセリン又は高級アルコールなど、通常使用されるものから選択されてもよい。クリーム基剤には、例えば、乳化剤、防腐剤、吸収促進剤、及びかぶれ防止剤など、クリーム剤に通常添加される添加剤が添加されていてもよい。また、クリーム剤にゲル化剤及び中和剤を添加し、pHを4〜8に調整することで、ゲル状のクリーム剤を得ることもできる。このようなゲル状のクリーム剤は、クリーム剤とゲル剤の中間の性質を有する。クリーム剤における水の含有量は、クリーム剤の全質量を基準として、例えば、0.5〜70質量%であってよい。
【0027】
多汗症治療用外用剤がゲル剤である場合、水、抗コリン作用薬及び上記塩は、ゲル基剤に配合されていてもよい。ゲル基剤は特に制限されず、高級アルコールなど、通常使用されるものから選択されてもよい。ゲル基剤には、例えば、ゲル化剤、中和剤、界面活性剤、吸収促進剤、溶解剤、及びかぶれ防止剤など、ゲル剤に通常添加される添加剤が添加されていてもよい。ゲル剤における水の含有量は、ゲル剤の全質量を基準として、例えば、0.5〜70質量%であってよい。
【0028】
多汗症治療用外用剤が水性軟膏剤である場合、水、抗コリン作用薬及び上記塩は、水溶性基剤に溶解又は分散されていてもよい。水溶性基剤は特に制限されず、固体のポリエチレングリコールなど、通常使用されるものから選択されてもよい。水溶性基剤には、例えば、吸収促進剤、保湿剤、及びかぶれ防止剤など、水性軟膏剤に通常添加される添加剤が添加されていてもよい。水性軟膏剤における水の含有量は、水性軟膏剤の全質量を基準として、例えば、0.5〜30質量%であってよい。
【0029】
多汗症治療用外用剤は、上記各成分を混合し混和することで製造することができる。
【0030】
外用剤は、必要に応じて容器を振とうして各成分が均質に混和された後に、発汗を抑えたい皮膚の部位に、塗布、散布又は噴霧され、必要に応じて塗り広げられる。
【実施例】
【0031】
試験例1
表1の組成に従ってローション剤を調製し、溶解状態を目視で確認した。さらに、ローション剤をブタの皮膚に塗布し、オキシブチニンの毛嚢への集積量を以下の方法で測定した。
1)軽く毛刈りしたブタの皮膚5cmにローション剤20μLを塗布した。個体数n=3。
2)6時間後、消毒用エタノールで皮膚表面を清拭し、リン酸緩衝液で流水洗浄し、皮膚表面に付着するオキシブチニンを除去した。
3)皮膚から毛20本分の毛嚢部分を採取した。
4)抽出液1mLを用いて毛嚢からオキシブチニンを抽出した。抽出液として、以下の移動相を用いた。
5)高速液体クロマトグラフによりオキシブチニンの濃度を測定した。高速液体クロマトグラフの条件は以下の通りである。
移動相:0.1w/w%リン酸水溶液(ドデシル硫酸ナトリウムを0.5w/v%含む):アセトニトリル=45:55(v/v)
流速:1.5mL/分
カラム:TSKgel ODS−80Ts(東ソー株式会社)
保持時間:10分
【0032】
【表1】
【0033】
結果を表2及び図1に示す。リン酸塩、乳酸塩、酢酸塩又は酒石酸塩を含むローション剤においては、上記塩を含まないローション剤に比べて、オキシブチニンの毛嚢への蓄積性が高かった。
【0034】
【表2】
【0035】
試験例2
表3の組成に従ってローション剤を調製した。ピロカルピン誘発発汗試験により、ローション剤の発汗抑制作用を測定した。また、試験例1と同様の方法により、ローション剤をブタの皮膚に塗布し、オキシブチニンの濃度を測定した。
【0036】
ピロカルピン誘発発汗試験は以下の方法で行った。
1)ローション剤を40質量%エタノール水溶液で12倍に希釈した。
2)マウスの足蹠の約0.5cmにローション剤10μL又は15μLを塗布した。個体数n=5〜6。
3)4時間後に麻酔下でヨウ素及びデンプン溶液を足蹠に塗布した。
4)ピロカルピン5μg/足を皮内投与した。
5)5分後にヨウ素デンプン反応により生じる黒点の個数を計数した。
【0037】
【表3】
【0038】
結果を図2図4に示す。図2はローション剤の塗布量が10μLのときのピロカルピン誘発発汗試験の結果を表し、図3はローション剤の塗布量が15μLのときのピロカルピン誘発発汗試験の結果を表す。ローション剤の発汗抑制作用は、オキシブチニンの濃度に依存的であることが確認できた。また、毛嚢へのオキシブチニンの蓄積量は、オキシブチニンの濃度に依存的であることが確認できた。
【0039】
試験例3
表4の組成に従ってローション剤を調製した。ピロカルピン誘発発汗試験により、ローション剤の発汗抑制作用を測定した。
【0040】
ピロカルピン誘発発汗試験は以下の方法で行った。
1)ローション剤を40質量%エタノール水溶液で12倍に希釈した。
2)マウスの足蹠の約0.5cmにローション剤10μLを塗布した。個体数n=6。
3)3時間後に足蹠を洗浄し、マウスを1時間放置した後、麻酔下でヨウ素及びデンプン溶液を足蹠に塗布した。
4)ピロカルピン15μg/足を皮内投与した。
5)5分後にヨウ素デンプン反応により生じる黒点の個数を計数した。
【0041】
【表4】
【0042】
結果を表5に示す。乳酸塩又は酢酸塩を含むローション剤は、塩を含まないローション剤に比べて、強い発汗抑制作用を示した。
【0043】
【表5】
図1
図2
図3
図4