特許第6387461号(P6387461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387461光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387461
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/07 20130101AFI20180827BHJP
   H04B 10/25 20130101ALI20180827BHJP
【FI】
   H04B10/07
   H04B10/25
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-517244(P2017-517244)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公表番号】特表2017-537490(P2017-537490A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】EP2015072393
(87)【国際公開番号】WO2016050756
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年5月10日
(31)【優先権主張番号】14306541.5
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391030332
【氏名又は名称】アルカテル−ルーセント
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セブ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ラマンタニス,ペトロス
(72)【発明者】
【氏名】アントナ,ジャン−クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ビゴ,セバスチャン
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08787754(US,B1)
【文献】 欧州特許出願公開第02493102(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0254317(US,A1)
【文献】 特開2012−054934(JP,A)
【文献】 特開2013−223247(JP,A)
【文献】 特開2013−074625(JP,A)
【文献】 E.Seve, et al.,Semi-Analytical Model for the Performance Estimation of 100Gb/s PDM-QPSK Optical Transmission Systems without Inline Dispersion Compensation and Mixed Fiber Types,Optical Communication (ECOC 2013), 39th European Conference and Exhibition on,2013年 9月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法であって、
− 局所分散値を規定するステップと、
− 局所分散値と同一の符号を有する分散増分(14)を規定するステップと、
− 整数が0から0以上の上限までの範囲である複数の整数の各々について、伝播モデルおよび/または実験によって伝播計算(24)を実行するステップであり、各伝播計算および/または実験が基本セクション(91)に沿った光信号の伝播を扱い、基本セクションが局所分散値よって特徴付けられる伝播媒体であり、基本セクション長が分散増分に対応し、基本セクションに入ってくる光信号が事前に規定した前置補償分散と分散増分の整数倍との総和に等しい累積分散値(DからD)により以前に影響を受けている、実行するステップと、
− 各基本セクションについて、雑音の分散を決定するステップであり、雑音が基本セクション内のカー非線形場寄与に起因するひずみを表す、決定するステップと、
− 基本セクションの各組について、基本セクションの組の間の雑音の共分散を決定するステップと、
− 局所分散値と累積分散値との第1の組および局所分散値と累積分散値との第2の組とともに、対応する局所分散値および累積分散値とともに雑音の各々の決定した分散および雑音の各共分散を含むルックアップテーブル(Σ)をデータリポジトリに格納するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
伝播モデルが、スプリットステップフーリエ法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
雑音が、任意の非線形場寄与、ならびに/または二次高調波発生、周波数混合、光パラメトリック増幅および発振、自発的パラメトリックダウンコンバージョン、SPDCに基づくもつれ光子のソース、四波混合、ラマン散乱、自発的誘導ラマン散乱、ラマン増幅、ブリルアン散乱、2光子吸収、のリストからの非線形場寄与の連携、にさらに起因するひずみを表す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
方法が、
− 各基本セクションについて、伝播モデルまたは実験において利用した入力パワーを決定するステップと、
雑音の分散を決定するステップにおいて基本セクションに対して決定した各分散について、基本セクションに対して利用した入力パワーの2乗によって分散を割り算するステップと、
基本セクションの組の間の雑音の共分散を決定するステップにおいて基本セクションの組に対して決定した各共分散について、組の第1の基本セクションに対して決定した入力パワーおよび組の第2の基本セクションに対して決定した入力パワーにより共分散を割り算するステップと
を含む無次元化するステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
局所分散値が光ファイバに対応する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
光ファイバが、シングルモードファイバ、分散補償ファイバ、LEAF、マルチファイバ、多芯ファイバ、マルチモードファイバ、偏波保持ファイバ、フォトニック結晶ファイバ、マルチモードグレーデッドインデックス光ファイバ、ノンゼロ分散シフトファイバ、トゥルーウェーブリデューストスロープ、トゥルーウェーブクラシック、テラライトおよびSMF−LS、のリストから選択されるタイプを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ルックアップテーブル(Σ)が、基本セクション内に発生したカー非線形場寄与に起因する雑音の共分散行列を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分散増分が、長さが100mと20kmとの間に含まれる光リンクのセクションに沿って伝播する光信号によって累積された分散に対応する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
光伝送のための伝送品質の推定装置であって、
− 複数の分散エントリσnnを含むルックアップテーブル(Σ)が格納されているデータリポジトリ(113)であり、各分散エントリが、対応する局所分散値および対応する累積分散値(DからD)とともに格納され、累積分散値が、事前に規定した前置補償分散と0から0以上の上限までの範囲である整数で掛け算した事前に規定した分散増分(14)との総和から構成される累積分散値のセットの中で選択され、
ルックアップテーブル(Σ)が複数の共分散エントリをさらに含み、各共分散エントリが局所分散値と累積分散値との第1の組および局所分散値と累積分散値との第2の組とともに格納される、データリポジトリと、
− 光伝送システムデスクリプションを受信するための入力インターフェース(118)であり、システムデスクリプションが、複数のシステムセグメントS、ならびに、各システムセグメントSについて、システムセグメントの入力パワーP、システムセグメントの局所分散値およびシステムセグメントの入力累積分散を規定する、入力インターフェース(118)と、
− 計算ユニット(114)であり、
− 各システムセグメントSについて、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が分散エントリσmatch(k)match(k)に関係する局所分散値および累積分散値に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の分散エントリσmatch(k)match(k)を選択するステップと、
− 各組のシステムセグメントSおよびSk’について、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第1の組に実質的に一致するように、かつシステムセグメントSk’の局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第2の組に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の共分散エントリσmatch(k)match(k’)を選択するステップと、
− 伝送品質の推定値
【数1】
を計算するステップであり、
ここで、Nが光伝送システムデスクリプション内のシステムセグメントの数である、
計算するステップと
を実行するように構成された、計算ユニット(114)と、
− 計算した伝送品質の推定値を送信するための出力インターフェース(115)と
を備える、装置。
【請求項10】
ルックアップテーブルが共分散行列を含む、請求項9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムの技術分野に関し、特に光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワークでは、光信号は、かなりの距離を進んだ後では弱くそしてひずむようになる。実際に、光信号は、物理的な作用のために光媒体中を伝播するにつれて劣化する。物理的な劣化は、伝播する距離、光リンクの特性、周波数占有、等の複数の要因に依存する。
【0003】
例えば、スプリットステップフーリエ法(SSFM)のような数値的な方法は、伝播計算を行うことができる。E. Seveらの「Semi−Analytical Model for the Performance Estimation of 100Gb/s PDM Transmission Systems without Inline Dispersion Compensation and Mixed Fiber Types」、Proc.ECOC、Th.1.D.2、London(2013)では、伝送の性能の指標である信号対非線形ひずみ比(SNRNL)を決定することを可能にする半解析的モデルが記述されている。開示されたモデルは、例えば、100kmを超える長い長さを有する光リンクに対して特に適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Seveら、「Semi−Analytical Model for the Performance Estimation of 100Gb/s PDM Transmission Systems without Inline Dispersion Compensation and Mixed Fiber Types」、Proc.ECOC、Th.1.D.2、London(2013)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様は、光リンクの異なるセクションにより独立に生成される非線形ひずみの総和として全部の伝送リンクの非線形ひずみを表現する考えに基づいている。
【0006】
本発明の態様は、カー非線形性に起因する信号ひずみが加法性ガウス雑音としてモデル化されてもよいという観察に由来している。
【0007】
本発明の態様は、波長分散が非線形雑音の発生に強く影響する主な物理現象であるという考えに由来している。
【0008】
本発明の態様は、基本ファイバセクションの後で生成される非線形雑音の分散が入力累積分散およびそのセクションのファイバのタイプに直接関連されることがあるという考えに由来している。
【0009】
本発明の態様は、再使用される事前に計算した非線形ひずみの共分散行列をメモリに記憶することによって伝送品質の推定器の計算コストを削減するという考えに基づいている。
【0010】
本発明の態様は、伝送リンク最適化のためのエンジニアリング規則を開発することを可能にするために伝送性能の高速推定を提案するという考えに基づいている。この推定は、SSFMおよび/または他の方法を使用することにより得られる推定よりも好ましくは早くなる。
【0011】
第1の目的にしたがって、本発明は、光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法を提供し、方法は:
− 局所分散値を規定するステップと、
− 例えば、基本セクション長にわたって、局所分散値と同一の符号を有する分散増分を規定するステップと、
− 整数が0から0以上の上限までの範囲である複数の整数の各々について、伝播モデルおよび/または実験により伝播計算を実行するステップであって、各伝播計算および/または実験が基本セクションに沿った光信号の伝播を扱い、基本セクションが局所分散値によって特徴付けられる伝播媒体であり、基本セクション長が分散増分に対応し、基本セクションに入ってくる光信号が事前に規定した前置補償分散と分散増分の整数倍との総和に等しい累積分散値により以前に影響を受けている、実行するステップと、
− 各基本セクションについて、雑音の分散を決定するステップであって、雑音が基本セクション内のカー非線形場寄与に起因するひずみを表す、決定するステップと、
− 基本セクションの各組について、基本セクションの組の間の雑音の共分散を決定するステップと、
− 局所分散値と累積分散値との第1の組および局所分散値と累積分散値との第2の組とともに、対応する局所分散値および累積分散値とともに雑音の各々の決定した分散および雑音の各共分散を含むルックアップテーブルをデータリポジトリに格納するステップと
を含む。
【0012】
ある実施形態によれば、方法は、光伝送の最小累積分散として前置補償分散を規定するステップも含む。
【0013】
実施形態によれば、このような方法は、下記の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0014】
利用されることがある多くの種類の伝播モデルがある。好ましい実施形態では、伝播モデルは、SSFMである。ある実施形態では、伝播モデルは、半経験的なモデルである。ある実施形態では、伝播モデルは、解析的モデルである。
【0015】
本明細書においては光路パラメータと呼ばれ、光信号の伝播計算のための入力データとして利用されることがある多くのパラメータがある。伝播モデルは、局所分散値および光路に沿った累積分散値を考慮する。加えて、光路パラメータは、下記のリスト:ネットワークトポロジのパラメータ、送信元ノードおよび宛先ノードのパラメータ、光路に沿ったノードの数、ノード位置、トランスポンダタイプ、ファイバ長、光路長、ファイバタイプ、ファイバモード、ファイバ屈折率、ファイバの周波数占有、分散管理、変調フォーマット、チャネル間隔、等の中で選択されることがある。
【0016】
光信号のいくつかの本質的な特徴も、伝播計算のための光路特性:多重化タイプ、キャリア周波数、変調フォーマット、等としてやはり考慮されることがある。加えて、伝播モデルは、光信号の振幅またはパワーを考慮する。
【0017】
発光デバイスの特徴も、伝播計算のための光路特性としてやはり考慮されることがあり、下記のリスト:チャープ、発光モード、発光周波数、発光スペクトル帯域幅、ジッタ、等の中で選択されることがある。
【0018】
検出器の特徴も、伝播計算のための光路特性としてやはり考慮されることがあり、下記のリスト:感度、光検出雑音、ショット雑音、熱雑音、アバランシェフォトダイオードに固有の雑音、等、の中で選択されることがある。
【0019】
実施形態では、雑音は、任意の非線形場寄与、ならびに/または下記のリスト:二次高調波発生、周波数混合、光パラメトリック増幅および発振、自発的パラメトリックダウンコンバージョン、SPDCに基づくもつれ光子のソース、四波混合、ラマン散乱、自発的誘導ラマン散乱、ラマン増幅、ブリルアン散乱、および2光子吸収、からの非線形場寄与の連携、にさらに起因するひずみを表すことができる。
【0020】
ある実施形態では、方法は:
− 各基本セクションについて、伝播モデルまたは実験において利用した入力パワーを決定するステップと、
− 決定するステップにおいて基本セクションに対して決定した各分散について、基本セクションに対して利用した入力パワーの2乗により分散を割り算するステップと、
− 決定するステップにおいて基本セクションの組に対して決定した各共分散について、組の第1の基本セクションに対して決定した入力パワーおよび組の第2の基本セクションに対して決定した入力パワーにより共分散を割り算するステップと
を含む無次元化するステップをさらに含む。
【0021】
ある実施形態では、方法は、各基本セクションについて、受信機側のところの信号パワーを決定するステップと、受信機側のところでの信号パワーの平方根で割り算した受信信号に等しい規格化した信号を決定するステップであって、分散が規格化した信号の全体にわたって計算される、規格化した信号を決定するステップとをさらに含む。
【0022】
ある実施形態では、局所分散値は、光ファイバに対応する。
【0023】
ある実施形態では、光ファイバは、下記のリスト:シングルモードファイバ、分散補償ファイバ、LEAF、マルチファイバ、多芯ファイバ、マルチモードファイバ、偏波保持ファイバ、フォトニック結晶ファイバ、マルチモードグレーデッドインデックス光ファイバ、ノンゼロ分散シフトファイバ、トゥルーウェーブリデューストスロープ、トゥルーウェーブクラシック、テラライトおよびSMF−LSの中で選択されるタイプを有する。
【0024】
ある実施形態では、ルックアップテーブルは、基本セクション内で発生したカー非線形場寄与に起因する雑音の共分散行列を含む。
【0025】
ある実施形態では、分散増分は、長さが100mと20kmとの間に含まれる光リンクのセクションに沿って伝播する光信号によって累積される分散に対応する。分散増分が小さいほど、伝送品質の推定はより正確である。分散増分が大きいほど、計算は安価である。これらの特徴のおかげで、光ネットワークシステム;特に、短いファイバ長および/またはファイバタイプ不均一性および/または異なるタイプの分散管理および/または異なる増幅スキームを有する光ネットワークシステムの性能を予測することができる伝送品質の推定器を実装することが可能である。
【0026】
本発明は、光伝送のための伝送品質の推定装置も提供し、装置は:
− 複数の分散エントリσnnを含むルックアップテーブルが格納されているデータリポジトリであって、各分散エントリが、対応する局所分散値および対応する累積分散値とともに格納され、累積分散値が、事前に規定した前置補償分散と0から0以上の上限までの範囲である整数で掛け算した事前に規定した分散増分との総和から構成される累積分散値のセットの中で選択され、
ルックアップテーブルが複数の共分散エントリをさらに含み、各共分散エントリが局所分散値と累積分散値との第1の組および局所分散値と累積分散値との第2の組とともに格納される、データリポジトリと、
− 光伝送システムデスクリプション(description)を受信するための入力インターフェースであって、システムデスクリプションが、複数のシステムセグメントS、ならびに、各システムセグメントSについて、システムセグメントの入力パワーP、システムセグメントの局所分散値およびシステムセグメントの入力累積分散を規定する、入力インターフェースと、
− 計算ユニット(114)であって:
− 各システムセグメントSについて、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が分散エントリσmatch(k)match(k)に関係する局所分散値および累積分散値に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の分散エントリσmatch(k)match(k)を選択するステップと、
− 各組のシステムセグメントSおよびSk’について、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第1の組に実質的に一致するように、かつシステムセグメントSk’の局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第2の組に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の共分散エントリσmatch(k)match(k’)を選択するステップと、
− 伝送品質の推定値
【数1】
を計算するステップであって、
ここで、Nが光伝送システムデスクリプション内のシステムセグメントの数である、
計算するステップと
を実行するように構成された、計算ユニット(114)と、
− 計算した伝送品質の推定値を送信するための出力インターフェースと
を備える。
【0027】
本発明の態様は、必要なところでの光再生器の数および位置を決定するためにおよび/または予期しないリンク故障のケースではネットワーク内の代替パスを決定するためにおよび/またはネットワーク内での需要を満足させる最短のパスを決定するためにおよび/またはソフトウェア定義ネットワークフレーム内のアプリケーション駆動型再構成ネットワークのケースでは新たなパスを決定するために、伝送性能の、例えば、数秒以下のリアルタイム推定値を計算する考えに基づいている。
【0028】
ある実施形態では、ルックアップテーブルは共分散行列を含む。
【0029】
光信号は、任意の多重化方法、例えば、WDM多重化および/または空間多重化および/または偏波多重化にしたがって多重化されることがある。
【0030】
出力インターフェースは、多様な方式で実装されることがある。ある実施形態では、出力インターフェースは、例えば、コンピュータファイルまたは紙プリントアウトとして、ネットワーク設計での使用のために適したフォーマットで光伝送のための伝送品質の推定器をユーザに提供する。
【0031】
第2の目的にしたがって、本発明は、光伝送システムデスクリプションを決定するための方法も提供し、方法は:
− 光伝送システムの分散マップを決定するステップと、
− 分散マップ上へと別個の累積分散のセットを置くステップと、
− 光伝送システムの複数の連続的なシステムセグメントSを規定するステップであって、各システムセグメントは、入力累積分散が別個の累積分散のセットの累積分散に一致する光伝送システム内の点に対応する入力点を有する、規定するステップと、
− 各システムセグメントSについて、システムセグメントの入力パワーP、およびシステムセグメントの局所分散値を決定するステップと、
− 各システムセグメントSについて、システムセグメントSのシーケンス番号を格納するステップと、システムセグメントSの入力累積分散に関係して決定した入力パワーおよび局所分散値をデータリポジトリに格納するステップと
を含む。
【0032】
これらの特徴のおかげで、光システムの伝送品質を得るために十分な情報をそれにもかかわらず含む光システムの簡潔な記述(デスクリプション)を得ることが可能である。
【0033】
これらの特徴のおかげで、伝送品質の推定装置の大きな使用を提供する任意の種類の光システムに適用可能な表示フォーマットを得ることが可能である。例えば、光ネットワーク内の2つの連続するノード間の各接続に上記の方法を実行することは、これらの接続の各々に対して伝送推定装置を使用することを、したがって光ネットワーク内の任意の接続の伝送品質を予想することを可能にさせる。
【0034】
これらの特徴のおかげで、非常に速くかつ効率的な方式で光伝送システムの品質を推定するための伝送品質の推定装置を使用することを可能にする。
【0035】
これらの特徴のおかげで、伝送品質の推定器において光システムを使用するために任意の光システムのコンパクトな表現を得ることが可能である。
【0036】
実施形態によれば、このような方法は、下記の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0037】
ある実施形態では、セットの別個の累積分散は、固定累積分散増分によって区切られる。
【0038】
ある実施形態では、方法は:
分散マップの上限および下限を決定するステップと、上限と下限との間の範囲の95%よりも多くをカバーさせる別個の累積分散のセットを選択するステップと
をさらに含む。
【0039】
ある実施形態では、別個の累積分散のセットは、−10−4ps/nmと10ps/nmとの間の累積分散の範囲に含まれる。
【0040】
本発明は、光システムについての伝送品質の推定値を決定するための請求項1の方法を用いて得られる光伝送デスクリプションの使用も提供し、
使用は:
複数の分散エントリσnnを含むルックアップテーブル(Σ)を提供するステップであって、各分散エントリが、対応する局所分散値および対応する累積分散値(DからD)とともに格納され、累積分散値が、事前に規定した前置補償分散と0から0以上の上限までの範囲である整数で掛け算した事前に規定した分散増分(14)との総和から構成される累積分散値のセット内で選択され、
ルックアップテーブル(Σ)が複数の共分散エントリをさらに含み、各共分散エントリが局所分散値と累積分散値との第1の組および局所分散値と累積分散値との第2の組とともに格納される、提供するステップと、
− 光伝送システムの各システムセグメントSについて、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が分散エントリσmatch(k)match(k)に関係する局所分散値および累積分散値に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の分散エントリσmatch(k)match(k)を選択するステップと、
− 各組のシステムセグメントSおよびSk’について、システムセグメントSの局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第1の組に実質的に一致するように、かつシステムセグメントSk’の局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第2の組に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の共分散エントリσmatch(k)match(k’)を選択するステップと、
伝送品質の推定値を:
【数2】
として計算するステップであって、
ここで、Nが光伝送システムデスクリプション内のシステムセグメントの数である、
計算するステップと
を含む。
【0041】
本発明は、変調されたデータを含む情報信号も提供し、変調されたデータは、光伝送システムの連続的なシステムセグメントSを表し、
各システムセグメントは、入力累積分散が別個の累積分散のセットの累積分散と実質的に一致する光伝送システム内の点に対応する入力点を有し、
各システムセグメントSは、入力パワーP値、局所分散値およびシーケンス番号を有する。
【0042】
本発明の態様は、分散情報を基本的に利用するコンパクトなフォーマットで光システムを記述する考えに基づいている。
【0043】
本発明の態様は、分散の情報が光システムの伝送品質の精密な推定を得るために十分であり得る観察に由来する。
【0044】
本発明の態様は、ファイバタイプおよびセクション入力部のところで累積した分散の観点から基本ファイバセクションによりネットワークを特徴付ける考えに基づいている。
【0045】
本発明の態様は、高速な方式でかつ非常に良い精度で接続の実行可能性を容易に評価するために、係数が事前に計算されている基本ファイバセクションを使用することによって全部のネットワーク内の接続をモデル化する考えに基づいている。
【0046】
本発明の態様は、小さなファイバセクションの連鎖として網目化したネットワークの各ファイバを記述する考えに基づいており、ファイバタイプの同じ特性および同じ入力累積分散を有するすべての冗長なファイバセクションを取り除くことによって全部のネットワークを記述するためのデータの最小セットを見出す。
【0047】
本発明のこれらの態様および他の態様は、例として、図面を参照して以降に説明する実施形態から明らかであり、そして実施形態に関連して明らかにされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】送信元ノードからの距離に応じての光リンクをわたって伝播する光信号の累積分散値の模式的グラフであり、光リンクがインライン分散補償のない光ファイバを備える。
図2図1の光リンクをわたって伝播する光信号の非線形雑音の分散を含むルックアップテーブルであり、分散が図1において推定した対応する累積分散値と関連し、ルックアップテーブルが光リンクの異なるセクションの累積分散値に関連した雑音の共分散をさらに含む。
図3図1の光リンクのセクションの非線形雑音の共分散行列の図であり、共分散行列が図2のルックアップテーブルと同一であり、共分散行列が図1の光リンクの連続するセクションに対応する累積分散値の分散および共分散を選択することによって図2のルックアップテーブルのおかげで構成される。
図4】光リンクの両端に位置する送信元ノードと宛先ノードとの間の中間にある分散補償装置を有する光リンクについて、送信元ノードからの距離に応じての光リンクをわたって伝播する光信号の累積分散の模式的グラフである。
図5図4の光リンクのセクションに対応する累積分散値の分散および共分散の選択を示している図2のルックアップテーブルである。
図6図4の光リンクのセクションの非線形雑音の共分散行列の図であり、共分散行列が図4の光リンクの連続するセクションに対応する累積分散値の分散および共分散を選択することによって図2のルックアップテーブルのおかげで構成される。
図7】光リンクに沿った光信号の伝送品質の高速推定の計算を実行する方法を示すフローチャートである。
図8】光リンクに沿った光信号の伝送品質の推定を計算するために利用されることができる計算装置の機能図である。
図9】送信機から受信機への光リンクの例の機能図である。
図10】SSFMシミュレーションにより計算された分散と比較して、図7の方法により計算されたセクション長さにわたる分散の数値シミュレーション結果を示すグラフである。
図11】2つのタイプの光ファイバを有する6ノードネットワークの模式図である。
図12図11の6ノードネットワークの2つの光伝送パスの分散マップの離散化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
例示的な例では、WDM光ネットワークは、非補償光リンク上で、すなわち、光リンクに含まれる光ファイバスパン間にインライン分散補償を用いずに波長当たり100Gb/sを搬送する。ネットワークは、複数の100Gb/s要求を搬送しなければならず、100Gb/sペイロードが偏波分割多重四相位相変調キーイングPDM−QPSK波長で送られる。
【0050】
このようなシステムに関して、障害の主な源は、自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission)(ASE)雑音およびカー効果に起因するひずみであることがよく知られている。両方の効果は、加法性白色ガウス雑音によりきわめて正確にモデル化されることが可能である。受信機のところでの全信号対雑音比は:
【数3】
により定義され、非線形ひずみ対信号比は、
【数4】
により定義され、ここで、Pは信号のパワーであり、PASEは基準帯域幅(例えば、光SNR(OSNR)の従来からの定義に関して言えば0.1nm)において測定される自然放射増幅光(ASE)雑音のパワーであり、PNLは非線形ひずみのパワーである。
【0051】
ASEは、信号により進んだ距離、具体的には横切った光増幅器の数およびそれらの特性に依存する。
【0052】
NLは、やはり信号により進んだ距離、したがって光リンクの長さに、光リンクの性質、したがって局所分散値に、および検討中の信号の光パワーにも依存する。
【0053】
光リンクの伝送品質を推定するために、光リンクに含まれるファイバのタイプが考慮される。ある光ネットワークでは、複数の異なる局所分散値を有する異なるファイバタイプが使用されることがある。例えば、シングルモードファイバ(SMF)は、17ps/nm/kmの局所分散値を有する。対照的に、分散補償ファイバ(DCF)は、負の局所分散値を有する。
【0054】
光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための方法:
図7を参照して、光伝送のための伝送品質の推定器を作り出すための数値法がここで説明される。
【0055】
方法は、任意の変調フォーマット、分散管理、ならびにファイバタイプおよびファイバ長の潜在的な不均一性に関して、網目化したネットワーク内のすべての可能な接続の非線形ひずみ分散をもたらす。得られた非線形ひずみ分散は、メモリに記憶され、伝送品質の推定器の主構成要素である。
【0056】
方法は、下記のステップを実行することを含む:
プリアンブルとして、伝送システムの波長分散マップを決定するステップ、すなわち、光伝送における1つ1つの点のところでの累積波長分散を予測するステップ。分散マップは、Sと表されるセクションへと光伝送をサンプリングするために利用される。ネットワークのセクションSについてDと表される累積分散値は、ファイバに沿って伝播する間に光信号により以前に累積され、かつセクションSの入力点のところで測定された前置分散であり、ここで、kは整数である。
【0057】
ステップ21では、方法は:m個の異なるファイバタイプについてl=1,2,...,mに対して、光ネットワーク内に存在する異なるファイバタイプF(l)を決定するステップ、およびl=1,2,...,mに対して、異なるファイバタイプF(l)のそれぞれ1つについて、累積分散の固定増分ΔD(l)を選択するステップを実行する。
【0058】
ステップ22では、ネットワーク内のすべての可能なポイント−ツー−ポイントリンクを考えるステップ、ならびにFと表されるセクションのファイバタイプおよびセクションkに沿った光信号の伝播の間に累積される対応する分散増分ΔDを有するセクションSへとポイント−ツー−ポイントリンクを区切るステップ、ここで、FおよびΔDはステップ21の可能な固定値F(l)および対応するΔD(l)の中から選択される。
【0059】
ステップ23では、方法は、ネットワークの各セクションSに対応するすべての組(D,F)を集めること、および集めることから重複を取り除くことを実行する。このステップ23は、合計でM個の別個の組(D,F)をもたらす。
【0060】
キャリブレーションステップであるステップ24では、方法は、各組(D,F)について、セクションSにわたってSSFM非線形伝播シミュレーションをランさせるステップを実行する。一連のM個のシミュレーションは、キャリブレーションフェーズステップ24と呼ばれる。M個のシミュレーションが完全に独立しているので、M個のシミュレーションは、並列にすべてをランさせることが可能であり、このようにネットワークのキャリブレーションステップ24をスピードアップする。
【0061】
QPSK変調でセクション内を伝播する光信号の例示的なケースでは、下記のステップ25は、キャリブレーションフェーズステップ24のM個のシミュレーションから得られる出力信号の各々について実行される。ステップ25は:初期位相変調を取り除くこと、非線形位相シフトの補償、およびもしある場合には、送信機側のところでのフィルタリングに由来する入力信号を取り除くことを含む。実際に図9に示したように、フィルタ94は、送信機95とファイバ91との間に任意選択で設置される。M個のシミュレーションから得られる出力信号から入力信号を取り除くことは、セクション内を伝播する光信号のM個の非線形ひずみ場を抽出することを可能にする。取り除くことは、各シンボル時間の中間のところでサンプリングされた入力信号および出力信号の両者に実行される。
【0062】
ステップ26では、方法は:
− 下記ではΣと表されるM×Mの表を構成するステップをさらに含む。表Σは、各々の別個の組D,Fについて、iおよびjがkにより取られる値を表すと、セクションiおよびj内を伝播する光信号の非線形ひずみ場の分散σiiおよび共分散σijの計算を含む。
【0063】
ステップ27では、方法は、その後の使用のために外部メモリ内のルックアップテーブルにΣを格納することを実行する。
【0064】
各ファイバタイプについての分散増分ΔD(l)は、次のように計算される:ΔD(l)=∫DF(l)(z)dz、ここでは、DF(l)はファイバタイプF(l)についての局所分散を表し、積分は長さdzのセクションにわたって実行される。
【0065】
分散増分の選択は、考えているセクションのセクション長上での発生率を含んでいる。実際に、固定局所分散値DFを有するファイバセクションkについて、長さが長いほど、累積分散値Dが大きくなる。したがって、各ファイバタイプについての分散増分ΔD(l)の選択は、利用可能なシステムメモリ、所望の精度、および推定しようとするネットワーク内に存在するスパン長の種類に依存する。短いセクションは、より高い精度をもたらすが、大量のメモリおよび長い計算時間の両方を必要とする。
【0066】
例示の目的で、上記の方法では、SSFM非線形伝播シミュレーションが、1とゼロの疑似ランダム分布を有するビットシーケンスに実行される。図9を参照して、光リンクの例が説明される。光リンクはファイバ91である。SSFMシミュレーションが、ファイバ91について実行される。図9に示したように、分散は、光信号が受信機93に到達する前に完全な後置補償ファイバ92によりゼロに戻される。
【0067】
例示の目的で、図1から図3を参照して、このような方法が、ルックアップテーブルを作るために単一の光リンクabから構成される光ネットワークについて実行される。ルックアップテーブルは、図4から図6を参照して後で説明されるように光リンクcdの伝送品質を推定するために有用である。図1は、光リンクabのセクション1から6に応じての、光リンクabをわたって伝播する光信号の累積分散値D、D、D、D、DおよびDの模式的グラフである。例えば、Dは、光リンクabの入力部のところでの前置補償の値に等しい負の分散値である。光リンクabは、同じファイバタイプにより特徴付けられる2つのスパン123および456を含む、すなわち、2つのスパンに沿った局所分散値は同じである。k=1から6で、各セクションkについての局所分散値Fは同じである。スパン123および456は、3つのセクション1、2、3および4、5、6へとそれぞれ分割される。スパン123および456をセクション化することが、次のように実行される:光リンクabの各セクション1、2、3、4、5および6について、軸11上に表された累積分散値は、分散の同じ増分14だけ増加する。光リンクabのセクションは、インライン分散補償を組み込んでいない。したがって、Dと表された各セクションSの累積分散は、Σに等しい。別個の組(D,F)を有する各セクションSについて、方法は、光リンクabのセクションSを特徴付ける累積分散および局所分散D、Fを含む組に応じて、SSFMシミュレーションをランさせることを実行する。Pは、SSFMシミュレーションにおいて利用される各セクションSの入力部のところでの固定パワー値を表す。
【0068】
SSFMシミュレーションにより計算されたセクションSの出力部のところでの光信号の非線形ひずみ場をuNL,kと表して、図2に表示された行列Σの各係数σijが、次いで下記のように計算される:σij=cov(uNL,i,uNL,j)/P
ここで、
【数5】
は平均μおよびμを有するランダム変数XおよびYの共分散であり、そしてE[・]は期待値である。行列Σは、次いで、その後の使用のためにデータリポジトリに格納される。
【0069】
実際に、行列Σを用いると、光リンクabの伝送性能は、k=1,...6を有する光リンクabのセクションSを特徴付ける組D,Fに対応するΣの分散および共分散σijを選択することによって、データリポジトリを含む伝送品質の推定装置により計算されることができる。
【0070】
図1を参照して説明した光システムは、必ずしも現実に存在する必要はない。図1は、多数の光システムを推定することを可能にする伝送品質の係数の計算の方法を図説するために一意的に説明される。同様に、多数の光ファイバタイプについて係数を計算することができる推定器を製造するために、係数は、多数の局所分散値について計算されることができる。特殊なケースでは、1つのファイバタイプl’の係数は、ファイバタイプF(l’)をF(l)により、累積分散D(l’)を累積分散
【数6】
により、そして最終的に係数σijを係数
【数7】
により置き換えることによって、ファイバタイプlのすでに計算された係数によって推論されることができる。
【0071】
ある実施形態では、各ファイバタイプについての分散増分ΔD(l)は、同じになるように規定され、ΔDと表される。したがって、異なるファイバタイプのセクションの長さは変わり、dz(l)と表される。
【0072】
説明した上記の方法のおかげで構成された共分散行列がエルミート対称性を有するので、M*(M+1)/2の項だけが計算されるはずである。これが方法のメモリ使用量を決定する。例えば、400セクションを考え、分散項および共分散項が倍フロート精度、すなわち8バイトで記憶されると仮定すると、メモリは、8*400*(400+1)/2=641.6キロバイトを要する。
【0073】
方法の複雑さは、N×(N+1)/2の加算によって上限を定められ、ここで、N×NはN<Mである関心のあるポイント−ツー−ポイント光リンクに対応する部分行列Dのサイズである。
【0074】
上に説明した方法は、同時にネットワーク内のすべてのリンクの伝送性能の高速な計算を可能にする。実際に、ステップ24で説明したように、シミュレーションの数は、ネットワーク内に現れるセクションSのファイバタイプFと累積分散Dとの別個の組の数に依存する。
【0075】
方法の利点は、任意の可能な光リンクの性能を計算するために使用されることができるファイバタイプのすべての可能な組合せにより生成される非線形雑音の分散および共分散を含むルックアップテーブルならびに所与の変調フォーマットのための入力累積分散を構成することが可能になることである。既存の方法と比較して全体の計算時間およびコストゲインが、ネットワーク内のセクションの全数をステップ24で得られた別個の組の数で割り算することにより得られることができる。
【0076】
ある実施形態では、方法のSSFMシミュレーションは、帯域幅の各光チャネルが占有されるという仮定でWDM光信号について実行される。この仮定は、伝送劣化を過大に推定することに導く。
【0077】
上に説明した方法は、数値的な方法である。しかしながら、上記の方法は、同じステップにしたがって実験に基づく方法としても実装されることがある。
【0078】
上記では、伝送品質の推定器を作り出すための方法を説明した。ここでは、伝送品質の推定器の開発が説明される。
【0079】
任意の光システム、例えば、図4の光システムの伝送品質を推定する伝送品質の推定器を開発するために、第1のステップが必要である。第1のステップは、推定しようとする光システムの適切なデスクリプションを与えることで構成される。
【0080】
光伝送システムデスクリプションを決定するための方法:
推定される光システムの適切なデスクリプションを与えることが、図11を参照して図説される下記の方法により実現される。光伝送システムは、光ネットワーク内のポイント−ツー−ポイント光伝送である。例えば、光伝送システムは、ネットワークの2つのノード間の接続として規定される。光ネットワークの任意のノード間の任意の可能な接続が、下記の方法のおかげで説明され得る。
【0081】
光伝送システムデスクリプションを決定するための方法はいくつかのステップを含む。
【0082】
第1のステップでは、方法は、光伝送システムの分散マップを決定するステップを実行する。分散マップは、光通信パスに沿った伝送距離に応じて累積分散をプロットする。もしあるならば、光ファイバの入力端および/または出力端のところの分散補償装置は、光伝送システムに沿った累積分散の急峻な変化を作り出すことができる。分散マップを構成するために、累積分散値Dが下記のように計算されることがある:D(z)=∫DF(z)dz、ここで、DFは局所分散値を表し、zは光信号が伝播した距離を表す。適切なコンピュータプログラムが、任意の光伝送システムの分散マップを確立するためにまたはこれらの値を少なくとも実質的に一致させるために利用されることがある。このステップは、局所分散がシステムのすべてのリンクにおいて知られていることを一般に仮定する。
【0083】
第2のステップでは、方法は、分散マップ上へと別個の累積分散のセットを置くステップを実行する。別個の累積分散のセットは、伝送品質の推定器を作り出すための方法で利用される累積分散値に含まれるはずである。好ましくは、セットの2つの連続する別個の累積分散が、伝送品質の推定器を作り出すための方法において各ファイバタイプについて規定した分散増分ΔD(l)のセットの最小の分散増分として規定される分散増分ΔDによってまたはその増分ΔDの整数倍によって区切られる。
【0084】
例示として、図4の光システムを参照して、累積分散値のセットは、D、D、D、D、DおよびDによって表される。
【0085】
第3のステップでは、方法は、光伝送システムの複数の連続的なシステムセグメントSを規定するステップを実行し、ここでは、各システムセグメントは、入力累積分散がセットの入力累積分散に一致する光伝送システムの点に対応する入力点を有する。
【0086】
第4のステップでは、方法は、各システムセグメントSについて、システムセグメントの入力パワーPを、そして必要な場合にはシステムセグメントの局所分散値を決定するステップを実行する。
【0087】
最後のステップでは、方法は、各システムセグメントSについて、システムセグメントSの入力累積分散と関係して決定した入力パワーおよび局所分散値をデータリポジトリに格納するステップを含む。
【0088】
システムセグメントSのシーケンス番号もやはり格納される。シーケンス番号は、ポイント−ツー−ポイント光システム内のシステムセグメントの順番を規定する。シーケンス番号は、整数により表されることがある。網目化したネットワークを説明するために、システムは、ポイント−ツー−ポイントリンクの組合せとして表されることがある。
【0089】
例示の目的で、単純化したネットワークが、図11を参照して説明される。図11は、AからDによって表された6個のノードを含む光ネットワーク100の模式図である。ノードAとB、BとE、BとD、DとF、AとC、CとEおよびEとFをリンクする光ファイバは、同じ局所分散値を有し、この局所分散値はノードEとDをリンクする光ファイバの局所分散値の半分に等しい。インライン分散補償は、ネットワーク100の光ファイバに沿っては実行されず、分散補償装置は光ノードには設けられていない。確立された光接続は透過的である。
【0090】
光伝送システムデスクリプションを決定するための方法は、このように光ネットワーク100の各リンクの全体に第3のステップを実行する。
【0091】
ネットワークの各光ファイバは、各システムセグメントSが別個の累積分散のセットの入力累積値を有するように、システムセグメントSへとセグメント化される。
【0092】
ノードEとDをリンクする光ファイバの局所分散値は、ネットワーク100の他の光ファイバの局所分散値の2倍である。結果として、ノードEとDとの間のシステムセグメントの基本長は、ネットワーク100の他の光ファイバのシステムセグメントの基本長の値Lの半分である値L/2に等しい。言い換えると、この特定の例では、光システムの離散化は、累積された分散に関して一様な網目サイズを利用し、結果として距離に関して一様でない網目サイズになる。
【0093】
ノードAとDとの間の光接続は、増分ΔDの10倍の全長を有する最短のパスA−B−Dにしたがうであろう。ノードCとFとの間の光接続は、長さLの6倍の全長を有する最短のパスC−E−Fにしたがうであろう。
【0094】
例えば、光路A−B−DおよびC−E−Fは、分散管理がなく、1つのシングルファイバタイプ、すなわち、1つの局所分散値のものである。したがって、光路A−B−DおよびC−E−Fのセクション化は、同じ局所分散および累積された分散の類似のシステムセグメントSからSという結果になる。したがって、システムセグメントの累積分散値および局所分散値に対応する行列に格納された係数は、システムセグメントSからSに沿った伝送品質の推定のために2回使用可能である。
【0095】
図12を参照して、光路A−B−DおよびE−Dの分散マップが示されている。分散マップ上へと置かれた別個の累積分散のセットが、縦軸上に示されており、D、D、D、D、D、D、D、D、DおよびD10により表されている。距離は、横軸上に表されている。
【0096】
四角形は、光路E−Dについてのシステムセグメントの入力を表す。ドットは、光路A−B−DについてのシステムセグメントSからS10の入力を表す。光路A−B−Dの最後のシステムセグメントの入力部のところの入力累積分散は、値D10を有する。光路A−Dの局所分散値は光路A−B−Dの局所分散値の2倍であり、線101の勾配は、線102の勾配の2倍である。
【0097】
したがって、光路E−Dについてシステムセグメントの累積分散値および局所分散値に対応する行列に格納された係数は、光路A−B−Dについての係数とは同じではない。
【0098】
現実的で均質なネットワークに関して、各ファイバの長さは、必ずしも分散増分の倍数ではない。したがって、現実的なネットワークに関して、各光ファイバの長さは、分散増分ΔDの最も近い倍数に近似される。このファイバ長近似に起因する方法の不正確さは、特に分散増分の小さな値に対しては無視できる。
【0099】
伝送品質の推定器の開発:
上に説明した光伝送システムデスクリプションを決定するための方法のおかげで、任意の光伝送が、伝送品質の推定器を作り出すための方法のおかげで得られた伝送品質の推定器の開発のための従来型のフォーマットに記述されることがある。
【0100】
図8を参照して、光伝送のためのこのような伝送品質の推定装置が、ここで説明される。装置は、データリポジトリ113および線116によって示されたようにデータリポジトリ113にリンクされている計算ユニット114を備える。装置は、矢印117によって示されたように計算ユニット114にリンクされている出力インターフェース115をさらに含む。実施形態では、出力インターフェースが、データリポジトリ、ネットワークインターフェース、プリンタ、等に接続されてもよい。上に説明した方法のおかげで構成されたルックアップテーブルΣは、データリポジトリ113に格納される。装置は、光伝送システムデスクリプションを受信することができ、矢印119によって示されたように計算ユニット114へ光伝送システムデスクリプションを送信することができる入力インターフェース118も備える。
【0101】
光伝送システムデスクリプションは、下記のように光伝送デスクリプションを決定するための上に説明した方法のおかげで構成される:
システムデスクリプションは、光伝送システムの複数のセクションSを規定し、そして各セクションSについて、システムセグメントの入力パワーP、システムセグメントFの局所分散値、およびシステムセクションSの入力累積分散Dを規定する。
【0102】
計算ユニット114は、入力インターフェース118から受信したシステムデスクリプションの各システムセグメントSについて、システムセグメントkの局所分散値DFおよび入力累積分散値Dが分散エントリσmatch(k)match(k)に関係する局所分散値DFmatch(k)および入力累積分散値Dmatch(k)に実質的に一致するように、データリポジトリ113に格納されたルックアップテーブル内の分散エントリσmatch(k)match(k)の選択を実行するように構成される。
【0103】
例えば、入力累積値Dは、
【数8】
である場合には、Dmatch(k)に実質的に一致し、ここでは、ε=5%である。
【0104】
計算ユニット114は、このシステムセグメントSおよびSk’の各組について、システムセグメントSk’の局所分散値DFおよび入力累積分散値Dがルックアップテーブルの共分散エントリσmatch(k)match(k’)に関係する第1の組SおよびSk’に実質的に一致するように、そしてシステムセグメントSk’の局所分散および入力累積分散が共分散エントリに関係する第2の組に実質的に一致するように、ルックアップテーブル内の共分散エントリσmatch(k)match(k’)の選択を実行するようにやはり構成される。
【0105】
計算ユニット114は、伝送品質の推定値である
【数9】
の計算を実行するようにも構成され、下記の通りである:
【数10】
装置は、出力インターフェース115を介して計算した伝送品質の推定値SNR−1NLを送信するためにさらに構成される。
【0106】
ルックアップテーブルΣ図2に表示されている光リンクabの例に戻ると、計算ユニット114により実行されるマッチングは、2つのスパン123および456を含む光リンクのセクションSの特徴付ける組FおよびDに対応するすべての選択された分散および共分散を含む図3に表された共分散行列Σを導く。
【0107】
が2つのスパン123および456に対して同じであり、インライン分散が光リンクab上に含まれないので、図3に表示された共分散行列Σは、第1のスパン123の分散を含む太線枠内に表示された左上の3×3部分行列σ123、第2のスパン456の分散を含む破線枠内に表示された右下の3×3部分行列σ456、ならびにスパン123とスパン456との間の共分散項を含む点線枠内および一点鎖線枠内にそれぞれ表示された他の2つの3×3部分行列σおよびσc’を選択することによって図2に表示されたルックアップテーブルΣのおかげで構成される。この特定のケースでは、Σの使用した部分行列の間に重なりがなく、一方で、すべてのΣの要素が使用される。実際に、この特定の例では、1から6までの各kについてmatch(k)=kである。
【0108】
ある実施形態では、ルックアップテーブルは、ブロックにより構成されてきている共分散行列である。実際に、2つの共分散行列XおよびYについて、XおよびYのジョイント(joint)共分散行列ΣX,Yは、下記のブロック形式で書かれることがある:
【数11】
ここで、ΣXX=var(X)、ΣYY=var(Y)およびΣXY=ΣYX=cov(X,Y)である。
【0109】
例えば、上に説明した方法を使用することによって、第1の共分散行列が、第1のファイバスパン123に対して構成されており、第2の共分散行列が第2のファイバスパン456に対して構成されている。ルックアップテーブルは、第1の共分散行列σ123および第2の共分散行列σ456から計算される共分散行列Σを含む。
【0110】
同様に、例えば、上に説明した方法を使用することによって、第1の共分散行列が第1の局所分散値に対して構成されてもよく、第2の共分散行列が第2の分散値に対して構成されてもよい。そのケースでは、ルックアップテーブルは、第1および第2の共分散行列から計算される共分散行列を含む。したがって、2つのタイプのファイバを用いると、ルックアップテーブルは、より多くの行および列を有する拡張した行列を含む。
【0111】
図4から図6に表示された第2の例示的な例では、同じ共分散行列構成が、光リンクabとは異なる光リンクcdについて事前に計算したルックアップテーブルΣから実行される。図1から図3のものと類似する要素が、同じ番号によって表示される。光リンクcdは、位置13上に表示されたように、第1のスパン123の終わりのところに部分分散補償を有する。この例では、マッチングが、上の表によって示されたように、図8に表示された装置によって実行される。
【表1】
【0112】
したがって、行列Σの小部分が、図6に表示された行列Σを構成するために使用される。図5に示したように、分散マッチング項および共分散マッチング項に対応する部分行列は、重なる。
【0113】
SNR−1NLが、次いで、下記のように計算される:
【数12】
ここでは、PはセクションSの入力パワーを表す。
【0114】
ある実施形態では、パワーPが、下記のように計算される:
【数13】
ここでは、Pは光リンクABの入力パワーを表し、αは吸収を表し、そしてzはセクションSの入力の横座標である。
【0115】
装置は、したがって、光リンクabに対して上に説明したように構成されたルックアップテーブルのおかげで未だ推定されていない光システムに対して、例えば、cdに対して伝送品質の推定値SNRNL−1を与えることができる。
【0116】
比較の目的で、100kmにわたる9チャネル偏波分割多重四相位相変調キーイングPDM−QPSK信号のSSFMによる数値シミュレーションは、2.67GHzのCPUおよび16Gbのメモリを有するサーバ上でランさせると約15分を必要とする。このシミュレーション期間は、SSFMシミュレーションをリアルタイム用途にとって不適切にさせる。対照的に、上に説明した装置は、同じ計算をはるかに短い時間、例えば数秒未満で実行することを可能にする。
【0117】
上記の装置は、光ネットワーク内の光リンクの伝送の性能を推定するために高速かつ正確である。好ましい実施形態では、セクション長は、100mと20kmとの間に含まれる。
【0118】
したがって、上記の装置は、セクション長に等しい、すなわち100mと20kmとの間の最小長Lを有する光リンクの性能を推定することができる。図10は、SSFMシミュレーションを用いて計算した分散と比較して、図7の方法のおかげで計算したセクション長全体にわたる分散の数値シミュレーション結果を示すグラフである。縦軸129は、−50から−35dBまでの範囲についてdBでの分散を表し、横軸128は、0から20kmまでの範囲についてkmでのセクション長を表す。丸いマーカ131は、20kmの最大長のシングルモードファイバSMFスパンについての非線形ひずみ分散発展の例を表し、三角形のマーカ130は、上に説明した方法のおかげで構成された共分散行列を考慮した非線形分散推定値の発展を表す。スパンの累積した分散は、30000ps/nmに固定され、入力パワーは、Pin=0dBmである。三角形マーカが丸いマーカに一致するので、優れた精度が観察される。
【0119】
上記の実施形態では、単純化の目的で光信号の非線形障害の主な源として、カー効果が提示されている。光カー効果は、下記に列挙する多くの理由:光双安定性、自己集束効果、自己位相変調、ソリトン形成、等のために光信号に結果として障害をもたらすことがある。
【0120】
下記の列挙からの多くの他の可能性のある非線形効果:二次非線形性、二次高調波発生、周波数混合、光パラメトリック増幅および発振、自発的パラメトリックダウンコンバージョン、SPDCに基づくもつれ光子のソース、四波混合のような三次非線形効果、ラマン散乱、自発的誘導ラマン散乱、ラマン増幅、ブリルアン散乱、2光子吸収、等が考慮されることがある。
【0121】
本明細書において上に説明した計算装置は、専用ハードウェアならびに適切なソフトウェアに関連するソフトウェアを実行することができるハードウェアの使用を介して実装されることがある。プロセッサにより実現されるときには、対応する機能は、単一の専用プロセッサにより、単一の共有プロセッサにより、またはいくつかが共有されることがある複数の個別のプロセッサにより実現されてもよい。その上、「プロセッサ」または「コントローラ」という用語の明示的な使用は、ソフトウェアを実行することができるハードウェアのみを呼ぶように解釈されるべきではなく、限定ではなく、中央処理装置(CPU)、ディジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ソフトウェアを記憶するための読出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および不揮発性記憶装置を非明示的に含むことができる。従来型および/またはカスタムの他のハードウェアが、やはり含まれてもよい。
【0122】
上に説明した計算装置は、一体的な方式でまたは分散型の方式で実装されてもよい。
【0123】
本発明は、説明した実施形態に限定されない。別記の特許請求の範囲は、当業者なら思い付くことができ、記述され、ここでの基本的な教示内にかなりの程度ではいるすべての修正構成および代替構成を具体化するように解釈されるべきである。
【0124】
「備える(to comprise)」または「含む(to include)」という動詞およびその活用形の使用は、請求項に述べたもの以外の要素またはステップの存在を排除しない。さらにその上、要素またはステップに先行する「1つ(a)」または「1つ(an)」という冠詞の使用は、複数のこのような要素またはステップの存在を排除しない。
【0125】
特許請求の範囲では、かっこの間に置かれた任意の参照符号は、特許請求の範囲の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
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