【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製し、上記濃縮水
を用いて、水が循環利用される工業水系で生じる障害を評価することを特徴とする障害の評価方法である。
上記濃縮水は、工業水系に供給される供給水と同じ水源から取水される原料水から作製されることが好ましい。
また、本発明は、上記濃縮水に、水処理薬品を添加する工程を含むことが好ましい。
また、上記障害が、スケール、スライム、ファウリング及び腐食からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
また、本発明は、上記濃縮水に、工業水系で循環利用される水と接液する材質からなる試験材を接触させる工程を含むことが好ましい。
また、上記試験材は、濃縮水と接触する面の少なくとも一部が伝熱面であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製する工程を有する。
逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製することで、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができる。ここで、上記濃縮水は、工業水系に供給される供給水と同じ水源から取水された原料水を逆浸透膜装置に通水して作製されることが好ましい。
なお、上記「原料水」には、工業水系で利用されている水も含まれる。
また、本発明において「水源」とは、地表水(河川、ダム、湖水、湖沼水等)、伏流水及び地下水等をいうが、用水や水道水として利用される水の供給源となる各地域における浄水場等もこれに含まれる。
上記逆浸透膜装置は、通水された原料水を、原料水中の含有成分濃度が高められた濃縮水と、原料水中の含有成分が除去された水とに分離するものであり、濃縮工程において、原料水中の含有成分が熱により減少及び/又は形態変化を起こすことがない。また得られる濃縮水の各水質項目(電気伝導率、全硬度、イオン状シリカ濃度、硫酸イオン濃度及び塩化物イオン濃度)の濃縮倍率は、原料水を逆浸透膜装置に通水させ、得られた濃縮水を連続して逆浸透膜装置に通水させること等により適宜調整することができる。原料水を逆浸透膜装置に通水することにより得られた第一濃縮水は、所望の水質項目が所望の濃縮倍率となるまで連続して逆浸透膜装置に通水されるが、逆浸透膜装置の膜負荷を軽減させたり、濃度調整等の目的により、得られた濃縮水に、原料水及び/又は逆浸透膜装置から得られる原料水中の含有成分が除去された分離水の一部を添加し、再び逆浸透膜装置に通水することとしてもよい。なお、水質項目については、上記水質項目の他に、所望の濃縮水を得るのに適した水質項目を選択することができる。
このように、逆浸透膜装置を用いて原料水を濃縮することにより、従来法の試薬添加法により得られた濃縮水には含有されていなかった原料水中の極微量成分が含まれた濃縮水を作製できる。すなわち、従来法では得られなかった工業水系で循環利用されている水と同一成分を含有する濃縮水を作製することができる。
さらに、連続して複数回逆浸透膜に通水させることで、従来法では困難であった高濃度の濃縮水を作製することができる。
なお、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製する工程において、一般的に逆浸透膜の保護を目的として逆浸透膜の前段に設置されている活性炭フィルタを用いることもできるが、用いないことが好ましい。
【0013】
本発明の障害の評価方法によれば、工業水系で循環利用される水の電気伝導率を測定し、逆浸透膜装置を用いて作製された濃縮水の電気伝導率が、上記工業水系で循環利用される水の電気伝導率の測定値に対し、所望の濃縮倍率となるように、上記原料水を濃縮することができる。例えば、工業水系で循環利用される水を更に高濃度で循環利用できないか検討する目的で障害の評価を行う場合は、作製された濃縮水の電気伝導率が、上記工業水系で循環利用される水の電気伝導率よりも高くなるように、上記濃縮倍率を設定することができる。
一例として、上記濃縮水の電気伝導率を1000μs/cmとしたい場合は、900〜1200μs/cmの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
【0014】
また、本発明の障害の評価方法では、工業水系で循環利用される水が懸濁物質や析出物等により白濁しておらず、透明である場合は、逆浸透膜装置を用いた濃縮水の作製工程において、濃縮水の白濁の有無を確認し、白濁が生じないように濃縮水の濃縮倍率を適宜調整することが好ましい。上記濃縮水に溶解されない成分が析出し白濁することや、懸濁物質の増加により濃縮水が白濁することは、現実の工業水系で生じ得ない障害を引き起こす原因となりうるためである。なお、濃縮倍率は、逆浸透膜装置から得られる濃縮水を繰り返し逆浸透膜装置に通水することにより、倍率を上げることができ、原料水や、逆浸透膜装置から得られる分離水を添加すること等により倍率を下げることができる。
なお、試薬添加法で作製された濃縮水には、工業水系で循環利用される水に含まれる懸濁物質は含まれないが、本発明で用いられる濃縮水は、原料水を逆浸透膜装置に通水して作製されているため、懸濁物質を含む濃縮水が得られる。この懸濁物質は、工業水系で発生するスケールや腐食等の障害の要因となるため、懸濁物質を含む濃縮水が作製されることで、現実の工業水系で循環利用される水と同一成分を有する濃縮水を用いて障害の評価を行うことができるため、工業水系において生じ得る障害を再現し、正確に障害の評価を行うことができる。
【0015】
ここで、電気伝導率は、水中にイオンとして乖離している無機塩類濃度の概要や濃縮の指標であり、濃縮とほぼ比例関係にある。そのため、電気伝導率を測定することにより濃縮水における濃縮の程度を確認することができる。ただし、濃縮がある程度高くなると電気伝導率の測定値が比例曲線から乖離してくる。これは、イオンの中で比較的スケールしやすいカルシウムイオン等の一部が析出するためである。
本発明の障害の評価方法においては、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、濁度を測定し、測定値に基づき原料水の濃縮倍率を設定することとしてもよい。
【0016】
また、本発明の障害の評価方法によれば、工業水系で循環利用される水の全硬度を測定し、濃縮水の全硬度が、上記工業水系で循環利用される水の全硬度の測定値に対し所望の濃縮倍率となるように上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水の全硬度を200mg/Lとしたい場合は、180〜240mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
なお、本明細書において「全硬度」は、カルシウム硬度、マグネシウム硬度の総和をいう。炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムはスケール因子となるため、工業水系における障害がスケールである場合は、濃縮の程度の指標の一つに全硬度を加えることが好ましい。
【0017】
また、本発明の障害の評価方法によれば、さらに、工業水系で循環利用される水のイオン状シリカ濃度を測定し、濃縮水のイオン状シリカ濃度が、上記工業水系で循環利用される水のイオン状シリカ濃度の測定値に対し、所望の濃縮倍率となるように上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水のイオン状シリカ濃度を100mg/Lにしたい場合には、90〜120mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
ここで、イオン状シリカは、シリカスケールの原因となる物質であるが、シリカスケールが系内に付着すると除去が大変であるため、工業水系においてはシリカスケールを付着させないよう管理することが重要となる。そのため、工業水系における障害にシリカスケールが含まれている場合は、濃縮の程度の指標の一つにイオン状シリカ濃度を加えることが好ましい。
【0018】
また、本発明の障害の評価方法によれば、さらに、工業水系で循環利用される水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を測定し、濃縮水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度が、上記工業水系で循環利用される水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度の測定値に対し所望の濃縮倍率となるように、上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を80mg/Lとしたい場合は、72〜96mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
ここで、硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度は、腐食の原因となる物質であるため、工業水系における障害に腐食が含まれている場合は、濃縮の程度の指標の一つに硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を加えることが好ましい。
【0019】
工業水系を循環する水に含まれるような微生物は、試薬添加法で作製された濃縮水には存在していないため菌数をカウントすることはできないが、本発明の障害の評価方法においては、原料水を逆浸透膜装置に通水することで濃縮水を得るため、微生物を含む濃縮水が得られる。この微生物は、工業水系で発生するスライムやファウリング等の障害の要因となる。よって、微生物を含む濃縮水が得られることで、現実の工業水系で循環利用される水と同一成分を有する濃縮水を用いて障害の評価を行うことができるため、工業水系において生じ得る障害を再現し、正確に障害の評価を行うことができる。
【0020】
なお、本発明の障害の評価方法では、上述の通り、工業水系で循環利用される水の電気伝導率、全硬度、イオン状シリカ濃度、硫酸イオン濃度及び塩化物イオン濃度からなる群から選択される少なくとも一つの指標を測定し、濃縮水が、上記指標の測定から得られた測定値に対して所望の倍率となるように原料水を濃縮することができる。上述の指標の選択においては、評価対象とする障害に応じて、上記指標を選択することが好ましい。なお、本発明の障害の評価方法では、上記指標以外の指標を用いて原料水を濃縮することもできる。
例えば、評価対象とする障害がスケールである場合は、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、全硬度及び/又はイオン状シリカ濃度を測定し、濃縮水における電気伝導率と全硬度及び/又はイオン状シリカ濃度とが、上記測定により得られた測定値の0.8〜1.4倍となるように原料水を濃縮することが好ましく、0.9〜1.2倍となるように原料水を濃縮することが更に好ましい。
また、評価対象とする障害が腐食である場合は、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を測定し、濃縮水における電気伝導率と硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度とが、上記測定により得られた測定値の0.9〜1.2倍となるように原料水を濃縮することが好ましい。
逆浸透膜装置から得られる濃縮水の水質の指標(水質項目ともいう)が、上述の数値範囲となるように原料水を濃縮することで、工業水系で循環利用される水の水質と同様の水質の濃縮水が得られるため、工業水系で生じる障害を再現し評価できるためである。
なお、以下、本願明細書において、濃縮水が工業水系で循環利用される水と「同程度の濃度」であると表現を用いるが、同程度の濃度とは、濃縮水の電気伝導率が、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に対し、0.9〜1.2倍であることをいう。
【0021】
また、本発明の障害の評価方法で用いられる濃縮水は、任意の温度とすることができるが、工業水系で障害が発生しやすい箇所の水の温度を測定し、濃縮水の温度が、上記工業水系で障害が発生しやすい箇所における水の測定温度と同程度となるようにすることが好ましい。ここで、同程度とは、工業水系で循環利用される水の温度と、試験水の温度との差が10℃以下であることを意味するものとする。物質の水に対する溶解量は、温度に依存するため、工業水系で循環利用される水の水質を再現できるためである。
【0022】
また、本発明の障害の評価方法では、濃縮水に、水処理薬品を添加する工程を含むことが好ましい。本願明細書において、上記水処理薬品は、工業水系で生じる障害を改善する目的で用いられる薬品である。本発明の障害の評価方法によれば、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製することで、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができ、これに水処理薬品を添加し障害を評価することで、工業水系に適した水処理薬品を選定することができるためである。
ここで、上記水処理薬品を濃縮水に添加する方法は特に限定されず、例えば、濃縮水の入っている容器に水処理薬品を添加するバッチ方式であってもよく、評価に用いられる機器内を循環している濃縮水に連続的に添加する方法であってもよい。
なお、本発明によれば、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができるため、複数の水処理薬品を用いて同一条件及び/又は同一時期において工業水系で生じる障害の評価を行うことができるため、条件及び/又は時期の影響を受けることなく、正確に障害の評価を行うことができ、適切な水処理薬品を選定することができる。なお、時期の影響とは、気温及び湿度等の気候による影響も含まれる。
また、本発明によれば、複数条件における障害の評価を同時に実施できるため、効率よく障害の評価を行うことができる。
【0023】
本発明の障害の評価方法においては、例えば、「水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法(JIS G 0593)」、「工業用水腐食性試験方法(JIS K 0100)」及び「金属材料の高温腐食試験方法通則(JIS Z 2290)」等、既に知られている水処理評価試験を用いて、障害の発生の有無を評価することができる。
また、本発明の障害の評価方法では、スケール、スライム、ファウリング及び腐食からなる群から選択される少なくとも一つの障害を評価することが好ましい。
【0024】
本発明の障害の評価方法では、逆浸透膜装置から得られた濃縮水を、評価に用いられる機器内で循環、又は、ビーカー等の容器内でスターラーを用いて攪拌させることにより、濃縮水の状態変化を経時的に観察し、障害の発生の有無を評価することができる。例えば、濃縮水を60℃にて2〜24時間、ビーカー等の容器内でスターラーを用いて攪拌させた後に、濃縮水中の含有物の析出の有無を確認することにより、障害の発生の有無を評価することができる。
また、本発明の障害の評価方法では、濃縮水に、工業水系で循環利用される水と接液する材質からなる試験材を接触させる工程を含むことが好ましい。水が循環利用される工業水系で生じる障害は、循環利用される水とこれに接液する機械材及び充填材等の材質との関係により、障害の発生に至るまでの期間や、障害の度合いが異なり、また、発生する障害自体も異なる場合があるためである。例えば、上記試験材からなる試験片が上記濃縮水と接液するように、評価に用いられる機器の配管内又は機器類中に固定し、一定の試験期間後に上記試験片における障害発生状態、及び/又は、濃縮水の状態変化を確認することにより障害を評価することができる。ただし、障害の評価方法はこれに限定されるものではない。
上記試験材としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン等の純金属、これらの合金等の無機材質、及び、PVC並びにポリエチレン等の有機材質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の障害の評価方法において用いられる上記試験材は、濃縮水と接触する面の少なくとも一部を伝熱面とすることができる。現実の工業水系においても、伝熱面と伝熱面ではない箇所とを比較すると、生じる障害や、障害発生の度合いが異なるため、上述のように伝熱面を設けることにより、より正確に工業水系における障害を評価することができる。
例えば、
図1のように、上記試験材からなるテストチューブ5を有する二重管テストカラム4を用いて、伝熱面を模した二重管評価試験を行い、障害を評価することができる。熱交換器等の伝熱面を模した試験方法としては、上記二重管評価試験の他に、試験材からなる試験片を評価に用いられる機器の配管内又は機器類中に固定し、試験片における濃縮水と接液する面と反対側の面からヒーター等を用いて試験片を加温する方法も使用できる。なお、伝熱面を模した試験方法はこれらに限定されるものではない。