特許第6387502号(P6387502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6387502
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】工業水系で生じる障害の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20180903BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20180903BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20180903BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20180903BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   G01N33/18 106Z
   B01D61/02
   C02F1/44 D
   C02F5/00 620A
   C02F5/00 620C
   C02F5/00 620Z
   G01N1/10 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-253681(P2017-253681)
(22)【出願日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年1月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】守殿 敏行
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−077299(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0110924(US,A1)
【文献】 特許第4666600(JP,B2)
【文献】 特許第3192691(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
B01D 61/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製し、前記濃縮水を用いて、水が循環利用される工業水系で生じる障害を評価することを特徴とする障害の評価方法。
【請求項2】
濃縮水は、工業水系に供給される供給水と同じ水源から取水される原料水から作製される請求項1に記載の障害の評価方法。
【請求項3】
濃縮水に、水処理薬品を添加する工程を含む請求項1又は2に記載の障害の評価方法。
【請求項4】
障害が、スケール、スライム、ファウリング及び腐食からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1、2又は3に記載の障害の評価方法。
【請求項5】
濃縮水に、工業水系で循環利用される水と接液する材質からなる試験材を接触させる工程を含む請求項1、2、3又は4に記載の障害の評価方法。
【請求項6】
試験材は、濃縮水と接触する面の少なくとも一部が伝熱面である請求項5に記載の障害の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業水系で生じる障害の評価方法に関し、具体的に、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製し、上記濃縮水から生じる障害を評価することにより、工業水系で生じる障害を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系等の工業水系の経路には、スケールと呼ばれる水中に含まれるカルシウムやシリカ等の無機物が固体化したものや、スライムと呼ばれる水中に含まれる細菌や藻類等の微生物群の有機物等が付着する。また、装置の壁面や伝熱面には、固体の付着物(ファウリング)が生成することもある。上記工業水系における伝熱面に沈積してその伝熱効率の低下や、消費電力の増加等の障害を招くことがある。
上記工業水系においては、熱交換器や配管等に、炭素鋼、銅及びステンレス等の金属材料が用いられており、腐食による障害が発生する。この腐食が生じると、腐食生成物による伝熱効率の低下、流路阻害、チューブ閉塞等の障害が生じ、機器の寿命が短くなり、さらに腐食により穴が開くと、製品の漏洩や水系による製品の汚染が起こる。
また、ファウリングが生じることで、1)熱交換器及び配管等における差圧の上昇による運転障害、2)熱交換器における熱効率の低下によるエネルギーロスや熱回収不良のようなファウリング障害を招く。
【0003】
かかる観点から、従来、上記各種工業水系に添加され、水中のスケール成分、スライム成分、ファウリング成分及び腐食成分をコントロールし、上記障害の発生を防止又は抑制するための水処理薬品が用いられている。
ここで、上記工業水系に用いられる水は、一般に水道水や河川水であり、これらの水質は地域によって無機物、有機物及び懸濁物質等の含有量が大きく異なる。このため、上記工業水系で発生する障害は、用いる水に特有なものであり、各工業水系において生じる障害に適した水処理薬品を用いる必要がある。従って、各工業水系で用いられる水を取水又は再現することで得られた試験水を用いて、水処理薬品を選定するために、試験水から生じる障害の評価が実施されている。
【0004】
上記各種工業用水系においては、水の有効利用の観点から、近年、水が循環再利用される頻度が上昇し、より高濃縮水を利用する傾向にある。そして、このような高濃縮水においては、スケール成分であるカルシウム硬度やシリカ硬度が極めて高くなり、水中の全硬度が300ppmを超える場合もしばしば生じている。
このような高濃縮水に用いられる水処理薬品を選定するための障害の評価を行うに当たり、現実の工業水系における高濃縮水を、評価試験に必要な量取水することは困難である。そのため、従来は、水道水又は河川水に対し試薬を添加することや、水道水又は河川水を蒸発濃縮することにより、現実の工業水系における高濃縮水に近い試験水を作製し、水処理薬品選定のための障害の評価に用いていた。
【0005】
しかしながら、現実の工業水系における高濃縮水には、スケール成分、スライム成分、ファウリング成分及び腐食成分等の無機物や有機物等が高濃度(例えば、スケール成分であれば、水中の全硬度が300ppm以上等)で含まれており、試薬の添加や蒸発濃縮等の従来方法においてこのような高濃縮水を作製しようとすると、不溶化成分が発生する等して、高濃縮水と同程度の高濃度の無機物や有機物等が含まれた試験水を作製することは極めて困難であった。
【0006】
また、試薬の添加による試験水の作製において、検査対象成分が複数ある場合、検査対象となる全ての溶質成分を、満遍なく目的濃度まで添加することは困難であり、検査対象成分の何れかの濃度が高くなる等の偏りが生じ、目的とする水質の試験水を得ることができなかった。
さらに、現実の工業水系における濃縮水には、工業水系で発生する障害の原因となる無機物や有機物等の他にも、様々な成分が含まれている。このような現実の工業水系における濃縮水と同一成分を有する試験水を作製することは困難であった。なぜなら、薬品添加による試験水の作製は、目的とする水を分析し判明している成分を添加することにより行うが、濃縮水中の全ての含有成分を分析することは不可能であり、薬品添加法による試験水の作製により、現実の工業水系における濃縮水と同様の成分及び濃度を有する試験水を得るには限界があるためである。
【0007】
また、上記問題を解決するために用いられている蒸発濃縮法による試験水の作製は、時間がかかり、また、加熱による溶質成分の蒸発及び/又は形態変化等があり、現実の工業水系における濃縮水と同様の成分及び濃度を有する試験水を作製することは困難であった。
さらに、蒸発濃縮法による試験水の作製においては、水処理薬品の添加が必要となる場合があるため、得られる試験水を用いて評価される障害が一項目に限定され、大変効率が悪かった。
【0008】
そのため、従来方法においては、現実の工業水系における濃縮水と同一成分が同程度の濃度含まれた試験水は作製されておらず、水処理薬品の選定のための障害の評価を行うにあたり、現実の工業水系(以下において単に「工業水系」とも記載する)で発生する障害(腐食、スケール、スライム及びファウリング等)を再現し、水処理薬品の効果を障害の評価を行うことで確認するには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4666600号公報
【特許文献2】特開2004−077299号公報
【特許文献3】特許第3192691号公報
【特許文献4】特許第5842293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製し、上記濃縮水を用いて、水が循環利用される工業水系で生じる障害を評価することを特徴とする障害の評価方法である。
上記濃縮水は、工業水系に供給される供給水と同じ水源から取水される原料水から作製されることが好ましい。
また、本発明は、上記濃縮水に、水処理薬品を添加する工程を含むことが好ましい。
また、上記障害が、スケール、スライム、ファウリング及び腐食からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
また、本発明は、上記濃縮水に、工業水系で循環利用される水と接液する材質からなる試験材を接触させる工程を含むことが好ましい。
また、上記試験材は、濃縮水と接触する面の少なくとも一部が伝熱面であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製する工程を有する。
逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製することで、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができる。ここで、上記濃縮水は、工業水系に供給される供給水と同じ水源から取水された原料水を逆浸透膜装置に通水して作製されることが好ましい。
なお、上記「原料水」には、工業水系で利用されている水も含まれる。
また、本発明において「水源」とは、地表水(河川、ダム、湖水、湖沼水等)、伏流水及び地下水等をいうが、用水や水道水として利用される水の供給源となる各地域における浄水場等もこれに含まれる。
上記逆浸透膜装置は、通水された原料水を、原料水中の含有成分濃度が高められた濃縮水と、原料水中の含有成分が除去された水とに分離するものであり、濃縮工程において、原料水中の含有成分が熱により減少及び/又は形態変化を起こすことがない。また得られる濃縮水の各水質項目(電気伝導率、全硬度、イオン状シリカ濃度、硫酸イオン濃度及び塩化物イオン濃度)の濃縮倍率は、原料水を逆浸透膜装置に通水させ、得られた濃縮水を連続して逆浸透膜装置に通水させること等により適宜調整することができる。原料水を逆浸透膜装置に通水することにより得られた第一濃縮水は、所望の水質項目が所望の濃縮倍率となるまで連続して逆浸透膜装置に通水されるが、逆浸透膜装置の膜負荷を軽減させたり、濃度調整等の目的により、得られた濃縮水に、原料水及び/又は逆浸透膜装置から得られる原料水中の含有成分が除去された分離水の一部を添加し、再び逆浸透膜装置に通水することとしてもよい。なお、水質項目については、上記水質項目の他に、所望の濃縮水を得るのに適した水質項目を選択することができる。
このように、逆浸透膜装置を用いて原料水を濃縮することにより、従来法の試薬添加法により得られた濃縮水には含有されていなかった原料水中の極微量成分が含まれた濃縮水を作製できる。すなわち、従来法では得られなかった工業水系で循環利用されている水と同一成分を含有する濃縮水を作製することができる。
さらに、連続して複数回逆浸透膜に通水させることで、従来法では困難であった高濃度の濃縮水を作製することができる。
なお、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製する工程において、一般的に逆浸透膜の保護を目的として逆浸透膜の前段に設置されている活性炭フィルタを用いることもできるが、用いないことが好ましい。
【0013】
本発明の障害の評価方法によれば、工業水系で循環利用される水の電気伝導率を測定し、逆浸透膜装置を用いて作製された濃縮水の電気伝導率が、上記工業水系で循環利用される水の電気伝導率の測定値に対し、所望の濃縮倍率となるように、上記原料水を濃縮することができる。例えば、工業水系で循環利用される水を更に高濃度で循環利用できないか検討する目的で障害の評価を行う場合は、作製された濃縮水の電気伝導率が、上記工業水系で循環利用される水の電気伝導率よりも高くなるように、上記濃縮倍率を設定することができる。
一例として、上記濃縮水の電気伝導率を1000μs/cmとしたい場合は、900〜1200μs/cmの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
【0014】
また、本発明の障害の評価方法では、工業水系で循環利用される水が懸濁物質や析出物等により白濁しておらず、透明である場合は、逆浸透膜装置を用いた濃縮水の作製工程において、濃縮水の白濁の有無を確認し、白濁が生じないように濃縮水の濃縮倍率を適宜調整することが好ましい。上記濃縮水に溶解されない成分が析出し白濁することや、懸濁物質の増加により濃縮水が白濁することは、現実の工業水系で生じ得ない障害を引き起こす原因となりうるためである。なお、濃縮倍率は、逆浸透膜装置から得られる濃縮水を繰り返し逆浸透膜装置に通水することにより、倍率を上げることができ、原料水や、逆浸透膜装置から得られる分離水を添加すること等により倍率を下げることができる。
なお、試薬添加法で作製された濃縮水には、工業水系で循環利用される水に含まれる懸濁物質は含まれないが、本発明で用いられる濃縮水は、原料水を逆浸透膜装置に通水して作製されているため、懸濁物質を含む濃縮水が得られる。この懸濁物質は、工業水系で発生するスケールや腐食等の障害の要因となるため、懸濁物質を含む濃縮水が作製されることで、現実の工業水系で循環利用される水と同一成分を有する濃縮水を用いて障害の評価を行うことができるため、工業水系において生じ得る障害を再現し、正確に障害の評価を行うことができる。
【0015】
ここで、電気伝導率は、水中にイオンとして乖離している無機塩類濃度の概要や濃縮の指標であり、濃縮とほぼ比例関係にある。そのため、電気伝導率を測定することにより濃縮水における濃縮の程度を確認することができる。ただし、濃縮がある程度高くなると電気伝導率の測定値が比例曲線から乖離してくる。これは、イオンの中で比較的スケールしやすいカルシウムイオン等の一部が析出するためである。
本発明の障害の評価方法においては、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、濁度を測定し、測定値に基づき原料水の濃縮倍率を設定することとしてもよい。
【0016】
また、本発明の障害の評価方法によれば、工業水系で循環利用される水の全硬度を測定し、濃縮水の全硬度が、上記工業水系で循環利用される水の全硬度の測定値に対し所望の濃縮倍率となるように上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水の全硬度を200mg/Lとしたい場合は、180〜240mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
なお、本明細書において「全硬度」は、カルシウム硬度、マグネシウム硬度の総和をいう。炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムはスケール因子となるため、工業水系における障害がスケールである場合は、濃縮の程度の指標の一つに全硬度を加えることが好ましい。
【0017】
また、本発明の障害の評価方法によれば、さらに、工業水系で循環利用される水のイオン状シリカ濃度を測定し、濃縮水のイオン状シリカ濃度が、上記工業水系で循環利用される水のイオン状シリカ濃度の測定値に対し、所望の濃縮倍率となるように上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水のイオン状シリカ濃度を100mg/Lにしたい場合には、90〜120mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
ここで、イオン状シリカは、シリカスケールの原因となる物質であるが、シリカスケールが系内に付着すると除去が大変であるため、工業水系においてはシリカスケールを付着させないよう管理することが重要となる。そのため、工業水系における障害にシリカスケールが含まれている場合は、濃縮の程度の指標の一つにイオン状シリカ濃度を加えることが好ましい。
【0018】
また、本発明の障害の評価方法によれば、さらに、工業水系で循環利用される水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を測定し、濃縮水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度が、上記工業水系で循環利用される水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度の測定値に対し所望の濃縮倍率となるように、上記原料水を濃縮することができる。上記濃縮倍率は、適宜設定することができ、例えば、上記濃縮水の硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を80mg/Lとしたい場合は、72〜96mg/Lの範囲となるように上記原料水を濃縮することが好ましい。
ここで、硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度は、腐食の原因となる物質であるため、工業水系における障害に腐食が含まれている場合は、濃縮の程度の指標の一つに硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を加えることが好ましい。
【0019】
工業水系を循環する水に含まれるような微生物は、試薬添加法で作製された濃縮水には存在していないため菌数をカウントすることはできないが、本発明の障害の評価方法においては、原料水を逆浸透膜装置に通水することで濃縮水を得るため、微生物を含む濃縮水が得られる。この微生物は、工業水系で発生するスライムやファウリング等の障害の要因となる。よって、微生物を含む濃縮水が得られることで、現実の工業水系で循環利用される水と同一成分を有する濃縮水を用いて障害の評価を行うことができるため、工業水系において生じ得る障害を再現し、正確に障害の評価を行うことができる。
【0020】
なお、本発明の障害の評価方法では、上述の通り、工業水系で循環利用される水の電気伝導率、全硬度、イオン状シリカ濃度、硫酸イオン濃度及び塩化物イオン濃度からなる群から選択される少なくとも一つの指標を測定し、濃縮水が、上記指標の測定から得られた測定値に対して所望の倍率となるように原料水を濃縮することができる。上述の指標の選択においては、評価対象とする障害に応じて、上記指標を選択することが好ましい。なお、本発明の障害の評価方法では、上記指標以外の指標を用いて原料水を濃縮することもできる。
例えば、評価対象とする障害がスケールである場合は、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、全硬度及び/又はイオン状シリカ濃度を測定し、濃縮水における電気伝導率と全硬度及び/又はイオン状シリカ濃度とが、上記測定により得られた測定値の0.8〜1.4倍となるように原料水を濃縮することが好ましく、0.9〜1.2倍となるように原料水を濃縮することが更に好ましい。
また、評価対象とする障害が腐食である場合は、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に加え、硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度を測定し、濃縮水における電気伝導率と硫酸イオン濃度及び/又は塩化物イオン濃度とが、上記測定により得られた測定値の0.9〜1.2倍となるように原料水を濃縮することが好ましい。
逆浸透膜装置から得られる濃縮水の水質の指標(水質項目ともいう)が、上述の数値範囲となるように原料水を濃縮することで、工業水系で循環利用される水の水質と同様の水質の濃縮水が得られるため、工業水系で生じる障害を再現し評価できるためである。
なお、以下、本願明細書において、濃縮水が工業水系で循環利用される水と「同程度の濃度」であると表現を用いるが、同程度の濃度とは、濃縮水の電気伝導率が、工業水系で循環利用される水の電気伝導率に対し、0.9〜1.2倍であることをいう。
【0021】
また、本発明の障害の評価方法で用いられる濃縮水は、任意の温度とすることができるが、工業水系で障害が発生しやすい箇所の水の温度を測定し、濃縮水の温度が、上記工業水系で障害が発生しやすい箇所における水の測定温度と同程度となるようにすることが好ましい。ここで、同程度とは、工業水系で循環利用される水の温度と、試験水の温度との差が10℃以下であることを意味するものとする。物質の水に対する溶解量は、温度に依存するため、工業水系で循環利用される水の水質を再現できるためである。
【0022】
また、本発明の障害の評価方法では、濃縮水に、水処理薬品を添加する工程を含むことが好ましい。本願明細書において、上記水処理薬品は、工業水系で生じる障害を改善する目的で用いられる薬品である。本発明の障害の評価方法によれば、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製することで、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができ、これに水処理薬品を添加し障害を評価することで、工業水系に適した水処理薬品を選定することができるためである。
ここで、上記水処理薬品を濃縮水に添加する方法は特に限定されず、例えば、濃縮水の入っている容器に水処理薬品を添加するバッチ方式であってもよく、評価に用いられる機器内を循環している濃縮水に連続的に添加する方法であってもよい。
なお、本発明によれば、容易かつ効率的に工業水系で循環利用される水と同一成分が含まれている濃縮水を得ることができるため、複数の水処理薬品を用いて同一条件及び/又は同一時期において工業水系で生じる障害の評価を行うことができるため、条件及び/又は時期の影響を受けることなく、正確に障害の評価を行うことができ、適切な水処理薬品を選定することができる。なお、時期の影響とは、気温及び湿度等の気候による影響も含まれる。
また、本発明によれば、複数条件における障害の評価を同時に実施できるため、効率よく障害の評価を行うことができる。
【0023】
本発明の障害の評価方法においては、例えば、「水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法(JIS G 0593)」、「工業用水腐食性試験方法(JIS K 0100)」及び「金属材料の高温腐食試験方法通則(JIS Z 2290)」等、既に知られている水処理評価試験を用いて、障害の発生の有無を評価することができる。
また、本発明の障害の評価方法では、スケール、スライム、ファウリング及び腐食からなる群から選択される少なくとも一つの障害を評価することが好ましい。
【0024】
本発明の障害の評価方法では、逆浸透膜装置から得られた濃縮水を、評価に用いられる機器内で循環、又は、ビーカー等の容器内でスターラーを用いて攪拌させることにより、濃縮水の状態変化を経時的に観察し、障害の発生の有無を評価することができる。例えば、濃縮水を60℃にて2〜24時間、ビーカー等の容器内でスターラーを用いて攪拌させた後に、濃縮水中の含有物の析出の有無を確認することにより、障害の発生の有無を評価することができる。
また、本発明の障害の評価方法では、濃縮水に、工業水系で循環利用される水と接液する材質からなる試験材を接触させる工程を含むことが好ましい。水が循環利用される工業水系で生じる障害は、循環利用される水とこれに接液する機械材及び充填材等の材質との関係により、障害の発生に至るまでの期間や、障害の度合いが異なり、また、発生する障害自体も異なる場合があるためである。例えば、上記試験材からなる試験片が上記濃縮水と接液するように、評価に用いられる機器の配管内又は機器類中に固定し、一定の試験期間後に上記試験片における障害発生状態、及び/又は、濃縮水の状態変化を確認することにより障害を評価することができる。ただし、障害の評価方法はこれに限定されるものではない。
上記試験材としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン等の純金属、これらの合金等の無機材質、及び、PVC並びにポリエチレン等の有機材質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の障害の評価方法において用いられる上記試験材は、濃縮水と接触する面の少なくとも一部を伝熱面とすることができる。現実の工業水系においても、伝熱面と伝熱面ではない箇所とを比較すると、生じる障害や、障害発生の度合いが異なるため、上述のように伝熱面を設けることにより、より正確に工業水系における障害を評価することができる。
例えば、図1のように、上記試験材からなるテストチューブ5を有する二重管テストカラム4を用いて、伝熱面を模した二重管評価試験を行い、障害を評価することができる。熱交換器等の伝熱面を模した試験方法としては、上記二重管評価試験の他に、試験材からなる試験片を評価に用いられる機器の配管内又は機器類中に固定し、試験片における濃縮水と接液する面と反対側の面からヒーター等を用いて試験片を加温する方法も使用できる。なお、伝熱面を模した試験方法はこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、逆浸透膜装置から得られる濃縮水を用いて、工業水系で循環利用される水から生じる障害と同様の障害を再現することができるため、工業水系で生じる障害を正確に評価することができる。また、工業水系で生じる障害を改善する目的で用いられる水処理薬品の効果を、障害の評価を通じて正確に評価することができる。
本発明の障害の評価方法によれば、従来法(試薬添加法や蒸発濃縮法による試験水の作製)では得られなかった工業水系で循環利用される水と同一成分を含む濃縮水を用いて、障害の評価を行うことができるため、従来法では正確な評価が困難であった障害(例えば、スライム等)についても工業水系における障害を再現し、正確に障害を評価することができる。なお、従来法の一つである試薬添加法では、微生物や有機物の栄養源が含まれないため、正確に障害の評価を行うことができなかった。
また、従来は、工業水系で循環利用される水と同一成分を同程度の濃度で有する濃縮水を作製することができなかったため、工業水系で生じる障害を正確に評価することができなかったが、本発明によれば、工業水系で循環利用される濃縮水と同一成分を同程度の濃度で有する濃縮水を作製し、障害の評価に用いることができるため、工業水系で生じる障害を正確に評価することができる。
また、工業水系で循環利用される水が高濃縮水である場合、従来法では、上記高濃縮水と同一成分を同程度の高濃度で含有する濃縮水を作製することができなかったが、本発明によれば、上記高濃縮水と同一成分を同程度の高濃度で含有する濃縮水を作製することができるため、高濃縮水が循環利用されている工業水系における障害についても評価することができる。
さらに、本発明によれば、高濃縮水を用いた障害の評価が可能であるため、工業水系で循環利用される水の含有成分濃度よりも高濃縮された濃縮水を作製し、工業水系で生じ得る障害を評価することも可能である。
なお、従来の蒸発濃縮法では、工業水系で循環利用される水と同一成分を含む原料水を用いて濃縮水を作製していたが、蒸発濃縮工程においてスケール等の障害を防止又は抑制するために水処理薬品の添加が必要となること、また加熱による溶質成分の蒸発及び/又は形態変化等が生じており、工業水系で循環利用される水と同一成分を含む濃縮水は作製できなかった。本発明によれば、濃縮水の作製工程において水処理薬品の添加及び加熱が不要であるため、工業水系で循環利用される水と同一成分を含む濃縮水を、より短期間に、大量に作製することが可能となり、様々な条件における工業水系の障害を効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本発明における障害の評価方法に用いられる二重管試験装置の略図である。
図2図2(a)は、実施例3におけるスケールの付着を示す写真であり、図2(b)は、比較例3においてスケールの付着がないことを示す写真である。
【0028】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
某化学プラント工場Aの冷却水系から、水1000L(以下、原料水という。)を採取し、室温(25℃)の原料水を逆浸透膜装置(製品名「ピュアライトPRO−0100」、オルガノ株式会社製)に通水させて、全硬度が360mg/Lである濃縮水100L(実施例1)を得た。
(実施例2〜4)
実施例1における全硬度を下記表1又は2の数値に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜4の濃縮水を得た。
【0030】
(比較例1)
100Lの水道水に、全硬度及びイオン状シリカ濃度が下記表1の数値となるように塩化カルシウム・2水和物(キシダ化学株式会社製)、硫酸カルシウム・2水和物(キシダ化学株式会社製)、硫酸マグネシウム・7水和物(キシダ化学株式会社製)、炭酸水素ナトリウム(キシダ化学株式会社製)及びメタケイ酸ナトリウム・9水和物(キシダ化学株式会社製)を添加し、濃縮水(比較例1)を得た。
(比較例3〜5)
比較例1における全硬度及びイオン状シリカ濃度が下記表1又は2の数値となるように、比較例1と同様の操作を行い、比較例3〜5の濃縮水を得た。なお、比較例3及び5については、pH値を下記表1又は2に記載の数値とする目的で、硫酸をさらに添加した。
【0031】
(比較例2)
某化学プラント工場Aの冷却水系から、水1500L(以下、原料水という。)を採取し、室温(25℃)の供給水に、3DT 165(片山ナルコ株式会社製)、ミラクルDP3700(株式会社片山化学工業研究所製)を添加し、得られた水処理薬品添加原料水を、熱交換器及び冷却塔に12日間循環させることにより蒸発濃縮させて、全硬度が240mg/Lである濃縮水100L(比較例2)を得た。
【0032】
(参考例1及び2)
某化学プラント工場Aの冷却水系から、水10Lを採取し、室温(25℃)にて貯蔵した。これを原料水(参考例1)とした。
某化学プラント工場Aの工業水系で循環利用される水を10L採取し、室温(25℃)にて貯蔵した。これを実機水(参考例2)とした。
【0033】
上記の通り作製した実施例1〜4、比較例1〜5及び参考例1及び2のイオン状シリカ濃度、硫酸イオン濃度、pH及び試験水の外観を測定又は評価し、これらの濃縮水を用いて工業水系で生じる障害を評価するための障害の評価試験を実施した。
障害の評価試験は、得られた濃縮水を図1に示す二重管試験における軟鋼性のテストチューブ(形状:長さ10cm、外径15.9mm、内径12mm)に、下記条件で通水させることにより行った。各項目の測定結果、及び、障害の評価試験の結果を下記表1及び2に示す。
【0034】
(二重管試験の条件)
水温 :40℃
温水温度:80℃
流速 :0.36m/s
伝熱量 :43000kcal/m/hr
試験期間:5日
保有水量:10L
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
上記表1を確認すると、実施例1〜3における濃縮水は比較例1及び2と比べて、明らかに高濃度で、透明な濃縮水が得られており、これらを用いた障害の評価試験においてもスケールの付着を確認することができた。一方、比較例1及び2は、実施例1〜3と比べて、低濃度かつ白濁した濃縮水が得られ、障害の評価を行うことができなかった。また、比較例3は、高濃度で透明な濃縮水が得られたが、硫酸イオン濃度が極めて高く、障害の評価試験においてはスケールの付着が生じなかった。なお、実施例3及び比較例3におけるスケール付着の有無を示す写真を図2に示す。
上記表2を確認すると、原料水を逆浸透膜装置に通水して得られた濃縮水(実施例4)では、全硬度、カルシウム硬度、シリカイオン濃度、硫酸イオン濃度及びpH値について、参考例2(実機水)と同程度の数値を示しており、実機水を再現した濃縮水が得られたことが分かる。さらに、障害の評価試験においてもスケールの付着を確認し、また、菌数レベルも参考例2(実機水)と同じ10オーダーでの菌数が確認され、工業水系で生じる障害を評価することができた。
一方、従来から行われている薬品添加による濃縮水の作成においては、全硬度及び/又はイオン状シリカ濃度が目的となる濃度まで薬品を添加すると、白濁したり(比較例1)、pH値が高くなったり(比較例4)、pH値を抑えるために硫酸を添加することにより、硫酸濃度が高くなったり(比較例3及び5)して、実機水と同一成分が同程度含まれる濃縮水を再現することがでず、障害の評価を行うことができなかった。また、菌数においても薬品添加法により得られた濃縮水では菌数の測定値が小さく、スライム障害の評価を行うことができなかった(比較例4及び5)。
【0038】
(参考例3)
某化学プラント工場Bの冷却水系から水10L採取し(以下、原料水という。)、電気伝導率、カルシウム硬度、硫酸イオン濃度、イオン状シリカ濃度を測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0039】
(参考例4)
某化学プラント工場Bの工業水系で水処理薬品がすでに添加され循環利用されている水を10L採取し(以下、実機水という。)、電気伝導率、カルシウム硬度、硫酸イオン濃度、イオン状シリカ濃度を測定した。測定結果を下記表3に示す。
なお、参考例4における実機水中に添加されている上記水処理薬品は、3DT177(片山ナルコ株式会社製)及び3DT304(片山ナルコ株式会社製)である。
【0040】
(実施例5)
某化学プラント工場Bの冷却水系から、水1000Lを採取し(以下、原料水という。)、室温(25℃)の供給水を逆浸透膜装置(製品名「ピュアライトPRO−0100」、オルガノ株式会社製)に通水させて、電気伝導率が下記表3に記載の参考例3の電気伝導率の6〜8倍となるように原料水を濃縮し、電気伝導率が1300μs/cmである濃縮水100L(実施例5)を得た。
【0041】
(比較例6)
某化学プラント工場Bの冷却水系から、水1500Lを採取し(以下、原料水という。)、室温(25℃)の供給水に、水処理薬品である3DT177(片山ナルコ株式会社製)及び3DT304(片山ナルコ株式会社製)を添加し、得られた薬品添加供給水を熱交換器及び冷却塔に7日間循環させることにより蒸発濃縮させて、電気伝導率が下記表3に記載の参考例3の電気伝導率の6〜8倍となるように原料水を濃縮し、電気伝導率が1300μs/cmである濃縮水100L(比較例6)を得た。
【0042】
上記の通り作製した実施例5、比較例6及び参考例3並びに4の各項目の測定結果を下記表3に示す。また、これらの濃縮水を用いて工業水系の障害を評価するための障害の評価試験を実施した結果を下記表3に示す。
【0043】
【表3】
※1 水処理薬品の添加有り
【0044】
上記表3に示すように、原料水を逆浸透膜装置に通水して得られた濃縮水(実施例5)は、濃縮水外観が透明であり、障害の評価試験においてもスケールの付着が観察され、工業水系における障害を再現し、評価することができた。さらに、濃縮水中の溶質成分の含有比についても、実機水(参考例4)における試験水中の溶質成分の含有比と近似しており、実機水に含まれる溶質成分を同程度の濃度で含有する濃縮水が作製されていることが確認できた。
一方、蒸発濃縮装置を用いて原料水を濃縮して得られた濃縮水(比較例6)は、濃縮水中の溶質成分の含有比に偏りが生じ、実機水に含まれる溶質成分を同程度の濃度で含有する濃縮水を得ることができなかった。
なお、逆浸透膜装置を用いた濃縮水の作製方法(実施例5)においては、濃縮水の作製期間が2日間であったのに対し、蒸発濃縮装置を用いた試験水の作製方法(比較例6)では、濃縮水の作製期間が8日間必要であった。
また、蒸発濃縮装置により得られた濃縮水(比較例6)は、白濁するため水処理薬品の添加が必須であった。
上記より、逆浸透膜装置を用いることにより、実機水の水質が再現された濃縮水が短期間に作製されるため、効率的に大量に作製された濃縮水を用いて、様々な条件において工業水系の障害を評価することができる。また、逆浸透膜を用いることにより、水処理薬品の添加が不要であるため、実機水に含まれていない成分を添加することなく実機水を再現した濃縮水が作製され、工業水系の障害を正確に評価できることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 試験水ピット
2 送水ポンプ
3 流量計
4 テストカラム
5 テストチューブ
【要約】
【課題】水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法を提供する。
【解決手段】水が循環利用される工業水系で生じる障害の評価方法であって、逆浸透膜装置を用いて濃縮水を作製し、上記濃縮水から生じる障害を評価することを特徴とする障害の評価方法である。
【選択図】なし
図1
図2