(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の半径方向外向きに進むにつれて、前記ねじ体の軸方向における前記第一受部から前記第二受部に進む向きに変位する領域を含むことを特徴とする、
請求項1乃至3の何れかに記載のねじ体の逆回転防止構造。
前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の半径方向内向きに進むにつれて、前記ねじ体の軸方向における前記第一受部から前記第二受部に進む向きに変位する領域を含むことを特徴とする、
請求項1乃至4の何れかに記載のねじ体の逆回転防止構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のワッシャは、ねじ体との間の緩み防止構造に関して、摩擦や食い込みを期待する程度であるため、よく知られている通りその効果は不十分なものであった。従って、振動等が激しい環境では、ワッシャを用いたとしても、ねじ体が徐々に緩んでしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、ワッシャを有効活用することによって、簡易な構造によって、高度にねじ体の逆回転防止、即ち、緩み止めを行う構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、ねじ山を有するねじ体と、ワッシャとを備え、前記ねじ体は、前記ワッシャと対向するねじ体側座部を有して成り、前記ワッシャは、前記ねじ体側座部と対向する第一受部、及び、部材側座部を有する被締結部材と対向する第二受部を有して成り、前記ねじ体側座部と前記第一受部の間には、前記ねじ体側座部に対して特定方向の回転力が作用しても互いに係合する状態が保持される第一係合機構が構成され、前記ワッシャの前記第二受部は、前記部材側座部に対向するワッシャ側傾斜面を有し、前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の軸に直角となる断面形状が、該ねじ体の周方向に沿って軸心からの距離が変位する領域を含み、前記ワッシャ側傾斜面が前記被締結部材の前記部材側座部に係合することで、前記ワッシャに対して前記特定方向の回転力が作用しても互いの当接する状態が保持される第二係合機構が構成され、前記第一係合機構により、前記ねじ体と前記ワッシャとの間における前記特定方向の相対回転が防止され、且つ、前記第二係合機構により、前記ワッシャと前記被締結部材との間における前記特定方向の相対回転が防止されることによって、該ねじ体と該被締結部材との間における該特定方向の相対回転が防止されることを特徴とする、ねじ体の逆回転防止構造である。
【0010】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ワッシャ側傾斜面は、曲面を含んで構成されることを特徴とする。
【0011】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の軸に対して傾斜した軸を有する仮想円柱の部分周面を含んで構成されることを特徴とする。
【0012】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の半径方向外向きに進むにつれて、前記ねじ体の軸方向における前記第一受部から前記第二受部に進む向きに変位する領域を含むことを特徴とする。
【0013】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の半径方向内向きに進むにつれて、前記ねじ体の軸方向における前記第一受部から前記第二受部に進む向きに変位する領域を含むことを特徴とする。
【0014】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ワッシャ側傾斜面は、前記ねじ体の一方の回転方向に対向する第一ワッシャ側傾斜領域と、前記ねじ体の他方の回転方向に対向する第二ワッシャ側傾斜領域と、を備えることが出来る。
【0015】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一ワッシャ側傾斜領域と前記第二ワッシャ側傾斜領域は連続しており、両者の境界に特異点又は特異線が配置されることが出来る。
【0016】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記被締結部材の前記部材側座部は、前記ねじ体の軸に直角となる断面形状が、該ねじ体の周方向に沿って軸心からの距離が変位する領域を含み、前記ワッシャ側傾斜面と前記部材側傾斜面により、前記ワッシャに対して前記特定方向の回転力が作用しても互いの当接する状態が保持される前記第二係合機構が構成され、該第二係合機構によって、前記被締結部材の前記ねじ体の前記特定方向への回転を防止することが出来る。
【0017】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記部材側傾斜面は、前記ねじ体の他方の回転方向に対向して前記ワッシャ側傾斜面と当接可能な第一部材側傾斜領域と、前記ねじ体の一方の回転方向に対向して前記ワッシャ側傾斜面と当接可能な第二部材側傾斜領域と、を備えることが出来る。
【0018】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記部材側傾斜面は、前記ねじ体の軸に対して傾斜した軸を有する円柱又は円筒の外周面によって構成されることが出来る。
【0019】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一係合機構は、前記ねじ体側座部にねじ体側凹凸が形成され、且つ、前記第一受部に前記ねじ体側凹凸と係合する第一受部側凹凸が形成され、前記係合状態を得ることが出来る。
【0020】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一受部側凹凸は、周方向に設けられる鋸刃形状であることが出来る。
【0021】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記ねじ体側座部には、半径方向に傾斜するねじ体側テーパ面が形成されることが出来る。
【0022】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一受部には、半径方向に傾斜するワッシャ側テーパ面が形成されることが出来る。
【0023】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一係合機構は、前記ねじ体側座部と前記第一受部の距離が縮む程、前記緩み方向の係合強度が高まるように構成されることが出来る。
【0024】
上記ねじ体の逆回転防止構造に関連して、前記第一係合機構は、前記ねじ体側座部と前記第一受部の間で、前記ねじ体側座部の締め方向の相対回転を許容することが出来る。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡単な構造でありながらも、ねじ体の逆回転防止、例えば、ねじ体を緩ませる方向の回転を防止することでねじ体の回転緩みを確実に防止する事が出来るようになる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1に、第一実施形態に係るねじ体の逆回転防止構造を示す。本実施形態のねじ体の逆回転防止構造では、雄ねじ体10と、貫通穴52を有するワッシャ50と、第一被締結部材80と、第二被締結部材90を備えて構成される。第二被締結部材90には、雄ねじ体10と螺合するための雌ねじ穴92が形成されており、第二被締結部材90と雄ねじ体10で挟まれることで、第一被締結部材80が第二被締結部材90に固定される。第一被締結部材80は、例えば円筒構造の所謂パイプ材であり、雄ねじ体10が貫通するための一対の貫通孔が形成される。
【0029】
雄ねじ体10は、所謂ボルトであり、頭部20と軸部30を有する。頭部20の下部乃至付け根に相当する部位には、ねじ体側座部22が形成される。軸部30には、円筒部30aとねじ部30bとが形成される。勿論、円筒部30aは必須ではない。
【0030】
ワッシャ50の表裏のうち一方側(
図1(A)の上側)には、第一受部60が形成される。この第一受部60は、ねじ体側座部22と対向しており、両者の間には、第一係合機構Aが構成される。この第一係合機構Aは、少なくともねじ体側座部22が、締結状態の雄ねじ体10を緩める方向に回転しようとすると、第一受部60とねじ体側座部22が互いに係合して、当該回転方向に対する第一受部60とねじ体側座部22との相対回転を防止する。
【0031】
ワッシャ50の他方側(
図1(A)の下側)には、第二受部70が形成される。この第一受部70は、第一被締結部材80と対向する。
【0032】
第一被締結部材80には、ワッシャ50の第二受部70に対向する部材側座部82が形成される。第二受部70と部材側座部82は、略合同の面状領域となっており、互いに当接して、雄ねじ体10の締結力(軸力)を第一被締結部材80に伝達する役割を担う。即ち、雄ねじ体10の軸力の殆どは、ワッシャ50を介して第一被締結部材80に伝達される。勿論、雄ねじ体10の軸力の殆どが、ワッシャ50を介して第一被締結部材80に伝達されることは必須ではなく、逆に軸力の殆どが第一被締結部材80に伝達されないようにしてもよい。
【0033】
更に、第一被締結部材80の部材側座部82と、ワッシャ50の第二受部70には、ワッシャ50に対して特定方向の回転力が作用しても互いの当接する状態が保持されて、相対回転が制約される第二係合機構Bが構成される。
【0034】
図1(B)に示すように、この第二係合機構Bは、ワッシャ側傾斜面110及び部材側傾斜面120を有する。ワッシャ側傾斜面110は、ワッシャ50の第二受部70に形成され、部材側傾斜面120は第一被締結部材80の部材側座部82に形成される。
【0035】
図3(D)に示すように、ワッシャ側傾斜面110は、雄ねじ体10又は貫通孔52の軸線上の適宜位置の軸直角断面の形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向X、Yに沿って、軸心からの距離が変位する領域を含む。
【0036】
勿論、このワッシャ側傾斜面110に当接する部材側傾斜面120も、雄ねじ体10の軸を基準として、雄ねじ体10又は貫通孔52の軸線上の適宜位置の軸直角断面の形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向X、Yに沿って、軸心からの距離が変位する領域を含んでいる。
【0037】
なお、既に述べたように、本実施形態では、第一被締結部材80がパイプ材であることから、部材側傾斜面120は、パイプ材の外周面によって構成されている。結果、部材側傾斜面120に対向するワッシャ側傾斜面110も、雄ねじ体10の軸に対して傾斜した軸(第一被締結部材80のパイプ材の軸と同軸状態の軸)を有する仮想円柱の部分周面を含む曲面で構成される。
【0038】
より詳細にワッシャ側傾斜面110は、雄ねじ体10の一方の回転方向Xに対向する第一ワッシャ側傾斜領域110Xと、雄ねじ体10の他方の回転方向Yに対向する第二ワッシャ側傾斜領域110Yとを備える。部材側傾斜面120は、雄ねじ体10の他方の回転方向Yに対向して、第一ワッシャ側傾斜領域110Xと当接可能な第一部材側傾斜領域120Yと、雄ねじ体10の一方の回転方向Xに対向して、第二ワッシャ側傾斜領域110Yと当接可能な第二部材側傾斜領域120Xとを備える。
【0039】
例えば、雄ねじ体10が右ねじの場合に、
図1及び
図3に示すように、雄ねじ体10を締める為にY方向に回転させると、それに連れてワッシャ50が部材側座部82に対してY方向に相対回転しようとするが、その結果、第一ワッシャ側傾斜領域110Xと第一部材側傾斜領域120Yの当接状態が保持されて、その相対回転が抑制される。同様に、雄ねじ体10がX方向に緩もうとすると、それに連れてワッシャ50が部材側座部82に対してX方向に相対回転しようとするが、その結果、第二ワッシャ側傾斜領域110Yと第二部材側傾斜領域120Xの当接状態が保持されて、その相対回転が抑制される。
【0040】
なお、ワッシャ側傾斜面110における第一ワッシャ側傾斜領域110Xと第二ワッシャ側傾斜領域110Yは連続した曲面となっているが、その境界には特異点又は特異線(本実施形態では特異線)U1、U2が存在し得る。一方の特異線U1は、半径方向に平行に延びている。他方の特異線U2は、半径方向に延びているが、軸方向に変位している。
【0041】
なお、ここでは雄ねじ体10が双方向X、Yに回転する際に、ワッシャ50の回転も抑制される構造を例示しているが、本発明はこれに限定されない。少なくともワッシャ50が、雄ねじ体10と共に緩む方向Xに回転しようとすると、第二ワッシャ側傾斜領域110Yと第二部材側傾斜領域120Xの当接状態が保持されて、当該回転方向Xに対する第二受部70と部材側座部82との相対回転を防止すればよい。
【0042】
以上の通り、第一係合機構Aと第二係合機構Bの作用により、雄ねじ体10が緩み方向Xに回転しようとすると、ワッシャ50の介在によって、雄ねじ体10と第一被締結部材80の相対回転が規制される。結果、雄ねじ体10が緩むことが防止される。また、雄ねじ体10が締まり方向Yに回転する場合にも、第二係合機構Bによってワッシャ50の供回りが抑制され、第一係合機構Aの係合動作を適切に発揮させることが出来る。
【0043】
図2に示すように、第一係合機構Aとして、雄ねじ体10のねじ体側座部22には、ねじ体側凹凸24が形成される。ねじ体側凹凸24は、周方向に複数設けられる鋸刃形状と成っている。ねじ体側凹凸24の各々が延びる方向、即ち、稜線が延びる方向は、雄ねじ体10の半径方向となっている。結果、ねじ体側凹凸24は、軸心から放射状に延びる。
【0044】
更に、このねじ体側座部22は、半径方向に傾斜するねじ体側テーパ面26が形成される。このねじ体側テーパ面26は、中心側がねじ先に近づくように傾斜しているので、結果として、ねじ先側に凸の円錐形状となる。更に好ましくは、このねじ体側テーパ面26に、既述のねじ体側凹凸24が形成される。
【0045】
図3(A)(B)に示すように、第一係合機構Aとして、ワッシャ50の第一受部60には、ねじ体側凹凸24と係合する第一受部側凹凸64が形成される。第一受部側凹凸64は、周方向に複数設けられる鋸刃形状となっている。第一受部側凹凸64の各々が延びる方向、即ち稜線が延びる方向は、雄ねじ体10の半径方向に沿っている。結果、第一受部側凹凸64は、ワッシャ50の貫通穴52の中心から放射状に延びる。
【0046】
更に、好ましくは、この第一受部60は、半径方向に傾斜するワッシャ側テーパ面66が形成される。このワッシャ側テーパ面66は、中心側がねじ先に近づくように傾斜してすり鉢状を成しているので、結果として、ねじ先側に凹の円錐形状となる。このワッシャ側テーパ面66に、既述の第一受部側凹凸64が形成される。
【0047】
結果、雄ねじ体10を締め付ける際に、第一係合機構Aでは、ワッシャ50のワッシャ側テーパ面66の凹内に、ねじ体側座部22のねじ体側テーパ面26が進入し、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64が係合する。両者の鋸歯形状は、
図4(A)に示すように、雄ねじ体20が、締結方向Yに回転しようとすると、互いの傾斜面24Y、64Yが当接して、両者の距離を軸方向に狭めながら、相対スライドを許容する。一方、雄ねじ体20が、緩み方向Xに回転しようとすると、互いの垂直面(傾斜が強い側の面)24X、64Xが当接して、両者の相対移動を防止する。とりわけ第一係合機構Aは、雄ねじ体10を締め付けることによって、ねじ体側座部22と第一受部60の距離が縮む程、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64の噛み合いが強くなり、緩み方向X側の係合強度が高められる。ここで、ねじ体側テーパ面26の傾斜角度と、ワッシャ側テーパ面66の傾斜角度とを互いに異ならせること、特にワッシャ側テーパ面66の軸心からの傾斜角度をねじ体側テーパ面26の軸心からの傾斜角度よりも狭めに設定することで、それぞれのテーパ面に形成される鋸歯のピッチに因らず、ガタ付き無く締め付けることも可能となる。また、ねじ体側凹凸24の数量と第一受部側凹凸64の数量は必ずしも一致している必要はなく、更に、周方向における位相や位置も、機械的強度の要請に応じて適宜設定可能である。
【0048】
図3(D)に示すように、ワッシャ50のワッシャ側傾斜面110を軸方向に直角の面で切断した状態を考えると、その切断面は、ねじの軸心からの距離が周方向に沿って変動する。具体的に第二ワッシャ側傾斜領域110Yは、雄ねじ体10の一方の回転方向Xに沿って距離XA、XB、XCが大きくなる。第一ワッシャ側傾斜領域110Xは、雄ねじ体10の一方の回転方向Yに沿って距離YA、YB、YCが大きくなる。このことからも、ワッシャ側傾斜面110が、部材側傾斜面120に対して周方向に係合出来ることが分かる。
【0049】
図3(C)を用いて別の観点から説明すると、ワッシャ側傾斜面110は、ねじ体10の軸を基準とした半径方向Hの外側に沿って、軸方向(第一被締結部材80側)に変位し、且つ、その周方向Eに沿っても軸方向に変位する微小傾斜面領域Vを少なくとも含む。その結果、ワッシャ側傾斜面110は、雄ねじ体10の半径方向外向きに進むにつれて、雄ねじ体10の軸方向における第一受部60から第二受部70に進む向きに変位する領域を含むことになる。
【0050】
なお、多少の余裕隙間、若しくは、意図的かつ積極的に設けられる弾性変形を許容するための空間等を無視すれば、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120は同じ曲面に設定される。或いは、雄ねじ10によるワッシャ50の締め込みによる軸方向の圧縮によってもたらされる変形によってこの余裕隙間が埋まるように、ワッシャ50の弾性や形状を設定しても好い。
【0051】
従って、ワッシャ50の第二受部70と、第一被締結部材80の部材側座部82を接触させると、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120が当接する結果となり、ねじの軸心を合わせた状態のままでは、両者の周方向Sの相対回転が制約される。即ち、このワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120が第二係合機構Bとして作用する。
【0052】
以上、第一実施形態のねじ体の逆回転防止構造によれば、ワッシャ50を介在させることによって、ねじ体側座部22と第一受部60の間に第一係合機構Aを構成し、部材側座部82と第二受部70の周囲に第二係合機構Bが設けられ、雄ねじ体10が緩もうとすると、第一係合機構A及び第二係合機構Bの双方の規制作用によって、雄ねじ体10が第一被締結部材80と周方向Sに係合した状態となり、逆回転すること、即ち緩むことが防止される。従って、振動等が生じても、全く緩まない締結状態を得ることが出来る。
【0053】
更に本実施形態では、第一係合機構Aとして、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64が、周方向に複数連続する鋸刃形状と成っており、所謂ラチェット機構又はワンウエイクラッチ機構として作用する。結果、締結動作時は、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64の相対移動を許容して、円滑な相対回転を実現する一方、緩み動作時は、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64の相対移動を完全に規制する。結果、締結時の作業性と、その後の緩み止めを合理的に両立出来る。
【0054】
また本第一実施形態では、第一係合機構Aとして、ねじ体側座部22と第一受部60には、ねじ体側テーパ面26、ワッシャ側テーパ面66が形成されるので、両者の当接面積を大きくすることが出来る。また、雄ねじ体10の軸線方向の締結力が、テーパ面によって半径方向にも作用する。互いのテーパ面を半径方向に押し付けることで、自励的にセンタリング出来る。結果、雄ねじ体10とワッシャ50の同芯度が高められ、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64の係合精度を高めることが出来る。なお、凸側のねじ体側テーパ面26の傾斜を微小に大きくし、凹側のワッシャ側テーパ面66の傾斜角を微小に小さくして、角度に微小差を設けておくことも好ましい。このようにすると、締め付け圧力の増大に伴って、中心から半径方向外側に向かって、互いのテーパ面を少しずつ当接させることが出来る。
【0055】
また更に、本第一実施形態では、第二係合機構Bとして、互いに対向するワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120における、軸線上の適宜位置の軸直角断面の形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向X、Yに沿って変位する領域を含んでいる。この形状によって、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120が一旦当接すると、それ以上の周方向の相対回転が規制されると同時に、ねじ体の軸力が、互いに対向するワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120によって伝達される。即ち、ねじ体の軸力を利用して、相対回転の規制力を作用させることができるので、ねじ体を締めるほど、相対回転を確実に防止することが可能となる。しかしながら、軸力伝達を殆ど生じさせない程度の締め付け強度であっても、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64とが十分に嵌合していれば、特定方向の回転、即ち回転緩みを十分に防止することが出来る。
【0056】
更にまた、ワッシャ側傾斜面110を曲面にすることで、互いの弾性変形によって、部材側傾斜面120と密着させることが可能となる。結果、ねじ体の締結時において、所謂がたつきを抑制することが可能となる。とりわけ、本実施形態のように、第一被締結部材80が円筒又は円柱形状の部材の場合は、この周面の形状を有効活用して、ワッシャ側傾斜面110及び部材側傾斜面120を密着させることが出来る。
【0057】
なお、本第一実施形態では、第一係合機構Aとして、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64が鋸刃形状の場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図4(B)に示されるように、互いの凹凸を山形(双方とも傾斜面)にすることも可能である。このようにすると、雄ねじ体20が緩み方向Xに回転する際、互いの傾斜面24X、64Xが相対移動しようとするが、この傾斜面に沿って、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64が離れようとする。この移動距離(離れる角度α)を、雄ねじ体10のリード角より大きく設定すれば、雄ねじ体10が緩もうとしても、それ以上にねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64が離れようとするので、緩むことが出来なくなる。なお、この
図4(B)では、断面二等辺三角形の凹凸を例示したが、
図4(C)に示すように、締結回転時に当接する傾斜面24Y、64Yの傾斜角よりも、緩み回転時に当接する傾斜面24X,64Xの傾斜角をなだらかにすることも好ましい。このようにすると、締結回転時に、互いに乗り越えなければならない傾斜面24Y、64Yの周方向距離Pを短くすることが出来るので、締結後のガタ(隙間)を少なく出来る。
【0058】
また、
図4(A)〜(C)の応用として、
図4(D)に示すように、峯と谷を湾曲させた波型の凹凸も設定可能である。締結時に滑らかな操作性を得ることが出来る。更に、本第一実施形態では、半径方向に延びる凹凸を例示したが、
図5(A)に示すように、渦巻き状(スパイラル状)の溝又は山(凹凸)を形成することも出来る。また
図5(B)のように、直線状に延びる溝又は山(凹凸)であっても、ねじの半径方向に対して周方向位相が変化するように傾斜配置することも出来る。また、
図5(C)に示すように、微細凹凸を、ねじの周方向且つ半径方向の双方(平面状)に複数形成した、いわゆるエンボス形状を採用することも出来る。
【0059】
更に本第一実施形態のように、ねじ体側凹凸24と第一受部側凹凸64の凹凸形状を必ずしも一致(略相似又は略合同)させる必要はない。例えば、
図4及び
図5の各種形状から異なるものを互いに選択して組み合わせることも出来る。
【0060】
本第一実施形態では、ねじ体側テーパ面26を凸形状、ワッシャ側テーパ面66を凹形状にする場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図6(A)に示すように、ねじ体側テーパ面26及びワッシャ側テーパ面66を平面形状にすることが出来る。また例えば、雄ねじ体10の軸部30の根本に、ワッシャ50を保持するためのくびれ32を形成することも出来る。ワッシャ50の貫通孔52には、内周側に突出する係合突起52Aが形成され、雄ねじ体10のくびれ32と係合する。結果、予め、雄ねじ体10とワッシャ50を一体化(結合)することが可能となる。
【0061】
また更に、
図6(B)の雄ねじ体10のように、ねじ体側テーパ面26を、ねじ体側に凹形状にすることも出来る。また特に図示しないが、例えばワッシャ50の弾性変形を有効活用すれば、双方のテーパ面の傾斜角を一致させる必要はない。勿論、雄ねじ体10又はワッシャ50の一方のみにテーパ面を形成しても良い。更には、双方のテーパ面を凸形状にしたり、凹形状にしたりすることで、ワッシャの弾性変形を活用して両者を密着させることが出来る。また、ワッシャ50の弾性を得る為に、ワッシャ50の基本的な形状を螺旋状として成る所謂スプリングワッシャ状や皿バネ状としても好い。
【0062】
図7に、第二実施形態のねじの逆回転防止構造を示す。
図7(A)に示すように、雄ねじ体10のねじ体側座部22は平面形状となっており、そこに鋸刃形状のねじ体側凹凸24が形成される。ワッシャ50の第一受部60も平面形状となっており、そこに鋸刃形状の第一受部側凹凸64が形成される。
【0063】
更に、
図7(C)の底面図に示すように、ワッシャ50の第二受部70は、雄ねじ体10の軸方向に沿って中央が凸となっている。具体的には、軸に対して直角方向の断面形状と楕円に近似するような、楕円半球体となっており、その中心に貫通孔52が形成される。この形状を利用して、第二受部70の全域にワッシャ側傾斜面110が形成される。このワッシャ側傾斜面110において、雄ねじ体10又は貫通孔52の軸線上の適宜位置の軸直角断面の形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向X、Yに沿って、軸心を基準に変位する領域を含んでいる。具体的には、ワッシャ側傾斜面110は、雄ねじ体10の半径方向内向きに進むにつれて、雄ねじ体10の軸方向における第一受部60から第二受部70側に進む向きに変位する領域を含むことになる。即ち本ワッシャ側傾斜面110は、半径方向Hの内側に向かって、ワッシャ側傾斜面110が第一被締結部材80側に凸となるように傾斜している。なお、楕円の短軸及び長軸に沿って、特異線又は特異線Uが伸びている。
【0064】
一方、
図7(B)の上面図に示されるように、第一被締結部材80の部材側座部82も、楕円の半球体のような凹形状となっており、その底面の中心に雌ねじ孔92が形成される。この部材側座部82の形状を利用して部材側傾斜面120が形成される。部材側傾斜面120は、雄ねじ体10の軸線上の適宜位置の軸直角断面の形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向X、Yに沿って軸心を基準に変位する領域を含んでいる。従って、雄ねじ体10を締め付ければ、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120が当接し、雄ねじ体10の軸力を伝達し得、同時に、ワッシャ50と第一被締結部材80の相対回転が防止される。
【0065】
このように、パイプ材の一部を窪ませたような部材側座部82の場合において、ワッシャ50の第二受部70を、第一被締結部材80側に凸となる非正円形状のお椀形にすることで、両者を密着させることが出来る。特に、すり鉢形状の面接触領域によって、雄ねじ体10の軸力を第一被締結部材80に効率的に伝達し得るようになっている。
【0066】
図8に、第三実施形態のねじの逆回転防止構造を示す。
図8(A)に示すように、雄ねじ体10のねじ体側座部22は平面形状となっており、そこに鋸刃形状のねじ体側凹凸24が形成される。ワッシャ50の第一受部60も平面形状となっており、そこに鋸刃形状の第一受部側凹凸64が形成される。
【0067】
更に、ワッシャ50の第二受部70は、雄ねじ体10の軸方向に対して傾斜した単一平面となっている。この形状を利用して、第二受部70には、ワッシャ側傾斜面110が形成される。このワッシャ側傾斜面110は、雄ねじ体10の軸に直角となる断面形状(断面線G)が、雄ねじ体10の周方向に沿って軸心からの距離が変位する。
【0068】
一方、第一被締結部材80の部材側座部82も、雄ねじ体10の軸方向に対して傾斜した単一平面となっている。この部材側座部82の形状を利用して、雄ねじ体10の軸に直角となる断面形状が、雄ねじ体10の周方向に沿って軸心からの距離が変位する部材側傾斜面120が形成される。従って、雄ねじ体10を締め付ければ、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120が当接し、雄ねじ体10の軸力を伝達すると同時に、ワッシャ50と第一被締結部材80の相対回転が防止される。
【0069】
このように、部材側座部82が、軸方向に対して傾斜した平面となる場合に、ワッシャ50の第二受部70において、この部材側座部82と平行となるワッシャ側傾斜面110を形成することで、ワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120の両者を密着させることが出来る。そして、これらのワッシャ側傾斜面110と部材側傾斜面120によって、第二係合機構Bが構成され、雄ねじ体10の軸力が伝達されると同時に、ワッシャ50と第一被締結部材80の相対回転が抑制される
【0070】
なお、本第三実施形態では、ワッシャ側傾斜面110及び部材側傾斜面120が単一平面である場合を例示したが、傾斜角度の異なる複数の平面で構成されるようにしても良い。例えば、側面V字形状となるような楔状の二つの傾斜面を組み合わせてもよく、或いは、三つ以上の傾斜面からなる多角椀形とすることも可能である。また、ワッシャ側傾斜面110及び部材側傾斜面120が、平面と曲面を組み合わせて構成されるようにしても良い。
【0071】
なお、
図6で示した例では、雄ねじ体10のくびれ32とワッシャ50の係合突起52Aによって、予め両者を一体化する場合を例示したが、その手法はこれに限定されない。例えば、少なくとも一方に磁気を持たせることで、雄ねじ体10とワッシャ50を磁力で一体化することも出来る。その他にも、接着剤、(スポット)溶接、圧入(摩擦力)によって雄ねじ体10とワッシャ50を予め一体化することも出来る。また、Oリング等の補助具を用いて、雄ねじ体10とワッシャ50を一体化することも可能である。
【0072】
また、第一から第三実施形態では、雄ねじ体10の頭部とワッシャ50を係合させる場合を例示したが、雄ねじ体に適用する場合に限られず、この緩み止め機構を、雌ねじ体側に適用することも出来る。例えば、
図9に示すように、第一実施形態の応用例として、雌ねじ体18、ワッシャ50、第一被締結部材80に、第一係合機構Aと第二係合機構Bを設けることで、雌ねじ体18の逆回転を防止する事も可能である。
【0073】
また、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。