特許第6387538号(P6387538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387538無線通信システム、無線通信装置および無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387538
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信装置および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20180903BHJP
   H04J 11/00 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   H04J99/00
   H04J11/00 B
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-62960(P2014-62960)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-186167(P2015-186167A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年3月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「動的偏波・周波数制御による衛星通信の大容量化技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行
(72)【発明者】
【氏名】夜船 誠致
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一人
(72)【発明者】
【氏名】久々津 直哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−286818(JP,A)
【文献】 特表2011−526761(JP,A)
【文献】 特開2009−147637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 99/00
H04J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送受信を行う無線通信システムであって、
送信機および受信機を備え、
前記送信機は、
送信アンテナと、
送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するための誤り訂正符号化処理部と、
第1の記憶部とを含み、
前記第1の記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、
前記第1の記憶部に記憶された情報に基づき、前記多次元伝送において、誤り訂正符号化処理部の出力を、前記第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理部と、
前記マッピング処理部の処理結果に基づき、前記第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、前記送信アンテナより送出する送信部とをさらに含み、
前記受信機は、
受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信された信号について、それぞれ前記第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行する受信部と、
前記第1の記憶部に記憶される前記信号点配置に対応する情報を記憶する第2の記憶部と、
前記第2の記憶部に記憶された情報に基づき、前記多次元伝送において、第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するための最尤判定処理部と、
前記最尤判定処理部の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するための誤り訂正復号処理部とを含む、無線通信システム。
【請求項2】
前記信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、前記第1および第2の搬送波信号の合計のピーク電力についての正規化である、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、前記第1および第2の搬送波信号それぞれのピーク電力についての正規化である、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記信号点配置は、信号点配置に対するピーク電力についての正規化とともに、各送信シンボルについて、ハミング距離をユークリッド距離で割った値を引数とする単調増加関数を、送信シンボルの集合について最小化するように算出されたものである、請求項2または3記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記関数は、各送信シンボルについてハミング距離をユークリッド距離で割った値の送信シンボルについての総和である、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第1および第2の搬送波信号は、互いに直交する2偏波の搬送波信号である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記第1および第2の搬送波信号は、互いに異なる周波数の搬送波信号である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送信を行う無線通信装置であって、
送信アンテナと、
送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するための誤り訂正符号化処理部と、
記憶部とを備え、
前記記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、
前記記憶部に記憶された情報に基づき、前記多次元伝送において、誤り訂正符号化処理部の出力を、前記第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理部と、
前記マッピング処理部の処理結果に基づき、前記第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、前記送信アンテナより送出する送信部とをさらに備える、無線通信装置。
【請求項9】
第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で受信を行う無線通信装置であって、
受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信された信号について、それぞれ前記第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行する受信部と、
記憶部とを備え、
前記記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、
前記記憶部に記憶された情報に基づき、前記多次元伝送において、前記第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するための最尤判定処理部と、
前記最尤判定処理部の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するための誤り訂正復号処理部とをさらに備える、無線通信装置。
【請求項10】
前記信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、前記第1および第2の搬送波信号の合計のピーク電力についての正規化である、請求項8または9記載の無線通信装置。
【請求項11】
前記信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、前記第1および第2の搬送波信号それぞれのピーク電力についての正規化である、請求項8または9記載の無線通信装置。
【請求項12】
前記信号点配置は、信号点配置に対するピーク電力についての正規化とともに、各送信シンボルについて、ハミング距離をユークリッド距離で割った値を引数とする単調増加関数を、送信シンボルの集合について最小化するように算出されたものである、請求項10または11記載の無線通信装置。
【請求項13】
前記関数は、各送信シンボルについてハミング距離をユークリッド距離で割った値の送信シンボルについての総和である、請求項12に記載の無線通信装置。
【請求項14】
前記第1および第2の搬送波信号は、互いに直交する2偏波の搬送波信号である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項15】
前記第1および第2の搬送波信号は、互いに異なる周波数の搬送波信号である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項16】
第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送受信を行う無線通信方法であって、
送信機が、送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するステップと、
送信機が、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置に基づき、前記多次元伝送において、誤り訂正符号化処理の結果を、前記第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理を行うステップと、
送信機が、前記マッピング処理の結果に基づき、第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、前記送信アンテナより送出するステップと、
受信機が、受信された信号について、それぞれ第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行するステップと、
受信機が、前記送信機における前記信号点配置に基づき、前記多次元伝送において、第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するステップと、
受信機が、前記最尤判定の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するステップとを備える、無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数偏波の信号で通信する無線通信装置、無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル伝送の変調方式では、搬送波の位相を変えて情報を伝送する位相変調(PSK変調)や振幅および位相を変化させて伝送速度(周波数利用効率)を高めた直交振幅変調(QAM)などがよく用いられる。
【0003】
これらの変調方式では1シンボルあたりのビット数を増加させる多値化により伝送速度を高めることができるが、シンボル間直線距離(ユークリッド距離)が小さくなるため、同じビット誤り率(BER)を達成するためには高い信号電力が必要となる。送信電力一定の条件下では、ビット誤り率を向上するにはシンボル間最小距離(最小ユークリッド距離)を大きくすることが重要であり、同じ変調多値数で最小ユークリッド距離の大きな信号点配置(最適配置)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、加法性白色ガウス雑音(AWGN)環境下では、シンボル誤りは位相平面上の隣接シンボル間で発生するため、隣接シンボル間が1ビット違いとなる(ハミング距離が1となる)ようにグレイ化された信号点配置を用いることで、各変調方式のビット誤り率を最小化できることが知られている。さらに、誤り訂正符号とデジタル変調を組み合わせて等価的にユークリッド距離を大きくする符号化変調方式としてトレリス符号化変調方式(TCM)が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
一方で、無線通信システムで用いられる電力増幅器は非線形性による性能劣化が生じるため、特にマルチキャリア伝送や大電力送信時には、送信信号のピーク対平均電力比(PAPR)を小さくすることが重要となる。PAPRは変調方式やフィルタ特性などに依存しており、符号化変調やピーク値抑圧によるPAPR対策が知られている。
【0006】
また、近年、無線通信システムの普及により、マイクロ波帯を中心として周波数資源の不足が顕在化しており、高い周波数利用効率を達成するための伝送技術が求められている。直交偏波多重技術は、アンテナから放射される電波の波面方向に着目し、互いに直交する波面をもつ独立した信号を同一周波数で伝送するものである。
【0007】
この直交多重偏波技術を適用すると、固定無線通信等で使用される直線偏波の場合、垂直(V)偏波と水平(H)偏波を用いたV,H偏波多重を実現できる。この場合、直交偏波多重技術を適用しない場合と比較して、周波数利用効率は2倍となる(たとえば、特許文献1を参照)。V,H偏波多重信号は、例えば、2つの直線状放射素子を十字型に直交配置することにより送受信することができる。
【0008】
さらに、衛星通信では、複数偏波に信号を多重して周波数利用効率を向上させる偏波多重方式が知られている(例えば、非特許文献3参照)。この方式では、各偏波にビットを割り当て、合成前の各偏波成分を水平(H)・垂直(V)偏波のIQ平面上に写像した値を多重(合成)することで信号点を形成する。このとき、H/V各偏波上のシンボル間の最小ユークリッド距離が最大となるように、信号点配置の最適化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−189306号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gerard J. Foschini、Richard D. Gitlin、Stephen B. Weinstein、”Optimization of Two-Dimensional Signal Constellation in the Presence of Gaussian Noise”、IEEE Trans. Commun.、Vol.COM-22、No.1、pp.28-38、Jan.1974.
【非特許文献2】G. Ungerboeck "Trellis-coded modulation with redundant signal sets part1 and part2"、IEEE Comm. Mag.、Vol. 25、No. 2、pp.5 -21、1987.
【非特許文献3】M. Yofune, J. Webber, K. Yano, H. Ban, and K. Kobayashi, ”Optimization of Signal Design for Poly-Polarization Multiplexing in Satellite Communications,” IEEE Communications Letters, Vol. 17, No. 11, pp.2017-2020, Nov. 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献3においては、以下の数式(E0)のようにH/V偏波上の各シンボルH(n),V(n)に対してH/V合計の平均電力で正規化することにより、送信電力一定(H/V合計電力=1)の条件下で最適化を行っているため、最適配置の最大電力(ピーク電力)が大きくなる可能性がある。
【0012】
【数1】

ただし、H(n),V(n)は、H/V偏波それぞれに対するnシンボル目(1≦n≦2N)のIQ成分(複素数)、Hopt(n),Vopt(n)は、H/V合計の平均電力で正規化された最適配置のIQ成分(複素数)、NはH/V偏波上の1シンボル当たりのビット数であり、|…|は絶対値を意味する。
【0013】
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、偏波多重方式などの多次元伝送方式に対してPAPRを抑制して、最適化された信号点配置を用いた無線通信システム、無線通信装置および無線通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の1つの局面に従うと、第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送受信を行う無線通信システムであって、送信機および受信機を備え、送信機は、送信アンテナと、送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するための誤り訂正符号化処理部と、第1の記憶部とを含み、第1の記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、第1の記憶部に記憶された情報に基づき、多次元伝送において、誤り訂正符号化処理部の出力を、第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理部と、マッピング処理部の処理結果に基づき、第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、送信アンテナより送出する送信部とをさらに含み、受信機は、受信アンテナと、受信アンテナで受信された信号について、それぞれ第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行する受信部と、第1の記憶部に記憶される信号点配置に対応する情報を記憶する第2の記憶部と、第2の記憶部に記憶された情報に基づき、多次元伝送において、第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するための最尤判定処理部と、最尤判定処理部の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するための誤り訂正復号処理部とを含む。
【0015】
好ましくは、信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、第1および第2の搬送波信号の合計のピーク電力についての正規化である。
【0016】
好ましくは、信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、第1および第2の搬送波信号それぞれのピーク電力についての正規化である。
【0017】
好ましくは、信号点配置は、信号点配置に対するピーク電力についての正規化とともに、各送信シンボルについて、ハミング距離をユークリッド距離で割った値を引数とする単調増加関数を、送信シンボルの集合について最小化するように算出されたものである。
【0018】
好ましくは、関数は、各送信シンボルについてハミング距離をユークリッド距離で割った値の送信シンボルについての総和である。
【0019】
好ましくは、第1および第2の搬送波信号は、互いに直交する2偏波の搬送波信号である。
【0020】
好ましくは、第1および第2の搬送波信号は、互いに異なる周波数の搬送波信号である。
【0021】
この発明の他の局面に従うと、第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送信を行う無線通信装置であって、送信アンテナと、送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するための誤り訂正符号化処理部と、記憶部とを備え、記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、記憶部に記憶された情報に基づき、多次元伝送において、誤り訂正符号化処理部の出力を、第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理部と、マッピング処理部の処理結果に基づき、第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、送信アンテナより送出する送信部とをさらに備える。
【0022】
この発明のさらに他の局面に従うと、第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で受信を行う無線通信装置であって、受信アンテナと、受信アンテナで受信された信号について、それぞれ第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行する受信部と、記憶部とを備え、記憶部は、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置を記憶し、記憶部に記憶された情報に基づき、多次元伝送において、第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するための最尤判定処理部と、最尤判定処理部の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するための誤り訂正復号処理部とをさらに備える。
【0023】
好ましくは、信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、第1および第2の搬送波信号の合計のピーク電力についての正規化である。
【0024】
好ましくは、信号点配置に対するピーク電力についての正規化は、第1および第2の搬送波信号それぞれのピーク電力についての正規化である。
【0025】
好ましくは、信号点配置は、信号点配置に対するピーク電力についての正規化とともに、各送信シンボルについて、ハミング距離をユークリッド距離で割った値を引数とする単調増加関数を、送信シンボルの集合について最小化するように算出されたものである。
【0026】
好ましくは、関数は、各送信シンボルについてハミング距離をユークリッド距離で割った値の送信シンボルについての総和である。
【0027】
好ましくは、第1および第2の搬送波信号は、互いに直交する2偏波の搬送波信号である。
【0028】
好ましくは、第1および第2の搬送波信号は、互いに異なる周波数の搬送波信号である。
【0029】
この発明のさらに他の局面に従うと、第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる多次元伝送で送受信を行う無線通信方法であって、送信機が、送信シンボルに誤り訂正符号化処理を実行するステップと、送信機が、各送信シンボルについて、信号点配置に対するピーク電力についての正規化および誤り訂正時における各シンボルに割り当てられた符号のビット誤り率への影響を最小化するように算出された信号点配置に基づき、多次元伝送において、誤り訂正符号化処理の結果を、第1および第2の搬送波信号の同相成分および直交位相成分平面内に割り当てるマッピング処理を行うステップと、送信機が、マッピング処理の結果に基づき、第1および第2の搬送波信号について直交変調を実行して、送信アンテナより送出するステップと、受信機が、受信された信号について、それぞれ第1および第2の搬送波信号について直交検波を実行するステップと、受信機が、送信機における信号点配置に基づき、多次元伝送において、第1および第2の搬送波信号について、最尤判定を実行するステップと、受信機が、最尤判定の判定結果に基づき、誤り訂正復号処理を実行するステップとを備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、PAPRを抑制しつつ、偏波多重方式などの多次元伝送方式に対するビット誤り率に優れた信号点配置により送信または受信を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施の形態の送信機1000の構成を説明するための機能ブロック図である。
図2】本実施の形態の受信機2000の構成を説明するための機能ブロック図である。
図3】非直交偏波多重方式の概要を示す概念図である。
図4】多偏波空間変調方式の概要を示す概念図である。
図5】最小ユークリッド距離を最大とする最適化配置を探索した結果を示す図である。
図6図5における配置AのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
図7図5における配置BのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
図8図5における配置CのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
図9図5に示した探索した各最適配置の評価値を示す図である。
図10】BER特性をシミュレーションした送受信機構成を示す図である。
図11】各最適信号点配置についてのBERシミュレーションの結果を示す図である。
図12】送信機1000および受信機2000での処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0033】
本実施の形態の無線通信システムは、一般には、第1および第2の搬送波信号により構成される空間に信号点を割り当てる「多次元伝送」で送受信を行う無線通信システムである。
【0034】
より特定的には、好ましくは、このような「多次元伝送」では、第1の搬送波信号により構成される空間の信号点が対応する情報が縮退しており、第2の搬送波信号により構成される空間の信号点により縮退が解かれる関係があり、逆に、第2の搬送波信号により構成される空間の信号点が対応する情報が縮退しており、第1の搬送波信号により構成される空間の信号点により縮退が解かれる関係があるような無線通信システムに適用可能なものである。
【0035】
ただし、以下の説明では、一例として、本実施の形態の無線通信システムは、偏波多重通信方式を採用するものとして説明する。
【0036】
好ましくは、本実施の形態では、水平偏波および垂直偏波の2つの偏波を用いて情報伝達を行うシステムにおける通信装置で、衛星通信のように送受信間に際立った障害物の無いシステム系で用いる状態が、より好適である。なお、送信機能のみの通信機には、本実施の形態の送信機能のみを、受信機能のみの通信機には、本実施の形態の受信機能のみを備える構成とすることが可能である。また、送受信機には、送受信機能を備える構成とすることも可能である。
【0037】
また、本実施の形態の無線通信システムは、2直交の偏波(現実的なレベルでの直交であり、交差偏波成分は0でなくともよい)を同時に情報伝送に利用する無線通信機が対象である。ただし、本実施の形態の送信機、受信機、送受信機において、以下に説明するような偏波多重通信の機能を一時停止させて、従来の通信方式での通信に切り替えることが可能なようにシステムを構成することも可能である。
【0038】
(送信機および受信機の構成)
図1は、本実施の形態の送信機1000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0039】
図1を参照して、送信機1000は、送信するべきデジタルデータ信号(情報ビット)を受け、情報ビットに対して誤り訂正符号化処理を実行し送信シンボルに変換する誤り訂正符号化処理部100を備える。なお、誤り訂正符号化処理だけでなく、「インターリーブ処理」などが実行されてもよい。
【0040】
送信機1000は、さらに、送信されるシンボルをシリアル/パラレル変換(S/P変換)するS/P変換部102と、パラレル信号に変換された送信シンボルを、I/Qマッピングデータ記憶部106に保持された情報に基づいて、水平偏波(H偏波)および垂直偏波(V偏波)の各偏波成分について、信号空間ダイアグラム(コンステレーション)における信号点にマッピングするV/Hマッピング処理部104とを備える。
【0041】
ここで、I成分とは、直交変調の際の同相成分を意味し、Q成分とは、直交変調の際の直交位相成分のことを意味し、I/Qマッピングとは、I成分およびQ成分で張られる平面上に信号点を配置することを意味する。
【0042】
送信機1000は、さらに、V/Hマッピング処理部104からのV偏波についてのI/Q成分を、対応する変調方式(たとえば、QPSK変調方式)で直交変調する直交変調部108aと、V/Hマッピング処理部104からのH偏波についてのI/Q成分を、対応する変調方式(たとえば、QPSK変調方式)で直交変調する直交変調部108bと、直交変調部108aの出力をデジタル・アナログ変換するためのD/A変換部110aと、直交変調部108bの出力をデジタル・アナログ変換するためのD/A変換部110bとを備える。
【0043】
D/A変換部110aの出力は、図示しない電力増幅器で増幅され、送信フィルタ処理部112aで不要な周波数成分を抑圧するためのフィルタ処理をされた後、垂直偏波アンテナ114aから送出される。また、D/A変換部110bの出力は、図示しない電力増幅器で増幅され、送信フィルタ処理部112bでフィルタ処理をされた後、水平偏波アンテナ114bから送出される。
【0044】
図1においては、水平偏波についての処理と垂直偏波についての処理は、相互に同期して実行されるものとする。
【0045】
図2は、本実施の形態の受信機2000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0046】
図2を参照して、受信機2000は、垂直偏波アンテナ200aと水平偏波アンテナ200bと、垂直偏波アンテナ200aからの受信信号を図示しない低雑音増幅器が増幅した信号をフィルタ処理する受信フィルタ処理部202aと、水平偏波アンテナ200bからの受信信号を図示しない低雑音増幅器が増幅した信号をフィルタ処理する受信フィルタ処理部202bと、受信フィルタ処理部202aからの信号をアナログデジタル変換するためのアナログデジタル変換部(A/D変換部)204aと、受信フィルタ処理部202bからの信号をアナログデジタル変換するためのA/D変換部204bとを備える。
【0047】
受信機2000は、さらに、A/D変換部204aおよび204bからの信号をそれぞれ受けて、コンステレーション上におけるI/Q成分を分離する直交検波部206aおよび206を備える。
【0048】
最尤判定処理部208は、I/Qマッピングデータ記憶部210からのマッピング情報に基づいて、直交検波部206aおよび206bからの信号に対して、信号空間ダイアグラム上の所定の信号点に対する尤度を算出し、MLD(Maximum Likelihood Detection)法による最尤復号を行う。MLD法では、受信信号に対し、送信アンテナから送信されうる送信信号のすべての組合せを用いてメトリックを算出する。そして、最小の距離を与える送信信号の組合せを選択する。
【0049】
なお、「信号点」とは、変調方式によりコンステレーション上に定義される基準となる位置のことをいい、「シンボル」とは、送信側で変調されて、基準クロックで伝送される情報の単位である「符号」を意味する。
【0050】
最尤判定処理部208により算出された送信信号のビット情報は、パラレル/シリアル変換(P/S変換)を行うP/S変換部212を経て、誤り訂正復号処理部214により誤り訂正された後、受信シンボルとして出力される。
【0051】
なお、送信機側の構成に従って、誤り訂正復号処理部214では、畳み込みの復号やデインターリーブ処理が実行されてもよい。
(直交偏波多重変調における周波数利用効率の向上のための信号方式)
上述した非特許文献3に記載されているように、直交偏波多重において、周波数利用効率を向上させるための方式として、「非直交偏波多重方式」と「多偏波空間変調方式」とが提案されている。
【0052】
以下、その内容について簡単にまとめる。
【0053】
(非直交偏波多重方式)
図3は、非直交偏波多重方式の概要を示す概念図である。
【0054】
図3(a)を参照して、この非直交偏波多重方式では、直交するH/V偏波に対して非直交な偏波(図3(a)でSと表す)を追加合成して伝送情報量を増大させることで、H/V偏波のみをそれぞれ独立に用いる従来の方式よりも効率的な伝送を可能とする。
【0055】
このとき、図3(a)のように同時に複数の信号点をH/V空間上に配置する。この方式における信号点は、合成前の各偏波成分H/V偏波それぞれに写像した値を合成することで形成される。
【0056】
図3(a)では、非直交な偏波成分は、S偏波のみとしているが、より一般には、非直交な偏波成分は、複数個を想定することが可能である。
【0057】
ここで、n番目の偏波Snに割り当てる変調方式の複素信号点をrn,aとすると、偏波合成後のH/V偏波上の信号点配置点Ha,Vaは、次式で与えられる。
【0058】
【数2】

ただし、aは、シンボル番号(1≦a≦2b)、bは1シンボルたりのビット数、Nは偏波数(多重数)、msnは偏波Snの振幅、ψSnは、偏波Snの(H偏波に対する)偏波角とする。
【0059】
図3(b)は、H偏波、V偏波、S偏波のそれぞれについて、QPSK変調を想定した場合、H/V偏波に対して非直交なS偏波を追加合成した場合のH偏波およびV偏波の信号点配置を示す。
【0060】
すなわち、非直交偏波多重方式における偏波多重数を3、各偏波に割り当てる変調ビット数を2ビット(QPSK)で同一変調とする場合、次式のようにrn,aに情報ビットi(n),q(n)を割当て、数式(1)(2)で表される信号点Ha,Vaにマッピングを行う。
【0061】
【数3】

ただし、i(n)=(0,1),q(n)=(0,1)とする。
【0062】
この設定条件において、基準とする偏波S1(H偏波)の振幅ms1(=1)、偏波角ψS1(=0°)を固定し、S2/S3の振幅ms2,ms3および偏波S1に対する偏波角ψS2,ψS3を変化させるとする。一例として、ms2=1、ψS2=90°で固定したときには、ms3およびψS3を変化させた場合、最小ユークリッド距離が最大となるパラメータの組合せは、(ms1,ms2,ms3)=(1:1:0.707),(ψS1,ψS2,ψS3)=(0°:90°:45°)である。これが、図3(b)に示す配置となる。
【0063】
この場合、H偏波の空間またはV偏波の空間では、1つの信号点(シンボル)は、6ビットの情報に対応しており、4重に縮退している。ただし、H偏波とV偏波の信号点の情報を組み合わせることで、縮退を解いて、表現する情報ビットを特定することができる。
【0064】
(多偏波空間変調方式)
多偏波空間変調方式では、搬送波のI/Q成分と偏波角φlで表現される合成ベクトルをH/V空間上の1つの配置点とみなして変調多値数を増大させることで、従来方式よりも高効率な伝送を可能とする。
【0065】
図4は、このような多偏波空間変調方式の概要を示す概念図である。
【0066】
図4(a)に示すように、同時に1つの信号点をH/V空間上に配置する。すなわち、従来方式では、H空間およびV空間は、それぞれ、独立なものとして、信号点を配置していた。多偏波空間変調方式では、HとVで張られる空間にも、偏波角を制御することで信号点を配置する。
【0067】
ここで、基準とする(搬送波のI/Q成分に割り当てる)変調方式の複素信号点をrcとすると、この方式におけるH/V偏波上の信号点配置点Ha,Vaは、次式で与えられる。
【0068】
【数4】

ただし、cは基準とする変調方式のシンボル番号(1≦c≦2d)、dは基準とする変調方式のビット数、角φlは偏波角(1≦l≦2e),eは偏波角に割り当てるビット数とする。
【0069】
多偏波空間変調方式において、基準とする変調方式をQPSK(2ビット)として、偏波角に1ビットを割り当てる場合、次式のようにrc,φに情報ビットi,q,kを割り当て、数式(4)(5)で表現される信号点Ha,Vaにマッピングを行う。
【0070】
【数5】

ただし、i=(0,1),q=(0,1),k=(0,1),0°≦ψ≦180°とする。
【0071】
この設定条件において、偏波角ψ=0°〜180°で変化させたときの最小ユークリッド距離が最大となる偏波角を求めると、45°または135°となる。
【0072】
これが、図4(b)に示す配置となる。
【0073】
たとえば、図4(b)において、ψ=45°とすると、各信号点(シンボル)は、3ビットの情報に対応しており、2重に縮退している。ただし、H偏波とV偏波の信号点の情報を組み合わせることで、縮退を解いて、表現する情報ビットを特定することができる。
【0074】
以上説明したように、「非直交偏波多重方式」と「多偏波空間変調方式」とは、従来の偏波多重方式よりも周波数利用効率を向上させるために、以下のような性質を利用している点で共通している。
【0075】
すなわち、従来のV偏波およびH偏波を用いる直交偏波多重変調は、物理的に互いに独立なV偏波内およびH偏波内でそれぞれ多値変調を用いた信号点を定義している。この結果、V偏波のみ、またはH偏波のみを利用した場合に比べて、2倍の効率を達成していることになる。
【0076】
これに対して、「非直交偏波多重方式」または「多偏波空間変調方式」は、V偏波内およびH偏波内だけではなく、V偏波とH偏波により構成される空間にも信号点を割り当てることで、従来方式以上の周波数利用効率を達成していることになる。
【0077】
そこで、以下では、このようにV偏波とH偏波により構成される空間にも信号点を割り当てる方式のことを総称する場合「多偏波空間多重伝送方式」と呼ぶことにする。
【0078】
以上説明したように、図3および図4は、信号点間の最小のユークリッド距離が最大になるように、信号点の配置を決定した場合を示している。
【0079】
しかしながら、加法性ホワイトガウスノイズ(AWGN:additive white Gaussian noise)環境では、隣接シンボル間においてシンボル誤りが発生するため、隣接シンボル間のユークリッド距離を拡大し、ハミング距離を小さくすることが、誤り耐性の向上に寄与する。
【0080】
一方で、上述したPAPRの増大の原因は、信号点配置のピーク電力である。
【0081】
そこで、本実施の形態では、以下の数式(E1)、(E2)のように各シンボルをH/V合計(またはH/V各偏波)のピーク電力で正規化した上で信号点配置を最適化する。
【0082】
そこで、以下では、数式(E1)または数式(E2)による正規化を総称するときには、「信号点配置に対するピーク電力についての正規化」と呼ぶことにする。
【0083】
このとき、送信電力一定(H/V合計電力=1)の条件に合わせる場合は、さらに数式(E3)の処理を行う。
【0084】
【数6】

そこで、数式(E3)のような処理については、「信号点配置に対する送信電力についての正規化」と呼ぶことにする。
【0085】
また、信号点配置の最適化には、最小ユークリッド距離を最大とする評価基準や、ハミング距離Hdistとユークリッド距離Edistを組み合わせた評価式(例えば、数式(E4))を最小とする基準など、評価対象に合わせた基準を用いることができる。この評価式(E4)と数式(E1)、(E2)の正規化手法を組み合わせることで、BER特性劣化の主な要因となる、誤り訂正における各シンボルに割り当てられた符号の影響を最小化するような低PAPRの信号点配置を簡単に導出することができる。
【0086】
【数7】

Nは、H/V偏波面上の全シンボル数、NはH/V偏波上の1シンボル当たりのビット数を示す。
【0087】
ここで、この評価式(E4)の関数としては単調な増加関数を用いることで、生成可能な信号点配置の中からBER特性を向上させる配置(シンボル間の平均ユークリッド距離が大きく、BER特性劣化の主な要因となるシンボル(Hdist:大、Edist:小)が少ない配置)を簡単に導出することができる。
【0088】
この関数では、H/V偏波面上のすべてのシンボルについて、各シンボルについてハミング距離をユークリッド距離で割った値が、関数の引数として含まれ、かつ、各シンボルからの関数Fへの寄与が同等となるようにしている。
【0089】
nはH/V偏波面上のシンボルインデックス(1≦n≦2N)、上述のとおり、関数Fはnで指定される値である(Hdist(n)/Edist(n))の集合に対して、各要素の増加に対する単調増加関数を示し、この関数Fの値が最小となるように信号点配置を決定する。
【0090】
ここで、逆に、関数Fが、nで指定される値である(Hdist(n)/Edist(n))の集合に対して、各要素の増加に対する単調減少関数である場合に、この関数Fの値が最大となるように信号点配置を決定してもよい。本明細書においては、この両者は、実質的に等価であるので、「関数Fはnで指定される値である(Hdist(n)/Edist(n))の集合に対して、各要素の増加に対する単調増加関数を示し、この関数Fの値が最小となるように信号点配置を決定する」と記載する場合、後者のような場合も含んだ意義を有するものとする。そして、この両者の場合を総称して、「(H/V偏波面上の)各送信シンボルについて、ハミング距離をユークリッド距離で割った値を引数とする単調増加関数を、送信シンボルの集合について最小化するように信号点配置を決定する」と記述する。
【0091】
より具体的には、数式(E4)の関数Fは、例えば、式(E4)の下に例示するように、(Hdist(n)/Edist(n))の総和とすることができる。
(信号配置)
以下では、上記のような基準に従って、信号配置を算出した具体例について説明する。
【0092】
ここでは、3つの仮想偏波にIQ(2bit)を割り当てた信号を数式(E5)のように合成し、(1シンボル当たり6ビットで表現される)H/V偏波上のIQ平面にマッピングすることで、H/V偏波上の信号点配置のデータ(I/Q mapping Data)が形成されるものとする。
【0093】
【数8】

ただし、Hは水平偏波のIQ成分(複素数)、Vは垂直偏波のIQ成分(複素数)とし、αk、βkは、k番目の偏波に対するH/V偏波へのマッピング係数(複素数であり各偏波の振幅・位相・偏波角を制御するパラメータ)実部虚部それぞれ±1の範囲の値をとる。xk(n)はk番目の偏波に割り当てる変調方式の複素信号点とする。さらに、最適化の条件として、H/V偏波間は完全同期で干渉は生じないものとする。
【0094】
また、H/V偏波の電力バランスが保証されない場合は、送信側に大電力用の電力増幅器が必要になるため(H/V偏波の電力の大小関係が不定の場合は大きい電力に合わせる必要があるため)、最適配置のH/V各偏波の電力が異なる場合は、適切な角度θの偏波回転行列(数式(E6))を乗算してH/V等電力の信号点配置に調整を行う。なお、等電力化前後の配置でBER特性差は生じない。
【0095】
【数9】

(信号配置の具体例)
図5は、最小ユークリッド距離を最大とする最適化配置を探索した結果を示す図である。
【0096】
図6は、図5における配置AのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
【0097】
図7は、図5における配置BのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
【0098】
図8は、図5における配置CのH/V偏波の各々におけるIQ平面での信号点配置を示す図である。
【0099】
図5においては、数式(E5)のマッピング係数の実部/虚部のそれぞれについて、
±1(0.00001ステップ)
の範囲で変化させた場合に生成可能な信号点配置について、26[bit/symbol]
(=64個)の全シンボルに対する最小ユークリッド距離を最大とする最適化配置を探索した結果を正規化基準とともに示す。
【0100】
図6に示すように、配置Aは数式(E0)(H/V合計の平均電力)で正規化した従来の最適配置である。
【0101】
図7に示すように、配置Bは数式(E1)(H/V合計のピーク電力)で正規化した場合の最適配置である。
【0102】
図8に示すように、配置Cは数式(E2)(H/V各偏波のピーク電力)で正規化した場合の最適配置である。
【0103】
なお、配置B,Cについては、図5に記載のマッピング係数で生成される配置に対して数式(E3)の処理を行い、送信電力一定(H/V合計電力=1)としている。
【0104】
図9は、図5に示した探索した各最適配置の評価値を示す図である。
【0105】
図9に示すように、従来の最適配置Aに比べて、数式(E1)または(E2)により正規化した配置B,CのPAPRが低減している。
【0106】
図10は、BER特性をシミュレーションした送受信機構成を示す図である。
【0107】
図10に示す偏波多重方式の送受信機構成にて、図6〜8の各配置に電力増幅器の非線形歪みの影響を与えた場合のBER特性を計算機シミュレーションにより確認した。
【0108】
図11は、各最適信号点配置についてのBERシミュレーションの結果を示す図である。
【0109】
なお、シミュレーションにおいては、誤り訂正方式は、LDPC(Low-Density Parity-Check; 低密度検査)符号化/BP(Belief Propagation)復号(符号化率R=1/2と5/6、BP復号に必要な雑音電力推定は理想)とし、電力増幅器の非線形歪みの影響はRappモデルで与え、非線形性の強さを表す係数pは1.5とした。
【0110】
このようなシミュレーションの手法については、たとえば、以下の文献に開示がある。
【0111】
文献:S. C. Thompson, J. G. Proakis, and J. R. Zeidler, ”The Effectiveness of Signal Clipping for PAPR and Total Degradation Reduction in OFDM Systems,” IEEE GLOBECOM 2005
図11に示すように、数式(E1)の手法で最適化した配置Bの誤り率は、BER=10-2点で、従来の配置Aと比較して符号化率1/2で所要Eb/N0が約0.4dB改善し、符号化率5/6で約1.0dB改善している。一方、数式(E2)の手法で最適化した配置Cの誤り率は、図9に示したように、PAPRについては改善をもたらしつつ、符号化率5/6で約0.2dB改善している。
【0112】
このように、本実施の形態によれば、PAPRを抑制しつつ、偏波多重方式に対するビット誤り率に優れた最適な信号点配置を簡単に導出することができる。
【0113】
この図7図8のようにして計算された、各シンボルとH/V偏波のI/Q平面上の信号点配置の関係が、上述したI/Qマッピングデータ記憶部106またはI/Qマッピングデータ記憶部210に格納されているものとする。
【0114】
図12は、送信機1000および受信機2000での処理を説明するためのフローチャートである。
【0115】
図12を参照して、まず、送信機1000において、送信信号の誤り訂正符号化処理が実行される(S100)。
【0116】
続いて、送信機1000は、上述したような最適化がされ、I/Qマッピングデータ記憶部106に記憶されたI/Qマッピングデータに基づいて、V偏波空間およびH偏波空間に信号をマッピングする(S102)。
【0117】
送信機1000は、さらに、V偏波空間およびH偏波空間において、それぞれ、信号を変調(直交変調)し(S104)、D/A変換した後、V偏波およびH偏波についてそれぞれアンテナから信号を送出する(S106)。
【0118】
一方、受信機2000は、アンテナによりV偏波およびH偏波を受信し(S110)、A/D変換の後、V偏波成分およびH偏波成分のそれぞれについて、直交検波を行う(S112)。
【0119】
さらに、受信機2000は、上述したような最適化がされ、I/Qマッピングデータ記憶部210に記憶されたI/Qマッピングデータに基づいて、V偏波空間およびH偏波空間で最尤推定を行い(S114)、誤り訂正復号処理を行って受信シンボルを取得する(S116)。
【0120】
このように、本実施の形態の信号点配置によれば、PAPRを抑制しつつ、偏波多重方式などの多次元伝送方式に対するビット誤り率に優れた信号点配置を簡単に導出することができる。
【0121】
PAPRを抑制しつつ、偏波多重方式などの多次元伝送方式に対するビット誤り率に優れた信号点配置により送信または受信を行うことが可能となる。
【0122】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0123】
100 誤り訂正符号化処理部、102 S/P変換部、104 V/Hマッピング処理部、106,210 I/Qマッピングデータ記憶部、108a,108b 直交変調部、110a,110b D/A変換部、112a、112b 送信フィルタ処理部、114a,200a 垂直偏波アンテナ、114b,200b 水平偏波アンテナ、202a,202b 受信フィルタ処理部、204a,204b A/D変換部、206a,206b 直交検波部、208 最尤判定処理部、212 P/S変換部、214 誤り訂正復号処理部、1000 送信機、2000 受信機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12