特許第6387543号(P6387543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387543被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6387543
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20180903BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20180903BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20180903BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20180903BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C23C26/00 A
   C09D5/00 D
   H05K3/38 E
   B32B15/08 Q
   C09D201/02
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-94633(P2017-94633)
(22)【出願日】2017年5月11日
【審査請求日】2018年6月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】東松 逸朗
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 航介
(72)【発明者】
【氏名】網谷 康孝
(72)【発明者】
【氏名】柴沼 祐子
(72)【発明者】
【氏名】片山 育代
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/110364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00− 30/00
C09D 1/00− 10/00
C09D101/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、
一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物;ならびにチオ化合物(pKaが−1.9以下である硫黄のオキソ酸およびその塩を除く)を含み、
前記芳香族化合物が、一分子中に含窒素芳香環と含窒素芳香環外のアミノ基を有する化合物、および一分子中に、芳香環と、アミノ基と、シラノール基またはアルコキシシリル基とを有する化合物からなる群から選択される1種以上であり、
前記チオ化合物が、pKaが−1.9より大きい硫黄のオキソ酸の塩、チオ酸およびその塩、ならびに硫黄含有カルボン酸およびその塩からなる群から選択される1種以上である、
被膜形成用組成物。
【請求項2】
pHが4〜10である、請求項1に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記芳香族化合物が芳香族環外に第一級アミノ基または第二級アミノ基を有する、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
前記チオ化合物が、水溶液中で電離してアニオンとして存在している、請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記チオ化合物が、チオ硫酸塩またはチオシアン酸塩である、請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項6】
金属部材の表面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される、表面処理金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記金属部材の表面に、前記被膜形成用組成物を接触させた後、2分以内に前記金属部材の表面の洗浄が行われる、請求項に記載の表面処理金属部材の製造方法。
【請求項8】
前記金属部材が銅または銅合金である、請求項またはに記載の表面処理金属部材の製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の方法により金属部材の表面に被膜を形成後、前記被膜上に樹脂部材を接合する、金属‐樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の表面に樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物に関する。さらに、本発明は被膜形成用組成物を用いた表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造工程においては、金属層や金属配線の表面に、エッチングレジスト、めっきレジスト、ソルダーレジスト、プリプレグ等の樹脂材料が接合される。プリント配線板の製造工程および製造後の製品においては、金属と樹脂との間に高い接着性が求められる。金属と樹脂との接着性を高めるために、粗化剤(マイクロエッチング剤)により金属の表面に微細な凹凸形状を形成する方法、金属の表面に樹脂との接着性を向上するための被膜(接着層)を形成する方法、粗化表面に接着層を形成する方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硫酸、酸化剤としての過酸化水素、含窒素複素環化合物およびスルフィン酸と、所定量のフッ化物イオンおよび塩化物イオンとを含む酸性水溶液により、銅合金からなるリードフレームの表面を粗化して、樹脂との接着性を向上することが開示されている。特許文献2には、銅被膜を含硫化合物溶液に浸漬することにより、接着性向上剤として作用する被膜を形成することが開示されている。特許文献3には、特定のテトラゾール化合物、ハロゲン化合物および金属塩を含有する水溶液で銅を表面処理することにより、樹脂との密着性を向上できることが開示されている。
【0004】
特許文献4では、銅イオンを含有する酸性水溶液により銅配線の表面を粗化処理した後、有機酸、ベンゾトリアゾール系防錆剤およびシランカップリング剤を含有する水溶液で処理することにより、銅配線とエポキシ樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献5および特許文献6では、特定のシラン化合物を含有する溶液を金属の表面に接触させて被膜を形成することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献7では、トリアゾール系化合物、シランカップリング剤および有機酸からなる防錆剤を銅箔表面に塗布することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/093284号パンフレット
【特許文献2】特開2000−73181号公報
【特許文献3】特開2005−60754号公報
【特許文献4】特開2000−286546号公報
【特許文献5】特開2015−214743号公報
【特許文献6】WO2013/186941号パンフレット
【特許文献7】特開平7−258870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように金属層の表面を粗化する方法は、樹脂の種類によっては十分な接着性が得られない場合がある。また、樹脂との接着性を高めるためにはエッチング深さを大きくする必要がある(例えば、特許文献1の実施例では銅表面を1μm以上エッチングしている)。そのため、プリント配線板の金属配線に適用した場合は線細りが顕著となり、配線の微細化(狭ピッチ化)への対応に限界がある。
【0007】
特許文献2〜7に記載のように金属層を表面処理する方法や金属層の表面に被膜を形成する方法は、接着性向上のために別の金属層(例えば錫めっき層)を設ける必要がなく、金属と樹脂との接合工程を簡素化できる。しかし、従来の組成物は、表面処理の効率や金属表面への膜付着性が低く、金属と樹脂との接着性が十分ではない場合がある。また、樹脂との接着性を十分に向上するためには、組成物(溶液)と金属との接触時間を長くしたり、金属の表面に溶液が付着した状態で溶媒を乾燥して被膜を形成する必要がある。
【0008】
上記に鑑み、本発明は、金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を短時間で形成可能な被膜形成用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討の結果、所定の芳香族化合物とチオ化合物とを含有する組成物が、金属表面への被膜形成性に優れ、金属樹脂間の接着性を大幅に向上可能であり、かつ耐酸性にも優れることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明の被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物、ならびにチオ化合物またはその塩を含有する。被膜形成用組成物のpHは4〜10の範囲が好ましい。チオ化合物は、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩等の水溶液中で電離してアニオンとして存在しているもの(ただし、硫酸、アルキルスルホン酸等のpKaが−1.9以下である硫黄のオキソ酸およびその塩を除く)が好ましい。
【0011】
金属部材の表面に上記被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される。被膜が形成された表面処理金属部材は、樹脂との接着性に優れる。金属部材としては、銅または銅合金材料が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の被膜形成用組成物を用いて銅や銅合金等の金属部材表面に被膜を形成することにより、金属部材と樹脂との接着性を向上できる。上記被膜を介して金属部材と樹脂とを接合することにより、接着性に優れる金属‐樹脂複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】表面処理金属部材の一形態を表す模式的断面図である。
図2】金属‐樹脂複合体の一形態を表す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[被膜形成用組成物]
本発明の被膜形成用組成物は、金属表面への被膜形成に用いられる。被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物、ならびにチオ化合物を含む。以下、本発明の被膜形成用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0015】
<芳香族化合物>
芳香族化合物は、被膜の主成分となる材料であり、一分子中にアミノ基および芳香環を有する。
【0016】
芳香環は、炭素と水素のみから構成されてもよく、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含む複素芳香環でもよい。芳香環は単環でもよく縮合多環でもよい。芳香族化合物は、含窒素芳香環を含むものが好ましい。含窒素芳香環としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン、アゼピン、ジアゼピン、トリアゼピン等の単環や、インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾトリアゾール等の縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β‐カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナントロリン等の縮合三環;キンドリン、キニンドリン等の縮合四環;アクリンドリン等の縮合五環、等が挙げられる。これらの中でも、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン等の2個以上の窒素原子を含む含窒素芳香環が好ましく、イミダゾール、トリアゾールおよびトリアジンが特に好ましい。
【0017】
アミノ基は、第一級、第二級および第三級いずれでもよく、複素環式でもよい。アミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、間接的に結合していてもよい。芳香族化合物は、一分子中に2以上のアミノ基を有していてもよい。含窒素芳香環は、複素環式のアミノ基と芳香環の両方に該当する。そのため、上記の芳香環が含窒素芳香環である場合は、芳香環と別にアミノ基を有していなくてもよい。芳香族化合物は、第二級アミノ基および/または第一級アミノ基を有するものが好ましく、第一級アミノ基を有するものが特に好ましい。芳香族化合物は、芳香環を構成しない第二級アミノ基および/または第一級アミノ基を有するものが好ましく、芳香環を構成しない第一級アミノ基を有するものが特に好ましい。
【0018】
金属と樹脂との接着性に優れる被膜を形成可能であることから、芳香族化合物は、含窒素芳香環を含み、かつ含窒素芳香環にアルキレン基やアルキレンアミノ基等を介して間接的に結合した第一級アミノ基を有する化合物が好ましい。
【0019】
芳香族化合物は、芳香環とアミノ基とを有していればその構造は特に限定されず、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、ジアゾ基、メルカプト基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、アルコキシシリル基等の、アミノ基以外の官能基を有していてもよい。特に、芳香族化合物がアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基を有する場合、芳香族化合物がシランカップリング剤としての作用を有するため、金属と樹脂との接着性が向上する傾向がある。
【0020】
芳香族化合物の分子量が大きいと、水や有機溶媒に対する溶解性が低下したり、金属表面への被膜の密着性が低下する場合がある。そのため、芳香族化合物の分子量は1500以下が好ましく、1200以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。
【0021】
(芳香族化合物の具体例)
芳香族化合物の一例として、下記一般式(I)および(II)で表されるイミダゾールシラン化合物が挙げられる(例えば、特開2015−214743号)。
【0022】
【化1】
【0023】
一般式(I)および(II)におけるR11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表し、pは0〜16の整数である。R31は、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基もしくはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。
【0024】
下記一般式(III)で表されるように、含窒素芳香環としてトリアゾール環を有するシラン化合物も、芳香族化合物として好適に使用できる(例えば、特開2016−56449号)。
【0025】
【化2】
【0026】
一般式(III)におけるR21およびR22、R31ならびにpは、上記一般式(I)および(II)と同様である。R16は、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。Xは、水素原子、メチル基、−NH、−SHまたは−SCHであり、−NHが特に好ましい。
【0027】
芳香族化合物として、トリアジン環を有する化合物も好適に使用できる。下記一般式(IV)は、トリアジン環およびアミノ基を有する芳香族化合物の一例であり、1,3,5‐トリアジンの2,4,6位に置換基を有し、そのうち少なくとも1つは、末端にアミノ基を有している。
【0028】
【化3】
【0029】
上記一般式(VI)において、R50、R51、R52、R60およびR61は、それぞれ独立に、任意の二価の基であり、例えば炭素数1〜6の分岐を有していてもよい置換または無置換のアルキレン基である。アルキレン基は、末端や炭素‐炭素間に、エーテル、カルボニル、カルボキシ、アミド、イミド、カルバミド、カルバメート等を含んでいてもよい。ZはZと同一の基である。mおよびnは、それぞれ独立に、0〜6の整数である。末端基Aは、水素原子、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。
【0030】
一般式(IV)における2つのZが、いずれもm=0であり、末端基Aがアミノ基である化合物は下記式(V)で表される。
【0031】
【化4】
【0032】
上記一般式(V)の化合物は、例えば、ハロゲン化シアヌルと、3モル当量のアルキレンジアミンとを反応させることにより得られる。アルキレンジアミンの一方のアミノ基がハロゲン化シアヌルと反応し、他方のアミノ基が未反応の場合は、上記式(V)のように、末端にアミノ基を有する誘導体が得られる。アルキレンジアミンの両方のアミノ基がハロゲン化シアヌルと反応すると、複数のトリアジン環を有する芳香族化合物(上記のZにおけるmが1以上の化合物)が生成する。
【0033】
上記一般式(IV)で表されるトリアジン誘導体の重合度が高くなると、水や有機溶媒に対する溶解性が低下する場合がある。そのため、末端にアミノ基を有するトリアジン誘導体の合成においては、ハロゲン化シアヌルに対して過剰のアルキレンジアミンを用いることが好ましい。
【0034】
一般式(IV)における2つのZのうち、一方のZがm=0、末端基Aがアミノ基であり、他方のZがm=0、末端基Aがトリアルコキシシリル基である化合物は下記式(VI)で表される。
【0035】
【化5】
【0036】
上記一般式(VI)で表される化合物は、トリアジン環およびアミノ基を有するシランカップリング剤であり、例えばWO2013/186941号に記載の方法により得られる。
【0037】
トリアジン環を有する芳香族化合物としては、上記以外にも、下記一般式(VII)および(VIII)で表されるように、トリアジン環にアルキレンチオ基が結合した化合物等が挙げられる(例えば、特開2016−37457号)。
【0038】
【化6】
【0039】
上記一般式(VII)および(VIII)において、R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表す。R31は、第一級アミノ基(−NH)、または−Si(OR4142(3−k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1〜3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基)である。pは0〜16の整数であり、qは1または2である。
【0040】
芳香族化合物の例として、イミダゾール環を有するシラン化合物、トリアゾール環を有するシラン化合物およびトリアジン環を有する化合物を例示したが、前述のように、被膜形成用組成物に用いられる芳香族化合物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有していればよく、上記例示の化合物に限定されない。
【0041】
(芳香族化合物の含有量)
被膜形成用組成物中の芳香族化合物の含有量は特に限定されないが、金属表面への被膜形成性を高める観点から、0.01〜10重量%が好ましく、0.03〜7重量%がより好ましく、0.05〜5重量%がさらに好ましい。
【0042】
<チオ化合物>
チオ化合物は、金属表面への被膜形成を促進する成分である。従来の被膜形成剤では、一般に、金属表面にシランカップリング剤等を含む溶液が付着した状態で、乾燥を行い、被膜を形成している。これに対して、本発明の被膜形成用組成物はチオ化合物を含むため、金属表面への溶液の接触時に、金属表面への被膜の形成が促進される。
【0043】
チオ化合物は、硫酸やアルキルスルホン酸等のpKaが−1.9以下である硫黄のオキソ酸およびその塩を除く硫黄含有化合物およびその塩が用いられる。多塩基酸およびその塩は、第一段の酸解離定数pKaが−1.9よりも大きければよい。
【0044】
チオ化合物としては、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の硫黄のオキソ酸(pKaが−1.9より大きいものに限る)の塩;チオシアン酸、ジチオカルバミン酸、ジチオカルボン酸類、硫化水素等のチオ酸およびその塩;チオグリコール酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオ酒石酸、3−メルカプトプロピオン酸、ジチオグリコール酸等の硫黄含有カルボン酸およびその塩が挙げられる。その他のチオ化合物として、オキソ酸、チオ酸および硫黄含有カルボン酸のエステル類;2−メルカプトエタノール、4−アミノチオフェノール、2,2’−ジルカプトジエチルスルフィド、ジチオスレイトール、ジチオエイリトリオール等メルカプト化合物;ベンジルチオシアネート、フェニルイソチアネート、ベンジルイソチアネート等のチオシアネート化合物;1−ペンタンスルフォンアミド等のスルフォンアミド化合物、t−ブチルフルフィンアミド等のスルフィンアミド化合物;2、4−チアゾリジンジオン、2−チオ−4チアゾリドン、2−イミン−4−チアゾリジノン等のチアジアゾール化合物、チオ尿素、N−メチル尿素、N,N’‐ジメチル尿素、N−フェニル尿素、グアニルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素等のチオ尿素類;システイン、ホモシステイン、システアミンおよびこれらの塩およびエステル類;チオグリセロール、チオプロリン、3,3’−ジチオジプロパノール等が挙げられる。上記の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。後述のように、置換めっきによる金属の析出を防止する観点から、被膜形成用組成物は、貴な金属の塩を実質的に含まないことが好ましい。
【0045】
上記のチオ化合物の中でも、被膜形成用組成物(水溶液)中で電離してアニオンとして存在するものを用いた場合に、金属表面への被膜形成性が向上する傾向がある。中でも、チオ硫酸(pKa=0.6、pKa=1.6)およびチオシアン酸(pKa=−1.3)等のpKaが−1.8〜5である酸の塩が好ましく、pKaが−1.5〜2である酸の塩が特に好ましい。
【0046】
被膜形成に要する時間を短縮する観点から、被膜形成用組成物中のチオ化合物の含有量は、0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましく、0.03重量%以上がさらに好ましい。チオ化合物の含有量の上限は特に限定されないが、被膜形成性の向上と、被膜の耐久性および樹脂との密着性とを両立する観点から、チオ化合物の含有量は5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。同様の観点から、被膜形成用組成物中のチオ化合物の含有量は、上記芳香族化合物の含有量に対して、重量比で、0.005〜20倍が好ましく、0.01〜15倍がより好ましく、0.1〜10倍がさらに好ましく、0.2〜5倍が特に好ましい。2種以上のチオ化合物が用いられる場合は、チオ化合物の含有量の合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0047】
<溶媒>
上記の芳香族化合物およびチオ化合物を溶媒に溶解することにより、本発明の被膜形成用組成物が調製される。溶媒は、上記各成分を溶解可能であれば特に限定されず、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素等を用いることができる。水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水等が好ましく用いられる。
【0048】
<他の成分>
本発明の被膜形成用組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、キレート剤、シランカップリング剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。
【0049】
被膜形成用組成物が金属に対するキレート剤を含有することにより、溶液中に溶出した微量の金属イオンとキレートを形成するため、金属イオンと上記の芳香族化合物との結合に伴う溶液中への不溶物の析出を抑制できる。
【0050】
上記の芳香族化合物がアルコキシシリル基を有していない場合(すなわち芳香族化合物がシランカップリング剤ではない場合)、被膜形成用組成物中に添加剤としてシランカップリング剤を含有することにより、金属表面と樹脂との接着性が向上する傾向がある。上記の芳香族化合物がシランカップリング剤である場合も、被膜形成用組成物中に、添加剤として他のシランカップリング剤が含まれていてもよい。
【0051】
本発明の被膜形成用組成物のpHは、好ましくは4〜10である。pHが4以上であれば、金属表面のエッチングが抑制され、被膜形成性を向上できるとともに、金属の溶解量が少ないため溶液の安定性が向上する。また、pHが10以下であれば、芳香族化合物の溶解性が良好であり、溶液の安定性が向上する。被膜形成用組成物のpHは5〜9がより好ましい。pH調整剤としては、各種の酸およびアルカリを特に制限なく用いることができる。
【0052】
上記の芳香族化合物がアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤である場合、中性のpH領域の被膜形成用組成物中において、シランカップリング剤の一部または全部が縮合していてもよい。ただし、縮合が過度に進行すると、シランカップリング剤が析出して、被膜の形成性が低下する場合がある。そのため、シランカップリング剤が縮合している場合でも、重量平均分子量は、1500以下が好ましく、1200以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましく、重量平均分子量がこの範囲となるように縮合度を抑制することが好ましい。
【0053】
金属の酸化によるエッチングを防止するために、被膜形成用組成物は、被膜形成対象の金属に対する酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。金属の酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩が挙げられる。被膜形成組成物中のこれらの酸化剤の含有量は、0.5重量%以下が好ましく、0.1重量%以下がより好ましく、0.05重量%以下がさらに好ましい。被膜形成用組成物が金属の酸化剤を実質的に含まないことにより、金属の溶出を低減し、溶液の安定性を向上できる。
【0054】
被膜形成対象の金属が銅である場合、第二銅イオンや第二鉄イオンも、酸化により銅を溶解させる作用を有する。また、溶液中に溶出した銅(第一銅イオン)が酸化されて第二銅イオンとなると酸化による銅のエッチングを促進する場合がある。そのため、被膜形成用組成物中の第二銅イオンおよび第二鉄イオンの含有量は、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましい。
【0055】
被膜形成用組成物中に、被膜形成対象の金属よりも貴な金属(イオン化傾向の小さい金属)が含まれていると、置換メッキ作用により貴な金属が析出して、金属層の特性や被膜の密着性等に影響を及ぼす場合がある。そのため、被膜形成用組成物は、被膜形成対象の金属よりも貴な金属を実質的に含有しないことが好ましい。例えば、被膜形成対象の金属が銅である場合、被膜形成用組成物における、水銀、銀、パラジウム、イリジウム、白金および金ならびにこれらの金属塩の濃度は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が特に好ましく、10ppm以下が最も好ましい。
【0056】
[金属部材表面への被膜の形成]
金属部材の表面に上記の被膜形成用組成物を接触させ、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、図1に示すように、金属部材11の表面に被膜12が形成される。被膜12は、樹脂との接着性向上用被膜であり、金属部材の表面に被膜が設けられることにより、金属部材と樹脂との接着性が向上する。
【0057】
金属部材としては、半導体ウェハー、電子基板およびリードフレーム等の電子部品、装飾品、ならびに建材等に使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)の表面や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)の表面、あるいは線状、棒状、管状、板状等の種々の用途の銅材が例示できる。特に、本発明の被膜形成用組成物は、銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている。そのため、金属部材としては、銅箔、銅めっき膜、および銅材等が好ましい。
【0058】
金属部材の表面は平滑でもよく、粗化されていてもよい。粗化された金属部材の表面に本発明の被膜形成用組成物を用いて被膜を形成することにより、樹脂との密着性をさらに向上できる。
【0059】
金属部材表面への被膜の形成は、例えば以下のような条件で行われる。
まず、酸等により、金属部材の表面を洗浄する。次に、上記の被膜形成用組成物に金属表面を浸漬し、2秒〜5分間程度浸漬処理をする。この際の溶液の温度は、10〜50℃程度が好ましく、より好ましくは15〜35℃程度である。浸漬処理では、必要に応じて搖動を行ってもよい。その後、乾燥または洗浄等により、金属表面に付着した溶液を除去することにより、金属部材11の表面に被膜12を有する表面処理金属部材10が得られる。
【0060】
前述のように、従来の被膜形成用組成物では、金属部材の浸漬処理後、金属部材の表面に溶液が付着した状態で乾燥し、溶液を濃縮・乾固させて被膜を形成する必要がある。これに対して、本発明の被膜形成用組成物は、溶液への浸漬中(空気に接触していない状態)においても金属表面に被膜が形成される。そのため、溶液への浸漬後、金属表面に溶液が付着した状態で風乾等を実施せずに、金属表面に付着した溶液を洗浄除去する場合でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面にむらなく形成できる。金属表面に溶液が付着した状態で空気中での乾燥を実施する場合でも、短時間の乾燥処理で、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。そのため、金属表面への被膜形成に要する時間を短縮できるとともに、被膜形成の工程を簡略化できる。
【0061】
金属表面に溶液が付着した被膜形成用組成物の洗浄には、水または水溶液を用いればよい。特に、薄酸またはアルカリ水溶液により洗浄を行った場合に、被膜のムラが低減し、樹脂との密着性が向上する傾向がある。薄酸としては例えば0.1〜2重量%程度の硫酸または塩酸が好ましく、アルカリとしては、0.1〜5重量%程度のNaOH水溶液またはKOH水溶液が好ましい。
【0062】
本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、浸漬やスプレー等により金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液を除去するまでの時間(浸漬の場合は溶液から金属部材を取り出してから洗浄を行うまでの時間;スプレーの場合はスプレー終了後に洗浄を行うまでの時間)が2分以内でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。生産効率向上の観点から、金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液の除去(洗浄)を実施するまでの時間は、1.5分以内がより好ましく、1分以内がさらに好ましい。
【0063】
上記の様に、本発明の被膜形成用組成物は、溶液中での被膜形成に優れ、かつ金属表面への吸着性が高いため、浸漬処理のみでも金属表面に被膜を形成可能であり、浸漬後に乾燥を行わずに金属表面を洗浄して溶液を除去しても、金属表面への被膜形成状態が維持される。また、金属と他の材料との複合部材に対して被膜形成用組成物を適用した場合、金属表面に選択的に被膜を形成できる。
【0064】
なお、図1では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12が形成されているが、金属部材の両面に被膜が形成されてもよい。被膜は樹脂との接合面の全体に形成されることが好ましい。金属部材表面への被膜の形成方法は、浸漬法に限定されず、スプレー法やバーコート法等の適宜の塗布方法を選択できる。
【0065】
被膜形成時には、金属表面がエッチングされないことが好ましい。具体的には、被膜形成時の金属表面のエッチング量は0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。上述のように、被膜形成用組成物のpHを4以上とし、かつ実質的に酸化剤を含まないことにより、溶液との接触による金属表面のエッチングを抑制できる。
【0066】
[金属‐樹脂複合体]
表面処理金属部材10の被膜12形成面上に、樹脂部材20を接合することにより、図2に示す金属‐樹脂複合体50が得られる。なお、図2では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12を介して樹脂部材(樹脂層)20が積層されているが、金属部材の両面に樹脂部材が接合されてもよい。
【0067】
表面処理金属部材10と樹脂部材20との接合方法としては、積層プレス、ラミネート、塗布、射出成形、トランスファーモールド成形等の方法を採用できる。例えば、銅層あるいは銅合金層表面に接着層を介して樹脂層を積層することにより、プリント配線板等に用いられる金属‐樹脂積層体が得られる。
【0068】
上記樹脂部材を構成する樹脂は、特に限定されず、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂、あるいは紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化性アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維等で強化されていてもよい。
【0069】
本発明の被膜形成用組成物を用いて金属表面に形成された被膜は、金属と樹脂との接着性に優れるため、他の層を介することなく、金属部材表面に設けられた被膜12上に直接樹脂部材20を接合できる。すなわち、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、他の処理を行わずとも、金属部材表面に被膜を形成し、その上に直接樹脂部材を接合するのみで、高い接着性を有する金属‐樹脂複合体が得られる。
【0070】
接合する樹脂材料の種類等に応じて、被膜12上に、シランカップリング剤等からなる接着層を形成してもよい。金属表面に形成された被膜12は、樹脂との接着性に優れることに加えて、シランカップリング剤等の接着成分を金属表面に固定するための下地としての作用も有している。本発明の被膜形成用組成物を用いて金属表面に形成された被膜上に他の接着層を設けることにより、金属と樹脂との接着性をさらに向上できる。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0072】
[試験用銅箔の準備]
銅張積層板(三井金属鉱業社製 3EC-III、銅箔厚み35μm)を100mm×100mmに裁断し、常温の6.25重量%硫酸に20秒間浸漬揺動して除錆処理を行った後、水洗・乾燥したものを試験用銅箔(テストピース)として使用した。
【0073】
[溶液の調製]
各成分を表1に示す配合量(濃度)となるようにイオン交換水に溶解した後、表1に示すpHとなるように、1.0N塩酸または1.0N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液を調製した。
【0074】
シランカップリング剤Aは、下記式で表されるイミダゾール系のシランカップリング剤であり、市販品(JX金属 IS1000)を用いた。下記式において、R〜Rはそれぞれアルキル基であり、nは1〜3の整数である。
【0075】
【化7】
【0076】
シランカップリング剤Bは、下記式で表されるN,N’ビス(2‐アミノエチル)‐6‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)アミノ‐1,3,5‐トリアジン‐2,4‐ジアミンであり、WO2013/186941号の実施例1に従って合成した。
【0077】
【化8】
【0078】
シランカップリング剤Cは、下記式で表されるN‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランであり、市販品(信越シリコーン KBM-573)を用いた。
【0079】
【化9】
【0080】
シランカップリング剤Dは、下記式で表されるN‐(2‐アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランであり、市販品(信越シリコーン KBM-603)を用いた。
【0081】
【化10】
【0082】
トリアジン誘導体Eは、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジンであり、市販品を用いた。
【0083】
「メラミン系化合物」は、下記式で表される化合物であり、以下の合成例により合成した。
【0084】
【化11】
【0085】
<メラミン系化合物の合成例>
50〜55℃に維持した無水エチレンジアミン(1.5モル)のTHF溶液に、塩化シアヌル(0.1モル)のTHF溶液を滴下した。その後、50〜55℃で3時間反応させた後、20℃まで冷却した。反応溶液に水酸化ナトリウム水溶液およびイソプロピルアルコールを加え、溶媒を留去した。その後、脱水エタノールを加え、沈殿した塩化ナトリウムを濾別した。濾液のエタノールおよびエチレンジアミンを留去して、水あめ状の反応生成物を得た。
【0086】
[評価]
<被膜形成性>
水準1〜3では、調製から24時間以内の表1の溶液(25℃)中に、テストピースを15秒(水準1),30秒(水準2)、または60秒(水準3)浸漬後に溶液から取り出し、直後に水洗を行い、その後に乾燥を行った。各水準の試料について、目視での色調変化、および赤外線吸収(反射吸収)スペクトルによる有機成分由来ピークの有無を確認し、銅箔表面の色調の変化がみられ、かつ有機成分由来のピークが確認されたものは被膜が形成されていると判定した。
上記の評価結果に基づき、溶液の被膜形成性を下記の4段階にランク付けした。
A:水準1(浸漬時間15秒)で被膜が形成されていたもの
B:水準1では被膜が形成されず、水準2(浸漬時間30秒)で被膜が形成されていたもの
C:水準1,2では被膜が形成されず、水準3(浸漬時間60秒)で被膜が形成されていたもの(60秒以内に被膜が形成されたもの)
D:水準1〜3の全てで被膜が形成されなかったもの
【0087】
<塩酸耐久性>
上記の水準3(浸漬時間60秒)で被膜形成処理を行ったテストピース上に、厚み20μmのドライフィルムレジストを密着させた後、100℃で15分間加熱してレジストを熱硬化させてテストピースを作製した。テストピース上のレジストの表面に2mm間隔で100マスの碁盤目状の切り込みを入れた後、6N塩酸に10分間浸漬した。水洗および乾燥後に、レジスト表面に粘着テープを貼り合わせ、引き剥しを行い、テストピース上に残存したマス目の数をカウントした。
【0088】
実施例および比較例の溶液の組成、および評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、実施例1〜13では、いずれも60秒以内の浸漬により、金属表面に被膜が形成されており、かつテストピースを塩酸に浸漬後もレジストの密着性が良好であった。
【0091】
芳香族含有化合物を含まずチオ硫酸ナトリウムのみを用いた比較例1、およびチオ化合物を含まず芳香族含有化合物のみを用いた比較例2では、60秒の浸漬では被膜が形成されていなかった。芳香族含有化合物と硫酸塩を用いた比較例4も、60秒の浸漬では被膜が形成されていなかった。
【0092】
芳香族を含まないシランカップリング剤Dとチオシアン酸アンモニウムを用いた比較例3では、60秒の浸漬により被膜が形成されていたが、チオ化合物としてチオシアン酸アンモニウムを用いた実施例2,6,8,11に比べて被膜形成に要する時間が長かった。また、比較例3の被膜は塩酸浸漬後のレジストの密着性が低く、塩酸耐久性が不十分であった。この結果から、比較例3と同様にシランカップリング剤Dを用いた実施例8では、芳香族化合物であるトリアジン誘導体(2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン)が、被膜形成の促進および樹脂との密着性(塩酸耐久性)の向上に寄与していると考えられる。
【0093】
芳香族化合物として合成例で得られたメラミン系化合物を用いた実施例10〜13を対比すると、チオ化合物としてチオ硫酸ナトリウムを用いた実施例10およびチオシアン酸アンモニウムを用いた実施例11が、より短時間で被膜を形成可能であり、かつ密着性に優れていることが分かる。また、実施例1〜9においても、チオ化合物としてチオ硫酸ナトリウムまたはチオシアン酸アンモニウムを用いた実施例1,2,5,6,8,9が、より短時間で被膜を形成可能であることが分かる。特に、イミダゾール系のシランカップリング剤Aを用いた実施例5およびトリアジン系のシランカップリング剤Bを用いた実施例6は、短時間での被膜形成性と高い密着性(塩酸耐久性)を両立可能であり、優れた性能を有していた。
【要約】
【課題】金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を形成するための被膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物、ならびにチオ化合物(pKaが−1.9以下である硫黄のオキソ酸およびその塩を除く)を含む。被膜形成用組成物のpHは4〜10が好ましい。チオ化合物は、溶液中で電離してアニオンとなるものが好ましく、チオ硫酸塩およびチオシアン酸塩が特に好ましい。
【選択図】図1
図1
図2