(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記ホール輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位との差よりも大きい
請求項1に記載の有機EL素子。
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記発光層に含まれる有機材料のLUMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のLUMO準位との差よりも大きい
請求項2に記載の有機EL素子。
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記発光層に含まれる有機材料のLUMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のLUMO準位との差よりも0.4eV以上大きい
請求項3に記載の有機EL素子。
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記ホール輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位との差よりも大きい
請求項9に記載の有機EL素子。
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記発光層に含まれる有機材料のLUMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のLUMO準位との差よりも大きい
請求項10に記載の有機EL素子。
前記発光層に含まれる有機材料のHOMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のHOMO準位との差が、前記発光層に含まれる有機材料のLUMO準位と前記電子輸送層に含まれる有機材料のLUMO準位との差よりも0.5eV以上大きい
請求項11に記載の有機EL素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態にかかる有機EL素子について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一態様に係る構成および作用・効果を説明するための例示であって、本発明の本質的部分以外は以下の形態に限定されない。
<第1の実施形態>
[1.有機EL素子の構成]
図1は、本実施形態に係る有機EL素子1の断面構造を模式的に示す図である。有機EL素子1は、陽極11、ホール注入層12、ホール輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、および陰極17を備える。
【0015】
有機EL素子1において、陽極11と陰極17とは互いに対向して配されており、陽極11と陰極17との間に発光層14が形成されている。
発光層14の陽極11側には、発光層14に接してホール輸送層13が形成されている。ホール輸送層13と陽極11との間にはホール注入層12が形成されている。
発光層14の陰極17側には、発光層14に接して電子輸送層15が形成されている。電子輸送層15と陰極17との間には電子輸送層16が形成されている。
【0016】
陽極11は、光反射性の金属材料からなる金属層を含む。光反射性を具備する金属材料の具体例としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、モリブデン(Mo)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などが挙げられる。
【0017】
ホール注入層12は、陽極11から発光層14へのホールの注入を促進させる機能を有する。ホール注入層12は、例えば、Ag、Mo、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる。
【0018】
ホール輸送層13は、ホール注入層12から注入されたホールを発光層14へ輸送する機能を有する。例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物などを用いることができる。
ホール輸送層13と電子輸送層15とに挟まれて、この両方に接して形成されている発光層14は、ホールと電子の再結合により光を出射する機能を有する。発光層14を形成する材料としては公知の有機材料を利用することができる。例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質や、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の燐光物質を用いることができる。
【0019】
電子輸送層15は、陰極17側から供給される電子を発光層14へと輸送する機能を有する。電子輸送層15は、例えば、電子輸送性が高い有機材料に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択されるドープ金属がドープされて形成されている。電子輸送層15に用いられる有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。電子輸送層15は、膜厚が10nm以上、100nm以下の範囲で形成されている。
【0020】
電子注入層16は、金属および金属酸化物の何れかを含む機能層である。電子注入層16は、陰極17から電子輸送層15への電子注入性を高める。電子注入層16の材料としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、キノリノールLi錯体(Liq)、Ba、Ag等の電子注入性材料が選択される。
陰極17は、金属材料で形成された金属層および金属酸化物で形成された金属酸化物層の少なくとも一方を含んでいる。陰極17に含まれる金属層の膜厚は1nm〜50nm程度に薄く設定されて光透過性を有している。金属材料は光反射性の材料であるが、金属層の膜厚を50nm以下と薄くすることによって、光透過性を確保することができる。従って、発光層14からの光の一部は陰極17において反射されるが、残りの一部は陰極17を透過する。
【0021】
陰極17に含まれる金属層を形成する金属材料としては、Ag、Agを主成分とする銀合金、Al、Alを主成分とするAl合金が挙げられる。Ag合金としては、マグネシウム−銀合金(MgAg)、インジウム−銀合金が挙げられる。Agは、基本的に低抵抗率を有し、Ag合金は、耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたって良好な電気伝導性を維持できる点で好ましい。Al合金としては、マグネシウム−アルミニウム合金(MgAl)、リチウム−アルミニウム合金(LiAl)が挙げられる。その他の合金として、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、が挙げられる。
【0022】
陰極17に含まれる金属層は、例えばAg層あるいはMgAg合金層の単層で構成してもよいし、Mg層とAg層の積層構造(Mg/Ag)、あるいは、MgAg合金層とAg層の積層構造(MgAg/Ag)にしてもよい。
また、陰極17は、金属層単独、または金属酸化物層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITOやIZOのような金属酸化物からなる金属酸化物層を積層した積層構造としてもよい。
【0023】
[2.エネルギーバンド構造]
有機EL素子1は、ホール輸送層13、発光層14、および電子輸送層15のエネルギーバンド構造に特徴を有する。以下、各層を形成する有機材料のエネルギー準位を、それぞれの層のエネルギー準位として説明する。
図2は、有機EL素子1のエネルギーバンド構造を示すバンドダイアグラムである。本図では、ホール輸送層13、発光層14、および電子輸送層15についてのみLUMOのエネルギー準位(以下、「LUMO準位」)とHOMOのエネルギー準位(以下、「HOMO準位」)とを示し、他の層のエネルギー準位は記載を省略している。
【0024】
[2.1.エネルギー障壁]
電子輸送層15から発光層14へ電子を注入するためのエネルギー障壁(以下、「電子注入障壁Δe」)は、発光層14のLUMO準位141と電子輸送層15のLUMO準位151との差の絶対値によって規定される。本実施の形態では、電子注入障壁Δeが0.5eVである。
【0025】
ホール輸送層13から発光層14へホールを注入するためのエネルギー障壁(以下、「ホール注入障壁Δh2」)は、ホール輸送層13のHOMO準位132と発光層14のHOMO準位142との差の絶対値によって規定される。本実施の形態では、ホール注入障壁Δh2が0.2eVである。
一般に、従来の有機EL素子では、電子注入障壁Δeがホール注入障壁Δh2よりも小さいエネルギーバンド構造を有している。例えば、特許文献2では、電子注入障壁Δeが0.06eV、ホール注入障壁Δh2が0.39eVである有機EL素子が開示されている。
【0026】
一方、有機EL素子1は、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。さらに電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが、下記式(2)の関係を満たすことがより好ましい。本実施形態では、有機EL素子1の電子注入障壁Δeがホール注入障壁Δh2よりも0.3eV大きくなるように、エネルギーバンド構造が設計されている。
【0027】
Δe>Δh2 ・・・式(1)
Δe−Δh2≧0.3eV ・・・式(2)
また、発光層14から電子輸送層15へホールを注入するためのエネルギー障壁(以下、「ホール注入障壁Δh1」)は、発光層14のHOMO準位142と電子輸送層15のHOMO準位152との差の絶対値によって規定される。本実施の形態では、0.9eVである。
【0028】
有機EL素子1は、ホール注入障壁Δh1とホール注入障壁Δh2とが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする。
Δh1>Δh2 ・・・式(3)
また、有機EL素子1は、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh1とが、下記式(4)の関係を満たすことを特徴とする。さらに電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh1とが、下記式(5)の関係を満たすことがより好ましい。本実施形態では、有機EL素子1のホール注入障壁Δh1が電子注入障壁Δeよりも0.4eV大きくなるように、エネルギーバンド構造が設計されている。
【0029】
Δe<Δh1 ・・・式(4)
Δh1−Δe≧0.4eV ・・・式(5)
[2.2.T
1準位]
図2では、発光層14、および電子輸送層15における最も低い励起三重項状態のエネルギー準位(以下、最も低い励起三重項状態のエネルギー準位を「T
1準位」という)を、一点鎖線で示している。
【0030】
有機EL素子1は、発光層14のT
1準位T
1(eml)143と、電子輸送層15のT
1準位T
1(etl)153とが、下記式(6)の関係を満たすことを特徴とする。
T
1(eml)<T
1(etl) ・・・式(7)
そのため、発光層14から電子輸送層15への励起三重項状態のエネルギー移動が抑制され、無輻射失活が抑制される。
【0031】
[3.発光領域]
有機EL素子1の発光領域を説明する。
図3は、有機EL素子1に駆動電圧が印加された後、発光までの状態を3つの段階で模式的に示す図である。本図において電子およびホールの移動度の大きさは、各キャリアに付した矢印の長さで示している。
有機EL素子1では、駆動電圧が印加されると、
図3(a)に示す初期段階では、電子が電子輸送層15のLUMOにおいて発光層14へ向けて移動し、ホールがホール輸送層13のHOMOにおいて発光層14へ向けて移動する。
【0032】
ここでホールは、駆動電圧の印加により得たエネルギーによって、ホール注入障壁Δh2を超えて発光層のHOMOに注入される。一方、式(1)に示すように電子注入障壁Δeがホール注入障壁Δh2より大きいために、発光層へのホールの注入に比較して、発光層への電子の注入は抑制される。
この結果、
図3(a)に示す初期段階では、発光層14へのホールの注入速度よりも電子の注入速度が小さくなり、電子輸送層15では発光層14との界面近傍に電子が蓄積される。なお、電子およびホールのそれぞれについて「注入速度」とは、単位時間あたりに発光層へ注入されるキャリアの数を意味する。
【0033】
次に、
図3(b)に示すように、発光層14に注入されたホールは、発光層14のHOMOにおいて電子輸送層15へ向けて移動する。ここでホールが電子輸送層15との界面まで到達しても、式(3)に示すようにホール注入障壁Δh1がホール注入障壁Δh2より大きいため、多くのホールが駆動電圧の印加により得たエネルギーだけではホール注入障壁Δh1を超えることができず、電子輸送層15へのホールの漏出が抑制される。
【0034】
また、発光層14内を移動したホールは、電子輸送層15に近づくことにより、電子輸送層15内に蓄積された電子と電界効果により互いに引き合う力が大きくなる。しかし、式(4)に示すように電子注入障壁Δeがホール注入障壁Δh1より小さいため、発光層14と電子輸送層15との界面では、電子輸送層15へのホールの漏出よりも、発光層14への電子の注入が促進される。つまり、この電子注入障壁Δeがホール注入障壁Δh1より小さいことが、発光層14への電子の注入を促進するように作用する。
【0035】
そのため、発光層14内においてホールが電子輸送層15側へ近づいた
図3(b)の状態では、駆動電圧を昇圧せずとも電子の注入速度が向上し、発光層14内に注入されるキャリアバランスが改善される。
発光層14内に注入された電子は、ホールよりも移動度が大きく、微小な時間でホール輸送層13まで移動できる。しかし、
図3(c)に示すように、この状態までに多くのホールが発光層14内を電子輸送層15側へ移動している。そのため有機EL素子1では、ホール輸送層13と発光層14との界面からの幅W
1が広い領域にホールが分布する。
【0036】
その結果、有機EL素子1では、
図3(c)の破線で囲んだ領域Aにおいて電子とホールとが再結合して励起子が形成され、この領域Aが発光領域になる。
ここで比較のために、
図4を参照して、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが同じ値であるエネルギーバンド構造を有する有機EL素子の場合を説明する。電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが同じ値であれば、
図4(a)に示すように、駆動電圧後の初期段階でホールおよび電子が同程度の注入速度で発光層14に注入されると想定される。発光層14に注入されたホールおよび電子は、
図4(b)に示すように、それぞれ電界の影響で移動するが、発光層14でのホールの移動度は、発光層14での電子の移動度に比べて小さい。
【0037】
そのため
図4(c)に示すように、発光層14内で電子がホール輸送層13近傍まで移動する間に、ホールはホール輸送層13と発光層14との界面からあまり離れることができず、この界面からの幅W2の狭い範囲にホールが集中して分布する。その結果、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが同じ値である有機EL素子では、幅の狭い領域Bが発光領域になる。
【0038】
このように、
図4(c)に示す電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とが同じ値である場合の発光領域Bに比べて、
図3(c)に示す有機EL素子1での発光領域Aは、電子輸送層15側に広い領域になる。
[4.実験]
[4.1.エネルギーバンド構造が寿命に及ぼす影響]
エネルギーバンド構造が互いに異なる3種類の有機EL素子を試験体として作成し、それぞれの試験体の寿命を測定した。寿命の測定には、試験体を連続駆動させ輝度が初期値より5%減少するまでの時間を用いた。
【0039】
試験体は、
図2に示すエネルギーバンド構造の実施例、
図5(a)に示すエネルギーバンド構造の比較例1、および、
図5(b)に示すエネルギーバンド構造の比較例2、の3種類である。HOMO準位の値は、光電子分光装置(理研計器(株)製、AC−2)を用いて測定した。また、LUMO準位の値は薄膜の光学吸収端をエネルギーギャップとし、HOMO準位の値から減算することにより得た。
【0040】
実施例は、
図2に示すように、電子注入障壁Δeが0.5eV、ホール注入障壁Δh2が0.2eVであり、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差は、0.3eVである。
比較例1および比較例2は、
図5(a)および
図5(b)に示すように、ホール輸送層13のLUMO準位131およびHOMO準位132と、発光層14のLUMO準位141およびHOMO準位142とが、
図2に示す実施例と同値である。
【0041】
比較例1および比較例2は、ホール輸送層13および発光層14が実施例と同じ材料および構造で形成されており、
図5(a)および
図5(b)に示すように、ホール注入障壁Δh2が
図2に示す実施例と同じ0.2eVである。
比較例1が実施例と相違するのは、
図5(a)に示すように電子輸送層15を省略した構造を有し、電子注入障壁Δeが0eVである点である。そのため比較例1では、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差は、−0.2eVである。
【0042】
比較例2は、
図5(b)に示すように、電子注入障壁Δeが0.2eVである点で実施例と相違し、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差は、0eVである。この比較例2と実施例との相違は、電子輸送層15を形成する有機材料が異なることによるものである。
図6(a)は寿命の測定結果を示すグラフである。本図において縦軸は、比較例1での測定値を基準値として正規化した値を示している。
【0043】
電子注入障壁Δeが0eVのプロットは比較例1である。
電子注入障壁Δeが0.2eVのプロットは、比較例2であり、寿命が0.8であった。
電子注入障壁Δeが0.5eVのプロットは、実施例であり、寿命が17.6であった。
【0044】
比較例1と比較例2との間で比較すると、寿命に大きな変化は見られない。しかし、実施例は、比較例1および比較例2に比べて、長い寿命を示した。
この結果から、実施例では、電子注入障壁Δeが大きいことによって、発光層14への電子の注入速度を十分に抑制でき、その結果、
図3を用いて説明したように発光層14の発光領域が広がり、長寿命化が達成されたと考えられる。
【0045】
従って、電子注入障壁Δeは、0.5eV以上であれば、有機EL素子の長寿命化が期待できる。
また、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差は、比較例1、比較例2、および実施例でそれぞれ−0.2eV、0eV、および0.3eVであり、実施例において寿命の延びが顕著である。実施例では、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差が大きいことで、発光層14への電子の注入速度とホールの注入速度との差が大きくなったと考えられる。
【0046】
従って、電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2との差が0.3eV以上であることによっても、有機EL素子の長寿命化が期待できる。
[4.2.エネルギーバンド構造が発光効率に及ぼす影響]
実施例、比較例1、および比較例2のそれぞれについて発光効率を測定した。発光効率の測定には、単位電流量に対する輝度(以下、「電流効率」)を用いた。
【0047】
図6(b)は電流効率の測定結果を示すグラフである。本図において縦軸は、比較例1での測定値を基準値として正規化した値を示している。
電子注入障壁Δeが0eVのプロットは比較例1である。
電子注入障壁Δeが0.2eVのプロットは、比較例2であり、発光効率が0.73であった。
【0048】
電子注入障壁Δeが0.5eVのプロットは、実施例であり、発光効率が0.95であった。
比較例1と比較例2とを比較すると、比較例2で発光効率の低下が見られる。この発光効率の低下は、電子注入障壁Δeの増大に伴い発光層14への電子注入性が低下するためであると考えられる。つまり、電子注入障壁Δeを増大させることは、有機EL素子の長寿命化に寄与するが、発光効率に対してはマイナス要因となるといえる。
【0049】
しかし、実施例では、比較例2と比較して発光効率が改善している。実施例での発光効率の改善は、[3.発光領域]で
図3(b)を用いて説明した作用により発光層14への電子の注入が促進され、電子注入障壁Δeの増大による電子注入性の低下が補償されたためであると考えられる。
図3(b)を用いて説明した発光層14への電子の注入を促進する作用は、電子注入障壁Δeよりもホール注入障壁Δh1が大きくなる程強くなる。ここで、ホール注入障壁Δh1と電子注入障壁Δeとの差は、比較例2で0.3eV、実施例で0.4eVであった。
【0050】
従って、ホール注入障壁Δh1と電子注入障壁Δeとの差が0.4eV以上であれば、発光効率の低下の抑制を期待できる。
[4.3.電子輸送層の膜厚が寿命、発光効率に及ぼす影響]
励起子は、金属層が近接していると金属層を形成する金属原子へエネルギー移動を起こし、無輻射失活する。
【0051】
図2に示すエネルギーバンド構造では、
図3に示す発光過程において発光層14内の励起子の分布が電子輸送層15側へ拡大している。また、本実施形態では、電子注入層16および陰極17が金属層を含んでいる。そのため、発光層14内で電子輸送層15よりに分布する励起子は、これらの金属層へエネルギー移動を起こすおそれがある(以下、励起子が電子注入層16および陰極17に含まれる金属原子へエネルギー移動を起こして無輻射失活することを「カソード消光」という)。
【0052】
カソード消光を抑制するためには、励起子と金属層との距離を広げることが好ましい。本実施形態に係る有機EL素子1では、発光層14と電子輸送層15との界面から電子注入層16までの距離、即ち、電子輸送層15の膜厚を厚くすることがカソード消光の抑制に有効であると考えられる。
そこで、
図2に示すエネルギーバンド構造で、電子輸送層15の膜厚が異なる3種類の有機EL素子を試験体として作成し、各試験体の寿命、および発光効率を測定した。寿命の測定には、輝度が初期値より5%減少するまでの時間を用い、発光効率の測定には、電流効率を用いた。
【0053】
試験体は、電子輸送層15の膜厚Dが5nm、10nm、15nmの3種類である。
図7(a)は電子輸送層の膜厚の違いによる寿命の違いを示すグラフ、
図7(b)は電子輸送層の膜厚の違いによる発光効率の違いを示すグラフである。何れのグラフでも縦軸は、電子輸送層15の膜厚が15nmの試験体での測定値を基準値として正規化した値を示している。
【0054】
発光効率を比較すると、
図7(b)に示すように、電子輸送層15の膜厚が薄い程、電流効率が低下した。特に、膜厚が5nmの試験体で発光効率の低下が顕著であった。
具体的には、膜厚が15nmの試験体での発光効率を基準値にして、膜厚が10nmの試験体では、発光効率が0.86であった。膜厚が5nmの試験体では、発光効率が0.24であった。
【0055】
また、寿命を比較すると、
図7(a)に示すように、膜厚が10nmの試験体と膜厚が15nmの試験体とで違いはない。しかし、膜厚が5nmの試験体で0.13まで大幅に短縮した。膜厚が5nmの試験体での寿命の短縮は、カソード消光により輝度の初期値が小さかった分、輝度がさらに低下するまでに要する時間も短時間であったためと考えられる。
【0056】
この結果から、電子輸送層15の膜厚が10nm以上であれば、カソード消光によって寿命、発光効率が極度に低下することがないと考えられる。
従って、
図2に示すエネルギーバンド構造を採用する場合、カソード消光を抑制するために、電子輸送層15の膜厚を10nm以上に形成することが好ましい。
なお、電子輸送層15の厚膜化は、電子輸送層15における光の吸収を増大させることになる。電子輸送層15を透過する光を過度に減衰させないためには、電子輸送層15の膜厚を100nm以下に形成することが好ましい。
【0057】
[5.まとめ]
以上説明したように本実施形態に係る有機EL素子1は、発光層14を形成する有機材料のLUMO準位と電子輸送層15を形成する有機材料のLUMO準位との差である電子注入障壁Δeが、ホール輸送層13を形成する有機材料のHOMO準位と発光層14を形成する有機材料のHOMO準位との差であるホール注入障壁Δh2よりも大きい。
【0058】
そのため、発光層14へのホールの注入速度に比べて発光層14への電子の注入速度が低く抑えられる。注入速度の違いにより、発光層14内でより多くのホールが電子輸送層15側へ移動することができるため、励起子が形成される領域が電子輸送層15側に広がり、励起子の分布の集中が緩和される。
この結果、有機EL素子1では、発光層14における発光領域を、ホール輸送層13との界面近傍だけでなく、電子輸送層15側に広げることができる。発光領域が広がることにより、発光層14において有機材料の劣化が局在化することを緩和でき、有機EL素子1の長寿命化を実現することができる。
【0059】
特に、電子注入障壁Δeが、ホール注入障壁Δh2よりも0.3eV以上大きいことが好ましい。電子注入障壁Δeとホール注入障壁Δh2とがこの関係を満たすことで、十分な長寿命化を期待できる。
また、有機EL素子1の電子注入障壁Δeは0.5eV以上であることが好ましい。電子注入障壁Δeが0.5eVであれば、有機EL素子の十分な長寿命化が期待できる。
【0060】
また、発光層14を形成する有機材料のHOMO準位と電子輸送層15を形成する有機材料のHOMO準位との差であるホール注入障壁Δh1が、ホール輸送層13を形成する有機材料のHOMO準位と発光層14を形成する有機材料のHOMO準位との差であるホール注入障壁Δh2よりも大きい。
ホール注入障壁Δh1とホール注入障壁Δh2とがこの関係を満たす場合、発光層14から電子輸送層15へのホールの漏出を抑制でき、発光効率の向上を期待できる。
【0061】
ところで、電子注入障壁Δeの増大は、発光層14への電子注入性を低下させ、駆動電圧の上昇を引き起こす恐れがある。しかし、有機EL素子1では、ホール注入障壁Δh1が電子注入障壁Δeよりも大きいエネルギーバンド構造を有する。ホール注入障壁Δh1が電子注入障壁Δeより大きいエネルギーバンド構造であれば、発光層14内のホールと電子輸送層15内の電子とが電界効果により互いに引き合う場合に、電子輸送層15へのホールの漏出よりも、発光層14への電子の注入が促進される。
【0062】
これにより有機EL素子1では、電子注入障壁Δeの増大に伴う発光層14への電子注入性の低下が補償されるので、駆動電圧の上昇を抑制することができる。
また、ホール注入障壁Δh1が、電子注入障壁Δeより0.4eV以上大きいことが好ましい。ホール注入障壁Δh1と電子注入障壁Δeとがこの関係を満たすことで、駆動電圧の上昇の抑制効果が十分に期待できる。
【0063】
また、有機EL素子1では、電子輸送層15の膜厚が10nm以上、100nm以下の範囲で形成されている。本実施形態に係る有機EL素子1では、電子輸送層15の膜厚が、発光層14と電子輸送層15との界面から電子注入層16までの距離に相当する。
電子輸送層15の膜厚が10nm以上あれば、発光層14内で電子輸送層15よりの領域に励起子の分布が広がった場合にも、励起子から電子注入層16に含まれる金属層までの間隔が十分に離れる。そのため、カソード消光の発生を抑制することができる。
【0064】
なお、
図1に示す構成では、陰極17と電子輸送層15との間には、電子注入層16のみが配されているが、有機EL素子1は、例えば、陰極17と電子輸送層15との間に、電子注入層16に加えてさらに他の機能層を追加する構成や、電子注入層16に替えて他の機能層を追加する構成としてもよい。
追加された機能層が金属および金属酸化物の何れかを含む場合には、発光層14内の励起子がこれらの機能層中の金属原子へエネルギー移動を起こすおそれがある。しかし、その場合にも、発光層14と電子輸送層15との界面から、発光層14にもっとも近い機能層までの距離を10nm以上に形成することで、エネルギー移動による励起子の無輻射失活を抑制することができる。
【0065】
また、有機EL素子1は、例えば、電子注入層16が金属層を含まない構成や、
図1に示す構成から電子注入層16を取り除いた構成としてもよい。
これらの構成では、陰極17が、発光層14と電子輸送層15との界面にもっとも近い金属層になる。よって、これらの構成でも、カソード消光の抑制のためには、発光層14と電子輸送層15との界面から陰極17までの距離を10nm以上、100nm以下の範囲で形成することが好ましい。
【0066】
特に、電子注入層16が金属層を含まない場合、および、陰極17と電子輸送層15との間に他の機能層が配されていても、これらの機能層が金属および金属酸化物の何れも含まない場合には、必ずしも電子輸送層15のみで10nm以上の膜厚をなす必要はない。陰極17と電子輸送層15との間に挟まれる機能層が金属および金属酸化物を含まない場合には、発光層14と電子輸送層15との界面から陰極17までに挟まれた全ての層の膜厚の合計が10nm以上、100nm以下の範囲で形成されていれば、カソード消光を抑制する効果が得られる。このような場合に電子輸送層15の膜厚は、1nm以上、100nm以下の範囲で形成されていればよい。
【0067】
一般に、発光層内での発光領域が電子輸送層に近いと、発光層から電子輸送層へ励起子のエネルギー移動が起こりやすくなる。
しかし、有機EL素子1では、電子輸送層15のT
1準位T
1(etl)153が発光層14のT
1準位T
1(eml)143よりも高い。そのため、有機EL素子1では、発光層14から電子輸送層15への励起三重項状態のエネルギー移動が防がれ、発光層14内の励起子の無輻射失活が抑制される。
【0068】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した有機EL素子1を基板上に複数配列して構成した有機EL表示パネル100について説明する。
[1.有機EL表示パネルの構成]
図8は、第2の実施形態に係る有機EL表示パネル100(
図11参照)の部分断面図である。有機EL表示パネル100は、3つの色(赤色、緑色、青色)を発光する有機EL素子1(R)、1(G)、1(B)で構成される画素を複数備えている。
図8では、その1つの青色の有機EL素子1(B)を中心としてその周辺の断面を示している。
【0069】
有機EL表示パネル100において、各有機EL素子1は、前方(
図8における紙面上方)に光を出射するいわゆるトップエミッション型である。
有機EL素子1(R)と、有機EL素子1(G)と、有機EL素子1(B)は、ほぼ同様の構成を有するので、以下では、まとめて有機EL素子1として説明する。
図8に示すように、有機EL素子1は、TFT基板21、陽極11、隔壁層22、ホール注入層12、ホール輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、陰極17、および封止層23を備える。なお、TFT基板21、電子輸送層15、電子注入層16、陰極17、および封止層23は、画素ごとに形成されているのではなく、有機EL表示パネル100が備える複数の有機EL素子1に共通して形成されている。
【0070】
以下、第1の実施形態で説明した有機EL素子1の構成については、その説明を省略して、第2の実施形態に係る有機EL表示パネル100において追加された要素についてのみ説明する。
TFT基板21は、絶縁材料である基材と、TFT(Thin Film Transistor)層と、層間絶縁層とを含む。TFT層には、画素毎に駆動回路が形成されている。基材は、例えばガラス材料からなる基板である。ガラス材料としては、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英等のガラスなどが挙げられる。層間絶縁層は、樹脂材料からなり、TFT層の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。
【0071】
また、
図8の断面図には示されていないが、TFT基板21の層間絶縁層には、画素毎にコンタクトホールが形成されている。
陽極11は、TFT基板21の層間絶縁層上に形成されている。陽極11は、画素毎に個々に設けられ、コンタクトホールを通じてTFT層と電気的に接続されている。陽極11は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITOやIZOのような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
【0072】
隔壁層22は、陽極11の上面の一部の領域を露出させ、その周辺の領域を被覆した状態で陽極11上に形成されている。陽極11上面において隔壁層22で被覆されていない領域(以下、「開口部」という)は、サブピクセルに対応している。即ち、隔壁層22は、サブピクセル毎に設けられた開口部22aを有する。
ホール注入層12、ホール輸送層13、および発光層14は、陽極11上の開口部22a内に、この順で積層して設けられている。
【0073】
本実施形態においては、隔壁層22は、陽極11が形成されていない部分においては、TFT基板21上に形成されている。即ち、陽極11が形成されていない部分においては、隔壁層22の底面はTFT基板21の上面と接している。
隔壁層22は、例えば、絶縁性の有機材料(例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)からなる。隔壁層22は、発光層14を塗布法で形成する場合には塗布されたインクがあふれ出ないようにするための構造物として機能し、発光層14を蒸着法で形成する場合には蒸着マスクを載置するための構造物として機能する。本実施形態では、隔壁層22は、樹脂材料からなり、隔壁層22の材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。本実施形態においては、フェノール系樹脂が用いられている。
【0074】
各サブピクセル共通に設けられている陰極17の上には、発光層14が水分や酸素等に触れて劣化することを抑制する目的で封止層23が設けられている。有機EL表示パネル100はトップエミッション型であるため、封止層23の材料としては、例えばSiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の光透過性材料が選択される。
なお
図8には示されないが、封止層23の上に、封止樹脂を介してカラーフィルタや上部基板を貼り合せてもよい。上部基板を貼り合せることによって、ホール輸送層13、発光層14、電子輸送層15を水分および空気などから保護できる。
【0075】
[2.有機EL素子の製造方法]
有機EL素子1の製造方法について、
図9、および
図10を参照しながら説明する。
図9、および
図10は、有機EL素子1の製造過程を模式的に示す断面図である。
まず、
図9(a)に示すように、TFT基板21を準備する。そして、サブピクセル毎に、金属材料を真空蒸着法またはスパッタ法で50nm〜500nmの膜厚で成膜して、
図9(b)に示すように、陽極11を形成する。
【0076】
次に、陽極11上に、隔壁層22の材料である隔壁層用樹脂を一様に塗布し、隔壁材料層を形成する。隔壁層用樹脂には、例えば、ポジ型の感光性材料であるフェノール樹脂が用いられる。この隔壁材料層に露光と現像を行うことで隔壁層22の形状にパターン形成し、焼成することによって隔壁層22を形成する(
図9(c))。この焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で60分間行う。形成された隔壁層22によって、発光層14の形成領域となる開口部22aが規定される。
【0077】
隔壁層22の形成工程においてさらに、隔壁層22の表面を所定のアルカリ性溶液や水、有機溶媒等によって表面処理したり、プラズマ処理を施してもよい。隔壁層22の表面処理は、開口部22aに塗布するインクに対する接触角を調節したり、隔壁層22の表面に撥液性を付与する目的で行われる。
そして、マスク蒸着法やインクジェットによる塗布法によって、ホール注入層12の材料を成膜し、焼成することによって、
図9(d)に示すようにホール注入層12を形成する。
【0078】
次に、隔壁層22が規定する開口部22aに対し、ホール輸送層13の構成材料を含むインクを塗布し、焼成(乾燥)を経て、
図9(e)に示すようにホール輸送層13を形成する。
同様に、発光層14の材料を含むインクを塗布し、焼成(乾燥)することにより、
図9(f)に示すように発光層14を形成する。
【0079】
続いて、
図10(a)に示すように、発光層14の上に、真空蒸着法などにより、電子輸送層15を膜厚10nm〜100nmの膜厚で成膜する。電子輸送層15は隔壁層22の上にも形成される。そして、
図10(b)に示すように、電子輸送層15の上に、真空蒸着法などにより電子注入層16を成膜する。
続いて、
図10(c)に示すように、電子注入層16の上に、金属材料等を、真空蒸着法、スパッタ法等で成膜することにより、陰極17を形成する。
【0080】
そして、陰極17の上に、SiN、SiON等の光透過性材料を、スパッタ法、CVD法等で成膜することによって、
図10(d)に示すように封止層23を形成する。
以上の工程を経ることにより、有機EL素子1が完成すると共に、複数の有機EL素子1を備えた有機EL表示パネル100ができあがる。なお、封止層23の上にカラーフィルタや上部基板を貼り合せてもよい。
【0081】
[3.有機EL表示装置の全体構成]
図11は、有機EL表示装置1000の構成を示す模式ブロック図である。当図に示すように、有機EL表示装置1000は、有機EL表示パネル100と、これに接続された駆動制御部200とを有している。駆動制御部200は、4つの駆動回路210〜240と制御回路250とから構成されている。
【0082】
なお、実際の有機EL表示装置1000では、有機EL表示パネル100に対する駆動制御部200の配置については、これに限られない。
<変形例>
以上、第1の実施形態および第2の実施形態について説明したが、本発明は各実施形態に限定されることはなく、例えば以下に示すような変形例を実施することも出来る。
【0083】
(変形例1)各実施形態における有機EL素子1は、ホール注入層12、電子注入層16を備えていたが、これらのうち1つ以上の層を備えない構成の有機EL素子も同様に実施することができる。
(変形例2)上記各実施形態における膜厚の範囲についての条件は、必ずしも開口部22aで規定されるサブピクセルの全領域で満たさなくてもよく、サブピクセルの中央部での膜厚が、上記説明における膜厚の条件を満たしていればよい。
【0084】
(変形例3)上記第2の実施形態においては、有機EL素子1の基材は、絶縁材料としてガラスを用いた例について説明したが、これに限られない。基材を構成する絶縁材料として、例えば、樹脂やセラミック等を用いてもよい。基材に用いるセラミックとしては、例えばアルミナが挙げられる。基材に用いる樹脂としては、例えば、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂等の絶縁性材料が挙げられる。基材に樹脂を用いると、フレキシブル性を有するが、酸素や水分の透過率が高い事が知られており、酸素や水分によって金属材料などの劣化を招くことがある。本実施形態に係る有機EL表示パネル100では、電子注入層16における金属材料のドープ濃度のばらつきに対して特性が安定しているため、特にこのような樹脂基材を用いた有機EL素子に適している。
【0085】
(変形例4)上記各実施形態においては、トップエミッション型であって、陽極11が光反射性の陽極であり、陰極17が光透過性の陰極であったが、逆に、画素電極が光透過性の陰極で、対向電極が光反射性の陽極であるボトムエミッション型も実施できる。
その場合、例えば、TFT基板21の層間絶縁層上に画素電極として陰極17、および隔壁層22を形成し、開口部22a内において、陰極17の上に、電子注入層16、電子輸送層15、発光層14を順に形成し、その上に、ホール輸送層13、ホール注入層12を形成し、その上に共通電極として陽極11を形成する。
【0086】
(変形例5)各実施形態においては、ホール輸送層13、発光層14をインク塗布で製造しているがこれに限らない。例えば、ホール輸送層、発光層の少なくとも一方を蒸着により製造してもよい。