(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387569
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20180903BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20180903BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20180903BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20180903BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20180903BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20180903BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20180903BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/5313
C08K3/38
C08K7/06
C08K7/14
B29C45/00
B29K77:00
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-522057(P2014-522057)
(86)(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公表番号】特表2014-521765(P2014-521765A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】EP2012064467
(87)【国際公開番号】WO2013014144
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年7月1日
(31)【優先権主張番号】11175489.1
(32)【優先日】2011年7月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ブルク, ファン デル, フランク ピーター セオドラス ヨハネ
【審査官】
渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−270107(JP,A)
【文献】
特開2007−182550(JP,A)
【文献】
特開平06−049356(JP,A)
【文献】
特開2002−284991(JP,A)
【文献】
特開2003−127304(JP,A)
【文献】
特開2004−292695(JP,A)
【文献】
特開2006−111859(JP,A)
【文献】
特開2007−161963(JP,A)
【文献】
特開平06−287439(JP,A)
【文献】
特開2007−217619(JP,A)
【文献】
特開2007−217620(JP,A)
【文献】
特開2008−280535(JP,A)
【文献】
特表2010−513652(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/030911(WO,A1)
【文献】
特表2006−504833(JP,A)
【文献】
特開2000−063664(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/014801(WO,A1)
【文献】
特表2006−522842(JP,A)
【文献】
特開2009−263461(JP,A)
【文献】
特開2011−057977(JP,A)
【文献】
特開2002−105333(JP,A)
【文献】
特開2004−149791(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/110480(WO,A1)
【文献】
特開2010−037372(JP,A)
【文献】
特開2009−041016(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/073595(WO,A1)
【文献】
Macromolecules,1991年,Vol.24,No.13,3845−3852
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69、C08L、C08K3,5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融解温度(Tm−A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド;
(B)融解温度(Tm−B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド;
(C)ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩であるハロゲン不含難燃剤システム;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材;ならびに
(E)他の成分からなる難燃性ポリアミド組成物であって、
−(A):(B)の重量比が、50:50〜75:25の範囲であり;
−(A)が、10,000〜25,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn−A)を有し;
−(B)が、7,500〜50,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn−B)を有し;
−Tm−Aが290〜350℃の範囲であり、
−Tm−AがTm−Bよりも高く、
(A)/(B)50:50〜75:25の範囲の重量比のポリアミド(A)およびポリアミド(B)30〜90重量%;
(C)(ジ)ホスフィン酸金属塩5〜25重量%;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材0〜60重量%;
(E)他の成分0〜40重量%;からなり、
(E)が、酸捕捉剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、固体潤滑剤、着色剤及びナノ粘土からなる群より選択される少なくとも一種であり、
重量パーセンテージ(重量%)は、組成物の全重量に対するパーセンテージであり、(A)〜(E)の合計は100%である、
難燃性ポリアミド組成物。
【請求項2】
Mn−Bが、10,000〜40,000g/モルの範囲である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項3】
Tm−Aが300〜340℃の範囲であり、かつ/またはTm−Bが250〜300℃の範囲である、請求項1または2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項4】
(A):(B)の重量比が55:45〜72.5:27.5の範囲である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記難燃剤システム(C)が(ジ)ホスフィン酸アルミニウムを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項6】
前記組成物の全重量に対して少なくとも5重量%の総量で無機充填剤および/または繊維強化材(D)を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項7】
難燃剤(C)を5〜25重量%、ガラスまたは炭素繊維強化材を5〜60重量%含む難燃性ポリアミド組成物であって、前記重量%が前記組成物の全重量に対する%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項8】
組成物が射出成形機で加熱されてポリマー溶融物が形成される工程を含む、射出成形によって難燃性ポリアミド組成物から成形部品を製造する方法において、
前記組成物が、融解温度(Tm−A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド(A);および融解温度(Tm−B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド(B);を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物であり;かつ前記溶融物が、Tm−Aを最大で10℃超える温度に加熱されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記ポリマー溶融物が、少なくとも100℃、好ましくは110〜150℃の範囲の金型温度を有する金型に射出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物から製造される物品。
【請求項11】
コネクター用のプラスチック部品である、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
電子デバイス用のハウジングまたは補強フレームである、請求項10に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、難燃性ポリアミド組成物、その難燃性ポリアミド組成物を成形する方法、およびその難燃性ポリアミド組成物で作られた成形部品に関する。
【0002】
本発明は特に、高性能用途のためのハロゲン不含難燃性成形組成物に関する。高性能用途に関しては、仮により高い温度条件によって除外も禁止もされないとしても、高融解温度を有する半結晶性ポリアミドが使用されることが多い。難燃性については、ハロゲン不含難燃剤を使用することができるが、かかる難燃剤では、過去に使用されているハロゲン含有難燃剤と比較して、必要とされる難燃性レベルを達成するのが難しい。これらの成形組成物の加工および/または用途に要する温度が高いために、使用することができる難燃剤の選択は限定され、市販されている、より良い機能の難燃剤でさえ、限定および問題を有する。これは、小さな寸法の精密部品の大規模生産を伴う、より重要な用途においてより顕著となる。
【0003】
この成形組成物の特性およびそれから製造される製品が大いに注目されている。第一に、組成物は、高い流動性を有し、その製品は好ましくは、良好なウェルドライン強度、良好な表面外観、例えば高光沢を有し、着色およびブルーミングがなく、例えばUL94試験法に準拠した良好な難燃性等級を有する。加工によって、射出成形装置の腐食が誘発されないことが好ましい。
【0004】
しかしながら、射出成形プロセスの処理量および装置の経済的稼動率がこのために激しく低下するであろうことから、金型の清掃のために定期的に中断する必要がない完全な射出成形プロセスではないとしても、大規模生産に関して見落とされてはならない重要な側面は、円滑な運転である。本明細書における重要な側面は、いわゆるプレートアウトの出現である。プレートアウトは、成形組成物から固体材料がガス放出され、金型内部でそれが付着することである。かかる付着の蓄積は、金型のガス放出口をブロックし得る。これは、成形部品上の燃焼スポットから明らかとなる:金型内への成形材料の速い射出によって、金型に含まれるガスが逃れることができず、急速に圧縮され、その結果、部品が燃焼されるような高い温度までガスが加熱される。
【0005】
プレートアウトは、ブルーミングまたは着色と異なる。ブルーミングは、高温多湿条件に成形部品を曝露した後に、組成物から固体材料が表面へと移動することである。着色は、成形部品が液体と接触した場合に、組成物から表面に固体材料が移動することである。
【0006】
本発明の目的は、優れた特性のバランスを有し、かつ良好なプレートアウト性能を有する、ハロゲン不含難燃性成形組成物を提供することである。好ましくは、この組成物で作られた成形部品はさらに、良好な表面外観を有し、ブルーミングおよび着色の傾向が低い。
【0007】
この目的は、
(A)融解温度(TmAと呼ばれる)を有し、かつ範囲7,500〜30,000g/モルの数平均分子量(Mn−
Aと呼ばれる)を有する、半結晶性半芳香族ポリアミド(ポリアミド(A)、または(A)と呼ばれる);
(B)融解温度(TmBと呼ばれる)を有し、かつ範囲7,500〜50,000g/モルの数平均分子量(Mn−Bと呼ばれる)を有する、半結晶性脂肪族ポリアミド(ポリアミド(B)、または(B)と呼ばれる);および
(C)ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩((ジ)ホスフィン酸金属塩とも呼ばれる)を含むハロゲン不含難燃剤システム;
を含む、本発明による組成物であって、
‐ TmAがTmBより高く、
‐ (A):(B)の重量比が、50:50〜75:25の範囲である、組成物を用いて達成される。
【0008】
前記の特徴を有する成分の上記の組み合わせを含む、本発明による組成物の効果は、半芳香族ポリアミドのみをベースとする相当する組成物よりも厳しくない成形条件にて、組成物を成形することができると同時に、半芳香族ポリアミドのみをベースとする相当する組成物と比較した場合に、または脂肪族ポリアミド組成物のみをベースとする相当する組成物と比較した場合に、前記組成物が同等の難燃性レベルを持っていないとしても、それらの成形条件にて良好な流動性を有し、良好な難燃性、ウェルド強度および表面外観を有し、最も重要なことにはプレートアウトが低減された成形部品が得られることである。半芳香族ポリアミドをベースとする組成物の流動性は、それより少ない量で使用される、それより低いMnを有する脂肪族ポリアミドを使用することによって改善することができたが、この結果、難燃性が低下する。代替方法として、より高い加工温度を用いることによって、半芳香族ポリアミドをベースとする組成物の流動性を高めることができたが、この結果、より多くのプレートアウトが生じる。上記の範囲を超える比の、かつ/または本発明について上記で示される範囲を超える数平均分子量を有する、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドの組み合わせは、プレーティングの問題を解決せず、かつ/または難燃性の低下および/または不十分な流動性および表面外観などの他の問題を発生させる。
【0009】
好ましくは、半結晶性半芳香族ポリアミド(A)は、範囲10,000〜25,000g/モル、さらに好ましくは範囲12,500〜20,000g/モルの数平均分子量(Mn−A)を有する。さらに好ましくは、半結晶性脂肪族ポリアミド(B)は、範囲10,000〜40,000g/モル、同様に好ましくは範囲15,000〜30,000g/モルの数平均分子量(Mn−B)を有する。Mnが高いほど、難燃性がより良く維持される利点を有し、Mnが低いほど、プレートアウトが低減される利点を有する。
【0010】
本明細書で言及される数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、より詳細には三重検出法と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、分子量分布を測定することによって決定される。ここで、GPC装置は、粘度計、屈折率および光散乱検出(90度)に連結される。この測定は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールの重量に対してトリフルオロ酢酸カリウム0.1重量%を含むヘキサフルオロイソプロパノールを使用し、3 PFG linear XLシリカカラムを備えたサイズ排除クロマトグラフを用いて行われ;重量平均分子量は、Viscotek社のTriSEC3.0ソフトウェアを使用して、測定された分子量分布から計算される。MnおよびMwはg/モルで表される。三重検出法は、絶対値が得られ、外部標準が必要ないという利点を有する。
【0011】
半結晶性半芳香族ポリアミド(A)については、原則的に、成形組成物の製造に使用される、いずれの半結晶性半芳香族ポリアミドも使用することができる。適切には、(A)は、テレフタル酸、任意選択で他の芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸、および炭素原子4〜12個を含む脂肪族直鎖状または分岐状ジアミンから選択される脂肪族ジアミンから誘導される反復単位を含む。適切にはテレフタル酸と組み合わされる芳香族ジカルボン酸は、例えば、イソフタル酸である。半結晶性半芳香族ポリアミド(A)において、テレフタル酸と、任意選択で他の芳香族ジカルボン酸と組み合わせることができる脂肪族ジカルボン酸の一例は、アジピン酸である。
【0012】
半結晶性半芳香族ポリアミド(A)は適切には、高い融解温度を有する。好ましくはTm−Aは、少なくとも270℃、さらに好ましくは少なくとも280℃である。よりさらに好ましくはTm−Aは、290〜350℃の範囲、より良くは少なくとも300〜340℃の範囲である。ポリアミド(A)の融解温度が高いほど、得られる生成物の高温での機械的性質および他の特性がより良く維持される。それにもかかわらず、良好な難燃性および低いプレートアウトが達成されるようなプロセス条件にて、生成物を加工することができる。
【0013】
本明細書において融解温度という用語は、第2加熱サイクルにおける融解ピークのピーク値から、ISO−11357−3.2,2009に準拠した方法によって、10℃/分の加熱および冷却速度にてN2雰囲気中で決定される融解温度(Tm)と理解される。複数の融解ピークがある場合には、ピーク値は、最も高い融解ピークが採用される。
【0014】
より高い融解温度を有する半結晶性半芳香族ポリアミドは一般に、そのポリアミドにおいて、テレフタル酸のより高い含有率および/またはより短鎖のジアミンを用いることによって、達成することができる。ポリアミド成形組成物を製造する当業者であれば、かかるポリアミドを製造し、選択することができる。適切な例としては、PA8T、PA9T、PA10T、PA12T、PA6T/6I、PA6T/66、PA6T/46、およびそのコポリアミドが挙げられる。
【0015】
半結晶性脂肪族ポリアミド(B)もまた適切には、高い融解温度を有するが、常に(A)の融解温度未満が維持される。適切には、Tm−Bは少なくとも220℃である。好ましくは、Tm−Bは250〜300℃の範囲である。
【0016】
半結晶性脂肪族ポリアミド(B)については、多種多様なポリアミドを使用することができる。良好な耐熱性を有する生成物を得るために、好ましくは高い融点を有するポリアミド、例えばポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,10、またはポリアミド6,6またはそのいずれかの混合物またはコポリマーが使用される。
【0017】
本発明による難燃性ポリアミド組成物の好ましい実施形態において、(A):(B)の重量比は、55:45〜72.5:27.5の範囲である。
【0018】
最も好ましくは、本発明による組成物において使用される半結晶性半芳香族ポリアミド(A)および半結晶性脂肪族ポリアミド(B)は、互いにある程度まで少なくとも混和性である。この点から、(A)および(B)は負のXパラメーターを有する。本明細書において、Xは、Macromolecules 1991,24,3845−3852におけるT.S.Ellisによる方法に従って、以下の式(III)
X
blend=[(1−x)(y−x)+z(x−y)]X
AB
+(1−y−z)(1−x−z)X
BC
+(1−y−z)(x−y)X
Ac 式(III)
を用いて、(A)および(B)に対して計算される混和性パラメーターX
blendである。
【0019】
Ellisにより使用された式は、脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドに適用可能であり、A
xB
1−x/A
yB
zC
1−y−z(式中、A
xB
1−xは脂肪族ポリアミドを表し、A
yB
zC
1−y−zは芳香族ポリアミドを表し、A、BおよびCはメチレン、アミド、およびフェニル反復単位を表し、x、1−x、y、zおよび1−y−zは、ポリアミドにおけるこれらの反復単位の相対量を表す)と定義される。X
blendの計算に関しては、メチレン単位とアミド単位との相互作用、メチレン単位とフェニル単位との相互作用、およびアミド単位とフェニル単位との相互作用を表すX
AB、X
ACおよびX
BCが、上記の文献でEllisによって決定されるように、それぞれ7.982、−0.288および7.46に等しい値をとった。
【0020】
これらの値を式IIIに当てはめると、以下の式(IV)
X
blend=[(1−x)(y−x)+z(x−y)]
*7.982
+(1−y−z)(1−x−z)
*7.46
−(1−y−z)(x−y)
*0.288 式(IV)
に換算される。
【0021】
本発明による組成物において使用することができる(ジ)ホスフィン酸の適切な塩は、例えば、式(I)のホスフィン酸塩、式(II)のジホスフィン酸塩
【化1】
または、これらのポリマー(式中、R
1およびR
2は同一または異なるか、あるいはC
1〜C
6アルキル、直鎖状または分岐状、および/またはアリールであり;R
3は、C
1〜C
10アルキレン、直鎖状または分岐状、C
6〜C
10アリーレン、アルキルアリーレンまたはアリールアルキレンであり;Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンおよび亜鉛イオンのうちの1種または複数種であり、mは2〜3であり;nは1または3であり;xは1または2である)である。R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよく、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、テント−ブチル、n−ペンチルおよび/またはフェニルである。R
3は好ましくは、メチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、t−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレンまたはフェニレンまたはナフチレン、またはメチルフェニレン、エチルフェニレン、t−ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレンまたはt−ブチルナフチレン、またはフェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレンまたはフェニルブチレンである。Mは好ましくは、アルミニウムイオンまたは亜鉛イオンである。これらの化合物は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,255,371号明細書に開示されている。
【0022】
好ましくは、難燃剤システム(C)は、(ジ)ホスフィン酸アルミニウムを含む。その適切な例は、メチルエチル(ジ)ホスフィン酸および/またはジエチル(ジ)ホスフィン酸アルミニウムである。
【0023】
適切には、難燃剤システム(C)は、(A)+(B)の100重量部(pbw)に対して1〜100重量部(pbw)の量で存在する。好ましくは、(C)の量は、(A)+(B)の100重量部(pbw)に対して5〜50重量部(pbw)の範囲である。
【0024】
難燃剤システム(C)は適切には、少なくとも5重量%および/または最大で30重量%、より詳しくは少なくとも5重量%および/または最大で25重量%の範囲の量でも存在する。本明細書において、重量パーセンテージ(重量%)は、難燃性ポリアミド組成物の全重量に対するパーセンテージである。好ましくは、難燃性ポリアミド組成物に含まれる(ジ)ホスフィン酸金属塩の量は、組成物の全重量に対して、好ましくは5〜25重量%の範囲、さらに好ましくは7.5〜20重量%の範囲である。
【0025】
この組成物は、(ジ)ホスフィン酸金属塩以外の1種または複数種の他の難燃剤および/または1種または複数種の難燃性相乗剤を含み得る。(ジ)ホスフィン酸金属塩難燃剤と併せて一般に使用される難燃性相乗剤としては、ホウ酸亜鉛およびホウ酸バリウムなどのホウ酸金属塩が挙げられる。
【0026】
好ましい実施形態において、この組成物は、ホウ酸亜鉛を最大で1重量%、さらに好ましくは最大で0.5重量%、より良くは0〜0.1重量%含む。ホウ酸亜鉛の含有率が低いこと、またはさらにはホウ酸亜鉛が存在しないことの利点は、より高いホウ酸亜鉛量を含む相当する組成物と比較して、組成物の着色が改善されることである。
【0027】
本発明のポリアミド組成物は任意選択で、更なる成分、例えば無機充填剤、繊維強化材、他のポリマー、ならびに例えば、酸捕捉剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、安定剤(例えば、熱安定剤、酸化安定剤、紫外線安定剤および化学安定剤など)、加工助剤(例えば、離型剤および核剤など)、固体潤滑剤、着色剤(カーボンブラック、他の顔料、染料など)、ナノ粘土等から選択される添加剤を含んでもよい。有利なことには、耐衝撃性改良剤が、例えば電子デバイス用のハウジングの耐衝撃性をさらに向上させるために含まれる。
【0028】
組成物が任意選択で含んでもよい無機強化材および/または充填剤の例としては、板ガラス繊維であり得るガラス繊維、ガラスフレーク、カオリン、粘土、タルク、マイカ、珪灰石、炭酸カルシウム、シリカ、炭素繊維、チタン酸カリウム等の1種または複数種が挙げられる。ガラス繊維および炭素繊維が好ましい。
【0029】
本発明で使用される無機強化材および/または充填剤は、仮に使用される場合には、組成物の全重量に対して、適切には例えば、約5重量%から約60重量%までの量で存在する。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、難燃性ポリアミド組成物は、難燃剤(C)を5〜25重量%、ガラスまたは炭素繊維強化材を5〜60重量%含み、その重量%は組成物の全重量に対するパーセンテージである。
【0031】
好ましい実施形態において、組成物中の繊維強化材および充填剤の総量は、45〜60重量%の範囲であり、例えば約50重量%または約55重量%である。高い剛性が必要とされる場合、例えばノートブック、携帯電話およびPCタブレットなどの電子デバイス用のハウジングで使用される場合などには、このような多い量が好ましい。
【0032】
高いアスペクト比を有する、つまりDDRコネクターのように薄いが比較的長いコネクター用途など、高い流動性が必要とされる場合、無機強化材および/または充填剤の量は適切には、組成物の全重量に対して約45重量%まで、またはさらに好ましくは約40重量%までである。
【0033】
本発明の特定の実施形態において、難燃性ポリアミド組成物は、
(A)/(B)50:50〜75:25の範囲の重量比のポリアミド(A)およびポリアミド(B)30〜90重量%;
(C)(ジ)ホスフィン酸金属塩5〜25重量%;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材0〜60重量%;
(E)他の成分0〜40重量%;からなる。
【0034】
その好ましい実施形態において、難燃性ポリアミド組成物は、
(A)/(B)50:50〜75:25の範囲の重量比のポリアミド(A)およびポリアミド(B)30〜87重量%;
(C)(ジ)ホスフィン酸金属塩7.5〜20重量%;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材5〜55重量%;
(E)他の成分0.5〜20重量%;からなる。
【0035】
本明細書において、重量パーセンテージ(重量%)は、組成物の全重量に対するパーセンテージであり、(A)〜(E)の合計は100%である。
【0036】
本発明による組成物は、半芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、難燃剤システムおよび任意選択で更なる成分が溶融ブレンドされる方法によって製造することができる。材料の一部は溶融混合機で混合され、次いで材料の残りが添加され、均一になるまでさらに溶融混合され得る。溶融ブレンドは、当業者に公知の適切な方法を用いて行うことができる。適切な方法は、一軸または二軸スクリュー押出機、ブレンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、成形機等の使用を含み得る。特に、難燃剤、および強化材などの添加剤を含有する組成物を調製するために本方法が用いられる場合には、二軸スクリュー押出し成形が好ましい。本発明の組成物は高いメルトフローを有し、好都合には、射出成形、回転成形および他の溶融加工技術を使用して、様々な物品に形成することができる。その物品は、特にSMT用途において有用であり、メモリーカード、(CPU)ソケット、I/O、FPC、マザーボードおよび自動車用コネクターなどのコネクター、および電子デバイス用のハウジングおよび補強フレーム、例えばノートブック、携帯電話、補強材およびPCタブレット用のハウジングおよび補強フレームが挙げられる。
【0037】
本発明は、上述のように、本発明による難燃性ポリアミド組成物またはそのいずれかの実施形態から、射出成形によって成形部品を製造する方法であって、射出成形機で組成物を加熱してポリマー溶融物を形成する工程を含む方法にも関する。前記方法において、溶融物は、TmAを最大で10℃超える温度、つまり組成物に含まれる半結晶性半芳香族ポリアミドの融解温度を超える温度に加熱される。その効果は、プレートアウトが低減されると同時に、上述の他の特性が達成されることである。
【0038】
前記方法の好ましい実施形態において、ポリマー溶融物は、少なくとも100℃の金型温度で金型に射出される。好ましくは、金型の温度は、110〜150℃の範囲である。100℃以上の金型温度は、得られる生成物の光沢が向上するという利点を有する。
【0039】
本発明は、本発明による組成物、またはその特定の実施形態から製造される物品または成形製品にも関する。適切には、その物品は、コネクターのプラスチック部品または電子デバイス用のハウジングまたは補強フレームである。
【0040】
本発明はさらに、以下の実施例および比較実験で例証される。
【0041】
[材料]
PPA 融解温度325℃を有する、本発明によるPA4T/66をベースとする半芳香族ポリアミド
PA−46 融解温度290℃を有する本発明によるPA−46をベースとする脂肪族ポリアミド
PA−66 融解温度260℃を有する本発明によるPA−66をベースとする脂肪族ポリアミド
難燃剤 ExolitOP1230,クラリアント社(Clariant GmbH)
相乗剤 ホウ酸亜鉛
ガラス繊維 熱可塑性ポリアミド組成物用の標準グレード
【0042】
[配合]
難燃性ポリアミド組成物を二軸スクリュー押出機で製造した。実施例I〜IIIおよび比較実験A、BおよびDについては、押出し溶融物の温度は一般に約340℃であり、そのため325℃をかなり超えた。比較実験については、溶融温度は約310℃であった。溶融配合した後、得られた溶融物を押し出してストランドを形成し、冷却し、顆粒に切断した。
【0043】
[射出成形]
標準射出成形機を使用して、難燃性ポリアミド組成物を適切な試験金型に射出成形した。実施例I〜IIIおよび比較実験Cの組成物については、組成物の溶融物が約310℃の温度に達するように設定した。比較実験A、BおよびDについては、組成物の溶融物が約340℃の温度に達するように設定した。
【0044】
組成物および試験結果を表1にまとめる。
【0045】
比較実験A、BおよびDは、340℃をかなり下回る溶融温度を用いて、適切な手法で加工することができず、325℃未満の溶融温度では間違いなく加工できなかったことに注目されたい。実施例I〜IIIおよび比較実験Cは、325℃を超える溶融温度で加工することができたが、比較実験A、BおよびDで使用された条件で加工した場合には、劣った特性を有する劣化した生成物が得られた。