特許第6387577号(P6387577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • 6387577-成形体の集荷方法、及び成形体の集荷装置 図000002
  • 6387577-成形体の集荷方法、及び成形体の集荷装置 図000003
  • 6387577-成形体の集荷方法、及び成形体の集荷装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387577
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】成形体の集荷方法、及び成形体の集荷装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20180903BHJP
   B22F 5/08 20060101ALN20180903BHJP
【FI】
   B22F3/10 B
   B22F3/10 K
   !B22F5/08
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-228472(P2014-228472)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-89254(P2016-89254A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】西村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林 伸二
(72)【発明者】
【氏名】北垣 謙一
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−299123(JP,A)
【文献】 特開平08−246006(JP,A)
【文献】 特開平08−020808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−8/00
C22C1/04−1/05
C22C33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形工程と、前記成形体を焼結炉で焼結して焼結体を作製する焼結工程との間で、複数の前記成形体を集荷する成形体集荷工程を備え、
前記成形体集荷工程は、
前記成形体を初期位置から所定位置に移送させる成形体移送工程と、
複数の前記成形体同士を固定させると共に前記焼結炉で除去される接着剤を前記成形体の表面に塗布する接着剤塗布工程とを備え、
自動制御された集荷装置により、前記成形体移送工程を繰り返し行うと共に、前記接着剤塗布工程を前記成形体移送工程で行うことで、複数の前記成形体を積み重ねて接着させ
前記接着剤は、水溶性のポリビニルアルコールを主成分とする成形体の集荷方法。
【請求項2】
最上段に積み重ねる前記成形体の表面には前記接着剤を塗布しない請求項1に記載の成形体の集荷方法。
【請求項3】
金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形装置と、前記成形体を焼結して焼結体を作製する焼結炉との間に設けられ、複数の前記成形体を集荷する成形体集荷機構を備え、
前記成形体集荷機構は、
前記成形体を保持及び載置する保持部と、前記保持部に連結して前記保持部で保持した前記成形体を初期位置から所定位置に移送させるアームとを有する成形体移送機構と、
前記成形体同士を固定させると共に前記焼結炉で除去される接着剤を前記成形体の表面に吐出するノズルと、前記ノズルから一定量の前記接着剤を吐出させるバルブとを有し、前記成形体移送機構に連結される接着剤塗布機構と、
前記成形体移送機構による前記成形体の保持、移送、及び載置の一連の動作を繰り返させて複数の前記成形体を積み重ねると共に、前記接着剤塗布機構による前記接着剤の塗布を前記一連の動作の間に行わせる段積み制御部とを備え
前記ノズルが吐出する前記接着剤は、水溶性のポリビニルアルコールを主成分とする成形体の集荷装置。
【請求項4】
前記バルブは、前記ノズル先端に近接して設けられている請求項に記載の成形体の集荷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の集荷方向、及び成形体の集荷装置に関する。特に、焼結炉へ搬送されて焼結される複数の成形体の集荷作業を効率化できる成形体の集荷方法、及び集荷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄粉などの金属粉末の成形体を焼結してなる焼結体が、自動車用部品や一般機械の部品などに利用されている。焼結体を作製する方法として、例えば、特許文献1には、圧粉体の焼結方法が開示されている。具体的には、二つの圧粉体(成形体)のそれぞれの平坦面にセルロース系接着剤を塗布し、平坦面同士が対向するように当接させて二つの圧粉体を接着固定している。そして、接着固定した二つの圧粉体をメッシュベルト炉の搬送部に搬送し、メッシュベルトコンベヤーにより加熱部に搬送して焼結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−246006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼結体の生産性のより一層の改善が求められている。焼結体の生産性の改善策として、成形体の集荷作業の効率化が挙げられ、効率化のために成形体の集荷作業を自動化することが考えられるが、それに適した具体的な技術が提案されていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、成形体の集荷作業を効率化できる成形体の集荷方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、成形体の集荷作業を効率化できる圧粉成形体の集荷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る成形体の集荷方法は、金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形工程と、成形体を焼結炉で焼結して焼結体を作製する焼結工程との間で、複数の成形体を集荷する成形体集荷工程を備える。成形体集荷工程は、成形体を初期位置から所定位置に移送させる成形体移送工程と、複数の成形体同士を固定させると共に焼結炉で除去される接着剤を成形体の表面に塗布する接着剤塗布工程とを備える。そして、成形体集荷工程は、自動制御された集荷装置により、成形体移送工程を繰り返し行うと共に、接着剤塗布工程を成形体移送工程で行うことで、複数の成形体を積み重ねて接着させる。
【0008】
本発明の一態様に係る成形体の集荷装置は、金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形装置と、成形体を焼結して焼結体を作製する焼結炉との間に設けられ、複数の成形体を集荷する成形体集荷機構を備える。成形体集荷機構は、成形体移送機構と、接着剤塗布機構と、段積み制御部とを備える。成形体移送機構は、成形体を保持及び載置する保持部と、保持部に連結して保持部で保持した成形体を初期位置から所定位置に移送させるアームとを有する。接着剤塗布機構は、成形体同士を固定させると共に焼結炉で除去される接着剤を成形体の表面に吐出するノズルと、ノズルから一定量の接着剤を吐出させるバルブとを有する。この接着剤塗布機構は、成形体移送機構に連結される。段積み制御部は、成形体移送機構による成形体の保持、移送、及び載置の一連の動作を繰り返させて複数の成形体を積み重ねると共に、接着剤塗布機構による接着剤の塗布を上記一連の動作の間に行わせる。
【発明の効果】
【0009】
上記成形体の集荷方法は、焼結炉へ搬送されて焼結される複数の成形体の集荷作業を効率化できる。
【0010】
上記成形体の集荷装置は、焼結炉へ搬送されて焼結される複数の成形体を効率的に集荷できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る成形体の集荷装置を示す概略構成図である。
図2】実施形態1に係る成形体の集荷装置の集荷手順を示すフローチャートである。
図3】実施形態1に係る成形体の集荷装置による集荷手順を説明する工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《本発明の実施形態の説明》
最初に本発明の実施態様の内容を列記して説明する。
【0013】
(1)本発明の一態様に係る成形体の集荷方法は、金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形工程と、成形体を焼結炉で焼結して焼結体を作製する焼結工程との間で、複数の成形体を集荷する成形体集荷工程を備える。成形体集荷工程は、成形体を初期位置から所定位置に移送させる成形体移送工程と、複数の成形体同士を固定させると共に焼結炉で除去される接着剤を成形体の表面に塗布する接着剤塗布工程とを備える。そして、成形体集荷工程は、自動制御された集荷装置により、成形体移送工程を繰り返し行うと共に、接着剤塗布工程を成形体移送工程で行うことで、複数の成形体を積み重ねて接着させる。
【0014】
上記の構成によれば、焼結炉へ搬送されて焼結される複数の成形体の集荷作業を効率化できる。集荷作業を自動制御された集荷装置により行うからである。また、接着剤の塗布を成形体移送工程で行うことで、接着剤を塗布してから成形体を移送する場合のように接着剤を塗布する工程と成形体を移送する工程とを別々に行う場合に比較して、工程を簡略化できるからである。その上、各工程を別々に行う場合に比較して、接着剤の塗布から成形体の積み重ねまでの間隔を短くできるからである。
【0015】
集荷作業を自動制御された集荷装置により行うことで、接着剤の塗布作業や成形体の重ね作業が作業者のスキルに依存することがない。そのため、その作業者のスキルに起因する接着剤の塗布量のばらつきや成形体の積み重ねのずれなどの問題を解消できる。即ち、接着剤の塗布量が少なすぎることで焼結炉までの間に振動などで成形体の荷崩れが生じて成形体が欠けたり割れたりすることや、接着剤の塗布量が多すぎることで、成形体同士が強固に固定されすぎて焼結後に焼結体同士が分離し難くなることを抑制できる。その上、成形体同士がずれて重なったりすることも抑制できる。
【0016】
後工程の焼結工程を経た焼結体の品質の低下を防止し易い。上述のように接着剤の塗布から成形体の積み重ねまでの間隔を短くできることで、成形体を積み重ねるまでの間に接着剤が乾燥・固化(硬化)したり、接着剤に粉塵が付着したりすることを抑制できる。そのため、粉塵が付着した状態で焼結することを抑制でき、粉塵が一体化した焼結体が得られるのを抑制し易い。
【0017】
(2)上記成形体の集荷方法の一形態として、接着剤は、水溶性のポリビニルアルコールを主成分とすることが挙げられる。
【0018】
上記の構成によれば、成形体の集荷後、成形体を焼結炉に搬送する過程で振動などにより積み重ねた成形体が荷崩れしない程度に成形体同士を接着できる上に、焼結により焼結体の表面に接着剤が残存し難い。
【0019】
また、上記の構成によれば、メンテナンス性に優れる。接着剤が水溶性のポリビニルアルコールを主成分とすることで、仮に接着剤が集荷装置内で固化しても、水に浸せば容易に溶解させられて装置内での詰まりを解消し易いからである。
【0020】
(3)上記成形体の集荷方法の一形態として、最上段に積み重ねる成形体の表面には接着剤を塗布しないことが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、後工程の焼結工程を経た焼結体の品質の低下を防止し易い。最上段の成形体に接着剤を塗布しないことで、粉塵が付着した状態で焼結することを抑制でき、粉塵が一体化した焼結体が得られることを抑制し易いからである。最上段の表面には、他の成形体が積み重ねられず露出した状態であるため、仮に、最上段の成形体の表面に接着剤を塗布すると、金属材料を含む粉塵などが接着剤に付着し易くなる。接着剤に粉塵が付着した状態で焼結すれば、粉塵が焼結体の表面に一体化されてしまう。
【0022】
(4)本発明の一態様に係る成形体の集荷装置は、金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形装置と、成形体を焼結して焼結体を作製する焼結炉との間に設けられ、複数の成形体を集荷する成形体集荷機構を備える。成形体集荷機構は、成形体移送機構と、接着剤塗布機構と、段積み制御部とを備える。成形体移送機構は、成形体を保持及び載置する保持部と、保持部に連結して保持部で保持した成形体を初期位置から所定位置に移送させるアームとを有する。接着剤塗布機構は、成形体同士を固定させると共に焼結炉で除去される接着剤を成形体の表面に吐出するノズルと、ノズルから一定量の接着剤を吐出させるバルブとを有する。この接着剤塗布機構は、成形体移送機構に連結される。段積み制御部は、成形体移送機構による成形体の保持、移送、及び載置の一連の動作を繰り返させて複数の成形体を積み重ねると共に、接着剤塗布機構による接着剤の塗布を上記一連の動作の間に行わせる。
【0023】
上記の構成によれば、焼結炉へ搬送されて焼結される複数の成形体を効率的に集荷できる。成形体移送機構と接着剤塗布機構とを段積み制御部により制御することで、成形体への接着剤の塗布作業、及び成形体同士の重ね作業を自動で行えるからである。また、成形体移送機構に接着剤塗布機構を連結することで、成形体の移送過程で成形体の表面に接着剤を塗布でき、接着剤の塗布と成形体の移送とを別々に行う場合に比較して作業数を低減できるからである。その上、接着剤の塗布から成形体の積み重ねまでの間隔を短くできるからである。
【0024】
上記塗布作業及び上記重ね作業を自動で行えるため、上記各作業が作業者のスキルに依存することがなく、その作業者のスキルに起因する問題を解消できる。また、成形体移送機構に接着剤塗布機構を連結したことで、接着剤の塗布から成形体の積み重ねまでの間隔を短くできるため、接着剤の乾燥・固化、接着剤への粉塵の付着を抑制できる。
【0025】
(5)上記成形体の集荷装置の一形態として、バルブは、ノズル先端に近接して設けられていることが挙げられる。
【0026】
上記の構成によれば、ノズルからの接着剤の液垂れを抑制し易い。バルブからノズル先端までの間の距離が短いことで、その間に残存する接着剤の量が、バルブをノズルの先端から離れた箇所に設ける場合に比較して少なくできるからである。
【0027】
また、ノズル内の接着剤の残存量が少ないため、仮に接着剤がノズル内で固化しても、その除去作業が煩雑になり難い。
【0028】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
〔実施形態1〕
実施形態1に係る成形体の集荷方法は、金属粉末を圧縮成形して成形体を作製する成形工程と、成形体を焼結炉で焼結して焼結体を作製する焼結工程との間で、複数の成形体を集荷する成形体集荷工程を備える。成形体集荷工程は、成形体を初期位置から所定位置に移送させる成形体移送工程と、特定の接着剤を成形体の表面に塗布する接着剤塗布工程とを備える。この成形体の集荷方法の主たる特徴とするところは、自動制御された集荷装置により、成形体移送工程を繰り返し行うと共に、接着剤塗布工程を成形体移送工程で行うことで、複数の成形体を積み重ねて接着させることにある。まず、集荷する成形体を作製する成形工程を説明し、その後、成形体の集荷方法と併せて集荷装置の詳細を説明した後、焼結工程を説明する。
【0030】
[成形工程]
成形工程は、金属粉末を圧縮成形してなり、焼結を経て製品化される機械部品の素材である成形体を作製する。機械部品の種類としては、例えば、スプロケット、オイルポンプロータ、ギア、リング、フランジ、プーリーなどが挙げられる。金属粉末の材質は、上記機械部品の種類に応じて適宜選択でき、代表的には鉄合金が挙げられる。作製する成形体の形状は、上記機械部品の最終形状に沿った形状である。即ち、ここでは、上記機械部品の最終形状に沿った形状に成形できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いる。これらの機械部品は、中心に円形状の軸孔が形成され、表裏面に平坦状面を有する場合が多い。そして、多くの上記機械部品は、連続する凹凸面の外周面を有する。即ち、成形体は、中心に円形状の軸孔が形成され、表裏面に平坦状面を有する。成形体は、更に、連続する凹凸面の外周面を有する場合がある。成形工程で作製された成形体は、焼結炉で焼結する前に集荷される。そして、複数の成形体は一度に焼結炉に搬送される。
【0031】
[成形体集荷工程]
成形体集荷工程は、成形体移送工程と接着剤塗布工程とを備える。そして、後述する自動制御された集荷装置1(図1)により、成形体移送工程を繰り返し行うと共に、接着剤塗布工程を成形体移送工程で行って、複数の成形体を積み重ねて接着させる。
【0032】
(成形体移送工程)
成形体移送工程は、成形体を一つずつ初期位置から所定位置に移送させる。初期位置とは、例えば、後述する集荷装置1を利用する場合、保持部21で保持される位置である。通常は、一旦成形用金型から成形体を取り出してベルトコンベアーなどで特定の箇所に搬送されるため、上記初期位置はその搬送された箇所とする。なお、成形用金型内の成形体を直接保持する場合には、上記初期位置は成形用金型とする。所定位置とは、予め設定された成形体の配置位置であり、例えば、段積み状態で後の焼結工程に成形体を搬送するためのトレイ200(図1)上とすることが挙げられる。詳しくは、後述する制御手順で説明する。
【0033】
成形体移送工程を複数繰り返して成形体を積み重ねる。その複数の成形体の積み重ね方は、成形体の同じ面同士が接しないように行うことが好ましい。即ち、成形体の表面同士及び裏面同士が接触しないように、例えば、上段の成形体の裏面が下段の成形体の表面に重なるように行う。そうすれば、後工程の焼結工程で複数の成形体を均一に焼結でき、焼結具合にばらつきが生じ難い。
【0034】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程は、特定の接着剤を成形体の表面に塗布する。接着剤塗布工程を行う時期は、成形体移送工程による成形体の移送中である。ここでいう、移送中とは、成形体の移送開始から成形体の移送終了までの間を言い、成形体の移送開始と同時、成形体の移送終了と同時を含む。例えば、後述する集荷装置1を利用する場合、保持部21が成形体100と接触してから、保持部21が成形体100を載置して成形体100を放すまでの間を言い、保持部21の成形体100との接触と同時や、保持部21が成形体100を放すと同時を含む。
【0035】
接着剤は、複数の成形体同士を固定させると共に焼結炉(図示略)で除去(焼失)される。具体的な接着剤の材質は、水溶性のポリビニルアルコール(PVA)を主成分とすることが好ましい。主成分とは、PVAのみで構成されている場合の他、PVAが水などの溶液に希釈されている場合を含む。水溶性のPVAは、成形体の集荷後、成形体を焼結炉に搬送する過程で振動などにより積み重ねた成形体が荷崩れしない程度に成形体同士を接着できる。その上、焼結により焼結体の表面に接着剤が残存し難い。また、水溶性のPVAは、メンテナンス性に優れる。接着剤が後述するノズル31内で固化するとノズル31が詰まる(図1)。例えば、成形工程を経てすぐの成形体を集荷する場合、成形体の温度が常温以上であり、成形体の熱が成形体に近接したノズル内の接着剤を固化させる虞がある。接着剤が水溶性のPVAを主成分とすることで、仮に接着剤が固化しても、水に浸せば容易に溶解させられてノズルの詰まりを解消できる。その他、接着剤には、粘度を適宜調整すれば、澱粉などを用いることも期待できる。
【0036】
接着剤の塗布箇所は、一箇所でもよいし複数箇所でもよい。例えば、成形体の表面の二箇所に接着剤を塗布する場合、互いに対向する箇所とすることが挙げられる。そうすれば、塗布箇所が少ないながらも、搬送過程で荷崩れしない程度に成形体同士を固定し易い上に、焼結により接着剤が残存し難い。
【0037】
接着剤の塗布量は、成形体の大きさや形状によって適宜選択できる。この塗布量は、例えば、0.01(cm/箇所)以上0.07(cm/箇所)以下程度とすることが好ましい。塗布量を0.01(cm/箇所)以上とすることで、搬送過程で荷崩れしない程度に成形体同士を固定でき、塗布量を0.07(cm/箇所)以下とすることで、焼結により接着剤が残存し難い。
【0038】
接着剤の塗布は、積み重ねる成形体の一つずつに対して行うが、最上段に積み重ねる成形体の表面には行わないことが好ましい。そうすれば、後工程の焼結工程を経た焼結体の品質の低下を防止し易い。最上段の成形体に接着剤を塗布しないことで、粉塵が付着した状態で焼結することを抑制でき、粉塵が一体化した焼結体が得られるのを抑制し易いからである。最上段の表面には、他の成形体が積み重ならず露出した状態であるため、仮に、最上段の成形体の表面に接着剤を塗布すると、金属材料を含む粉塵などが接着剤に付着し易くなる。接着剤に粉塵が付着した状態で焼結すれば、粉塵が焼結体の表面に一体化されてしまう。特に、成形工程と近接した場所で接着剤塗布工程を行う場合、その環境下は成形工程で用いる金属粉末が粉塵として存在することが多く、最上段の成形体に接着剤を塗布しないことは粉塵の付着防止に極めて有効である。
【0039】
この成形体集荷工程は、例えば、主に図1に示す成形体の集荷装置1を利用することが上げられる。
【0040】
(集荷装置)
成形体の集荷装置1は、金属粉末を圧縮成形して成形体100を作製する成形装置(図示略)と、成形体100を焼結して焼結体を作製する焼結炉(図示略)との間に設けられ、複数の成形体100を集荷する成形体集荷機構10を備える。成形体集荷機構10は、成形体移送機構2と、接着剤塗布機構3と、段積み制御部4と備える。段積み制御部4はコンピュータに備わり、成形体移送機構2と接着剤塗布機構3とは、そのコンピュータによって制御される。
【0041】
〈成形体移送機構〉
成形体移送機構2は、成形体100を保持及び載置する保持部21と、保持部21に連結して保持部21で保持した成形体100を初期位置から所定位置に移送させるアーム22とを有する。
【0042】
保持部21による成形体100の保持は、例えば、電磁石や真空パッドなどで吸着したり、ロボットハンドなどのマニピュレータで把持したりすることで行うことが挙げられる。把持する場合、成形体100の外側から内側に向かって作用する力で成形体100の外周を把持してもよいし、成形体100に軸孔が形成されている場合、軸孔に挿通して内側から外側に向かって作用する力で成形体100の内周を把持してもよい。
【0043】
ここでは、保持部21は二つの電磁石21a,21bで構成し、吸着することで成形体100を保持する。この二つの電磁石21a,21bの配置箇所は、成形体100における互いに対向する箇所を吸着する位置としている。電磁石21a,21bのコイル(図示略)に通電して磁力を発生させた場合を「on」とし、通電を停止して磁力を失った場合を「off」とするとき、電磁石21a,21bを「on」にして成形体100を保持し、電磁石21a,21bを「off」にして成形体100の保持を解除して載置する。この電磁石21a,21bの「on」と「off」の制御、即ち、コイルへの通電の制御は、後述する段積み制御部4の保持部制御部41により行われる。
【0044】
アーム22は、上下左右に駆動自在に設けられる。具体的には、アーム22は、保持部21を成形体100へ近づけるように下降したり、成形体100を初期位置から所定位置(図1紙面左から右)へ移送したり、保持部21が成形体100を配置した際、保持部21を成形体100から遠ざけるように上昇したり、所定位置から初期位置(図1紙面右から左)へ復帰したりする。アーム22は、例えば、モータと、後述する段積み制御部4のアーム駆動制御部42による指令をモータに出力する回路となどを備えるアクチュエータで駆動する(いずれも図示略)。
【0045】
〈接着剤塗布機構〉
接着剤塗布機構3は、成形体移送機構2に連結され、接着剤110を成形体100の表面に吐出するノズル31と、ノズル31から一定量の接着剤110を吐出させるバルブ32とを有する。ここでは、バルブ32が成形体移送機構2(アーム22)に固定されている。
【0046】
ノズル31の先端は、保持部21が成形体100を保持した際、成形体100の表面に近接する位置に配置されている(図3上段右図の破線円拡大図)。ノズルの31の後端は、バルブ32の材料アウトポート(図示略)に接続されている。ノズル31の長さは短い方が好ましい。そうすれば、ノズル31からの液垂れを抑制し易い。
【0047】
バルブ32の種類は、適宜選択でき、ここではニードル弁(図示略)を用いている。バルブ32のニードル弁の開閉は、複動式であり、バルブ32の二つのエアーインポート(図示略)に取り付けられた二本のエアーホース32a,32bからバルブ32内へそれぞれエア圧力をかけることで行う。即ち、この二本のエアーホース32a,32b(エアーインポート)によりノズル31から吐出する接着剤110の塗布量を制御できる。
【0048】
バルブ32の材料インポート(図示略)には、接着剤110を貯留する接着剤タンク33に連結されて接着剤110を接着剤タンク33からバルブ32に送る液送ホース34が接続されている。バルブ32の開放により、接着剤110は、接着剤タンク33から液送ホース34を通り、ノズル31を介して成形体100の表面に吐出される。バルブ32の開放により接着剤110をノズル31から吐出し易くするために、接着剤タンク33にはエア圧力を付加することが好ましい。この場合、段積み制御部4に含まれるタンク圧制御部(図示略)によりタンクの圧力制御を行えばよい。エア圧力の付加は、常時行っていてもよいし、バルブ32に連動してバルブ32が開放したときのみ行ってもよい。
【0049】
バルブ32の配置箇所は、ノズル31の先端に近接して設けられていることが好ましい。そうすれば、ノズル31の先端から離れた箇所に設ける場合に比較してノズル31からの接着剤110の液垂れを抑制し易い。例えば、バルブ32を液送ホース34の根本(接着剤タンク33)近傍に配置した場合、バルブ32を液送ホース34の先端(ノズル31の先端側)に配置する場合に比較して、バルブ32からノズル31先端までの長さが長くなる。その場合、バルブ32からノズル31先端までの間に残存する接着剤の量が多くなり、液垂れが生じ易くなる。また、バルブ32からノズル31先端までの間の長さが長くなると、その間を繋ぐ液送ホース34が屈曲すれば、ノズル31先端までの間にバルブ32が存在しないためノズル31から接着剤110が押し出され、ノズル31からの液垂れがより一層生じ易くなる。これに対して、バルブ32からノズル31の先端までの間の長さが短いことで、その間に残存する接着剤の量を少なくできる。その上、液送ホース34が屈曲しても、バルブ32により液送ホース34内の接着剤110がノズル31から押し出されることを抑制でき、液送ホース34の屈曲に伴う液垂れを抑制できる。
【0050】
接着剤塗布機構3の数は、単数でもよいし複数でもよい。ここでは、接着剤塗布機構3の数を二つとしている。二つの接着剤塗布機構3の配置箇所は、成形体100において、互いに対向する位置に接着剤110を塗布出来る箇所としている。ここでは、二つの保持部21同士が対向する方向に対して直交する位置である。
【0051】
〈段積み制御部〉
段積み制御部4は、成形体移送機構2による成形体100の保持、移送、及び載置の一連の動作を繰り返させて複数の成形体100を積み重ねると共に、接着剤塗布機構3による接着剤110の塗布を上記一連の動作の間に行わせる。段積み制御部4は、入力部40と、メモリ4Mと、保持部制御部41と、アーム駆動制御部42と、バルブ制御部43とを備える。入力部40は、メモリ4Mに記憶させる設定データを入力する。メモリ4Mは、各成形体100の所定箇所(配置箇所)などの設定データを記憶する。保持部制御部41は、保持部21による成形体100の保持と配置とを制御する。アーム駆動制御部42は、アーム22を初期位置から所定位置への移送と、所定位置から初期位置への復帰とを制御する。バルブ制御部43は、バルブ32の開閉を制御する。
【0052】
段積み制御部4による制御手順を、図2に示すフローチャートに基づいて説明する。その説明に当って、適宜図3に示す工程説明図を参照する。図3の黒塗り矢印は、アーム22の動きを示す。まず、制御を行う前に、以下の(α)〜(δ)の情報を初期条件として入力部40で入力してメモリ4Mに設定データとして記憶させる。
(α)成形体100を集荷するためのトレイ200に対して成形体100を配置する配置エリア及びその数
(β)各配置エリアに積み重ねる成形体100の設定段数m
(γ)配置する成形体100の設定総数n(配置エリアの数×配置段数m)
(δ)実際に集荷する各成形体100の所定箇所(配置エリア及び配置段数y)
【0053】
上記(α)の配置エリア及びその数は、トレイ200のサイズ(平面上の面積)と成形体100の外寸(外径)とに基づいて決定する。上記(β)の各配置エリアに積み重ねる成形体100の設定段数mは、任意に決定する。上記(α)と上記(β)とから、上記(γ)の一つのトレイ200に配置する成形体100の総数n(配置エリア数×設定段数m)を決定できる。そして、上記(α)〜(γ)から、上記(δ)の実際に集荷される各成形体100の所定箇所、つまり、各成形体100がどの配置エリアの何段目に配置されるかが決定される。以上の情報と共に、最初に載置する所定位置、積層段数、隣り合う段積み成形体との並列間隔、段積み成形体の縦横の並列数の情報を設定データとしてメモリ4Mに記憶させる。そして、このデータを用いて、各成形体100の載置位置をアーム駆動制御部42が演算して順次求めて、その演算結果に基づいてアーム22の制御を行う。具体的には、次の通りである。
【0054】
まず、アーム22の駆動に必要な初期位置の位置情報、一つ目の成形体100を載置する所定位置の位置情報、成形体の厚みなどの設定データの読み出しを行う。そして、アーム22が初期位置にある状態から(図3上段左図)、アーム駆動制御部42によりアーム22を下降させて保持部21と成形体100とを接触させる(ステップS01)。続いて、保持部制御部41により保持部21の電磁石を「on」にして成形体100を保持させる(ステップS02、図3上段中図)。このとき、成形体100の保持数xと成形体100の配置段数yとが1から順にカウントされメモリ4Mに記憶される。
【0055】
次に、カウントした配置段数yが設定段数m未満を満たすか否かを判定する(ステップS03)。この条件を満たす場合、バルブ制御部43がバルブ32を開閉させて成形体100の表面に所定の量の接着剤110を塗布する(ステップS04、図3上段右図の破線円拡大図)。この塗布は、上述のように保持部21が成形体100と接触してから、保持部21が成形体100を載置して成形体100を放すまでの間であればいつでもよい。ここでは、保持部21による成形体100の保持(ステップS02)の直後としている。一方、この条件を満たさない場合、メモリ4Mに記憶させた成形体100の配置段数yをリセットしてy=0とする(ステップS05)。つまり、この条件を満たさない成形体100は、最上段に配置される成形体100であり、バルブ32は開閉されず接着剤110が塗布されない。上記ステップS05で成形体100の配置段数yをリセットしてy=0とした場合、配置段数yはステップS01で再び1から順にカウントされる。即ち、配置段数yは設定段数m超にはならない。
【0056】
次に、アーム駆動制御部42が、予め記憶させていた設定データの成形体100の保持数xに対応した配置エリア及び配置段数yに基づいて、アーム22を初期位置から所定位置(配置エリア及び配置段数y)に移送させる(ステップS06、図3下段左図)。続いて、保持部制御部41が、保持部21の電磁石を「off」にして成形体100を配置する(ステップS07、図3下段中図)。その後、アーム駆動制御部42が、アーム22を所定位置から初期位置に復帰させる(ステップS08、図3下段右図)。
【0057】
次に、カウントした成形体100の保持数xが設定総数nに達したか否かを判定する(ステップS09)。この条件に達していない場合、この条件に達するまで上記ステップS01〜ステップS09を繰り返す。上記ステップS09の条件に達した場合、メモリ4Mに記憶させた成形体100の保持数xをリセットしてx=0とし、制御を終了する。保持数xの総数は、配置段数yのカウンタと別のカウンタを用いてもよいし、配置段数yのカウンタの計測結果から求めてもよい。
【0058】
上記制御が終了したら、次のトレイ200を用意し、上記ステップS01〜上記ステップS09を上記ステップS09の条件に達するまで繰り返し行う。
【0059】
[焼結工程]
以上のようにして集荷された複数の成形体100は、焼結炉に搬送されて焼結される。焼結の温度は、焼結に必要な温度を適宜選択することができ、例えば、1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。焼結時間は、凡そ20分以上150分以下である。この焼結により、成形体100同士を接着していた接着剤110は完全に除去(焼失)される。そのため、得られた焼結体の表面は勿論、その内部にも接着剤が付着されていない。
【0060】
〔作用効果〕
実施形態1によれば、以下の効果を奏することができる。
【0061】
(1)成形体100の集荷作業を効率化できる。各成形体100への接着剤110の塗布作業、及び複数の成形体100同士の重ね作業を自動で行えるからである。また、各成形体100の表面への接着剤110の塗布を各成形体100の移送過程で行えるからである。
【0062】
(2)上記塗布作業や上記重ね作業が作業者のスキルに依存することがなく、その作業者のスキルに起因する問題を解消できる。上記塗布作業や上記重ね作業を自動で行えるからである。
【0063】
(3)接着剤110の乾燥、接着剤110への粉塵の付着を抑制できる。各成形体100の表面への接着剤110の塗布を各成形体100の移送過程で行えることで、接着剤110の塗布から成形体100の積み重ねまでの間隔を短くできるからである。
【0064】
(4)粉塵が付着した状態で焼結することを抑制でき、粉塵が一体化した焼結体が得られるのを抑制し易いため、焼結体の品質の低下を防止し易い。接着剤110の塗布から成形体100の積み重ねまでの間隔を短くできて接着剤110への粉塵の付着を抑制できるからである。また、最上段の成形体100に接着剤を塗布しないからである。
【0065】
《試験例》
実施形態1で説明した成形体の集荷装置1を用いて、設定段数m=4個として合計4000個の成形体を集荷した。各成形体には移送中にPVAを主成分とする接着剤を塗布して積み重ねることで四つの成形体を接着した。そして、焼結炉までベルトコンベアーで搬送し、荷崩れの有無を確認した。その結果、一つも荷崩れせず、4000個の成形体に欠けや割れが見られなかった。その後、4000個の成形体を焼結炉で焼結して焼結体を作製し、その4000個の焼結体から任意に5個の焼結体をピックアップして表面を目視観察すると共に、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、表面及び内部のいずれにも接着剤の残存が見られないことを確認した。一方、比較例として、各成形体に接着剤を塗布しない点を除き、上述と同様に設定段数m=4個として合計4000個の成形体を集荷した。そして、焼結炉までベルトコンベアーで搬送し、荷崩れの有無を確認した。その結果、荷崩れが見られ、全体の約2%(約80個)の成形体に欠けや割れなどの損傷が見られた。
【0066】
以上の結果から、各成形体にPVAを主成分とする接着剤を塗布して積み重ねて複数の成形体を接着させて集荷することで、集荷から焼結炉に搬送する過程で、荷崩れすることなく、成形体の損傷を抑制できることがわかった。また、PVAを主成分とする接着剤を用いることで、焼結後、焼結体の表面及び内部に接着剤が残存することなく、焼結体の品質を低下させないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の一態様に係る成形体の集荷方法、及び本発明の一態様に係る成形体の集荷装置は、各種の一般構造用部品(スプロケット、オイルポンプロータ、ギア、リング、フランジ、プーリーなどの機械部品などの焼結部品)の素材(成形体)の集荷に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 成形体の集荷装置
10 成形体集荷機構
2 成形体移送機構
21 保持部 21a,21b 電磁石 22 アーム
3 接着剤塗布機構
31 ノズル 32 バルブ 32a,32b エアーホース
33 接着剤タンク 34 液送ホース
4 段積み制御部
40 入力部 4M メモリ
41 保持部制御部 42 アーム駆動制御部 43 バルブ制御部
100 成形体
110 接着剤
200 トレイ
図1
図2
図3